Coolier - 新生・東方創想話

ふしぎなフランちゃん 第一話?

2005/10/09 09:59:29
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「パチュリーパチュリー、例のものはできた?」

 フランドールは一人では滅多に足を運ぶことのない図書館にやってきていた。鼻歌交じりにパチュリーへと近づいていく様子から、かなり楽しげであることが見て取れる。それは、彼女はパチュリーにある品物を頼んでおり、今日がその納品の日だからであった。
 定位置のデスクに座っていたパチュリーは、やってきたフランに机の上を見るように促す。その表情は相変わらず血色が悪いが、今日は普段余り見せることのない妙にご機嫌な笑顔を見せる

「えぇ妹様。バッチリと用意できていますよ。ほら、この瓶に」

 病的に青白い指を指さした先には、20cmほどの高さがある大瓶だった。蜂蜜やジャムを詰め込むのに使われそうな大容量の内部には、美しい光沢を放つ原色の赤と青の球体がぎっちりと敷き詰められていた。

「――リトル相手に10数回臨床試験をして、完璧に効果を安定させてかつ量産体制も整えました。これはその記念すべき完成品初期ロットです。魔理沙や森近さんあたりが喜びそうね」

 パチュリーが意気揚々と解説している間、図書館の隅でリトルはさめざめと泣きながら司書の仕事に従事していた。パチュリーほどの魔法使いがかなりの試行錯誤を重ねたあたり、彼女は相当なトラウマ体験を身にも心にも刻みつけられたことだろう。しかし、可哀想なことにその苦労を労ってくれる存在は少なくともこの図書館には存在しない。

「へぇー、なんだかよくわかんないけど、いいものなんだね」

 とりあえず感心した風な声を上げたところで、はやる気持ちを抑えきれないようにフランドールは瓶を抱え上げた。瓶は大きく重量もそれなりであるため、小柄な彼女にとっては抱え上げるというにふさわしい対比である。
 さて、フランドールがパチュリーに頼んだ物とは一体なんなのだろうか。その答えはすぐに明かされた。

「よーっし。これがあれば、いつでもどこでも私は素敵なレディになれるのよね?」
「ええ。その青いキャンディを口に含めば妹様の体は10歳分成長し、逆に赤いキャンディを口に含めば10歳分若返るのです」

 そう、パチュリーが制作したのは、なんと外見年齢を一定の範囲で変化させることが出来る魔法のキャンディなのである。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ことの始まりは、フランドールが気まぐれにメイド長の咲夜と入浴したことがきっかけだった。普段はさっぱりしているわりに、他人と一緒に風呂にはいるのを恥ずかしがるという彼女を、フランドールは適度にからかって楽しむつもりだった。
 しかし、いざお互いに裸身をさらけ出したところで、フランドールは咲夜をからかうどころでは無くなってしまう。
 年齢は不詳だが既に女性としては成熟しきり、ごく一部を除いて抜群のプロポーションを誇る咲夜の肢体は、500年近く推定肉体年齢10歳未満のままで過ごしたフランドールにはあまりにもまぶしすぎた。紅魔館の就労者全員が羨む咲夜のナイスバディは精神的に幼く背伸びしがちなフランドールにとっても当然のように羨望の対象となったのだった。

『咲夜はあんなに背が高くて綺麗で引き締まってるのに、私はなんでこんなまな板のずんどーなの――』

 それから数日、咲夜の素晴らしい体躯の衝撃が頭から離れず、フランドールは何をやっても上の空となっていた。魔理沙がきてもうれしがる様子もなく、突発的な弾幕ごっこも行わず、食事中はため息ばかりつく姿は、周囲にすぐ異常と知れた。しかし今までにない変動のため、周囲の対応は癇癪で暴れ回るときより戸惑っていた。
 レミリアは「思春期かしら」と間違ってはいないが存外に日和った推測を決め込み、時間が解決してくれるものとして別段特別なことをしなかった。
 原因である咲夜は仕事の空き時間を利用してご機嫌取りに奔走したが、芳しい成果は上がらなかった。原因が原因であることを自覚していないから効果がないのは当たり前だが。
 そこで重い腰を上げたのが、上の二人よりやや日常の接点が少ないパチュリーだった。実はフランドールが意気消沈するようになったのが、咲夜とフランドールが一緒に入浴した日から始まっていたということを、風呂上がりの咲夜とフランドールの姿を偶然見かけたことから彼女は察知していたのだった。さりげない会話から見事問題の本質を言い当て、パチュリーにしては珍しく真摯にかつ親身になって彼女の相談に乗った。
 
『このDrパチェに不可能なことはあんまりないのですよ』

 ――端から見れば親切心というもので片づけられるような動機ではないということは、一目瞭然であったが。

 そんなこんなでヴワル魔法図書館は一週間の間、完全隔離された化学製造プラントと化し、リトルを初めとした紅魔館の内勤従事者が次々と拉致監禁され被験体として地獄を見ることとなる。用意周到なことに、図書館に泊まり込んでいるリトル以外の被験体には一定の実験を行った後は巧妙に記憶を消す処置を施して解放されたため、表面上は不審な失踪事件の類は浮かび上がっては来なかったのである。実はその忘却処置も実験の一環であったということは、パチュリー以外知るものはいない。
 とまれ、数多の犠牲者の悪夢を闇に葬り去りながら研究はその成果を実らせ、フランドールの希望を叶えるスーパー妙薬『パチュパチュパB&S』は完成したのであった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「…………という話だったのさ」
「誰に話しかけてるのパチュリー。――ところで、薬が出来たのはいいんだけど、そのダサイ名前はなんとかなんないかなぁ」

 なにやら虚空へぶつぶつと独り言を呟くパチュリーに、フランドールは呆れ顔だ。
 しかしパチュリーは神妙なジト目を変えず

「何をおっしゃいます妹様。古来より物は名付けられることで言霊の力を得るもの。ことこのような魔法に由来する物はそれだけ言霊の影響を無視することはできないのであり、すなわち私の名前はパチュリーなのです」

「――言っている意味がよくわかんないけど、まぁいいや。パチュリーだけの問題だしー」

 心底理解できない訴えなぞフランドールにはどうでもよかった。

「実はそうでもないのですが、まぁいいでしょう。さて閑話休題、早速お試しになっては如何ですか?」
「うん、そだね。青いキャンディを食べればいいのね」

 と、気が付けば瓶の蓋をこじ開けて、中から青いキャンディを一つつまみ上げていた。

「ええ。一見普通のあめ玉ですが、口に含めばすぐ表面が溶けて、中身の魔法薬が体に吸収されます。ちなみにご要望通り味はそれぞれブルーハワイソーダとクランベリーにしてますからご安心を」
「わーい。それじゃ、いただきまーす」

 ヒョイッ、とキャンディを宙に放り投げ、パクッと小さな口でキャッチする。
 パチュリーの説明通り口に含んで軽く転がしただけで、キャンディは一瞬のうちに液状になり、フランドールの喉を通りすぎていった。
 そして、変化もすぐに訪れた。

「う、うわ、うわぁあ!?」

 フランドールの体のシルエットを淡い光が包み込んだかとおもうと、その輝きはどんどんと拡大していく。それに伴って、彼女の体もまた風船のように巨大化する。
 数秒で、フランドールの体を包んだ輝きは霧散した。
 そこにあったのは、身長160cmオーバーに上から推定80↑55↓82↑は堅かろう、すらりとした手足に理想的な成人女性のボディラインを獲得したフランドール・スカーレットver19?歳の姿だった。

「ううむ……まさかここまで劇的に変化するとは」
「――うわぁー! すごいすごい! 景色かなんか違うよー!」
 
 想像以上の変貌ぶりに少なからず驚きを隠せないパチュリーに対して、当事者のフランドールは本来とは全く異なる視点の世界に大はしゃぎである。同じ図書館でも、数十センチ視点が変化するだけで彼女にとってはとても新鮮な光景のようだ。

「わはーい! いつもだったら飛ばないと届かないところまで手が届くし、歩くのもとても早いよ! 素敵!」

 体格が完全に変わったことでバランスを崩して転倒してもおかしくはないのだが、フランドールはそのようなことはまるで問題にしていないように、狭い図書館の廊下をせわしなく駆けめぐっていく。その途中で司書のリトルをはねとばしたが、彼女は気づいていない。
 ひとしきりはしゃぎ回ったところで、フランドールは再びパチュリーのところに戻ってきた。

「ご満足いただけましたか?」
「うん! 大人のレディってこんなに素敵なものだったのね! 咲夜はずるいなぁ、いつもこんな世界が見えているなんて」
「本当の淑女というものはむやみやたらにかけずり回ったりしないものですけどね。――ところで妹様」
「なーに?」

 ふと、パチュリーが自分の顔ではなく体の下側の部分をまじまじと眺めていることにフランドールは気づいた。

「お召し物が窮屈になっていることにはお気づきになられませんでしたか? 先ほどの付け足しですが、本物のレディは下着を露出してうろついたりはしませんよ」
「あ……あーっ!」

 パチュパチュパB&Sはあくまでも『体の外見年齢を変化させる』薬である。それに付随する衣服や装飾品にまで魔法の効果は及ばないため、当然使えばそれまで身につけていたものはサイズが合わなくなってしまう。
 そんなわけで、今のフランドールはそれまでの洋服は見事なまでにパッツンパッツンに腫れ上がっていた。上着はかろうじて胸部を覆い隠しているが、スカートはウェストの一番細い部分にまで押し上げられ、まるで上着の裾のフリルになってしまったかのようだった。
 この上ショーツに至っては――ああ、なんということだろう、ラブリーなくまさんプリントは裂けんばかりに引き延ばされ、大切な領域を隠すための布地はほんのちょっとでもずれてしまえば視覚的検閲は免れないほどぎりぎりの領域に追いやられていた。さらに後ろの方はその引き締まった美しいヒップを包むという使命を完全放棄し、禁忌のクレバスにその身を捻れんばかりに食い込ませている。おかげでむっちりとした尻肉は見事なまでに露わとなった。まさにどっちが見えてもヴァンダボー。

「ど、どうしようパチュリー。こんなんじゃお外でれないよぉ」
「仕方ありませんね――リトル」

 赤面するフランドールを尻目に、呼び鈴を鳴らしてパチュリーはリトルを呼びつける。ひき逃げされたダメージを耐えながらもすぐさま駆けつけたリトルは、一体ナニをされるのか戦々恐々といった雰囲気であった。

「な、何のご用でしょうか」
「妹様、ズボンとミニスカート、どちらがお好みですか?」

 呼びつけたのにもかかわらず、パチュリーはそのような質問をフランドールの方へ向けた。
「へ?」
「?? うーん……レディの脚線美を見せるなら敢えてズボンってのもいいわよねぇ」
「ということでリトル、今すぐ貴方のタキシードと上下の下着をひと揃い妹様に譲りなさい」
「え……ええ!? わ、私の、ですか!」
「見た感じ貴方の背格好と体格は、今の妹様に近いわ。私のじゃ服はともかく下着は無理だから」
「う、うう、分かりました……(ただでさえ魔理沙さんの迎撃とか後かたづけとかで消耗が多いのに、また一着なくなったら、パジャマで仕事したりしなくちゃならない……でも逆らう事なんてできないし……うう)」

 体の痛みと心労が、彼女の涙腺に癒しを求めた。今や彼女の苦難を慰めてくれるのは、その熱いしずく以外にはないようだった。合掌。
 リトルは空中に魔法陣を描いて、自分の部屋から要望通りタキシードと下着のひと揃いを引っ張り出してきた。
 赤面が解除されないフランドールはすぐさまそれをひったくって、本棚の影に潜り込んで素早く着替えを行う。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ――――少女着替中――――

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 ほどなくして、物陰からフランドールが姿を現した。

「どう? どう? 似合うかな」
「「――本当に妹様ですか?」」
 
 思わずパチュリーとリトルの声がハモる。それくらい、目の前の人物は二人にとって目新しい姿であった。
 フランドールは意外なほど見事にリトルのタキシードをきっちりと着こなしていた。襟元まで隙のない黒い制服は、大人化したフランドールのモデル体型の魅力を余すところなく誇示している。その上サイズの合わないZUN帽を脱ぎ捨て髪もほどいて髪型が変わったので、だれもか思い浮かべるフランドール像とは何処をとっても微塵の一致も見られない。
 
「人間変われば変わるものねぇ」
「私は吸血鬼なんだけど」
「まぁそれはいいんですが」

 正直数秒見惚れてしまったパチュリーだが、フランドールのどうでもいいツッコミでふと我に返った。

「――さて、薬の効果については満足頂けたと存じますが、注意事項も説明しておかないといけませんね」
 
 喘息ではない咳払い一つしてから、パチュリーはフランドールへと向き直る。

「あー、これいつまで効果あるの?」

 薬という物は当たり前だがその効能が持続している時間は限られている。蓬莱の薬のような服用者の本質を変えてしまうような劇薬はともかくとして、魔法の薬であってもそれは例外ではない。むしろ、普通の薬以上にみょんな副作用に事欠かない魔法薬に関しては、用心しなければならない要素を少しでも無視してしまうと、取り返しのつかないことになるということは少し考えれば分かることだ。

「ではまず効果時間ですが、理論上ほぼ半日効果は薄まらず持続致します。しかし、個人差によって当然その時間には揺らぎがありますし、妹様は吸血鬼ですので普通より時間が短くなる可能性はかなり高いでしょう。よって、最終的な想定として10時間を目安になさってください。それ以上経過すると効果の保証は出来かねます」

「ふむふむ」

「次に肝とも言える重要な注意点。この薬はあくまでも服用者の本来の姿からプラスマイナス10歳分の外見年齢を操作する物であり、例えば今妹様がもう一度青いキャンディを食べてもさらに10歳分外見が変化することにはなりません。これは赤いキャンディの場合でも同様です。一応青いキャンディを食べた後赤いキャンディを食べるか、赤いキャンディを食べた後に青いキャンディを食べればそれぞれ効果がリセットされますが、連続服用は危険なのでお控えくださいね」

「なるほどー」

 体が大人になっても仕草がそれに伴って変化するということはなく、フランドールはひょこひょこと頻繁にうなずきを繰り返していた。美しい外見に子供っぽい仕草がなんとも不思議なアンバランス加減である。
 とまれ、フランドールは注意事項を珍しく真剣に聞き入った。まぁ、己自身が当事者であるならば当然ではあるが。

「とまぁ、以上を念頭に置いておけば、問題はないでしょう。あとは妹様のお好きなように自己責任で」
「ん、それじゃこれから早速遊びにいってくるー」

 しかしやはり内心からこみ上げる高揚感と好奇心といたずら心は抑えられないのか、フランドールは聞くべき事を聞くとそのまま猛スピードで図書館を抜け出していった

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 その後ろ姿をかろうじて見送ったところで、リトルは悩ましげに自分の主へと問いかけた。

「……でもいいんですか? あのまま妹様に薬を持たせて放っておいて」
「分かってないわねぇリトル」

 ニィ。

 何か底知れぬものを感じさせる、唇を片側だけつり上げたパチュリーの笑み。
 それを見た瞬間背筋に走った嫌なモノでリトルは直感する。そう、それはいつもパチュリーがリトル等にロクでもないことをしでかすときと同じ邪悪な表情。

「初めから『ソレ』が目的に決まってるじゃない」

 パチュリーの細い肩が小刻みに揺れ始める。チアノーゼの痙攣を思わせるような、病的に横隔膜を振るわせる笑い方だった

「――さぁ一体どんなことが起こるのかしら。きっと楽しい、きっときっと楽しいことが起こるわよ? うふ、うふふふふふ――」

 どこぞの魔法使いの黒歴史のような含み笑いがフェードアウトしていく。リトルは壊れた茶汲み人形のようにカクカクと体を震わせ続ける主人に背を向け、図書館の奥へ潜っていった。表向きは仕事をするために。実際はこれから起こりうる騒動への未然防護策を練るために。
 
(アザトースさまルシファーさま神綺さま、どうか私にとばっちりが来ませんように――)

 おおよそ御利益皆無そうな神への祈りを捧げながら、リトルは図書館の闇にその身を紛らわせた。

初めて投稿させて頂きます。8月下旬に本格的に東方シリーズを始めて、現在進行形でどっぷりと填り込んでしまいました。
ここの創想話やお絵かき板は毎日目を通していて、日々東方キャラへの愛着を深めまくっております。その果てに、とうとうSS書きとして活動することに決めました。

初投稿でシリーズものということでちと身の程知らずですが、よろしければ生暖かく見守ってやってください。
蝙蝠外套
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コメント



0.3070簡易評価
9.無評価まっぴー削除
邪神と堕天使に祈っても意味が無いんじゃ…

ああでもお約束GJ。問題点は咲夜さんのむn(ボッ
12.100無為削除
>身長160cmオーバーに上から推定80↑55↓82↑
色々放出した。
14.80はむすた削除
ワンダホー!!
17.60おやつ削除
続きカモーン!!
18.70名前が無い程度の能力削除
ん? 神綺さま? ……ああ、そう云えばあの方、魔界の神って肩書きだったっけ(ぉ
続編、楽しみにしていますー
44.無評価蝙蝠外套削除
password忘れて編集できない・・・
色々直したいのにorz
58.90時空や空間を翔る程度の能力削除
ボッ、キュン、ボ~ン!!ですね!!!
63.100れーね削除
いろいろ言いたい事はあるけど、とりあえず

( ´ ω `)  ・ ・
68.80名前が無い程度の能力削除
さすがに悪魔が祈るのは人間にとって不吉な?方々か
いあいあ
70.100名前が無い程度の能力削除
ぼぼぼぼぼぼんっきゅっぼーん!