夕暮れになり、空が茜色に染まっている。それを背景にたくさんの影が帰路についているのをあたいは空から一人見ていた。寒さを感じないこの体だが、彼らが夏に比べると長めの服や厚着をしているのをみると季節はいつの間にやら秋に移ったらしい。
ふと振り返ると、太陽が沈みかけていた。そろそろ帰らなければ夜になってしまうだろう。人里からも人影が少なくなっている。そう思って寝床に帰ろうとした時だった。人に紛れて歩く人物に見覚えがある。あれは慧音先生だ。そういえば最近は会っていなかったな。挨拶の一つでもしていこうかと地上へ降りていくと、先生の隣には男の姿があった。
男は先生と手を繋いで頬を赤らめながら話している。先生も恥ずかしそうにしているが、話している姿は楽しそうだ。暫く連絡をとっていないうちに先生にも男が出来たらしい。まだ生徒だった頃の時分には先生にそういった噂を聞かなかったが、ついに先生にも春が来たらしい。
わたしはどことなく、さみしい気持ちになった。何故かはわからないが胸の奥が締め付けられるような気がした。もしかしたら私は先生に成長した姿を自慢したかったのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。昔の自分しかしらない恩師に見てもらって、一言褒めて欲しかったのだ。先生のことだからきっと「あたい」のことは覚えているだろう。そういう人だから。だが彼女にとって私は「あたい」とは全く違うと知らないし、今の彼女にとって私はただの昔の生徒、というだけなんだろう。今の彼女には私は必要ないし、私も彼女にまた教鞭を取ってもらう必要もないのだ。彼女に必要な人はきっと隣にいる男であり、私ではない。
私はそっと彼女の脇を通っていく。彼女は談笑していて気づかなかったようだ。追い越す瞬間、彼女の顔を見たが幸せそうな顔をしていた。寺子屋時代に私たちに見せることはなかったであろう顔だった。嬉しいような、寂しいような気持ちで私は近くにあった茶屋に入った。
茶屋に入ると、人は少なかった。まだ若い娘と年老いた老婆、おそらく親子であろう二人組とが一緒に茶を飲んでいた。老婆は年老いているにしては背筋がピンとしている。私は老婆の背中が見える位置にに座って注文をする。饅頭があったのでそれを頼むと女中は店の奥へといった。
店の中は時間がゆっくりと流れていて、彼女らがゆっくりと茶を啜る音だけが聞こえていた。彼女らは何か話をするわけでもなく、黙って茶を飲んでいた。お互いが口を開かず、ただ向かい合って茶を飲むだけだ。それなのに険悪な空気が流れているわけでもない。私が彼女たちを見ていると、若い方がと目があった。軽く会釈すると彼女も返してくれた。それに気づいたのか老婆の方もこちらを向いた。彼女の横顔を見たときに、もしかしてと思った。そしてこちらを振り返った時、彼女だと確信した。私が驚いた顔をすると、霊夢は優しい顔で笑っていた。
霊夢の隣に座るのはいつ以来だろうか。皆で神社に遊びに行っていた時以来だろう。綺麗な黒髪を白髪に変えた霊夢は目の前の若いのは魔梨沙の弟子だと言った。なるほど、よく見ると霊夢には似ていない。よく見ると弟子の隣には魔理沙のトレードマークだった黒い帽子が置いてある。弟子は言った。魔理沙は未だに元気でいると。最近は篭って新しいスペルカードを研究しているそうだ。おかげ様で相手して貰えないので霊夢のところを訪れたのだと。
霊夢もまるで弟子を本当の孫のように可愛がっているようで、優しい目で弟子を紹介している。なかなか素直ではないところは変わっていないが霊夢も年を取ったのだなあと思うと、なんだか自分だけがのけ者にされた気分だ。まるで私以外は変わってしまったようで。慧音を見かけた時はなんだか嬉しかったが、いざこうして古い顔と話すとなるとその気持ちもどこかへと行ってしまった。弟子の話だけを私にポツポツとするもんだから、今の私を見てくれていないような、そんな気がするのだ。
紹介が終わると、私の饅頭が来た。出来立てなのか湯気が立ち上っている。ついてきた茶も暖かい。いざ口にしようかとしたとき、視線を感じて霊夢の方をみると霊夢がこちらを、いや、饅頭を見ていた。その目は優しそうな老婆ではなくて、遊びに行って菓子を持って行って食べている時に感じた視線、その先にある目と同じ目だった。私はなんだかおかしくて笑ってしまった。弟子はなんだかきょとんとした目で見ている。霊夢は恥ずかしそうに顔を背けたが目でこちらを見ているのがこれまた可笑しかった。
霊夢は変わったようで変わってなかった。ちょっと冷たいところも、それでもどこか暖かくて心地よい感じも変わってなかった。霊夢は言った。あんたはすっかり大きくなったわね。妖精も成長するのね。なんて言うもんだからちょっと嬉しくかった。白髪になっても中身は霊夢だった。半分こした饅頭を食べながら「あたい」の昔話を弟子に話し、私も昔の霊夢のことを弟子に話した。弟子は時に笑いながら、時に意外そうな顔をしながら話をずっと聞いていた。思い出したが弟子は性格は大ちゃんに似ているかもしれない。昔こうして霊夢と一緒に大ちゃんと三人で西瓜をご馳走になりながら話したことを思い出した。あの時は西瓜を冷やすのに捕まったんだっけ。
そうして話し、別れるととすっかり暗くなっていた。提灯の明かりが飲み屋へと人を誘い、家々から漏れる光と共に笑い声や談笑が聞こえてきた。きっと慧音もあの男とあんな風に過ごしているのだろう。いい時間なので霊夢と別れた。また今度神社に遊びにいくと約束して。
私は魔理沙の家へ行くことにした。あの弟子の言う通りなら家に引きこもっているのだろう。今度また神社に遊びに行った時に様子を伝えれば霊夢も喜ぶかもしれない。それに魔理沙とも昔、よく遊んでもらったものだ。ほとんどが悪戯で私たちが騙されて囮になっていたきがするが。
魔梨沙の住む森は相変わらず薄暗く、ジメジメとしていた。奇妙なきのこや植物が生い茂っており、普通の人間なら寄り付こうともしないし、近づけないだろう。そういうと魔理沙は今はどうなっているか知らないがただの人間なのに昔からこんなところに住んでいるなんて、やはり異変解決の英雄と呼ばれるだけはあるもんだと、今更ながらに関心する。
暫く森を進むと、魔理沙の家が見えた。霧雨魔法店とある掛け看板はすっかり蔦が絡んでおり、苔らしきものも生えている。昔はもっと新品臭かったものだが、こうして見ると時間の流れを感じる。
ドアの前に立って、ノックをしようとした。その時だった。ガチャりと鍵が開く音がするとひとりでにドアが開いたのだ。しかし目の前にはドアを開けたと思われる者はいない。魔法かなにかだろうか。取り敢えず、お邪魔します、とだけ言って中に入ると中は綺麗に片付けられており、カウンターの上には様々な道具が置いてある。はて、魔理沙はこんなに片付ける人間だっただろうか?いや、それは何十年も昔の話だ。きっと魔理沙も変わってしまったのだろう。
カウンターの裏、家の奥へと進むとロッキングチェアに座って足を組み、こちらを待っていたかのように佇んでいる者がいた。その顔は帽子で隠れていて見えない。おそたく魔梨沙だろう。私が久しぶりと言うとすると、それを言わせまいと魔理沙は、勝手に人の家に入るなんて妖精は無礼者だな、と悪戯っぽく言った。その顔は昔の記憶とは少し違って、少女というには年をとっていたが、霊夢と同年代というには無理があった。どうやら私がいない間に魔理沙は本当の魔女になったらしい。
魔梨沙は私に椅子を勧めたので座る。魔理沙と向き合うと私は先ほど言いそびれた、久しぶり、という言葉を出した。すると魔理沙は、お前が言いたいのはそれじゃないだろう。という。その顔はどこか意地悪だ。昔私を騙すときに使った顔だ。それとともに、私を助けてくれる時の顔でもあった。
私は話しだした。今日あったことを。変わった人のことも、変わっていなかったことも。魔理沙はそれを黙って聞いてくれた。魔理沙はどうなんだろう?変わったのだろうか?変わっていないのだろうか?いや、変わっていても変わっていなくても、今の彼女は私にとって昔と変わりない存在なのかもしれない。それは慧音も変わらないだろう。もちろん霊夢も。
ランタンの明かりが照らす中、いつまでも私たちは話していた。明日は誰と話そうか。そんなことも考えながら
ふと振り返ると、太陽が沈みかけていた。そろそろ帰らなければ夜になってしまうだろう。人里からも人影が少なくなっている。そう思って寝床に帰ろうとした時だった。人に紛れて歩く人物に見覚えがある。あれは慧音先生だ。そういえば最近は会っていなかったな。挨拶の一つでもしていこうかと地上へ降りていくと、先生の隣には男の姿があった。
男は先生と手を繋いで頬を赤らめながら話している。先生も恥ずかしそうにしているが、話している姿は楽しそうだ。暫く連絡をとっていないうちに先生にも男が出来たらしい。まだ生徒だった頃の時分には先生にそういった噂を聞かなかったが、ついに先生にも春が来たらしい。
わたしはどことなく、さみしい気持ちになった。何故かはわからないが胸の奥が締め付けられるような気がした。もしかしたら私は先生に成長した姿を自慢したかったのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。昔の自分しかしらない恩師に見てもらって、一言褒めて欲しかったのだ。先生のことだからきっと「あたい」のことは覚えているだろう。そういう人だから。だが彼女にとって私は「あたい」とは全く違うと知らないし、今の彼女にとって私はただの昔の生徒、というだけなんだろう。今の彼女には私は必要ないし、私も彼女にまた教鞭を取ってもらう必要もないのだ。彼女に必要な人はきっと隣にいる男であり、私ではない。
私はそっと彼女の脇を通っていく。彼女は談笑していて気づかなかったようだ。追い越す瞬間、彼女の顔を見たが幸せそうな顔をしていた。寺子屋時代に私たちに見せることはなかったであろう顔だった。嬉しいような、寂しいような気持ちで私は近くにあった茶屋に入った。
茶屋に入ると、人は少なかった。まだ若い娘と年老いた老婆、おそらく親子であろう二人組とが一緒に茶を飲んでいた。老婆は年老いているにしては背筋がピンとしている。私は老婆の背中が見える位置にに座って注文をする。饅頭があったのでそれを頼むと女中は店の奥へといった。
店の中は時間がゆっくりと流れていて、彼女らがゆっくりと茶を啜る音だけが聞こえていた。彼女らは何か話をするわけでもなく、黙って茶を飲んでいた。お互いが口を開かず、ただ向かい合って茶を飲むだけだ。それなのに険悪な空気が流れているわけでもない。私が彼女たちを見ていると、若い方がと目があった。軽く会釈すると彼女も返してくれた。それに気づいたのか老婆の方もこちらを向いた。彼女の横顔を見たときに、もしかしてと思った。そしてこちらを振り返った時、彼女だと確信した。私が驚いた顔をすると、霊夢は優しい顔で笑っていた。
霊夢の隣に座るのはいつ以来だろうか。皆で神社に遊びに行っていた時以来だろう。綺麗な黒髪を白髪に変えた霊夢は目の前の若いのは魔梨沙の弟子だと言った。なるほど、よく見ると霊夢には似ていない。よく見ると弟子の隣には魔理沙のトレードマークだった黒い帽子が置いてある。弟子は言った。魔理沙は未だに元気でいると。最近は篭って新しいスペルカードを研究しているそうだ。おかげ様で相手して貰えないので霊夢のところを訪れたのだと。
霊夢もまるで弟子を本当の孫のように可愛がっているようで、優しい目で弟子を紹介している。なかなか素直ではないところは変わっていないが霊夢も年を取ったのだなあと思うと、なんだか自分だけがのけ者にされた気分だ。まるで私以外は変わってしまったようで。慧音を見かけた時はなんだか嬉しかったが、いざこうして古い顔と話すとなるとその気持ちもどこかへと行ってしまった。弟子の話だけを私にポツポツとするもんだから、今の私を見てくれていないような、そんな気がするのだ。
紹介が終わると、私の饅頭が来た。出来立てなのか湯気が立ち上っている。ついてきた茶も暖かい。いざ口にしようかとしたとき、視線を感じて霊夢の方をみると霊夢がこちらを、いや、饅頭を見ていた。その目は優しそうな老婆ではなくて、遊びに行って菓子を持って行って食べている時に感じた視線、その先にある目と同じ目だった。私はなんだかおかしくて笑ってしまった。弟子はなんだかきょとんとした目で見ている。霊夢は恥ずかしそうに顔を背けたが目でこちらを見ているのがこれまた可笑しかった。
霊夢は変わったようで変わってなかった。ちょっと冷たいところも、それでもどこか暖かくて心地よい感じも変わってなかった。霊夢は言った。あんたはすっかり大きくなったわね。妖精も成長するのね。なんて言うもんだからちょっと嬉しくかった。白髪になっても中身は霊夢だった。半分こした饅頭を食べながら「あたい」の昔話を弟子に話し、私も昔の霊夢のことを弟子に話した。弟子は時に笑いながら、時に意外そうな顔をしながら話をずっと聞いていた。思い出したが弟子は性格は大ちゃんに似ているかもしれない。昔こうして霊夢と一緒に大ちゃんと三人で西瓜をご馳走になりながら話したことを思い出した。あの時は西瓜を冷やすのに捕まったんだっけ。
そうして話し、別れるととすっかり暗くなっていた。提灯の明かりが飲み屋へと人を誘い、家々から漏れる光と共に笑い声や談笑が聞こえてきた。きっと慧音もあの男とあんな風に過ごしているのだろう。いい時間なので霊夢と別れた。また今度神社に遊びにいくと約束して。
私は魔理沙の家へ行くことにした。あの弟子の言う通りなら家に引きこもっているのだろう。今度また神社に遊びに行った時に様子を伝えれば霊夢も喜ぶかもしれない。それに魔理沙とも昔、よく遊んでもらったものだ。ほとんどが悪戯で私たちが騙されて囮になっていたきがするが。
魔梨沙の住む森は相変わらず薄暗く、ジメジメとしていた。奇妙なきのこや植物が生い茂っており、普通の人間なら寄り付こうともしないし、近づけないだろう。そういうと魔理沙は今はどうなっているか知らないがただの人間なのに昔からこんなところに住んでいるなんて、やはり異変解決の英雄と呼ばれるだけはあるもんだと、今更ながらに関心する。
暫く森を進むと、魔理沙の家が見えた。霧雨魔法店とある掛け看板はすっかり蔦が絡んでおり、苔らしきものも生えている。昔はもっと新品臭かったものだが、こうして見ると時間の流れを感じる。
ドアの前に立って、ノックをしようとした。その時だった。ガチャりと鍵が開く音がするとひとりでにドアが開いたのだ。しかし目の前にはドアを開けたと思われる者はいない。魔法かなにかだろうか。取り敢えず、お邪魔します、とだけ言って中に入ると中は綺麗に片付けられており、カウンターの上には様々な道具が置いてある。はて、魔理沙はこんなに片付ける人間だっただろうか?いや、それは何十年も昔の話だ。きっと魔理沙も変わってしまったのだろう。
カウンターの裏、家の奥へと進むとロッキングチェアに座って足を組み、こちらを待っていたかのように佇んでいる者がいた。その顔は帽子で隠れていて見えない。おそたく魔梨沙だろう。私が久しぶりと言うとすると、それを言わせまいと魔理沙は、勝手に人の家に入るなんて妖精は無礼者だな、と悪戯っぽく言った。その顔は昔の記憶とは少し違って、少女というには年をとっていたが、霊夢と同年代というには無理があった。どうやら私がいない間に魔理沙は本当の魔女になったらしい。
魔梨沙は私に椅子を勧めたので座る。魔理沙と向き合うと私は先ほど言いそびれた、久しぶり、という言葉を出した。すると魔理沙は、お前が言いたいのはそれじゃないだろう。という。その顔はどこか意地悪だ。昔私を騙すときに使った顔だ。それとともに、私を助けてくれる時の顔でもあった。
私は話しだした。今日あったことを。変わった人のことも、変わっていなかったことも。魔理沙はそれを黙って聞いてくれた。魔理沙はどうなんだろう?変わったのだろうか?変わっていないのだろうか?いや、変わっていても変わっていなくても、今の彼女は私にとって昔と変わりない存在なのかもしれない。それは慧音も変わらないだろう。もちろん霊夢も。
ランタンの明かりが照らす中、いつまでも私たちは話していた。明日は誰と話そうか。そんなことも考えながら
霊夢がおばあさんってことは慧音もいい年かー
お話自体は良かったんですがもうちょっとなんか見たいという欲求が
あと、「おそたく」→「おそらく」だと思うし「新品ん臭かった」とか
誤字脱字はちゃんと推敲した方がいいですよ、話の内容が好みだけに残念です
人間が年を重ねて、妖怪がそれを見つめる、その手のSSは多くありますが、
それを妖精であるチルノがやっているのは中々珍しい。
ラストだけ惜しかった気がします。ここを上手く纏められていたら満点だったかもしれません。
魔梨沙が一箇所。
慧音=姿や中身は変わっていないけど関係性が変わってしまった存在
霊夢=姿は変わってしまったけど中身が変わっていない存在
と来ていた所で魔理沙が出てきて、彼女のポジションがよく分からないまま終わってしまった感じです。
魔理沙との部分をもう一歩踏み込んでから閉めた方が良かったかも?
雰囲気はすごく好きです。霊夢との思い出話は心が温まりました。