注:魔理沙×パチュリーです。
春眠、暁を覚えず。
春。誰が何を言おうと春である。
咲き乱れる桜、温かな風、空を駆けるリリーホワイト、霊夢の脳みそ。
こんな日には花見をしながら茶を啜ってゴロゴロするに限る。
「いかーん!」
「のわあっ!?」
魔理沙は突然仰向けの体制から上半身を起こす。霊夢は思わず湯飲みを取り落としそうになった。
「いかんぞ霊夢!」
「何がよ」
「見ろこの状況を!」
魔理沙は立ち上がり、選挙カーに乗った候補者の如く演説を始めた。
「春・・・それは始まりの季節だぜ。春夏秋冬火水木金土符賢者の石! こんな日和にのほほんと過ごしているから、こーゆー堕落しきった毎日を送る羽目になるんだぜ!!」
「ふーん、で?」
「弾幕勝負しようぜ霊夢」
霊夢は軽くコケた。
「何でそうなるのよ。あんたのは唯のこじつけじゃない」
「こじつけもお茶漬けも知ったこっちゃないぜ。さ、いざ尋常に勝負だ。因みに私は梅茶漬け派だ。後で食わせてくれ」
「まったくもう・・・・・・」
なんだかんだ言って勝負に応じるのが霊夢らしい。
「でもただ勝負するだけじゃ面白くないぜ」
「何? 罰ゲームでもやるっていうの?」
「お、みょん案だぜ」
「妙案」
「最近のトレンドなんだ」
「で、罰ゲームは?」
「そうだなぁ・・・・・・」
ギュ~ン フワ~ン
「じゃあ負けた方は私の持っているカードを引いてちょうだい」
「OKだぜ」
「待て。何勝手に取り仕切ってるのよ紫」
気付けば二人の目の前にスキマから頬杖をつきながら不敵に笑う八雲紫の姿があった。
「何って、こんな面白そうなことを黙って見過ごせっていうの?」
「あんたねぇ・・・・・・」
「私は万事OKだぜ。今日の私には何事にも動じない冷静さと魔力が満ち溢れてるぜ」
「わかったわよ。どうなったって知らないからね」
こうして弾幕勝負の火蓋が斬って落とされた。
◇
「よっしゃー、行くぜ霊夢! 『スターダストレヴァリエ』!!」
星屑の弾幕が渦を巻く。しかし霊夢にとってこの程度の弾幕は朝飯前。
「ひょい」
「はっはっはー、流石は霊夢。この程度の弾幕で落ちてもらっちゃ困るぜ」
「無駄口叩いてる暇があったら攻撃しなさい。『博麗アミュレット』!」
「おおっ!!」
霊夢の手から札が放たれる。追って来る札を魔理沙はスピードを生かして一気に撒く。
「甘いわ。『咲夜流パスウェイジョンニードル』!」
霊夢は魔理沙の動きを先読みし、今度は数百本はあろうかという大量の針を放った。それは見事な跳弾攻撃!
「な、何だそりゃあああっ!?」
魔理沙は逃げ場を一瞬失い、スピードが鈍った。
「もらった!『陰陽宝玉』!!」
「・・・・っ! パワーで負けてたまるか! 『マスタースパーク』!!」
霊夢が間合いを詰める一瞬の隙を狙って魔理沙の手から必殺の魔砲が放たれる。霊夢はとても避けられそうにない。
『ズガァァァァァン!!』
「・・・・・・やったぜ!!」
「甘いわ」
「あ?」
魔理沙が頭上を見上げると、そこには霊夢のパン・・・・・・
「『幻想空想穴』!」
『ズガシャッ』
「きゃうっ!?」
・・・そして霊夢の見事な急降下攻撃が魔理沙の脳天に炸裂した。常人ならまず死ぬ角度。
「最後まで弾幕勝負では気を抜かない。以上今日の授業終わり」
「きゅ~・・・・・・」
◇
「だから言ったのに」
決着はご覧の通りあっさり付いた。罰ゲームなどがあれば誰でも大概本気を出す。それは霊夢とて例外ではない。結局魔理沙は本気を出す前に畳み掛けられてしまった。
「見事ね。まさか接近戦に持ち込むとは思わなかったわ」
「魔理沙相手に遠距離戦は分が悪いからね。悪いけど速攻で決めさせてもらったわ」
「私にはそんな戦法通用しないわよ~」
「あんたとはそれ以前にやり合いたくないわ。・・・・・・で」
霊夢はずいっと地面に伸びている魔理沙に向け顔を伸ばす。
「魔理沙」
「はい・・・・・・」
「罰ゲーム」
「・・・・・・はい」
魔理沙は思った。世の中甘くない。霊夢には絶対勝てそうに無いと・・・・・・。
◇
「わーかったって。この霧雨魔理沙さん逃げも隠れもしないぜ。さあ紫、ドンとこい」
「ふふふふふふ」
「(ごくり)」
霊夢は固唾を呑んで見守っている。「あの」紫が考えた罰ゲームがどんな物かと思うと寒気がしてくる。恐ろしく理不尽でぶっちゃけありえな~い内容かが目に浮かぶようだ。
「くっ、随分枚数あるな」
「アタリとハズレとスペルカードがあるわ。慎重にね」
紫はスキマから上半身を出しながら、ニヤニヤと相変わらず不敵な笑みを浮かべている。
「・・・・・・因みにスペルカードの内容は?」
「プリンセスゆかりんの弾幕結界チャーミング。新作よ」
ブホッ!
霊夢が茶を吹いた。
「死んでも嫌だぜ。あと年考えて物言え」
まるでババしか無いババ抜きをやるかのような状況。一寸先は闇。
だが魔理沙は覚悟を決めた。
「・・・・・・これだぁぁぁぁぁあああっ!!」
シュピーン。
「あらあら、アタリね」
「何々?」
「・・・・・・」
魔理沙はカードの内容を見たまま固まっている。霊夢はそれを横から覗き込む。
『パチュリー・ノーレッジを口説く』
「待てえええええええっ!」
「・・・これはまた随分微妙なカードね」
「だからアタリよ」
「そーなのかー・・・って何処がだ! 何で私がパチュリーを口説かなきゃならんのだ!!」
「「罰ゲームだからよ」」
「う・・・・・・」
反論の余地は無い。自業自得とは正にこの事。
「ま、こんなこと言うのはアレだけど」
「・・・・・・何だよ」
「魔理沙がパチュリーを口説くのはごく自然だと思うわ」
「ふざけんなああああああ!!」
「じゃあ、パチュリーのこと嫌いなの?」
間。
「ああああ・・・ぁ・・・え・・・ぃゃ・・・・・・あの・・・・・・」
魔理沙は口をぱくぱくさせながら頬を赤らめ、仕舞いには小さく縮こまってしまった。
「これは見物だわ。藍にお茶とお菓子用意してもらわなきゃ」
「あ、私の分も頼むわ」
「パ、パチュリー・・・・・・」
こうして魔理沙は現実との境目の無いドラマの主役を演じることとなった。
すきまの中からは霊夢や八雲一家の賑やかな声が響き渡っていた。
◇
・・・・・・こうして紅魔館にやって来たのは表向き霧雨魔理沙ただ一人。霊夢と紫はすきまから覗き見である。
「あらお久しぶりです」
「ご無沙汰ですわ。ってことで入らせてもらうぜ」
「・・・・・・待て!」
門番・・・・・・美鈴の手が魔理沙の肩にかかる。
「何だよ」
「貴方の不法侵入を許すと、私の食糧配給が止まるのよ」
目がマジである。これだけ体が発達しているというのに栄養不足だと言うのかこの中国は。
「何処が不法侵入なんだ。私は客だぜ」
「図書館から魔法書を勝手に持ち出す奴が客?」
「合意の上だぜ」
「兎に角! 貴方やジャ○アンが許しても、咲夜さんとこの私が許さないわ。さ、帰りなさい!!」
「・・・・・・今日は堂々と玄関から入って来てやったっていうのに、何つう家だ」
魔理沙はやれやれといった表情で美鈴に感付かれないよう、スペルカードを取り出す。
「今更遅いわ。これ以上踏み止まるなら・・・・・・」
「実力行使か?」
「その通り!!」
「零距離マスタースパーク!!」
『ヴォォォォォォォン』
「ひでぶーーーっ!!??」
「ふう、邪魔するぜー」
ギィーッ、バタン。
「(・・・この子居る意味あるのかしら?)」
「(それを言っちゃあお仕舞いよ)」
「わ、私って、私って何なのぉぉぉーー!?」
◇
「毎度。今日はヴワル魔法図書館の主、パチュリー・ノーレッジ殿と面会したく・・・・・・」
「どういう風の吹き回しよ」
紅魔館へと「普通に」侵入した魔理沙は、第二の関門である十六夜咲夜と出くわした。咲夜は殺気向き出しでやる気満々の様子である。
「・・・美鈴は何をやっているのかしら?」
「三面ボス如きに負ける魔理沙さんじゃないぜ。レザマリだって辛くなーい」
「・・・・・・ならばこの私があの時の恐怖を思い出させてあげるわ」
ジャラッ。
咲夜の手から大量のナイフが取り出される。
「おっとやる気か? 最もお前相手だと手加減出来ないが」
「手加減? あんまりふざけた事言うと、生きてこの館から出られなくなるわよ」
「ふっ、ご苦労なこった」
じりっ。
魔理沙も箒を構える。
「・・・・・・全く五月蝿いわねぇ。おちおち寝ても居られないわ」
「お、お嬢様?」
騒ぎを聞きつけたのか、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットが目を擦りながら玄関まで出て来た。咲夜はレミリアと目が合うと慌てた様子でナイフを隠し、姿勢を正した。
「ようレミリア。今日も色白だな」
「お肌のケアは吸血鬼の基本よ」
「も、申し訳御座いませんっ! 不法侵入を許すなどこの十六夜咲夜スイーパーとして失格です・・・!!」
「(スイーパーって・・・掃除係ってやっぱそっちの意味なのか?)」
「貴方は優秀な「スイーパー」なんだから別に構わないわ。・・・ところで何の用?」
「あー、えーっと」
魔理沙は漸く本題に入れると思ったが、まさか本ではなくパチュリーを貰いに来たなどとは言えない。とりあえずこんな時の為に用意した物を懐から取り出す。
「いや、ちょいとこの本を返したくてな」
「・・・・・・」
レミリアと咲夜はポカンと口を開けたまま固まってしまった。
「な、何だよ・・・・・・」
「おかしいわ」
「おかしいわね」
「だから何が」
さんはい。
「「貴方が物を返すこと自体がありえないのよ」」
ハモった。すきまから覗き見している霊夢と紫もクスクスと笑っている。
「・・・・・・二人とも私を何だと思ってるんだ? 借りた物を返すのは人として当然だぜ」
「貴方からそんな台詞が聞けるなんて驚きだわ」
「全くです」
「だあああっ、結局どうなんだ! 入れてくれるのかくれないのか!!」
我慢の限界。魔理沙はカリカリしながらレミリアを問いただした。
「別に構わないわ」
「ありゃ?」
主のレミリアはあっさり許可を下ろした。魔理沙もちょっぴり拍子抜けの様子。
「よ、宜しいのですかお嬢様!?」
「真っ当な理由だし、それに玄関から普通に入って来られたら追い返す理由も無いわ」
「流石は紅魔館の主。器が大きいぜ」
「くっ・・・・・・」
魔理沙はニヤニヤと笑いながら勝ち誇った様子で咲夜に目をやる。咲夜は悔しそうに歯軋りしながら拳を握り締めていた。何と分かりやすいメイドなのだろうか。
「その代わり」
「何だ?」
「後でフランと遊んであげてね」
「う・・・・・・わ、分かったぜ」
ここで一番恵まれなかったのは門番としての仕事を全うした美鈴である。気付けば主も従者も彼女の存在を忘れていた。飯抜きとかいうレベルの問題ではなかった。
◇
ヴワル魔法図書館。
光が差し込まず闇に包まれたこの図書館には、何かが出るともっぱらの噂で・・・・・・。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~~ン!!」
「ぎゃあああああっ!!」
悲鳴を上げたのは魔理沙・・・・・・ではなく子悪魔である。
「な、何なんですか貴方は!!」
「はっはっはー、悪魔が幽霊におののくとは笑い種だぜ?」
「う、五月蝿いっ!!」
子悪魔は冷や汗を浮かべながら取り落とした本をひょいひょい取り集める。
「私の書斎で暴れるのは何処の誰ー・・・・・・」
「ようパチュリー」
ぬぅ~っと、余程魔理沙より幽霊らしい登場をしたのはパチュリー・ノーレッジその人である。相変わらず不健康そうである。
「・・・・・・良く考えてみればあんた以外図書館で暴れるなんていう、世間知らずでエチケットの無い馬鹿者は居ないわね」
「あぐっ、相変わらず血も涙も無いことを」
「やーい礼儀知らず」
「子供かお前は」
「オマエモナーっと。さて仕事仕事ー」
言いたいことを言い残すと、子悪魔は図書館の奥へと消えてしまった。言われっぱなしで癪に障るが兎も角これで邪魔者は居なくなった。
「で、今日はどういう風の吹き回し? 普通に入り口から侵入、もとい進入して来るなんて」
「・・・・・・この館の住人から私は余程信用が無いんだな」
「当たり前でしょ。窓から不法侵入した上に、追ってきた美鈴を丸焼き。そして本を強奪してそのまま逃走。やってる事は世間一般的に言う泥棒よ」
「ああぁ、ショックだぜ。パチュリーにまで誤解されてるなんてよ・・・・・・」
「・・・・・・誤解?」
「(始まるわよ)」
「(わかってるわ)」
霊夢と紫は煎餅片手に食い入る様に二人を見つめた。罰ゲームと言う名の恋愛ドラマの開始である。
「いや・・・・・・確かに私は何時も不法侵入してるぜ。それは認めよう」
「え」
絶句。パチュリーは口元を本で隠した。
「だって私が此処に来るには窓からが一番近道だからなあ」
「ふざけないで」
「セイセイセイ。・・・・・・落ち着け」
「むぐぅ」
「いいか、そして何よりこの窓から入ってきた方が・・・・・・」
魔理沙はパチュリーに背を向け、キザなポーズをさり気無く取る。
「パチュリーに、早く会えるから・・・・・・」
「え・・・・・・」
ドサッ。
パチュリーは本を床に落とした。
「(来たわ、来たわよ霊夢!!)」
「(煎餅五月蝿い! あと少し黙ってて!!)」
バリボリバリボリ! 紫は煎餅を猛烈な勢いで胃に流し込む。
「あ・・・あの、魔理沙、それってどういう・・・・・・」
「言葉通りだぜ」
魔理沙はそれ以上の言葉を続けない。これも戦略か?
「(むぅ、多くは語らずか・・・・・・)」
「(古風なやり方ねぇ)」
そして暫くの沈黙。パチュリーは下を向いたり髪を弄ったりしながらモジモジしている。
「(あらあら可愛いわねぇ)」
「(・・・・・・)」
紫は成り行きをうきうきしながら見守っている。それはワイドショー好きなおばさんの姿と重なる。
一方の霊夢は頬杖を付きながらぼーっと閲覧中。こんなことしてて良いのかなあといった表情。どちらにしても暇人。
「・・・・・・わりぃ、今日の私はどうかしてるぜ」
「あ・・・・・・」
「今日は帰るぜ。玄関から出ると咲夜たちが五月蝿いからこのまま退散させてもらうぜ」
カチャリ。
魔理沙は図書館の数少ない窓を開け放った。そして外からの風に髪を靡かせながら魔理沙は決め台詞を決める。
「パチュリー」
「え・・・・・・あ、何?」
「明日も来て良いか?」
「・・・・・・うん」
「(きゃああああああ! 両想いだわ、両想いよ霊夢うぅぅぅぅ!!)」
「(やっかましい!)」
「じゃあなっ!」
そして魔理沙は音速の速度で紅魔館を後にした。そしてパチュリーは誰も居なくなった図書館から外を見つめた。
「魔理沙・・・・・・」
◇
「・・・・・・ぷはぁぁぁっ! れ、霊夢私を殺す気!?」
「あんたがいちいち五月蝿いからよ!」
霊夢はチョークスリーパーを解除した。
「だ、だって見たでしょ!? あの絵に描いたような古風な恋愛ドラマ! あんなのが現実に起こるなんてあり、えな~~~い!! ゆかりん驚き☆ ・・・・はぐっ!? ぐえぇ・・・えぇえ・・・・・・」
「あ・ん・た・の・し・わ・ざ・で・しょうが!!」
「ぶ・・・ぶはぁ・・・・・・と、ともかく明日よ! 明日に備えなきゃ霊夢!!」
「あーはいはい」
「とか言いつつ魔理沙に妬いてるんじゃないのー? このー、可愛いなあ霊夢ちゃーん☆」
『バキィ!』
「きゅぅ~・・・・・・」
「次言ったら本気で殺るわよ?」
続くかも。
春眠、暁を覚えず。
春。誰が何を言おうと春である。
咲き乱れる桜、温かな風、空を駆けるリリーホワイト、霊夢の脳みそ。
こんな日には花見をしながら茶を啜ってゴロゴロするに限る。
「いかーん!」
「のわあっ!?」
魔理沙は突然仰向けの体制から上半身を起こす。霊夢は思わず湯飲みを取り落としそうになった。
「いかんぞ霊夢!」
「何がよ」
「見ろこの状況を!」
魔理沙は立ち上がり、選挙カーに乗った候補者の如く演説を始めた。
「春・・・それは始まりの季節だぜ。春夏秋冬火水木金土符賢者の石! こんな日和にのほほんと過ごしているから、こーゆー堕落しきった毎日を送る羽目になるんだぜ!!」
「ふーん、で?」
「弾幕勝負しようぜ霊夢」
霊夢は軽くコケた。
「何でそうなるのよ。あんたのは唯のこじつけじゃない」
「こじつけもお茶漬けも知ったこっちゃないぜ。さ、いざ尋常に勝負だ。因みに私は梅茶漬け派だ。後で食わせてくれ」
「まったくもう・・・・・・」
なんだかんだ言って勝負に応じるのが霊夢らしい。
「でもただ勝負するだけじゃ面白くないぜ」
「何? 罰ゲームでもやるっていうの?」
「お、みょん案だぜ」
「妙案」
「最近のトレンドなんだ」
「で、罰ゲームは?」
「そうだなぁ・・・・・・」
ギュ~ン フワ~ン
「じゃあ負けた方は私の持っているカードを引いてちょうだい」
「OKだぜ」
「待て。何勝手に取り仕切ってるのよ紫」
気付けば二人の目の前にスキマから頬杖をつきながら不敵に笑う八雲紫の姿があった。
「何って、こんな面白そうなことを黙って見過ごせっていうの?」
「あんたねぇ・・・・・・」
「私は万事OKだぜ。今日の私には何事にも動じない冷静さと魔力が満ち溢れてるぜ」
「わかったわよ。どうなったって知らないからね」
こうして弾幕勝負の火蓋が斬って落とされた。
◇
「よっしゃー、行くぜ霊夢! 『スターダストレヴァリエ』!!」
星屑の弾幕が渦を巻く。しかし霊夢にとってこの程度の弾幕は朝飯前。
「ひょい」
「はっはっはー、流石は霊夢。この程度の弾幕で落ちてもらっちゃ困るぜ」
「無駄口叩いてる暇があったら攻撃しなさい。『博麗アミュレット』!」
「おおっ!!」
霊夢の手から札が放たれる。追って来る札を魔理沙はスピードを生かして一気に撒く。
「甘いわ。『咲夜流パスウェイジョンニードル』!」
霊夢は魔理沙の動きを先読みし、今度は数百本はあろうかという大量の針を放った。それは見事な跳弾攻撃!
「な、何だそりゃあああっ!?」
魔理沙は逃げ場を一瞬失い、スピードが鈍った。
「もらった!『陰陽宝玉』!!」
「・・・・っ! パワーで負けてたまるか! 『マスタースパーク』!!」
霊夢が間合いを詰める一瞬の隙を狙って魔理沙の手から必殺の魔砲が放たれる。霊夢はとても避けられそうにない。
『ズガァァァァァン!!』
「・・・・・・やったぜ!!」
「甘いわ」
「あ?」
魔理沙が頭上を見上げると、そこには霊夢のパン・・・・・・
「『幻想空想穴』!」
『ズガシャッ』
「きゃうっ!?」
・・・そして霊夢の見事な急降下攻撃が魔理沙の脳天に炸裂した。常人ならまず死ぬ角度。
「最後まで弾幕勝負では気を抜かない。以上今日の授業終わり」
「きゅ~・・・・・・」
◇
「だから言ったのに」
決着はご覧の通りあっさり付いた。罰ゲームなどがあれば誰でも大概本気を出す。それは霊夢とて例外ではない。結局魔理沙は本気を出す前に畳み掛けられてしまった。
「見事ね。まさか接近戦に持ち込むとは思わなかったわ」
「魔理沙相手に遠距離戦は分が悪いからね。悪いけど速攻で決めさせてもらったわ」
「私にはそんな戦法通用しないわよ~」
「あんたとはそれ以前にやり合いたくないわ。・・・・・・で」
霊夢はずいっと地面に伸びている魔理沙に向け顔を伸ばす。
「魔理沙」
「はい・・・・・・」
「罰ゲーム」
「・・・・・・はい」
魔理沙は思った。世の中甘くない。霊夢には絶対勝てそうに無いと・・・・・・。
◇
「わーかったって。この霧雨魔理沙さん逃げも隠れもしないぜ。さあ紫、ドンとこい」
「ふふふふふふ」
「(ごくり)」
霊夢は固唾を呑んで見守っている。「あの」紫が考えた罰ゲームがどんな物かと思うと寒気がしてくる。恐ろしく理不尽でぶっちゃけありえな~い内容かが目に浮かぶようだ。
「くっ、随分枚数あるな」
「アタリとハズレとスペルカードがあるわ。慎重にね」
紫はスキマから上半身を出しながら、ニヤニヤと相変わらず不敵な笑みを浮かべている。
「・・・・・・因みにスペルカードの内容は?」
「プリンセスゆかりんの弾幕結界チャーミング。新作よ」
ブホッ!
霊夢が茶を吹いた。
「死んでも嫌だぜ。あと年考えて物言え」
まるでババしか無いババ抜きをやるかのような状況。一寸先は闇。
だが魔理沙は覚悟を決めた。
「・・・・・・これだぁぁぁぁぁあああっ!!」
シュピーン。
「あらあら、アタリね」
「何々?」
「・・・・・・」
魔理沙はカードの内容を見たまま固まっている。霊夢はそれを横から覗き込む。
『パチュリー・ノーレッジを口説く』
「待てえええええええっ!」
「・・・これはまた随分微妙なカードね」
「だからアタリよ」
「そーなのかー・・・って何処がだ! 何で私がパチュリーを口説かなきゃならんのだ!!」
「「罰ゲームだからよ」」
「う・・・・・・」
反論の余地は無い。自業自得とは正にこの事。
「ま、こんなこと言うのはアレだけど」
「・・・・・・何だよ」
「魔理沙がパチュリーを口説くのはごく自然だと思うわ」
「ふざけんなああああああ!!」
「じゃあ、パチュリーのこと嫌いなの?」
間。
「ああああ・・・ぁ・・・え・・・ぃゃ・・・・・・あの・・・・・・」
魔理沙は口をぱくぱくさせながら頬を赤らめ、仕舞いには小さく縮こまってしまった。
「これは見物だわ。藍にお茶とお菓子用意してもらわなきゃ」
「あ、私の分も頼むわ」
「パ、パチュリー・・・・・・」
こうして魔理沙は現実との境目の無いドラマの主役を演じることとなった。
すきまの中からは霊夢や八雲一家の賑やかな声が響き渡っていた。
◇
・・・・・・こうして紅魔館にやって来たのは表向き霧雨魔理沙ただ一人。霊夢と紫はすきまから覗き見である。
「あらお久しぶりです」
「ご無沙汰ですわ。ってことで入らせてもらうぜ」
「・・・・・・待て!」
門番・・・・・・美鈴の手が魔理沙の肩にかかる。
「何だよ」
「貴方の不法侵入を許すと、私の食糧配給が止まるのよ」
目がマジである。これだけ体が発達しているというのに栄養不足だと言うのかこの中国は。
「何処が不法侵入なんだ。私は客だぜ」
「図書館から魔法書を勝手に持ち出す奴が客?」
「合意の上だぜ」
「兎に角! 貴方やジャ○アンが許しても、咲夜さんとこの私が許さないわ。さ、帰りなさい!!」
「・・・・・・今日は堂々と玄関から入って来てやったっていうのに、何つう家だ」
魔理沙はやれやれといった表情で美鈴に感付かれないよう、スペルカードを取り出す。
「今更遅いわ。これ以上踏み止まるなら・・・・・・」
「実力行使か?」
「その通り!!」
「零距離マスタースパーク!!」
『ヴォォォォォォォン』
「ひでぶーーーっ!!??」
「ふう、邪魔するぜー」
ギィーッ、バタン。
「(・・・この子居る意味あるのかしら?)」
「(それを言っちゃあお仕舞いよ)」
「わ、私って、私って何なのぉぉぉーー!?」
◇
「毎度。今日はヴワル魔法図書館の主、パチュリー・ノーレッジ殿と面会したく・・・・・・」
「どういう風の吹き回しよ」
紅魔館へと「普通に」侵入した魔理沙は、第二の関門である十六夜咲夜と出くわした。咲夜は殺気向き出しでやる気満々の様子である。
「・・・美鈴は何をやっているのかしら?」
「三面ボス如きに負ける魔理沙さんじゃないぜ。レザマリだって辛くなーい」
「・・・・・・ならばこの私があの時の恐怖を思い出させてあげるわ」
ジャラッ。
咲夜の手から大量のナイフが取り出される。
「おっとやる気か? 最もお前相手だと手加減出来ないが」
「手加減? あんまりふざけた事言うと、生きてこの館から出られなくなるわよ」
「ふっ、ご苦労なこった」
じりっ。
魔理沙も箒を構える。
「・・・・・・全く五月蝿いわねぇ。おちおち寝ても居られないわ」
「お、お嬢様?」
騒ぎを聞きつけたのか、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットが目を擦りながら玄関まで出て来た。咲夜はレミリアと目が合うと慌てた様子でナイフを隠し、姿勢を正した。
「ようレミリア。今日も色白だな」
「お肌のケアは吸血鬼の基本よ」
「も、申し訳御座いませんっ! 不法侵入を許すなどこの十六夜咲夜スイーパーとして失格です・・・!!」
「(スイーパーって・・・掃除係ってやっぱそっちの意味なのか?)」
「貴方は優秀な「スイーパー」なんだから別に構わないわ。・・・ところで何の用?」
「あー、えーっと」
魔理沙は漸く本題に入れると思ったが、まさか本ではなくパチュリーを貰いに来たなどとは言えない。とりあえずこんな時の為に用意した物を懐から取り出す。
「いや、ちょいとこの本を返したくてな」
「・・・・・・」
レミリアと咲夜はポカンと口を開けたまま固まってしまった。
「な、何だよ・・・・・・」
「おかしいわ」
「おかしいわね」
「だから何が」
さんはい。
「「貴方が物を返すこと自体がありえないのよ」」
ハモった。すきまから覗き見している霊夢と紫もクスクスと笑っている。
「・・・・・・二人とも私を何だと思ってるんだ? 借りた物を返すのは人として当然だぜ」
「貴方からそんな台詞が聞けるなんて驚きだわ」
「全くです」
「だあああっ、結局どうなんだ! 入れてくれるのかくれないのか!!」
我慢の限界。魔理沙はカリカリしながらレミリアを問いただした。
「別に構わないわ」
「ありゃ?」
主のレミリアはあっさり許可を下ろした。魔理沙もちょっぴり拍子抜けの様子。
「よ、宜しいのですかお嬢様!?」
「真っ当な理由だし、それに玄関から普通に入って来られたら追い返す理由も無いわ」
「流石は紅魔館の主。器が大きいぜ」
「くっ・・・・・・」
魔理沙はニヤニヤと笑いながら勝ち誇った様子で咲夜に目をやる。咲夜は悔しそうに歯軋りしながら拳を握り締めていた。何と分かりやすいメイドなのだろうか。
「その代わり」
「何だ?」
「後でフランと遊んであげてね」
「う・・・・・・わ、分かったぜ」
ここで一番恵まれなかったのは門番としての仕事を全うした美鈴である。気付けば主も従者も彼女の存在を忘れていた。飯抜きとかいうレベルの問題ではなかった。
◇
ヴワル魔法図書館。
光が差し込まず闇に包まれたこの図書館には、何かが出るともっぱらの噂で・・・・・・。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~~ン!!」
「ぎゃあああああっ!!」
悲鳴を上げたのは魔理沙・・・・・・ではなく子悪魔である。
「な、何なんですか貴方は!!」
「はっはっはー、悪魔が幽霊におののくとは笑い種だぜ?」
「う、五月蝿いっ!!」
子悪魔は冷や汗を浮かべながら取り落とした本をひょいひょい取り集める。
「私の書斎で暴れるのは何処の誰ー・・・・・・」
「ようパチュリー」
ぬぅ~っと、余程魔理沙より幽霊らしい登場をしたのはパチュリー・ノーレッジその人である。相変わらず不健康そうである。
「・・・・・・良く考えてみればあんた以外図書館で暴れるなんていう、世間知らずでエチケットの無い馬鹿者は居ないわね」
「あぐっ、相変わらず血も涙も無いことを」
「やーい礼儀知らず」
「子供かお前は」
「オマエモナーっと。さて仕事仕事ー」
言いたいことを言い残すと、子悪魔は図書館の奥へと消えてしまった。言われっぱなしで癪に障るが兎も角これで邪魔者は居なくなった。
「で、今日はどういう風の吹き回し? 普通に入り口から侵入、もとい進入して来るなんて」
「・・・・・・この館の住人から私は余程信用が無いんだな」
「当たり前でしょ。窓から不法侵入した上に、追ってきた美鈴を丸焼き。そして本を強奪してそのまま逃走。やってる事は世間一般的に言う泥棒よ」
「ああぁ、ショックだぜ。パチュリーにまで誤解されてるなんてよ・・・・・・」
「・・・・・・誤解?」
「(始まるわよ)」
「(わかってるわ)」
霊夢と紫は煎餅片手に食い入る様に二人を見つめた。罰ゲームと言う名の恋愛ドラマの開始である。
「いや・・・・・・確かに私は何時も不法侵入してるぜ。それは認めよう」
「え」
絶句。パチュリーは口元を本で隠した。
「だって私が此処に来るには窓からが一番近道だからなあ」
「ふざけないで」
「セイセイセイ。・・・・・・落ち着け」
「むぐぅ」
「いいか、そして何よりこの窓から入ってきた方が・・・・・・」
魔理沙はパチュリーに背を向け、キザなポーズをさり気無く取る。
「パチュリーに、早く会えるから・・・・・・」
「え・・・・・・」
ドサッ。
パチュリーは本を床に落とした。
「(来たわ、来たわよ霊夢!!)」
「(煎餅五月蝿い! あと少し黙ってて!!)」
バリボリバリボリ! 紫は煎餅を猛烈な勢いで胃に流し込む。
「あ・・・あの、魔理沙、それってどういう・・・・・・」
「言葉通りだぜ」
魔理沙はそれ以上の言葉を続けない。これも戦略か?
「(むぅ、多くは語らずか・・・・・・)」
「(古風なやり方ねぇ)」
そして暫くの沈黙。パチュリーは下を向いたり髪を弄ったりしながらモジモジしている。
「(あらあら可愛いわねぇ)」
「(・・・・・・)」
紫は成り行きをうきうきしながら見守っている。それはワイドショー好きなおばさんの姿と重なる。
一方の霊夢は頬杖を付きながらぼーっと閲覧中。こんなことしてて良いのかなあといった表情。どちらにしても暇人。
「・・・・・・わりぃ、今日の私はどうかしてるぜ」
「あ・・・・・・」
「今日は帰るぜ。玄関から出ると咲夜たちが五月蝿いからこのまま退散させてもらうぜ」
カチャリ。
魔理沙は図書館の数少ない窓を開け放った。そして外からの風に髪を靡かせながら魔理沙は決め台詞を決める。
「パチュリー」
「え・・・・・・あ、何?」
「明日も来て良いか?」
「・・・・・・うん」
「(きゃああああああ! 両想いだわ、両想いよ霊夢うぅぅぅぅ!!)」
「(やっかましい!)」
「じゃあなっ!」
そして魔理沙は音速の速度で紅魔館を後にした。そしてパチュリーは誰も居なくなった図書館から外を見つめた。
「魔理沙・・・・・・」
◇
「・・・・・・ぷはぁぁぁっ! れ、霊夢私を殺す気!?」
「あんたがいちいち五月蝿いからよ!」
霊夢はチョークスリーパーを解除した。
「だ、だって見たでしょ!? あの絵に描いたような古風な恋愛ドラマ! あんなのが現実に起こるなんてあり、えな~~~い!! ゆかりん驚き☆ ・・・・はぐっ!? ぐえぇ・・・えぇえ・・・・・・」
「あ・ん・た・の・し・わ・ざ・で・しょうが!!」
「ぶ・・・ぶはぁ・・・・・・と、ともかく明日よ! 明日に備えなきゃ霊夢!!」
「あーはいはい」
「とか言いつつ魔理沙に妬いてるんじゃないのー? このー、可愛いなあ霊夢ちゃーん☆」
『バキィ!』
「きゅぅ~・・・・・・」
「次言ったら本気で殺るわよ?」
続くかも。
パチェ萌え
思わずニヤニヤしてしましました
霊夢とも絡ませると面白そう
三角関係!?
サッパリとしていて読みやすいですな。続きにも期待しています。
フランも参加したら・・・大変だなぁ。。w
期待してまっせ!
是非続きを♪
続きどうするよ!? 後先考えないで書いてしまった・・・。
こうなったらハーレムルートにでもするしか。嘘です。
現在続き執筆中・・・・・・。
いい小悪魔でした。
そしてゆかりんのそのスペルにもいつか使い道があるといいなぁ・・w
そして出歯亀な霊夢&ゆかりんもヒジョーにカワユイ
こんな文を読んじゃったら続きを期待するなというのが酷というもの。
ということで、続き、期待しちゃいますよ?