Coolier - 新生・東方創想話

小悪魔日記 第7話 紫色魔術探偵団

2014/12/19 21:46:23
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 その日、パチュリー様は短く仰ったものでした。

「死ぬことにしたわ」

 はあ、そうですか。私も短く応えたものでした。

   *

「驚かないのね」

 《読書室》に置かれた大きな椅子に、さながら千年万年の昔からそうであったかのような佇まいで腰掛けるパチュリー様は、こちらを見もせずつまらなそうにつぶやきました。もしかすると、先ほどの言葉へなにがしかのリアクションが欲しかったのでしょうか。だとしたところで今更これくらいじゃ驚きもしませんよ。なんせ私が貴女の《お使い》になってから一体、どんだけ経ったと思ってるんですか。突飛な言動行動にはもういい加減、慣れっこですもの。

 なので、私は何も言わずにパチュリー様が腰掛ける椅子の脇に置かれたサイドテーブルに淹れたてのお茶を置きました。

「時の流れほど残酷なものはない」

 縁取りに金細工の彫琢がなされた豪奢なティーカップを片手に、退廃生活で身を持ち崩した韻文詩人のようなことをつぶやいたパチュリー様は「さも嘆かわしい」とばかりに力なく首を振りました。

「ここにきたばかりのあなたは、もう少し可愛気のようなものがあったというのに」

 ほっといてください。偉大なる魔女にして呼吸する知識の蔵たる我が雇い主に、一介の《お使い》風情が顔面筋を総動員しての渋面をこしらえたとしても、それを誰が責められましょう。

   *

 私が《魔法使い》パチュリー・ノーレッジのお使い兼弟子となり、それなりの歳月───大まかには両手両足の指の数を足してちょいとオマケをしたくらいの───が過ぎました。

 《魔道》に足を踏み入れるための基礎教育におよそ8年、足を踏み入れる第一歩のために3年、歩み始めるのにさらに1年とすこし、自身に最適化された《魔導》を理解するためには4年、それを得るためにまた4年。それらの過程をときには駆け足でまたときには“ほうほう”の体で経る途上、幾度か死にかけ、魂が持っていかれそうになり、逃げ出した影を捕まえ、身体を馴染ませ、とりこぼした欠損は創り直し───

 お陰さまでというべきか、しがない小悪魔であった私も見違えるほどの成長を遂げ、今では一人前の《魔法使いの弟子》でございます。悪魔の数え方は一人二人でよいのかは知りませんが。
 併せてこの建物内の《書庫》や施設を一手に任される立場も得ました。あえて言葉にするなら“ちんけ”な小悪魔から一味違う小悪魔になったとでも云えばよろしいのか。多少の成長をみせたところで頭の『小』の字が抜けないのは、骨の髄から足の裏、手指の先まで染み付いた小悪魔としての本分ゆえと諦めるしかないのでしょう。

 また、それらと一緒に身体のあちこちにも変化が顕れています。具体的には側頭部と背中から、でっかいコウモリの羽っぽいものが生えてきているのです。パチュリー様によると、悪魔としてのグレードが上がったことによって肉体が精神に引きずられた結果なのだそうですが(精神面の活性化によって、より人間の想像する『悪魔としてのデザイン』に影響され易くなるとか)これが生えてきたときには、もしや普段日常に接している薬剤あるいは機械から漏れ出た素敵物質の悪影響で、ミュータント化でもしたのかと全身から血の気が引くような思いをしたものです。

 さて、聞くも涙なら語るも涙な小悪魔の個人史はさておいて、今や腰のあたりまで伸びた赤毛の髪を指先で“くるくる”ともてあそびながら私は尋ねました。それで、お亡くなりになるのは“どちら”の方なのでしょうね。

「無論、私ではない方に決まってる」

 そうでしょうね。この方の生き汚さ加減は悉皆承知、これは要らん質問でした。肩をすくめる私を胡乱な目つきで眺め、パチュリー様は続けます。

「一つ所で“ちょい”と長く生き過ぎた。そろそろ『パトリシア・ノールズ』にはご退場いただく頃合いね」

 パトリシア・ノールズ───パチュリー様の隠れ蓑として用意された“かりそめ”の姿と経歴です。今の御時世における平均寿命からするなら、かのご婦人はとっくに鬼籍に入ってしかるべき。これ以上の『彼女』の生存は、その正体である『パチュリー・ノーレッジ』の存在が明るみに出る結果につながりかねない。したがって、パチュリー様としては今の状況や環境に見切りをつけ、“ねぐら”を移した上で新たに仮の姿をこさえる必要があるのです。
 
とはいえ抜け目とは無縁の我が雇い主、それら必要な手筈に関してはもうお済みなのではないですか。私が質問というよりも確認を口にすると、パチュリー様は小さく頷かれました。

「ご名答」

 ただし、それに伴う手続きそのものは“あなた”にやってもらう必要があるのだけれどね。思いもかけぬ一言に、髪をもてあそぶ手が止まります。私が?

「当たり前でしょう。死ぬのは一人で出来ても、葬式は一人じゃ出来ないでしょう」

 それでなくとも『パトリシア・ノールズ』の身近にいるのはメイドのあなた───『アン・シャーリー』のみ、ということになっているのだから。ふーむ。私は顎に手をやり考え込みます。言われてみればその通りです。今になって都合よく親戚縁者が現れたでは、不自然さを糊塗するには“ちと”足りない。
 それに、この一件に関しては私にも何分の一かの責任があるのです。なんせ、私の教育に時間をとられさえしなければ、今より早い段階でこの地に見切りをつけて、とっくに新天地で悠々としていられたはずなのですから。それを考えれば私も、多少ながらにも骨を折るべきなのでしょう。

「ああ、そこら辺は気にしなくてもいいわ」

 パチュリー様は静かに頭を振った後、視線を“こころもち”穏やかなものにして私を見やりました。

「前にも言ったけれど、先行投資に手を抜いては碌なリターンもありえない。むしろ、20年そこいらでそれだけの結果が得られたことに私は満足しているくらいだもの」

 それをあなたは誇ってもいい。語るパチュリー様の表情そのものはいつもと同じく、無表情と仏頂面を材料に頑固親父がこね回して焼き固めたデスマスクみたいな有り様でしたが。しかしこれは……
 もしかすると、褒められているのでしょうかね? 小首を傾げる私に、心外ねとパチュリー様は言いました。

「もしかしないでもそうよ。確かに滅多なことではしないけれどね、それでも褒めるときは褒めるわ」

 と言いますか、私以外にゃ褒める相手どころか話す相手もいませんしね。

「ほっときなさい」

   *

 雇い主による公開自殺宣言が飛び出した日の翌朝(酷い字面だ)。
 私はいつもの様に空が白み始める頃に目を覚まし、いつもの様に朝食を取りながら新聞に目を通すといういつもの日課をこなしていました。多少の出世をしてみたところで、小悪魔の朝が早いのは相変わらずなのです。

 ホットミルクをおかわりするよりも少し早めに3部目の新聞に目を通し終えた私はそれを畳んで脇に放り、新たな新聞に手を伸ばしました。手早く読みすすめるコツに加え、少し前から速読法を身に付けたので、これくらいなら大した時間もかからず読み終われるのです。

 ふーむ。半分ばかり読んだところで目が疲れてきたので、一旦、目を外して目元や“こめかみ”のあたりを揉みます。掲載されている記事もいつもと変わることもなく、すべて世は事も無し。

 ───壁に塗り込められた黒猫の告発。平穏な住宅地を脅かす猟奇事件のあらまし───今年度上四半期における犯罪発生率が過去最悪の水準に───聖林檎楽園学園入学手続き概要。今季定員は以下のとおり───連鎖する失業と貧困に憤る市民の声届かず───八方塞がりの様相を呈する政府与党の無策───EVAC INDUSTRY設立における新株公募。第1回の条件については下記参考───

 新聞にかぎらず、情報媒体というのは書かれていること読むだけでは意味が無い。記されていることも鵜呑みにせず、様々な情報ソースを元にすることで多角的視点による情報のバイアスを排除し、そこから更に益体もない情報の羅列を吟味し、真実の断片を拾い集め、多面的な思考と系統立てた考察のスポットライトをあて本来あったと思しき事象を推察する。それは取りも直さず私に求められる能力でもある。

 今日のところは、さして重要な案件はなさそうですねえ。最後の新聞を読み終え、私は魔力で保温しているホットミルクを飲み干し後片付けをはじめます。

   *

 後片付けを終えた私は階段を上がり、いつもの様にパチュリー様のお部屋のドアをノックしました。

「お入りなさい」

 いつもの様に許可をいただき、いつもの様に扉を開け、そして私はいつもと違う景色を目の当たりにすることになったのでした。

 部屋の中は一変していました。

 本来あるべき書棚の伽藍も、書棚と一緒に押し込められたかのごとき闇と澱んだ空気も、不気味山脈とでも云うべき実験室もそこに保管されたの品々も夢のごとくに消え失せ、そこにあったのはさして広くもないけれど狭いわけでもない、ありふれたアパートメントの一室があるばかり。お部屋の真ん中にはそれなりに寝心地は良さそうなベッドが置かれ、その脇にパチュリー様が“ぽつねん”と突っ立っていらっしゃいます。パチュリー様の足元には小洒落たデザインのちいさな鞄がひとつ、これまた“ぽつん”と置かれていました。そのベッドの上に、見慣れぬ女性が横たわっているようでした。おや、どなたでしょう。

「来たわね」

 その声に促され後ろ手にドアを閉め、パチュリー様の隣に足を運んだ私はベッドに横たわる“それ”を上から覗き込みました。歳の頃なら60代後半、やや痩せ気味ではあるものの閉じられた目や口元から、落ち着いて穏やかな気性が伝わってくるような上品な顔立ちの老婦人……の『形をしたもの』が、“置かれて”いる。私も魔法使いの弟子の端くれ、ベッドに置かれた“それ”の正体をすぐさま見破りました。

 ───フレッシュゴーレムですか。

 《ゴーレム》というのは魔法使い等の術者が、魔力や呪を込めて捏ね上げた泥から造られた自律人形のことです。《お使い》の簡易版と言えるかもしれません。ただし、運用するには厳格な制約が数多くあり、それを守らないと狂暴化したりするので使い勝手としては今ひとつどころか“いまいつつ”くらい足らないので不人気なものではありますが。そして私が口にしたフレッシュゴーレムとは、泥の代わりに人の血肉や培養した生体素材(人工皮膚や筋肉等)を材料とする、どちらかといえばゾンビや僵屍に近いゴーレムで、有名どころだと少しばかり前にヴィクター某とかいうスイス人が(この方も裏の顔は《魔法使い》なのだそうです)お造りになられた創造物が知られています。魔法使い限定というえらくニッチな知名度ですが。

 パチュリー様は小さく首を横に振られました。

「少し違う。かねてから研究していた人工骨格のテストベッドに、生体素材をまとわりつかせただけの木偶人形」

 頭蓋骨の内側は手抜きして、豚の脳ミソと腑の物を詰めてるのだそうです。ははあ、成程。私は頷きをひとつくれ、パチュリー様の意図を理解しました。この方を『パトリシア・ノールズ』として届けるということですね。そして今ベッドに横たわる、物言わぬこのご婦人(のヒトガタ)の姿こそが、私以外の人間の目に見えている、パチュリー様が纏う“かりそめ”のお姿なのでしょう。この時代の医者じゃ見破ることは出来んので、これで十分目眩ましにはなることでしょう。

「察しがよくて助かるわ」

 しかし、このお部屋の有り様は一体どうなっているのです。知らない間にやたらと手回しのよい引越しか模様替えの業者でも招いたんですか? ただの一夜で様変わりしたお部屋のあちこちに、私はわざとらしい仕草で視線を巡らせ訊ねました。ひょっとしたらですが、様変わりしているのは“ここ”のみならず他のお部屋も同じなのではないでしょうか。

「《建物》の施設や《部屋》ならここよ」

 私を軽く一瞥したパチュリー様は、足元の鞄を“ぽこん”と爪先で突つきました。

「《壺中の天地》───後は言わずとも判るわね?」

 ああ、そういうことですか。納得とともに頷きました。小さな壺の中に大千世界封じ込め、そこを自在に行き来したという東洋の超人の術と、それにまつわる逸話。およそ《知識》と呼べるものなら、古今におけるすべてに通じた魔女にも同じことが出来たところで、何の不思議がありましょう。この場合は《鞄中の建物》とでもなるわけですか。えらくしょぼい感じの表現ですが。

「さて───状況説明はここまでにして、そろそろ本題に入りましょうか」

   *

 自分の他には居る者とてないアパートメント、その一室。本来の主が立ち去り、どこか寒々しい空気が漂うばかりの部屋で、私は半ば途方に暮れたような心境で髪をいじくりまわしながら、主から手渡されたメモに目を通していました。見るものすべてに底知れぬ知性と教養とを感じさせる流麗な筆致も、我が胸中にわだかまる澱の如き倦怠感を払拭すること能わず、ただ、己が託ちたる不幸と労苦に思いをいたし嘆くばかりなり。

 そこに書かれている、パチュリー様直筆のシナリオは次のようなものでした。

 ───いつもの様に『パトリシア』様を起こしに来た私こと、『アン・シャーリー』はベッドの上で事切れている女主人を発見。慌ててお医者様に連絡するも刻既に遅し、主は冷たい骸に成り果てた。悲嘆に暮れながら故人の物品や身辺の整理をしていると、銀行と弁護士から連絡が入る。なんでもアンの主人は生前、自分に万一のことがあれば遺産の全てを、自分に最期まで尽くしてくれた忠良なるメイドに委ねるとの遺言を遺していたという。それに驚きつつも、主がこれ程に自分を大事に思ってくれていたのかと感動し、その遺産を継承するアン。しかし、実の母のごとく慕っていた主との思い出が詰まったこの建物に留まるのはあまりにも耐え難いと感じた彼女は、すべての資産を処分して己の傷心を癒やす旅に出るのであった───

 ……要約されたメモから目を離し、私は溜め息をこぼしました。

 よくもまあ、ここまでテンプレートに則ったお涙頂戴シナリオを考えついたものです。ロイヤル・オペラ・ハウスで上演した日にゃ、観客一同スタンディングオベーションで野次と石と火炎瓶を投げつけてくること請け合いの、脳天直撃駄話もいいところです。そしてなにが一番泣けてくるのかといえば、このおポンチ小咄の主演女優がこともあろうに他ならぬ私であるということでしょう。もはや流す涙も枯れ果てて、乾いた笑みがこみ上げてくる。メモを読むだけの簡単なお仕事で、なんでこんなに疲れたような気分にさせられるのやら。

 けけ、と私は我ながらヤバい響きの笑い声を上げて、人差し指でメモを弾きました。指に込められた魔力によって、紙は一瞬にして灰も残さず燃え尽きます。必要な部分はとっくに頭に入れてあるので(あまりにもアホらし過ぎたのでイヤでも憶えてしまいました)問題はありません。
 ひとしきり笑ってから私は大きく深呼吸をし、主の消えた殺風景な部屋の隅に置かれた堅いクッションのソファに“いささか”乱暴に座り、右の手で頭を“くしゃくしゃ”に掻き回しました。

 そうしてしばらくすると気分も落ち着いてきたので、私は改めて自分の置かれた状況と、為すべき“あれこれ”に思いを巡らせます。阿呆らしいにもほどがあるとはいえ、私にとってのこれらは悪いことばかりでもありません。なにせ、建物を含めた『遺産』の処分によって得られたものは、お駄賃として全て私の懐に入れてもよいとのことでしたので。

 ───いままでとこれからの分、当面の給料を一括払いしたのだと思えば安いものよ

 持つべきものは太っ腹な雇い主というところでしょうか。ただし、処分にかかる費用や手続き等は私持ちとの事なので、下手を打ってしまうと“もらい”が少なくなってしまうので、そこは私の甲斐性が試される場でもありますが。

 ───これは今まであなたに仕込んできた“もの”がどの程度、身についたか確認するためのテストでもある。精々、上手く立ち回ってみせなさい

 それ以上は言うべきこともないと後に落ち合う場所だけを告げ、パチュリー様はバッグ片手に旅立ってしまわれました。

   *

 “しん”と静まり返った部屋の中、ひとり私は昏い表情で計算と打算を巡らせます。
 この時点で私がパチュリー様と縁を切り、何食わぬ顔で貰えるものだけ貰って“とんずら”するというのもアリなのでしょう。しかし、そんな愚かしいにもほどのある選択肢は端から私にゃ存在しちゃいません。なんぼ小悪魔といえども、今の今まで面倒を見ていただいた方を裏切るがごとき没義道をかましてはなりません。そのような破廉恥な考えをする者など、煉獄の業火で万回でも焼き殺されては万遍蘇り、そしてまた一度炙られてしまえばよいのです。

 ……いや、白状してしまうと“ほんの少し”だけ頭をもたげはしたのですがね、もたげたところを無理やり押さえつけて簀巻きにし、川に流しました。今頃はテムズの冷たい水底にでも沈んでいることでありましょう。

 無論、仁義やら人情やらといったご大層な理由からではなく、あくまでも打算的な部分からですが。端金に目を眩ませて、金の卵を産む鶏を逃がすのはあまりにも馬鹿らしい。貰えるものがある内は、付かず離れず今のままでいるのがよろしかろう───それだけの理由です(そもそも私に人の情なんぞを解せよというのは不毛です、悪魔なのでね)。
 おそらくですが、パチュリー様もこうした私の心情を承知した上ですべての差配を委ねたのではないでしょうか。万一、私が裏切りをはたらいたとしても、これくらいなら懐も傷まないという計算も込みで。そしてご自身は遠く離れた場所で、私の内心の葛藤を含めた悪戦苦闘ぶりを高みの見物ときたものです。やはりあの方は骨の髄まで《魔女》なのです。性格が悪いったらありゃしない。それに比べれば私の心根のなんと清らかなることかな。生まれる場所と種族を間違えた天使様と云っても過言ではないでしょうさ。

 私は大きく息を吸い、胸中に“わだかまる”懊悩やら心労やらをまとめて吐き出すようにして今一度、溜め息をつきました。
 ともあれ向こうが《魔女》なら私は『魔法使いの弟子』、ならば期待されている通りに(あるいはそれさえも予想されているのを承知で)、上手く立ちまわって見せようではありませんか。

 そうと決まれば、先ずはお医者に連絡です。それが片付いたら、次に適当な弁護士か法律の事務所に行かねば。できればどちらも腕利きの風を装って、大家ぶってはいても金を積めば目の色を変えるような垢抜けない二流半がいいところの奴らが望ましいのですが。

 私はもてあそんでいた髪を指で弾き、勢い良く立ち上がりました。それに合わせて“ひそかな”自慢の髪が揺れる。パチュリー様を真似て、長く長く伸びた腰まで届く紅色の髪。悪魔としての《格》が上がったことよりも何よりも、これこそが一番嬉しい。

   *

 ───パチュリー様、探偵をやってみませんか?

「そんな寝言はどうでもいいから、これを保存液に漬けておいて」

 はあい。つれないお返事に肩をすくめ、私は手渡された『これ』───採り出したばかりの水子を、保存用薬液を詰めたガラス瓶に放り込みました。錬金術の応用で造られたこの液体は、漬け込まれた生物の細胞の壊死と分裂を恒常性とはまた違うアプローチによって抑え、擬似的な《不老不死》を体現させる霊薬です。ただし、一度これに漬けられてしまうと外界で生きてはいけない体になってしまう上、保存液の効果期限は精々1週間が限度なので定期的に交換してやる必要があるのが玉に瑕ではありますが。ちなみに、保存液の交換を忘れたりすると5分も保たずに中身が腐ってしまうのはご愛嬌です。

 蓋を閉め、別に用意したラベルに保管した日付を記入していると、背後で手術に用いていた白衣と薄い手袋を脱ぎながら、パチュリー様が指示を飛ばしてきます。

「あと、それが終わったら部屋と器具の滅菌処理を」

 はあい。レベルⅢ相当でよろしいですね。

「結構」

 頷きをひとつくれ、パチュリー様は抗菌処置の施された手袋をゴミ箱に放り込み、気怠い足取りで手術室を後になさいました。

   *

 まんまと『パトリシア・ノールズ』の死を偽装した私が、その遺産などの後始末を片付け、身をくらますため海峡を渡ってパチュリー様と合流してからおよそ半年が過ぎました。現在、私達はこの国でも有数の規模を誇る花街、その脇っちょというか裏側とでもいう場所にこびり付くようにして存在する、小汚いスラム街の一角を新たな“ねぐら”としております。

 華やかなりし表舞台の面影などは微塵も感じえぬ、悪徳と汚穢と怠惰と紊乱と退廃を根性曲がりの魔女の釜で煮詰めたような不浄の地、それが悪けりゃ世の中からも誰からも見捨てられたクズが(私が云うのもなんですけれど)行き場を失い流れ着く、悪い意味での遙かなる約束の地。
 当然のように道行く住人たちはどいつもこいつも、ろくでなしか犯罪者、さもなきゃその被害者という救いのなさ。ときたま親切で優しい奴がいたとしても、それは間違いなく懐目当ての追い剥ぎか“ごまのはい”、決して気を許してはなりません。
 陰惨と陰鬱とが雑然と絡み合い、溢れかえらんばかりの無秩序と無法によって形作られた“ここ”でのパチュリー様の肩書きは、女だてらに裏稼業の世界を渡り歩いてきた“もぐり”のお医者、ブランシュ・ジョクスということになっております。で、私はその見習いというかお付の助手みたいな扱いです。

 これは余談ですが、前にも述べた通り現在における私の身体は、頭や背中からでかい羽が生えるという、一目で人外であるのが丸わかりな風体となっているので、雇い主に倣って私も周囲の視覚に誤魔化しをかけて外見をいじくっています。パチュリー様は偏屈で頑固そうな容貌をした顔面にでかい傷を負った中年女性の、私は発育不良が原因で万年“ちんちくりん”という設定の小娘の格好です。

   *

 パチュリー様から言いつかった処置を終え、書き込みを終えたラベルを手に手術室を後にした私は、消毒薬の匂いが幽かにこもる薄暗い廊下を抜けて、パチュリー様が待つ《院長室》に足を運びました。

 一足先に院長室に向かったパチュリー様は、こんな場末医院には似つかわしくない、重厚な艶光をみせる黒壇のデスクとセットになったエグゼクティブチェアに身を預けていらっしゃいます。

 それを横目で眺めながら、私はさっきまでの“お客様”であった女郎さんのことを“ぼんやり”思い出しました。ここへしょっぴいてきた郭の牛太郎さんに押さえつけられ、猿轡まで噛まされて(“ぎゃあぎゃあ”煩かったので)分娩台に拘束されながら、先ほどまでお腹に入っていた『これ』を引っ張りだされたその女性は、最初から最後までものすごい形相で私達を睨んでいたものでした。牛太郎さんから聞いた話によると、“これ”を産むために郭抜けまでしようとしたとかなんとか。そんなにまでして産みたいもんなんですかねえ。

 パチュリー様はともかく、私としましてはここでの“お仕事”というのは、望みもしないのにこさえる羽目になった“人生の重荷”を取り払い、有意義な人生を送るための一助、巷で言うところの慈善事業のつもりなのですが、それを理解していただけない方が多いのは残念なことです。
 ため息を吐く私をどう思ったのか、何故か呆れたような顔をしたパチュリー様が言いました。

「慈善というのなら、見返りを求めなさんな」

 はあい。小さく、やや拗ね気味に応えた私は瓶にラベルを貼り、次いで部屋の壁に擬装された識別装置(虹彩と静脈パターン、指紋による複合認証)に手をかざし、《保管庫》の扉を開きます。この《保管庫》には、私達がこの街に来てからの成果が“ぎっしり”と詰まっているのです。勿論、他人にゃとても見せられないもんばかりですが。
 保管庫に足を踏み入れた私は、そこを埋め尽くすようにして“ずらり”並んだ棚に、今日のお仕事の成果を仕舞いました。やはりというか、棚には今置いたたもの以外にもここで取り上げた水子の詰まった瓶が並んでいます。おそらく増えることはあっても減ることはないであろう瓶の数は、この街における“生産者”の商売繁盛を無言のうちに物語る。形はともあれ、景気が良いというのはまことに結構なことです。

 そういえばあまりに“どうでもいい”ことだったので忘れかけてましたが、“これ”を取り出した女郎さん。彼女、梅毒の初期症状が出ていたので、そう遠くないうちにあの世逝きになるかもしれません。命を取り留めたとしても、今の商売は続けられないでしょうが。勿論、治すことだって簡単ではあったのですが、パチュリー様はあえて放っとかれることになさいました。

「だって治療を頼まれてなかったもの」

 微塵も悪びれぬこの魔女。初期の段階では知識がない人間にゃ、自覚さえしにくいのですから頼みようがないでしょうに、酷いことをなさる。

「思ってもいないことを口にするのはやめておきなさい」

 空咳をひとつして、窘めるようにパチュリー様は言いました。

「どの道、私らが保有する《知識》や《技術》は、表沙汰になった日にはいらん詮索しか生まないの。いわんや益体もない感傷で安売りは出来んわな」

 痛くもない腹を探られて気分のよろしい者はなし、それが痛い腹なら尚更よ。おそらくはこの界隈において1、2を争うくらいに痛むお腹の持ち主は、さも疲れた様子でソファに埋まりながら言いました。

 それにしても、水子ってなんの足しになるのですかね。水子の列を前にして、眉根を疑問に寄せていると、パチュリー様が説明をしてくださいました。

「胎児っていうのは云わば、未だ苦界に生まれ落ちることなき無垢なる生命の種子」

 世に根を下ろすことなく内包されたままの可能性・不可能性の種、そのように置き換えてもよろしい(まあ、“ここ”で生まれた餓鬼の可能性なんぞたかが知れたものですがね)。意識なぞ無いはずの水子の残念が強烈なのはそのせいであり、それに梅毒という悪想念の要素(この場合は医学的のみならず観念的な部分としての)が加わることによって、理想的な魔道の媒体として作用することができるのだそうです。

「ただし、あくまでも《魔術的》加工を施した上での話しよ。それがなければただの肉の塊以上ではないわね」

 酒のアテくらいにはなるのじゃないかしら。“さらり”と笑えないことをパチュリー様はおっしゃいます。

「冗談はさておき、それ以外だと《不老長生の霊薬》ね、その紛い物くらいは造れるわよ。魔法をかじったことがあるやつ限定だけど」

 興味があるならあなたも実験ついでに創ってみなさい。やや含みを持たせた声に、私は小首を傾げました。紛い物、ですか。

「表皮の細胞を活性化させて、シワ伸ばしするくらいしか効果がないもの」

 まあ、そんなパチモンでも大枚はたいて欲しがる奴はいるから、小遣い稼ぎくらいにゃなるわ。パチュリー様は小馬鹿にしたように鼻を鳴らしました。そんなもんですかねえ。

「そんなもんよ。少し前にゃ若さを保つ秘訣とうそぶいて、そこらの村娘の腹かっさばいて集めた血で行水やらかしたトンチキもいたくらいだし。喜んで飛びつくでしょうね」

 なんですか、そりゃ。私は酢でも含んだような顔をせずにはいられません。人間がなんぼアホでも、いるわけないでしょうそんなキ印。反射的に思ったことを口に出すと、パチュリー様は肩凝りをこじらせたような顔をなさりました。

「普通ならそうなのよね───普通なら」

 ところが、目先の目的に“目”が眩んだ人間は容易に莫迦なことをしでかすものでね。身の丈に合わない《力》───腕力権力財力。どれでもいい───を手にした連中、特にそれが自身の努力によってもたらされたものでない場合は、その傾向が天井知らずに悪化するそうです。なら、私も気を付けたほうがいいかもしれませんね。

「そうね。頭に『小』が付く内ならば、その殊勝さこそがあなたを救うでしょうよ」

 なら、当分の間は大人しくしていることが我が身のためということですね。私は保管庫の扉を閉め、その上から目眩ましの魔法をかけました。鍵自体はオートロックなので掛ける必要はありません。

「なんにせよ今日はもう店仕舞いね、カンバンを出しておいて」

 はあい。愛想よく応えた私は“ぱたぱた”と部屋を出て、表のドアに『本日は営業終了』のプレートを掛けました。扉を閉め、鍵をかけている私の背中にパチュリー様の声がかけられます。

「あと、それが終わったらお茶を淹れてちょうだい」

 声はすれども姿は見えず。本来なら聞こえるはずのない小さな声と距離なのに、それがはっきりと伝えられているのは、おそらく空気の伝導にでも手を加えているのでしょう。
 少々、お待ちくださいませ。私は流行らない喫茶店によくいる、サービス精神を放擲した給仕ばりに適当な返事をして台所に向かうのでした。

   *

「いい香りだこと」

 くゆらせたカップから立ち昇る香気に顔をくすぐられ、パチュリー様は満足気に目を細めました。あくまでも紅茶の香りを楽しむだけで、お飲みになられたりはしないのですが。パチュリー様のデスクから少し離れたところに置かれたソファに腰を下ろし、私も自分のために用意したお茶にミルクとお砂糖をいれ、ティータイムと洒落こみます。

 お茶請けに用意した自作のクッキーをかじり、紅茶で流し込んだ私は《保管庫》がある壁に目をやりながら言いました。
 しかし、こうやってモグリとして日陰に蠢いているというのも、なんだか勿体ない話ですねえ。そんじょそこいらのお医者さんの腕前より、パチュリー様のがよっぽど凄いのに。少なからざる残念さを込めた私の溜息を、洒脱な仕草で肩をすくめてパチュリー様はやり過ごしました。

「買い被りもいいところよ。実のところ私の医療技術なんてもんは、あなたが思っているほど大層なもんじゃないの」

 そもそも私は《魔女》ではあっても医者じゃあない。出来るのはあくまでも、真似事の範囲内さね。パチュリー様が仰るには、他人がまだ知りえぬ知識のアドバンテージによって技能を底上げしてるだけであって、ご自身の技量はよくいって中の上が精々とのことです。そんなものでしょうか。納得がいかず眉根を寄せていると、パチュリー様の唇の端が“うっすら”と、強いていうなら苦笑いに近い形に曲がりました。

「とはいえ、抗生物質どころか感染症予防の概念さえない今の時代、それだけでも十分過ぎるのでしょうけれど」

 今の御時世、文化レベルはさておき根本的な衛生事情やなんやらは中世の頃からあまり進歩しとらん。柔らかなチェアのクッションに埋まり嘆息するパチュリー様でした。
 より正確にゃ、大昔に存在していたナントカいう国の興亡のドサクサに紛れ権限を肥大させた宗教が、自身の地位向上と権威や利権拡大の方便として時の知識階級を排除・弾圧したせいで、それまで広く伝わっていた民間医療のレベルが諸共に後退しちまったのだそうで。その過程で失われた知識には、薬草学に根ざした医療と公衆衛生のそれも含まれていたので、当然のことながら感染症対策の基本でもある衛生事情およびそれらの基礎知識も悪化。それが現在にまでよろしくない影響を与えているのだとか。

 目先の目的に“目”が眩んだ人間は、容易に莫迦なことをしでかすもの───パチュリー様が仰られていたのはそういうことですか。

「まあね」

 何度か小さく咳をして喉の調子を整え、パチュリー様は続けられます。

「それでなくとも、モグリの方が何かにつけて便利ではあるし」

 それはまあそうでしょうね。ここを訪れる輩といえば、基本は“どいつもこいつも”後ろ暗いかさもなきゃここ以外に診てくれるお医者もいない連中ばかり。その分口の堅さも折り紙つき。世間一般が眉をひそめるような行為を幾らかしでかしたところで、自分達に利益があるうちなら目をつぶってくれる。例えば摘出した臓器やら水子、そこいらでおっ死んだ身元も定かでない人間をどうしようが知ったことではないというように。

「しかも“なにがしか”の形でお偉い連中とも繋がりがある奴も少なくない。実際、私の話を聞きつけた連中がもう何人か、お得意様になっているからね」

 言われて私は“ここ”を訪れるお客さんの顔のいくつかを思い出しました。そういえば少し前から、こんな場末の闇医者とは縁遠い金ぴかの服着て懐具合も暖かそうなお大尽様が“ちょくちょく”いらっしゃるようになってました。

「場末は余計よ」

 そこは気になさるんですね。取り合っても面倒くさいばかりだと思った私は、聞こえなかったふりしてマフィンをかじりました。
 下々の者からすれば雲の上にいらっしゃるが如きお偉い方々といえども、世俗に交わるそのかぎり生きの悩みは尽きぬもの。下手な病をもらった日には世間体にも傷がつく(所謂『ぶるじょわじぃ』と呼ばれる人種が、専属のお医者を抱える理由がまさにそれ)。ましてや、いまだ不治の病が山とあるこのご時世、金に糸目をつけなければ治せぬ病なぞないパチュリー様の存在は、そういった方々にとっては千金万金の価値があろうというもので。

「付け加えるなら、そういった手合いは完治さえすれば多少なら足元を見たところで文句も出ないのがよいところ」

 ついでにそこから繋がるコネもある。それが巡ってまた新たな人脈と金蔓を産む───結局、こうして裏に潜んでいた方が安全だし、懐の具合も暖かくなるという寸法よ。

「なによりも、光が強い場所ほどその裏に蠢く闇もまた濃くなるもの。“ここ”は《魔法使い》にとっても都合がいい」

 人の営みが孕んだ《闇》の色は夜の闇よりなお昏く、そこに潜む魔はたやすく同類を惹き寄せる(その逆が滅多にないのは不思議なことです)。先ほどの水子のみならず、こういった所でしか手に入れられない品は、魔法使いにとっては垂涎の的でもあるわけで。

「これで空気さえよければ、もう、言うことなしなんだけどね」

 小さく咳をし、パチュリー様はやや忌々しげな表情をこしらえました。以前のアパートメントに同じく、このモグリ診療所もパチュリー様のお身体に合わせた空気の清浄機構および外界との隔離措置が設えられてはいるので、住み暮らす分には何の問題もないのですが、それでもパチュリー様には不満のようです。

「でもまあ、それも仕方ないのか。ある一定の段階からの進歩には、少なからずの環境への悪影響がついて回る」

 かく言う私も、現在の《動力炉》開発の前段階や試作品とかで、ちょっと口にはできない代物を垂れ流しにしたもんだし。へー、パチュリー様にもそんな時代があったんですね。私の脳裏に、廃棄されたブツ(おそらくは燃料や減速剤として用いられる“アレやコレ”でしょうが)によって癌やら白血病等を患いバタバタ倒れていく人々の姿が浮かび上がりましたが、それには特に思うこともなかったので、私は適当な相槌だけを打って新たなマフィンに手を伸ばしました。所詮、私のあずかり知らぬことです。

   *

「それにしてもあなた、一体全体なんだって探偵なんぞをやろうだなんて思いついたのよ」

 ティーカップをくゆらせ、開いてる左手をチェアの肘掛に置いて頬杖をつくという、ちょっとだらしない格好でパチュリー様はお尋ねになりました。なあに、そんなに御大層な理由じゃござんせんやな。ただの思いつきみたいなもんだったんで。でも、案外やってみてもいいんじゃないですかね。こんな“ごみごみ”しい場所でくすぶっているより、よっぽどパチュリー様にはぴったりの商売だと思いますし。

「どこら辺が」

 パチュリー様は“けんもほろろ”に言って、視線を私からあらぬ方へと外されました。

「大体、事件なんてそんじょそこらにホイホイ転がってるもんじゃないでしょうに」

 すぐに“商売あがったり”になるのがオチよ。取り付く島もない様子でパチュリー様は言い、ティーカップをテーブルに置きました。
 私はわざとらしく口をとがらせました。そんなことはありませんよ。この世は事件の宝庫です。殺人、密室殺人、連続殺人、うっかり殺人、あらゆる事件がなんでもござれです。

「なんで殺人事件限定?」

 そんなん私に言われましても。探偵あるところに殺人事件あり、殺人事件あるところに探偵あり───昔からの決まり事じゃあないですか。

「むしろ探偵の名を騙る疫病神じゃないの、それは」

 パチュリー様は、しなやかな人差し指で“こめかみ”のあたりを押さえました。
 なあに疫病神が貧乏神でも事件さえ解決できりゃ百点満点ですよ───平和な日常に忍び寄る卑劣なる悪漢の影、恐怖に打ち震える愚鈍な人々、役に立たないアホ官憲。あわれ屠殺場に送られる家畜のごとく無様に右往左往する衆生の前に、颯爽と現れ見事な手際で事件を解決する名探偵パチュリー・ノーレッジ。その活躍を目にした愚民どもは拍手喝采、手柄を持っていかれた官憲連中は悔しさに歯ぎしり、悪党どもは断頭台の露と消ゆ。素晴らしい。最高に絵になる光景じゃあないですか。

「……三文文士が書いた、脳天底抜けペーパーバックの表紙みたいな絵面しか思い浮かばないわね」

 まあまあ、そう言いませんと。パチュリー様が実にイヤそうな顔をこしらえるのをなだめ、私はテーブルの上に置かれた新聞紙を手に取りました。
 上手い具合に事件もございます。まずは肩慣らしにでも、これを解決してみるのはいかがでしょう。言いながら私は広げた新聞の一面を、偏頭痛を堪えるようなお顔をしたパチュリー様へ向けました。そこにはモルグ街とかいうところで殺人事件があったらしいとの記事が、扇情的な煽り文とともに“でかでか”と載せられておりました。

 新聞の見出しに目を通したパチュリー様は、下手くその弾いたバイオリン演奏を耳にしたかのようなお顔をなさり、次いで実に“しょうもない”ことに時間を使ったとばかりのため息を吐いて言ったものです。

「大方、どこぞやから逃げ出したゴリラだかチンパンジーだかオランウータンの仕業よ」

 そんないい加減な。唇を尖らせるも、パチュリー様取り合おうともしてくれません。

「じゃあヤスって奴が犯人よ」

 どなたですか、そりゃ。

「知らない」
 登場人物

 小悪魔

 所詮は悪魔、人情なんぞは理解もできない。つまるところのひとでなし。

 パチュリー・ノーレッジ

 所詮は魔女、人情なんぞは溝に捨てている。つまるところのろくでなし。
puripoti
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コメント



0.520簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
EVACINDUSTRYの名前をここで聞くとはww
あの変態企業この時代から活動してたのかよww
3.100名前が無い程度の能力削除
相変わらず、アンタのパチュリーと小悪魔は最高だわw
毎回ブラックなやりとりにゲスな笑みを浮かべながら読んでますw
4.100名前が無い程度の能力削除
小悪魔がどんどん悪魔になっていく
いいぞもっとやれww
7.100名前が無い程度の能力削除
この二人いいなあ
よく考えればかなりエゲツナイ話なのに後味の悪さを感じさせないのは、彼女の語り口のせいか、はたまた二人の関係のおかげなのか
8.30名前が無い程度の能力削除
うーん別に無理にそういう話いれなくても…
9.100名前が無い程度の能力削除
今回も面白かったです
10.100名前が無い程度の能力削除
アクの強い文体や書き方、オリジナルの要素が強いストーリーは人によっては好き嫌いが分かれそうだけど、自分なりの個性を出そうという姿勢は評価できる。
期待を込めてこの点数で。
12.80名前が無い程度の能力削除
こういう作風は嫌いじゃない
16.100名前が無い程度の能力削除
さりげない形でぼかされていても死生観や倫理面が人間のものとは違う彼女たちにとって
悲喜こもごもの世界の姿もありふれた景色でしかないのでしょうね
17.90名前が無い程度の能力削除
最初から追いかけて、説得力のある形でキャラを描けてる雰囲気が好み。
パトリシア・ノールズの葬儀に関する大立ち回りは見たかったけど、
そこの詳細は想像するぐらいでも良いのかも。
19.20名前が無い程度の能力削除
この手のキャラも作者も米欄も嫌いだわあ…
知るっていっても所詮は信じること
信じるものに依存することは信仰や洗脳されることにかなり近しい
だから知識といえど依存すれば道具じゃなくて信仰の対象としての自分の主になってしまう
だから何を知るか触れるかも大事だけど何を知らないか触れないかも人格の形成には重要になる じゃないと狂信的な宗教がそうであるように容易に歪んでしまう というか宗教も知識のひとつに過ぎない
自分が知識に支配され歪んでしまう程度の存在という自覚がなけりゃ節操なく知識に触れれば容易にこの二人みたいに倫理や人情がふっとんでしまう
そういう知識に支配されて歪んでいる人間は東方界隈の外でも内でも多そうだからこのパチェリーには何とも言えない親近感と嫌悪感を感じる

個人的には好奇心という悪魔にたぶらかれ知識という魔女の奴隷にならない程度には勇気を持って知識を取捨選択し冷静さを保って知識と距離感をおきたいと思う
20.100名前が無い程度の能力削除
一話目から読んできました。

全体の魅力としては作品に流れる根幹の雰囲気とでもいうものに心地よさを感じます。
パチュリーを敬いつつどこか斜に構えたスタンスを崩さない小悪魔、常から陰鬱な気配をまとわりつかせたパチュリー。いかにもアクの強いこの二人が織りなす付かず離れずの関係、嫌味にならない程度に散りばめられた人外であることを認識させるガジェットも作中の空気にマッチしているのも良い。

いつか訪れる「あの未来に続く為」の彼女達の日々はこれからどうなるのかが楽しみです。
22.80名前が無い程度の能力削除
各話におけるキャラ同士のかけあいがとてもいい
23.90名前が無い程度の能力削除
可愛い