「とりっくおあとりーと!」
「……」
霖之助が香霖堂のドアを開けると、そこには黒と黄色の混ざった吸血鬼らしい衣装に身を包んだフランドールがいた。満点の星がきらめく、輝く夜を背負った彼女の金色のサイドテールが揺らめく。フランがまとうノースリーブの夜色のドレスには、所々かぼちゃ色が混ざっていて、吸血鬼『らしい』黒赤のマントを羽織っている。黄色の長手袋を嵌めた彼女は、満面の笑みを浮かべていた。
トリックオアトリート——すなわち、「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ!」と、彼女は言っているわけだ。その言葉で、霖之助は今日が『ハロウィン』と呼ばれる日だったことを思い出す。たしか、外の世界では、仮装した子どもたちが近所の家の扉を叩き、出てきた住人に対して「トリックオアトリート!」と言って、お菓子をもらう。そんな行事だったはずだ。
当然ながら、霖之助はそういった行事には疎い。というのも、つい今日の今日までそんなことをしてくるような子どもなんていなかったし、そもそもここは浅い所とはいえ魔法の森なのだ。子どもが訪れるには危険すぎる。
と、その時ふと、去年だったか一昨年だったか、魔理沙が箒で香霖堂の扉をぶっ壊しながら「トリックオアトリートオオオオ!」と叫び、香霖堂の品物を勝手に持っていったことが霖之助の脳裏にフラッシュバックする。なるほど、魔理沙のアレはハロウィンのつもりだったのか。どうやらあの白黒魔法使いがハロウィンというものをどんな風に認識しているのか一度問い質さねばなるまいと、霖之助は思った。魔理沙のあれは、「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ」というよりは「ハロウィンだからなんか寄越せ」と言っているようにしか思わなかった。
「あ、あれ? ……と、とりっくおあとりーと? で、合ってたよね?」
「……」
霖之助がその声にはっと引き戻されて、目の前にいるフランの顔を見る。フランの顔は、とても不安げになっていた。どうやら霖之助はしばらく思考に没頭してしまっていたらしい。慌てて意識を戻して、冷静に目の前の幼い少女に尋ねる。
「……どうしたんだい、フラン」
「あっ、良かった、合ってた! ねーねー霖之助、お菓子ちょうだい!」
「なんで」
「ハロウィンだからだよ! じゃないとイタズラしちゃうぞー!」
大げさに手を広げて、笑顔を浮かべながら八重歯を見せ「がおー!」と唸るフラン。吸血鬼っぽい服装だけれど、本人は吸血鬼のつもりなのだろうか。ああそういえば彼女は吸血鬼だったか、と、霖之助はすぐさま思い出す。フランは、一般的に想像される吸血鬼とは大きくかけ離れた、可愛らしい少女なので、こうやって接しているとたまに忘れそうになる。
しかし、お菓子をちょうだい、と言われても。霖之助は顎に手をやりながら唸った。
霖之助は、甘いものが好きではない。もてなし用に煎餅などがあるだけであって、それ以外のお菓子らしいお菓子なんてまったくなかった。かといって、西洋からやってきた吸血鬼に、しかもこんなハロウィンの日に煎餅を渡すというのも著しく風情を欠く。
そもそも、フランは煎餅が嫌いではなかったか。フランが好きなのは、見た目相応の甘いプリンやケーキといったものであって、煎餅のようなものは、露骨に嫌な顔をする、というわけではないけれど、こんなに期待に満ちた顔のフランに煎餅を渡せば少なからずがっかりさせてしまうだろう。紅魔館から来たのだろうけれど、収穫があまり好きではない煎餅だけというのは、すこしばかりかわいそうだ。
とりあえず期待させておいて煎餅を渡す、というのも中々残酷な気がしたので、霖之助は正直に言うことにした。
「悪いね、フラン。いまお菓子切れてるんだ」
「えーっ、霖之助なにも準備しなかったのー?」
「……今日がハロウィンだってこと自体忘れてた」
霖之助が苦く笑いながら気まずそうに目を逸らすと、フランは薄く閉じられた目で霖之助をにらむ。
「むー……」
「いや、ごめんごめん。代わりに今度なにか人里の洋菓子でも——」
霖之助は頭を掻きながら謝る。しかし、そのまま帰すのはもっとかわいそうなので、霖之助は今度フランドール用にシュークリームでも買ってきてやろうと考えていた。
だがそれを伝え切る前に、フランはそのジト目をやめて、次の瞬間には開き直ったような笑顔を浮かべた。
「じゃあ、イタズラするっ」
「買いに行って、って、ええ?」
「わたし悪くないもん。なにも用意してない霖之助が悪いんだもーんっ」
ひどい理不尽である。基本、霖之助は無縁塚だとかそういった一部の場所以外へは出かけないし、あの烏天狗の新聞も読まないから世の中がどんな状況になっているかというのには大変疎い。だから、本当に今日がハロウィンだなんていうことは知らなかったのだ。きっと知っていれば、誰かが来る可能性も考慮して、人里でなにか買ってきていたのだろうけれど……。
しかし、イタズラしちゃうぞ、と言われてまさか本当にイタズラされるようなハメになるとは思わなかった。あれってポーズだけのものじゃなかったのか、と霖之助は思う。
見るからに嫌そうな顔をする霖之助に構わず、フランはむしろなぜか嬉しそうな顔をして霖之助を通り過ぎ、香霖堂に入っていく。
「おっじゃまっしまーす!」
フランドールは、香霖堂になにか商品を買いに来るということは少ない。けれども、商品を強奪していくわけでもないし、紅魔館で起こったことなどをとても楽しそうに霖之助に喋ってくれる上、基本は大変良い子なので、霖之助は彼女のことをどちらかと言えば好ましく思っていた。……最近『好ましい客』のハードルがだんだん下がっていっているような気がするけれど、ともかく霖之助は、彼女のことを邪魔だとは思っていない。
だがそれとこれとは話が別である。
香霖堂に置いてある商品というのは、手に入りやすい量産品ではない。未知なる外の世界で作られた、今度はいつ手に入るかすらわからないものばかりだ。それらをフランの『イタズラ』で壊されたりしては困る。霖之助はハラハラしながらフランを見ていた。フランも、あんな見た目とはいえ吸血鬼だ。その力は計り知れない。
「おいおい、品物を壊さないでくれよ」
「ええー、じゃないとイタズラにならないじゃん」
「勘弁してくれ、頼むから……」
霖之助は本当に参ったような声をあげた。それを聞いたフランは、不服そうに薄桃色の頬を膨らませる。
「むーっ、お菓子はないし、イタズラはダメって、ここに来た意味ないじゃない!」
「いやイタズラするなとは言ってないけどね。ただ商品を壊さないでくれと」
「結局いっしょじゃない!」
フランの頭の中では、イタズライコール商品を壊すこと、なのだろうか。たしかにイタズラ好きの悪霊とかがガラスを割ったり物を壊したりしてイタズラする、という話は聞いたことがあるけれども、やっぱり、霖之助としてはあまり貴重なものを壊されても困る。
しかし、それでも無理やり香霖堂をまるごと壊そうとしないあたり、まだ良心的なのだろう。
「うー……良いもん!」
フランは頬をわずかに染めながら、霖之助を指差した。その顔は恥ずかしげだったけれど、どこか嬉しそうというか、不思議な表情だった。
「わたし、霖之助にイタズラするから!」
◇
どうしてこんなことになっているのだろう。
「えへへー。霖之助の膝の上、あったかーい」
「……それはどうも」
霖之助は、香霖堂の椅子に座っていた。だがその上に、さらに小さい人影。——フランの姿があった。
霖之助といえば、フランを膝に乗せて、さらにそのお腹に手を通している。なにも、霖之助が自分からやったわけではない。最近秋とはいえ、だんだんと肌寒くなってきた頃だ。フランとしても、寒いのは苦手らしくて、どうやら霖之助の人肌で温まろうという魂胆のようだった。
ご機嫌に鼻歌をうたうフランの手には、本があった。どうやら彼女、幼い見た目に似合わず難解な小説などといった本が大好きなようで、今フランが読んでいる本も、霖之助が貸した一冊だ。随分と楽しそうだが、たしか、フランに貸したのは、孤島に招かれた十人の男女がとある童謡通りに殺されていく推理小説だったはずだ。そんなに楽しい物語とは言えないはずなのだが。
「……いつまでやってれば良いんだい、これ」
「ずーっと!」
「……ぜんぜん動けないんだけど……」
霖之助としては、腕をフランの腹に回しているからなにもできないし、暇なことこの上ない。ただぼーっと座っているだけだし、しかも動けない。これが罰ゲームと言わずなんと言おうか。
しかし機嫌の良かったフランは、霖之助の答えが気に入らなかったのか、するりと霖之助の腕から抜け出した。やれやれ、やっと楽になれる——と、思っていたのだが。
フランは、そのまま体勢を変えて、霖之助と顔をあわせた。体と体が触れ合って、フランの顔がすぐ近くにある。まるで恋人同士が絡みつくように抱き合っているさまを彷彿させる体勢。なぜか、フランの顔は真っ赤だった。
「もうっ、霖之助ってホント鈍感だよね。信じられない!」
フランはぷくっと頬を不機嫌そうに膨らませる。そして、霖之助には聞こえないような小さな小さな声量で、ボソボソとなにかをつぶやく。
「こんなにかわいい女の子が近くにいるのに、なんの反応もないって……」
「なんだって?」
「なんでもない!」
フランはぷい、と顔を逸らしてしまった。
霖之助は、フランのその仕草を見て、すこし反省する。せっかく紅魔館から来てくれたのに、思えば霖之助はフランを邪魔者のように扱っていたところがあったかもしれない。やっぱり、何百年もの時を生きてきたとて、こんなに幼い少女なのだ。霖之助が構ってやれなかったから、拗ねているのかもしれない。
霖之助はフランの頭を優しくぽんぽんと叩いて、ぎゅっと抱きしめた。
「……あー、うん。僕が悪かったよ。すまない」
「……なんか、違うんだけどなあ……こう、そんな子どもっぽいのじゃないんだけど……」
フランはまたも呟くが、霖之助は今度は追求しなかった。
しかしフランは、しばらくなんとも言えない微妙な表情をしていたけれど、そのうち諦めたように、あるいは開き直ったように笑うと、霖之助の胸に顔をうずめた。
「……ま、いっか」
その声は、とても楽しそうだった。
「霖之助。朝まで、ずっとこのままでいよ。わたし、なんだか眠たいんだ」
「吸血鬼なのに、かい?」
「うん」
霖之助は苦笑いすると、フランの頭をまた、ぽんぽんと撫でる。
「ねえ、霖之助」
「なんだい?」
その声は、眠たいからなのか、とても甘かった。
「今日は、月が綺麗だよ」
霖之助はそれに応えずに、自分も目を閉じて、フランの体をただ、預かっていた。
「……」
霖之助が香霖堂のドアを開けると、そこには黒と黄色の混ざった吸血鬼らしい衣装に身を包んだフランドールがいた。満点の星がきらめく、輝く夜を背負った彼女の金色のサイドテールが揺らめく。フランがまとうノースリーブの夜色のドレスには、所々かぼちゃ色が混ざっていて、吸血鬼『らしい』黒赤のマントを羽織っている。黄色の長手袋を嵌めた彼女は、満面の笑みを浮かべていた。
トリックオアトリート——すなわち、「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ!」と、彼女は言っているわけだ。その言葉で、霖之助は今日が『ハロウィン』と呼ばれる日だったことを思い出す。たしか、外の世界では、仮装した子どもたちが近所の家の扉を叩き、出てきた住人に対して「トリックオアトリート!」と言って、お菓子をもらう。そんな行事だったはずだ。
当然ながら、霖之助はそういった行事には疎い。というのも、つい今日の今日までそんなことをしてくるような子どもなんていなかったし、そもそもここは浅い所とはいえ魔法の森なのだ。子どもが訪れるには危険すぎる。
と、その時ふと、去年だったか一昨年だったか、魔理沙が箒で香霖堂の扉をぶっ壊しながら「トリックオアトリートオオオオ!」と叫び、香霖堂の品物を勝手に持っていったことが霖之助の脳裏にフラッシュバックする。なるほど、魔理沙のアレはハロウィンのつもりだったのか。どうやらあの白黒魔法使いがハロウィンというものをどんな風に認識しているのか一度問い質さねばなるまいと、霖之助は思った。魔理沙のあれは、「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ」というよりは「ハロウィンだからなんか寄越せ」と言っているようにしか思わなかった。
「あ、あれ? ……と、とりっくおあとりーと? で、合ってたよね?」
「……」
霖之助がその声にはっと引き戻されて、目の前にいるフランの顔を見る。フランの顔は、とても不安げになっていた。どうやら霖之助はしばらく思考に没頭してしまっていたらしい。慌てて意識を戻して、冷静に目の前の幼い少女に尋ねる。
「……どうしたんだい、フラン」
「あっ、良かった、合ってた! ねーねー霖之助、お菓子ちょうだい!」
「なんで」
「ハロウィンだからだよ! じゃないとイタズラしちゃうぞー!」
大げさに手を広げて、笑顔を浮かべながら八重歯を見せ「がおー!」と唸るフラン。吸血鬼っぽい服装だけれど、本人は吸血鬼のつもりなのだろうか。ああそういえば彼女は吸血鬼だったか、と、霖之助はすぐさま思い出す。フランは、一般的に想像される吸血鬼とは大きくかけ離れた、可愛らしい少女なので、こうやって接しているとたまに忘れそうになる。
しかし、お菓子をちょうだい、と言われても。霖之助は顎に手をやりながら唸った。
霖之助は、甘いものが好きではない。もてなし用に煎餅などがあるだけであって、それ以外のお菓子らしいお菓子なんてまったくなかった。かといって、西洋からやってきた吸血鬼に、しかもこんなハロウィンの日に煎餅を渡すというのも著しく風情を欠く。
そもそも、フランは煎餅が嫌いではなかったか。フランが好きなのは、見た目相応の甘いプリンやケーキといったものであって、煎餅のようなものは、露骨に嫌な顔をする、というわけではないけれど、こんなに期待に満ちた顔のフランに煎餅を渡せば少なからずがっかりさせてしまうだろう。紅魔館から来たのだろうけれど、収穫があまり好きではない煎餅だけというのは、すこしばかりかわいそうだ。
とりあえず期待させておいて煎餅を渡す、というのも中々残酷な気がしたので、霖之助は正直に言うことにした。
「悪いね、フラン。いまお菓子切れてるんだ」
「えーっ、霖之助なにも準備しなかったのー?」
「……今日がハロウィンだってこと自体忘れてた」
霖之助が苦く笑いながら気まずそうに目を逸らすと、フランは薄く閉じられた目で霖之助をにらむ。
「むー……」
「いや、ごめんごめん。代わりに今度なにか人里の洋菓子でも——」
霖之助は頭を掻きながら謝る。しかし、そのまま帰すのはもっとかわいそうなので、霖之助は今度フランドール用にシュークリームでも買ってきてやろうと考えていた。
だがそれを伝え切る前に、フランはそのジト目をやめて、次の瞬間には開き直ったような笑顔を浮かべた。
「じゃあ、イタズラするっ」
「買いに行って、って、ええ?」
「わたし悪くないもん。なにも用意してない霖之助が悪いんだもーんっ」
ひどい理不尽である。基本、霖之助は無縁塚だとかそういった一部の場所以外へは出かけないし、あの烏天狗の新聞も読まないから世の中がどんな状況になっているかというのには大変疎い。だから、本当に今日がハロウィンだなんていうことは知らなかったのだ。きっと知っていれば、誰かが来る可能性も考慮して、人里でなにか買ってきていたのだろうけれど……。
しかし、イタズラしちゃうぞ、と言われてまさか本当にイタズラされるようなハメになるとは思わなかった。あれってポーズだけのものじゃなかったのか、と霖之助は思う。
見るからに嫌そうな顔をする霖之助に構わず、フランはむしろなぜか嬉しそうな顔をして霖之助を通り過ぎ、香霖堂に入っていく。
「おっじゃまっしまーす!」
フランドールは、香霖堂になにか商品を買いに来るということは少ない。けれども、商品を強奪していくわけでもないし、紅魔館で起こったことなどをとても楽しそうに霖之助に喋ってくれる上、基本は大変良い子なので、霖之助は彼女のことをどちらかと言えば好ましく思っていた。……最近『好ましい客』のハードルがだんだん下がっていっているような気がするけれど、ともかく霖之助は、彼女のことを邪魔だとは思っていない。
だがそれとこれとは話が別である。
香霖堂に置いてある商品というのは、手に入りやすい量産品ではない。未知なる外の世界で作られた、今度はいつ手に入るかすらわからないものばかりだ。それらをフランの『イタズラ』で壊されたりしては困る。霖之助はハラハラしながらフランを見ていた。フランも、あんな見た目とはいえ吸血鬼だ。その力は計り知れない。
「おいおい、品物を壊さないでくれよ」
「ええー、じゃないとイタズラにならないじゃん」
「勘弁してくれ、頼むから……」
霖之助は本当に参ったような声をあげた。それを聞いたフランは、不服そうに薄桃色の頬を膨らませる。
「むーっ、お菓子はないし、イタズラはダメって、ここに来た意味ないじゃない!」
「いやイタズラするなとは言ってないけどね。ただ商品を壊さないでくれと」
「結局いっしょじゃない!」
フランの頭の中では、イタズライコール商品を壊すこと、なのだろうか。たしかにイタズラ好きの悪霊とかがガラスを割ったり物を壊したりしてイタズラする、という話は聞いたことがあるけれども、やっぱり、霖之助としてはあまり貴重なものを壊されても困る。
しかし、それでも無理やり香霖堂をまるごと壊そうとしないあたり、まだ良心的なのだろう。
「うー……良いもん!」
フランは頬をわずかに染めながら、霖之助を指差した。その顔は恥ずかしげだったけれど、どこか嬉しそうというか、不思議な表情だった。
「わたし、霖之助にイタズラするから!」
◇
どうしてこんなことになっているのだろう。
「えへへー。霖之助の膝の上、あったかーい」
「……それはどうも」
霖之助は、香霖堂の椅子に座っていた。だがその上に、さらに小さい人影。——フランの姿があった。
霖之助といえば、フランを膝に乗せて、さらにそのお腹に手を通している。なにも、霖之助が自分からやったわけではない。最近秋とはいえ、だんだんと肌寒くなってきた頃だ。フランとしても、寒いのは苦手らしくて、どうやら霖之助の人肌で温まろうという魂胆のようだった。
ご機嫌に鼻歌をうたうフランの手には、本があった。どうやら彼女、幼い見た目に似合わず難解な小説などといった本が大好きなようで、今フランが読んでいる本も、霖之助が貸した一冊だ。随分と楽しそうだが、たしか、フランに貸したのは、孤島に招かれた十人の男女がとある童謡通りに殺されていく推理小説だったはずだ。そんなに楽しい物語とは言えないはずなのだが。
「……いつまでやってれば良いんだい、これ」
「ずーっと!」
「……ぜんぜん動けないんだけど……」
霖之助としては、腕をフランの腹に回しているからなにもできないし、暇なことこの上ない。ただぼーっと座っているだけだし、しかも動けない。これが罰ゲームと言わずなんと言おうか。
しかし機嫌の良かったフランは、霖之助の答えが気に入らなかったのか、するりと霖之助の腕から抜け出した。やれやれ、やっと楽になれる——と、思っていたのだが。
フランは、そのまま体勢を変えて、霖之助と顔をあわせた。体と体が触れ合って、フランの顔がすぐ近くにある。まるで恋人同士が絡みつくように抱き合っているさまを彷彿させる体勢。なぜか、フランの顔は真っ赤だった。
「もうっ、霖之助ってホント鈍感だよね。信じられない!」
フランはぷくっと頬を不機嫌そうに膨らませる。そして、霖之助には聞こえないような小さな小さな声量で、ボソボソとなにかをつぶやく。
「こんなにかわいい女の子が近くにいるのに、なんの反応もないって……」
「なんだって?」
「なんでもない!」
フランはぷい、と顔を逸らしてしまった。
霖之助は、フランのその仕草を見て、すこし反省する。せっかく紅魔館から来てくれたのに、思えば霖之助はフランを邪魔者のように扱っていたところがあったかもしれない。やっぱり、何百年もの時を生きてきたとて、こんなに幼い少女なのだ。霖之助が構ってやれなかったから、拗ねているのかもしれない。
霖之助はフランの頭を優しくぽんぽんと叩いて、ぎゅっと抱きしめた。
「……あー、うん。僕が悪かったよ。すまない」
「……なんか、違うんだけどなあ……こう、そんな子どもっぽいのじゃないんだけど……」
フランはまたも呟くが、霖之助は今度は追求しなかった。
しかしフランは、しばらくなんとも言えない微妙な表情をしていたけれど、そのうち諦めたように、あるいは開き直ったように笑うと、霖之助の胸に顔をうずめた。
「……ま、いっか」
その声は、とても楽しそうだった。
「霖之助。朝まで、ずっとこのままでいよ。わたし、なんだか眠たいんだ」
「吸血鬼なのに、かい?」
「うん」
霖之助は苦笑いすると、フランの頭をまた、ぽんぽんと撫でる。
「ねえ、霖之助」
「なんだい?」
その声は、眠たいからなのか、とても甘かった。
「今日は、月が綺麗だよ」
霖之助はそれに応えずに、自分も目を閉じて、フランの体をただ、預かっていた。
ふぅ…
霖之助を呪い殺す準備でもするか……
さて、1さんの手伝いでもしてくるか。
え?祝い殺す?(低視力)
でもまー仮にフランちゃんと霖之助がくっついたとして、見た目的にどう考えてもアウトなのでどのみち霖之助は社会的に消されてしまうという……。霖之助はロリコンのレッテルを貼られ、皆から白い目で見られてしまうでしょう…南無。コメントありがとうございました!
>>奇声を発する程度の能力様
コメントありがとうございまっす!
ちょっと短いですしさーっと書き上げたものなので不安でしたが、そう言っていただけたら幸いですぜ!
>>絶望を司る程度の能力様
やっぱりハロウィンですから甘くないと!(謎理論)
ああ、>>1様と共に言ってしまわれるのですね……。やはりリア充は呪いで爆発させられてしまう運命なのか……。霖之助、強く生きろ。
コメントありがとうございました!
霖之助の命が危ない
リア充は美少女とイチャイチャできる代わりにこんな呪いをすべて一身に受けなければならないのか…(戦慄)フラグクラッシャー霖之助はそのうち夜道で刺されてしまいそうだ……。
コメントありがとうございました!