Coolier - 新生・東方創想話

不安の話

2014/10/11 06:13:06
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 水橋パルスィは苛立っていた。
 幻想郷の地底深く、地上から来た者が通る旧地獄の入り口となる橋に一人。真夜中に酒と喧嘩の止まない、妖怪達の宴と忙しない街道の喧騒とを遠くに聴きながら、川上か、川下かも解らぬような橋下の暗闇を、酒を呑みながら眺めていた。
 溜息をついたり、髪を漉いたりして、思い出した様に徳利に口を付け、中身を喉に落とす。今持つ徳利は、宴会の半ばで抜ける時にひったくって来たもので、お猪口や椀はなかった。

 そうして幾度目か、徳利に口を付けた時パルスィは、目を顰め徳利を逆さにした。中は空だった。パルスィは、これもまた幾度目かの溜息を付き、橋下に向けて徳利を放った。
 代わりの酒をと考えを巡らし、今から宴会の最中へ戻ることを思い付き、怖気を覚えて身震いをした。遅れて、物の落ちる水音が重く響く。また、パルスィは溜息を付いた。
 暗闇に目を戻し、顔付きを無味なものに無理矢理変える。そうしなければ悪徳である、という妙な考えに駆られていた。そして根拠もなく、こうしていれば彼女のことが理解出来るようになると思っていた。あの、黒谷ヤマメの事が。

 パルスィは自分を、この地底の中でもよっぽどの嫌われ者だと思っていた。だが、忌み嫌われた妖怪達の坩堝であるこの地底の内では、そんな事は些細なものであるとも思っていた。勿論、だからと言って自分が、地底では嫌う者の居ない愛される存在になったなどとは微塵も考えてはいなかった。
 嫌われながらも受け入れられ、細いながらも友好な関係も在る。そう自覚していた。

 黒谷ヤマメは、地底の人気者だという。これは、誰とも知らぬ者達の意見であって、パルスィはそうは思っていなかった。
 ヤマメが妖怪としてまだ弱物だった頃、真面目とも、(妖怪として)捻くれているとも取れる性格は、嘘を嫌い、真っ直ぐに生きる鬼に受けた。そして、鬼を恐れ、或いは煙たがった者達は、ことあるごとにヤマメを表舞台に置いた。
 やがて、実体の無い中心人物として立ち位置を築いたヤマメは、今でも宴会やら何やらで取りまとめをやらされている。
 こうした経緯を知るパルスィとして、黒谷ヤマメへの評価は『不器用な苦労人』と言ったところだった。

 しかし、パルスィにとって、紛いなりにも矢面に立って一癖も二癖もある地底の者どもの音頭を取るなど、理解の外の行為であった。その証拠に、パルスィはつい半世紀前まで、ヤマメのことを、
強者に頭を垂れ傀儡となることを甘んじた弱者か、奉仕に快楽を見出すある種の狂人だと認識していた。
 そんな認識を変えたのは単純な事だった。個人的に交流が出来たのだ。
 土蜘蛛のヤマメ、釣瓶落としのキスメ、そして橋姫のパルスィという三匹の妖怪達は、ひょんな事から住処を共にする事となった。
自分自身の性格や、ヤマメとキスメとは以前からの友人であることなど懸念は有ったが、意外にも問題は少なく友好関係が築けた。
 築けた、とパルスィは思っている。しかし、同時にそうではないとも考えていた。自分は、一定以上の好意を受けていないと、推察していた。

 ほんの三刻程前だった。
 パルスィは、宴会の中で酒を呑んでいた。パルスィは宴会が好きでは無かったし、そう楽しめる質でもなかったが、欠席するのが何となく負けた気になるため、よく参加していた。
 仲間内で楽しげに笑い合う声を聴いて、嫉妬を燻らせながらも、パルスィはいつものように一人で呑んでいた。さて、そろそろここも騒がしい者達が増えてきたぞと、立ち上がり場所を移そうと考えた時だった。目の前に二人の後ろ姿が見えた。少し考えたが、パルスィはその二人に向かって歩いた。

 二人の後ろから、声を掛けながら横に立つ。

「やあ二人共、何を話しているの?」

比喩などでは無く、この時の二人の顔をパルスィはよく覚えていない。灯りの少ない中、元より顔が見え辛かったのもある。

「パルスィのことだよ。」

ヤマメが答えた。

「パルスィは何時も可愛らしいねってさ。」

 その言葉を、パルスィは誤魔化しだと感じ取った。パルスィは嫌われ者の経験から、二人は自分に疚しいことを隠していると思った。
 確認する術など無いと、パルスィは分かっていた。しかし、二人はそれ以上パルスィに声を掛けず、パルスィも何も言えなかった。
結果、訳の分からない気まずさが漂い、そして二人はあからさまにパルスィを避け何処かへ移動していった。
 そのまま、パルスィは、宴会を後にした。

 そうして自分の居場所の一つでもある、旧地獄の橋までパルスィはやって来た。
 水橋パルスィは苛立っていた。あの二人が話していた事が、自分のことだと考えてしまうからだった。
 陰口を叩かれるのには、慣れているはずだった。
 自分は元来嫌われ者だし、ヤマメやキスメにも幾らかは嫌われているはずだと考えていた。嫌われる原因など、困らないほどは有る。このような事は寧ろ想定の範囲内だった。そも、ヤマメ達が何を話していたかなど、自分の勝手な妄想によるものだと理解していたし、他愛もない笑い話として、誰かの馬鹿を話したりは良くあることと知っていた。
 だけれども、パルスィは苛立っていたし、悔しくて、悲しくもあった。
 何時もならば、他の誰かならば、舌打ちの一つでもして、睨んでやってお終いだった。でも、今回は何故だかそうもいかなかった。
ちゃんと理解して、考えて、想定していた事のはずなのに、いざ目の前にすると何と反応すれば良いのか分からなくなった。
 橋姫ともあろう者が、とまた苛立った。ヤマメとキスメとの存在が、自分の中で大切になっているんだと、パルスィは自覚させられたのだった。

 酒も無くなり、一通り悩んだ後、頭の中のヤマメを叩きのめして遊ぶ程には気持ちが落ち着いた頃、パルスィは、自分が寒さに凍えている事に気付き、住処へ帰ることにした。勿論、家では必ずヤマメやキスメと顔を突き合わせることになると分かっていたが、いずれ必要になるんだと割り切った振りをして、帰路についた。

 家に着き、布団に包まって暫く、ようやっとうつらうつらとしてきた所で、ヤマメとキスメは帰ってきた。
流石にパルスィも、目が冴えてしまい、横になったまま二人を目で追った。チラリと此方を見たヤマメと目が合う。言葉は無いまま、目は逸らされた。
 普段明るい分、こういった時何かあるのが直ぐに判るなと、静かに思った。と同時に、やっぱり何か有るのだと確信を持った。

 それから少しだけ話をした。姐さんから酒に誘われてるだの、目が怖いだのと、言葉数少なくヤマメが言うのに対し、なんと言っていいのか分からず、パルスィは生返事を返した。
 それが、どう捉えられたのか、やはりというか、あまり会話は長続きしなかった。

 やがて夜も明け、妖怪共の時間が終わった。
 既にキスメも寝付いていて、パルスィもそうしようと目を閉じた。しかし、ふと見ると、隣の部屋から明かりが漏れている。そっと、戸に近寄って覗いてみると、ヤマメが机に向かっていた。どうにも、もう次の宴会の余興を準備しているらしい。
 パルスィはその姿を見ながら、今日のこと、自分とヤマメたちのことを考えていた。

「ぁー、やっと終わったぁ…」

そう言って、ヤマメは軽く伸びをした。いつの間にか、大分時間が経っているようだった。
 パルスィは、話し掛ける頃合いを計っていたつもりだったが、諦めて少々投げやりに戸を開けた。

「お早う、ヤマメ。遅くまでお疲れ様ね、何をしていたの?」

ヤマメは突然入って来たパルスィに驚いていた様子だった。パルスィはそこに、また気まずさを感じた。

「あぁ、これはねぇ、今度の―――」

そう説明を始めるヤマメに、パルスィは気安さと白々しさを感じ、話す事に怖気付いているのが馬鹿馬鹿しくなった。

「あぁ、もう面倒になったわ」

正直に話して、ヤマメにも正直に吐かせてやろう。そう思っていた。

「何か言いたいことがあるんじゃない?」
「な、なんのことさ?」

ヤマメは戸惑っていた。我ながら強引にも程がある。だが、これくらいの調子が丁度いい。パルスィは、そんな風に思いながら、言葉を続けた。

「さっきから、貴方の私への態度が気になって仕方がないのよ。文句が有るならここで言って頂戴。」
「ええっ、そんなこと言われたって…」

そう言いつつもヤマメの続けた言葉に、今度はパルスィが戸惑うこととなった。

「さっきって、その…パルスィの目が怖かったから」
「目が、怖い?」

自分の目付きが悪いことなど、パルスィにとって承知の上だったが、それでは普段から不快に思っていたのかと、
またすこし苛立ちが募りかけた。

「いやぁ、さっきのパルスィはすっごく無表情でさぁ、いつもは睨んでるみたいな顔なのに」
「いや、いつもの顔もキリッとしてて可愛いと、、ってさっきのこういう冗談が、もしかして嫌だった?」

 ここに来て、パルスィは戸惑いと共に、得体の知れぬ焦りを感じていた。
 パルスィは、自分が悩んでいた原因についてよく考えてみた。
とどの詰まり、ヤマメによるとあの発言は冗談だったらしい。さらに、私が作っていた無表情が家での気まずさの原因だという。
ではその後、陰口だと思ったのはなぜ?嫌われているとはなぜ?なぜ自分はあんなに無表情でいたのだっけ?

「帰ってきてからずっと、無表情でジッと見てるんだもん。」
「話しかけてもちゃんと返事してくれなかったし、パルスィになんかしちゃった?」

 そう言えば、気まずいと感じていた時、ヤマメは何かしたっけ?そう言えば、目が怖いとは言っていたような…
そこまで考えて、パルスィの頭は明確な結論を出すことを拒んだ。だがしかし、冷静なパルスィの理性が感想を心に述べた。
曰く、冗談を理解できず、怒り散らすなど幼子のようだと。そうして相手に嫌われないか悩んでいるなど、人間の様だと。
そして付け加えるなら、まるで想い人の行動を曲解して一喜一憂する、乙女のようだと。

「あ、でも、パルスィのこと可愛らしいって思ってるのはホントだよ?」
「あれ?パルスィ?おーい」

 素直に好きな友人に対して、わざわざ距離を置こうとしたり、それでも適当な理由を付けて近づこうとしたり、そんな水橋パルスィはまさしく不器用であるということ。更にいうなら、可愛らしいと言われて、無理矢理陰口だと捉えようとしてしまうほど、動揺する理由など。
 情の妖怪である水橋パルスィは、自らの情に関してはまだまだ知らないことも多い。

 パルスィは、熱い顔に風を送るため、出来る限りの速度で地底の空を飛んだ。
処女作
何を書きたかったんだっけ
書き直すかも
悪魔のトウモロコシ
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コメント



0.260簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
執筆お疲れ様です。
読んでいて思ったのは、一生懸命「小説っぽさ」を出そうとしているなーということでしょうか。
ただ、使われている言葉自体は難しいものではないのですが、
何故かとても読みにくい文章になってしまっている気がします。
次回作があるのであれば、もう少し気楽に書いてみてはいかがでしょう。
7.70名前が無い程度の能力削除
書き直す必要は無いと思いますよ
気になる箇所もありましたが、気にするほどでもないかと
ろくなアドバイスできませんが、自信を持って続けていけばいいと思います

次回作も頑張って下さい
10.90名前が無い程度の能力削除
パルスィの不器用さがとても良かつた