Coolier - 新生・東方創想話

雲の行方(2)

2005/10/11 15:57:53
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            永い刻を生きてきた 忘れ得ない出会いと
            短い刻を共に生きた 覚えきれない別れと




 そう、あれはまだ幻想郷が出来る前の話し―――私と『博麗霊夢』が出逢った頃の話だ。
 その頃の人間と妖怪の関係は悪化の一途を辿っていた。
 妖怪が悪戯で人間を殺す。人間が生きるために妖怪を殺す。
 妖怪が生きるために人間を喰う。
 人間が妖怪というだけで殺す。
 後に残るのは、骸骨、屍、躯骸、骨骨骨の骨の山――――人間は骨すら残らない。
 永遠に続く狂った食物連鎖。

 幾ら食べても殺しても増え続ける人間。誰かが言った。
「人間の生は我々と違い短い。つまりそれは生命の圧縮。繁栄する為の力が強いという事だ」と。
 当時は誰も彼もが彼を笑ったけれど、次第に誰も笑えない。
 人間の繁栄力は凄まじく、見る見るうちに世界を覆って行き、逆に妖怪は住処を奪われて衰退していった。

 力が強い妖怪が大勢人間を殺す。能力が高い人間が大勢で妖怪を殺す。虚しく成るほどの無駄な作業。
 誰もが気付いていたけれど止められない狂った殺劇連鎖。
 このまま行き着くところまで行き着くしかないと誰もが思っていた頃の、まぁ私には関係ない血生臭い頃の遠い話―――。

 私が今日も山奥にある、人間が私を祭るために建てた神社の縁側で、地平まで雲一つ無い青空を眺めながら、のんびり昼寝をしていた時だ。
 誰かが石段を上ってくる気配を感じて目を転じれば、鳥居の傍に見た事も無い人間が立っていた。歳は10台半ばの女性のようで、髪は黒く、後ろ髪を中途半端に集めて纏めている。服は巫女服に良く似ているけれど、やけに露出度が高いような気がする。露出狂の巫女かしら。人間社会の繁栄は行き着くとこまで行ったみたいね。
 その露出狂巫女が私の姿に気付くと、自棄に胸を張って歩いてきた。
 私が怪訝な顔で見上げると、間髪いれずその巫女は
「あんたがスキマ妖怪の紫?あんた暇でしょ。手伝いなさい」
 と、私の胸に向かって言ってきた。私の人格はそこには無いわよ。
 これが私と霊夢との―――初代『博麗霊夢』との出会い。

 話を聞くと、彼女は信じられない事に20台前半らしい。
 何が信じられないって10台前半でも通用するようなむ待って。お札はやめて。痛いから、とても痛いから。

 私に手伝わせたいのはどうやら、ここら一帯の妖怪を『封じ込める』結界の構築らしい。
 これは外から(この場合人間界)のみでは結界の強度が足りなくなってしまい、かえって神隠しのオンパレード地帯になってしまうような結界が出来てしまうから、結界の中からも構築を手伝えということだった。
 私に先程そう説明した巫女―――霊夢は、まるで我が家のように勝手に茶を飲み、茶菓子を食べている。既に二桁目。

「もう、私は飽き飽きしてるのよ。あっちを片付けたら今度はそっち。そっちを片付けたら明日はあっち。ほんっとうにいい加減にして欲しいわよ。私には関係ないわよ。喰われるなら勝手に喰われれば良いの、自衛の努力が足りないって事なんだから。まぁ私は努力は嫌いだけど、やれる事はやるしね。……ちょっと聞いてるの?貴方もそう思うでしょ。ねぇったら、ねぇ」
 なんでしょう、この酔っ払いは。何で、お茶で酔えるのかしら……便利ねぇ。
 とりあえず、饅頭を口一杯に入れてリスみたいに膨らんだ顔でモゴモゴと話さないでくれないかしら。押したくなるじゃない。
 私のウズウズと蠢きだした掌を見た霊夢は、流れる動作でお茶を口に含んだ。ちっ。

「で、返事は?」
 茶飲を口に付けたまま、霊夢が私に問う。
 うーん、と唸りながら腕を組んで熟考するポーズを取ってみる。私としては考えるまでも無くその案には賛成なのだ。一度だけ気紛れで村人を妖怪から助けてみれば、一月後には神社が建ってしまった。その妖怪も今では私の式として家事全般を任せていたりする。
 神社が出来たことで、お供え物が貰えるのは嬉しいのだけど、私に妖怪を倒して欲しいとかのお願い事をされても困る。私自身、数少ない友人の妖怪が人間に殺されたりしたりして酒飲み友達が減ってしまい困っているのだ。それに参拝客が来る事によって私の睡眠を妨害されるのが、最大の理由だったりするのだが。
 何故、態々考えるフリをするかというと………カッコいいじゃない、何か。うん。それだけ。

「良いわよ、やりましょう。私も飽き飽きしてたところなのよ」
 二人してにやりと笑う。そして、最初の共同作業はただ一つ。
「「とりあえず、天気も良い事だしお茶でも飲みましょう。お酒も交えつつ」」
 うん、今日は快晴良い天気。日傘も青い空に良く似合う。

 こうして私達は出会い、結界の構築計画を進めていった。
 最終的には霊夢以外の幾人かの結界師達も賛同し、計画は発動する事となる。
 ここら辺が私の人生の中においても、『色々な出来事』が濃縮された時期で面白いのだが、とりあえず、結界―――博麗大結界―――は無事に展開され構築された。

 霊夢は外の世界に残らず、結界の内側で生きる事を決めていたらしく、いつも通りに私の神社で二人揃ってのんびりと暮らしていた。
 結界を構築するのを手伝った結界師達は村作りを始めたそうだ。
 外の世界は異能者を化け物か道具かのように扱う為か、結界を構築した後も訪れる人が絶えなく、私はスキマの力で結界に綻びを作って、そういった人達(時には妖怪も)を中に入れてあげていた。これが外の世界では神隠しとして人除けにもなって、結界に近づく人も減っていって一石二鳥だった。
 何時しか、結界の内側を誰もが『幻想郷』と呼ぶ様に成っていく。

 結界展開から数年が経ち、霊夢が結婚することとなった。相手は共に結界を張った結界師の中の一人。この二人の馴れ初めが『色々な出来事』の重要なウェイトを占めるのだが、これはまた別の機会としよう。
 霊夢は結界師達の村で暮らすと言っていたので、後日私の神社から出て行くのだろう。二度と会えなくなるわけでは無いけど、もう二人で藍に寝すぎて怒られたり、縁側で昼寝をしたり、四季を感じ酒を嗜む事も出来なくなる事は………少し寂しく思う。

 結婚式は神社の桜が満開の春の日に行われた。
 白い衣装に身を包んだ霊夢は、とても綺麗で何時もは幼く見える顔が、歳相応の大人びた顔に見え、私は見とれてしまった。
 式は妖怪も参加していた性もあるが、少し騒動が有ったものの無事に終わり、各々神社の境内で、宴会が始まっていた。

 私は縁側で一人、お酒を舐める様に呑みながら霊夢と新郎さんを見ていた。新郎が何か冗談を言ったのだろう、霊夢がとても楽しそうに笑っている。今では白い服をいつもの巫女服に着替えている。夜の闇に赤が好く映える。
 私は寂しさを感じながらも、微笑を浮べて霊夢を見ていた。

 ふっと、霊夢と視線が重なり背筋が震えた。霊夢の目が、何かを決意した光を灯していたからだ。
 このような祝い事の時には似合わない、悲愴すら感じられる目の光。
 霊夢、貴方……何をする気なの………?
 私は逃げるかの様に縁側から下り、神社の裏手に駆け出した。

 走っただけではない、胸を突き破りそうな動機を抑えようとして、木の幹に体を預けて根元に座り込んだ。
 はぁ、はぁ、と私が苦しげな息を吐いているところに、異質な音。誰かが近づいてくる。解っている、近づいてきているのは
「………紫」
「霊夢……」
 霊夢は、いつもと変わらない微笑の中に不安と決意を隠した顔で、私の前に立った。

 それからは、同じように座り込んだ霊夢と私は出会ってからの―――出会う前の事などを話しあった。私が何時『発生』したか解らないから本当の年齢は解らない事、霊夢が幼少時に近所の悪餓鬼や悪妖怪を懲らしめた話やら、二人で満月時の吸血鬼に追いかけられた事とか、二人で悪さをして藍に怒られてお茶・酒を断飲されたこと、二人で…二人で…二人で…。口から出てくる思い出は楽しい事ばかりだ。
 特に霊夢と出会った後の記憶は、何より鮮明に思い出せる。
 二人で声を出して笑ったり、堪え様として噴出したり、笑いすぎてお腹が痛くなって、笑いすぎて涙が出て、この楽しい時間が続いていけば良いと思う。あの霊夢の表情が嘘になるまで続いていけば良いと思う。本当に切実に。
でも、その時は来るのだ。

「紫――――聞いて欲しい事が、貴方に頼みたい事があるの」

 一頻り笑って乱れた呼吸が整ってきた処で、霊夢が私に宣告してきた。これは勧告に似ている。私に覚悟を決めるための時間を与えるためのものだ。
 顔を伏せる。霊夢の顔を見ないように。怖いのだ。覚悟を決めたとしても、あの目を見てしまったら、不安に押し潰されてしまいそうだから。
 私は、囁く様な声で答えた。
「……なに………」
 霊夢は一拍を置いて口を開く。
「これから私の子孫は双子しか生まれなくして欲しいの」

 私は、理由が解らずに聞き返す。
「そんな事をして、どうするの……?」
「一人は私が村で育てるわ。もう一人は貴方に育てて欲しいの」
「………何故?」
「村で育てる娘は博麗の後継者を産む為に、貴方の神社の巫女として育てる娘はこの、私達の幻想郷を守る存在として」
 私は、その意味を理解して顔を上げる。きっと表情は焦燥感で一杯だろう。その先を霊夢に言わせてはいけない。言わせたら駄目だ。
「私だけでも守れるわ!それに藍もいる!」
「………それでは駄目なのよ、紫。貴方には結界の綻びを直すという仕事があるでしょう?それで幻想郷を守る仕事まで任せたら、人間と妖怪のバランスが崩れてしまう。力的では無く、精神的に。そうなれば外の世界と同じになってしまい、私と貴方の『幻想』郷も終わってしまう。それだけは、駄目」

 理由は解った。理解も出来る。私には反論できる材料も余地も無い。でも、それでも!
「……何も貴方がっ!そんな役回りを、しなくてもいいじゃない………っ!」
「そうね」
 私は既にぼやけて霊夢がどんな表情をしているかも解る事が出来ない視界で、霊夢を見つめながら悲鳴のように叫ぶ。
「だったらっ!」
「……でも、この幻想郷に居る中で一番強い人間は私なのよ。だから、私がその役を請ける。貴方に会った時に私、言ったわよね?私は努力は嫌いだけど、やれる事はやらなくちゃ嫌なのよ。だから………」
「霊夢………」

「私――――――『博麗霊夢』が私と貴方のこの幻想郷を――――――貴方を、守るわ」
 私の頬から伝った涙が、月の明かりを灯して、地面に落ちた。

 一年後、霊夢が女子の双子を生む。

 そして、私は幾度の出会いと別れを繰り返した。
 刻が流れていく――――。



            雲は姿を変えながら 流れた
            色を変えながらも 雲として




二作目です。
博麗のシステムを考えると、「家族」というシステムは異質な感じがして、どうにもアレです。
違和感が拭えないというかなんとも…。
紫らしくないのは、それだけ「古い」という事を表現したかったのですが、
紫は昔でも紫かもしれませんね。
三作目・完結は今の自分の技量・環境では時間が掛かるかと思いますが、
自分に出来るだけがんばりますので、見捨てないでやってください(ぺこり。

と、建前は左へ。
霊夢は割りとツンデレな気がするのは私だけ?
私にだって萌えたいときはある…(byK)

編集1:間違って一つ前のを挙げていました(汗。
    修正しているのは結婚式の季節などです。
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コメント



0.1240簡易評価
8.70名前もない削除
ツンデレも捨てがたい
19.60名乗らない削除
うむ
22.無評価削除
コメントありがとうございます(ぺこり。
この話は書きたい小話等が大量に隠されているのですが、
三連作で、焦点がブレるかなと思い削り纏めてこの形になりました。
スマートになりすぎましたでしょか?

霊夢はツンツンツンで隠れてデレで、私の中で構築されております(笑。
24.90シゲル削除
良い雰囲気♪
続きが楽しみです♪