幻想郷に三日三晩、嵐が吹き荒れた。その翌朝のことだ。
「こりゃまた、派手にやられたものね」
紅魔館の幼き主、レミリア・スカーレットは、散々な状況を呈している己が館の庭をバルコニーから眺めながら、そう評した。
嵐が来る前は整然と整っていた庭は、今や見る影もなくなっていた。吸血鬼の館とは思えないほどに綺麗な花壇があった場所は滅茶苦茶になったうえに、強い風で吹き飛んできたのであろう様々なものが、庭のいたるところに撒き散らかされたようになっていた。美鈴とその他十数名のメイド妖精たちが、その後片づけのために庭中をせせこましく動き回っている。
「非日常だねぇ」
レミリアの言葉に悲嘆さはない。呆れたような、というよりはむしろ、どこか楽しむような雰囲気すら感じる口調だった。
「ホント、大変だったわね」
「えぇ全くですわ」
レミリアとは対照的に、傍らに立つ従者、十六夜咲夜は、渋面を浮かべて言った。
「この三日ほど、生きた心地がしませんでしたわ……」
「あら、咲夜ったら。貴女くらいの年で、まだ雷が恐かったのかしら。貴女もまだ子供ね」
「お嬢様。そのような冗談を真に受けるほど、私は子供ではないつもりです」
咲夜はレミリアの楽しそうな表情を見れば見るほど、その分だけ深い深い溜息を吐いた。
「非日常過ぎたのです。今回のことが」
「非日常もたまにはいいものよ。ともすればマンネリ化しかねない人生の中で、良いスパイスになる」
「その意見には賛同しますわ。適度、であればの話ですけど」
「今回は適度ではなかったのかしら」
「少なくとも私にとってはそうです」
ふぅん、とレミリアはとぼけた。
「咲夜はひ弱ね。まぁ人間だから仕方ないかな?」
「認めましょう。私はまだ未熟。紅魔の一員であるためには、まだまだ精進が必要とは思っております」
「あ、意外。そんな返しは、私の運命に無かった」
「私には確かに弱い部分があります。それが人間的な、身体の脆さであることも自覚しております。これから申し上げることは、それを認識した上でのことですから、大変な無礼に当たるのかもしれません」
突然、庭の方で大きな音が響いた。瓦礫の山の一角が吹っ飛んでいた。数人のメイドたちも巻き込まれた様だ。
瓦礫の中から這う這うの体で這い出してきた美鈴は、何事かと眺めていたレミリアと咲夜のもとにやってくると、あるものを高く掲げて言った。
「お嬢様ー! こんなものがー」
見間違えようも無い、例の如くの宝塔だった。
「もはやテンプレですわね。後で返しに行かせますか」
「その必要はないさ。あそこのネズミが、じきやってくる」
「運命ですか。それも」
「違う。単なる予想さ。寺のネズミは優秀だと聞いているからね。まぁウチのメイド長ほど、優秀な従者はいないと自負しているが」
レミリアは咲夜に向き直る。
「さて、その幻想郷一優秀な従者の言葉だ。どのような無礼であっても、主を想うのであれば、真摯に聞かねばなるまいな?」
レミリアの視線を受けて、咲夜の中に緊張が走る。
咲夜は深呼吸すると、一拍おいて切り出した。
「この三日間、私はお嬢様を支えて参りました。そしてその上で、お嬢様がこれまでにとってきた行動を鑑みて、私にはどうしても申し上げたいことがあるのです」
「何かしら。遠慮なく言いなさい」
「……お嬢様は働き過ぎです。今すぐ休むべきです」
下でまた美鈴が呼んでいる。
「お嬢様ー! 庭でわかさぎを捕まえたんですが如何いたしましょうかー」
「おぉ、でかしたぞ美鈴! 今日の昼はわかさぎの天ぷらだな!」
「やーめーてー 天ぷらはいやー! せめてお造りの方が……」
「真摯に話を聞くんじゃなかったんですか、お嬢様」
咲夜の視線が痛い。はぁ、とレミリアは観念した。
「ねぇ咲夜」
「なんでしょう」
「自分でも言ってたけど、貴女確かに無礼だわ。慇懃無礼ってやつね」
「お褒めにあずかり、恐縮でございます」
「褒めてねぇよ。なんで礼を言った」
「正当な評価を頂けたからであります。ぶいっ」
「いかん。休暇が必要なのはメイド長の方だわ」
そのメイド長が咳払いを一つ。
「ま、冗談はさておき。お嬢様には休みが必要なのです」
「ちょっと、咲夜。冗談は止めにするんじゃなかったの」
「そこは本気です。お嬢様には休みが必要なのです。大事なことなので二度言いました」
「じゃあ私も本気で言うわ。休みが必要なのは咲夜、貴女の方よ。貴女この三日間、私に付き合って一睡もしてないでしょう。無礼というのはそういうことよ。私は貴女のような人間と違って、三日くらい寝なくても平気よ。そういう事も分かったうえで、咲夜は自分のことを棚に上げて、私の心配をしているのよ」
「お嬢様。私は人間ですが、ただの人間ではありません。私は時を止められます。隙を見て休みを取ることなど、造作もないことなのです」
「それは分かってる。でもこの三日間でいつ休息を取った?」
「二、三度は取ってますわ。人間ですから、寝なければ体調を崩します」
「本当に?」
「えぇ」
一瞬で、咲夜が寝癖だらけの寝間着姿で現れた。
「こんな風に」
「わざとらしくしないでいいから」
「わざとじゃありません。現についさっきまで、六時間ほど寝てました」
「本当に?」
「これが嘘に見えます?」
そう言えば確かに表情が幾分か晴れやかになったようだと、レミリアは認めた。
……むしろ晴れやかというか、キラキラと輝いているというか。
「良うございました……お嬢様のおみ足……」
「おい、ちょっと待て。お前、今までどこに寝てた?」
はっと気づいた様な表情を浮かべたのもつかの間、一瞬で寝間着姿の咲夜がいつもの咲夜に戻っていた。
「あらやだ、私ったら。忘れてくださいまし、お嬢様」
ポッと咲夜が頬を赤らめる。思わずレミリアはツッコんだ。
「純情そうにするな。この変態メイド長」
レミリアは呆れたように眉を顰めた。非日常が過ぎると咲夜は言ったが、確かにその通りだと思った。
何より彼女本人が、いつもと比べてどこかおかしい。
「確かに、そうですわね。私はおかしいかもしれません」
「認めるのか。自覚はあるのね」
「えぇまぁ。三日三晩、お嬢様と辛苦を共にすればこうもなりましょう」
「私が原因とぬかすか貴様」
「色々な点で、そうだと断言しますわ」
なんとまぁぬけぬけと言うものだ。レミリアは可笑しそうにクックと笑う。
今の咲夜は、理知的な部分と変態的な部分が同居した、とても不思議な状況にある。だがレミリアは、そんな彼女がそこまで嫌ではなかった。めったにない状態の咲夜を見ていて、むしろ愉快に思う部分もあった。
「私の何が咲夜をおかしくさせたと言うの」
「お嬢様の行動すべてが、私をやきもきさせるのです。ですから、お嬢様には休養が必要と」
「いきなり論理が飛躍したわね。しかもまたその話題? 貴女も頑固ね」
「自覚がないのですか?」
ぐっと答えに詰まった。自分におかしなところはないはずだ。言動も行動も、咲夜の方が明らかにおかしい。なのになぜか言い返せなかった。レミリアは否定の言葉を言えなかった。
変に咲夜が真顔でそんなことを言ったから? いや違う。咲夜は自分がおかしくなっていることを認めている。そして私は自分が正しいと信じている。だが咲夜は私がどこかおかしいと指摘している。つまり、咲夜は私の気づいてない部分に気づいているという事だ。咲夜の得も知れない気迫のせいではない。
「私、そんなに疲れてるように見える?」
「傍目からはそうは見えないでしょう。ですが私には分かります」
「咲夜の妄想なんじゃないの」
「妄想であれば良いのですけど。しかし、自覚がないのは重症ですわ」
「咲夜の話を聞いてると、私ってホントどうなっちゃったのって心配になるわね」
「その心配そうにしてないお嬢様を見ているのが一番心配です」
咲夜が深い溜息を吐いた。
「私、何かしたかしら」
「色々とし過ぎるくらいしてますわ。この三日間のことです。今一度振り返ってみて下さい」
「んー。まず、嵐が来るからその対策を練って、全メイドに通知して、ついでに発破かけて。そして当日は三日三晩、寝ずに館を見回りつつ、メイドたちを指揮して、ついでに発破かけて。そんなもんかしらねぇ。何もおかしなところは無いじゃない」
「お嬢様。一番大事なことを言っていませんわ」
「あれ。なんか言い忘れてたかしら」
「……メイドたちと一緒に、応急の修繕作業までやっていたでしょう」
いきなり咲夜の視線が鋭くなった。なんとなく、レミリアは目を逸らす。
「……雨漏ってるところがどんどん出てきたのよ。知ってるでしょ。人手が足りなくなったから仕方なく」
「もちろん存じていますわ。外回りにも被害が出始めていましたからね。誰かさんが調子に乗って、外の修繕にまで行くとは予想もしませんでしたけど」
ますます咲夜の視線が鋭くなった。ついにレミリアは顔ごと目を逸らした。
「……だって、仕方ないじゃない。私の可愛いメイドたちが、風でぽんぽん飛ばされていくのよ。黙って見ていられるわけないじゃない」
「だからといって、あんなに雨風吹き荒れている中に出て行くことがありますか! 下手をするとお嬢様が死んでいたかもしれませんのに! 状況報告を受けたとき、どれほど肝をつぶしたことか」
「お、落ち着いて、咲夜。私は大丈夫よ。パチュリーに特製の雨風避けの魔術を掛けてもらっていたし」
「だったとしても、そういう事は最悪、美鈴一人に任せても良かったのです!」
下で美鈴が叫んでいる。「咲夜さん、期待が重いですよぉ」
「……前向きな子ね」
「嫌味なつもりで言ったわけでは無かったんですけど」
「信頼があるってことね。甘え過ぎて潰しちゃダメよ?」
「心得ております。ですがお嬢様には、あえて逆のことを申しますわ」
咲夜は言った。
「今回のお嬢様は、いつもと比べても自ら動き過ぎなのです。お嬢様が常に陣頭に立ち続けたことで、確かに事態は最小限で済みました。しかしお嬢様があまりに行動的であるために、逆にその身を心配する声も少なからず上がっていたのですよ」
「私の行動が、皆に不安を煽っていたというの?」
咲夜の発言に、レミリアは衝撃を受けていた。良かれと思って必死にやっていたことが、逆にそんな風に受け止められているとは予想もしなかったことだった。
ショックで肩を落とした主をメイド長は慰めた。
「お嬢様を慕うが故に御座います。皆、お嬢様が館の為を想って行動していたことは分かっております。ただ、もう少し御自身の身体を自愛なさるべきだったのです。何よりお嬢様自身が、この館で一番大事な存在なのですから」
「そう……よね」
レミリアは顔を上げると、咲夜を見て頷いた。
「ごめんなさいね、咲夜。私、少しはしゃぎ過ぎていたのかもしれない。めったにない状況に中てられて、ちょっとハイになってたのかも」
「ようやく理解して頂けましたか」
「皆には迷惑をかけたわね。特に咲夜には気を揉ませたと思う」
「えぇそれはもう。お嬢様のことを考えると、色々と吹き飛びそうで気が気でなりませんでしたわ。主に理性とかが」
「ナチュラルにそういう言動するのやめなさいよ。色々と台無しだから」
今日は咲夜の悪いところがよく出ていると、レミリアは顔を顰める。咲夜は天然基質なのだ。
「それで、お嬢様。お身体の方は」
「またその心配? 大丈夫だって。確かに皆には心配かけたかもしれないけど、私は何とも無いわよ」
「本当に?」
「本当よ……」
そこでレミリアは気付いた。咲夜が二重になって見えていた。いつからウチのメイド長は、分身する術を身に付けたのだろうか?
「さ、咲夜」
「あぁもう。だから言わんこっちゃない」
気が付いたときには、すでにレミリアは咲夜の腕の中に抱きかかえられていた。どうやらふらついて倒れかけたらしいという事が、なんとなく理解できた。
「御自身の身体のことを自覚しましたね? 今なら分かるでしょう。身体がどれだけ疲弊していたかを」
咲夜の言葉に、レミリアは頷くしかなかった。まるで重石を括りつけられたかのように、身体が急に動かしにくくなっていた。さっきまでは全く感じていなかった感覚だった。
「部屋までお運びしますわ」
「いや、いい。自分で歩いて行くわ。下ろして頂戴」
地面に降り立ったレミリアは、ふらつきながらも歩けることを確認した。咲夜の申し出を断ったのは、その姿を誰かに見られてしまうことで、メイドたちを動揺させることを恐れたからだった。
「それに今の咲夜を部屋に入れたら、何されるか分かったもんじゃないし」
「お嬢様ったら、酷いですわ。いくらなんでもそこまでは…………するかも」
「おい。そこは否定しろよダメイド」
どうやら自分も咲夜も相当に参っているようだ。溜まった疲労を取る方法はたった一つ。ぐっすりと眠って休むしかない。
「貴女も休みなさい、咲夜。私達にはツケが溜まり過ぎたのよ。引き継ぎは美鈴あたりにやっときなさい」
「承知しましたわ」
「いい? 貴女のその瀟洒じゃないところが無くなるまで休むのよ。これ、重要だからね。……なんて顔してるの咲夜」
最後くらいはきっちり締めなさいよとツッコみたかったレミリアだった。
咲夜と別れてから自分の部屋までは、何とか見栄を張って辿り着いたところまでは覚えている。しかしその後どんな風に行動していたかは記憶に無い。
レミリアがそんな風に思い返しているのは、今誰かが彼女の頬をふにふにとつねって、彼女の睡眠を妨げているからに他ならない。
「お姉様。こんなところで寝てたら風邪引くよー?」
「フラン……」
レミリアは自分の頬で遊んでいる妹のフランドールを見上げた。そこで初めて、どうも自分はベッドではなくソファに寝転がっているらしい、という事をレミリアは認識した。
「なんでここに居るの」
「ここに居ちゃいけない?」
フランはにこにこと笑みを浮かべながら問い返す。厄介な笑みだと思う。質問を変えた。
「何しに来たの」
「遊びに来たのよ」
そう言いながら、フランはレミリアの頬をつねるのを止めない。痛くはないが、うざい。
「お姉様のほっぺはもっちもちー」
「やめなさい」
そう言うのが精一杯だった。起き上がる気力すら湧かない。だが意外にも、フランは素直に手を放した。
「お姉様、疲れてる?」
「えぇ、とってもね。そうでなければ、こんな風に寝転がったまま対応してないわ」
「うん、知ってた」
フランはしゃがみこむと、レミリアに目線を合わせた。
「いつものお姉様だったら、あんなことされてたら烈火のごとくキレてるわ」
「貴女の意図が分かってるからね。でもねフラン、今は構ってあげられないのよ。もうどうにも体が動かなくて。元気になったら壊し合いでもなんでも付き合ってあげるから、今は少し寝かせて頂戴」
「分かった。でも少しだけお話しても良い?」
妙な感覚をレミリアは味わっていた。表面上は険悪そうにしていても、心の奥底では妹と繋がりを感じていたが、こうまでそれがあからさまに出ているのを見るのは、とても不思議な気分だった。口では言い表せない雰囲気だったが、少なくとも不愉快に思うものではない。
レミリアが頷くと、フランは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「会うのは何日ぶりかな?」
「さぁ。一週間は経ってないはずだけど。ずっと地下に閉じ籠って、ご飯も食べてないって聞いてたわ。何してたの」
「ずっとまどマ○見てたわ。虚○玄って天才ね。あの人の話は人の心を凄まじく抉ってくる。それに絵がまたすごく良くて、そのギャップがまた良くて。あまりにドツボにハマったから何回も見返して、それこそご飯食べるのも忘れてたわ」
「フラン。その幻想入りしそうにもない作品のことを話題に出すのは止めなさい。ちょっとメタすぎるわ」
僅かに幻想が曖昧になるのをレミリアは感じた。流石に拙い雰囲気だったので、あっという間に滅したようだが。
「……で、お腹が減ったから出てきたの?」
「ううん、違うわ。感じたのよ」
「何を」
「普段と違う空気よ」
フランはそう言うと、その空気を全身で受け止めるかのように、両手を大きく広げて深呼吸をした。
「凄いものに触れた後のどことない寂寥感はね、頭の中の感覚を鋭敏にするのよ。そしたら、館が何かいつもと違うって分かったの。久々に地下から出てみたら、メイドたちがとても忙しそうにしてて。でね? メイドを一人捕まえて、なんでそんなに忙しいのって訊いたら、そのメイドは忙しいものは忙しいのですって言ったの。とても可笑しかったわ。傍目はとても大変そうなのに、その心は一周回って暢気になってるんだもの。きっと、想像もつかない程の大変なことがあったのね」
「えぇ、とても大変だったわ。もう心配はいらないけれど」
「もちろん、そうでしょうね。でなければ、大変そうなのにこんな変な安堵感があるわけないもの。皆が一様におかしいから、それでなんだか無性にわくわくしたの。お姉様の部屋に来たら、案の定お姉様も無防備にソファで寝てて」
「フランは楽しそうね」
「楽しい、というより愉快の方が正確ね。だって、お姉様もこんなにおかしくなってるんだもの」
「貴女もおかしいわよ。フラン」
「あぁ、そうかも。非日常な雰囲気だから」
二人は互いに顔を見合わせて笑い合った。普段なら決して感じることのない独特の雰囲気の心地良さに、二人は酔っていた。
フランは立ち上がると、横たわって動けない姉を両腕で抱え上げた。
「ちょっと、どこへ連れて行くのよ」
「お姉様のベッド。私は言いたいことを言えたから、もう満足なの」
そのままフランはふわりと浮きあがると、ベッドの方へ瞬時に加速した。超短距離の移動はあっという間に終わり、止まり際にフランに投げ出されたレミリアは、自分の部屋の中で初めて無重力を感じていた。
「……もうちょっと優しい運び方をしなさいよ」
「うふふ」
フランは可笑しそうに笑うと、そのまま姉のベッドの中にもぐりこんだ。
自由奔放な妹に、レミリアは溜息を吐く。
「非日常になり過ぎるのも考え物ね。皆がおかしくなって大変だわ。妹はひねくれたようになるし、咲夜は変態になるし」
「心配しないで、お姉様。非日常なのも今日限り。明日には元通りの日常が戻ってくるわ」
「それはそれで、何か心残りだけどね」
レミリアは目を瞬かせた。もう睡魔には抗えない程になっている。
「最後に一つだけ。お姉様は楽しかった?」
「そうね……愉快だったわ。大変だったけど、皆との繋がりを感じられて心地良かった」
「私もよ。この雰囲気の中にお姉様と一緒に居られて良かったと思う」
もうレミリアは静かに寝息を立てていた。そんな姉の様子に、妹は微笑んで言った。
「おやすみなさい、お姉様。また明日ね」
「こりゃまた、派手にやられたものね」
紅魔館の幼き主、レミリア・スカーレットは、散々な状況を呈している己が館の庭をバルコニーから眺めながら、そう評した。
嵐が来る前は整然と整っていた庭は、今や見る影もなくなっていた。吸血鬼の館とは思えないほどに綺麗な花壇があった場所は滅茶苦茶になったうえに、強い風で吹き飛んできたのであろう様々なものが、庭のいたるところに撒き散らかされたようになっていた。美鈴とその他十数名のメイド妖精たちが、その後片づけのために庭中をせせこましく動き回っている。
「非日常だねぇ」
レミリアの言葉に悲嘆さはない。呆れたような、というよりはむしろ、どこか楽しむような雰囲気すら感じる口調だった。
「ホント、大変だったわね」
「えぇ全くですわ」
レミリアとは対照的に、傍らに立つ従者、十六夜咲夜は、渋面を浮かべて言った。
「この三日ほど、生きた心地がしませんでしたわ……」
「あら、咲夜ったら。貴女くらいの年で、まだ雷が恐かったのかしら。貴女もまだ子供ね」
「お嬢様。そのような冗談を真に受けるほど、私は子供ではないつもりです」
咲夜はレミリアの楽しそうな表情を見れば見るほど、その分だけ深い深い溜息を吐いた。
「非日常過ぎたのです。今回のことが」
「非日常もたまにはいいものよ。ともすればマンネリ化しかねない人生の中で、良いスパイスになる」
「その意見には賛同しますわ。適度、であればの話ですけど」
「今回は適度ではなかったのかしら」
「少なくとも私にとってはそうです」
ふぅん、とレミリアはとぼけた。
「咲夜はひ弱ね。まぁ人間だから仕方ないかな?」
「認めましょう。私はまだ未熟。紅魔の一員であるためには、まだまだ精進が必要とは思っております」
「あ、意外。そんな返しは、私の運命に無かった」
「私には確かに弱い部分があります。それが人間的な、身体の脆さであることも自覚しております。これから申し上げることは、それを認識した上でのことですから、大変な無礼に当たるのかもしれません」
突然、庭の方で大きな音が響いた。瓦礫の山の一角が吹っ飛んでいた。数人のメイドたちも巻き込まれた様だ。
瓦礫の中から這う這うの体で這い出してきた美鈴は、何事かと眺めていたレミリアと咲夜のもとにやってくると、あるものを高く掲げて言った。
「お嬢様ー! こんなものがー」
見間違えようも無い、例の如くの宝塔だった。
「もはやテンプレですわね。後で返しに行かせますか」
「その必要はないさ。あそこのネズミが、じきやってくる」
「運命ですか。それも」
「違う。単なる予想さ。寺のネズミは優秀だと聞いているからね。まぁウチのメイド長ほど、優秀な従者はいないと自負しているが」
レミリアは咲夜に向き直る。
「さて、その幻想郷一優秀な従者の言葉だ。どのような無礼であっても、主を想うのであれば、真摯に聞かねばなるまいな?」
レミリアの視線を受けて、咲夜の中に緊張が走る。
咲夜は深呼吸すると、一拍おいて切り出した。
「この三日間、私はお嬢様を支えて参りました。そしてその上で、お嬢様がこれまでにとってきた行動を鑑みて、私にはどうしても申し上げたいことがあるのです」
「何かしら。遠慮なく言いなさい」
「……お嬢様は働き過ぎです。今すぐ休むべきです」
下でまた美鈴が呼んでいる。
「お嬢様ー! 庭でわかさぎを捕まえたんですが如何いたしましょうかー」
「おぉ、でかしたぞ美鈴! 今日の昼はわかさぎの天ぷらだな!」
「やーめーてー 天ぷらはいやー! せめてお造りの方が……」
「真摯に話を聞くんじゃなかったんですか、お嬢様」
咲夜の視線が痛い。はぁ、とレミリアは観念した。
「ねぇ咲夜」
「なんでしょう」
「自分でも言ってたけど、貴女確かに無礼だわ。慇懃無礼ってやつね」
「お褒めにあずかり、恐縮でございます」
「褒めてねぇよ。なんで礼を言った」
「正当な評価を頂けたからであります。ぶいっ」
「いかん。休暇が必要なのはメイド長の方だわ」
そのメイド長が咳払いを一つ。
「ま、冗談はさておき。お嬢様には休みが必要なのです」
「ちょっと、咲夜。冗談は止めにするんじゃなかったの」
「そこは本気です。お嬢様には休みが必要なのです。大事なことなので二度言いました」
「じゃあ私も本気で言うわ。休みが必要なのは咲夜、貴女の方よ。貴女この三日間、私に付き合って一睡もしてないでしょう。無礼というのはそういうことよ。私は貴女のような人間と違って、三日くらい寝なくても平気よ。そういう事も分かったうえで、咲夜は自分のことを棚に上げて、私の心配をしているのよ」
「お嬢様。私は人間ですが、ただの人間ではありません。私は時を止められます。隙を見て休みを取ることなど、造作もないことなのです」
「それは分かってる。でもこの三日間でいつ休息を取った?」
「二、三度は取ってますわ。人間ですから、寝なければ体調を崩します」
「本当に?」
「えぇ」
一瞬で、咲夜が寝癖だらけの寝間着姿で現れた。
「こんな風に」
「わざとらしくしないでいいから」
「わざとじゃありません。現についさっきまで、六時間ほど寝てました」
「本当に?」
「これが嘘に見えます?」
そう言えば確かに表情が幾分か晴れやかになったようだと、レミリアは認めた。
……むしろ晴れやかというか、キラキラと輝いているというか。
「良うございました……お嬢様のおみ足……」
「おい、ちょっと待て。お前、今までどこに寝てた?」
はっと気づいた様な表情を浮かべたのもつかの間、一瞬で寝間着姿の咲夜がいつもの咲夜に戻っていた。
「あらやだ、私ったら。忘れてくださいまし、お嬢様」
ポッと咲夜が頬を赤らめる。思わずレミリアはツッコんだ。
「純情そうにするな。この変態メイド長」
レミリアは呆れたように眉を顰めた。非日常が過ぎると咲夜は言ったが、確かにその通りだと思った。
何より彼女本人が、いつもと比べてどこかおかしい。
「確かに、そうですわね。私はおかしいかもしれません」
「認めるのか。自覚はあるのね」
「えぇまぁ。三日三晩、お嬢様と辛苦を共にすればこうもなりましょう」
「私が原因とぬかすか貴様」
「色々な点で、そうだと断言しますわ」
なんとまぁぬけぬけと言うものだ。レミリアは可笑しそうにクックと笑う。
今の咲夜は、理知的な部分と変態的な部分が同居した、とても不思議な状況にある。だがレミリアは、そんな彼女がそこまで嫌ではなかった。めったにない状態の咲夜を見ていて、むしろ愉快に思う部分もあった。
「私の何が咲夜をおかしくさせたと言うの」
「お嬢様の行動すべてが、私をやきもきさせるのです。ですから、お嬢様には休養が必要と」
「いきなり論理が飛躍したわね。しかもまたその話題? 貴女も頑固ね」
「自覚がないのですか?」
ぐっと答えに詰まった。自分におかしなところはないはずだ。言動も行動も、咲夜の方が明らかにおかしい。なのになぜか言い返せなかった。レミリアは否定の言葉を言えなかった。
変に咲夜が真顔でそんなことを言ったから? いや違う。咲夜は自分がおかしくなっていることを認めている。そして私は自分が正しいと信じている。だが咲夜は私がどこかおかしいと指摘している。つまり、咲夜は私の気づいてない部分に気づいているという事だ。咲夜の得も知れない気迫のせいではない。
「私、そんなに疲れてるように見える?」
「傍目からはそうは見えないでしょう。ですが私には分かります」
「咲夜の妄想なんじゃないの」
「妄想であれば良いのですけど。しかし、自覚がないのは重症ですわ」
「咲夜の話を聞いてると、私ってホントどうなっちゃったのって心配になるわね」
「その心配そうにしてないお嬢様を見ているのが一番心配です」
咲夜が深い溜息を吐いた。
「私、何かしたかしら」
「色々とし過ぎるくらいしてますわ。この三日間のことです。今一度振り返ってみて下さい」
「んー。まず、嵐が来るからその対策を練って、全メイドに通知して、ついでに発破かけて。そして当日は三日三晩、寝ずに館を見回りつつ、メイドたちを指揮して、ついでに発破かけて。そんなもんかしらねぇ。何もおかしなところは無いじゃない」
「お嬢様。一番大事なことを言っていませんわ」
「あれ。なんか言い忘れてたかしら」
「……メイドたちと一緒に、応急の修繕作業までやっていたでしょう」
いきなり咲夜の視線が鋭くなった。なんとなく、レミリアは目を逸らす。
「……雨漏ってるところがどんどん出てきたのよ。知ってるでしょ。人手が足りなくなったから仕方なく」
「もちろん存じていますわ。外回りにも被害が出始めていましたからね。誰かさんが調子に乗って、外の修繕にまで行くとは予想もしませんでしたけど」
ますます咲夜の視線が鋭くなった。ついにレミリアは顔ごと目を逸らした。
「……だって、仕方ないじゃない。私の可愛いメイドたちが、風でぽんぽん飛ばされていくのよ。黙って見ていられるわけないじゃない」
「だからといって、あんなに雨風吹き荒れている中に出て行くことがありますか! 下手をするとお嬢様が死んでいたかもしれませんのに! 状況報告を受けたとき、どれほど肝をつぶしたことか」
「お、落ち着いて、咲夜。私は大丈夫よ。パチュリーに特製の雨風避けの魔術を掛けてもらっていたし」
「だったとしても、そういう事は最悪、美鈴一人に任せても良かったのです!」
下で美鈴が叫んでいる。「咲夜さん、期待が重いですよぉ」
「……前向きな子ね」
「嫌味なつもりで言ったわけでは無かったんですけど」
「信頼があるってことね。甘え過ぎて潰しちゃダメよ?」
「心得ております。ですがお嬢様には、あえて逆のことを申しますわ」
咲夜は言った。
「今回のお嬢様は、いつもと比べても自ら動き過ぎなのです。お嬢様が常に陣頭に立ち続けたことで、確かに事態は最小限で済みました。しかしお嬢様があまりに行動的であるために、逆にその身を心配する声も少なからず上がっていたのですよ」
「私の行動が、皆に不安を煽っていたというの?」
咲夜の発言に、レミリアは衝撃を受けていた。良かれと思って必死にやっていたことが、逆にそんな風に受け止められているとは予想もしなかったことだった。
ショックで肩を落とした主をメイド長は慰めた。
「お嬢様を慕うが故に御座います。皆、お嬢様が館の為を想って行動していたことは分かっております。ただ、もう少し御自身の身体を自愛なさるべきだったのです。何よりお嬢様自身が、この館で一番大事な存在なのですから」
「そう……よね」
レミリアは顔を上げると、咲夜を見て頷いた。
「ごめんなさいね、咲夜。私、少しはしゃぎ過ぎていたのかもしれない。めったにない状況に中てられて、ちょっとハイになってたのかも」
「ようやく理解して頂けましたか」
「皆には迷惑をかけたわね。特に咲夜には気を揉ませたと思う」
「えぇそれはもう。お嬢様のことを考えると、色々と吹き飛びそうで気が気でなりませんでしたわ。主に理性とかが」
「ナチュラルにそういう言動するのやめなさいよ。色々と台無しだから」
今日は咲夜の悪いところがよく出ていると、レミリアは顔を顰める。咲夜は天然基質なのだ。
「それで、お嬢様。お身体の方は」
「またその心配? 大丈夫だって。確かに皆には心配かけたかもしれないけど、私は何とも無いわよ」
「本当に?」
「本当よ……」
そこでレミリアは気付いた。咲夜が二重になって見えていた。いつからウチのメイド長は、分身する術を身に付けたのだろうか?
「さ、咲夜」
「あぁもう。だから言わんこっちゃない」
気が付いたときには、すでにレミリアは咲夜の腕の中に抱きかかえられていた。どうやらふらついて倒れかけたらしいという事が、なんとなく理解できた。
「御自身の身体のことを自覚しましたね? 今なら分かるでしょう。身体がどれだけ疲弊していたかを」
咲夜の言葉に、レミリアは頷くしかなかった。まるで重石を括りつけられたかのように、身体が急に動かしにくくなっていた。さっきまでは全く感じていなかった感覚だった。
「部屋までお運びしますわ」
「いや、いい。自分で歩いて行くわ。下ろして頂戴」
地面に降り立ったレミリアは、ふらつきながらも歩けることを確認した。咲夜の申し出を断ったのは、その姿を誰かに見られてしまうことで、メイドたちを動揺させることを恐れたからだった。
「それに今の咲夜を部屋に入れたら、何されるか分かったもんじゃないし」
「お嬢様ったら、酷いですわ。いくらなんでもそこまでは…………するかも」
「おい。そこは否定しろよダメイド」
どうやら自分も咲夜も相当に参っているようだ。溜まった疲労を取る方法はたった一つ。ぐっすりと眠って休むしかない。
「貴女も休みなさい、咲夜。私達にはツケが溜まり過ぎたのよ。引き継ぎは美鈴あたりにやっときなさい」
「承知しましたわ」
「いい? 貴女のその瀟洒じゃないところが無くなるまで休むのよ。これ、重要だからね。……なんて顔してるの咲夜」
最後くらいはきっちり締めなさいよとツッコみたかったレミリアだった。
咲夜と別れてから自分の部屋までは、何とか見栄を張って辿り着いたところまでは覚えている。しかしその後どんな風に行動していたかは記憶に無い。
レミリアがそんな風に思い返しているのは、今誰かが彼女の頬をふにふにとつねって、彼女の睡眠を妨げているからに他ならない。
「お姉様。こんなところで寝てたら風邪引くよー?」
「フラン……」
レミリアは自分の頬で遊んでいる妹のフランドールを見上げた。そこで初めて、どうも自分はベッドではなくソファに寝転がっているらしい、という事をレミリアは認識した。
「なんでここに居るの」
「ここに居ちゃいけない?」
フランはにこにこと笑みを浮かべながら問い返す。厄介な笑みだと思う。質問を変えた。
「何しに来たの」
「遊びに来たのよ」
そう言いながら、フランはレミリアの頬をつねるのを止めない。痛くはないが、うざい。
「お姉様のほっぺはもっちもちー」
「やめなさい」
そう言うのが精一杯だった。起き上がる気力すら湧かない。だが意外にも、フランは素直に手を放した。
「お姉様、疲れてる?」
「えぇ、とってもね。そうでなければ、こんな風に寝転がったまま対応してないわ」
「うん、知ってた」
フランはしゃがみこむと、レミリアに目線を合わせた。
「いつものお姉様だったら、あんなことされてたら烈火のごとくキレてるわ」
「貴女の意図が分かってるからね。でもねフラン、今は構ってあげられないのよ。もうどうにも体が動かなくて。元気になったら壊し合いでもなんでも付き合ってあげるから、今は少し寝かせて頂戴」
「分かった。でも少しだけお話しても良い?」
妙な感覚をレミリアは味わっていた。表面上は険悪そうにしていても、心の奥底では妹と繋がりを感じていたが、こうまでそれがあからさまに出ているのを見るのは、とても不思議な気分だった。口では言い表せない雰囲気だったが、少なくとも不愉快に思うものではない。
レミリアが頷くと、フランは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「会うのは何日ぶりかな?」
「さぁ。一週間は経ってないはずだけど。ずっと地下に閉じ籠って、ご飯も食べてないって聞いてたわ。何してたの」
「ずっとまどマ○見てたわ。虚○玄って天才ね。あの人の話は人の心を凄まじく抉ってくる。それに絵がまたすごく良くて、そのギャップがまた良くて。あまりにドツボにハマったから何回も見返して、それこそご飯食べるのも忘れてたわ」
「フラン。その幻想入りしそうにもない作品のことを話題に出すのは止めなさい。ちょっとメタすぎるわ」
僅かに幻想が曖昧になるのをレミリアは感じた。流石に拙い雰囲気だったので、あっという間に滅したようだが。
「……で、お腹が減ったから出てきたの?」
「ううん、違うわ。感じたのよ」
「何を」
「普段と違う空気よ」
フランはそう言うと、その空気を全身で受け止めるかのように、両手を大きく広げて深呼吸をした。
「凄いものに触れた後のどことない寂寥感はね、頭の中の感覚を鋭敏にするのよ。そしたら、館が何かいつもと違うって分かったの。久々に地下から出てみたら、メイドたちがとても忙しそうにしてて。でね? メイドを一人捕まえて、なんでそんなに忙しいのって訊いたら、そのメイドは忙しいものは忙しいのですって言ったの。とても可笑しかったわ。傍目はとても大変そうなのに、その心は一周回って暢気になってるんだもの。きっと、想像もつかない程の大変なことがあったのね」
「えぇ、とても大変だったわ。もう心配はいらないけれど」
「もちろん、そうでしょうね。でなければ、大変そうなのにこんな変な安堵感があるわけないもの。皆が一様におかしいから、それでなんだか無性にわくわくしたの。お姉様の部屋に来たら、案の定お姉様も無防備にソファで寝てて」
「フランは楽しそうね」
「楽しい、というより愉快の方が正確ね。だって、お姉様もこんなにおかしくなってるんだもの」
「貴女もおかしいわよ。フラン」
「あぁ、そうかも。非日常な雰囲気だから」
二人は互いに顔を見合わせて笑い合った。普段なら決して感じることのない独特の雰囲気の心地良さに、二人は酔っていた。
フランは立ち上がると、横たわって動けない姉を両腕で抱え上げた。
「ちょっと、どこへ連れて行くのよ」
「お姉様のベッド。私は言いたいことを言えたから、もう満足なの」
そのままフランはふわりと浮きあがると、ベッドの方へ瞬時に加速した。超短距離の移動はあっという間に終わり、止まり際にフランに投げ出されたレミリアは、自分の部屋の中で初めて無重力を感じていた。
「……もうちょっと優しい運び方をしなさいよ」
「うふふ」
フランは可笑しそうに笑うと、そのまま姉のベッドの中にもぐりこんだ。
自由奔放な妹に、レミリアは溜息を吐く。
「非日常になり過ぎるのも考え物ね。皆がおかしくなって大変だわ。妹はひねくれたようになるし、咲夜は変態になるし」
「心配しないで、お姉様。非日常なのも今日限り。明日には元通りの日常が戻ってくるわ」
「それはそれで、何か心残りだけどね」
レミリアは目を瞬かせた。もう睡魔には抗えない程になっている。
「最後に一つだけ。お姉様は楽しかった?」
「そうね……愉快だったわ。大変だったけど、皆との繋がりを感じられて心地良かった」
「私もよ。この雰囲気の中にお姉様と一緒に居られて良かったと思う」
もうレミリアは静かに寝息を立てていた。そんな姉の様子に、妹は微笑んで言った。
「おやすみなさい、お姉様。また明日ね」
でも雰囲気はとても素敵です。
ちょっと難しかったです。
なんだかんだ言ってみんないい人達ばかりですね
紅魔館は非常時に結束する姿がよく映えます
嵐の最中ではなく、その後に焦点を当てているところがおもしろかったです