ここ何日か雪が降り続いたから、外にどっさりと白いのが積もった。それは見る分には綺麗だけれど、触れば冷たい上に沢山あるから実に邪魔くさい。私の住むボロ小屋の屋根にも随分と乗っかって、上から私を押しつぶそうとしていたから、朝方シャベルで全部下に落としてやった。作業を終えるまでにだいぶ動いたから体がぽかぽかした。降ってくる時はふわふわしているくせに、落ちきってひと塊になると重くなるのだから迷惑な話である。
私は雪だらけの中を出歩きたくないから、独り火鉢を抱え込んで屋内に閉じこもっている。冷え切った家の中で火鉢の周りだけが暖かい。灰にまみれた鉢の中で炭が赤くなっていて、それが何やら頼もしげに見えた。一つ息をついて窓の外を見たら、ちらちらちらちら雪が降っていた。
そうして小さな火で寂しく温もっていると、締め切った家の戸が外側からとんとんと叩かれた。来客である。私は火鉢の傍を離れたくなかったから、座ったまま膝を擦ったり火鉢に炭を継ぎ足したりして渋った。すると催促するような調子で、またとんとんと音が聞こえた。しょうがないから私は立って、火鉢をまたいで音のする方へと向かった。戸の外にいたのはやっぱり友達のこころであった。
こころは「寒い寒い」と言って震えている。能面のような顔をしながら歯をかちかちと鳴らしているから、何やらそういった仕組みのおもちゃのように見えた。私はその様子が可哀想に思われたから、彼女の手を引いて火鉢のそばに座らせてやった。触れた手は鉄のように冷たかった。
腰を据えた後も彼女は寒そうして、ぶるぶると小刻みに振動している。それでなおのこと可哀想に見える。私は火鉢に手をかざしながら哀れに思ったけれど、こころが厚かましくもこちらの手を追放してまで火鉢を独占しようとしだしたから、頭につけた能面を引っ張って邪魔してやった。こころは「やーめーろー」と鬱陶しそうにするが、頑として火鉢から離れようとしない。このボロ小屋に来るまでによっぽど寒い思いをしたに違いない。しょうがないから今回は譲ってやることにした。
私は手を擦り合わせながらこころに話しかけた。
「こんな寒い中、こんな寒いあばら家に遊びに来るなんて、あんたも物好きねぇ」
「私はばんきっきが心配で来たの。部屋の中で寂しく凍え死んでないかって」
「そんなことになるのは防寒を怠るような馬鹿だけよ」
「でもばんきっき馬鹿だし」
「なんだとこの野郎」
人を馬鹿だと決めつけて澄ましているこころの頬を、冷め切った両手で挟み込んでやった。こころは「冷たい!」と手足をばたつかせたが、放す気はない。『口は災いの元』というこの世の真理を、世間知らずな友達に教え込んでやろうと思う。
ひとしきりこころの頬を冷却した後、満足したから両手を放して解放してやった。彼女は姥の面を頭に引っ掛けながら「しくしく……ばんきっきの意地悪」と無表情で悲しげにしている。人の同情を誘うような様子だけれど、私からすれば全くの自業自得なので取り合わない。火鉢を後生大事に抱え込むこころを押しのけて寒い手を温めた。もう寒くはなかろう。退くがいい。
「ところでばんきっき」と押しのけられたこころが言った。「雪合戦というものを知っているか」
「ああ、あの寒いなか冷たい雪をぶつけあうという意味不明な遊びね」
「やってみたいのだが、どうだろうか」
「駄目。寒い」
「そこをなんとか」
「駄目ったら駄目」
「いいのか? やってくれないとこの狭い中で薙刀を振り回すぞ?」
「直球の脅しに出たわね……」
「さあばんきっき、私と雪玉を投げ合って魂の対話をしよう!」
「何を言っているのかよく分からないけど、取り合えず雪合戦はしてあげる。暴れられると困るし」
「わぁい」
こんな会話をした後に外へ出た。出る前にこころが火鉢を名残惜しそうに見ていたので、中にある暖かそうな炭にしこたま灰をかぶせて埋めてやったら、「貴様には血も涙もないのか!」と罵声を浴びせられた。火の始末をしただけですごい言われようである。
ぎゃいぎゃいと喚く面霊気をあしらいながら外を歩いた。まだちらちらと雪が降っている。雪が降るくらいだから当然空は晴れておらず、汚い色をした雲が向こうの方までかぶさっている。道に積もった雪は脇に寄せられて、一応歩くぶんには困らない。多分何人かの人間が協力してどけたのだろう。私は名前も知らぬ作業者たちを「ご苦労さま」と胸中で労っておいた。
歩いていると正面から風が吹いてずいぶん寒い。吹くたびに思わず身震いがする。隣を歩いているこころも寒そうにして、苦し紛れに能面をつけて顔の防寒を試みている。その様子がなんとも間抜けで面白い。私はにやにや笑いながら、風で流されそうになる座りの悪い首を抑えた。
寒い風を浴びながらしばらく歩いていくうちに人間の里を外れ、何もないだだっ広いところに出た。何もないから無闇に雪ばかり積もっている。白いのが一面に延びているから、地べたに真新しい巨大な紙を敷いているかのように見える。こころはその紙の上を闊歩して、くっきり残る足跡に目を向け、きゃっきゃと無邪気に喜んでいる。私も地面をへこませながらこころの跡に続いた。
白い平面をひとしきり蹂躙してから、いよいよこころとの雪合戦が始まった。規則も時間制限も何もない。ただこころが満足するまで、お互いに死力を尽くして雪玉をぶつけ合うというだけである。私は最初乗る気ではなかったのだけれど、いざやるとなったからにはどうしても勝ちたい。本気でやろうと思う。
私は手早く二つの雪玉をこしらえ、少し先に立っている友達に向けて投げつけた。彼女は飛んでくる二つを舞うような動きで避けた。そして避けた勢いのまま地面から雪をひっつかみ、二三度握ってからこちらへと投擲した。それはすごい勢いですっ飛んできて、私の額にぶつかった。衝撃で首が落っこちて、額がじんじん痛んだ。泣きそうである。
こころは自我を持ってから日が浅いとはいえ、その力は幻想郷でも上位に数えられるほど強い。私の首を撃ち落として喜んでいる姿を見ていても、由緒ある付喪神などとは到底思われないが、強いのは紛れもない事実である。それに対して私は人に紛れて慎ましく暮らす弱小妖怪で、できることは首を飛ばすことと首を増やすことくらい。力量では到底こころに抵抗できない。私は己の迂闊さを呪った。このままでは一方的に雪玉を叩きつけられるだけである。
首を拾った私はこころに勝つのを諦め、なんとか雪合戦をやめる方向に持っていこうとした。口先で丸め込んでやろうという算段である。
「こころ!」
「うん? 何だいばんきっき」
「雪合戦より面白い遊びがあるんだけど、やりたくない?」
「やりたいに決まっている!」
「なんでちょっと怒ってるのよ……まあいいわ。今から新しい遊びを教えるから、その両手に持ってる硬そうな雪玉を捨てなさい」
「うん」
あっさりと危機を脱した。こころが単純で助かったけれど、結果だけ見ると私の敵前逃亡であるから素直に喜べない。また今度意趣返しをしようと思う。
その後は雪だるまを二人がかりで作った。私は頭、こころは胴体を担当した。しばらくは二人共、無言のまま一心不乱に雪玉を転がした。雪玉の通ったあとには凹んだ筋が残り、その筋の上に小さな足跡が続いた。遠くの方で鳥の鳴き声がした。
私は必死に転がして出来た成果を携えて、雪玉を大きくしているこころと合流した。彼女の雪玉は私のものよりも一回り大きく、いい具合に胴体の役目を果たしそうに見える。早速二つの雪玉をくっつけてみた。慣れない作業をした甲斐あって、雪だるまの体が立派に出来上がった。こころが横で「万歳! 万歳!」と大げさに喜んでいる。私も小さく「やった」と言って喜んだ。柄にもなく高揚した心持ちになった。
体が完成したから、次は手やら顔やらに取り掛かった。手はそのへんに落ちていた枯れ枝を適当に刺して終いにしたが、問題は顔である。最初こころは「これでいい?」と言って、自前の般若面を顔面に起用しようとしていたが、見た目がすこぶる悪くなるからやめさせた。やめさせたら「じゃあこれ?」と鬼神の面を持ち出してくる。私はこころに雪だるまの顔面を任せられないと判断した。
「こころはそのへんで遊んできなさい」
「納得のいく説明をしてもらおうか」
「こころに顔を任せる、変な能面を使おうとする、雪だるまの仕上がりが気持ち悪くなる、OK?」
「お面かわいいよ?」
「感性がおかしい」
「ぶー、ばんきっきの馬鹿、阿呆、首なしマント!」
「五月蝿いぞ能面」
ぶーぶー文句を垂れる友達の足を払ってやったら、顔から積雪に突っ込んで、そのままぴくりとも動かなくなった。五月蝿いのが静かになったから、その間にそこらに落ちていた石ころや葉っぱを使って簡単な顔を作った。これでめでたく雪だるまは完成である。
満足して作ったものを眺めていると、雪に埋もれていたこころがやっと立ち上がって「何をするか!」と怒りを露わにした。般若の面をかぶって本式に怒っているから、「ごめんごめん」と心を込めて謝ってやった。そうして謝罪すると、こころは「分かればいいよ、ふんす」と偉そうに鼻息を吹いた。また雪原に蹴倒したくなったが、自制心を働かせて何とか我慢した。友達をいじめてはいけない。
雪だるまを作って手が空いたから、今度はかまくらをこしらえた。そこらじゅうにある雪を、ひたすらひとところに固めて山を作り、そして中をくりぬいて出来上がりである。空洞を作るとき素手だと冷たいから、こころの出した薙刀を用いて掘った。かまくらは無事に仕上がったけれど、暖房も何もないからただ寒いばかりで、あまり面白くない。こころが「寒いじゃないか」と言って、内側からぺちぺち叩いて不平を訴えた。私はそれを見て「危ない、崩れたらどうするの」と言いかけたが、話半ばで上からどっと崩れて、二人仲良く生き埋めになった。重いし冷たい。散々である。
私は雪から這い出たあと、寒さに震えるこころを積雪の上に座らせて、少しばかり説教をした。そうして説教をしながら、「こころはやっぱり馬鹿なのかもしれないな」と思った。
遠くの方から、また鳥の鳴き声が聞こえてきた。
遊び疲れたから私のボロ小屋に帰ってきた。雪と戯れたおかげで私とこころは芯から冷たくなったから、すぐに火鉢の取り合いになった。首と能面が飛び交うひどい戦いが続き、そうやって動いているうちに体が火照ってきて、結果火鉢がお役御免になってしまった。喧嘩の原因がなくなったのだから二人とも頭を下げあって、それで手打ちにした。友達とはこういうものなのかもしれないなと思う。
「今日は楽しかったね」
「私は疲れたし寒いしで散々だったわ。雪玉を叩きつけられて頭が割れるかと思った」
「雪合戦だからそれが当たり前じゃないの?」
「手加減を知りなさい。あんたと私じゃ格が違うんだから」
「私とばんきっきは対等だよ、対等な友達」こころが楽しげな声で言った。「これからもずっとずっと」
私は何やら心が温かくなり、どうしようもなく嬉しいといったような気になった。でもそれを向こうに察知されると恥ずかしいから、わざと渋面を作って「馬鹿なくせに一丁前のことを言うわね」と憎まれ口を叩いた。するとこころは若女の面をかぶって、「ばんきっき、嬉しいの?」と尋ねてきた。どうやら誤魔化せなかったらしい。
照れ隠しに窓の外を見ると、ちらちらちらちら雪が降っていた。それで今日の雪遊びを思い出した。明日もこころと遊ぼうと思った。
私は雪だらけの中を出歩きたくないから、独り火鉢を抱え込んで屋内に閉じこもっている。冷え切った家の中で火鉢の周りだけが暖かい。灰にまみれた鉢の中で炭が赤くなっていて、それが何やら頼もしげに見えた。一つ息をついて窓の外を見たら、ちらちらちらちら雪が降っていた。
そうして小さな火で寂しく温もっていると、締め切った家の戸が外側からとんとんと叩かれた。来客である。私は火鉢の傍を離れたくなかったから、座ったまま膝を擦ったり火鉢に炭を継ぎ足したりして渋った。すると催促するような調子で、またとんとんと音が聞こえた。しょうがないから私は立って、火鉢をまたいで音のする方へと向かった。戸の外にいたのはやっぱり友達のこころであった。
こころは「寒い寒い」と言って震えている。能面のような顔をしながら歯をかちかちと鳴らしているから、何やらそういった仕組みのおもちゃのように見えた。私はその様子が可哀想に思われたから、彼女の手を引いて火鉢のそばに座らせてやった。触れた手は鉄のように冷たかった。
腰を据えた後も彼女は寒そうして、ぶるぶると小刻みに振動している。それでなおのこと可哀想に見える。私は火鉢に手をかざしながら哀れに思ったけれど、こころが厚かましくもこちらの手を追放してまで火鉢を独占しようとしだしたから、頭につけた能面を引っ張って邪魔してやった。こころは「やーめーろー」と鬱陶しそうにするが、頑として火鉢から離れようとしない。このボロ小屋に来るまでによっぽど寒い思いをしたに違いない。しょうがないから今回は譲ってやることにした。
私は手を擦り合わせながらこころに話しかけた。
「こんな寒い中、こんな寒いあばら家に遊びに来るなんて、あんたも物好きねぇ」
「私はばんきっきが心配で来たの。部屋の中で寂しく凍え死んでないかって」
「そんなことになるのは防寒を怠るような馬鹿だけよ」
「でもばんきっき馬鹿だし」
「なんだとこの野郎」
人を馬鹿だと決めつけて澄ましているこころの頬を、冷め切った両手で挟み込んでやった。こころは「冷たい!」と手足をばたつかせたが、放す気はない。『口は災いの元』というこの世の真理を、世間知らずな友達に教え込んでやろうと思う。
ひとしきりこころの頬を冷却した後、満足したから両手を放して解放してやった。彼女は姥の面を頭に引っ掛けながら「しくしく……ばんきっきの意地悪」と無表情で悲しげにしている。人の同情を誘うような様子だけれど、私からすれば全くの自業自得なので取り合わない。火鉢を後生大事に抱え込むこころを押しのけて寒い手を温めた。もう寒くはなかろう。退くがいい。
「ところでばんきっき」と押しのけられたこころが言った。「雪合戦というものを知っているか」
「ああ、あの寒いなか冷たい雪をぶつけあうという意味不明な遊びね」
「やってみたいのだが、どうだろうか」
「駄目。寒い」
「そこをなんとか」
「駄目ったら駄目」
「いいのか? やってくれないとこの狭い中で薙刀を振り回すぞ?」
「直球の脅しに出たわね……」
「さあばんきっき、私と雪玉を投げ合って魂の対話をしよう!」
「何を言っているのかよく分からないけど、取り合えず雪合戦はしてあげる。暴れられると困るし」
「わぁい」
こんな会話をした後に外へ出た。出る前にこころが火鉢を名残惜しそうに見ていたので、中にある暖かそうな炭にしこたま灰をかぶせて埋めてやったら、「貴様には血も涙もないのか!」と罵声を浴びせられた。火の始末をしただけですごい言われようである。
ぎゃいぎゃいと喚く面霊気をあしらいながら外を歩いた。まだちらちらと雪が降っている。雪が降るくらいだから当然空は晴れておらず、汚い色をした雲が向こうの方までかぶさっている。道に積もった雪は脇に寄せられて、一応歩くぶんには困らない。多分何人かの人間が協力してどけたのだろう。私は名前も知らぬ作業者たちを「ご苦労さま」と胸中で労っておいた。
歩いていると正面から風が吹いてずいぶん寒い。吹くたびに思わず身震いがする。隣を歩いているこころも寒そうにして、苦し紛れに能面をつけて顔の防寒を試みている。その様子がなんとも間抜けで面白い。私はにやにや笑いながら、風で流されそうになる座りの悪い首を抑えた。
寒い風を浴びながらしばらく歩いていくうちに人間の里を外れ、何もないだだっ広いところに出た。何もないから無闇に雪ばかり積もっている。白いのが一面に延びているから、地べたに真新しい巨大な紙を敷いているかのように見える。こころはその紙の上を闊歩して、くっきり残る足跡に目を向け、きゃっきゃと無邪気に喜んでいる。私も地面をへこませながらこころの跡に続いた。
白い平面をひとしきり蹂躙してから、いよいよこころとの雪合戦が始まった。規則も時間制限も何もない。ただこころが満足するまで、お互いに死力を尽くして雪玉をぶつけ合うというだけである。私は最初乗る気ではなかったのだけれど、いざやるとなったからにはどうしても勝ちたい。本気でやろうと思う。
私は手早く二つの雪玉をこしらえ、少し先に立っている友達に向けて投げつけた。彼女は飛んでくる二つを舞うような動きで避けた。そして避けた勢いのまま地面から雪をひっつかみ、二三度握ってからこちらへと投擲した。それはすごい勢いですっ飛んできて、私の額にぶつかった。衝撃で首が落っこちて、額がじんじん痛んだ。泣きそうである。
こころは自我を持ってから日が浅いとはいえ、その力は幻想郷でも上位に数えられるほど強い。私の首を撃ち落として喜んでいる姿を見ていても、由緒ある付喪神などとは到底思われないが、強いのは紛れもない事実である。それに対して私は人に紛れて慎ましく暮らす弱小妖怪で、できることは首を飛ばすことと首を増やすことくらい。力量では到底こころに抵抗できない。私は己の迂闊さを呪った。このままでは一方的に雪玉を叩きつけられるだけである。
首を拾った私はこころに勝つのを諦め、なんとか雪合戦をやめる方向に持っていこうとした。口先で丸め込んでやろうという算段である。
「こころ!」
「うん? 何だいばんきっき」
「雪合戦より面白い遊びがあるんだけど、やりたくない?」
「やりたいに決まっている!」
「なんでちょっと怒ってるのよ……まあいいわ。今から新しい遊びを教えるから、その両手に持ってる硬そうな雪玉を捨てなさい」
「うん」
あっさりと危機を脱した。こころが単純で助かったけれど、結果だけ見ると私の敵前逃亡であるから素直に喜べない。また今度意趣返しをしようと思う。
その後は雪だるまを二人がかりで作った。私は頭、こころは胴体を担当した。しばらくは二人共、無言のまま一心不乱に雪玉を転がした。雪玉の通ったあとには凹んだ筋が残り、その筋の上に小さな足跡が続いた。遠くの方で鳥の鳴き声がした。
私は必死に転がして出来た成果を携えて、雪玉を大きくしているこころと合流した。彼女の雪玉は私のものよりも一回り大きく、いい具合に胴体の役目を果たしそうに見える。早速二つの雪玉をくっつけてみた。慣れない作業をした甲斐あって、雪だるまの体が立派に出来上がった。こころが横で「万歳! 万歳!」と大げさに喜んでいる。私も小さく「やった」と言って喜んだ。柄にもなく高揚した心持ちになった。
体が完成したから、次は手やら顔やらに取り掛かった。手はそのへんに落ちていた枯れ枝を適当に刺して終いにしたが、問題は顔である。最初こころは「これでいい?」と言って、自前の般若面を顔面に起用しようとしていたが、見た目がすこぶる悪くなるからやめさせた。やめさせたら「じゃあこれ?」と鬼神の面を持ち出してくる。私はこころに雪だるまの顔面を任せられないと判断した。
「こころはそのへんで遊んできなさい」
「納得のいく説明をしてもらおうか」
「こころに顔を任せる、変な能面を使おうとする、雪だるまの仕上がりが気持ち悪くなる、OK?」
「お面かわいいよ?」
「感性がおかしい」
「ぶー、ばんきっきの馬鹿、阿呆、首なしマント!」
「五月蝿いぞ能面」
ぶーぶー文句を垂れる友達の足を払ってやったら、顔から積雪に突っ込んで、そのままぴくりとも動かなくなった。五月蝿いのが静かになったから、その間にそこらに落ちていた石ころや葉っぱを使って簡単な顔を作った。これでめでたく雪だるまは完成である。
満足して作ったものを眺めていると、雪に埋もれていたこころがやっと立ち上がって「何をするか!」と怒りを露わにした。般若の面をかぶって本式に怒っているから、「ごめんごめん」と心を込めて謝ってやった。そうして謝罪すると、こころは「分かればいいよ、ふんす」と偉そうに鼻息を吹いた。また雪原に蹴倒したくなったが、自制心を働かせて何とか我慢した。友達をいじめてはいけない。
雪だるまを作って手が空いたから、今度はかまくらをこしらえた。そこらじゅうにある雪を、ひたすらひとところに固めて山を作り、そして中をくりぬいて出来上がりである。空洞を作るとき素手だと冷たいから、こころの出した薙刀を用いて掘った。かまくらは無事に仕上がったけれど、暖房も何もないからただ寒いばかりで、あまり面白くない。こころが「寒いじゃないか」と言って、内側からぺちぺち叩いて不平を訴えた。私はそれを見て「危ない、崩れたらどうするの」と言いかけたが、話半ばで上からどっと崩れて、二人仲良く生き埋めになった。重いし冷たい。散々である。
私は雪から這い出たあと、寒さに震えるこころを積雪の上に座らせて、少しばかり説教をした。そうして説教をしながら、「こころはやっぱり馬鹿なのかもしれないな」と思った。
遠くの方から、また鳥の鳴き声が聞こえてきた。
遊び疲れたから私のボロ小屋に帰ってきた。雪と戯れたおかげで私とこころは芯から冷たくなったから、すぐに火鉢の取り合いになった。首と能面が飛び交うひどい戦いが続き、そうやって動いているうちに体が火照ってきて、結果火鉢がお役御免になってしまった。喧嘩の原因がなくなったのだから二人とも頭を下げあって、それで手打ちにした。友達とはこういうものなのかもしれないなと思う。
「今日は楽しかったね」
「私は疲れたし寒いしで散々だったわ。雪玉を叩きつけられて頭が割れるかと思った」
「雪合戦だからそれが当たり前じゃないの?」
「手加減を知りなさい。あんたと私じゃ格が違うんだから」
「私とばんきっきは対等だよ、対等な友達」こころが楽しげな声で言った。「これからもずっとずっと」
私は何やら心が温かくなり、どうしようもなく嬉しいといったような気になった。でもそれを向こうに察知されると恥ずかしいから、わざと渋面を作って「馬鹿なくせに一丁前のことを言うわね」と憎まれ口を叩いた。するとこころは若女の面をかぶって、「ばんきっき、嬉しいの?」と尋ねてきた。どうやら誤魔化せなかったらしい。
照れ隠しに窓の外を見ると、ちらちらちらちら雪が降っていた。それで今日の雪遊びを思い出した。明日もこころと遊ぼうと思った。
こころがどこに身を寄せているのかはわかりませんが、
ばんきっきがそちらに出向くとどうなるだろうと想像してまたにまにま
雪国にある実家は年末年始ぐらいしか帰れないので懐かしい気持ちになりました。
心も体も暖まりますね
特に二人の会話がずっと読ん出たくなるくらい好きです
もっとください!