ふと気がつくと、白。
白い背中を俺は見ていた。
ハゲたおっさんがうなだれて座っている。いかにもしょぼくれた感あふれるおっさんだ。着ているもんがまっさら清潔な分だけ、なおさら中身の貧相さが際立つ。頭にバーコードリーダー掛けたらワンコインで表示されそうだ。
あぐらをかいたまま顔をちょいと横にスライドさせると、おっさんの前にも白い服のヤツが座ってて、そのさらに前にも……ずらーっと白い服のヤツらが並んで座ってやがった。年齢も性別もバラバラっぽいのに、白い服はお揃い。
っていうか、俺も白い服を着ている。グッチか何かの白スーツだったらサマになってたかもだが、これが薄い浴衣みてぇなの一枚。下にはシャツもパンツも身につけてねぇようだから、このまま小洒落たBARで一杯なんてわけにゃいかんよな。まあ、白スーツもBARも経験ねぇけど。
これが浴衣だってんなら、この先にあるのは風呂なんだろうか。行列のできるスーパー銭湯? んなわけないやな。
浴衣じゃねーなら白衣だ、病院で着るやつ。そう考えりゃ、この先待っているのは人間ドッグだな。じきにイチゴ味のバリウムが振る舞われ、上手く飲めなかったらもう一杯サービスっつーね。
「ふっ、ふ」
鼻で笑って、露わになってるすね毛を撫でる。
さて、冗談はこんくらいで、いったい何の行列なんだろうな、こりゃ?
今いるとこが銭湯や病院であるはずない。何しろ行列の先の先……畳敷きの大部屋の果てが見えない。何十どころか何百と並んでいる、遥か前に座って白ゴマみたくなってる奴、その前はモヤが掛かっている。
地平線見えるレベルの広間なんざ、ホテルオークラでも作らねぇだろ。泊まったこたねぇけど。
後ろへ顔を向ければ、前方と同じくだ。延々と続く行列に、モヤの掛かった果ての見えない彼方。
左右については前後ほど広くはねぇが、それでも小さく並んでいるフスマの壁までは50メートル以上距離がある。端から端まで100メートルか。ガキが群れてりゃ追いかけっこなりしてはしゃぐんだろうな。
天井は普通の和室の板張り、と思うが、言い切れない。バレーとかバスケとか余裕でやれそうな高さがあるからだ。遠すぎて木目なんぞは全然判別できん。
改めてありえねぇ寸法だな。この現実離れの程度からすっと、遊園地のアトラクションか特撮の現場か? しかし、行列の他には誰も見当たらねぇし、何かが始まる気配もない。
しばらくボーッとしていたが、やっぱり何にも起こらねぇ。眠くもねーから居眠りで時間を潰すことも不可能。どうしたもんだろうか。マジで何だよ、この行列。
(ピコーン)
閃いたのは妙案、というほどのこともない、人に尋ねるという手段だ。
ってか、やっとかよって話だな。人間関係の初歩のスキルだろうに、このコミュニケーション不全者め。まあ、基本、必要以上に「まともな人間」と関係するつもりはねぇからどーでもいいんだけど。
(つっても、今はその基本から外れた事態っぽいからな)
後ろの女に目をやる。辛気くさく畳を観賞している顔は、何を考えているかわからない。髪型や化粧などから30歳前後と思われるが、生気の無さが実年齢以上に見た目を老けさせている。声を掛ける気力がさらに萎えるけども、ヤレヤレなことに、対象の別選択の意味はなさそうなんである。
なにせ、女の後ろに並んでるヤツらことごとくが、しょぼくれまくってるからなぁ。前にいるヤツらもハゲのおっさんに倣ったみてーにうなだれてるし。お前ら、意気消沈を表現するマスゲームでもやってんのかよ。
しゃあない。まったくもってしゃあないが、位置的に接触しやすいのはミス・ネガティブさんだ。
3・2・1で声を掛けよう。そうしよう。じゃあ、いくぞ。3・2・1、
「あー……」
直後、喉に痛みを感じた。反射的に手を当てるとより強い鈍痛が生じる。
(何だこりゃ)
声に出して怪しみたかったが、呼びかけにさえ支障があるんで、やめとく。唾を飲み込んで痛みを再確認。
ともかく強烈に打ちつけただかして、喉に結構な不具合があるのはわかった。
ついでにもう一つわかったことがある。わからんことだ。わからんことがわかった。
意味不明なこと言ってるが、要するにあれだ。喉の痛みの原因を思い返そうとすると、思い返せない。何が俺に起こったのか、さっぱりチンプンカンプンなのだ。ズバリ、記憶喪失。
喉の痛みはむち打ちってわけじゃないし、頭にダメージもない。よって、交通事故とかそういう系じゃねぇ。とすると、寝ぼけてるだけか? いや、しかし、何がどうなって寝ぼけてるのかわからん。本当に寝ぼけているのかすらもわからん。
(するってーと、やっぱり、)
聞き込みしなきゃならねぇってことになる。
何が起こったのか、何でここにいるのか、ここがどこなのか、その辺りのことは全部関連してるはずなんで、取っかかりも何もないなら一人ウンウンうなったところで「休むに似たり」だ。
やれやれ、メンドくせー。
痛む喉を強いて、反応に乏しいヤツらから情報を引っ張り出すのか。時給0円で。
トイレ行くふりして、横のフスマから出られねーかな。けど、その先がどうなってるかも知らねぇし、屋外に出られてもこんな格好で帰るのは無理くせーし、そもそも俺にとって必要なことで並んでるのかもしらんし、やっぱ状況がわからんとどうにもならんよな。
また3・2・1で声を掛けっかね、とため息をつこうとしたところで、変なものが目に入った。
遥か前方。何かが動いている。地蔵のように不動な白衣の列の先だ。
って、列の先だと?
(先頭ってことか? 終点?)
さっきまでモヤが掛かっていたのに、それが晴れてきたんか。いつの間に。
(……いや、何つーか違和感あるぞ)
記憶喪失の分際で言うのもアレだが、俺の記憶が正しければ、前に並んでいたヤツらの数は減っている。
しばらく前はもっと先まで列は続いていて、個々人が視力検査の2.0の輪っかほどに判別できなくなった辺りでモヤっていた。今現在は、あれが先頭だとすると、列は短くなってるって風に見える。勘違いじゃねえよな?
じっーと見つめる。
(お……)
心の中で声を上げたのは、明らかな変化が確認できたからだった。今やモヤは完全に消え去り、先頭とそこからの人数がはっきりわかる。間違いなく前の人数は減ってきていやがる。えぇと、ざっと見て百は切ってるかね。そうして今も先頭から一人二人と数を減らされてきていた。
俺は現在前から数えて二桁台のナンバーとなったわけだ。お客様にはもう少々お時間を取らせていただきますってか。
前方には列のその先、背景も出現していた。左右にあるのと同じフスマの壁だ。それが徐々に徐々にと大きく迫ってきている。前に並ぶ人数が減っていくのと比例して。
ふむ。
(ってーと、壁が迫ってるわけじゃあねぇな。より自然に考えれば、人が減った分だけ俺が、)
前へ前へと移動しているか。
こうして黙って座ってりゃ、勝手に運搬してくれる。便利だねぇ。これは大がかりでスムーズな「動く歩道」だな、純和風の。
現実にありゃ使いどころはともかく、すげー装置なんだろうけど、まあ、
(現実離れしてると思ったが、マジに現実じゃあねーらしいわ)
前方で動いていたものが今ははっきり見えてるんで、そう言い切れる。
何かってぇと、食事風景だ。
エキセントリックな服──全体的には淡い浅葱色の和服なんだが、あちこちにフリフリがついているのはネグリジェっぽい──を着た女が立っていて、そいつが美味そうに食ってる。先頭に来た人間を。
今また白髪頭の爺さんだか婆さんだかの両肩をつかむと、口を大きく開けて、頭部を消し去った。
モグモグと唇・頬・顎を動かしている。一瞬で頭を口に入れ、首を食いちぎったのだ。首無し死体の白衣に断面からの血が滲んでいく。
人食いだ。初めて見るな。
何を好んで人間なんて食うかねえ? 何百人と胃に収めてんだろうしひもじい思いはしてねーようだから、「アンデスの聖餐」や「ひかりごけ」みたいな動機じゃあないよな。なら、ハンニバル・レクターか? ソニー・ビーンか?
何てな。
女が人の形を取っているからって、人間と見るのは適当じゃねぇだろう。人間に可能な食い方じゃねぇもの。
今度の対象は、背丈からしてガキンチョか。肩より下の辺りをつかんだな、と思ったら、ガキの全身が消えていた。蛇みたく丸呑みしたわけだ。
女のガタイは普通の成人女性並。リンゴ一個丸々口に入れようすりゃ顎が外れるところ、そいつは相手に食らいつくときだけ口とその周辺部位が瞬間的にデカくなる。珍妙な身体特性だ。額につけてる渦巻き模様の三角布ってセンスも併せて、ありえねぇ。
人間とは異質な存在なんだな。だからジジババだろうがガキだろうが容赦なく食っちまうのも頷ける。民家を襲撃したヒグマが命乞いする妊婦を意に介さず食い殺した、って話を思い出すね。
ま、とにかく、人外の存在がいる、現実離れした現象の起こるとこなんだから、ここが現実じゃあないってのはロンリテキキケツってやつだわな。
かといって、夢ってことはない。それにしちゃあ喉の痛みも含めての感覚がリアルだ。俺が産まれてからずっと過ごしてきた世界とは違うって意味で「現実じゃあない」と言ってる。
んじゃ、どこかってことになると、多分あれじゃあないかね、あれ。
(地獄ってやつ)
死後、人間が犯した罪のしっぺ返しを食らう場所。
白衣は死に装束で、俺らは罪人ってわけだ。老若男女がバラッバラのマゼコゼで並んでいるのも、それなら腑に落ちる。死んだってことだけで共通してんだな。あとは全員日本人か。なら、ここは地獄の日本支部かねぇ、多分。
ほとんどのヤツらが死後はここで相応の罰を受けるんだろうな。焦熱地獄とか阿修羅地獄とかあるにせよ、ここで与えられる罰から考えられる「罪」は、ほぼ全員犯しているわけだし。
前で何かが浮き上がったな、と思ったら、小太りした中年男だった。両足を持たれて逆さ吊りにされている。つかむ女の腕が2メートルばかり着物の袖ごと伸びていた。精肉場の解体前の牛・豚みてぇな光景。
女は中年男の頭にかぶりついた。距離が近くなったからか、歯ごたえを楽しむための食い方だからか、堅く湿った音が耳に届いた。
ボリュッ、ボリュリュッ。
一噛みごとに男の身体が欠損していく。肉と骨のミックスする咀嚼音の中、女の腹に収められていく。女の顔や着物に血が滴り、赤黒く染めた。
そうやって女の腕の長さが戻り、足首を残すところまで男は食べられた。最後に足首も口に放り込まれるのかと思ったが、ポイッと横に捨てられる。甘エビの尻尾かよ。水虫にでもなっていたか? 地獄に来るくらいだから、実際にも悪行からも「足を洗わなかった」とか。
にしても、スパゲッティ・ミートソースの飛び跳ね以上に汚しちまって、ゴミまで畳に散らかして、この先は残飯詰め込んだポリバケツ状態になんのかと心配になる。
が、そこらへんは杞憂だったようで、女が新たに先頭に座るヤツに目を向けたときには全部まっさらになっていた。転がる足首、顔や着物の血、何もかもが始めから無かったように消え去っている。掃除も洗濯もゴミ捨ても要らないってか。地獄のハウスキーピングはお手軽で羨ましいや。
不動産屋が家族連れに紹介するかもなぁ、とバカなことを思っているうちにも、食事風景は続く。
(今度は男……青年くらいの年か)
食われるヤツをそう判断できたのは、女が相手の右腕を上に引っ張って上半身が見えたからだ。
女がもう一方の手で右肩を押さえたな、と思ったときには、太枝を無理矢理ねじ切ったような音がして、青年の腕がもがれていた。そこへ、
「ひぐぁあ!」
苦鳴が上がった。
(へえ?)
意外だ。あいつの声か?
背中がこっちに向いてるから断定はできないが、他に上げるヤツもいない。じゃあ、やっぱり今食われてる青年が上げてんのか。百人以上食われてる中で初めて聞いたな。
って、そういや、少なくとも声が届く距離内じゃ、頭を残して食われるヤツはいなかったっけ。声出す器官がありゃ叫べもするか。
女は手首を持ち、肩の断面から腕を食べていく。骨から肉を分離するように噛みちぎる。骨まで食えるはずだが、敢えてそういうふうに食うのな。
回し回し口をつけていき、右腕は血とわずかな肉のこびりつく骨となっていった。どっかで見た食い方だと思ったが、思い出した。フライドチキンだ。揚げてねぇけど。めっさレアだけど。
女は骨を放り捨て、今度は左腕に手を掛けようとする。二本目、行きますか。
「う、うわぁあああッ!」
と、青年が叫び、駆け出していた。女から離れ、こちらに向かってがむしゃらに片腕と両脚を動かし駆けてくる。必死の形相、血走った目までが見て取れた。
(おー、こりゃ活きがいいわ)
ちっと感心した。他のヤツらはブロイラーみたく行儀良く並んで出荷を待つだけなのに、抵抗する気概があんのか、あいつ。動機は単細胞な恐怖心だとしても、食品の鮮度を自らアピールするのは好感が持てる。笑える。
男が俺の横を通過。もしかしてそのまま逃げ切れんのかな。追っ手が掛からず、後ろの地平線彼方まで走っていけばあるいは……
(って、無理くさいな)
女は立ったまま。だが、手と腕が追っていた。手は航空機のように宙を飛び、腕は袖ごと飛行機雲のように長く長く伸びて続く。高速に、スムーズに、やすやすと獲物に追いつく。
指が青年の露わになってるふくらはぎを摘んだかと思うと、一気に引っ張り、男の身体を数十人分引き戻していた。ベリッともブツッともつかない音がして、直後、絶叫が響く。片腕の青年は、脚を抱えて畳の上で転げ回っていた。引き戻しついでに肉を剥ぎ取ったのな。手で押さえたとこから血が漏れ出てら。
女の腕が巻き尺みたく戻る。摘んだ肉片を口に入れ、満足そうに笑みを浮かべた。その間にも、もう一方の腕が青年に向かって伸びている。
それを見た青年は慌てて立ち上がり、脚を引きずりながらも再び駆け出した。真っ直ぐ逃げたのではスピードで負ける。今度は前後左右と滅茶苦茶に走り回った。
女の腕はウネウネと蛇のうねりを宙で描く。関節を無視できるのはさすが人外。しかし、さっきと違ってなかなか獲物を捕らえられない。青年の火が付いたような足掻きに手を焼いている、わけじゃなさそうだ。
本気で捕まえようとしているようには見えない。速度に余裕がたっぷり感じられるし、追い駆けたり先回りしたりの動きが大げさ過ぎる。
(楽しんでいるってか?)
必死に逃げようとしているヤツ相手に、絶対的に上の立場から追いかけっこを仕掛けている。生存本能を狂乱させているのを、笑って追い立てている。
こんなもん見せられて、当然思うことは一つだ。
(まあ、いいんじゃね)
そんだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
何か変か?
んなこたないだろう。魚釣りと変わらんし。いや、ちゃんと食べる行為に基づいている辺り、キャッチ&リリースなんて偽善行為よりは遙かにマシなことやってらーな。
食うために逃げる獲物を追いかけて、その中で楽しみを覚えるくれぇは全然許容範囲だ。食わねぇのに生き物弄ぶ下劣さに比べりゃ何てこたない。
女の手は、余裕をもって青年の身体をむしっていく。次々とあちこちを欠損させ、青年の動きは鈍くなりながらも、なおも逃げ続ける。ボロボロの血で汚れた服が筆になって、相当数の畳が赤くデコレートされていた。
ああやって、生きたまま一部分ずつ食べられて、最終的には頭と脊椎が残されてピクピク動く添え物になるんかな。魚の活け作りみてぇに。
と、思ったら、巨大化した手の平に全身を叩きつぶされた。ミンチになったのが女の拡張した口に放り込まれる。
無駄なく食うねー。素晴らしいわ。地獄の日本支部にはもったいない処刑人だぜ。
なにせ日本ってな、食料廃棄率世界一、つまりは無駄に食い物捨ててる選手権ナンバー1だかんな。
自給率が少ないってんで5500万トン海外から食い物輸入しておいて、賞味期限過ぎたり食い残したりで1800万トン捨ててる。ゲスの極みだな。最低の民族だ。
そういや「もったいない」は日本特有の言葉なんだっけ? 頭と口が腐れきってんな。
次の罪人は女……学生くらいの歳かね。そいつも肩をつかまれて立たせられると抵抗の意志を見せた。逃げようとして身体を揺する。
(けど、今度は逃がすつもりはねぇようだぞ)
肩をつかんだ手は微動だにしない。狩猟を楽しむのは一回こっきりか。またどっかで気まぐれにおっ始めるかもだが。
女学生は振りほどこうとしても振りほどけない状況に、やがて金切り声を上げ、ついには号泣し始めた。
(うぜーなぁ)
耳に障る。活きがいいのは結構だが、泣き叫ぶ権利なんざねぇだろがよ。
「己の欲せざる所は人に施すなかれ」──自分がやられて嫌なことは誰にもすんなって、お母さんにも言われてきたろ? ママの言いつけ守ってこなかったから、今更そんな涙やら鼻水やらよだれやらまき散らす最期を迎えることになる。それとも「誰か」ってのが誰だか具体的に思考できなかったか? あぁ、小便まで漏らしてやがる。無様だな、無様。まさしくザマぁねえや、ってかい。
雑多な体液にまみれたものの、両腕・両脚を躍り食いされてから、あっさりそいつの全身は胃袋に収まった。地獄の女は好き嫌いないね。親のしつけが良かったんかな。
さて、だいぶ前の人数が減ってきた。俺が罰を食らうのは、
(ってか、食らわれるのは、)
あとどんくらいかね。まあ、このペースなら近々だろ。「CMの後で」ほどに近々。
食われた先はどうなるんだろうか。無か? それならそれでせいせいすらぁな。とっとと受けたいもんだ、肉を食った罪の報いを。
(んなこと考えてる俺はおかしいかね)
おかしいんだろう。ほとんどのヤツらにとっちゃ。「まともな人間」にとっちゃ。「肉を食うのが罪? 頭おかしいんじゃない?」なんて言うわけな。
他にそいつらの常套句は、「あんたは野菜だけ食ってればいいじゃん」みてーのから「でもそれ、命の差別」だかに続き、「自分は生き物殺してないと?」あたりで締めくくられる。
ほざいてんじゃねえよ。だから、同罪だっつってんだろ。目くそ鼻くそなんだよ、クソが。俺がクソだって事実を懇切丁寧に垂れ流したところで、てめぇらのクソっぷりは小揺るぎともしてねぇじゃねえか。
あとは、何だ、「生きるためには仕方ないんだよ」だっけ? わーお、すげーわ。
いや、掛け値なしにマジで「生きるためには仕方ないんだ」って言える奴はすげーと思うわ。余程のアホかカスじゃなきゃ言えねーよ、んな台詞。
生きるためには仕方ない? 脊髄反射で出される言い訳だ。思考停止もいいとこだな。
別に肉を食わんでも生きていけるって事実を持ちだそうってわけじゃない。ましてや菜食主義者は殺生をせずに生きてる聖人だなんて宗教じみたことを言うつもりもねぇ。野菜作るのだって生き物殺してるだろ、害虫駆除とかで。
言いたいのはあれだ、肉を作るにゃコストが掛かるってことだ。金の話じゃなくカロリーの話。牛肉を造るのに7~11倍の穀物が要る。
それで何が問題かって、カロリー計算で考えれば世界人口全て以上を養えるだけの穀物生産をしてんのに、実際はおびただしい餓死者が出ているってことだ。矛盾しているようで、してない。そんだけの量の肉を作ってるってのでつじつまが合うだろ。飢え死に寸前のヤツから飯奪って、ウシやブタにくれてやるのさ。そういう構図だよ。
それでも、肉を食うことそのものを否定するつもりはない。必要な分だけは食べていいんじゃねえの? 本当に必要ならな。
沖縄はかつて長寿日本一だったが、それは適度に肉食を取り入れていたからだ。便所に豚を飼ってウンコ食わせてた。その豚肉以外にも魚とかヤギとか猫とか食ってたわけさ。まあ、ここまではいいぜ。
しかし、沖縄が長寿日本一から転落したのは、食事が欧米化したため、つまり肉の食い過ぎによるもんだ。そんで他んところと同レベルになった。今や沖縄含め、全国の大勢の方々が糖尿病、メタボ、動脈硬化に悩まされ……って、余計な肉を食わなきゃいいだけの話だろうが。なぁ?
自分の命を削って肉を食う。餓死者が出ても肉を食う。思考停止で肉を食う。肉を食う。肉を食う。肉を食う。どいつもこいつも、あいつらもてめーらも俺も。
生きるために仕方ない? 無駄に命捨ててんだろ。自分と、誰かと、何かの命をさ。美味いもの食いたいってだけで命を粗末に扱いまくり。はッ、暴食が七つの大罪に入るのも道理ってこった。
そんなふうに命を粗末にしてきた俺らにゃ、こんな地獄もふさわしいだろうな。
ああ、残飯をほとんど出さず、肥満にもならないような食生活送ってきた俺も同罪だ。
痛みの残る喉を撫でる。やっと思い出したわ。
(人間って人間が──自分含めてまったく嫌んなっちまって、それで「これ」か)
自分で自分を絞首刑したわけな。罪の重さを考えりゃ何の贖罪にもならねぇが。
生命に対する冒涜、それが蔓延してるのを知りながら何にもしてこなかった。勇気がないからだとか無力だからとかじゃなく、単にメンドくさいからだ。その気がありゃ、力がねーならねーで身につける努力するわな。面倒だから何もしなかった。そんだけだ。
(改めて罪深けぇなあ)
単純な理屈でさ、目の前でレイプされてる女がいて、それを缶ビール飲みながら眺めていたヤツは天国に行けるかってこった。即答で無理だろ。命の冒涜を無視して飯食い続けてきた俺は、間違いなく悪人だ。ここにいるヤツらと同罪さ。
(おっと、残り十数人)
「注文の多い料理店」と違って、座ってるだけだから楽なもんだ。どんな食われ方するかね、俺は。
どうあれ、ちゃんと食ってくれるってだけで慈悲深い。
(年間それぞれ30万頭ほど狩られてる鹿やら猪やらは、)
ジビエとして珍重されるし、繭糸を取った後の蚕のサナギなんかは佃煮にされて長野のスーパーとかで売ってる。
けど、そんなんはごく一部で、結局ほとんどは捨てられてるんだ。食えるのに捨てる。理由は運搬に手間が掛かるとか、美味くないからとかそんなんだ。それらを食えば、他の生き物を食わずに済むってのに。
金を掛けるのが惜しい、舌を満足させたい、そんなのを優先したわけな。要するに命を尊重なんかしてねぇんだ。
それでも『生きるためにはウンタラカンタラ』抜かしたいなら抜かせばいいや。神の名のもとに虐殺しまくったキリスト教徒みたく口だけは敬虔にな、アーメンアーメン。
ハッ、ったくヘドが出るぜ──って、食事の場にふさわしくないフレーズか? ま、口からクソ出すヤツらよりマシだろ。
(あと十人切ったかね?)
ここまで来ると、正面に立つ女の顔も体つきもはっきり見える。シミ一つなく色白で、肉感的な艶やかさにあふれている。
マブいスケ、ハクいナオン、そんな感じか? エキセントリックな着物を脱がしゃ、写真集に載ってても違和感ないな、熟女モノの。
つっても、女は三人一遍に頬張ったりしている。その分頭部だけが巨大化して、さらに中の肉を噛みしめたとき、乗用車のデカさになった唇からペンキのような血が垂れた。こうゆうとこは写真集よりカートゥーン・アニメだな、18禁の。
(うーん……)
もうじき俺の番になるわけだが、女が少年の腹をかき破って臓物をすすったり、老婆を頭からバリバリ食べていったりしているのを見ているうち、気持ちに変化が起こってきた。
恐怖・嫌悪ってのは毛頭ない。そういうんじゃなくて、何だかな。えー……そうだな……
(何か、こう……何だ)
我ながら煮え切らない思考が巡る。
そこへ肉を裂いて骨を砕く軽快な音。気づくと、目の前に逆さまの生首があった。女の口の端から、黄色い脂肪のこびりついた皮膚でデロンと垂れ下がっている。
お、目が合っちまった。
生首と、じゃなく、女とだ。
一瞬のことだし、ただの気のせいかもしれねぇが、少なくとも俺の中じゃ視線で接続したみてぇに思えた。
女が生首をすすり込むように飲み込む。そして、次の罪人に目を向け、食べに掛かる。すると、
(……あー)
俺のあやふやな気持ちってのが形になった。しかし、参ったな。マジかね。
どうも俺は、女に言ってみたいことができちまったらしい。
(いやいやいや、)
さすがにおかしいよな? おかしいって。理屈で考えても明らかだ。
相手は人外の存在だぜ? 俺の価値観を手前勝手にぶつけてどうするよ。人間規準の「その一言」に意味なんざねぇだろ、フツー。
(けど、なぁ、)
反面、理屈で考えると、言いたくなる自分自身も理解できちまうんだよな、困ったことに。
人外だから言っても意味ねぇかもしんねぇが、人外だからこそ言ってみたくもなるわけよ。
なんせ「まともな人間」にゃ言う気すら起きねぇかんな。
起きるわきゃねーよ。言ったところで右から左に流されるし、聞いたとしても空っぽの頭じゃ表面的なことしかやれねぇ。そんな白痴のゲス共相手に、言う気なんざ起きっこねぇ。
けど、だから、この女になら……なんて期待しちまうんだな。
はァ、やだやだ。いくらなんでもセンチメンタルすぎねーか。一方的に想われた女こそいい迷惑だ。俺はあれか、最期だから弱気になってんのか。んなわきゃねぇと信じてぇが、たまんねーな。
ため息をついて、首を振る。
やめだ、やめ。死んでまでカッコワリー真似したかねぇよ。憎からず思ってる相手に煩わしい思いさせんのも気が引けるし。
黙って食われよう。そうしよう。地獄にふさわしく一切の希望を捨ててな。諦め切ってるから来ちまったあの世で、蜘蛛の糸を夢見るなんてな愚の骨頂だ。
そう決めたところで、ナイスタイミング、俺が先頭になっていた。今度こそ間違いなく、女の瞳は遮るものなく俺を映している。
座っている俺に、立っている女。見上げる形だからか、女の背は高めに見えた。あと、グラマーさが際立つ。
(死人がどういう栄養になるか知らんが、そのたっぷりとした胸の脂肪の足しになるなら大歓迎だね)
口元が緩んでくる。罪人が罰を受けるのにこんな心持ちでいいんかな。それとも、贖罪によって救いを与えられるがゆえの当然の心境か?
客観的に見れば不審者そのものだろうニヤケ顔で見上げていると、女の口が開く。いよいよ食われる、と思いきや、数度動いて、何か出てきた。
「あなた、遺言でもあるのかしら」
──出てきたのが台詞だというのを認識するまでに、間抜けな空白があった。
しゃべった? いや、喉もあれば口もあるんだから、そりゃしゃべって不思議ねぇけども、今まで台詞言ったことあったっけか? 豪快な食いっぷりを披露した割には、ずいぶんおっとりした声……
(じゃなくって、そんなことより、俺に声を掛けただって? しかも、「聞いてきた」だと?)
目をぱちくりさせる先には、女がこちらを見つめたままでいた。返答を待っている、のか。
確かに言いたいことはあったが、遺言じゃあない。いや、食われる前に言ったなら、それはどんなんでも遺言になる理屈か。
あれ?
(なら、つまり、言いたいことを言えって? 言ってもいいって?)
一度引っ込めると決めた言葉だぞ。ここで覆したら何のための逡巡だったよ。
だけれど、聞かれているのだから、黙っているよりは言った方がいいんであって……しかしそれでも……
ああ、もう……言っちまえ!
「──食、う前に『いただきます』と、言ってくれ」
痛む喉につかえながらも、バカなことを言い切ってしまった。
マジでバカだな。
バカだな、マジで。その日会った女をアイドル化してんじゃねーよ、俺。
顔は平静に見えるかもだが、実際は青ざめるか赤らめるかも選べずテンパってるだけだ。
心臓が痛い。言わなきゃよかった。なのに、言っちまったことで期待も膨らんでいる。身勝手な期待が。
本当の意味で、まったく本当の意味で、「その一言」を言ってくれたなら。くだらないカスのわめきで腐った鼓膜は新鮮な細胞で再生され、膿んだ脳は蒸留水で洗い流されて綺麗に輝くはずだ。たまらない喜びだろう。
けど、当たり前だが、沈黙がキツい。そりゃあ、バカがバカ言や何も言えんわ。女のこと何にも知らねぇのに、俺って男はふざけたヤツだよ。
この延々続いてきたであろうお食事タイムに中途で「いただきます」とか言う意味もねぇし、人間とは別次元の生活様式・文化を持ってるかもしらんし。そもそも食われる罰を受けるヤツが言う台詞かっての。あきれられて仕方ない。
ああ、妄想だよ。現実に立ち向かえなかったウジウジ野郎が、ありもしない理想を肥大化させてるだけさ。でも今までの現実にゃ妄想すら抱けなかったんだ。渇望する。切望してる。女の口から「その一言」を聞けたら俺は……ああ、クソ、バカすぎる。死ね。死んじまえ、俺。
女の口が笑みの形になっている。苦笑か? 嘲笑か? まともに顔を見れない。いたたまれねぇからとっとと食ってくれよ、マジ頼む。
そして、女の口が開いた。
「あなた、面白いわ」
は?
呆けたところで、襟首をつかまれて宙に引き上げられた。伸びる腕はUFOキャッチャーのように俺を運んでいく。ポイと置かれた行き先は穴ではなく、女からやや離れた真横。
(ええと?)
場所を改めて、俺は手刀でナマスにでもされるんだろうか。そうするのは女にとっちゃ他愛もなさそうだが、ナマスどころか何かしらもされる気配がない。まったくない。
女はもうこっちに目を向けてなかった。新たに先頭になった三十路女を頬張り始めている。
そうしてからずっと俺はボーッと、畳の上であぐらをかきながら、彼方に続く白衣の列と女の食事風景を眺めていた。
女は時折チラリとこちらに目線をくれるようでもあるが、声を掛けてくることはない。俺としても食うのを邪魔するのは気が引けるんで、声を掛けない。そんなもんだから、今の状況の意味がわからんまま、途方に暮れるしかなかった。
煮ても焼いても食えないヤツだと口も付けずに捨てられた線も考えたが、だとしたら身体が消滅してねぇのに理由が付かん。これまで「残飯」は血の一滴も残さず消えていたのだし。
口を付けなければ消えないってのなら、俺の鼻でもちぎって口に含み、「不味っ」と吐き出してから全部消せばいい。食いもせず命を捨てる非道は人間が毎日やってることだ。自分がされたって文句は言えねぇさ。でも、それも違うみてえだ。
じゃあ何だ? ここにいるヤツらは俺も含めて食われる存在だろ。食われねぇでほっとかれる意味は何だ?
(……家畜?)
それはない。畜産ってな、エサやって発育させなきゃ意味ねぇもんだろ。ウシにせよ、ブタにせよ。
それともあれか、これから頭部を固定されて、食い物を無理矢理胃袋に注ぎ込まれるかも? んで、病的に肥大した肝臓を珍味としていただかれるかも? カモなだけに。
「はッ、ハ」
あまりのくだらなさに、逆に笑えた。
ねーよ。だから死人が飯食って太るかっての。
けど、笑ったことで思い当たった。女は俺のことを「面白い」と言ってたっけ。
はぁはぁ、なるほどね、それならそういうことか。
食い物になるのにその場で食わない、けど家畜でもないものっていや、あれしかないわな。
愛・玩・動・物。──いわゆるペット。
他の国とおんなじで日本もそうだったよな、犬や猫をミレニアム前からペットとしてきて、同時に食用ともしてきたってのは。
まあ、今現在は、食文化に関しちゃ未来の鯨肉を暗示するように廃れちまってるにしても、古き良きこの地獄・日本支部じゃ、食い物としている存在を可愛がるってのは変でもないってこった。
(しっかし、よりにもよって俺が愛玩されるって、地獄の女の趣味ってわかんねぇなあ)
俺を「面白い」っつって飼うってな、ずいぶんと面白いことするわ。服装の趣味と同じでエキセントリックなのが好みってか? ハ、いいね。いいねボタンを押したいくらい、いいね。
……ん? ああね、そうか。
不遜にもほどがあるが、似たもの同士、変なもん同士で惹かれあったんかもしらんな。金魚すくいの水槽ん中にデメキンがいたんでつかまえてみましたーってな気まぐれにしたって。
まあ、今後どうなるかはまったく未知だが、どんなんであれ、現世での動物の扱いから逸脱するもんはないだろう。
他に何人か引っ張り出してきて、そいつらとヨーイドンで徒競走させるとかな。んで、遅いヤツは潰して馬刺にすると。
あるいは、闘犬、闘牛、闘鶏、蛇とマングースみたくバトらせてくる可能性もあるか。俺は土佐犬や軍鶏ほど強くねーんで見応え皆無だけどな。
うがった見方過ぎるかね。普通にペットとして飼われると考えて安易なわけじゃあない。ペット的な──よく言われている通り、「家族の一員」として扱われるんでも全然不思議ない。
(つっても、犬・猫は年間30万匹、ガスで殺処分されてるんだが)
別にこれは皮肉な見方じゃねえよ? 人間の中絶件数も年間30万件だかんな。ペットはまさに「家族の一員」と同レベルに扱われてるってこった。
足手まといになったら犬も猫も胎児も平等に殺す。非常にわかりやすい。ダブスタなしの、純度100%の独善さだ。
憲法9条とか自衛隊とかの是非なんざ議論する必要ねぇってのは明白だよな。外敵を気にするまでもなく、中から腐りきってんだから。終わってんだから、人として、誰も彼も。
白衣のヤツらが一人、また一人と宙に上がっては落ちている。女はピーナッツのように罪人たちを放り上げては口でキャッチして噛み砕いていた。口を閉じる度、百科事典のデカさの歯の間から血しぶきが散る。
次に瞬きする間に、俺をやっぱ目障りだってんで食い殺すなら──十分ありうることだが──まったくありがたいこったよ。このどうしようもない罪悪感と嫌悪感を消し去ってくれんなら望外の喜びだ。心残りがあるとすりゃ、感謝の意を表す暇もねぇだろうってだけさ。
じゃあ、反面、食われないままのうのうと座って放置プレイされてんのは苦痛かってと、それも違う。
俺は今、ものすげーワクワクしている。明日の遠足や今夜のサンタクロースを待つガキかってくらい、楽しみでしょうがない。
何って、もちろん「いただきます」の言葉だ。それ以外にない。ああ、あんだけ自分の発言を黒歴史扱いしといて、未だに俺は夢見るアダルトチルドレンだ。
言われないかもしれない。というか、その可能性のが高い。けど、それが何だってんだ? 構うもんかよ、コンマ9桁のパーセンテージだろうと、楽しみに待てる。幸せの条件としちゃ十分だろ。
こっちに来るまでは、ひたすら真っ暗な汚泥の底にいた。息を吸って、吐く。その一呼吸にいちいち苦痛を感じた。一筋の明かりも先にはなかった。
なのに、今はどうだ。希望を持ちながら時を過ごせる。束の間でも永遠でもどっちでもいい。満たされた現在、そして先にあるのは「いただきます」か我が身の消滅だけ。何てこった、輝きにあふれてる。光だけしかない世界だ! 最高! ヤッホー! ライフ・イズ・ビューティフォー!
「はっ、はははははっ、あははははははははっ!」
思わず笑い出していた。喉の痛みも忘れて、心の底から笑う。
いいのか、こんな幸せで。俺が。この俺が。
女がこっちを見ていた。食事の邪魔になっちまったら、悪いことしたな。けど、笑うのを止められない。
腕が伸びてきて、五指が頭上へと広げられる。つかまれて口内へ放り込まれるか。それともナデナデされるか。どっちでもいい。どっちでもグッドだ。女の微笑みの意味はわからない。
頭に触れられたと感じたその際、もしかしてここは天国なんじゃないかと、バカな考えが浮かんだ。
いや、ほんと、バカなことだよ。
白い背中を俺は見ていた。
ハゲたおっさんがうなだれて座っている。いかにもしょぼくれた感あふれるおっさんだ。着ているもんがまっさら清潔な分だけ、なおさら中身の貧相さが際立つ。頭にバーコードリーダー掛けたらワンコインで表示されそうだ。
あぐらをかいたまま顔をちょいと横にスライドさせると、おっさんの前にも白い服のヤツが座ってて、そのさらに前にも……ずらーっと白い服のヤツらが並んで座ってやがった。年齢も性別もバラバラっぽいのに、白い服はお揃い。
っていうか、俺も白い服を着ている。グッチか何かの白スーツだったらサマになってたかもだが、これが薄い浴衣みてぇなの一枚。下にはシャツもパンツも身につけてねぇようだから、このまま小洒落たBARで一杯なんてわけにゃいかんよな。まあ、白スーツもBARも経験ねぇけど。
これが浴衣だってんなら、この先にあるのは風呂なんだろうか。行列のできるスーパー銭湯? んなわけないやな。
浴衣じゃねーなら白衣だ、病院で着るやつ。そう考えりゃ、この先待っているのは人間ドッグだな。じきにイチゴ味のバリウムが振る舞われ、上手く飲めなかったらもう一杯サービスっつーね。
「ふっ、ふ」
鼻で笑って、露わになってるすね毛を撫でる。
さて、冗談はこんくらいで、いったい何の行列なんだろうな、こりゃ?
今いるとこが銭湯や病院であるはずない。何しろ行列の先の先……畳敷きの大部屋の果てが見えない。何十どころか何百と並んでいる、遥か前に座って白ゴマみたくなってる奴、その前はモヤが掛かっている。
地平線見えるレベルの広間なんざ、ホテルオークラでも作らねぇだろ。泊まったこたねぇけど。
後ろへ顔を向ければ、前方と同じくだ。延々と続く行列に、モヤの掛かった果ての見えない彼方。
左右については前後ほど広くはねぇが、それでも小さく並んでいるフスマの壁までは50メートル以上距離がある。端から端まで100メートルか。ガキが群れてりゃ追いかけっこなりしてはしゃぐんだろうな。
天井は普通の和室の板張り、と思うが、言い切れない。バレーとかバスケとか余裕でやれそうな高さがあるからだ。遠すぎて木目なんぞは全然判別できん。
改めてありえねぇ寸法だな。この現実離れの程度からすっと、遊園地のアトラクションか特撮の現場か? しかし、行列の他には誰も見当たらねぇし、何かが始まる気配もない。
しばらくボーッとしていたが、やっぱり何にも起こらねぇ。眠くもねーから居眠りで時間を潰すことも不可能。どうしたもんだろうか。マジで何だよ、この行列。
(ピコーン)
閃いたのは妙案、というほどのこともない、人に尋ねるという手段だ。
ってか、やっとかよって話だな。人間関係の初歩のスキルだろうに、このコミュニケーション不全者め。まあ、基本、必要以上に「まともな人間」と関係するつもりはねぇからどーでもいいんだけど。
(つっても、今はその基本から外れた事態っぽいからな)
後ろの女に目をやる。辛気くさく畳を観賞している顔は、何を考えているかわからない。髪型や化粧などから30歳前後と思われるが、生気の無さが実年齢以上に見た目を老けさせている。声を掛ける気力がさらに萎えるけども、ヤレヤレなことに、対象の別選択の意味はなさそうなんである。
なにせ、女の後ろに並んでるヤツらことごとくが、しょぼくれまくってるからなぁ。前にいるヤツらもハゲのおっさんに倣ったみてーにうなだれてるし。お前ら、意気消沈を表現するマスゲームでもやってんのかよ。
しゃあない。まったくもってしゃあないが、位置的に接触しやすいのはミス・ネガティブさんだ。
3・2・1で声を掛けよう。そうしよう。じゃあ、いくぞ。3・2・1、
「あー……」
直後、喉に痛みを感じた。反射的に手を当てるとより強い鈍痛が生じる。
(何だこりゃ)
声に出して怪しみたかったが、呼びかけにさえ支障があるんで、やめとく。唾を飲み込んで痛みを再確認。
ともかく強烈に打ちつけただかして、喉に結構な不具合があるのはわかった。
ついでにもう一つわかったことがある。わからんことだ。わからんことがわかった。
意味不明なこと言ってるが、要するにあれだ。喉の痛みの原因を思い返そうとすると、思い返せない。何が俺に起こったのか、さっぱりチンプンカンプンなのだ。ズバリ、記憶喪失。
喉の痛みはむち打ちってわけじゃないし、頭にダメージもない。よって、交通事故とかそういう系じゃねぇ。とすると、寝ぼけてるだけか? いや、しかし、何がどうなって寝ぼけてるのかわからん。本当に寝ぼけているのかすらもわからん。
(するってーと、やっぱり、)
聞き込みしなきゃならねぇってことになる。
何が起こったのか、何でここにいるのか、ここがどこなのか、その辺りのことは全部関連してるはずなんで、取っかかりも何もないなら一人ウンウンうなったところで「休むに似たり」だ。
やれやれ、メンドくせー。
痛む喉を強いて、反応に乏しいヤツらから情報を引っ張り出すのか。時給0円で。
トイレ行くふりして、横のフスマから出られねーかな。けど、その先がどうなってるかも知らねぇし、屋外に出られてもこんな格好で帰るのは無理くせーし、そもそも俺にとって必要なことで並んでるのかもしらんし、やっぱ状況がわからんとどうにもならんよな。
また3・2・1で声を掛けっかね、とため息をつこうとしたところで、変なものが目に入った。
遥か前方。何かが動いている。地蔵のように不動な白衣の列の先だ。
って、列の先だと?
(先頭ってことか? 終点?)
さっきまでモヤが掛かっていたのに、それが晴れてきたんか。いつの間に。
(……いや、何つーか違和感あるぞ)
記憶喪失の分際で言うのもアレだが、俺の記憶が正しければ、前に並んでいたヤツらの数は減っている。
しばらく前はもっと先まで列は続いていて、個々人が視力検査の2.0の輪っかほどに判別できなくなった辺りでモヤっていた。今現在は、あれが先頭だとすると、列は短くなってるって風に見える。勘違いじゃねえよな?
じっーと見つめる。
(お……)
心の中で声を上げたのは、明らかな変化が確認できたからだった。今やモヤは完全に消え去り、先頭とそこからの人数がはっきりわかる。間違いなく前の人数は減ってきていやがる。えぇと、ざっと見て百は切ってるかね。そうして今も先頭から一人二人と数を減らされてきていた。
俺は現在前から数えて二桁台のナンバーとなったわけだ。お客様にはもう少々お時間を取らせていただきますってか。
前方には列のその先、背景も出現していた。左右にあるのと同じフスマの壁だ。それが徐々に徐々にと大きく迫ってきている。前に並ぶ人数が減っていくのと比例して。
ふむ。
(ってーと、壁が迫ってるわけじゃあねぇな。より自然に考えれば、人が減った分だけ俺が、)
前へ前へと移動しているか。
こうして黙って座ってりゃ、勝手に運搬してくれる。便利だねぇ。これは大がかりでスムーズな「動く歩道」だな、純和風の。
現実にありゃ使いどころはともかく、すげー装置なんだろうけど、まあ、
(現実離れしてると思ったが、マジに現実じゃあねーらしいわ)
前方で動いていたものが今ははっきり見えてるんで、そう言い切れる。
何かってぇと、食事風景だ。
エキセントリックな服──全体的には淡い浅葱色の和服なんだが、あちこちにフリフリがついているのはネグリジェっぽい──を着た女が立っていて、そいつが美味そうに食ってる。先頭に来た人間を。
今また白髪頭の爺さんだか婆さんだかの両肩をつかむと、口を大きく開けて、頭部を消し去った。
モグモグと唇・頬・顎を動かしている。一瞬で頭を口に入れ、首を食いちぎったのだ。首無し死体の白衣に断面からの血が滲んでいく。
人食いだ。初めて見るな。
何を好んで人間なんて食うかねえ? 何百人と胃に収めてんだろうしひもじい思いはしてねーようだから、「アンデスの聖餐」や「ひかりごけ」みたいな動機じゃあないよな。なら、ハンニバル・レクターか? ソニー・ビーンか?
何てな。
女が人の形を取っているからって、人間と見るのは適当じゃねぇだろう。人間に可能な食い方じゃねぇもの。
今度の対象は、背丈からしてガキンチョか。肩より下の辺りをつかんだな、と思ったら、ガキの全身が消えていた。蛇みたく丸呑みしたわけだ。
女のガタイは普通の成人女性並。リンゴ一個丸々口に入れようすりゃ顎が外れるところ、そいつは相手に食らいつくときだけ口とその周辺部位が瞬間的にデカくなる。珍妙な身体特性だ。額につけてる渦巻き模様の三角布ってセンスも併せて、ありえねぇ。
人間とは異質な存在なんだな。だからジジババだろうがガキだろうが容赦なく食っちまうのも頷ける。民家を襲撃したヒグマが命乞いする妊婦を意に介さず食い殺した、って話を思い出すね。
ま、とにかく、人外の存在がいる、現実離れした現象の起こるとこなんだから、ここが現実じゃあないってのはロンリテキキケツってやつだわな。
かといって、夢ってことはない。それにしちゃあ喉の痛みも含めての感覚がリアルだ。俺が産まれてからずっと過ごしてきた世界とは違うって意味で「現実じゃあない」と言ってる。
んじゃ、どこかってことになると、多分あれじゃあないかね、あれ。
(地獄ってやつ)
死後、人間が犯した罪のしっぺ返しを食らう場所。
白衣は死に装束で、俺らは罪人ってわけだ。老若男女がバラッバラのマゼコゼで並んでいるのも、それなら腑に落ちる。死んだってことだけで共通してんだな。あとは全員日本人か。なら、ここは地獄の日本支部かねぇ、多分。
ほとんどのヤツらが死後はここで相応の罰を受けるんだろうな。焦熱地獄とか阿修羅地獄とかあるにせよ、ここで与えられる罰から考えられる「罪」は、ほぼ全員犯しているわけだし。
前で何かが浮き上がったな、と思ったら、小太りした中年男だった。両足を持たれて逆さ吊りにされている。つかむ女の腕が2メートルばかり着物の袖ごと伸びていた。精肉場の解体前の牛・豚みてぇな光景。
女は中年男の頭にかぶりついた。距離が近くなったからか、歯ごたえを楽しむための食い方だからか、堅く湿った音が耳に届いた。
ボリュッ、ボリュリュッ。
一噛みごとに男の身体が欠損していく。肉と骨のミックスする咀嚼音の中、女の腹に収められていく。女の顔や着物に血が滴り、赤黒く染めた。
そうやって女の腕の長さが戻り、足首を残すところまで男は食べられた。最後に足首も口に放り込まれるのかと思ったが、ポイッと横に捨てられる。甘エビの尻尾かよ。水虫にでもなっていたか? 地獄に来るくらいだから、実際にも悪行からも「足を洗わなかった」とか。
にしても、スパゲッティ・ミートソースの飛び跳ね以上に汚しちまって、ゴミまで畳に散らかして、この先は残飯詰め込んだポリバケツ状態になんのかと心配になる。
が、そこらへんは杞憂だったようで、女が新たに先頭に座るヤツに目を向けたときには全部まっさらになっていた。転がる足首、顔や着物の血、何もかもが始めから無かったように消え去っている。掃除も洗濯もゴミ捨ても要らないってか。地獄のハウスキーピングはお手軽で羨ましいや。
不動産屋が家族連れに紹介するかもなぁ、とバカなことを思っているうちにも、食事風景は続く。
(今度は男……青年くらいの年か)
食われるヤツをそう判断できたのは、女が相手の右腕を上に引っ張って上半身が見えたからだ。
女がもう一方の手で右肩を押さえたな、と思ったときには、太枝を無理矢理ねじ切ったような音がして、青年の腕がもがれていた。そこへ、
「ひぐぁあ!」
苦鳴が上がった。
(へえ?)
意外だ。あいつの声か?
背中がこっちに向いてるから断定はできないが、他に上げるヤツもいない。じゃあ、やっぱり今食われてる青年が上げてんのか。百人以上食われてる中で初めて聞いたな。
って、そういや、少なくとも声が届く距離内じゃ、頭を残して食われるヤツはいなかったっけ。声出す器官がありゃ叫べもするか。
女は手首を持ち、肩の断面から腕を食べていく。骨から肉を分離するように噛みちぎる。骨まで食えるはずだが、敢えてそういうふうに食うのな。
回し回し口をつけていき、右腕は血とわずかな肉のこびりつく骨となっていった。どっかで見た食い方だと思ったが、思い出した。フライドチキンだ。揚げてねぇけど。めっさレアだけど。
女は骨を放り捨て、今度は左腕に手を掛けようとする。二本目、行きますか。
「う、うわぁあああッ!」
と、青年が叫び、駆け出していた。女から離れ、こちらに向かってがむしゃらに片腕と両脚を動かし駆けてくる。必死の形相、血走った目までが見て取れた。
(おー、こりゃ活きがいいわ)
ちっと感心した。他のヤツらはブロイラーみたく行儀良く並んで出荷を待つだけなのに、抵抗する気概があんのか、あいつ。動機は単細胞な恐怖心だとしても、食品の鮮度を自らアピールするのは好感が持てる。笑える。
男が俺の横を通過。もしかしてそのまま逃げ切れんのかな。追っ手が掛からず、後ろの地平線彼方まで走っていけばあるいは……
(って、無理くさいな)
女は立ったまま。だが、手と腕が追っていた。手は航空機のように宙を飛び、腕は袖ごと飛行機雲のように長く長く伸びて続く。高速に、スムーズに、やすやすと獲物に追いつく。
指が青年の露わになってるふくらはぎを摘んだかと思うと、一気に引っ張り、男の身体を数十人分引き戻していた。ベリッともブツッともつかない音がして、直後、絶叫が響く。片腕の青年は、脚を抱えて畳の上で転げ回っていた。引き戻しついでに肉を剥ぎ取ったのな。手で押さえたとこから血が漏れ出てら。
女の腕が巻き尺みたく戻る。摘んだ肉片を口に入れ、満足そうに笑みを浮かべた。その間にも、もう一方の腕が青年に向かって伸びている。
それを見た青年は慌てて立ち上がり、脚を引きずりながらも再び駆け出した。真っ直ぐ逃げたのではスピードで負ける。今度は前後左右と滅茶苦茶に走り回った。
女の腕はウネウネと蛇のうねりを宙で描く。関節を無視できるのはさすが人外。しかし、さっきと違ってなかなか獲物を捕らえられない。青年の火が付いたような足掻きに手を焼いている、わけじゃなさそうだ。
本気で捕まえようとしているようには見えない。速度に余裕がたっぷり感じられるし、追い駆けたり先回りしたりの動きが大げさ過ぎる。
(楽しんでいるってか?)
必死に逃げようとしているヤツ相手に、絶対的に上の立場から追いかけっこを仕掛けている。生存本能を狂乱させているのを、笑って追い立てている。
こんなもん見せられて、当然思うことは一つだ。
(まあ、いいんじゃね)
そんだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
何か変か?
んなこたないだろう。魚釣りと変わらんし。いや、ちゃんと食べる行為に基づいている辺り、キャッチ&リリースなんて偽善行為よりは遙かにマシなことやってらーな。
食うために逃げる獲物を追いかけて、その中で楽しみを覚えるくれぇは全然許容範囲だ。食わねぇのに生き物弄ぶ下劣さに比べりゃ何てこたない。
女の手は、余裕をもって青年の身体をむしっていく。次々とあちこちを欠損させ、青年の動きは鈍くなりながらも、なおも逃げ続ける。ボロボロの血で汚れた服が筆になって、相当数の畳が赤くデコレートされていた。
ああやって、生きたまま一部分ずつ食べられて、最終的には頭と脊椎が残されてピクピク動く添え物になるんかな。魚の活け作りみてぇに。
と、思ったら、巨大化した手の平に全身を叩きつぶされた。ミンチになったのが女の拡張した口に放り込まれる。
無駄なく食うねー。素晴らしいわ。地獄の日本支部にはもったいない処刑人だぜ。
なにせ日本ってな、食料廃棄率世界一、つまりは無駄に食い物捨ててる選手権ナンバー1だかんな。
自給率が少ないってんで5500万トン海外から食い物輸入しておいて、賞味期限過ぎたり食い残したりで1800万トン捨ててる。ゲスの極みだな。最低の民族だ。
そういや「もったいない」は日本特有の言葉なんだっけ? 頭と口が腐れきってんな。
次の罪人は女……学生くらいの歳かね。そいつも肩をつかまれて立たせられると抵抗の意志を見せた。逃げようとして身体を揺する。
(けど、今度は逃がすつもりはねぇようだぞ)
肩をつかんだ手は微動だにしない。狩猟を楽しむのは一回こっきりか。またどっかで気まぐれにおっ始めるかもだが。
女学生は振りほどこうとしても振りほどけない状況に、やがて金切り声を上げ、ついには号泣し始めた。
(うぜーなぁ)
耳に障る。活きがいいのは結構だが、泣き叫ぶ権利なんざねぇだろがよ。
「己の欲せざる所は人に施すなかれ」──自分がやられて嫌なことは誰にもすんなって、お母さんにも言われてきたろ? ママの言いつけ守ってこなかったから、今更そんな涙やら鼻水やらよだれやらまき散らす最期を迎えることになる。それとも「誰か」ってのが誰だか具体的に思考できなかったか? あぁ、小便まで漏らしてやがる。無様だな、無様。まさしくザマぁねえや、ってかい。
雑多な体液にまみれたものの、両腕・両脚を躍り食いされてから、あっさりそいつの全身は胃袋に収まった。地獄の女は好き嫌いないね。親のしつけが良かったんかな。
さて、だいぶ前の人数が減ってきた。俺が罰を食らうのは、
(ってか、食らわれるのは、)
あとどんくらいかね。まあ、このペースなら近々だろ。「CMの後で」ほどに近々。
食われた先はどうなるんだろうか。無か? それならそれでせいせいすらぁな。とっとと受けたいもんだ、肉を食った罪の報いを。
(んなこと考えてる俺はおかしいかね)
おかしいんだろう。ほとんどのヤツらにとっちゃ。「まともな人間」にとっちゃ。「肉を食うのが罪? 頭おかしいんじゃない?」なんて言うわけな。
他にそいつらの常套句は、「あんたは野菜だけ食ってればいいじゃん」みてーのから「でもそれ、命の差別」だかに続き、「自分は生き物殺してないと?」あたりで締めくくられる。
ほざいてんじゃねえよ。だから、同罪だっつってんだろ。目くそ鼻くそなんだよ、クソが。俺がクソだって事実を懇切丁寧に垂れ流したところで、てめぇらのクソっぷりは小揺るぎともしてねぇじゃねえか。
あとは、何だ、「生きるためには仕方ないんだよ」だっけ? わーお、すげーわ。
いや、掛け値なしにマジで「生きるためには仕方ないんだ」って言える奴はすげーと思うわ。余程のアホかカスじゃなきゃ言えねーよ、んな台詞。
生きるためには仕方ない? 脊髄反射で出される言い訳だ。思考停止もいいとこだな。
別に肉を食わんでも生きていけるって事実を持ちだそうってわけじゃない。ましてや菜食主義者は殺生をせずに生きてる聖人だなんて宗教じみたことを言うつもりもねぇ。野菜作るのだって生き物殺してるだろ、害虫駆除とかで。
言いたいのはあれだ、肉を作るにゃコストが掛かるってことだ。金の話じゃなくカロリーの話。牛肉を造るのに7~11倍の穀物が要る。
それで何が問題かって、カロリー計算で考えれば世界人口全て以上を養えるだけの穀物生産をしてんのに、実際はおびただしい餓死者が出ているってことだ。矛盾しているようで、してない。そんだけの量の肉を作ってるってのでつじつまが合うだろ。飢え死に寸前のヤツから飯奪って、ウシやブタにくれてやるのさ。そういう構図だよ。
それでも、肉を食うことそのものを否定するつもりはない。必要な分だけは食べていいんじゃねえの? 本当に必要ならな。
沖縄はかつて長寿日本一だったが、それは適度に肉食を取り入れていたからだ。便所に豚を飼ってウンコ食わせてた。その豚肉以外にも魚とかヤギとか猫とか食ってたわけさ。まあ、ここまではいいぜ。
しかし、沖縄が長寿日本一から転落したのは、食事が欧米化したため、つまり肉の食い過ぎによるもんだ。そんで他んところと同レベルになった。今や沖縄含め、全国の大勢の方々が糖尿病、メタボ、動脈硬化に悩まされ……って、余計な肉を食わなきゃいいだけの話だろうが。なぁ?
自分の命を削って肉を食う。餓死者が出ても肉を食う。思考停止で肉を食う。肉を食う。肉を食う。肉を食う。どいつもこいつも、あいつらもてめーらも俺も。
生きるために仕方ない? 無駄に命捨ててんだろ。自分と、誰かと、何かの命をさ。美味いもの食いたいってだけで命を粗末に扱いまくり。はッ、暴食が七つの大罪に入るのも道理ってこった。
そんなふうに命を粗末にしてきた俺らにゃ、こんな地獄もふさわしいだろうな。
ああ、残飯をほとんど出さず、肥満にもならないような食生活送ってきた俺も同罪だ。
痛みの残る喉を撫でる。やっと思い出したわ。
(人間って人間が──自分含めてまったく嫌んなっちまって、それで「これ」か)
自分で自分を絞首刑したわけな。罪の重さを考えりゃ何の贖罪にもならねぇが。
生命に対する冒涜、それが蔓延してるのを知りながら何にもしてこなかった。勇気がないからだとか無力だからとかじゃなく、単にメンドくさいからだ。その気がありゃ、力がねーならねーで身につける努力するわな。面倒だから何もしなかった。そんだけだ。
(改めて罪深けぇなあ)
単純な理屈でさ、目の前でレイプされてる女がいて、それを缶ビール飲みながら眺めていたヤツは天国に行けるかってこった。即答で無理だろ。命の冒涜を無視して飯食い続けてきた俺は、間違いなく悪人だ。ここにいるヤツらと同罪さ。
(おっと、残り十数人)
「注文の多い料理店」と違って、座ってるだけだから楽なもんだ。どんな食われ方するかね、俺は。
どうあれ、ちゃんと食ってくれるってだけで慈悲深い。
(年間それぞれ30万頭ほど狩られてる鹿やら猪やらは、)
ジビエとして珍重されるし、繭糸を取った後の蚕のサナギなんかは佃煮にされて長野のスーパーとかで売ってる。
けど、そんなんはごく一部で、結局ほとんどは捨てられてるんだ。食えるのに捨てる。理由は運搬に手間が掛かるとか、美味くないからとかそんなんだ。それらを食えば、他の生き物を食わずに済むってのに。
金を掛けるのが惜しい、舌を満足させたい、そんなのを優先したわけな。要するに命を尊重なんかしてねぇんだ。
それでも『生きるためにはウンタラカンタラ』抜かしたいなら抜かせばいいや。神の名のもとに虐殺しまくったキリスト教徒みたく口だけは敬虔にな、アーメンアーメン。
ハッ、ったくヘドが出るぜ──って、食事の場にふさわしくないフレーズか? ま、口からクソ出すヤツらよりマシだろ。
(あと十人切ったかね?)
ここまで来ると、正面に立つ女の顔も体つきもはっきり見える。シミ一つなく色白で、肉感的な艶やかさにあふれている。
マブいスケ、ハクいナオン、そんな感じか? エキセントリックな着物を脱がしゃ、写真集に載ってても違和感ないな、熟女モノの。
つっても、女は三人一遍に頬張ったりしている。その分頭部だけが巨大化して、さらに中の肉を噛みしめたとき、乗用車のデカさになった唇からペンキのような血が垂れた。こうゆうとこは写真集よりカートゥーン・アニメだな、18禁の。
(うーん……)
もうじき俺の番になるわけだが、女が少年の腹をかき破って臓物をすすったり、老婆を頭からバリバリ食べていったりしているのを見ているうち、気持ちに変化が起こってきた。
恐怖・嫌悪ってのは毛頭ない。そういうんじゃなくて、何だかな。えー……そうだな……
(何か、こう……何だ)
我ながら煮え切らない思考が巡る。
そこへ肉を裂いて骨を砕く軽快な音。気づくと、目の前に逆さまの生首があった。女の口の端から、黄色い脂肪のこびりついた皮膚でデロンと垂れ下がっている。
お、目が合っちまった。
生首と、じゃなく、女とだ。
一瞬のことだし、ただの気のせいかもしれねぇが、少なくとも俺の中じゃ視線で接続したみてぇに思えた。
女が生首をすすり込むように飲み込む。そして、次の罪人に目を向け、食べに掛かる。すると、
(……あー)
俺のあやふやな気持ちってのが形になった。しかし、参ったな。マジかね。
どうも俺は、女に言ってみたいことができちまったらしい。
(いやいやいや、)
さすがにおかしいよな? おかしいって。理屈で考えても明らかだ。
相手は人外の存在だぜ? 俺の価値観を手前勝手にぶつけてどうするよ。人間規準の「その一言」に意味なんざねぇだろ、フツー。
(けど、なぁ、)
反面、理屈で考えると、言いたくなる自分自身も理解できちまうんだよな、困ったことに。
人外だから言っても意味ねぇかもしんねぇが、人外だからこそ言ってみたくもなるわけよ。
なんせ「まともな人間」にゃ言う気すら起きねぇかんな。
起きるわきゃねーよ。言ったところで右から左に流されるし、聞いたとしても空っぽの頭じゃ表面的なことしかやれねぇ。そんな白痴のゲス共相手に、言う気なんざ起きっこねぇ。
けど、だから、この女になら……なんて期待しちまうんだな。
はァ、やだやだ。いくらなんでもセンチメンタルすぎねーか。一方的に想われた女こそいい迷惑だ。俺はあれか、最期だから弱気になってんのか。んなわきゃねぇと信じてぇが、たまんねーな。
ため息をついて、首を振る。
やめだ、やめ。死んでまでカッコワリー真似したかねぇよ。憎からず思ってる相手に煩わしい思いさせんのも気が引けるし。
黙って食われよう。そうしよう。地獄にふさわしく一切の希望を捨ててな。諦め切ってるから来ちまったあの世で、蜘蛛の糸を夢見るなんてな愚の骨頂だ。
そう決めたところで、ナイスタイミング、俺が先頭になっていた。今度こそ間違いなく、女の瞳は遮るものなく俺を映している。
座っている俺に、立っている女。見上げる形だからか、女の背は高めに見えた。あと、グラマーさが際立つ。
(死人がどういう栄養になるか知らんが、そのたっぷりとした胸の脂肪の足しになるなら大歓迎だね)
口元が緩んでくる。罪人が罰を受けるのにこんな心持ちでいいんかな。それとも、贖罪によって救いを与えられるがゆえの当然の心境か?
客観的に見れば不審者そのものだろうニヤケ顔で見上げていると、女の口が開く。いよいよ食われる、と思いきや、数度動いて、何か出てきた。
「あなた、遺言でもあるのかしら」
──出てきたのが台詞だというのを認識するまでに、間抜けな空白があった。
しゃべった? いや、喉もあれば口もあるんだから、そりゃしゃべって不思議ねぇけども、今まで台詞言ったことあったっけか? 豪快な食いっぷりを披露した割には、ずいぶんおっとりした声……
(じゃなくって、そんなことより、俺に声を掛けただって? しかも、「聞いてきた」だと?)
目をぱちくりさせる先には、女がこちらを見つめたままでいた。返答を待っている、のか。
確かに言いたいことはあったが、遺言じゃあない。いや、食われる前に言ったなら、それはどんなんでも遺言になる理屈か。
あれ?
(なら、つまり、言いたいことを言えって? 言ってもいいって?)
一度引っ込めると決めた言葉だぞ。ここで覆したら何のための逡巡だったよ。
だけれど、聞かれているのだから、黙っているよりは言った方がいいんであって……しかしそれでも……
ああ、もう……言っちまえ!
「──食、う前に『いただきます』と、言ってくれ」
痛む喉につかえながらも、バカなことを言い切ってしまった。
マジでバカだな。
バカだな、マジで。その日会った女をアイドル化してんじゃねーよ、俺。
顔は平静に見えるかもだが、実際は青ざめるか赤らめるかも選べずテンパってるだけだ。
心臓が痛い。言わなきゃよかった。なのに、言っちまったことで期待も膨らんでいる。身勝手な期待が。
本当の意味で、まったく本当の意味で、「その一言」を言ってくれたなら。くだらないカスのわめきで腐った鼓膜は新鮮な細胞で再生され、膿んだ脳は蒸留水で洗い流されて綺麗に輝くはずだ。たまらない喜びだろう。
けど、当たり前だが、沈黙がキツい。そりゃあ、バカがバカ言や何も言えんわ。女のこと何にも知らねぇのに、俺って男はふざけたヤツだよ。
この延々続いてきたであろうお食事タイムに中途で「いただきます」とか言う意味もねぇし、人間とは別次元の生活様式・文化を持ってるかもしらんし。そもそも食われる罰を受けるヤツが言う台詞かっての。あきれられて仕方ない。
ああ、妄想だよ。現実に立ち向かえなかったウジウジ野郎が、ありもしない理想を肥大化させてるだけさ。でも今までの現実にゃ妄想すら抱けなかったんだ。渇望する。切望してる。女の口から「その一言」を聞けたら俺は……ああ、クソ、バカすぎる。死ね。死んじまえ、俺。
女の口が笑みの形になっている。苦笑か? 嘲笑か? まともに顔を見れない。いたたまれねぇからとっとと食ってくれよ、マジ頼む。
そして、女の口が開いた。
「あなた、面白いわ」
は?
呆けたところで、襟首をつかまれて宙に引き上げられた。伸びる腕はUFOキャッチャーのように俺を運んでいく。ポイと置かれた行き先は穴ではなく、女からやや離れた真横。
(ええと?)
場所を改めて、俺は手刀でナマスにでもされるんだろうか。そうするのは女にとっちゃ他愛もなさそうだが、ナマスどころか何かしらもされる気配がない。まったくない。
女はもうこっちに目を向けてなかった。新たに先頭になった三十路女を頬張り始めている。
そうしてからずっと俺はボーッと、畳の上であぐらをかきながら、彼方に続く白衣の列と女の食事風景を眺めていた。
女は時折チラリとこちらに目線をくれるようでもあるが、声を掛けてくることはない。俺としても食うのを邪魔するのは気が引けるんで、声を掛けない。そんなもんだから、今の状況の意味がわからんまま、途方に暮れるしかなかった。
煮ても焼いても食えないヤツだと口も付けずに捨てられた線も考えたが、だとしたら身体が消滅してねぇのに理由が付かん。これまで「残飯」は血の一滴も残さず消えていたのだし。
口を付けなければ消えないってのなら、俺の鼻でもちぎって口に含み、「不味っ」と吐き出してから全部消せばいい。食いもせず命を捨てる非道は人間が毎日やってることだ。自分がされたって文句は言えねぇさ。でも、それも違うみてえだ。
じゃあ何だ? ここにいるヤツらは俺も含めて食われる存在だろ。食われねぇでほっとかれる意味は何だ?
(……家畜?)
それはない。畜産ってな、エサやって発育させなきゃ意味ねぇもんだろ。ウシにせよ、ブタにせよ。
それともあれか、これから頭部を固定されて、食い物を無理矢理胃袋に注ぎ込まれるかも? んで、病的に肥大した肝臓を珍味としていただかれるかも? カモなだけに。
「はッ、ハ」
あまりのくだらなさに、逆に笑えた。
ねーよ。だから死人が飯食って太るかっての。
けど、笑ったことで思い当たった。女は俺のことを「面白い」と言ってたっけ。
はぁはぁ、なるほどね、それならそういうことか。
食い物になるのにその場で食わない、けど家畜でもないものっていや、あれしかないわな。
愛・玩・動・物。──いわゆるペット。
他の国とおんなじで日本もそうだったよな、犬や猫をミレニアム前からペットとしてきて、同時に食用ともしてきたってのは。
まあ、今現在は、食文化に関しちゃ未来の鯨肉を暗示するように廃れちまってるにしても、古き良きこの地獄・日本支部じゃ、食い物としている存在を可愛がるってのは変でもないってこった。
(しっかし、よりにもよって俺が愛玩されるって、地獄の女の趣味ってわかんねぇなあ)
俺を「面白い」っつって飼うってな、ずいぶんと面白いことするわ。服装の趣味と同じでエキセントリックなのが好みってか? ハ、いいね。いいねボタンを押したいくらい、いいね。
……ん? ああね、そうか。
不遜にもほどがあるが、似たもの同士、変なもん同士で惹かれあったんかもしらんな。金魚すくいの水槽ん中にデメキンがいたんでつかまえてみましたーってな気まぐれにしたって。
まあ、今後どうなるかはまったく未知だが、どんなんであれ、現世での動物の扱いから逸脱するもんはないだろう。
他に何人か引っ張り出してきて、そいつらとヨーイドンで徒競走させるとかな。んで、遅いヤツは潰して馬刺にすると。
あるいは、闘犬、闘牛、闘鶏、蛇とマングースみたくバトらせてくる可能性もあるか。俺は土佐犬や軍鶏ほど強くねーんで見応え皆無だけどな。
うがった見方過ぎるかね。普通にペットとして飼われると考えて安易なわけじゃあない。ペット的な──よく言われている通り、「家族の一員」として扱われるんでも全然不思議ない。
(つっても、犬・猫は年間30万匹、ガスで殺処分されてるんだが)
別にこれは皮肉な見方じゃねえよ? 人間の中絶件数も年間30万件だかんな。ペットはまさに「家族の一員」と同レベルに扱われてるってこった。
足手まといになったら犬も猫も胎児も平等に殺す。非常にわかりやすい。ダブスタなしの、純度100%の独善さだ。
憲法9条とか自衛隊とかの是非なんざ議論する必要ねぇってのは明白だよな。外敵を気にするまでもなく、中から腐りきってんだから。終わってんだから、人として、誰も彼も。
白衣のヤツらが一人、また一人と宙に上がっては落ちている。女はピーナッツのように罪人たちを放り上げては口でキャッチして噛み砕いていた。口を閉じる度、百科事典のデカさの歯の間から血しぶきが散る。
次に瞬きする間に、俺をやっぱ目障りだってんで食い殺すなら──十分ありうることだが──まったくありがたいこったよ。このどうしようもない罪悪感と嫌悪感を消し去ってくれんなら望外の喜びだ。心残りがあるとすりゃ、感謝の意を表す暇もねぇだろうってだけさ。
じゃあ、反面、食われないままのうのうと座って放置プレイされてんのは苦痛かってと、それも違う。
俺は今、ものすげーワクワクしている。明日の遠足や今夜のサンタクロースを待つガキかってくらい、楽しみでしょうがない。
何って、もちろん「いただきます」の言葉だ。それ以外にない。ああ、あんだけ自分の発言を黒歴史扱いしといて、未だに俺は夢見るアダルトチルドレンだ。
言われないかもしれない。というか、その可能性のが高い。けど、それが何だってんだ? 構うもんかよ、コンマ9桁のパーセンテージだろうと、楽しみに待てる。幸せの条件としちゃ十分だろ。
こっちに来るまでは、ひたすら真っ暗な汚泥の底にいた。息を吸って、吐く。その一呼吸にいちいち苦痛を感じた。一筋の明かりも先にはなかった。
なのに、今はどうだ。希望を持ちながら時を過ごせる。束の間でも永遠でもどっちでもいい。満たされた現在、そして先にあるのは「いただきます」か我が身の消滅だけ。何てこった、輝きにあふれてる。光だけしかない世界だ! 最高! ヤッホー! ライフ・イズ・ビューティフォー!
「はっ、はははははっ、あははははははははっ!」
思わず笑い出していた。喉の痛みも忘れて、心の底から笑う。
いいのか、こんな幸せで。俺が。この俺が。
女がこっちを見ていた。食事の邪魔になっちまったら、悪いことしたな。けど、笑うのを止められない。
腕が伸びてきて、五指が頭上へと広げられる。つかまれて口内へ放り込まれるか。それともナデナデされるか。どっちでもいい。どっちでもグッドだ。女の微笑みの意味はわからない。
頭に触れられたと感じたその際、もしかしてここは天国なんじゃないかと、バカな考えが浮かんだ。
いや、ほんと、バカなことだよ。
というか貴方、とんだギャグ小説を書くけど、実は今作のような深遠なテーマ小説も含めて、他のジャンルの小説も書ける凄い人なのよね(ホラーもあったし)。
前回はさすがに心配したけど、まだ大丈夫なようでファンとして安心しました。
闘志があり実行する力があったからそうしただけでそういう意味じゃ人間も他の生き物と変わらないし
闘志という戦いのためのものでしかないから矛盾してようが無知だろうが構わない
戦えればいいから寧ろ矛盾や無知の三つや百つないと困る
逆にだからこそ理念や信念、愛とか立派なものがいる
結局この男性はこの世が生存競争の戦いの場であることと、自分もその中の一つであることを拒んだだけなんだろう
不平があるなら皆から嫌われようが自分の闘志に従い某緑豆なりなんなりに入れば良かった
理論的に考えるだけじゃ破綻するという話 思考など所詮生きるという暴力行為を成し遂げるための野蛮な暴力器官の一つにすぎ無い
暴力器官なら暴力器官らしく無知矛盾邪悪は当たり前 吐き気を催す自分が邪悪と気づかない最もドス黒い邪悪であることも当たり前唯役割を果たしているだけ
じゃないと唯の役割を果たすことも出来無い欠陥品の暴力器官
彼は馬鹿になりたくなくて同胞を馬鹿にして冒涜して一番馬鹿な癖に自分だけ馬鹿でないつもりでいる最も吐き気を催す馬鹿
自分の心も貫けなくて周りと同化する程服従も出来無い半端者が一番惨めかな 無駄な葛藤が多くて
なんか親近感を覚えちゃう
しかし幽々子様もついに食人の領域に…
面白かったですありがとうございました
あと私は前作も大好きでしたよ