Coolier - 新生・東方創想話

雲の行方(1)

2005/10/10 14:50:53
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 現世と幻世の境に二つ 赤白は紫に染まり行く





 古来の書物から記されてきた幻の土地がある。
『幻想郷』―――この世界の一部を切り裂いて作り上げられた、世界の一部にして異界。
そこには僅かばかりの人間と、多くの妖怪が共に暮らしているという。
 
 博麗神社。
 幻想郷を囲む結界―――『博麗大結界』の線上にあるこの神社は、幻想郷と人間界の両方に属している。
しかし人里離れ、大して大きくも無く、後利益も縁も無い為か、多くの人間に存在を忘れ去られて久しく、参拝客などはここ数年見たことが無かった。
今日も清々しいまでに参拝客の姿は無く、その神社の巫女である博麗霊夢は、紅白の色をした、巫女服にしては腋が大きく開いた衣装を着て、縁側で茶を飲んでいた。既に二桁目。

巫女の朝は早い。日が顔を出すのと同じ頃に起床し、冷たい井戸水での沐浴で眠気覚ましの御清めの後、社内の掃除、正午前に境内の掃除も終わらせなければならない。だが、霊夢の場合は正午を過ぎることもある。割と頻繁に。
今日は珍しく正午までに全ての行事が終わり、霊夢は最大の楽しみであるお茶の時間であった。
天気も良く、白い雲の向こうに澄んだ青い空が地平まで伸びていた。

 ふぅ、と茶飲みから口を離して息をこぼす。
 今日は奮発して、買い置きしてある中で一番気に入っているのを煎れてみたのだが、やはり私はこの銘柄が一番好きらしい。理由はあった様な気がするけど、何故か思い出せない。
「あら?」
 お茶請けに手を伸ばしたが、手に当たるはずのお茶請けの感触が無い。当たるのは容器の感触のみ。
 さて、困った。これが最後の茶菓子だったのだが、予想以上に早く無くなってしまったようだ。別に茶菓子が無くてもお茶は飲めるのだが、お茶請けが有るのと無いのとではお茶の楽しみは半減してしまう………っ!如何に素晴らしい茶であっても、お茶請けがあってこそその輝きを増すのである。お茶葉だけで満足する者は、お茶道の入口にすら立っていないのだ。お茶道は闇夜の中を真っ直ぐに進むより困難なのだ!
私は鳥目じゃないわよ!

「どうしようかしら………一応、出し忘れ物が無いか探して見ましょうか」
 霊夢は縁側から立ち上がり、居間の方に歩いて行こうとしたが、良く知った魔力が近づいて来ているのを感じ、白と青の空の向こうに目を向けると黒い点が見えた。
 徐々に大きくなってくるその黒点は、点から人型になり、霊夢の良く知った少女の姿となった。
「霊夢、遊びに来たぜ―――!お茶の用意は良いか――――っ!」
 白黒の魔法使い―――霧雨魔理沙が、いつも道理の黒の服の上にエプロンの様な物を着け、頭にはとんがり帽子を被り、箒に跨って高速で飛んで来ていた。
 あと少しで音速超えそうね。良くあの大きなとんがり帽子は飛んでいかないわね、と霊夢はぼんやりと考えた。
 魔理沙は減速することも無く、そのままの猛スピードで境内に入ってくる。
「霧雨魔理沙、着陸するぜー!!」
 声と同時に両足を地面につけると、凄まじいまでの砂誇りが宙に舞上がった。
「ちょ、ちょっと!掃除したばかりなのに止めてよ!」
大した広くも無い境内だが、一人で掃除をするのは一苦労なのだ。それが目の前で再び、いやそれ以上に汚されている。もう、砂埃で前が見えない。
「駄目でしたぁあぁぁぁ―――!」
「きゃぁあぁぁぁ―――っ!?」
 慣性を殺しきれなかった魔理沙は楽しそうな声で叫び、悲鳴を上げる霊夢を巻き込みながら縁側を超え家の中に転がっていった。

 魔理沙が目を覚ますと目の前は暗闇だった。
「うお、暗いぜ何も見えないぜ、ここは死後の世界か?」
 もごもごと動く、そこは狭く、ぷにっ、とした何か柔らかい物が自分の左右に有る様だ。
「なんだ、こりゃ?」
 指で押してみる。ぷに。うむ、柔らかいぜ。
「……んぁ」
 ―――何か声が聞えた気がする。しかし、まだ確証が持てない。舐めてみよう。
 ぺろり。
「……ひあ」
 ―――うむ。次はダブルで行ってみるぜ。
 ぷに――ん――ぺろり―――ちょ――ぷに―――とっ――ぺろ――や、やめ、あ――ぷにぷに――ひゃ――ぺろぺろ――い――ぷにぷに!――い、いいか――ぺろぺろぺ
「いい加減にしなさい!」
 ぐわし――――――――っという擬音と共に魔理沙の内股に激痛が走った。
「イテェ―――――――――――――――――――――ッ!」
 霊夢のアイアンクローが魔理沙の内腿を抉り取ったのだ。姿は推して知るべし大車輪。

 境内には、やや内股気味になって掃除をする魔理沙の姿あった。
「霊夢、もう許してくれよ~悪気があってやったわけじゃないんだぜー」
 どうやら、罰として汚した境内の掃除をやらされているらしい。
 手に持っている箒は、自分の物ではなく霊夢に借りた物だ。魔理沙曰く、魔女の箒は掃くと傷みやすく、飛行に支障が出るからだそうだ。
「第一、 霊夢だって同じ様な状況だったじゃないかー私のスカートの中に」
「うっさいわね!元はといえばアンタの性でしょうが!!」
「悪かったって、そんなムキになるなよ。カルシウムが足りてないぜ」
「ふん。あ、ほら。そっち汚れてるから掃いて」
「ちぇ、わかりましたよー」
 魔理沙は、渋々と霊夢の顎で示した方に向かい、箒で掃いていく。
 サッ、サッ、サッと小気味良い音がしばらく続き、霊夢はすっかり冷めていたお茶を淹れ直し、縁側で魔理沙を監視しながら新しいお茶葉の味を楽しんでいた。
 霊夢が二杯目を淹れようとした時、「………なぁ、霊夢質問があるんだが」と、魔理沙が箒を動かしたまま、何故か頬を赤らめ呟くように言った。
「何よ」
「いや………あのさ」
「魔理沙らしくないわね。はっきり言いなさいよ」
 魔理沙は帽子のツバを指で摘まんで、霊夢から自分の顔を隠すようにして言った。
「………霊夢は何時から露出癖が付いたんだ?」
 ぶ――――――――――――――っ!!
 吹いた。4メートルぐらい。跡には綺麗な七色の虹が出ていた。
「ひ、昼間から変な事言わないでよ!私に露出癖なんて無いわよ!というか折角淹れた新しいお茶が勿体無いじゃない!!」
「え、だって霊夢、さっき穿いてな」
「夢想封印!!!」
 ―――第69回博麗神社弾幕戦争勃発(一方的)―――

「ううっ、なんだっていうんだ………?」
 魔理沙の服は所々破け、更に余波で境内は見るも無残な姿になっていた。
「そういう服なのよ!和服ってやつは!」
「そうなのか?そりゃまた―――破廉恥な風習だな」
「二重けっ」
「わー!まった、まった!もう言わんから許してくれ!」
 手を降参とばかりに挙げて、掌を左右に振る。
「………解ればいいのよ」
 霊夢は少し赤く染まった顔で、そっぽを向いて言った。

「そういや、なんで此処には霊夢しかいないんだ?」
 掃除しながらしていた他愛も無い会話が切れた所で、何の脈略も無く魔理沙が言った。
前々から気にはなっていたのだ。博麗神社で霊夢以外の人間に有ったことは無いな、と。人間外には良く頻繁に会うのだが。妖怪とか精霊とか吸血鬼とか。あー、一応メイドは人間に入るのだろうか。まぁ、良いか。
「また、突然何よ?」
「いや、普通人間が居るって事はそいつを生んだ両親がいるだろう。長生きしてりゃ祖母さんも。それなのになんで此処には霊夢の家族がいないんだ?」
 霊夢は首を傾げて、しばらく考えた。
「そういえば、そうね………考えたこと無かったわ」
「考えたことが無いって辺りが霊夢らしいといえばらしいけどな」
 魔理沙は、可笑しそうに笑って箒を動かし続ける。
「気付いたら巫女で、此処で生きるための知識もあった………別に困ってないから気にしなくて良いんじゃない?現に今こうして一人でやって行けてるし」
「毎年毎月毎日毎時毎分毎秒貧乏してるけどなー」
「………素敵な賽銭箱はあっちにあるわよ」
「残念ながらお茶を飲みに来ただけの、今の私には持ち合わせは無い。今度な、今度。」
 魔理沙は霊夢に背を向けながら、まだ掃いていない所に向かい遠ざかっていく。後ろからは、霊夢の舌打ちが聞えてきた。

 境内の掃除を済ませた魔理沙は縁側に座り、後ろの床に身を投げるように倒れて寝転がった。帽子は胸の上に乗せている。
「あー、疲れたぜ。人が来ないくせに無駄に広すぎるんだよな」
 霊夢は「一言多いわよ」と返してお茶を啜る。
 魔理沙は寝転がったまま横を見ると、いつもお茶請けが山のように入っている器に何も入っていない事に気付いた。
「霊夢がお茶請けも無しに、お茶を飲んでるのも珍しいな」
 霊夢はその言葉を聞いて、何か良い考えが思い付いたとばかりに手を叩き、怪しい笑みを浮かべた。その顔には、丁度良いのが居るじゃない、という考えがはっきりくっきりと現れていた。チルノが見たら、恐怖の涙を流して許しを請うかのような笑みと共に。実際にあった悲しき凍り抱き枕夏物語である。
 その笑みを浮かべたまま魔理沙に向けて言う言葉は、案の定、
「お茶請けを持ってきてくれたら許してあげるし、お茶も飲ませてあげる」
「なんだ、その後で加えたようなやつは」
「良いでしょ?いつも無料でお茶して行くんだから偶には。それに、家の中の掃除もまだ残てるのよねー」
 まぁ、お茶は大体何時も出涸らしなのだが。貧乏が憎い。
「………茶菓子を持って来ればいいのか?」
「そうよ、わかったらさっさと行く!」
「わかったよ、行けば良いんだろ行けば。ったく面倒臭いぜー」

 魔理沙は、如何にも渋々な感じで身を起こし、縁側に立て掛けて置いた箒に跨って少し宙に浮く。爪先だけが地面に付いたままの状態だ。
「それじゃ、行ってくるぜ。直ぐに戻るからお茶でも飲んで待っているがいいさ」
「はいはい。行ってらっしゃーい」
 その言葉を聞くや否や、魔理沙は空高くに飛び上がり、青に吸い込まれる様に飛んでいった。

 魔理沙にはお茶でも飲んでいろと言われた霊夢だったが、どうせ飲むならお茶受けが有った方が良く、貴重なお茶の消費を抑えるために、魔理沙が帰ってくるまでお茶を飲まずに待つ事にした。その間に、家の中の掃除を終わらせようと始めたのだが、それも既に終わってしまい、今では縁側に座って程よい感じになった陽気に当たりながら、傾き始めた太陽に目を細め、魔理沙の飛んでいった方角を見上げていた。
「………遅いわね。何が直ぐに戻るよ、もう一刻も経てるじゃない」
「そうねー、遅いわねー何処で道草食わされちゃってるのかしら」
 背後からの突然の返答に霊夢は驚いたが、顔には出さない。表情に出すとコイツには後々、それをネタにからかわれるのを良く知っているからだ。
「いきなり出てこないでくれないかしら、スキマ妖怪」
「あらあら気付くのが遅いわよ、霊夢ちゃん。修行不足じゃない?」
 家の中に出来た日陰から現れた女性―――八雲紫は、西洋服と東洋服を組み合わせた衣装(和洋折衷というよりは個別として存在する感じを受ける)を身に着け、何故か室内でも日傘を差していた。
「アンタのスキマの向こうなんて私の管轄外よ。そこまで監視する義務は無いわ。第一に何しに来たのよ、アンタは」
「もちろん、お茶を飲みによ?それ以外に何か有るかしら?」
「………まぁ、良いけど。勝手に飲んでなさいよ。茶菓子は無いけどね」
「そうさせてもらうわねー」
 そう言うと、紫はいそいそと自分で持ってきたらしい茶飲にお茶を入れ始めた。予想外に、その動作が妙に様になっているので感心したが表には出さない。

 霊夢は新しくお湯を入れた急須を傾け、お茶を淹れていた―――――魔理沙(お茶請け)が帰って来るまで、お茶は飲まないで待っていようとしていたのだが、最終的には飲んでしまった。
霊夢は心の中で、相手が飲んでるのに飲まないのって損してる気分じゃない。どうせ飲まれるなら私も飲むわよ、っていうか目の前で飲まれて我慢が出来る訳が無いじゃない。等と言い訳をしながらお茶を啜っていた。なんだかんだ飲み直して既に二桁目。

 二人は何の会話も無くお茶を啜る。二人の他に人影も無ければ、異音を発するお茶請けすら無い為に、二人のお茶を啜る音だけが聞えていた。
 霊夢は、いつもだったら自分から話題を振って構って来る紫が、今日は何も話して来ない事に不審を抱いたのだがしかし、日が傾いて丁度いい感じになった外からの陽気と体の内から来るお茶の温かさで何か不覚にも………、
「なんだか、ポカポカして眠くなってくるわね。魔理沙のお陰で普段の倍以上に疲れちゃった性も有るけど」
 だからといって、居間の方に戻って布団を敷くのも面倒だしなー、等と呟いてみる。
「それなら、私の膝をお使いなさいな。どうせなら陽気と風通しの良い所がいいでしょう?」
 紫が自分の膝を、ぽんぽんと優しく叩きながら霊夢に言う。
「それはそうだけど………」
 コイツがこんな気前が良い時は何かあるのだけれど、まぁ、何かして来たら後で仕返ししてやれば良いんだし、と霊夢は眠気お花開花気味の頭で楽天的に考えた。
「まぁ、確かにあんたの膝は気持ちよさそうよねー。私、貰えるものは貰う主義なのよ?」
「挙げるとは言ってないわよ………?」
 霊夢は、呆れ顔の紫の言葉など耳に入らないかの様に、縁側にぶら下げていた脚を床に横たえて体勢を変えると、紫の膝の上に頭を乗せた。
「ん。それじゃ、使わしてもらうけど変な事したら只じゃすまないわよ」
「やだわー、人を疑うだなんて。猜疑心に満ち溢れた巫女ね。略して詐欺巫女」
「あんたは人じゃないでしょうが。それに、略が全くの別物になってるわよ!」
「否定はしないのね」
 霊夢は半目で、思いのほか自分の顔の近くに映る紫を睨む。何だか今日は叫んでばかりいる様な事に気付いて、余計にどっと疲れた。
「………もう寝るわ。これ以上あんたと話をしていると頭が痛くなりそうだし…………おやすみ、紫」
「―――おやすみなさい。霊夢」


 女性は己の膝の上で寝息を立て始めた少女の顔を暫く只、見つめている。
その眼差しは、今の少女を見ながらも別の何かを見ているように感じられた。
 すっ、と少女の黒髪に肌色が挿す。その指は上から下へを繰り返し、少女の髪を梳く。
「ねぇ、霊夢。貴方は覚えているかしら。貴方は私の膝の上でお昼寝をするのが好きで、一度眠ると長い事起きないから、私の方が足が痺れてしまって、起きた貴方にいつも言われるの―――だらしがないわね、ゆかりは―――って。ふふっ、涎の跡を付けた顔で言われてもねぇ………」
 女性は少女の髪を手櫛で梳き続ける。微笑を浮かべながら、撫でるように髪を梳く。
一際強い風が吹いた。
 その時、草木を撫でる風に詩が流れた。それは母親が、愛しい自分の子供に聞かせる子守唄―――空に昇った風詩は青に解けていく。
陽は、傾斜を増していく。



               夕焼け色の 夢を見る
               白が 赤に染まり征く













初めまして。
いつも楽しく読ませて頂いています。
この二人の関係は考えれば考えるほど創作意欲が刺激される。
私の拙い文章で一つの形が成せれば幸いです。

と、建前は右へ。
霊夢は下着を着けない。これが私の正義!!(ぇ。
簡易評価

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コメント



0.1290簡易評価
11.100名前が無い程度の能力削除
呼んでて気持ちが良いです。
続きが気になります。
17.80はむすた削除
駄目でしたぁの台詞が物凄く魔理沙らしくて笑えました。
終り方もとても綺麗で素晴らしい。
続き楽しみにしてますー。
20.無評価削除
感想ありがとうございます(ぺこり。
本当に拙い文章ですが、皆様の暇潰しにでもなればと(笑。

魔理沙は良く動きますね。勝手に動き回るというか、人格構築が楽というか。
次の二章は気分が良いかはわかりませんが(しかも短いです)、最後まで読んで頂ければ幸いです。
続編もよろしくおねがいいたします(ぺこり。
21.90名前もない削除
はいてないことはすばらしい。