Coolier - 新生・東方創想話

魔理沙の魔法薬騒動

2005/10/15 09:36:31
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 幻想郷は今日も平和である。平和、という概念が通常のものとは一線を画しているとしても、住んでいる住人にとって平和ならさしたる問題ではない。
 そんな日常を嫌うわけではないが、刺激がない、というのもそれはそれで退屈なものである。
「あ~……退屈だぜ」
 霧雨魔理沙は特にすることもなくぶらぶらと空を飛んでいた。霊夢は買出し、アリスは何やら他人に知られたくない研究に没頭してしまっている。他にも知り合いがいないわけではないが、訪ねるのがめんどくさい住人ばかりだった。
「仕方ない、こういう時は読書に限るな。読書といったら……あそこしかないな」
 そういって箒の速度を上げる魔理沙。向かう先は幻想郷に住むものなら知らぬものはいないとされる洋館―――紅魔館。


「……で、ここに来たってこと?」
「そうだぜ」
 紅魔館に名だたる大図書館。そこの主であるパチュリーは呆れてため息をつく。
「大した用事もないのにここに来るなんて、あなたも相当変わり者よね」
「まあな」
「否定しないわけ?」
 確かに、紅魔館に遊び感覚で来るなどというのは普通はありえない。そもそも近づこうとするものもそう多くなかったのだ。それはここに住んでいるものがいろいろな意味で畏怖される者たちばかりだからだ。
「しっかし、本当にいつ来てもここの図書館はすごい蔵書の数だよな。退屈しなくてうらやましいぜ」
「……どうも」
 本に目線を移したまま、とりあえず相槌だけは打つパチュリー。その間に魔理沙は興味を引くものはないかと辺りを物色している。
「……ん?」
 ふと、数冊の本に目が留まった。魔法薬について書かれているもののようだ。
「あ、その辺のはこの間見つけてきたものだから私もまだ手付かずなの。勝手に持ってかないでね」
「わかってるよ」
 ならこの場で読めばいいんだな、と魔理沙は勝手に解釈してとりあえず一番上にあった本を手にとり、読書にふけることにした。
 そのまま数分が経過。静かに本を読んでいた魔理沙だったが、あるものを見つけて思わず声を出した。
「お、こいつは……確かアリスが……」
 目にしたページに載っている内容を見て、魔理沙はあることを思い出した。
「邪魔したな、パチュリー!」
「……そう思うなら少しは節度を持った行動をして頂戴って……」
 パチュリーの言葉を聞いたのか聞いていないのか、すでに魔理沙の姿は図書館からなくなっていた。パチュリーは仕方なしに腰を上げて魔理沙が読み散らかした本を片付ける。その途中であることに気がついた。
「……はあ、結局持ってってるじゃない。全く、馬の耳に念仏、というか魔理沙の耳に念仏というか……」
 魔理沙の相変わらずの行動に溜息しか出ないパチュリー。これでまた返ってこない本が増えるのかしら、と悲観的な想像をパチュリーがしたのは想像に難くない。

 だが、この本に限り、そう遠くない日に返ってくるのであるが、それはもう少し先のことである。


「はあ、疲れた。全く境内の掃除も楽なものじゃないわね」
 博麗神社の清掃を一通り終えた霊夢は、箒とちりとりを片付けるとごろんと廊下に倒れこんだ。年頃の女性のとる態度にはとても思えないが、誰が見ているわけでもないので気にしないらしい。
「……お茶にでもしましょうか」
 重い腰を上げて茶葉を取りに行こうとすると、いきなり上空から呼び止められた。
「霊夢~!」
 箒に乗って颯爽と登場したのは魔理沙だった。
「あら、魔理沙。何か用?」
「うんにゃ、全然」
「あっそ」
 いつもの問答に適当に答えると、霊夢は再び歩き出そうとした。
「まあ待てって。ちょっと紅魔館で珍しいものをもらってきたんだ。ほら」
「……ただの飴玉じゃない」
 魔理沙が取り出したのは青い紙に包まれたどこにでもあるような普通の飴玉だった。
「これのどこが珍しいのよ?」
「ふっふっふ。聞いたら驚くぜ。なんとこれは超即効性の疲労回復飴なんだぜ」
「……疲労回復? 栄養剤みたいなもの?」
「そういうことだぜ」
 いまいち信用なさそうにそれを見る霊夢。大概こういった場合はまともなものであるはずがない。それを見通してか、魔理沙が続けた。
「そう心配するな。パチュリーが作ったものだから大丈夫だろ。フランドールの相手をさせられた奴に食わせてやってるらしいぜ」
「あ~……それは言えるかもね」
 確かに、あの悪魔の妹につき合わされたのなら疲労回復薬の1つも使いたくなるであろう。下手すれば疲労回復薬どころか怪我の治療薬まで服用することになりかねないほど、きつい遊びをするのだから。
「それじゃひとつもらうわよ」
「ああ、遠慮せずに食ってくれ」
「あんたが作ったわけじゃないのにえらそうね」
「気にするな」
 問答をしながらも飴玉を口に放り込む霊夢。そのまま口の中でころころと転がす。
「……うん、まあ、味も悪くないわね」
(ありゃ? 失敗したか?)
 もちろん、今までのウンチクは全て魔理沙の作り話である。もっともらしいことを並べ立てているが、実際に作ったのは魔理沙本人である。先日図書館で見つけた魔法薬の製造が記してある本を借りて(?)そのまま家に戻り作ってみたのだ。そして実験台として霊夢に食べさせた、まではよかったのだが、期待していた効果は現れなかった。ちなみに効果は超即効性の睡眠薬である。
(ちえ……まあ、いいか。また今度別のにチャレンジしてみるか)
 魔理沙もポケットから1つ飴玉を取り出し口に放り込んだ。霊夢を見る限り害はないだろう、と判断してのことだ。
 だが魔理沙が飴玉を口に入れた直後、異変が起きた。
「ん?」
「い?」
 2人はその場にばったりと倒れこんだ。


 数分後、2人は何事もないように目を覚ました。
「あいたた……なんなのよいったい……ってあれ?」
 どこか体に違和感がある。霊夢は瞬時にそう思った。なんとなく視界が低いような気がするし、声も変だ。
「ううん、何が起こったんだ……ん? なんで…………え?」
 どこかおかしい。かたや魔理沙も瞬時にそう思った。そして眼前にいる人物を見て確信した。
『あ~~~~~!!!!!』
 2人の絶叫が博麗神社に響き渡った。


 紅魔館の入り口には優秀な門番がいる。少なくとも、そんじょそこらの輩など簡単に撃退できるほどの実力を持つもの―――紅美鈴が。
「はあ~……」
 だが、今の彼女からはそんな威厳は微塵も感じられない。
「そりゃ私だって多少訓練を怠っていたとか、油断していたとかはありますけど、あんなの相手に持ちこたえるのは不可能ですよ」
 最近急激に紅魔館を訪れる、というより侵入しようとする輩が増えていた。もちろん筆頭は魔理沙だが。
 門番として入り口を守護している美鈴にとって障害以外の何者でもないのだが、話しかける間もなく突破されたり、いきなりスペルカードをぶっ放されたりと散々な目にあっている。姿が見えた瞬間に逆にスペルカードを展開させたこともあったが、正当防衛と難癖をつけられぼろぼろになるまで叩きのめされたこともある。
 とどのつまり、そんなことがたびたび続いていたせいで、せっかく積み上げてきた信頼が地に落ちてしまっていたのである。
 そんな事態に、メイド長の十六夜咲夜から厳重注意を受けていた。特に「今度不法侵入を許したら……」と言った後凄絶な笑みを浮かべていたのが異様に気になる。今までだって紅白や白黒や幽霊少女が来て張り倒されるたびに、切られたり刺されたり抉られたりしているのだ。これ以上失態を重ねたら冗談抜きに命にかかわってくる。
「と、とにかく、今日はもう大丈夫だと思うけど、見張りは念入りに……」
 不幸というのは唐突に訪れるらしい。せっかく一日が無事に終わろうとしていたのに、遠くに見えるのは最も見たくない人物。しかも2人。霊夢と魔理沙だ。なにやら2人で問答をしているようだが、こちらに向かってきているのは明らかだ。
(もう失敗は出来ない!)
 決意を胸に声を張り上げる美鈴。
「こら~! そこの紅白に白黒! 今日という今日はこの先には進ませな…………」
 不意に、違和感を感じた。それも最大限の。身体中が警報を鳴らす。あれに拘るな、と。
「い、いやあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 美鈴は逃げるように紅魔館に飛び込んだ。続いて霊夢と魔理沙も飛び込んでいった。


 紅魔館は広い。とにかく広い。掃除をしようにもほぼ全員掛りで行わなければとてもまかないきれない。結果、メイド長の地位にある咲夜も率先して掃除には参加する。もともと掃除は嫌いではないので苦になる作業ではない。
 と、入り口のほうから盛大な悲鳴が聞こえてきた。咲夜は床に落としていた視線を前に向けた。
「た、助けてください~! 咲夜さん~!」
 半泣き状態でこちらに向かってくるのは美鈴だった。ある種の迫力を醸し出しているが、いったい何が起こったというのだろう。
「……はあ、あなた門番でしょ? いきなり逃げ出したりしてどういうつもりなの?」
「だ、だってあれは反則です。常軌を逸してます! 思考が停止にて肉体が拒絶反応を起こします!」
 取り乱す、というより半狂乱状態で言動から何も掴めない。こういう状態が一番理解しづらい。
「……何を見たって言うのよ?」
「今来ます、すぐ来ます……あああ、来たあああぁぁぁ……」
 咲夜は怯える美鈴を横に正面を見ると、猛スピードで近づいてくるよく知った顔が2人。そのまま2人は一瞥もすることなく突っ切っていってしまった。もちろん霊夢と魔理沙だ。
「……で、あの2人が何か?」
「で、ですから、見た目ではわからないんですけど、形容しがたい違和感が……」
「美鈴、ちょっと質問があるんだけど、いいかしら?」
 天使のような笑顔を美鈴にむける咲夜だが、手にしている銀色の凶器―――ナイフが穏やかではないことを物語っている。
「は、はひ?」
「右と左。どっちがいい?」
 前振りなしでいきなりの質問。もちろん美鈴にはわけがわからない。
「え、え~と……」
「深く考えなくてもいいのよ。優秀な門番の美鈴の行動を著しく妨げているであろう、脂肪の塊で出来ているその2つの双丘の1つを切り落としてあげるだけなんだから」
 手にしているナイフの数が10本に増えた。
「いやですーーー!!!」
 今日何度目になるかわからない、美鈴の悲鳴が紅魔館に響いた。


 紅魔館の主―――レミリア・スカーレットは紅茶の時間を楽しんでいた。今日は珍しくフランドールも列席している。
「フランも最近は精神が安定しているみたいね」
「そうかな? たぶんお姉さまや魔理沙が定期的に遊んでくれるからだと思うけど」
 昔は情緒不安定でめったに部屋から出てこなかったフランドールだが、最近はそれも影を潜めていた。こうしていれば年相応(?)の普通の少女である。
(霊夢は当然として、少しはあの白黒魔法使いにも感謝すべきなのかもね)
 レミリアは紅茶を含みながらそんなことを思った。
 どばん!
 唐突に部屋の扉が開かれた、というより破壊された。思わずレミリアは紅茶を吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。
「な、なに?」
 扉を見ると、侵入してくる少女が2人。2人とも見知った顔だ。
「あ、霊夢」
「魔理沙~」
 レミリアとフランドールがこちらを見つけて寄ってきた。そしてレミリアは霊夢に抱きついた。
「こ、こら抱きつくな」
「?」
 引き剥がそうとする霊夢の反応に違和感を覚えるレミリア。
 一方隣でもフランドールがレミリア同様魔理沙に飛び掛っていた。
「だああ、飛びつくんじゃない、問題児!」
「はえ?」
 フランドールも妙な呼び方をする魔理沙に疑問を感じたようだ。
「なんか変じゃない、霊夢? それに白黒魔法使いも」
『だから』
 レミリアの問いに2人の声がハモった。
「私が霊夢で」
 といって魔理沙の格好をしている人物が自分自身を指した。
「私が魔理沙だぜ」
 といって霊夢の格好をしている人物が手を上げた。
 数秒の沈黙。そして―――
『えええええぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!?????』
 吸血鬼姉妹の絶叫が紅魔館に響き渡った。


 声を聞きつけて咲夜が飛び込んできたが、特にレミリアたちに危害がないことがわかると、何があったのか霊夢達に聞いた。その過程で今回の現象を聞き、理解した。
「なるほど。だから美鈴が混乱していたわけね」
「そういえばあの門番、今日はいなかったけどどうしたんだ?」
「知りたい? ふふふ……」
「……やめとくぜ」
 妙な笑みを浮かべる咲夜におとなしく引き下がる魔理沙。
「しかし、まあ……」
 おたおたするレミリアとフランドールを見て、咲夜もどうしたものか、と頭を抱える。
 いつも泰然と構えているレミリアですら、これには少々驚きが隠せないようだ。
「……あの、霊夢?」
「だから、私は魔理沙だぜ」
「…………うそ?」
 500年生きてきたが、こんな現象は聞いたことも見たこともない。すっかり混乱してしまっていた。
 隣ではフランドールも複雑な表情をして霊夢に話し掛けていた。
「魔理沙?」
「違う、私は霊夢。博麗霊夢なの」
「え~……でも確かに違う。魔理沙の口調じゃない……」
「ちょ、ちょっと咲夜。どういうことなのよ、これは!」
 レミリアの後ろで静かに立っていた咲夜に問いただすレミリア。
「私に言われましても。どうやら魔理沙が作った魔法薬の所為らしいのですが」
 困ったように首を傾げて、咲夜。大雑把なことは魔理沙から聞いたのだが、現象については説明できるはずもない。
「違和感ありすぎよ! 何とかして!」
「いくらお嬢様の命令でも、私はそっちの方面は管轄外ですので、唐突にそういわれましても……」
「何とかしてくれたら一緒にお昼寝サービス……」
「さあ行くわよ、霊夢! 魔理沙! パチュリー様なら何とかしてくれるはず! っていうかむしろさせる! 時間ならいくらでも止めてあげるから、速攻マッハで解決するわよ!」
 手のひらを返したように先導して大図書館へ向かう咲夜。過程はどうあれ、目的地がそこなので霊夢も魔理沙もおとなしくついていった。

「…………フランと、だけどね」
「はい? なに、レミリアお姉さま?」
「なんでもないわ」
 もう見えなくなった咲夜にレミリアの言葉は届くはずもなかった。


 図書館ではいつものように小悪魔が本の整理をしていたが、挨拶もなしに奥を目指した。目的はもちろん図書館の主―――パチュリー・ノーレッジ。
 当のパチュリーは普段と変わらぬ様子で本を読んでいたが、音が聞こえるほど高速で飛んでくる3人を見てしまったので、仕方なく本を閉じた。
「咲夜……はともかく、あなたたち……だれ?」
「さすがパチュリー様。これが見た目通りではないことを一目で看破されるとは」
 納得して褒め称える咲夜。
(……単に知らないフリして追い返そうと思っただけなんだけど)
 パチュリーの思惑とは違った展開になり、どうすればいいものか、と考えるパチュリー。
「って、なに? どうかしたの、あなたたち?」
「実は……」
 霊夢が掻い摘んで事情を説明した。主に私は被害者、魔理沙が容疑者という事を強調していたが、魔理沙も咲夜も特に反論はしなかった。
 黙って聞いていたパチュリーだったが、説明が終わると魔理沙の持っている本に目を向けた。
「ちょっと見せて」
 魔理沙から本を受け取り、目を通すパチュリー。数秒後、パチュリーはあることに気づいた。
「……これ、落丁してるじゃない」
「…………え?」
 言われてパチュリーの持つ本を覗き込む魔理沙。ついで覗き見る霊夢と咲夜。
 確かによく見てみればパチュリーの言うとおり、見開きページ1枚分が落丁していた。隅に小さく書いてあるページ数も確かに飛んでいる。
「古い本にはたまにあることだけど。……でも最初の説明に、2人同時に服用することで効果を発揮する、って書いてあるんだから、読めばなんとなく違うものだろう、ってことくらいわかりそうなものだけど」
「いやあ、タイトルの『睡眠薬の製造法』をみて、いきなり材料集めに奔放したからなあ……」
「読みなさいよ、説明くらい!」
 頭に手を置き笑っている魔理沙に怒鳴る霊夢。
「……はあ、呆れてものも言えないわ」
「しっかり言ってるじゃない」
「……確かに違和感あるわね」
 魔理沙の口調にようやく慣れてきたところだったのに、今度は霊夢のぶっきらぼうな喋り方が魔理沙の口から出ているせいで、パチュリーは得も知れぬ疲労感に襲われていた。
「とにかく、元に戻る方法教えて」
「あのね、そんなこといきなり言われてどうにかできると思うの? いったい私を何だと思ってるのよ?」
「無駄な知識が豊富なもやしっ娘」
「…………まあ、いいけどね」
 相手に対する敬意など欠片もなく、ずばっと直球で言う霊夢。外見が魔理沙なだけにどこかマッチしているようにも感じる。
「とにかく! お嬢様がこのままでは可哀想です。パチュリー様なら解決策をご存知かと」
「……咲夜、なんかあなた目が据わってない?」
「気のせいですわ」
 全く説得力のないことをいけしゃあしゃあと述べる咲夜。内に秘めた下心はしっかりとパチュリーには見破られたようだが。
「悪いけど、本当にわからないわよ、私には。まあこの本を読めば多分詳しいことはわかると思うけど、今すぐってわけにはいかないわ」
「そんな。私、しばらく魔理沙で過ごすの? 冗談じゃないわ!」
「酷い言いようだぜ」
 崩れ落ちる霊夢に、複雑な気持ちで言う魔理沙。
「ところで、こういうことは専門家に聞いたほうがいいと思うけど」
「専門家って…………あ!」
 3人とも同時にある人物を思い描いた。
「そ、あの薬師ならなんとかなるんじゃない?」
 もちろん薬師とは月の頭脳こと、八意永琳だ。3人はパチュリーへの挨拶もそこそこに図書館を飛び出した。目指すは永琳のいる場所―――永遠亭。


 永琳に相談した結果、2人はあっさりと元に戻ることが出来た。何でこんな薬を常備しているのか問いただしたら、うまくお茶を濁されてしまった。隣に座っていた鈴仙とてゐが引きつった笑みを浮かべ、輝夜が満面の笑みを浮かべていたのが気に掛かったが、敢えて追求するのは止めておいた。
 当然無償、というわけではなかった。代償として次の満月のときに、必要経費全て霊夢達持ちで月夜の宴会をされられることになったが、どうせいつものことだから、と霊夢はあっさりと承諾していた。無論、魔理沙も咲夜も同意見だ。
 なにはともあれ、ここにようやく騒動は終結したのだった。


 永遠亭から帰る道すがら、霊夢はふと疑問が湧き、魔理沙に聞いてみた。
「そういえば、何で魔理沙は私に睡眠薬なんか飲ませようとしたのよ?」
「気にしなくていいぜ」
「気になるに決まってるじゃない!」
「いやあ、別に大した意味はなかったんだけどな。まあ、蒐集家としては一度博麗神社の蔵を漁ってみたいとかは思ってたけどな」
「はあ……掃除してくれるなら別に覗くくらいで文句は言わないけど」
「当然レアなものがあったら持ち出すぜ。だいたい、私に掃除が出来ると思うのか?」
「少しは恥じなさいよ」
 口ではそう言いながらも、魔理沙なんだから無理か、などと思う霊夢。
 ははは、と笑う魔理沙の隣にいる咲夜は、そんな魔理沙の表情を見てふと思いついたことをぽつりと言った。
「……で、霊夢捕獲の報酬は?」
「それがなんとアリスのやつ、幻想郷ではまず手に入らない超希少価値の魔法薬を仕入れたって言うから…………って、あ!」
 咲夜のいきなりの問いに、あっさりとひっかかる魔理沙。
「なるほどね。つまり霊夢を眠らせてあの七色人形使いに引き渡そうとしてたわけね。取引の交換材料として」
「お、おい咲夜! 誘導尋問とはひどいぜ!」
「私に文句言う前に、隣を見たほうがいいと思うけど」
 言われて恐る恐る隣を見ると、怒気のオーラを放つ霊夢がそこにいた。無論、手にはスペルカードをしっかり持っていたりする。
「ふうん……さっきのは建前で本音はそういうことだったの……」
「ま、待て、霊夢。話せばわかる……」
「問答……無用!!!」
 今までの鬱憤を晴らすがごとく、霊夢の怒りの弾幕が空に展開された。魔理沙はそれこそ死ぬ気で逃げ回り、咲夜は我関せず、と足早に紅魔館へ戻っていった。



 そして紅魔館では―――

 目的を達成してこれから訪れる桃源郷を胸に、満面の笑みで戻ってきた咲夜を待っていたのは、同じく満面の笑みを浮かべたフランドールだった。
「え、ちょっと待ってください。これはいったい……お嬢様!?」
「さあ、咲夜。早く行こう」
「ど、どこへですか?」
「久しぶりに咲夜とするのも楽しそう、弾幕ごっこ」
「レミリアお嬢様~~~!!!」
 期待していた展開とは相当違う展開。咲夜の悲鳴が紅魔館に響いた。
「…………ま、無事に出てこれたら、少しはねぎらってあげましょうか」
 主犯のレミリアはフランドールに引きずられていく咲夜を見て、そんなことを呟いて自室に戻っていった。




  おまけ


「え、何? ここは……って咲夜さん!?」
 紅魔館の入り口で職務をこなしていたはずの美鈴だったが、気がついたら咲夜に拘束されてどこかの部屋に連れ込まれていた。
「ふふふふ……そういえばあなたへのお仕置きが保留のままだったわよね」
「お仕置きって……えー!? ここ、妹様の部屋じゃ……」
「あ~、美鈴も来たんだ。3人でやるなんて初めてで面白そう!」
「ちょ、ちょっと咲夜さん!?」
 弾幕モードに移行しつつあるフランドールを正面にまともに狼狽する美鈴。
 もちろん、美鈴を連れ込んだのは咲夜である。時を止めて強制連行してきたのだ。時を止めている間に逃亡する、という手段もないわけではないのだが、レミリアに後で知られればどんな仕打ちがされるのかは想像に難くない。それなら1人よりは2人、と助っ人を連れてきたわけである。道連れ、ともいうが。
 涙を流して、いやいや、と首を振る美鈴。咲夜はそんな美鈴を見て、一言。
「死なばもろとも、って言葉知ってる?」
「いっくよー! 禁忌『レーヴァテイン』!」
「いやあああああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
 美鈴の渾身の力をこめた絶叫が、紅魔館にいつまでも響き渡ったのだった。







初めて投稿するエクレーレと申します。
東方は本当につい最近始めたばかりなのですが、これは最高ですね。
なんとなく勢いにつられて書いてみましたが、口調とか性格とかまだまだキャラが掴めていないような……
紅魔館の面々はみんな好きなんですけどね。

まだまだ東方の知識も文章力も未熟なので、間違い等がございましたら指摘してください。
エクレーレ
http://homepage3.nifty.com/star-library
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コメント



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6.70名前が無い程度の能力削除
グッジョブ。
13.無評価名前が無い程度の能力削除
キャラが掴めていないとは、何をおっしゃる。
各キャラに「らしさ」がにじみ出ていますよ。

・・・・とりあえず重要な部分を黙っておくレミリア様GJ。
14.80名前が無い程度の能力削除
おお、点数入れ忘れ。
・・・・すいません orz
18.70名前が無い程度の能力削除
いやもうばっちり。
個人的には永遠亭でも会話とかあったら、よかったかなぁ。
26.70名無し毛玉削除
泣かして良し、ふっ飛ばして良し、そしてたまには笑顔で締めるも良し
ホントに美鈴は万能なオチキャラですね(違