「ほんとごめん、メリー」
耳に蓮子の謝罪の声が届く。その声はこれ以上ない程に罪悪感を帯びており、聞いてる私の方も罪悪感を感じてしまう。
「いいって、私こそごめんなさい」
私は声が聞こえた方向、おそらく蓮子が居るであろう方向に向かって言う。
「なんでメリーが謝らなきゃいけないのよ!悪いのは全て私じゃない!」
蓮子は叫ぶ。部屋に蓮子の声が響く。
「確かに、私は謝らなくてもいいのかも知れない。蓮子は悪いかも知れないわ。でも全て悪い訳ではない」
私は蓮子の言葉を、半分肯定は全て否定をした。
「なんで…?ねぇメリー、なんで?悪いのは全て私よ…?」
蓮子は先程とは違う、掠れた小さな声で私に言い聞かせる様に言う。
「だから全てじゃないって。蓮子がアレを提案した時に私が断っていれば、こんなことにはならなかった」
そう、あの時私が断っていれば。
「……ごめん…メリー……本当に……私がなってれば良かったのに……」
蓮子は反論の言葉が思い浮かば無いのか、ただひたすら私の名を呼び。謝るだけだった。
なんで、なんでこんな事になったんだっけ。私は暗闇の中。ゆっくりと思い出していく。
この悲劇の発端はこの何カ月か前だ。
「ねぇ、メリー」と蓮子の声が記憶から蘇る。嗚呼、あの時の蓮子の声は元気一杯で希望に満ちていのに。
次に蘇る記憶は、私と蓮子を絶望へ叩き落とした和達がした行為の言葉が含まれた蓮子の声だった。
「ねぇ『眼球舐め』してみない?」
そう、『眼球舐め』あの行為が、今となっては忌々しい。そして私は……ああ、そうだ、一瞬戸惑ったんだけど、賛成したんだっけ。全く、蓮子は何処であんな行為を見つけてくるのかしか。
それでその後……蓮子の家で眼球を舐め合ったんだっけ?いや、確か私は蓮子のは舐めなかったんだっけ。あの時は気持ち良かったなぁ、眼球を舐められてる時。アブノーマルすぎたなぁ。でもそれがまた面白く楽しかったんだっけ。
こう考えると、世界はバランスが取れていると感じる。私は『快楽』を得る代わりに『目』を失った。嫌とも流石ともいえる世の中だ。
それにしても、何故蓮子は私を捨てないのだろう。失明し、境界が見えなくなったのに、蓮子に迷惑ばっかかけてるのに。嗚呼、考えれば考える程に邪推し自己嫌悪に陥ってしまう。考えるのは止めておこう、蓮子の気持ちは知りたいけど。
っとそんな事を思っていると。
「いっ…たぁぁぁぁあああああ!!!」
突然、蓮子の悲鳴が聞こえた。
「!?」
勿論私は驚いた。何が起きたか確認しようと目を開けるも……視界は暗闇。蓮子どころか、何も見えない。
ああ!蓮子が…何かしている!絶対!止めなきゃ!
そう思い私は口を開き
「蓮子!止めて!」
と叫んだ。
その声は蓮子に届いたのか、確かめる手段は『音』しかない。私は耳を澄ました。
そして私の耳に届いた『音』は
「ごめん……でも…メリーと平等にならなきゃ……メリーだけが苦しい思いなんて……」
『狂気』を帯びた蓮子の声だった。
その声を聞いた私は、考えた。蓮子が何をしているのか。
そして私は『平等』という言葉と蓮子の悲鳴から、一つの『答え』に辿り着いた。
その『答え』は、蓮子が……自分の『目』を抉っている、というものだった。
だが、答えが出たとこで、目が見えない私に、蓮子を止める方法は無い。いや、ある事はある、『声』だ。けれど、その希望も先程打ち砕かれたばかりだ。
ならどうすれば、私は、頭をフル回転させ考える。
っとその時
「おい!どうした!何をしているお前!」
という声と、扉を開ける音が聞こえた。
この声は聞いたことがある。病院の先生だ。ということは……医者が、来てくれた…?
蓮子は……助かる?
そう希望を抱いていると
「おい!大至急こいつを連れて行け!絶対助けるぞ!」
と、また声が聞こえ、その直ぐ後に
「いやッ!止めて!私はメリーと!」
とも、声が聞こえた。
その声を聞き、私は蓮子に話しかけようとするが
「……」
声が……出ない。恐怖からか呆気に取られているからか、けどそんな物、考えるだけ無駄。
「メリーと、同じに………」
そして、私が何も出来ず、ただ音だけを聞いていると、蓮子や医者の声が小さく遠くなり、やがて聞こえなくなる。
蓮子が何処かへ連れて行かれたのか。でも相手は医者。少しだけ安心出来る。
私は胸を撫で下す。けど心の中の90%は。不安でいっぱいだった。
私に出来る事は、ただ、蓮子の無事を祈ることだ。私は、静かな部屋の中で両手を合わせ、ただただ願った。
祈り、願い、どれだけの時間が経ったのか、わからない。
その時、扉を開ける音が、私の耳に飛び込んできた。
「!?」
私はその音に驚き、反射的に体がピクッと動いた。
そして、耳を澄ました。
澄ました耳に入ってきたのは
「………メリー、私って、どれだけ馬鹿なんだろうね」
と、掠れた、静かな、元気の無い蓮子の『声』だった。
さらに蓮子は続けた。
「何がプランク並の頭脳だってね。ははっ」
蓮子は自嘲する様に笑った。
「………蓮子は……」
私は口を開いた。
それに蓮子は反応し、聞いてきた。
「蓮子は何?」
「蓮子は……私は、蓮子をとても、偉いと思う」
私は、そう答えた。
「偉い?ごめんメリー、ごめんけど私、メリーの言ってる事の意味がわからないや」
そんな私の言葉も、どうやら蓮子には、蓮子の心には届いていないようだった。
けど私は諦めず、次の言葉を発しようとすると
「あ、もう時間かな」
と、蓮子が呟いた。
「時間って……なんの時間?」
私は訊いた。
「えっと…本当なら、メリーとずっと寄り添ってあげたいんだけど、私、メリーの『目』を奪った張本人だから……だから………」
途中から、蓮子は泣いているようだった。その様子は、声だけではっきりとわかる。
「だから……私はメリーから迷惑かけないように…今日中に離れなきゃ………秘封倶楽部は解散で………」
蓮子は言った。
私は……蓮子の言ってる事が理解出来なかった。いや、理解したくなかったといった方が正しい。
私が、そう動揺していると蓮子は
「今まで、ありがとう。そしてごめんなさい」
まるで永遠の別れかのように言葉を述べ、さらに
「それじゃあ、さようなら、我が『相棒』。『マエリベリー・ハーン』」
と言った。
そしてコツコツと蓮子の足音が。蓮子が歩いて、私から離れていく足が床を踏む音が聞こえる。
その音も、段々と小さくなっていく。
その音を聞きながら私は呟た。
「…行かなきゃ」
そして私は、蓮子を、『宇佐見蓮子』という『相棒』を追うために走り出した。
勿論、目は見えない。そのため、我武者羅に、走った。
「あがっ!」
走り始め、体感時間十数分。早くも私の体は限界だった。
何も見えないので壁にはぶつかるし人ともぶつかる、そして何より蓮子の姿が見えない。
けれど、私は諦めなかった。大切な人の為、絶対に諦めない。
そしてまた走り出す。
…と、そのとき
「おーい、マエリベリー?大丈夫ぅー?」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
この声は……岡崎教授だ。
直ぐに私は、声が聞こえた方を向く。
「おーい、マエリベリー…あれ?宇佐見はどした?」
声が先程よりも大きい、近くにいるのだろう。
そして蓮子の事を問われた、この人になら……相談できる!
私の胸の奥に、希望が湧いてきた。
そして私は、教授に今までの事、蓮子の事、自分の事を全て話した。
「……なるほどねぇ」
教授の声は何時もとは違う真剣な声。
「じゃあマエリベリー、宇佐見が何処にいるかとか、何かわかる事とかは無いのか?」
そう訊かれ、私は必死に考える。蓮子がいそうな場所……蓮子の自室……大学………駄目、どれもあの蓮子の様子からして行きそうにない。
他には……あ!
「あ!」
思いつき、つい声を出してしまった。
「おっ、思いついたのね」
勿論教授がそれを見逃す筈なく直ぐに訊いてきた。
それに私は、迷いなく答える。
「はい、一ヶ所、思い当たる所があります」
「ほう、それは」
「それは……『博麗神社』です」
私は、教授に場所を教え。教授に手を引かれながら『博麗神社』へ向かった。
「はぁ…はぁ……着いたぞ」
教授は私に呼びかけた。
「ふぅ……ありがとうございます」
この独特の匂い、オーラ。うん、間違いなく『博麗神社』だ。
私がそう思っていると教授が小声で
「あ、宇佐見が居たわよ。覚悟は出来た?」
と囁いて来た。
蓮子がいる……やっぱり、思った通り。
ここまで来たら、後戻りは出来ない。
「はい、出来てます」
私は、自信満々で教授に答えた。
「よし、それでこそウチの生徒!んじゃあレッツゴー!」
教授は私の背中を押して、おそらく蓮子がいるであろう方向に向かわした。
ありがとう、教授。
そして私は。すーっと息を吸ってー、吐く。よし
「蓮子ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
私は、喉が裂けるかも知れないというくらいの勢いの大声で、蓮子の名を呼んだ。
私が呼んでから数秒後。
「め、メリー……?」
聞き慣れた、愛おしい声が聞こえた。
心臓の鼓動が激しくなる、破裂するのではないかと思うほどに。
それを感じながら
「ええ、メリーよ、相棒のマエリベリー・ハーンよ」
と、愛おしい声が聞こえた方向へ言う。
「本当に……?」
蓮子の声が聞こえた。その声は『驚き』と『疑い』と『喜び』が混じり合っていると感じた。
疑っているというのなら、何度でもアタックして、信じてもらうまで。
「本当に」
はっきりと、蓮子に聞こえるように言った。
そして
「メリー…メリーィィィィィィイ!」
という声と共に、私の胸に『何か』が飛び込んできた。
「メリー……メリーぃぃ………」
その『何か』は、暖かく柔らかい、そう、『何か』とは私の『相棒』、『宇佐見蓮子』だった。
「グスッ…メリーぃぃ……」
その『宇佐見蓮子』は、私の胸で泣きながら私の名を呼んでいる。
その泣きが混ざった声は、『安心』という感情を帯びているようだった。
「……」
そして私は、無言で蓮子を撫で。蓮子を、大好きな蓮子を味わった。
そして数分後。
「ねぇ、メリー」
「何?蓮子」
「あの……駄目ならいいんだけど……これから、ずっと、メリーの『目』になっていい?」
「ええ、いいわよ、蓮子なら大大大歓迎よ」
「……ありがとう、メリー。それじゃあ、行きたい所ある?」
「そうねぇ……じゃあ、何時ものカフェでお茶しましょ」
「オーケー、じゃ、行く?」
「行くわよ、あ、私の目が見えないからって壁にぶつけたり悪戯しないでね」
「大丈夫よ。この蓮子さんは、絶対そんな事しないから」
「そう?」
「そうよ、だって……もう…これ以上、メリーを傷つけたく……苦しませたくないから………」
「ふふっ、嬉しいわ、じゃあ。頼むわね。宇佐見蓮子さん」
「任せなさい、安心しなさい。マエリベリー・ハーンさん」
こうして、私達は仲直り?をして。何時ものカフェでお茶をして。
いつも通りの、楽しい生活に戻った。
ただ、これまでとは一つだけ、違う所がある。それは
蓮子が、ずっと一緒に、近くに居ること。私の望んでだ幻想と現で理由とは違ってるけど、『終わり良ければすべて良し』って言葉あるし、何より嬉しいし、楽しいし、これで良いよね。
あー、こんな幸せな事になるなら、『目』くらい、代償としては小さすぎるかなー。
耳に蓮子の謝罪の声が届く。その声はこれ以上ない程に罪悪感を帯びており、聞いてる私の方も罪悪感を感じてしまう。
「いいって、私こそごめんなさい」
私は声が聞こえた方向、おそらく蓮子が居るであろう方向に向かって言う。
「なんでメリーが謝らなきゃいけないのよ!悪いのは全て私じゃない!」
蓮子は叫ぶ。部屋に蓮子の声が響く。
「確かに、私は謝らなくてもいいのかも知れない。蓮子は悪いかも知れないわ。でも全て悪い訳ではない」
私は蓮子の言葉を、半分肯定は全て否定をした。
「なんで…?ねぇメリー、なんで?悪いのは全て私よ…?」
蓮子は先程とは違う、掠れた小さな声で私に言い聞かせる様に言う。
「だから全てじゃないって。蓮子がアレを提案した時に私が断っていれば、こんなことにはならなかった」
そう、あの時私が断っていれば。
「……ごめん…メリー……本当に……私がなってれば良かったのに……」
蓮子は反論の言葉が思い浮かば無いのか、ただひたすら私の名を呼び。謝るだけだった。
なんで、なんでこんな事になったんだっけ。私は暗闇の中。ゆっくりと思い出していく。
この悲劇の発端はこの何カ月か前だ。
「ねぇ、メリー」と蓮子の声が記憶から蘇る。嗚呼、あの時の蓮子の声は元気一杯で希望に満ちていのに。
次に蘇る記憶は、私と蓮子を絶望へ叩き落とした和達がした行為の言葉が含まれた蓮子の声だった。
「ねぇ『眼球舐め』してみない?」
そう、『眼球舐め』あの行為が、今となっては忌々しい。そして私は……ああ、そうだ、一瞬戸惑ったんだけど、賛成したんだっけ。全く、蓮子は何処であんな行為を見つけてくるのかしか。
それでその後……蓮子の家で眼球を舐め合ったんだっけ?いや、確か私は蓮子のは舐めなかったんだっけ。あの時は気持ち良かったなぁ、眼球を舐められてる時。アブノーマルすぎたなぁ。でもそれがまた面白く楽しかったんだっけ。
こう考えると、世界はバランスが取れていると感じる。私は『快楽』を得る代わりに『目』を失った。嫌とも流石ともいえる世の中だ。
それにしても、何故蓮子は私を捨てないのだろう。失明し、境界が見えなくなったのに、蓮子に迷惑ばっかかけてるのに。嗚呼、考えれば考える程に邪推し自己嫌悪に陥ってしまう。考えるのは止めておこう、蓮子の気持ちは知りたいけど。
っとそんな事を思っていると。
「いっ…たぁぁぁぁあああああ!!!」
突然、蓮子の悲鳴が聞こえた。
「!?」
勿論私は驚いた。何が起きたか確認しようと目を開けるも……視界は暗闇。蓮子どころか、何も見えない。
ああ!蓮子が…何かしている!絶対!止めなきゃ!
そう思い私は口を開き
「蓮子!止めて!」
と叫んだ。
その声は蓮子に届いたのか、確かめる手段は『音』しかない。私は耳を澄ました。
そして私の耳に届いた『音』は
「ごめん……でも…メリーと平等にならなきゃ……メリーだけが苦しい思いなんて……」
『狂気』を帯びた蓮子の声だった。
その声を聞いた私は、考えた。蓮子が何をしているのか。
そして私は『平等』という言葉と蓮子の悲鳴から、一つの『答え』に辿り着いた。
その『答え』は、蓮子が……自分の『目』を抉っている、というものだった。
だが、答えが出たとこで、目が見えない私に、蓮子を止める方法は無い。いや、ある事はある、『声』だ。けれど、その希望も先程打ち砕かれたばかりだ。
ならどうすれば、私は、頭をフル回転させ考える。
っとその時
「おい!どうした!何をしているお前!」
という声と、扉を開ける音が聞こえた。
この声は聞いたことがある。病院の先生だ。ということは……医者が、来てくれた…?
蓮子は……助かる?
そう希望を抱いていると
「おい!大至急こいつを連れて行け!絶対助けるぞ!」
と、また声が聞こえ、その直ぐ後に
「いやッ!止めて!私はメリーと!」
とも、声が聞こえた。
その声を聞き、私は蓮子に話しかけようとするが
「……」
声が……出ない。恐怖からか呆気に取られているからか、けどそんな物、考えるだけ無駄。
「メリーと、同じに………」
そして、私が何も出来ず、ただ音だけを聞いていると、蓮子や医者の声が小さく遠くなり、やがて聞こえなくなる。
蓮子が何処かへ連れて行かれたのか。でも相手は医者。少しだけ安心出来る。
私は胸を撫で下す。けど心の中の90%は。不安でいっぱいだった。
私に出来る事は、ただ、蓮子の無事を祈ることだ。私は、静かな部屋の中で両手を合わせ、ただただ願った。
祈り、願い、どれだけの時間が経ったのか、わからない。
その時、扉を開ける音が、私の耳に飛び込んできた。
「!?」
私はその音に驚き、反射的に体がピクッと動いた。
そして、耳を澄ました。
澄ました耳に入ってきたのは
「………メリー、私って、どれだけ馬鹿なんだろうね」
と、掠れた、静かな、元気の無い蓮子の『声』だった。
さらに蓮子は続けた。
「何がプランク並の頭脳だってね。ははっ」
蓮子は自嘲する様に笑った。
「………蓮子は……」
私は口を開いた。
それに蓮子は反応し、聞いてきた。
「蓮子は何?」
「蓮子は……私は、蓮子をとても、偉いと思う」
私は、そう答えた。
「偉い?ごめんメリー、ごめんけど私、メリーの言ってる事の意味がわからないや」
そんな私の言葉も、どうやら蓮子には、蓮子の心には届いていないようだった。
けど私は諦めず、次の言葉を発しようとすると
「あ、もう時間かな」
と、蓮子が呟いた。
「時間って……なんの時間?」
私は訊いた。
「えっと…本当なら、メリーとずっと寄り添ってあげたいんだけど、私、メリーの『目』を奪った張本人だから……だから………」
途中から、蓮子は泣いているようだった。その様子は、声だけではっきりとわかる。
「だから……私はメリーから迷惑かけないように…今日中に離れなきゃ………秘封倶楽部は解散で………」
蓮子は言った。
私は……蓮子の言ってる事が理解出来なかった。いや、理解したくなかったといった方が正しい。
私が、そう動揺していると蓮子は
「今まで、ありがとう。そしてごめんなさい」
まるで永遠の別れかのように言葉を述べ、さらに
「それじゃあ、さようなら、我が『相棒』。『マエリベリー・ハーン』」
と言った。
そしてコツコツと蓮子の足音が。蓮子が歩いて、私から離れていく足が床を踏む音が聞こえる。
その音も、段々と小さくなっていく。
その音を聞きながら私は呟た。
「…行かなきゃ」
そして私は、蓮子を、『宇佐見蓮子』という『相棒』を追うために走り出した。
勿論、目は見えない。そのため、我武者羅に、走った。
「あがっ!」
走り始め、体感時間十数分。早くも私の体は限界だった。
何も見えないので壁にはぶつかるし人ともぶつかる、そして何より蓮子の姿が見えない。
けれど、私は諦めなかった。大切な人の為、絶対に諦めない。
そしてまた走り出す。
…と、そのとき
「おーい、マエリベリー?大丈夫ぅー?」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
この声は……岡崎教授だ。
直ぐに私は、声が聞こえた方を向く。
「おーい、マエリベリー…あれ?宇佐見はどした?」
声が先程よりも大きい、近くにいるのだろう。
そして蓮子の事を問われた、この人になら……相談できる!
私の胸の奥に、希望が湧いてきた。
そして私は、教授に今までの事、蓮子の事、自分の事を全て話した。
「……なるほどねぇ」
教授の声は何時もとは違う真剣な声。
「じゃあマエリベリー、宇佐見が何処にいるかとか、何かわかる事とかは無いのか?」
そう訊かれ、私は必死に考える。蓮子がいそうな場所……蓮子の自室……大学………駄目、どれもあの蓮子の様子からして行きそうにない。
他には……あ!
「あ!」
思いつき、つい声を出してしまった。
「おっ、思いついたのね」
勿論教授がそれを見逃す筈なく直ぐに訊いてきた。
それに私は、迷いなく答える。
「はい、一ヶ所、思い当たる所があります」
「ほう、それは」
「それは……『博麗神社』です」
私は、教授に場所を教え。教授に手を引かれながら『博麗神社』へ向かった。
「はぁ…はぁ……着いたぞ」
教授は私に呼びかけた。
「ふぅ……ありがとうございます」
この独特の匂い、オーラ。うん、間違いなく『博麗神社』だ。
私がそう思っていると教授が小声で
「あ、宇佐見が居たわよ。覚悟は出来た?」
と囁いて来た。
蓮子がいる……やっぱり、思った通り。
ここまで来たら、後戻りは出来ない。
「はい、出来てます」
私は、自信満々で教授に答えた。
「よし、それでこそウチの生徒!んじゃあレッツゴー!」
教授は私の背中を押して、おそらく蓮子がいるであろう方向に向かわした。
ありがとう、教授。
そして私は。すーっと息を吸ってー、吐く。よし
「蓮子ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
私は、喉が裂けるかも知れないというくらいの勢いの大声で、蓮子の名を呼んだ。
私が呼んでから数秒後。
「め、メリー……?」
聞き慣れた、愛おしい声が聞こえた。
心臓の鼓動が激しくなる、破裂するのではないかと思うほどに。
それを感じながら
「ええ、メリーよ、相棒のマエリベリー・ハーンよ」
と、愛おしい声が聞こえた方向へ言う。
「本当に……?」
蓮子の声が聞こえた。その声は『驚き』と『疑い』と『喜び』が混じり合っていると感じた。
疑っているというのなら、何度でもアタックして、信じてもらうまで。
「本当に」
はっきりと、蓮子に聞こえるように言った。
そして
「メリー…メリーィィィィィィイ!」
という声と共に、私の胸に『何か』が飛び込んできた。
「メリー……メリーぃぃ………」
その『何か』は、暖かく柔らかい、そう、『何か』とは私の『相棒』、『宇佐見蓮子』だった。
「グスッ…メリーぃぃ……」
その『宇佐見蓮子』は、私の胸で泣きながら私の名を呼んでいる。
その泣きが混ざった声は、『安心』という感情を帯びているようだった。
「……」
そして私は、無言で蓮子を撫で。蓮子を、大好きな蓮子を味わった。
そして数分後。
「ねぇ、メリー」
「何?蓮子」
「あの……駄目ならいいんだけど……これから、ずっと、メリーの『目』になっていい?」
「ええ、いいわよ、蓮子なら大大大歓迎よ」
「……ありがとう、メリー。それじゃあ、行きたい所ある?」
「そうねぇ……じゃあ、何時ものカフェでお茶しましょ」
「オーケー、じゃ、行く?」
「行くわよ、あ、私の目が見えないからって壁にぶつけたり悪戯しないでね」
「大丈夫よ。この蓮子さんは、絶対そんな事しないから」
「そう?」
「そうよ、だって……もう…これ以上、メリーを傷つけたく……苦しませたくないから………」
「ふふっ、嬉しいわ、じゃあ。頼むわね。宇佐見蓮子さん」
「任せなさい、安心しなさい。マエリベリー・ハーンさん」
こうして、私達は仲直り?をして。何時ものカフェでお茶をして。
いつも通りの、楽しい生活に戻った。
ただ、これまでとは一つだけ、違う所がある。それは
蓮子が、ずっと一緒に、近くに居ること。私の望んでだ幻想と現で理由とは違ってるけど、『終わり良ければすべて良し』って言葉あるし、何より嬉しいし、楽しいし、これで良いよね。
あー、こんな幸せな事になるなら、『目』くらい、代償としては小さすぎるかなー。
幸せはいつまで続くのかこれも幸せの形と言えるのか
日本語の危うさが感じられる誤字や文法もありますし、この調子じゃ初見のふりして何度来ても結果は同じだと思うんですけどねぇ……。