先入観とは言い換えれば偏見であり、この相手はこうだろうと決めてかかってしまうどちらかといえばネガティブに囚われる事が多いものだ。
しかし予め相手のことを知っておくというのは商売を差し置いても有益であり、言うなれば場に応じて正しい判断が出来ればよいということである。
さとり妖怪のような読心や未来を見通す能力でも無ければ、人は過去の経験と知識に頼るしかないのだ。
「お願い、助けて欲しいんだ」
さて僕の目の前にいる彼女の場合はどうだろうか。
「急にそう言われてもね」
「話を合わせてくれるだけでいいから、ね、ね?」
「うーん」
彼女の焦りぶりからして、厄介な事が舞い込んできそうな雰囲気だ。
「何か裏があるんじゃないかい、てゐ」
因幡てゐ。彼女は幸福を人に与える兎であるが、それ以上に嘘つき兎として有名である。
さて彼女は僕に何をもたらしてくれるのだろうか。
「無い、無いってば」
期待してもいいのだが、見返り目当てで助けるというのもどうかという感じだ。
僕は彼女の言動を信じるべきだろうか。
「ああもう早くしないと来ちゃうじゃない……」
「誰が?」
「めんどくさい奴」
「ふむ」
彼女が面倒だと思うような相手とは一体誰だろうか。
頭の中にイメージを浮かべるのとほぼ同時のタイミングで入り口が開いた。
「へえ、ここが何でも揃う店かい」
「タブンネ」
片言で答えるてゐ。
僕はその少女を見て、てゐが面倒がっている理由が瞬時に理解できた。
「ふーん。そうなのかい霖之助。この兎の言うことは本当かい?」
「どうだろうね」
答えを濁すに留めておく。
彼女の名前は鬼人正邪。天邪鬼である。
説明は不要だろう。天邪鬼というのはひねくれ者なのである。
「コイツが言ったんだ。この店なら私の求めているものが手に入るってね」
「内容を聞かないと何とも言えないが、なんだい」
「ああ、今の私に要らないようなものを寄越せ」
「は?」
「二度も言わせるなよ。いいか。今の私に要らないようなものを寄越せ」
「……」
なるほど、これは矛盾だ。たとえ僕がゴミを出したとしても、それが肯定されてしまった時点でもうそれは要らないものを渡した事にはならない。
だがそんなものは無いと言ってしまえば、求めているものが手に入る店ということでは無くなってしまう。
「叶わないっていうなら、この兎の持ち物を頂いていくよ」
質の悪いゴロツキみたいな理論だなぁと思った。
無理難題を押し付け、物を奪おうというのだろうか。
天邪鬼らしいといえばらしい理屈なのだが。
「どうにかなるよね、ね」
そしててゐは彼女の難題というか無茶ぶりに答えられず、ここに逃げてきたというわけだ。
「……」
さてここで僕は知ったこっちゃあ無い、兎のついた嘘だとてゐを見捨てることも出来る。
しかし僕にはある考えがあった。まずはそれを確かめないとならない。
「まあ、そうだね。多分何とか出来るんじゃないかな」
「本当に?」
「多分だよ」
「それは肯定と受け取っていいんだよね?」
正邪が不敵に笑う。
「まず、君は一体どうしてそんな事を言い出したのか、理由を聞いてもいいかい?」
「そりゃあ、この兎が嘘をつかないって言ったからだよ」
「ふむ?」
「先にこの兎に同じ質問をした。そうしたら私の求めているものはここにあると言った。だからそれを信じてやったのさ」
「それは……嘘でした、とその場で言えば済んだ問題だったのかな」
「覚えときな。嘘は重なると重くなるんだよ」
「一理ある」
ある一つの嘘を真実にするためには別の嘘をつかなくてはならない場合がある。
そうしてそれが重なっていき、真実はどこにも無くなってしまうのだ。
「つまり、それがあるかないかはどうでもいいと?」
「どうでもよくはないさ。この店にあるかどうかは知らんがね」
「ふぅむ」
僕はもう一度彼女の言った言葉を頭の中で反復してみた。
私に要らないようなものを寄越せ。
これは素直に受け取ってはいけない言葉なのではないだろうか。何せ彼女は天邪鬼なのである。
なら真逆にしたらどうなるだろう。
お前に必要なものをあげる?
意味が成り立たなくなってしまうじゃないか。
「……ちょっと相談してもいいかな」
これはもう少し話を聞いてみる必要がありそうだ。
「なんでもいいよ」
「ありがとう。てゐ、ちょっといいかな」
てゐを呼び寄せて店の奥へ移動する。
「僕が失敗したら全部持っていかれるらしいが、君は何を持っているんだい?」
もしかしたら本命はそれなのかもしれない。
「そりゃ商売道具だよ。傷薬だね。私製のやっすい薬と中くらいの薬とお師匠様製の高級な奴」
「なるほど、それを売ってたら彼女に絡まれたと」
「そんな感じ。せっかく上手いこと稼げてたのになあ」
「安いのを高く売るとかしてたんじゃないだろうね」
「薬に関しては嘘はつかないよ」
「……ああ、なるほど」
「何、どうしたの」
「いや、少し分かったかもしれない」
やはりそういうことなのだろう。
僕は思い浮かんだ事を試してみることにした。
「待たせたね」
「遅いじゃないか」
「ちょっといろいろあってね……」
「で、あるの? ないの? はっきりして欲しいんだけど」
正邪はイライラした様子であった。
「君の言っているものは簡単に手に入るものなのかい?」
「知らないよ。入るかもしれないし入らないかもしれない」
ものすごい曖昧であった。答えになっていない。
しかし、それが尚更僕の考えを確信に至らせるものとなった。
「それじゃあ君の言う『今の私に要らないようなもの』を渡させて貰おう。てゐ、いいかな?」
「なに?」
「君のお師匠の一番高い薬を渡してやってくれ」
「え、なんで?」
「いいから」
「……分かったよ。はい」
渋々といった感じで袋から薬を取り出す。
「言っておくけど高いんだからねそれ。お師匠の特別製で」
「いくらだい」
尋ねると、不満気な顔のまま値段を告げる。
「だ、そうだが」
「ほらよ」
正邪がぽいと無造作に束ねられた小銭をてゐの前に置いた。
「あれ買ってくれるの?」
「誰が買わないって言ったよ」
「だって寄越せって……」
「お金を払わないとは言ってないね、確かに」
言い方は悪いが、寄越せというのは奪い取るという意味ではなかったのだ。
「……なんでそんな紛らわしい言い方するのさ」
「お前は私を何だと思ってるんだよ」
「天邪鬼」
「それが答えだよ」
「そりゃあまあ、そうなんだけどさ……」
てゐは腑に落ちない様子であった。
「正邪。一つ聞いていいかい」
僕はそこで質問をすることにした。
「何だよ」
「君は言っていることが全て正反対というわけではないんだね」
そうなるとおかしいことになるのだ。
何故なら僕と彼女の間で会話は成立している。それはつまり僕らの求めている正しい答えが返ってきているということなのだ。
「そんなクソ不便な生き物どこにいるんだよ。私が見てみたいよ」
全くである。
「……いや、いるか」
「あん?」
「いや、こっちの話だよ」
"鬼"は嘘を嫌う。絶対に嘘をつかない種族だ。
それと同じように僕は"天邪鬼"も全て言っていることが反対なのではという先入観を持ってしまったのだ。
そして、てゐも同じ勘違いをしていたのだろう。
「つまり、言い方が悪いだけで最初から薬が欲しかったってだけ?」
「お前は私が薬が欲しいって言ったらはいそうですかと渡すのか?」
「……無いね」
「そういうことだよ」
正邪はどこか自慢気であった。
普通だったら嫌だなあと思うのではないかという内容なのだが、そこは彼女が天邪鬼であるからこそなのだろう。
つまり、自分の言葉が正しく伝わらないことはそれだけ天邪鬼という妖怪を警戒しているという証明になるのだ。
「しかしそれじゃあ買い物も大変だろうに」
「だから似たような奴に声掛けたんじゃないか」
「なるほど」
てゐから同類の気配を感じ取ったというわけか。
「なーに納得してんのさ」
当人は再び不満気な顔をしていた。
「まあまあ、解決したんだからいいじゃないか」
「しかし怪我一つない奴が一体お師匠様の薬を何に……」
「誰が教えるかバーカ。ははは! じゃあな!」
正邪はやたらと演技過剰な高笑いをしたかと思うと天井にひっくり返り、そのまま外へすっ飛んでいった。
「……何だったんだろアレ」
「まあ、そこは天邪鬼だからね。自分には使わないけど薬が必要って事は少し考えれば分かるだろう?」
つまり親しい誰かが怪我をした為、必要になったということだ。
「なんだっけ、外の世界でいうツンデレ?」
「どうなんだろうな。本人は絶対に否定するだろうけれど」
「ま、私もプライベートには立ち入らない主義だし、売れたならなんでもいいけどね」
「だな」
売ったものはその時点で向こうの所有物だ。詮索するのは野暮であろう。
「ところでさ、天邪鬼は疑ってたのに私の事はあっさり信じてくれたのは何で?」
「ああ、最初は怪しんだんだけど、君は絶対に嘘をついてないってことに途中で気がついてね」
彼女は自分で言ったとおり、薬に対しては絶対に嘘はつかないだろう。
それと同じで、誰かに助けを求める時にも絶対に嘘はつかないはずなのだ。
「そう。それじゃあお礼に良い物を上げるよ。この効果はこの私が保証するよ」
そう言っててゐは袋からあるものを取り出した。
「なるほど、確かに間違いないな」
読み取った名前は蒲黄。火傷や外傷に効く、ガマの花粉を乾燥させたものである。
そう。彼女は嘘つき兎であるが、ある一点に関してのみは絶対に嘘はつかないのだ。
「君は他ならぬ因幡の白兎だからね」
つまり彼女の恩人、大国主命に関する事である。
「そういう事だね。ついでにもういっこサービスしとくよ」
「何をだい?」
「自分で言ったんじゃないの。私は因幡の白兎だからね。だから、結縁には強いんだ」
言われて僕は因幡の白兎の物語を思い出した。
白兎は最後に大国主命が八上姫と結ばれる予言をして、その通りになったのである。
「僕はそういうつもりじゃ……」
「いいじゃないの。あんたも男なんだからさあ。そろそろ誰かとくっついちゃいなってば」
余計なお世話である。それこそ男はこうだという先入観に乗っ取られた……
「ホイ。明日の朝一番に店に来る相手と結ばれるでしょう。それじゃあ誰がやってくるか楽しみにしててね!」
「おい、こら……」
引き止める間も無く、てゐはぴょんぴょん跳ねて去っていった。
「……まあ、嘘という事も考えられるしな」
ひとりごちつつ、僕は入り口から目を離せなくなってしまっていた。
果たして一体どうなるのだろうか。
嘘か真か。
明日を見通す目が欲しいもんだと僕は頭を抱えるのであった。
しかし予め相手のことを知っておくというのは商売を差し置いても有益であり、言うなれば場に応じて正しい判断が出来ればよいということである。
さとり妖怪のような読心や未来を見通す能力でも無ければ、人は過去の経験と知識に頼るしかないのだ。
「お願い、助けて欲しいんだ」
さて僕の目の前にいる彼女の場合はどうだろうか。
「急にそう言われてもね」
「話を合わせてくれるだけでいいから、ね、ね?」
「うーん」
彼女の焦りぶりからして、厄介な事が舞い込んできそうな雰囲気だ。
「何か裏があるんじゃないかい、てゐ」
因幡てゐ。彼女は幸福を人に与える兎であるが、それ以上に嘘つき兎として有名である。
さて彼女は僕に何をもたらしてくれるのだろうか。
「無い、無いってば」
期待してもいいのだが、見返り目当てで助けるというのもどうかという感じだ。
僕は彼女の言動を信じるべきだろうか。
「ああもう早くしないと来ちゃうじゃない……」
「誰が?」
「めんどくさい奴」
「ふむ」
彼女が面倒だと思うような相手とは一体誰だろうか。
頭の中にイメージを浮かべるのとほぼ同時のタイミングで入り口が開いた。
「へえ、ここが何でも揃う店かい」
「タブンネ」
片言で答えるてゐ。
僕はその少女を見て、てゐが面倒がっている理由が瞬時に理解できた。
「ふーん。そうなのかい霖之助。この兎の言うことは本当かい?」
「どうだろうね」
答えを濁すに留めておく。
彼女の名前は鬼人正邪。天邪鬼である。
説明は不要だろう。天邪鬼というのはひねくれ者なのである。
「コイツが言ったんだ。この店なら私の求めているものが手に入るってね」
「内容を聞かないと何とも言えないが、なんだい」
「ああ、今の私に要らないようなものを寄越せ」
「は?」
「二度も言わせるなよ。いいか。今の私に要らないようなものを寄越せ」
「……」
なるほど、これは矛盾だ。たとえ僕がゴミを出したとしても、それが肯定されてしまった時点でもうそれは要らないものを渡した事にはならない。
だがそんなものは無いと言ってしまえば、求めているものが手に入る店ということでは無くなってしまう。
「叶わないっていうなら、この兎の持ち物を頂いていくよ」
質の悪いゴロツキみたいな理論だなぁと思った。
無理難題を押し付け、物を奪おうというのだろうか。
天邪鬼らしいといえばらしい理屈なのだが。
「どうにかなるよね、ね」
そしててゐは彼女の難題というか無茶ぶりに答えられず、ここに逃げてきたというわけだ。
「……」
さてここで僕は知ったこっちゃあ無い、兎のついた嘘だとてゐを見捨てることも出来る。
しかし僕にはある考えがあった。まずはそれを確かめないとならない。
「まあ、そうだね。多分何とか出来るんじゃないかな」
「本当に?」
「多分だよ」
「それは肯定と受け取っていいんだよね?」
正邪が不敵に笑う。
「まず、君は一体どうしてそんな事を言い出したのか、理由を聞いてもいいかい?」
「そりゃあ、この兎が嘘をつかないって言ったからだよ」
「ふむ?」
「先にこの兎に同じ質問をした。そうしたら私の求めているものはここにあると言った。だからそれを信じてやったのさ」
「それは……嘘でした、とその場で言えば済んだ問題だったのかな」
「覚えときな。嘘は重なると重くなるんだよ」
「一理ある」
ある一つの嘘を真実にするためには別の嘘をつかなくてはならない場合がある。
そうしてそれが重なっていき、真実はどこにも無くなってしまうのだ。
「つまり、それがあるかないかはどうでもいいと?」
「どうでもよくはないさ。この店にあるかどうかは知らんがね」
「ふぅむ」
僕はもう一度彼女の言った言葉を頭の中で反復してみた。
私に要らないようなものを寄越せ。
これは素直に受け取ってはいけない言葉なのではないだろうか。何せ彼女は天邪鬼なのである。
なら真逆にしたらどうなるだろう。
お前に必要なものをあげる?
意味が成り立たなくなってしまうじゃないか。
「……ちょっと相談してもいいかな」
これはもう少し話を聞いてみる必要がありそうだ。
「なんでもいいよ」
「ありがとう。てゐ、ちょっといいかな」
てゐを呼び寄せて店の奥へ移動する。
「僕が失敗したら全部持っていかれるらしいが、君は何を持っているんだい?」
もしかしたら本命はそれなのかもしれない。
「そりゃ商売道具だよ。傷薬だね。私製のやっすい薬と中くらいの薬とお師匠様製の高級な奴」
「なるほど、それを売ってたら彼女に絡まれたと」
「そんな感じ。せっかく上手いこと稼げてたのになあ」
「安いのを高く売るとかしてたんじゃないだろうね」
「薬に関しては嘘はつかないよ」
「……ああ、なるほど」
「何、どうしたの」
「いや、少し分かったかもしれない」
やはりそういうことなのだろう。
僕は思い浮かんだ事を試してみることにした。
「待たせたね」
「遅いじゃないか」
「ちょっといろいろあってね……」
「で、あるの? ないの? はっきりして欲しいんだけど」
正邪はイライラした様子であった。
「君の言っているものは簡単に手に入るものなのかい?」
「知らないよ。入るかもしれないし入らないかもしれない」
ものすごい曖昧であった。答えになっていない。
しかし、それが尚更僕の考えを確信に至らせるものとなった。
「それじゃあ君の言う『今の私に要らないようなもの』を渡させて貰おう。てゐ、いいかな?」
「なに?」
「君のお師匠の一番高い薬を渡してやってくれ」
「え、なんで?」
「いいから」
「……分かったよ。はい」
渋々といった感じで袋から薬を取り出す。
「言っておくけど高いんだからねそれ。お師匠の特別製で」
「いくらだい」
尋ねると、不満気な顔のまま値段を告げる。
「だ、そうだが」
「ほらよ」
正邪がぽいと無造作に束ねられた小銭をてゐの前に置いた。
「あれ買ってくれるの?」
「誰が買わないって言ったよ」
「だって寄越せって……」
「お金を払わないとは言ってないね、確かに」
言い方は悪いが、寄越せというのは奪い取るという意味ではなかったのだ。
「……なんでそんな紛らわしい言い方するのさ」
「お前は私を何だと思ってるんだよ」
「天邪鬼」
「それが答えだよ」
「そりゃあまあ、そうなんだけどさ……」
てゐは腑に落ちない様子であった。
「正邪。一つ聞いていいかい」
僕はそこで質問をすることにした。
「何だよ」
「君は言っていることが全て正反対というわけではないんだね」
そうなるとおかしいことになるのだ。
何故なら僕と彼女の間で会話は成立している。それはつまり僕らの求めている正しい答えが返ってきているということなのだ。
「そんなクソ不便な生き物どこにいるんだよ。私が見てみたいよ」
全くである。
「……いや、いるか」
「あん?」
「いや、こっちの話だよ」
"鬼"は嘘を嫌う。絶対に嘘をつかない種族だ。
それと同じように僕は"天邪鬼"も全て言っていることが反対なのではという先入観を持ってしまったのだ。
そして、てゐも同じ勘違いをしていたのだろう。
「つまり、言い方が悪いだけで最初から薬が欲しかったってだけ?」
「お前は私が薬が欲しいって言ったらはいそうですかと渡すのか?」
「……無いね」
「そういうことだよ」
正邪はどこか自慢気であった。
普通だったら嫌だなあと思うのではないかという内容なのだが、そこは彼女が天邪鬼であるからこそなのだろう。
つまり、自分の言葉が正しく伝わらないことはそれだけ天邪鬼という妖怪を警戒しているという証明になるのだ。
「しかしそれじゃあ買い物も大変だろうに」
「だから似たような奴に声掛けたんじゃないか」
「なるほど」
てゐから同類の気配を感じ取ったというわけか。
「なーに納得してんのさ」
当人は再び不満気な顔をしていた。
「まあまあ、解決したんだからいいじゃないか」
「しかし怪我一つない奴が一体お師匠様の薬を何に……」
「誰が教えるかバーカ。ははは! じゃあな!」
正邪はやたらと演技過剰な高笑いをしたかと思うと天井にひっくり返り、そのまま外へすっ飛んでいった。
「……何だったんだろアレ」
「まあ、そこは天邪鬼だからね。自分には使わないけど薬が必要って事は少し考えれば分かるだろう?」
つまり親しい誰かが怪我をした為、必要になったということだ。
「なんだっけ、外の世界でいうツンデレ?」
「どうなんだろうな。本人は絶対に否定するだろうけれど」
「ま、私もプライベートには立ち入らない主義だし、売れたならなんでもいいけどね」
「だな」
売ったものはその時点で向こうの所有物だ。詮索するのは野暮であろう。
「ところでさ、天邪鬼は疑ってたのに私の事はあっさり信じてくれたのは何で?」
「ああ、最初は怪しんだんだけど、君は絶対に嘘をついてないってことに途中で気がついてね」
彼女は自分で言ったとおり、薬に対しては絶対に嘘はつかないだろう。
それと同じで、誰かに助けを求める時にも絶対に嘘はつかないはずなのだ。
「そう。それじゃあお礼に良い物を上げるよ。この効果はこの私が保証するよ」
そう言っててゐは袋からあるものを取り出した。
「なるほど、確かに間違いないな」
読み取った名前は蒲黄。火傷や外傷に効く、ガマの花粉を乾燥させたものである。
そう。彼女は嘘つき兎であるが、ある一点に関してのみは絶対に嘘はつかないのだ。
「君は他ならぬ因幡の白兎だからね」
つまり彼女の恩人、大国主命に関する事である。
「そういう事だね。ついでにもういっこサービスしとくよ」
「何をだい?」
「自分で言ったんじゃないの。私は因幡の白兎だからね。だから、結縁には強いんだ」
言われて僕は因幡の白兎の物語を思い出した。
白兎は最後に大国主命が八上姫と結ばれる予言をして、その通りになったのである。
「僕はそういうつもりじゃ……」
「いいじゃないの。あんたも男なんだからさあ。そろそろ誰かとくっついちゃいなってば」
余計なお世話である。それこそ男はこうだという先入観に乗っ取られた……
「ホイ。明日の朝一番に店に来る相手と結ばれるでしょう。それじゃあ誰がやってくるか楽しみにしててね!」
「おい、こら……」
引き止める間も無く、てゐはぴょんぴょん跳ねて去っていった。
「……まあ、嘘という事も考えられるしな」
ひとりごちつつ、僕は入り口から目を離せなくなってしまっていた。
果たして一体どうなるのだろうか。
嘘か真か。
明日を見通す目が欲しいもんだと僕は頭を抱えるのであった。
ともすれば頭と話がこんがらがりそうな題材ですが、
それを噛み砕いてすっと理解出来る内容にしています。
キャラクターも非常に自然で、本当に生きているかのようです。
こんな素敵なお店があったら毎日通っちゃいますよね。
流石の読みやすさでした。
ただ、個人的には誰かがこーりんと結ばれるというのは好きではないという個人的な事情で点数に少しだけ低めの補正をかけています。
個人的にそれが少し……というだけで、改めて、話は非常に面白かったです。
で、後書きにあった弾幕戦はどうなったんだろw
そして翌日には巻き添えで廃墟になった香霖堂の姿があった
てゐと正邪と霖之助のキャラをここまで自在に操ってのss、お見事でした!
ところで魔法の森の入り口付近で今朝、大爆発が立て続けに起きたらしいが、何があったんだ?
天の邪鬼も苦労してるんだねw
針妙丸か、針妙丸なのか
実は正邪ってけっこう頭良くて、霖之助と話し合うのでは?と思えるお話でした。
今度は霖之助と正邪二人でのお話も見てみたいですね。
ありがとうございます
理解することができるとても良い作品だと感じました。
文体も読みやすく違和感を感じない自然さ、
キャラの性格が原作からあまり離れていない所も何気に良い!