目を開けると、こころの前にはドロワーズがいた。
「よう、お目覚めか」
「ようこそ」
しかも複数。ていうかしゃべった。
とはいえ、そこは驚くところではない、とこころは思う。自身がそもそも面霊気なる付喪神的な何かなのだから、下着のひとつやふたつ動き出したところでヤア同類と歓迎してやるがいい。
それで、とこころは考える。ここで本当に驚くべきなのは、両手足が拘束されたまま、薄暗い部屋の中で寝かされていることだ、と。
そもそも、今この部屋で目を開ける前、自分は何をしていたのか、記憶がごっそり抜けている。それに加えてドロワである。目の前のおしゃべりクソドロワは一体なんだ。責任者はどこか。説明責任を果たしてもらわねばならない。
「ふふふ、混乱しているようね」
ドロワが言った。よくよく見ればそれはドロワを覆面のようにかぶったヒト型の何か……平たく言えば変態だった。そんな真実知りたくなかった。
「霊……赤ドロワ、説明してやれ」
片方のドロワ被った変態が言って、赤ドロワと呼ばれた変態が「そうね」と不敵に笑った(たぶん)。笑うとフゴフゴ言ってキモいのでやめてほしい。ちなみに赤ドロワは本当に赤くて、もう一人の方はなんか黒いのでたぶん「黒ドロワ」という名前なのだろう。
「ようこそ、空を飛ぶドロワーズモンスター教団へ」
「(泣)……帰りたい」
お面がこころの感情に反応してひとりでに彼女の顔に収まった。赤ドロワがまた笑った気がする。ドロワのせいで見えないが。
「帰りたい? じゃあ帰してあげるわよ、我が教団に帰依すればね」
赤ドロワがパチンと指を鳴らすと、黒ドロワが暗幕のようなものを落とした。そこに現れたのは、壁面に、額縁に入れて飾られた大きな絵画……まがまがしい触手を生やした、ドロワーズの怪物だった。
「……世界は空を飛ぶドロワーズモンスター様によって創造された。よってドロワーズは神聖なもの。もちろん幻想郷があるのもドロワーズモンスター様のおかげよ」
何言ってんだこいつ、という感情を表すお面がないことを、こころがこれほど感謝した日はない。
「ドロワ様のお庭に集う乙女たちが無垢な笑顔で弾幕を張るのが幻想郷でのたしなみ……そんなこともわからない子がいたなんてね」
赤ドロワの腕が無慈悲に
「ああ
そうしてあろうことか、スカートをびろーんとたくし上げて、自らの純白のドロワを誇らしげに見せつけた。普通に痴女だと思った。
「おいおい赤ドロワ、流石に可哀相だぜ。言い訳くらいさせてやりな」
「……ふ。そうね。あなた、黒ドロワが優しくてよかったわね」
やっぱり黒ドロワだったのか。
「で、あなたはどうしてドロワーズをつけないの?」
「(困)なぜ、って……このスカートのスリットからドロワーズ見えたらカッコ悪」
「はい申し開きタイム終了」
赤ドロワはいつの間にか、真新しいドロワーズを手にしている。
「(疑)……なに?」
「あなたにもこの素晴らしさを教えてあげる」
「(厭)いやっ……!」
赤ドロワはこころにドロワを履かせる……のではなく被せようとする。両足は拘束していて動かせないからか。変態の仲間入りを、こころは頭を振って拒否する。
「往生際が悪いわ! 黒ドロワ、押さえて!」
「よしきた」
「(厭)やめっ……ああ……!」
そうして、こころの視界は闇に閉ざされた。ドロワが装着されたのだ。ただでさえ薄暗かった世界が消失し……しかし、次の瞬間にはこころの頭の中にスパークが生まれ、それを火種として視界はまぶしいほどの白に染まっていた。
ドロワだ。
こころにはドロワの感情が流れ込んでいた。
感情を操るお面の力と、ドロワーズの不思議な
「お、おいなんか光ってるぞ」
「なっ……何が起きているというの……!」
ドロワーズ小宇宙の外側から、かすかな雑音が聞こえる。
「ドロワーズスカウターを! ドロワ
「今やってる! ……千、五千、万、三万……バカな、まだ上がるだと……!」
ボン、と破裂音がして、どうやらスカウターとやらの装置が壊れたらしい。
「これは……もしや、ドロワーズモンスター様が降臨するというの……」
不安と期待に満ちた声。それを置き去りにして、こころは真っ白な世界の中で、ドロワーズとの言葉によらないコミュニケーションを果たし……
ばきん、というのは、こころを
「なっ……」
こころの視界には、現実の薄暗い部屋が戻ってきていて、黒ドロワの驚愕に染まったドロワ顔がはっきりと見えていた。ドロワをかぶったままにもかかわらず。
「……ドロワーズモンスター様……?」
赤ドロワの声に、こころはゆらりと、拘束台の上に立った。
「(ド)ドロワの素晴らしさ、理解したわ……」
フゴフゴとくぐもった声は、しかし赤ドロワの耳に確かな威厳を持って響いたようだった。
「(ド)そして……良いドロワと、悪いドロワがあるのも理解した……」
「何……?」
赤ドロワの表情が曇る。
「(ド)うら若き乙女にドロワを強要するとは不届き千万。ドロワはその内なる魅力を持ってのみ広められるべき……良きドロワ心を持っていれば、おのずとドロワは友を増やすというのに……あなたは、ドロワの暗黒面に飲まれてしまったのよ……」
「……あなたは、ドロワーズモンスター様ではないわね……今ドロワーズを知ったばかりのオボコが、知ったような口をきくなッ……!」
「(ド)私とて、あやうくドロワーズの魅力に酔い痴れて我を失うところだった……この姿は呪いと表裏一体ね。だからこそ、この呪いを、私は正しく背負う……!」
こころのドロワ小宇宙が輝きを増した。黒ドロワは敏感に我が身の危険を悟ったらしく、先に逃げおおせていた。赤ドロワはこころのドロワ
「こしゃくなッ……!」
赤ドロワは御幣を構えると、こころに向けて走った。お札弾を投げ放ち、得体のしれないドロワ存在を滅しようとしたが、すでに遅かった。
「(ド)白き、ドロワをッ……!」
こころが叫んで、爆発が起きた。ドロワーズ小宇宙が解放され、ドロワ力が放射されたのだ。純粋なエネルギーと化したドロワ力は、光と衝撃波を放ち、炸裂した。
次の瞬間、その場にあったのは、破壊された赤ドロワたちのアジトと、その中心にたたずむこころの姿だった。天井のくずれたアジトは白日の下にその姿を現し、そこが博麗神社の地下であったことをこころは知る。
がれきの中に、満身創痍のボロ雑巾と化した赤ドロワが転がっていた。こころは被っていたドロワを取り、その哀れな姿を見る。その顔に浮かぶのはいつもの無表情だが、読者諸賢には、その目にかすかに浮かぶ悲しみが見えるかもしれない。
「(哀)ドロワは、人を狂わせる」
やがてその目に確かに浮かぶのは、決意だった。
「(哀)悪しきドロワと、戦えというのね……」
その呟きは、手元のドロワに向けられたものだった。ドロワは黙して語らず、ただそのやわらかな生地の、心地よい肌触りだけをこころの手に伝えていた。
ドロワの呪いに、同じドロワの呪いの力で立ち向かう戦士、秦こころ……いや、仮面ドロワーが誕生した瞬間であった。
ゆけ、仮面ドロワー。その悲しみを
戦え、仮面ドロワー。幻想郷が正しきドロワに満ちる日まで。
我々はもっとちらりとあるいはもろに見えるドロワに対し正しく抱くべき感情がある。それを再確認できましたありがとう。さあ、の ぼ り つ め る ぞ
こころがドロワの小宇宙に触れた時同じく触れられた気がしましたドロワ。
仮面ドロワーがこの先悪しきドロワ達とどう戦っていくのか気になりましたドロワ。
ちなみに私のドロワ力は530000です。
久しぶりにこんなドロワなドロワを読んだ気がします
自分も少しだけドロワになれたんじゃないかなと思います トランクスですけど
この空を飛ぶドロワーズモンスター教団は某空飛ぶスパゲッティ・モンスター教とは一切関係がないのでしょうねっ!
笑ってしまったのと懐かしさを感じたのでこの点で。