Coolier - 新生・東方創想話

時季線上のラプソディ

2014/11/08 15:45:44
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「注文(リクエスト)はただひとつ(オンリーワン)。フィッシュ&チップス、フィッシュ&チップスだ……!」
「……駅前のマクモにあったわね。100円メニューで」
「そこは『了解した、我がマスター』の一言でキッチンに立ってほしかったなあ」
誰が下僕か。
「自分で買ってくる?200円くらいはカンパしてあげるけど」
「この寒空に出掛けろとか、メリーさんったら鬼」
「誰が鬼よ」
下僕から鬼に昇進したようだけれど、当然ながら全くもって嬉しくはない。
言いたいだけ言っておこたにぐずぐず潜り込むは我がマスター……ではなく我が相棒たる万年不良学生、宇佐見蓮子である。
今日も今日とて、私の部屋で昼間限定の居候と化している。大きめのお部屋のインテリアに化けるのも遠い日のことではないだろう。
困った。置いておくスペースが無い。
……なんて、目の前の人間(暫定)についてしようのないことを考えながら、私も首までこたつへと潜る。この天気、この気温で外出するのは、正直私も遠慮したい。
「また降ってきたわね」
「もーそんな季節かーって。まあ初雪はとっくに降ってたんだっけ。んや、あれは北海道のほうだったかな」
外は薄暗く、一様に白い粒が舞っている。気温がそこまで低くないから地面に積もってこそいないものの、窓から見える世界は白く染まるばかり。

「積もるかしらね、このまま」
「ちょっとそれは御免だわね。まだ冬支度済んでないもの」
それは私も同じだったりする。現に出しやすいこたつは急ぎで引っ張り出したものの、冬服はまだクローゼットの最奥で眠ったまま。ストーブには肝心の灯油が入っていない。
「ま、明日からの天気予報が大ハズレじゃなきゃ、積もるのはしばらく先らしいし」
「ここ最近の天気予報って、あまりあてに出来なくて。特に週間予報」
「その日その日の天気と気温は変わらないんだけど、時期というか一日二日分ずれ込んだりねえ」
まあそこは仕方ないとこよね、とコーヒーをすする蓮子。自分で淹れたらしい。いつの間に。
「あ、メリーの分もあるわよ」
「……ありがと」
「それにしても、フィッシュ&チップスってのは小粋なジョークだけど、なんか揚げ物系食べたくなってきたわ。フライドポテトとか」
「……そろそろ目の前にあるものに気付かないかしらね」
こたつの上には小ぶりの鍋。ふたを開ければ部屋が一瞬白に染まる。外の白とは反対に、こちらは実に温かいものである。
豚バラキャベツ鍋はまさに食べ頃。作ったのは私。リクエストしたのは蓮子。
「およ。もうでけた?」
「でけた?、じゃないでしょ。人に全部やらせておいて」
「ごめんごめん。――お手数をおかけしました?」
「どういたしまして。詰めて煮込むだけだから、手間がかかったわけでもないけれどね」
「それでいて美味しいのよこれが」
「それは同感。はい、取り皿」
「ありがと」

 というか、あれはリクエストだったのだろうか。脱色したような白一色の頭で現れた蓮子は、私の部屋に転がりこむなり
「ぶたばら……」
なんてつぶやきを残して眠ってしまったのだ。
慌てた私はなんとか蓮子をベッドまで運び、ちょうど良く残っていたキャベツと豚バラを切り始めた。鍋を火にかけるあたりで何かがおかしいことに気づいて様子を伺えば、先ほど冥土に旅立ったはずの人物はこたつでテレビを見ていたのだった。
言わずもがな、心配し損である。

 うまうま言いながら――美味しいのは全面的に同意する――小さな鍋ひとつを空にした後、蓮子はまだまだ細雪の降りしきる街へ飛び出していった。
こう言うと一人で行ったように聞こえるが、引っ張り出された私も一緒に、である。
なぜかと言えば、さっきから揚げ物揚げ物言っていたせいで、やっぱりフライドポテトが食べたくてたまらなくなった誰かさんに付き合うことになったからだ。身体の収支会計は大丈夫なのだろうか。
「落ちるのなら、メリーも一緒に……!」
なんてことを危ない笑顔でつぶやいていた気もするが、余計なお世話千万である。さっきの鍋を半分以上平らげた、自分の心配をするべきだと思う。
「やー、暖まった。さっきは本当に寒かったもの。ちょっと凍死を覚悟するレベル」
「頭の上なんて真っ白だったわよ? いいかげん、帽子変えればいいのに」
蓮子は夏場と変わらず、リボンの付いた黒い帽子のまま。平らな面が大きくて、雪が積もるにはもってこいの形状をしている。
「そういうメリーはいつの間にかニットよね。新しいやつ?」
「……何年か前から、冬はいつもこれだけど」
そうだっけ、なんて。なんでもない風に言うけれど、目線はあちらこちらを泳いでいる。去年の冬、その前の冬、私がこのニット帽をかぶっている風景を探しているに違いない。
そんな記憶はどこにもないだろう。蓮子の言うとおり、これは数ヶ月ほど前に買ったものだから。
去年の冬までは何もかぶらずに外出していたのだ。覚えていないほうが悪い。私が日頃縮めている寿命の分、少しは悩みなさい。
そんなことをなんだかんだと話しながら歩けば、目的地まではあっという間。駅前のマクモである。外気と暖房の効いた店内の温度差に、蓮子は肩をすくめている。
「う、やっぱり暖かい。外、何度くらいだったんだろ」
「予報だと最低で2℃まで……でもこの様子だと、もっと下がってくるかしらね」
「なんかもう外出たくないかも」
「マクモに永久就職する?」
「そこまでじゃないけど、二時間くらい居座っ……いんや、帰らないわけにもいかないし」
注文を始めた蓮子。……フライドポテトが目当てだったはすが、いつの間にやら品数が増えている。小粋なジョークとやらだったはずのものも注文している。
「……ちょっと、大丈夫なの?」
思わず、耳打ちする。
「なにが?」
「カロリー収支。それと現実の収支」
「……どっちも支出が足りてないのよね」
小恥ずかしそうに蓮子がつぶやく。……カロリーはともかく、実際の家計での「支出が足りていない」とは、どういうことなのか。
「ねえ、それってどういう――」

「お待たせいたしましたー!」

――意味なの、と言い切る前に、注文したものがカウンターに届く。先に支払いを済ませていた蓮子は、受け取ったままの流れで店から出てしまい、慌ててその後を追いかける。
 店内にいる間に雪はやんでいたらしい。空も明るさを徐々に取り戻している。
気温も上がってくるかもしれない。ニット帽をかぶってきたのは、少し失敗だっただろうか。
汗ばんでからでは遅いから、ニット帽は脱いでコートのポケットに突っ込んでしまう。
蓮子の足は、蓮子の部屋がある方向に向いている。どうやらこのまままっすぐに帰るようだ。私が部屋に帰るのも途中までは同じ方向なので、やはり自然と並んで歩くことになる。
「……ねえ」
「なに?」
「さっきのどういう意味? 支出が足りないって」「支出が足りないって言うか、収入が多すぎるって言うか……」
蓮子にしては珍しく、本気で悩むような表情を浮かべる。なんだろうそれは。余計に分からなくなった。
「だから、結局どういう」
「――思い出したっ!」
そうかと思えば、今度は両目を見開いてすっとんきょうな声を上げる。
「なによ、いきなり」
「メリー、その帽子……ってあれ、どこに?」
「これのこと?」
私がポケットからニット帽を出して見せると、蓮子は私の頭の上あたりとそれを見比べて、いかにも納得したというようにうなずく。
「やっぱりねー。メリー、それやっぱり新しく買ったやつでしょう」
「……そうだけど」
「そうよねえ。去年までは冬の間なにもかぶってなくて、メリーってばそれでいて寒そうなもんだから、いつものお礼も兼ねて冬用の帽子を何か買っ……」
そこまで一息で言い切って、急に口を押さえる。なぜか、心なしか顔も赤い。
「舌でも噛んだ?」
「いや、だいじょぶ。ていうか、なし。今のなし。わすれてもらえると」
「お礼って、誰に?」
うっ、と息を詰まらせる蓮子。しばらく無言で視線を泳がせていたが、やがて観念したようにため息をひとつ。
「……そりゃあ、いつもお世話様なメリーさんによ」
「私に?」
「なんで他の人へのお礼にメリーの帽子を買うの。……あー、でも遅かったかあ。自分で買っちゃったんでしょう、冬用のニット帽」
喜びと共になんとも言いがたいモヤモヤが胸で渦巻く。……なんでこう、妙なところで気を遣うのだろう、彼女は。
「蓮子」
「なに?」
「この帽子ね……」
ニットの帽子を両手に広げて見せる。
「うん」
「実はわりと薄手で冬というよりは秋向けなのよね」
網目を広げた手が透けて見える。
は、という形のまま口をぽっかりと開けて固まる蓮子。うーんと、えーと、なんて言葉にならない声だけが漏れてくる。
「メリー」
「うん」
「メリーさんってばホント鬼、あくま。私をわらかしたいの、泣かしたいの? どっち?」
「どういう意味よっ」
軽く失礼である。
「えーと、なに。今からでも、もし買ってきたら」
「もちろん、喜んでいただきます。ただし、本格的に寒くなる前に欲しいかな」
「……大丈夫っ。まだしばらくは本気の冷え込みは来ないから」
雪は降って、立冬は迎えたけれどまだ本当に冬が来たとは言い切れない。確かにそんな、不思議な季節である。
「や、それにしても、これで少しは収支のバランスが――」
……待った。すっかり忘れていた。蓮子の言う「支出が足りない」とは一体どういう意味なのか。
「それで、その収支がどうのこうのって、結局どういう意味なの?」
「え。……だから、その、食費とか光熱費とか、私の家計のかなりの割合、今現在メリーに持ってもらってる状態でして……」
そんなこと、気にしてたんだ。
「今さらでしょう。そんなこと」
「う……。やっぱりけっこうな負担になってるとか」
「気にしなくてもいい、ってこと!」
……本当のことを言えば――同居しているほどではないにしても――ひとり分の食費が増えているのは、無視していい差ではないのだろう。
それでも、私はそれでいいのだ。
「……『嬉しいときも、涙って出るんですね』」
「それ、どこかで聞いたことあるし、全く泣いてない人の台詞じゃないわね」
「目薬、目薬……」
「だいぶ遅いわよ」
こうして一緒に笑い合っていられるなら、安いものなのである。
 結局、私の部屋への道など軽々通り越してしまい、蓮子の部屋に寄っていくことになった。
蓮子はと言えば、最初からそのつもりだったようで、マクモでやけにたくさん買っていたのは、私の分も含めてのことだったらしい。先程の話ではないけれど、たまには私も蓮子にご馳走になることにした。
「あら、また降ってきたわね……」
「こりゃ急がないとマズイかしら」
「楽しみにして待ってる」
「ええ、もちろん。裏表ルート駆使してピッタリのものを」
「すごく、楽しみにしてる」
「なんかやんわりと拒まれた気配が……!」

◇◇◇◇◇◇◇◇


『通い妻』改め新ジャンル『通われ妻』

久しぶり過ぎて勝手が分かりません。
あと自分の中ではメリー:蓮子と霊夢:紫が大体イコールなんですが、そうなると蓮子≒紫とかいう危険な方向に行きそうで困惑中。
玖爾
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コメント



0.180簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
フィッシュ&チップスってうまいのか未だに謎
2.60名前が無い程度の能力削除
うーん個性的ですな
4.80名前が無い程度の能力削除
やわっこい雰囲気がすごい素敵。
マイペースに見えて、メリーに迷惑かけてるんじゃないかと心配する蓮子が可愛かったです。