「…邪!正邪!」
「う…ん?」
聞きなれたその声で目を覚ます。
目を開けると彼女、小名針妙丸の顔があった。
私は飛び起きた。驚いた。態々覗きこまなくても良いじゃないか。
「わっ…あ、正邪お早う!今日も教えてくれるんでしょ?」
「え…?」
私は一瞬何の事か分からなかった。はて、何を約束したか。
そして私が戸惑いの顔をしているのを彼女は分かったらしく、
「もう!正邪ったら忘れちゃったの?幻想郷の詳しい事とかを教えるって昨日言ってたじゃん!」と言った。
…ああ、そう言えばそんな約束をしていたか。
「…あ、そうでしたね、思い出しました。では行きましょうか」
私は彼女を肩に乗せ、いつも通りのルートを飛んで行く。弱小妖怪でも飛ぶくらいなら出来る。
「逆さ城へ」
「―――と言う訳で今幻想郷では小人族等の弱者や言葉を持たぬ道具等が強者によって虐げられているのです」
「そうなの!?鬼の世界の外にも小人族が居るの!?」
「ええ、そして私が今考えている事、それは…」
「それは?」
「…いえ、話すのはもう少し後にして置きましょう」
「えー!?」
「まあまあ、気を落とさずに。姫、丁度良い時間ですし、昼食にしましょうか」
「え?もうそんな時間?時間って経つの速いのね」
全く感情が変わり易い奴だ。
勿論、幻想郷に小人族が居ると言うのは嘘である。が、こうして「自分と同じ種族が別の所でも虐げられている」と言った同情とでも言った感情を与えることで、幻想郷により大きな不満を持たせるのである。
「さて姫、出かける準備は出来ましたか?」
「うん!大丈夫だよ!」
彼女がそう言ったのを確認すると、私は彼女を肩に乗せ食事処へ向かった。
「美味しかったね正邪!」
「しーっ、今話してしまっては見つかってしまいますよ」
鬼の世界と言うのは力こそが全ての世界。勿論そんな社会であれば強者が弱者を虐めるのはあまり見え辛い所で時々行われている。
私も彼女も弱者の中に入るので、強者に目を付けられては溜まったもんじゃない。
それに彼女…小人族は下の下だ。誰に見つかろうと虐げられる可能性が高い。
だから私は彼女と居る事がばれると厄介なのである。自分も巻き添えを喰らってしまうし、彼女が居なくなってしまっては、これまでの努力が水の泡だ。
これ以上外に居るのは得策ではないと思い、私はさっさと逆さ城に戻った。
「打ち出の小槌?」
「ええ、鬼から手に入れた、小人族の宝物です。その小槌に所有者として認められれば、どんな願いも叶えてくれるんですよ」
「へえぇ…小人族にそんな物が…」
「で、ですけども、昔、小人族が全員幻想郷に居た頃。貴方の先祖の願い、『大きな城が欲しい』と言った願いでこの城は出来上がりました」
「ほうほう」
「それと同時にその小槌を欲しがる輩も存在致しました。何せこんな大きな城を作ったのですからね。でも、小槌は欲しがる輩の手に渡っても、直ぐに捨てられました。分かりますか?」
「……打ち出の小槌が、所有者として認めなかったから?」
「正解です!流石姫、物分かりが早い」
「そ、そんな事無いよ…だって私、世間知らずだし…さっきまで、小人族の事なんて全然分からなかったんだから」
あらら、気を落としちゃったよ。
「…確かに貴方は世間を知らなさ過ぎるかもしれない」
「でしょ?」
「でも、今から知っていけば良いんじゃないですか?」
吐き気を抑えてそう言った。相変わらず綺麗事は嫌いだ。
「…そっか、そうだね!有難う!正邪!」
彼女はさっきの言葉で満足したらしく、「パアッ」みたいな擬音が流れて来るほどの笑顔だった。嗚呼、一体どうしたらそう簡単に感情を変えられるのやら。
「…さて、話が逸れてしまいましたね、続きと行きましょうか。小槌が―――」
~~~
正邪がお尋ね者になってから9日目。
今、彼女は博麗神社の中で眠っていた。決して死んでいる訳ではない。
「…ったく、なーんで私がこんな事しなくちゃいけないんだが」
「…ごめんね、霊夢、私の我儘で」
「あー?別に良いわよ。迷惑だと思ってたらあんたの我儘に付きあってなんか無いわよ。さっきのは只の愚痴。聞きたくなかったら耳栓でもすれば良いわよ」
昨日正邪は霊夢によって倒され、捕まり、此処にやって来た。
霊夢曰く「別に捕まえた所で何かしようって訳じゃ無いし、好きにしていいわよ。あんたも被害者なんでしょ?」との事だから、私は霊夢に頼んで、正邪は「正邪が一番楽しかった時の記憶」を見せて貰う事にした。「お人よしね」と言われたが気にしない。
時々「良いですか~?」とか、「分かりましたか~?」とか言っているのを見ると、私の知る限りでは私に色々教えている時の事だと思われる。
「さて、針妙丸、これで良いかしら?」
「うん…まあ、良いよ」
私がそう言うと霊夢は正邪に掛けた術を解いた。
暫くすると、正邪が起き上がった。
「お早う、正邪。良い夢見れた?」
「…十分遅くて最悪な目覚めを有難う。礼はしない」
「…あんたねぇ」
「あ、霊夢…だっけ?目の前に大物が居るのに捕まえないとは随分余裕じゃないですかー?」
「あんたいい加減に…!」
「…ねえ、正邪」
怒りそうな霊夢を私が制する。このまま弾幕に発展しても正邪はアイテムでかわしてしまうと思ったからだ。
「あん?何だよ、姫。礼はしないっつったろ?仇(あだ)なら返すけどよ」
「幻想郷は良い所だよ。確かに弱者を虐める奴もいるかもしれない。でもね、そんな少数より、心優しい人の方が多いんだよ。だから…正邪も反逆なんか止めよう…ね?」
「…」
「急な事で戸惑っていると思うけども、現に私は今が楽しいの。正邪に嘘ばっかり言われて悲しかった時もあるけど、それと同じ位嬉しい事もあった。だから、もし正邪が悲しいって言うなら、一緒に嬉しい事…作ろう?」
ちょっと恥ずかしかったが、本心だ。正邪も一緒に笑って欲しいのが私の願いだから。出来れば、私の傍で。
「…じゃあ言わせてもらうけども…」
「うんうん?」
「残念ながら私にゃそんなのは願い下げだね!面白いじゃないか!何時もは余裕の面見せていた強者サマが!これっぽっちの力も無い私に対して!9個の反則アイテムによって!鼻息荒くするんだからよ!昨日も言ったが私は生まれ持ってのアマノジャク!誰にも従わない!誰にも媚びない!勿論、姫様にもな!」
正邪はそう言うと消えてしまった。恐らく妖怪の賢者から奪ったらしい傘を使ったのだろう。
霊夢も其れに気付いたのか、素早くホーミング機能を持った御札を放つ。
御札は直ぐに命中し、正邪は其処に倒れている。
「……」
霊夢は何も言わないが、私はそれで分かってしまった。私も正邪にやられた手だったからだ。
約十秒位経った後、正邪の姿をした物の正体が暴かれた。それは私の想像していた通り、人形だった。
「逃げられたわね…」
「ええ…」
人形の置いてあった部屋が外に直接繋がっている造りだったので、そう考えたが、間違い無いだろう。
「結局、報酬が貰えなくなっちゃったわね。誰かが縛るなとか言った所為で」
「う…で、でも!霊夢だって良いって言ってくれたじゃん!」
「あ、あの時はあんたが涙ぐんだ顔してるから……ああもう!言わせるんじゃない!」
「わわわ、怒らないでよ霊夢!」
「煩い!昨日はあんたの我儘に付き会ったんだから、今日は私の言う事聞きなさい!それが礼儀ってもんよ!」
その後は神社と境内の掃除を手伝わされたり、お使いに行かされた。
~~~
正邪が博霊神社から逃げ出して2日後、文々。新聞によると、正邪はあの八雲紫からも逃げ切ったらしい。
その新聞の配布により、正邪を追う妖怪も少なくなったとか。
私は之について、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかは分からない。
でも、そんな有名な妖怪も、昔はたった一人の為に作り笑いをしていたと考えると、どうにも笑えてしまう。
「う…ん?」
聞きなれたその声で目を覚ます。
目を開けると彼女、小名針妙丸の顔があった。
私は飛び起きた。驚いた。態々覗きこまなくても良いじゃないか。
「わっ…あ、正邪お早う!今日も教えてくれるんでしょ?」
「え…?」
私は一瞬何の事か分からなかった。はて、何を約束したか。
そして私が戸惑いの顔をしているのを彼女は分かったらしく、
「もう!正邪ったら忘れちゃったの?幻想郷の詳しい事とかを教えるって昨日言ってたじゃん!」と言った。
…ああ、そう言えばそんな約束をしていたか。
「…あ、そうでしたね、思い出しました。では行きましょうか」
私は彼女を肩に乗せ、いつも通りのルートを飛んで行く。弱小妖怪でも飛ぶくらいなら出来る。
「逆さ城へ」
「―――と言う訳で今幻想郷では小人族等の弱者や言葉を持たぬ道具等が強者によって虐げられているのです」
「そうなの!?鬼の世界の外にも小人族が居るの!?」
「ええ、そして私が今考えている事、それは…」
「それは?」
「…いえ、話すのはもう少し後にして置きましょう」
「えー!?」
「まあまあ、気を落とさずに。姫、丁度良い時間ですし、昼食にしましょうか」
「え?もうそんな時間?時間って経つの速いのね」
全く感情が変わり易い奴だ。
勿論、幻想郷に小人族が居ると言うのは嘘である。が、こうして「自分と同じ種族が別の所でも虐げられている」と言った同情とでも言った感情を与えることで、幻想郷により大きな不満を持たせるのである。
「さて姫、出かける準備は出来ましたか?」
「うん!大丈夫だよ!」
彼女がそう言ったのを確認すると、私は彼女を肩に乗せ食事処へ向かった。
「美味しかったね正邪!」
「しーっ、今話してしまっては見つかってしまいますよ」
鬼の世界と言うのは力こそが全ての世界。勿論そんな社会であれば強者が弱者を虐めるのはあまり見え辛い所で時々行われている。
私も彼女も弱者の中に入るので、強者に目を付けられては溜まったもんじゃない。
それに彼女…小人族は下の下だ。誰に見つかろうと虐げられる可能性が高い。
だから私は彼女と居る事がばれると厄介なのである。自分も巻き添えを喰らってしまうし、彼女が居なくなってしまっては、これまでの努力が水の泡だ。
これ以上外に居るのは得策ではないと思い、私はさっさと逆さ城に戻った。
「打ち出の小槌?」
「ええ、鬼から手に入れた、小人族の宝物です。その小槌に所有者として認められれば、どんな願いも叶えてくれるんですよ」
「へえぇ…小人族にそんな物が…」
「で、ですけども、昔、小人族が全員幻想郷に居た頃。貴方の先祖の願い、『大きな城が欲しい』と言った願いでこの城は出来上がりました」
「ほうほう」
「それと同時にその小槌を欲しがる輩も存在致しました。何せこんな大きな城を作ったのですからね。でも、小槌は欲しがる輩の手に渡っても、直ぐに捨てられました。分かりますか?」
「……打ち出の小槌が、所有者として認めなかったから?」
「正解です!流石姫、物分かりが早い」
「そ、そんな事無いよ…だって私、世間知らずだし…さっきまで、小人族の事なんて全然分からなかったんだから」
あらら、気を落としちゃったよ。
「…確かに貴方は世間を知らなさ過ぎるかもしれない」
「でしょ?」
「でも、今から知っていけば良いんじゃないですか?」
吐き気を抑えてそう言った。相変わらず綺麗事は嫌いだ。
「…そっか、そうだね!有難う!正邪!」
彼女はさっきの言葉で満足したらしく、「パアッ」みたいな擬音が流れて来るほどの笑顔だった。嗚呼、一体どうしたらそう簡単に感情を変えられるのやら。
「…さて、話が逸れてしまいましたね、続きと行きましょうか。小槌が―――」
~~~
正邪がお尋ね者になってから9日目。
今、彼女は博麗神社の中で眠っていた。決して死んでいる訳ではない。
「…ったく、なーんで私がこんな事しなくちゃいけないんだが」
「…ごめんね、霊夢、私の我儘で」
「あー?別に良いわよ。迷惑だと思ってたらあんたの我儘に付きあってなんか無いわよ。さっきのは只の愚痴。聞きたくなかったら耳栓でもすれば良いわよ」
昨日正邪は霊夢によって倒され、捕まり、此処にやって来た。
霊夢曰く「別に捕まえた所で何かしようって訳じゃ無いし、好きにしていいわよ。あんたも被害者なんでしょ?」との事だから、私は霊夢に頼んで、正邪は「正邪が一番楽しかった時の記憶」を見せて貰う事にした。「お人よしね」と言われたが気にしない。
時々「良いですか~?」とか、「分かりましたか~?」とか言っているのを見ると、私の知る限りでは私に色々教えている時の事だと思われる。
「さて、針妙丸、これで良いかしら?」
「うん…まあ、良いよ」
私がそう言うと霊夢は正邪に掛けた術を解いた。
暫くすると、正邪が起き上がった。
「お早う、正邪。良い夢見れた?」
「…十分遅くて最悪な目覚めを有難う。礼はしない」
「…あんたねぇ」
「あ、霊夢…だっけ?目の前に大物が居るのに捕まえないとは随分余裕じゃないですかー?」
「あんたいい加減に…!」
「…ねえ、正邪」
怒りそうな霊夢を私が制する。このまま弾幕に発展しても正邪はアイテムでかわしてしまうと思ったからだ。
「あん?何だよ、姫。礼はしないっつったろ?仇(あだ)なら返すけどよ」
「幻想郷は良い所だよ。確かに弱者を虐める奴もいるかもしれない。でもね、そんな少数より、心優しい人の方が多いんだよ。だから…正邪も反逆なんか止めよう…ね?」
「…」
「急な事で戸惑っていると思うけども、現に私は今が楽しいの。正邪に嘘ばっかり言われて悲しかった時もあるけど、それと同じ位嬉しい事もあった。だから、もし正邪が悲しいって言うなら、一緒に嬉しい事…作ろう?」
ちょっと恥ずかしかったが、本心だ。正邪も一緒に笑って欲しいのが私の願いだから。出来れば、私の傍で。
「…じゃあ言わせてもらうけども…」
「うんうん?」
「残念ながら私にゃそんなのは願い下げだね!面白いじゃないか!何時もは余裕の面見せていた強者サマが!これっぽっちの力も無い私に対して!9個の反則アイテムによって!鼻息荒くするんだからよ!昨日も言ったが私は生まれ持ってのアマノジャク!誰にも従わない!誰にも媚びない!勿論、姫様にもな!」
正邪はそう言うと消えてしまった。恐らく妖怪の賢者から奪ったらしい傘を使ったのだろう。
霊夢も其れに気付いたのか、素早くホーミング機能を持った御札を放つ。
御札は直ぐに命中し、正邪は其処に倒れている。
「……」
霊夢は何も言わないが、私はそれで分かってしまった。私も正邪にやられた手だったからだ。
約十秒位経った後、正邪の姿をした物の正体が暴かれた。それは私の想像していた通り、人形だった。
「逃げられたわね…」
「ええ…」
人形の置いてあった部屋が外に直接繋がっている造りだったので、そう考えたが、間違い無いだろう。
「結局、報酬が貰えなくなっちゃったわね。誰かが縛るなとか言った所為で」
「う…で、でも!霊夢だって良いって言ってくれたじゃん!」
「あ、あの時はあんたが涙ぐんだ顔してるから……ああもう!言わせるんじゃない!」
「わわわ、怒らないでよ霊夢!」
「煩い!昨日はあんたの我儘に付き会ったんだから、今日は私の言う事聞きなさい!それが礼儀ってもんよ!」
その後は神社と境内の掃除を手伝わされたり、お使いに行かされた。
~~~
正邪が博霊神社から逃げ出して2日後、文々。新聞によると、正邪はあの八雲紫からも逃げ切ったらしい。
その新聞の配布により、正邪を追う妖怪も少なくなったとか。
私は之について、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかは分からない。
でも、そんな有名な妖怪も、昔はたった一人の為に作り笑いをしていたと考えると、どうにも笑えてしまう。
ピュアな小人と天邪鬼って、改めて素敵な組み合わせですね
読むの面倒に思った。
つまらない。
ありがとうございます!