「はぁ……」
博麗神社の縁側で、私は一人湯飲みを傾けていた。落ちてくる滴が靴をぬらすのも構わずに、ただただ静かに外を眺めている。幻想郷は今日も平和だ。
博麗の巫女としては嬉しいのだが、博麗霊夢としては暇な一日である。当然参拝客が来るわけでもないし、流石の妖怪たちも雨は嫌いなようだ。ここ一週間は誰の姿も見ていない。
「こういうとき、趣味が無いって退屈ね。何か私にも出来ることってないのかしら」
ポツリと呟いたとき。空から見覚えのある人影が高速で飛んできた。
「よう、霊夢! 久しぶりだな!」
ずぶ濡れの金髪を揺らして、霧雨魔理沙がやって来た。
「ちょっと魔理沙! あんた何でこんな雨の日に来たのよ。バカじゃないの」
「私の頭は正常だぜ。とにかく中に入れてくれよ。寒くて仕方ないんだ」
「当たり前よ。ちょっと待ってなさい。畳濡らさないでよね!」
そう言い残して、私はタオルを取りに行った。相変わらず変なヤツだ。わざわざ雨の日に来るなんて。
タオルを取って戻る途中、台所でお茶を入れてやった。風邪でも引いて寝込まれたらたまらない。
「ほら早く拭きなさい。お茶も入れてやったから」
「お、サンキュ霊夢」
タオルを魔理沙に渡し横に座る。わしゃわしゃと髪を拭く魔理沙に私は聞いた。
「ねぇ魔理沙」
「なんだ?」
「あんた何しに来たの」
「霊夢の顔を見に来た……じゃダメか?」
「あんたらしくないじゃない。それで私が納得するとでも?」
「だよな」
ふぅと息を漏らし、いつもは見ない真剣な顔で魔理沙がこちらを向く。正直面倒くさかったが、向かい合って話を聞く。
「今日は、霊夢に伝えたい事があって来たんだ」
「そう」
「ずいぶんあっさりだな……。まあいい。霊夢は、私の事をどう思ってるんだ?」
「少なくともそこら辺の妖怪なんかよりは仲がいいんじゃないのかしらね、ぐらい」
それを聞いた魔理沙は静かに目を伏せた。膝の上で握り締められている拳が、微かに震えているのが分かる。声を振り絞るようにして、魔理沙が言葉を発する。
「私は、霊夢が、好きだ。堂々としたその強さが、いつの間にか皆を笑顔にしてるその明るさが、霊夢の全てが、私は好きだ」
私は何も応えなかった。魔理沙の気持ちなんて、とっくに気がついてた。だからこそ私は、それを無視したのだ。……博麗の巫女だから。
「なぁ霊夢。カンの良いおまえのことだ。気付いていたんだろう? 私の気持ちに」
「勿論知っていたわ。でも、私はそんなのに興味は無いの。愛情なんて博麗の巫女には必要ない。良い魔理沙。愛の形なんて人それぞれ。別にそれはいいの。だけどそれは、私に求めるものじゃない」
この言葉を投げかけるのは、すごく嫌だ。相手は同じ人間の魔理沙だ。だけど私は、博麗霊夢で博麗の巫女なのだ。誰にも平等で中立な立場でいなければいけない。だから私は、大切な人を傷つける。
「そんなくだらないことを話に来たのなら帰って。私は幻想に付き合ってる暇は無いの」
瞬間、魔理沙の瞳から涙が零れ落ちた。それは彼女の傍に小さな水溜りを作っていく。
「……その言葉は、博麗霊夢としてじゃない。私は『霊夢』の応えが聴きたい」
「同じことだわ。私は博麗の巫女を務める博麗霊夢なんだから」
「もういい。霊夢なんか大ッ嫌いだ!!」
帽子で顔を隠し、水しぶきを散らして魔理沙は飛び立っていった。私はそんな少女を見て、呆れて首を振った。そこに間髪入れずに紫が、スキマから顔を出した。
「霊夢。今の態度は魔理沙が可哀想だわ」
「断り方をどうしようと、私の勝手よ」
素っ気なく言う私に、紫が溜息をついた。
「そうね。博麗の巫女としては完璧な断り方だわ。でも、もう少し素直になりなさいよ。恋しちゃいけないなんて決まりは無いわよ。本当はどうなの?」
「……私の中で、あいつの存在は大きすぎる。悔しいほどに、あいつの優先順位は一番高いわ」
「魔理沙も同じなんじゃないの?あなたと立場が少し違うだけで、あの子だって――」
「分かってるわよ! だからどうしていいかわかんないんじゃない!」
普段感情を押し殺している私がこんな姿をみせたことに、紫は驚いて目を見開いていた。閉じ込めていた想いがついに耐えられなくなった。
「私だって、魔理沙が好き。だけどそれは、あいつが抱いているものとは違う。そんなのを伝えたってあいつはきっと笑えない」
「そうね。……よく考えた方がいいわ。私はあなたを手伝わない。何かを変えたいのなら、自分で全部考えなさい。あなたたちにとって一番良い方法を、ね」
言うだけ言って、言わせるだけ言わせて、紫はスキマに消えた。
☆
魔理沙を怒らせて、一週間が経過した。あれだけ降り続いていた雨はあっという間に去り、太陽が顔を出している。暑さにくたくたになりながら、さきほどようやく神社に帰ってきた。
魔理沙は相当怒っているのか、神社に顔を見せなくなった。当然何所で会っても目を逸らし、逃げるように飛んでいってしまう。話しかけても無視され、時折悲しそうに見つめてくる。
紫の助言を受けてから、ずっと魔理沙のことを考えていた。三日もたつと、彼女が来ないことに不安を覚えた。家まで行ってみたけど留守だったり、出ても即座にドアを閉められる。そうされる事が辛くて、苦しくて。思わず嗚咽を漏らして泣いた。魔理沙に会いたい。お願い、話がしたいの!みっともなく泣き叫んだ。食事も喉を通らず、見る見るうちにやせ細った。ここにきてようやく、自分は魔理沙が好きなんだと気付いた。彼女がいないと、私は何も出来なくなっていた。彼女がいることを当たり前だと思っていた。
やがて高熱が出て、布団から出れなくなった。丸まって寝ている間に、魔理沙の夢を見た。追いかけても、手を伸ばしても、届かない魔理沙の姿。起きてそれが夢だったと安心するも、隣に魔理沙がいないことを確認して、再び視界が滲む。
今もまた、ウトウトまどろんでいた時だ。懐かしい、待ち望んでいた声が聞こえたのは。
「霊夢っ! 大丈夫か!?」
「まり、さ……?」
ぼんやりとした視界の中で、大切な名前を呼ぶ。
「このバカ霊夢! 何でちゃんと食べないんだよ!」
魔理沙の声なんて、もう耳には届いていない。熱があることを忘れて、細い身体に抱きついた。
「魔理沙っ!!」
「おわ、ちょ、霊夢! お前熱があるんだろ! おとなしくしとけよ!」
「魔理沙ぁ!」
ぎゅっと力を込めて魔理沙を抱きしめる。涙が溢れて止まらなかった。気がつけば、魔理沙がそっと頭を撫でてくれていた。
「ごめん霊夢。私はお前になんてひどいことを……」
「違う! 悪いのは私よ。あんたの気持ちを踏みにじって。最低なヤツだわ」
「……なぁ、今度は聞かせてくれるよな、『霊夢』の本音を」
「えぇ。……魔理沙、私は、いいえ。私もあなたが好き」
「……そうか。ありがとう霊夢。じゃ、ちょっと待ってな。お粥を作ってやるぜ」
とたとた、小さく足音を鳴らして、魔理沙が台所へ消えたのを見届けて、私の意識が消滅した。
目が醒めたとき、外には星が出ていた。卵のいい匂いがして、魔理沙が鍋を持って現れた。
「おはよう霊夢。魔理沙様特製卵粥だぜ。味わって食べろよな」
得意そうに鼻を鳴らして、魔理沙が微笑を咲かせる。すっかり元通りの魔理沙に安堵している自分がいたことに気付いて。なんだかおかしくなって笑い出した。
「なんで笑ってんだよ」
魔理沙の言葉、仕草の一つ一つが、ウソで塗り固められていた本当の私を引き出してくれる。私を、博麗霊夢として見てくれる、接してくれる事が、すごく嬉しい。
おかしな私を見ながら、魔理沙はずっと笑顔を絶やさなかった。
☆
「ごめんな、泊めてもらって」
「いいのよ。私だって、こんな時ぐらい誰かといたいんだから」
「誰かと? 私とじゃなくてか?」
「! ち、違うわよ、もう! 魔理沙のバカ!」
拗ねたような口調で魔理沙がからかってくる。顔を真っ赤にして反論する私に、魔理沙はクスクスと穏やかな笑みを漏らす。
「そんじゃ寝るか」
「そうね」
二人で一つの布団に潜る。魔理沙は暖かくて、優しい匂いがした。狭い布団のため、当然私達は密着する事になるのだが、私がドキドキしているのに対し、魔理沙は涼しそうな顔ですでに寝息を立てていた。
「早……」
こうして近くでよく見ると、魔理沙は綺麗な顔立ちをしている。長くて綺麗なまつげ、ちょっと小麦色のすべすべした肌、桜色の唇。
魔理沙はよく、私を綺麗だと言うが自分には分からない。ただ一つ言える事は、魔理沙が言うのならそうなんだろうなと思うこと。じーっと見つめていると、何か夢でも見ているのだろうか。手を伸ばして、何かを捕まえようとしている。
そして――捕まえられたのは私だった。魔理沙は私の背中に手を回し、力を込めて抱き寄せようとする。大事な事だからもう一度言うが、ここは狭い布団の中である。すでに、お互いの身体はくっついている。つまり、このままいけば……
唇に、柔らかくて、熱を持ったモノが、触れた。
「~~~~! ~~~~~!!」
口を塞がれて声が出せない。魔理沙は寝ぼけているのか、一向に手を離す気がない。更に強い力で、体力を使い切っている私を抑えているために抜けられない。そのまま放っておく事、五分。
魔理沙が、手の力を緩めると同時に目を開けた。私は跳び起きて魔理沙に抗議する。
「ちょ、ちょっと魔理沙!? まさかあんた分かってて……」
「勿論だぜ」
ニシシ、と悪びれも無く魔理沙は笑う。私は、頬が熱くて仕方なかった。
「これは私から、霊夢への罰だ」
「何の罰よ」
恥ずかしすぎてそっぽを向いたまま訊ねる。
「気付いてたのになんもしてくれなかった罰だぜ」
言うが早いか、私は魔理沙に押し倒された。魔理沙は頬を紅くして、息遣いも荒い。
「そろそろ、我慢出来ないかも……」
ゆっくりと魔理沙の唇が近づいてくる。さっきよりも強く押し付けられて歪む二人の唇。初めてのキスは甘い味がした。
これから私はどうするのだろうか。いつか、魔理沙と結婚でもするのだろうか。魔理沙はきっと、いつもの悪友的微笑みを浮かべて言うんだろう。それはいいな、って。
退屈してた、楽しくなかった日常は今。明るく輝き始めてる。やっぱりそれは、こいつのおかげで。心の中だけで、そっと呟く。
ありがとう。大好きよ、魔理沙。
「ねぇ魔理沙」
「どうした?」
「何で私が寝込んでるって知ったの?」
「……ノーコメントで」
「なんでよっ!」
「い、いやな、その、教えてもらったんだよ。でも口止めされててさ。言ったら私殺される」
「その反応は……紫ね」
「……どうだろうな」
「安心してよ魔理沙。私が返り討ちにしてあげるから」
「……」
「あ、一つ言っておくけど、私が死ぬ時は魔理沙も死ぬ時だから」
「霊夢さん今何かサラッと怖い事言いませんでした?」
「……ふふっ」
「私こいつに恋してるんだよなぁ!? 今告白した事ちょっと後悔したぜ……」
博麗神社の縁側で、私は一人湯飲みを傾けていた。落ちてくる滴が靴をぬらすのも構わずに、ただただ静かに外を眺めている。幻想郷は今日も平和だ。
博麗の巫女としては嬉しいのだが、博麗霊夢としては暇な一日である。当然参拝客が来るわけでもないし、流石の妖怪たちも雨は嫌いなようだ。ここ一週間は誰の姿も見ていない。
「こういうとき、趣味が無いって退屈ね。何か私にも出来ることってないのかしら」
ポツリと呟いたとき。空から見覚えのある人影が高速で飛んできた。
「よう、霊夢! 久しぶりだな!」
ずぶ濡れの金髪を揺らして、霧雨魔理沙がやって来た。
「ちょっと魔理沙! あんた何でこんな雨の日に来たのよ。バカじゃないの」
「私の頭は正常だぜ。とにかく中に入れてくれよ。寒くて仕方ないんだ」
「当たり前よ。ちょっと待ってなさい。畳濡らさないでよね!」
そう言い残して、私はタオルを取りに行った。相変わらず変なヤツだ。わざわざ雨の日に来るなんて。
タオルを取って戻る途中、台所でお茶を入れてやった。風邪でも引いて寝込まれたらたまらない。
「ほら早く拭きなさい。お茶も入れてやったから」
「お、サンキュ霊夢」
タオルを魔理沙に渡し横に座る。わしゃわしゃと髪を拭く魔理沙に私は聞いた。
「ねぇ魔理沙」
「なんだ?」
「あんた何しに来たの」
「霊夢の顔を見に来た……じゃダメか?」
「あんたらしくないじゃない。それで私が納得するとでも?」
「だよな」
ふぅと息を漏らし、いつもは見ない真剣な顔で魔理沙がこちらを向く。正直面倒くさかったが、向かい合って話を聞く。
「今日は、霊夢に伝えたい事があって来たんだ」
「そう」
「ずいぶんあっさりだな……。まあいい。霊夢は、私の事をどう思ってるんだ?」
「少なくともそこら辺の妖怪なんかよりは仲がいいんじゃないのかしらね、ぐらい」
それを聞いた魔理沙は静かに目を伏せた。膝の上で握り締められている拳が、微かに震えているのが分かる。声を振り絞るようにして、魔理沙が言葉を発する。
「私は、霊夢が、好きだ。堂々としたその強さが、いつの間にか皆を笑顔にしてるその明るさが、霊夢の全てが、私は好きだ」
私は何も応えなかった。魔理沙の気持ちなんて、とっくに気がついてた。だからこそ私は、それを無視したのだ。……博麗の巫女だから。
「なぁ霊夢。カンの良いおまえのことだ。気付いていたんだろう? 私の気持ちに」
「勿論知っていたわ。でも、私はそんなのに興味は無いの。愛情なんて博麗の巫女には必要ない。良い魔理沙。愛の形なんて人それぞれ。別にそれはいいの。だけどそれは、私に求めるものじゃない」
この言葉を投げかけるのは、すごく嫌だ。相手は同じ人間の魔理沙だ。だけど私は、博麗霊夢で博麗の巫女なのだ。誰にも平等で中立な立場でいなければいけない。だから私は、大切な人を傷つける。
「そんなくだらないことを話に来たのなら帰って。私は幻想に付き合ってる暇は無いの」
瞬間、魔理沙の瞳から涙が零れ落ちた。それは彼女の傍に小さな水溜りを作っていく。
「……その言葉は、博麗霊夢としてじゃない。私は『霊夢』の応えが聴きたい」
「同じことだわ。私は博麗の巫女を務める博麗霊夢なんだから」
「もういい。霊夢なんか大ッ嫌いだ!!」
帽子で顔を隠し、水しぶきを散らして魔理沙は飛び立っていった。私はそんな少女を見て、呆れて首を振った。そこに間髪入れずに紫が、スキマから顔を出した。
「霊夢。今の態度は魔理沙が可哀想だわ」
「断り方をどうしようと、私の勝手よ」
素っ気なく言う私に、紫が溜息をついた。
「そうね。博麗の巫女としては完璧な断り方だわ。でも、もう少し素直になりなさいよ。恋しちゃいけないなんて決まりは無いわよ。本当はどうなの?」
「……私の中で、あいつの存在は大きすぎる。悔しいほどに、あいつの優先順位は一番高いわ」
「魔理沙も同じなんじゃないの?あなたと立場が少し違うだけで、あの子だって――」
「分かってるわよ! だからどうしていいかわかんないんじゃない!」
普段感情を押し殺している私がこんな姿をみせたことに、紫は驚いて目を見開いていた。閉じ込めていた想いがついに耐えられなくなった。
「私だって、魔理沙が好き。だけどそれは、あいつが抱いているものとは違う。そんなのを伝えたってあいつはきっと笑えない」
「そうね。……よく考えた方がいいわ。私はあなたを手伝わない。何かを変えたいのなら、自分で全部考えなさい。あなたたちにとって一番良い方法を、ね」
言うだけ言って、言わせるだけ言わせて、紫はスキマに消えた。
☆
魔理沙を怒らせて、一週間が経過した。あれだけ降り続いていた雨はあっという間に去り、太陽が顔を出している。暑さにくたくたになりながら、さきほどようやく神社に帰ってきた。
魔理沙は相当怒っているのか、神社に顔を見せなくなった。当然何所で会っても目を逸らし、逃げるように飛んでいってしまう。話しかけても無視され、時折悲しそうに見つめてくる。
紫の助言を受けてから、ずっと魔理沙のことを考えていた。三日もたつと、彼女が来ないことに不安を覚えた。家まで行ってみたけど留守だったり、出ても即座にドアを閉められる。そうされる事が辛くて、苦しくて。思わず嗚咽を漏らして泣いた。魔理沙に会いたい。お願い、話がしたいの!みっともなく泣き叫んだ。食事も喉を通らず、見る見るうちにやせ細った。ここにきてようやく、自分は魔理沙が好きなんだと気付いた。彼女がいないと、私は何も出来なくなっていた。彼女がいることを当たり前だと思っていた。
やがて高熱が出て、布団から出れなくなった。丸まって寝ている間に、魔理沙の夢を見た。追いかけても、手を伸ばしても、届かない魔理沙の姿。起きてそれが夢だったと安心するも、隣に魔理沙がいないことを確認して、再び視界が滲む。
今もまた、ウトウトまどろんでいた時だ。懐かしい、待ち望んでいた声が聞こえたのは。
「霊夢っ! 大丈夫か!?」
「まり、さ……?」
ぼんやりとした視界の中で、大切な名前を呼ぶ。
「このバカ霊夢! 何でちゃんと食べないんだよ!」
魔理沙の声なんて、もう耳には届いていない。熱があることを忘れて、細い身体に抱きついた。
「魔理沙っ!!」
「おわ、ちょ、霊夢! お前熱があるんだろ! おとなしくしとけよ!」
「魔理沙ぁ!」
ぎゅっと力を込めて魔理沙を抱きしめる。涙が溢れて止まらなかった。気がつけば、魔理沙がそっと頭を撫でてくれていた。
「ごめん霊夢。私はお前になんてひどいことを……」
「違う! 悪いのは私よ。あんたの気持ちを踏みにじって。最低なヤツだわ」
「……なぁ、今度は聞かせてくれるよな、『霊夢』の本音を」
「えぇ。……魔理沙、私は、いいえ。私もあなたが好き」
「……そうか。ありがとう霊夢。じゃ、ちょっと待ってな。お粥を作ってやるぜ」
とたとた、小さく足音を鳴らして、魔理沙が台所へ消えたのを見届けて、私の意識が消滅した。
目が醒めたとき、外には星が出ていた。卵のいい匂いがして、魔理沙が鍋を持って現れた。
「おはよう霊夢。魔理沙様特製卵粥だぜ。味わって食べろよな」
得意そうに鼻を鳴らして、魔理沙が微笑を咲かせる。すっかり元通りの魔理沙に安堵している自分がいたことに気付いて。なんだかおかしくなって笑い出した。
「なんで笑ってんだよ」
魔理沙の言葉、仕草の一つ一つが、ウソで塗り固められていた本当の私を引き出してくれる。私を、博麗霊夢として見てくれる、接してくれる事が、すごく嬉しい。
おかしな私を見ながら、魔理沙はずっと笑顔を絶やさなかった。
☆
「ごめんな、泊めてもらって」
「いいのよ。私だって、こんな時ぐらい誰かといたいんだから」
「誰かと? 私とじゃなくてか?」
「! ち、違うわよ、もう! 魔理沙のバカ!」
拗ねたような口調で魔理沙がからかってくる。顔を真っ赤にして反論する私に、魔理沙はクスクスと穏やかな笑みを漏らす。
「そんじゃ寝るか」
「そうね」
二人で一つの布団に潜る。魔理沙は暖かくて、優しい匂いがした。狭い布団のため、当然私達は密着する事になるのだが、私がドキドキしているのに対し、魔理沙は涼しそうな顔ですでに寝息を立てていた。
「早……」
こうして近くでよく見ると、魔理沙は綺麗な顔立ちをしている。長くて綺麗なまつげ、ちょっと小麦色のすべすべした肌、桜色の唇。
魔理沙はよく、私を綺麗だと言うが自分には分からない。ただ一つ言える事は、魔理沙が言うのならそうなんだろうなと思うこと。じーっと見つめていると、何か夢でも見ているのだろうか。手を伸ばして、何かを捕まえようとしている。
そして――捕まえられたのは私だった。魔理沙は私の背中に手を回し、力を込めて抱き寄せようとする。大事な事だからもう一度言うが、ここは狭い布団の中である。すでに、お互いの身体はくっついている。つまり、このままいけば……
唇に、柔らかくて、熱を持ったモノが、触れた。
「~~~~! ~~~~~!!」
口を塞がれて声が出せない。魔理沙は寝ぼけているのか、一向に手を離す気がない。更に強い力で、体力を使い切っている私を抑えているために抜けられない。そのまま放っておく事、五分。
魔理沙が、手の力を緩めると同時に目を開けた。私は跳び起きて魔理沙に抗議する。
「ちょ、ちょっと魔理沙!? まさかあんた分かってて……」
「勿論だぜ」
ニシシ、と悪びれも無く魔理沙は笑う。私は、頬が熱くて仕方なかった。
「これは私から、霊夢への罰だ」
「何の罰よ」
恥ずかしすぎてそっぽを向いたまま訊ねる。
「気付いてたのになんもしてくれなかった罰だぜ」
言うが早いか、私は魔理沙に押し倒された。魔理沙は頬を紅くして、息遣いも荒い。
「そろそろ、我慢出来ないかも……」
ゆっくりと魔理沙の唇が近づいてくる。さっきよりも強く押し付けられて歪む二人の唇。初めてのキスは甘い味がした。
これから私はどうするのだろうか。いつか、魔理沙と結婚でもするのだろうか。魔理沙はきっと、いつもの悪友的微笑みを浮かべて言うんだろう。それはいいな、って。
退屈してた、楽しくなかった日常は今。明るく輝き始めてる。やっぱりそれは、こいつのおかげで。心の中だけで、そっと呟く。
ありがとう。大好きよ、魔理沙。
「ねぇ魔理沙」
「どうした?」
「何で私が寝込んでるって知ったの?」
「……ノーコメントで」
「なんでよっ!」
「い、いやな、その、教えてもらったんだよ。でも口止めされててさ。言ったら私殺される」
「その反応は……紫ね」
「……どうだろうな」
「安心してよ魔理沙。私が返り討ちにしてあげるから」
「……」
「あ、一つ言っておくけど、私が死ぬ時は魔理沙も死ぬ時だから」
「霊夢さん今何かサラッと怖い事言いませんでした?」
「……ふふっ」
「私こいつに恋してるんだよなぁ!? 今告白した事ちょっと後悔したぜ……」
ただ間に何かもう1つネタがあったらよかったかなと思いました。
具体的に言うと喧嘩した後に霊夢と魔理沙の二人の過去等の描写があれば内容が充実するかと思います。ちょっと展開が早すぎる感じがしましたので。
あと「魔理沙は飛び立って行った。」と「間髪入れずに紫が」の間に二人、もしくは霊夢の動作が書かれていれば良いかと思います。(遠のいて行く魔理沙の姿を見ながら、私は溜め息を吐いた。とか)
さらに細かく言うと魔理沙が神社に駆けつけた経緯もあれば尚良いと思います。
かなり個人的な意見ですが、参考にでもしてくれれば嬉しいです。
これからも頑張ってください。
人に読んでもらうってすごく大事ですね。
参考にさせていただきますね^^ ありがとうございます!
レイマリは良い物だ
今後も楽しみにしています
魔理沙は霊夢に悪戯してるときが一番輝いてて可愛いですね。
これからも頑張ってくださいね!応援してますw
やや駆け足に感じるところもありましたが、魔理沙のストレートな感情が伝わってきて良かったです