沖縄みやげにぬえがくれた黒糖を舐めて墓場の辺りを歩きながら、私は今日大量に見た彼女の顔を数え始めた。
秋が深まる頃のことだ。
日ごとに気温が下がり、空は深度を増していく。
今日などは、あまりに空が深いので地上の音がほとんど吸い込まれてしまったぐらいだ。
おかげで、下駄で墓場の石畳の上を歩いても、ガラスを爪で弾いたような音しか聞こえない。
山に向かってなんとか絞り出した声も鳥の鳴き声のような甲高い音で、それに対して帰ってくる山彦もわななき声のようだった。
こんなに深い空ならば、夜になったらいつもは見えないような遠く暗い星々が幾つも浮かぶに違いない。
もしもぬえがそれらを見たがったら、他の者たちが寝静まった頃に障子を開け彼女の布団を動かし、枕元を縁側に出してやろうと私は思う。
彼女は南の島との気温差にやられて風邪を引き、寺で眠っている。
先程までは私が面倒を見ていたのだが、彼女が寝入ると交代だと言ってマミゾウが私を追い出した。
「こういう日に健康な若い者が屋内に籠っているのはいかん」と彼女は言った。「表で遊んでおいで」
寺を出た私は正面の石畳を足で打ちながら駆け抜けて、その芯が抜き取られたような音に驚き、さてどこに行こうかと考えた。
私はそもそも寺の者ではないので、自分の寝床に戻っても良かったのだが、こんなに気持ちの良い午後をそのように虚ろに過ごすのはほとんど冒涜的ではないかと思われた。
自然と足は人里の方に向いた。
稲刈りも乾燥もあらかた終わっていて、手伝いから解放された馴染みの子供達が集まって遊んでいるに違いなかった。
里へと続く道を、稲が刈り取られて抽象画のようになった水田の脇を通って歩いていくと、すぐにいつもの集団が見つかった。
五人が輪になってみんな内側を向いている。
鬼決めの最中だろうか。
私は彼らを驚かせようと思い、傘を閉じ、しゃがんで物陰に隠れるようにして近づいて行く。
息を潜め、気づかれないまま、一人の背中のすぐ後ろまでなんとか辿りついた。
深く静かに息を吸い、子供の肩を叩きながら腹から大きな声を出す。
「あっ、小傘姉ちゃん」
肩を叩かれたその子はにこにこして振り返る。
私は悲鳴を上げた。
まったく驚いてもらえなかったことではなくて、振り返った彼の顔そのものがショックだった。
なにしろ、彼の顔があるはずのところには、どういうわけかぬえの顔があったのだ。
ぬえの顔でぬえの表情で彼は私ににっこりと笑いかけた。
「わああああああぬえ! わああああああ!」と私は叫んだ。
「なに、どうしたの」とぬえの顔が笑顔のままで訊いた。
他の子供たちが私の大声を聞いて、どうしたどうしたとこちらを向いた。
全員ぬえの顔をしていた。
私はもう一度悲鳴を上げて後ろ向きにひっくり返る。
転んだ私を見て、彼らはぬえの顔をしたまま私の周りを囲んだ。
「なんなのちょっと!」と私は訴えた。
「なんなのって……」と一人のぬえが他の四人を見渡してながら言った。「こっちの台詞だよねえ」
他の四人が頷く。
「何が見えてるわけ?」
「ぬえがいっぱい……」
「ぬえ?」
「妖怪じゃないの、お寺の」
首を傾げた一人に向かって別の一人が言う。
「ああ……」と一人が頷いた。「ところで諸君。僕の顔はどう見える」
「鼻垂れ坊主」と別の一人がすぐさま言った。
「やかましい」と彼は言った。「というわけなんだけど、小傘姉ちゃん、どうですか」
「ぬえに見えます……」
「重症ね」と別のぬえが呆れた表情で言った。
「とりあえず立てる?」
私は誰かの肩を借りて立ち上がった。
実際のところ、子供たちの声は秋の高い空に半分くらいが吸い取られていて、見知った連中なのに誰が誰か聞き分けるのは難しかった。
そのせいで余計にぬえの顔をした子供たちの不気味さが増していた。
彼女たちが私を取り囲んでいる。
眩暈がしそうだった。
「どうするの?」と誰かが言った。「なんでそんなことになったか分かる?」
「特に心当たりはないけど……」と私は弱々しく言った。
「何かやばいものでも食べたんじゃないの」
「どうかな……」と私は言った。
「とりあえず、どこに行きたい? それを決めようよ。里? それとも小傘姉ちゃんの家まで行こうか?」
うーんと私は考えた。
他人の顔が別の人物の顔に見えるだなんてことが起きたのは初めてなので、この症状が一晩寝れば解決するものなのか分からなかった。
また、たとえ次の朝目が覚めて、彼女らの姿が元通りになっていたとしても、その時それで自分自身の納得がいくのかもよく分からない。
納得というのも妙な話なのだが、つまり、原因を充分に突き止められないままにこの出来事に決着がついてしまったら、後で私の心の中に何とも言えないしこりが残るのではないかと思うのだ。
この奇妙な状況にあって、私の心の中には、自分が災難に巻き込まれていることを客観的に面白がりながら眺めている小さな自分がいた。
そいつが私を「今のうちにもっと色々見て回れ」とけしかけるのだ。
「里に連れて行ってくれないかな」と私は言った。
「良いけど……」
「先生に見せれば良いんじゃない?」と誰かが言った。
「それはそうかも」
「お願い」と私は言った。
秋の澄んだ空気の中で、私たちは里へと続く道を歩き出した。
私の後ろには五人のぬえたちがぞろぞろと着いてきていた。
稲を刈られた水田が抽象画のようだったが、今ならそこから何か意味のあるものを読み取れそうだった。
私は少しずつ気分が落ち着いてきていた。
別に子供たちの顔がぬえに見えたからといって、それが何か問題なのだろうか。
嫌いな奴の顔が始終見えるのであればそれは精神衛生上大変よろしくないけれど。
そう考えると随分気が軽くなって、乾いた道の上をずんずん歩いた。
残念ながら、明るい気分は里に入るまでしか続かなかった。
里の道は、美しい秋の一日を表で過ごそうとする健全な人々で満たされていたが、案の定というかなんというか、全員がぬえの顔をしていた。
街ではぬえが歩き、三味線を弾き、店の呼び込みをしている。
不貞腐れて座ったり、忙しく荷物を運んだり、ぼんやりしたりしている。
私は口を開けて呆然と立ち尽くした。
子供たちが心配そうな表情を浮かべて私の正面に回ってきた。
「……どう見える?」
「みんなぬえに見える」と私は言った。
「やっぱりかあ」
「誰に相談する?」
「やっぱり寺子屋に行こうよ」
「ほら、行くよ姉ちゃん」
「え、あ、うん」
子供に手を引かれて私は街を歩いて行く。
引っ張られるようにして進みながらも、私はそこで行われている様々な物事を見た。
たくさんのぬえたちが今日の献立を、今年の作物の出来具合を、祭りで振る舞われる酒をより多く啜る方策を、神輿の担ぎ手の胆力を、話し合っていた。
団子を齧り、金銭の受け渡しをし、下駄の鼻緒を結んでいた。
里の人々の普段の営為が、ぬえの顔を媒介して再構築されていた。
街はなんだかいつもと違って見えた。
それは顔が違うというだけのことではなくて、どういうわけか私は彼らの行動にいつもよりもずっと興味を引かれたのだ。
私は一緒に献立を考えたいと思った。
稲の乾き具合についても、酒についても話したかった。
ひ弱な蕎麦屋の息子が神輿の下で潰されやしないかの談義に加わりたかった。
私は……。
道を考えず、手を引かれるまま歩いていくうちに寺子屋の前に着いた。
子供の一人が戸を開けて教師を呼びに行った。
ややあって、大きな帽子を被ったぬえが出てくる。
彼女は私を中に迎え入れた。
子供たちは勝手知ったる我が家のように、私をぎゅうぎゅう中に押し込む。
七枚の座布団を授業の終わった教室に敷き、私たちを座らせ、自分も座ると彼女は口を開いた。
「お困りだと聞きましたが」
「すみません突然」
「なにがあったんです」
私が答えようとすると子供たちが先を争って説明しだすので、気圧されてしまって彼らに任せた。
先生はうんうんと生徒たちの話を聞いた。
「それは難しいことになったなあ」と彼女は言った。
「先生、何か分かる?」と誰かが訊いた。
「まさか。私は寺子屋の教師だよ。医学はお手上げだ」と彼女は笑って言った。
「どうしよう」
「せっかくだから専門の人に訊いてみようか」と先生は言った。「少しそこで待っていてください」
数分後に先生は籠を背負い、うさぎの耳を生やしたぬえを連れてきた。
彼女は籠を畳に降ろし、先生が出したもう一枚の座布団の上に腰かける。
彼女が品定めをするような目つきでじっと私を見るので、私はぬえに初めて出会った時のことを思い出した。
「薬屋さんです」と先生は私に言った。
「ご紹介に預かりました薬屋さんです」と薬屋はおどけて言った。「それで何? 傘屋さんがなんだか面白いことになってるみたいだけど」
酷い言い様だったが、ぬえの顔で言われると不思議に腹が立たなかった。
私は自分の症状を説明した。
今度は子供たちは大人しくしていた。
知らない相手なのかもしれない。
薬屋はじっと話を聞いて、私が話をし終わった後もしばらく考え込んでいた。
「へえ。なんだろ。相貌失認?」とややあって彼女は言う。
「何って?」
「人の顔が覚えられなくなるのよ」
「いや、ぬえの顔に見えるって話なんだけれど」
「そうだけど。でも、彼女って、少し変わっているでしょう?」
「何が?」
私がそう言うと、彼女は顔をしかめて少し身体を後ろに反らした。
「ちょっと、怒らないでくれる? あなたの相談に乗ってるんだけど」
「ごめんなさい」
「性格がじゃなくって、能力の話。彼女は不定だし、不明だし……私の言ってること分かる?」
「うん」
「言っておくけれどこれは仮説ね。こう考えたら説明がつくかもしれないってこと」
「はい」
「よろしい。もしかするとあなたは今人の顔を認識できない状態にある。私の」と言って彼女は自分の顔を指さした。「目がここにある。鼻が、口が、耳が、ここにある。それをあなたは一つ一つ認識できるけれど、顔ってそういうものじゃないわよね。知ってる人の顔を見た時に、その部品一つ一つを見て誰か判断するなんてことないでしょう? 全体の印象を見るよね」
私は頷いた。
「そうやって人は他人の顔を認識するの。みんなが思っているよりも遥かに複雑な処理を脳は行っている。知らないうちにね。あなただってそうしていたはずだけれど、それが出来なくなった。原因は知らないけれど。あなたの脳は混乱してしまった。他人の顔を見ても誰か分からない、個人として認識することが出来ない。それで……」と彼女は息を吸った。「あなたは他人の顔にぬえを見るようになったんじゃないかな。彼女は一つに定まらないし、ある意味では何者でもない。何者でもないっていうのは逆に、少しバランスが崩れればあらゆるものになるってことでもあるでしょう。どう?」
私は相槌を打つ。
先生も頷きながら聞いていた。
「彼女の存在はある意味では応用が利くのよ。適用範囲が広い。遍在する。言い方は何でも良いけれど……。あなたの脳は今とても混乱していて、だからこそ、安心するために、他人の顔の中にぬえ的なるものを見出して、それを全体の印象に拡張しているんじゃないかな……というのが私の仮説ですが」と言って薬屋は息を吸った。「実際のところは私には何とも言えないな。して欲しいなら催眠術をかけてあげても良いけれど、多分あんまり良い結果にはならないと思うよ。あなたの脳がぬえをアバターとして選んでいるのなら、それがあなたにとってとりあえず今一番良い状態なんじゃないかな。あなたたち仲良いんでしょ?」
「うん」
「ならもうちょっとそのままで経過を見ても良いかもね」と言って彼女はにこりと笑い、先生の方を向いて立ち上がった。「そんな感じですね。すみません、師匠に怒られるからそろそろ帰ります」
先生も慌てて立ち上がる。
「どうも、呼び止めて済まなかった」
「良いです。今後ともご贔屓に」と言って薬屋は脇に置いていた籠を背負い、教室から出て行こうとしたが、出口の前で振り返り、私を見てもう一度口を開いた。「何日もしてやっぱり治らなかったら、その時は一度ちゃんと師匠に診てもらった方が良いかも」
「ありがとう」
「私よりはずっとちゃんとしてるはずだから。それじゃ、お大事に」
ひらりと手を振って薬屋は帰っていった。
先生も玄関まで見送りについて行く。
教室には私と五人の子供たちだけが残った。
「何か分かった?」と誰かが訊いた。
「ありがとう。多分、少し」
「良かったね」
先生が玄関から戻ってきた。
「具合はどうですか」
「相変わらずですが、薬屋さんのお話は助けになりました」
「治すことが出来なくて申し訳ないです」
「まさか。とんでもないです」
私は立ち上がって荷物をまとめた。
「お世話になりました」
「いえいえ。またいらしてください」
子供たちに別れを告げ、寺子屋を辞して、私は通りに出る。
いつの間にか日が傾きかけていた。
風が肌寒い。
私は通りを行き交うたくさんのぬえたちを見た。
薬屋が言うように、私の脳は今ひどく混乱しているのだろうか。
そして、識別することのできない他人の顔にぬえ的なるものを見出しているのだろうか。
私にはやはり誰も彼もが間違いなくぬえにしか見えないのだが……。
しかし、そういう処理を勝手に私の頭が行っているとすれば、それはなかなか粋な計らいなのではないかと思った。
他者の顔を、突起と空洞とが満遍なく配置された単なる肉塊として認識するよりは、友達のそれとして誤認する方が、何というか……ずっと救いがある。
事実、今のこの里は以前のそれよりもずっと私にとって身近なものに感じられた。
里とそこに住まう者たちの行く末を、まるで自分のことのように案じることが出来た。
私はもしかすると、今まで多くのものを見逃していたのではないかと思った。
今、自分は以前より遥かに少ないものしか認識できていないのかもしれないのにも関わらずだ。
ただ……と夕暮れの里の中で私は思う。
そろそろ本物のぬえに会いたい。
たくさんの彼女の贋物を見た後で、本物の彼女の存在は一層貴重に感じられた。
寺に帰ろうと思った。
里から続く道は夕焼けに照らされて、落ちている小石の一つ一つでさえも長い影を伸ばしていた。
私はそれを見て、ぬえが沖縄みやげに黒糖をくれたのを思い出した。
懐から小袋に入ったそれを取り出して舐める。
彼女はマミゾウと南の島に出かけたのだった。
みやげ話もほとんど聞かぬうちに彼女は風邪で寝込んでしまったので、私は沖縄について、今口の中に入っている甘さ以外のことを何も知らなかった。
彼女が治ったら色々訊いてみようと思う。
墓を通り過ぎる。
私は今日何人のぬえと出会っただろう。
明日になっても他の者の顔がすべてぬえに見えたままであったなら、ぬえと他の者との見分けがつかなくなったら、私はどうやって生きていけば良いのだろうか。
私の脳が他者の他者性をぬえに紐づけたままであったとして、それをぬえはどう思うだろう。
許してくれるだろうか。
今まで通りに私と接してくれるだろうか。
私には何とも分からなかった。
寺の中は灯りがついていた。
私は玄関の扉を開ける。
マミゾウが立っていた。
「おかえり」と彼女は言った。
「ただいま」と私は言った。「ぬえは?」
「さっき起きたところじゃ。顔を見せてやってくれんか」
「もちろん」
私は何かおかしいなと思った。
下駄を揃えて玄関の石畳の上に置いて、寺に上がった。
マミゾウについて廊下を歩いていく。
中程まで行って、それに気づいた。
「ねえ」
「なんじゃ」
「あんたのせい?」
マミゾウは立ち止まってゆっくりと振り向いた。
「そうじゃ」
「そっか」
「怒っているかの?」
「どうかな」
彼女は私の表情を読み取ろうと少し顔を近づけた。
その顔は紛れもなく、二ッ岩マミゾウのものだった。
ぬえの顔ではない。
「あんたが幻術をかけて……」
「そうじゃ」
「何か理由があるんだろうね? もちろん」
「うむ」
「うむじゃない」
「いや、まことに申し訳ない」と言って彼女は頭を下げた。
「それで?」
「あー……つまりな。お前さんがその……術にかかっている間、何が見えた?」
「ぬえ」
「そうかそうか……」と言ってマミゾウは頷いた。「それは良かった」
「良くない」
「いや、そうじゃな……まっこと良くない。良くないのじゃが……」
「いい加減怒るよ」
「すまん。つまりな……儂らは沖縄に行ったな。そのことは知ってるじゃろ」
「うん」
「行く前にぬえがお前さんにその話をした時にな。ぬえはどうも、お前さんが一緒に来てくれると思うておったみたいなんじゃ」
「え?」
「そういう反応じゃろうと思うとった。あの子はいつでもああして、あー……分かりにくいところがあるでな」
「うーん」
「沖縄でもまあ……時々塞いどった。どうしてかと訊くと、黙っておる。沖縄は気に食わんかと訊いても首を横に振る。酔わせてみるとそういうことを言いおった。これはどうにかしてやらんとな、と儂は思った」
「あー……」
「お前さんを害しようというわけではなかった。申し訳ないことをしたのも確かじゃが……」
「どういう術をかけたの」
「人の顔が分からなくなる。そして、うまくいけば、つまりお前さんがぬえを気にかけているなら、間違いなくあの子の顔がその空白に顕れると儂は思うとった」
私は鼻を鳴らした。
もしかすると少しだけ照れが混じっていて、それが読み取られないように私は顔を背けた。
「で、それをあんたが知ってどうするの」
「いや、こういう結果だったからにはもう、何もすることはないじゃろ」と言ってマミゾウはにやりと笑った。「今後とも仲良くしてやってくれ」
「あんた反省してるわけ」
「悪いとは思うとるが、反省はしておらん」
私は舌打ちをして彼女を小突いて、彼女を廊下に置き去りにしてずんずん進んだ。
彼女はもちろん着いてこなかった。
ぬえがいる部屋の前に辿り着く。
さて、どうしてやろうか。
私はゆっくりと息を吸った。
あの、いくじなしめ……。
どんな顔をして部屋に入ってやろうかと少しだけ悩む。
彼女の顔を今日たくさん見たけれど、この部屋の中で今彼女がどんな顔をしているのかはもちろん全然分からない。
そして多分、結局はそれだけが私にとって価値のあることなのだ。
そう思うと少しおかしい。
吹き出した後で、ああ、この表情を彼女には見せたいな、と思って、私は急いで襖に手をかけた。
秋が深まる頃のことだ。
日ごとに気温が下がり、空は深度を増していく。
今日などは、あまりに空が深いので地上の音がほとんど吸い込まれてしまったぐらいだ。
おかげで、下駄で墓場の石畳の上を歩いても、ガラスを爪で弾いたような音しか聞こえない。
山に向かってなんとか絞り出した声も鳥の鳴き声のような甲高い音で、それに対して帰ってくる山彦もわななき声のようだった。
こんなに深い空ならば、夜になったらいつもは見えないような遠く暗い星々が幾つも浮かぶに違いない。
もしもぬえがそれらを見たがったら、他の者たちが寝静まった頃に障子を開け彼女の布団を動かし、枕元を縁側に出してやろうと私は思う。
彼女は南の島との気温差にやられて風邪を引き、寺で眠っている。
先程までは私が面倒を見ていたのだが、彼女が寝入ると交代だと言ってマミゾウが私を追い出した。
「こういう日に健康な若い者が屋内に籠っているのはいかん」と彼女は言った。「表で遊んでおいで」
寺を出た私は正面の石畳を足で打ちながら駆け抜けて、その芯が抜き取られたような音に驚き、さてどこに行こうかと考えた。
私はそもそも寺の者ではないので、自分の寝床に戻っても良かったのだが、こんなに気持ちの良い午後をそのように虚ろに過ごすのはほとんど冒涜的ではないかと思われた。
自然と足は人里の方に向いた。
稲刈りも乾燥もあらかた終わっていて、手伝いから解放された馴染みの子供達が集まって遊んでいるに違いなかった。
里へと続く道を、稲が刈り取られて抽象画のようになった水田の脇を通って歩いていくと、すぐにいつもの集団が見つかった。
五人が輪になってみんな内側を向いている。
鬼決めの最中だろうか。
私は彼らを驚かせようと思い、傘を閉じ、しゃがんで物陰に隠れるようにして近づいて行く。
息を潜め、気づかれないまま、一人の背中のすぐ後ろまでなんとか辿りついた。
深く静かに息を吸い、子供の肩を叩きながら腹から大きな声を出す。
「あっ、小傘姉ちゃん」
肩を叩かれたその子はにこにこして振り返る。
私は悲鳴を上げた。
まったく驚いてもらえなかったことではなくて、振り返った彼の顔そのものがショックだった。
なにしろ、彼の顔があるはずのところには、どういうわけかぬえの顔があったのだ。
ぬえの顔でぬえの表情で彼は私ににっこりと笑いかけた。
「わああああああぬえ! わああああああ!」と私は叫んだ。
「なに、どうしたの」とぬえの顔が笑顔のままで訊いた。
他の子供たちが私の大声を聞いて、どうしたどうしたとこちらを向いた。
全員ぬえの顔をしていた。
私はもう一度悲鳴を上げて後ろ向きにひっくり返る。
転んだ私を見て、彼らはぬえの顔をしたまま私の周りを囲んだ。
「なんなのちょっと!」と私は訴えた。
「なんなのって……」と一人のぬえが他の四人を見渡してながら言った。「こっちの台詞だよねえ」
他の四人が頷く。
「何が見えてるわけ?」
「ぬえがいっぱい……」
「ぬえ?」
「妖怪じゃないの、お寺の」
首を傾げた一人に向かって別の一人が言う。
「ああ……」と一人が頷いた。「ところで諸君。僕の顔はどう見える」
「鼻垂れ坊主」と別の一人がすぐさま言った。
「やかましい」と彼は言った。「というわけなんだけど、小傘姉ちゃん、どうですか」
「ぬえに見えます……」
「重症ね」と別のぬえが呆れた表情で言った。
「とりあえず立てる?」
私は誰かの肩を借りて立ち上がった。
実際のところ、子供たちの声は秋の高い空に半分くらいが吸い取られていて、見知った連中なのに誰が誰か聞き分けるのは難しかった。
そのせいで余計にぬえの顔をした子供たちの不気味さが増していた。
彼女たちが私を取り囲んでいる。
眩暈がしそうだった。
「どうするの?」と誰かが言った。「なんでそんなことになったか分かる?」
「特に心当たりはないけど……」と私は弱々しく言った。
「何かやばいものでも食べたんじゃないの」
「どうかな……」と私は言った。
「とりあえず、どこに行きたい? それを決めようよ。里? それとも小傘姉ちゃんの家まで行こうか?」
うーんと私は考えた。
他人の顔が別の人物の顔に見えるだなんてことが起きたのは初めてなので、この症状が一晩寝れば解決するものなのか分からなかった。
また、たとえ次の朝目が覚めて、彼女らの姿が元通りになっていたとしても、その時それで自分自身の納得がいくのかもよく分からない。
納得というのも妙な話なのだが、つまり、原因を充分に突き止められないままにこの出来事に決着がついてしまったら、後で私の心の中に何とも言えないしこりが残るのではないかと思うのだ。
この奇妙な状況にあって、私の心の中には、自分が災難に巻き込まれていることを客観的に面白がりながら眺めている小さな自分がいた。
そいつが私を「今のうちにもっと色々見て回れ」とけしかけるのだ。
「里に連れて行ってくれないかな」と私は言った。
「良いけど……」
「先生に見せれば良いんじゃない?」と誰かが言った。
「それはそうかも」
「お願い」と私は言った。
秋の澄んだ空気の中で、私たちは里へと続く道を歩き出した。
私の後ろには五人のぬえたちがぞろぞろと着いてきていた。
稲を刈られた水田が抽象画のようだったが、今ならそこから何か意味のあるものを読み取れそうだった。
私は少しずつ気分が落ち着いてきていた。
別に子供たちの顔がぬえに見えたからといって、それが何か問題なのだろうか。
嫌いな奴の顔が始終見えるのであればそれは精神衛生上大変よろしくないけれど。
そう考えると随分気が軽くなって、乾いた道の上をずんずん歩いた。
残念ながら、明るい気分は里に入るまでしか続かなかった。
里の道は、美しい秋の一日を表で過ごそうとする健全な人々で満たされていたが、案の定というかなんというか、全員がぬえの顔をしていた。
街ではぬえが歩き、三味線を弾き、店の呼び込みをしている。
不貞腐れて座ったり、忙しく荷物を運んだり、ぼんやりしたりしている。
私は口を開けて呆然と立ち尽くした。
子供たちが心配そうな表情を浮かべて私の正面に回ってきた。
「……どう見える?」
「みんなぬえに見える」と私は言った。
「やっぱりかあ」
「誰に相談する?」
「やっぱり寺子屋に行こうよ」
「ほら、行くよ姉ちゃん」
「え、あ、うん」
子供に手を引かれて私は街を歩いて行く。
引っ張られるようにして進みながらも、私はそこで行われている様々な物事を見た。
たくさんのぬえたちが今日の献立を、今年の作物の出来具合を、祭りで振る舞われる酒をより多く啜る方策を、神輿の担ぎ手の胆力を、話し合っていた。
団子を齧り、金銭の受け渡しをし、下駄の鼻緒を結んでいた。
里の人々の普段の営為が、ぬえの顔を媒介して再構築されていた。
街はなんだかいつもと違って見えた。
それは顔が違うというだけのことではなくて、どういうわけか私は彼らの行動にいつもよりもずっと興味を引かれたのだ。
私は一緒に献立を考えたいと思った。
稲の乾き具合についても、酒についても話したかった。
ひ弱な蕎麦屋の息子が神輿の下で潰されやしないかの談義に加わりたかった。
私は……。
道を考えず、手を引かれるまま歩いていくうちに寺子屋の前に着いた。
子供の一人が戸を開けて教師を呼びに行った。
ややあって、大きな帽子を被ったぬえが出てくる。
彼女は私を中に迎え入れた。
子供たちは勝手知ったる我が家のように、私をぎゅうぎゅう中に押し込む。
七枚の座布団を授業の終わった教室に敷き、私たちを座らせ、自分も座ると彼女は口を開いた。
「お困りだと聞きましたが」
「すみません突然」
「なにがあったんです」
私が答えようとすると子供たちが先を争って説明しだすので、気圧されてしまって彼らに任せた。
先生はうんうんと生徒たちの話を聞いた。
「それは難しいことになったなあ」と彼女は言った。
「先生、何か分かる?」と誰かが訊いた。
「まさか。私は寺子屋の教師だよ。医学はお手上げだ」と彼女は笑って言った。
「どうしよう」
「せっかくだから専門の人に訊いてみようか」と先生は言った。「少しそこで待っていてください」
数分後に先生は籠を背負い、うさぎの耳を生やしたぬえを連れてきた。
彼女は籠を畳に降ろし、先生が出したもう一枚の座布団の上に腰かける。
彼女が品定めをするような目つきでじっと私を見るので、私はぬえに初めて出会った時のことを思い出した。
「薬屋さんです」と先生は私に言った。
「ご紹介に預かりました薬屋さんです」と薬屋はおどけて言った。「それで何? 傘屋さんがなんだか面白いことになってるみたいだけど」
酷い言い様だったが、ぬえの顔で言われると不思議に腹が立たなかった。
私は自分の症状を説明した。
今度は子供たちは大人しくしていた。
知らない相手なのかもしれない。
薬屋はじっと話を聞いて、私が話をし終わった後もしばらく考え込んでいた。
「へえ。なんだろ。相貌失認?」とややあって彼女は言う。
「何って?」
「人の顔が覚えられなくなるのよ」
「いや、ぬえの顔に見えるって話なんだけれど」
「そうだけど。でも、彼女って、少し変わっているでしょう?」
「何が?」
私がそう言うと、彼女は顔をしかめて少し身体を後ろに反らした。
「ちょっと、怒らないでくれる? あなたの相談に乗ってるんだけど」
「ごめんなさい」
「性格がじゃなくって、能力の話。彼女は不定だし、不明だし……私の言ってること分かる?」
「うん」
「言っておくけれどこれは仮説ね。こう考えたら説明がつくかもしれないってこと」
「はい」
「よろしい。もしかするとあなたは今人の顔を認識できない状態にある。私の」と言って彼女は自分の顔を指さした。「目がここにある。鼻が、口が、耳が、ここにある。それをあなたは一つ一つ認識できるけれど、顔ってそういうものじゃないわよね。知ってる人の顔を見た時に、その部品一つ一つを見て誰か判断するなんてことないでしょう? 全体の印象を見るよね」
私は頷いた。
「そうやって人は他人の顔を認識するの。みんなが思っているよりも遥かに複雑な処理を脳は行っている。知らないうちにね。あなただってそうしていたはずだけれど、それが出来なくなった。原因は知らないけれど。あなたの脳は混乱してしまった。他人の顔を見ても誰か分からない、個人として認識することが出来ない。それで……」と彼女は息を吸った。「あなたは他人の顔にぬえを見るようになったんじゃないかな。彼女は一つに定まらないし、ある意味では何者でもない。何者でもないっていうのは逆に、少しバランスが崩れればあらゆるものになるってことでもあるでしょう。どう?」
私は相槌を打つ。
先生も頷きながら聞いていた。
「彼女の存在はある意味では応用が利くのよ。適用範囲が広い。遍在する。言い方は何でも良いけれど……。あなたの脳は今とても混乱していて、だからこそ、安心するために、他人の顔の中にぬえ的なるものを見出して、それを全体の印象に拡張しているんじゃないかな……というのが私の仮説ですが」と言って薬屋は息を吸った。「実際のところは私には何とも言えないな。して欲しいなら催眠術をかけてあげても良いけれど、多分あんまり良い結果にはならないと思うよ。あなたの脳がぬえをアバターとして選んでいるのなら、それがあなたにとってとりあえず今一番良い状態なんじゃないかな。あなたたち仲良いんでしょ?」
「うん」
「ならもうちょっとそのままで経過を見ても良いかもね」と言って彼女はにこりと笑い、先生の方を向いて立ち上がった。「そんな感じですね。すみません、師匠に怒られるからそろそろ帰ります」
先生も慌てて立ち上がる。
「どうも、呼び止めて済まなかった」
「良いです。今後ともご贔屓に」と言って薬屋は脇に置いていた籠を背負い、教室から出て行こうとしたが、出口の前で振り返り、私を見てもう一度口を開いた。「何日もしてやっぱり治らなかったら、その時は一度ちゃんと師匠に診てもらった方が良いかも」
「ありがとう」
「私よりはずっとちゃんとしてるはずだから。それじゃ、お大事に」
ひらりと手を振って薬屋は帰っていった。
先生も玄関まで見送りについて行く。
教室には私と五人の子供たちだけが残った。
「何か分かった?」と誰かが訊いた。
「ありがとう。多分、少し」
「良かったね」
先生が玄関から戻ってきた。
「具合はどうですか」
「相変わらずですが、薬屋さんのお話は助けになりました」
「治すことが出来なくて申し訳ないです」
「まさか。とんでもないです」
私は立ち上がって荷物をまとめた。
「お世話になりました」
「いえいえ。またいらしてください」
子供たちに別れを告げ、寺子屋を辞して、私は通りに出る。
いつの間にか日が傾きかけていた。
風が肌寒い。
私は通りを行き交うたくさんのぬえたちを見た。
薬屋が言うように、私の脳は今ひどく混乱しているのだろうか。
そして、識別することのできない他人の顔にぬえ的なるものを見出しているのだろうか。
私にはやはり誰も彼もが間違いなくぬえにしか見えないのだが……。
しかし、そういう処理を勝手に私の頭が行っているとすれば、それはなかなか粋な計らいなのではないかと思った。
他者の顔を、突起と空洞とが満遍なく配置された単なる肉塊として認識するよりは、友達のそれとして誤認する方が、何というか……ずっと救いがある。
事実、今のこの里は以前のそれよりもずっと私にとって身近なものに感じられた。
里とそこに住まう者たちの行く末を、まるで自分のことのように案じることが出来た。
私はもしかすると、今まで多くのものを見逃していたのではないかと思った。
今、自分は以前より遥かに少ないものしか認識できていないのかもしれないのにも関わらずだ。
ただ……と夕暮れの里の中で私は思う。
そろそろ本物のぬえに会いたい。
たくさんの彼女の贋物を見た後で、本物の彼女の存在は一層貴重に感じられた。
寺に帰ろうと思った。
里から続く道は夕焼けに照らされて、落ちている小石の一つ一つでさえも長い影を伸ばしていた。
私はそれを見て、ぬえが沖縄みやげに黒糖をくれたのを思い出した。
懐から小袋に入ったそれを取り出して舐める。
彼女はマミゾウと南の島に出かけたのだった。
みやげ話もほとんど聞かぬうちに彼女は風邪で寝込んでしまったので、私は沖縄について、今口の中に入っている甘さ以外のことを何も知らなかった。
彼女が治ったら色々訊いてみようと思う。
墓を通り過ぎる。
私は今日何人のぬえと出会っただろう。
明日になっても他の者の顔がすべてぬえに見えたままであったなら、ぬえと他の者との見分けがつかなくなったら、私はどうやって生きていけば良いのだろうか。
私の脳が他者の他者性をぬえに紐づけたままであったとして、それをぬえはどう思うだろう。
許してくれるだろうか。
今まで通りに私と接してくれるだろうか。
私には何とも分からなかった。
寺の中は灯りがついていた。
私は玄関の扉を開ける。
マミゾウが立っていた。
「おかえり」と彼女は言った。
「ただいま」と私は言った。「ぬえは?」
「さっき起きたところじゃ。顔を見せてやってくれんか」
「もちろん」
私は何かおかしいなと思った。
下駄を揃えて玄関の石畳の上に置いて、寺に上がった。
マミゾウについて廊下を歩いていく。
中程まで行って、それに気づいた。
「ねえ」
「なんじゃ」
「あんたのせい?」
マミゾウは立ち止まってゆっくりと振り向いた。
「そうじゃ」
「そっか」
「怒っているかの?」
「どうかな」
彼女は私の表情を読み取ろうと少し顔を近づけた。
その顔は紛れもなく、二ッ岩マミゾウのものだった。
ぬえの顔ではない。
「あんたが幻術をかけて……」
「そうじゃ」
「何か理由があるんだろうね? もちろん」
「うむ」
「うむじゃない」
「いや、まことに申し訳ない」と言って彼女は頭を下げた。
「それで?」
「あー……つまりな。お前さんがその……術にかかっている間、何が見えた?」
「ぬえ」
「そうかそうか……」と言ってマミゾウは頷いた。「それは良かった」
「良くない」
「いや、そうじゃな……まっこと良くない。良くないのじゃが……」
「いい加減怒るよ」
「すまん。つまりな……儂らは沖縄に行ったな。そのことは知ってるじゃろ」
「うん」
「行く前にぬえがお前さんにその話をした時にな。ぬえはどうも、お前さんが一緒に来てくれると思うておったみたいなんじゃ」
「え?」
「そういう反応じゃろうと思うとった。あの子はいつでもああして、あー……分かりにくいところがあるでな」
「うーん」
「沖縄でもまあ……時々塞いどった。どうしてかと訊くと、黙っておる。沖縄は気に食わんかと訊いても首を横に振る。酔わせてみるとそういうことを言いおった。これはどうにかしてやらんとな、と儂は思った」
「あー……」
「お前さんを害しようというわけではなかった。申し訳ないことをしたのも確かじゃが……」
「どういう術をかけたの」
「人の顔が分からなくなる。そして、うまくいけば、つまりお前さんがぬえを気にかけているなら、間違いなくあの子の顔がその空白に顕れると儂は思うとった」
私は鼻を鳴らした。
もしかすると少しだけ照れが混じっていて、それが読み取られないように私は顔を背けた。
「で、それをあんたが知ってどうするの」
「いや、こういう結果だったからにはもう、何もすることはないじゃろ」と言ってマミゾウはにやりと笑った。「今後とも仲良くしてやってくれ」
「あんた反省してるわけ」
「悪いとは思うとるが、反省はしておらん」
私は舌打ちをして彼女を小突いて、彼女を廊下に置き去りにしてずんずん進んだ。
彼女はもちろん着いてこなかった。
ぬえがいる部屋の前に辿り着く。
さて、どうしてやろうか。
私はゆっくりと息を吸った。
あの、いくじなしめ……。
どんな顔をして部屋に入ってやろうかと少しだけ悩む。
彼女の顔を今日たくさん見たけれど、この部屋の中で今彼女がどんな顔をしているのかはもちろん全然分からない。
そして多分、結局はそれだけが私にとって価値のあることなのだ。
そう思うと少しおかしい。
吹き出した後で、ああ、この表情を彼女には見せたいな、と思って、私は急いで襖に手をかけた。
本物のぬえは一度も登場していないのに、
実際に登場するよりも遥かに可愛らしさを覚えるなんて。
よかったです
小傘の時折見せる人を裏切らない凛とした表情は頼もしい。心根は強いよね彼女
これはよいお話でした
出てきているようで出てこないぬえの気持ちが心地よいです
ラスト一行の暖かさが心に残ります。
切り口が非常に面白い、というだけにとどまらないのが良いですね。
冒頭の「今日大量に見た彼女の顔を~」で、まず読者に「?」と思わせる。
また最初にマミゾウさんを登場させておいて、伏線もしっかりはっておく。
短いながら、学ぶべきものが多いSSだと感じました。
ぬえの弱さと、小傘の芯の強さがうまく表れていると思いました。