Coolier - 新生・東方創想話

復讐雀

2005/10/08 17:19:19
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パタパタパタ


小さな翼をはためかせ、夜空に輝く可憐な夜雀。

私の名前はミスティア=ローレライ。
美貌と美声と美味を誇――

間違えた

美貌と美声とび、び、ビブラート? まあそんな感じのものを誇る夜雀だ。
全身全てがチャームポイントです。よろしく。




今日も今日とて夜盲ツアーの真っ最中だ。
人を鳥目にするのはとても楽しい。
「私は神様だ。再び光を取り戻したければ汝の罪を懺悔するがよい」とでも耳元で囁けば、
人はあること無いことを白状してくれる。

そういえば前に面白いこと言ってた人間がいたな。あれ?妖怪だったっけ?う~ん……

私はペラペラとメモ帳をめくる。

このメモ帳は、今のところ歌と命の次に大切なものだ。これを手に入れたのは、え~と、確か……

ペラペラ

そうそう! 文って天狗に貰ったんだった。

一番最初のページには几帳面な文字が並んでいた。私の文字ではない。
文が忘れないようにと書いてくれたのだ。
あー、そうそう。確か……

『もしもしそこの夜雀さん、少しお時間よろしいでしょうか』
『? あなた誰?』
『私は射命丸文。新聞記者をやっています』
『なになに? もしかして私の歌の噂を聞きつけてやって来たの?』
『えっ? ……ああ、そうなんですよ。ですが今回は別件で用がありまして』
『なーんだ』
『どうもすいません。それより、何か面白い事件はありませんでしたか? 実はネタに困っていまして』
『えっと、人間から面白い話を聞いたりすることはあるけど』
『へえ、どんな?』
『……忘れちゃった』
『……あなた、文字は書けますか?』
『え? ちょ、ちょっとだけなら』
『このメモ帳とペンを差し上げます。面白い話を聞いたらここにメモをして、また私と会った時に教えて頂きたいのです』
『どうして私がそんなことを……』
『いいですか。私は鴉天狗、あなたは夜雀。広い視点で見れば私達は仲間と言えるのではないでしょうか』
『仲間……』
『それに、個人的な話をすればあなたとは友達になれそうですし』
『友達……』
『いかがです?』
『うん……やってみる』
『ありがとうございます……そういえば、あなたのお名前は?』
『ミスティア=ローレライ。職業歌姫よ』
『わかりました。しっかりと覚えておきますよ』

こんな感じだった。

それにしても、彼女があれ以来会いに来てくれないのが残念だ。
面白いネタがたくさんあるので、私としては早く教えてあげたい気持ちでいっぱいなのだが。

さっき探してた話は……これだ。

そこには文と比べると(あくまで比べると)少し読みづらい文字でこう書かれていた。

『へんなようかいが「かみさま、わたしをなまえでよばれるようにしてください」といってきた。
しまいにはなきだしたので、ちょっとこまった。でもおもしろかった』

あの後ずっと自分の名前を連呼してたなあ。何て名前だっけ。
そうそう、確か紅美り――


ズガアアアアァァァァァァァァッ!!!!!


何が起こったのかわからなかった。
気がつくと私は物凄い勢いで吹っ飛んでいた。


視界の片隅には箒にまたがった黒い魔法使い。


くそ、意識が飛びそうだ。だが、その姿は絶対に忘れな――

ゴン

頭が木にクリーンヒット。
私の意識は闇に沈んでいった……




ハッ


いつの間にやら私は大木の根元で寝ていた。
頭がガンガンする。

うーん、私は何をしていたんだっけ?

周囲の状況や私自身の状態から脳が瞬時に答えを出した。

そうそう、夜雀仲間と飲んでてそのまま寝ちゃったんだ。通りで頭が痛いわけだ。

記憶系統が正常に働いていることに安心した私は、取りあえず立ち上がってみることにする。
ふらふらー

うーん、本当に頭が痛い。まるでブレイジングスターの直撃を浴びたような気分だ。
ブレイジングスターって何のことだか思い出せないけど。

取り合えず家に帰って寝ようと思ったその時、目の前に何かが落ちているのに気付いた。
これは……写真?



それは、私の頭を箒がナイスショットしているのをナイスショットしたものだった。
箒にまたがっているのは、黒い魔法使い。

その情報を受けて、わたしの脳が正常に働きだした。

私の歌にみんながうっとりの飲み会風景は消え、
私との弾幕勝負に負けそうになった黒い魔法使いが、卑怯な手で私の頭を強襲した光景がはっきりと思い出された。
どんな卑怯な手だったのかはさっぱり思い出せない。まだ記憶に乱れがあるようだ。

あいつは……そう、確かあの時の!

少し前、四組の人妖に立て続けに襲われたことがあった。
その中にあいつがいた筈だ。

私はメモ帳をめくる。



『みことようかいときつね』

これは……確かその内の一組だ。

巫女と妖怪は何もせずに世間話をしていたが、狐だけは恐ろしい勢いで攻撃してきた。
そのどこか追い詰められた様な目が恐くて、とっとと逃げ出した記憶がある。
あれ以来狐は苦手だ。

私は気を取り直してページをめくる。



『あくまとめいど』

ああ、あいつらか。
恐ろしく強い悪魔と、応援しかしていなかったメイド。
あえなく敗れた私を見て「フライにするか」と呟いた悪魔の目は本当に恐かった。
結局そのまま行ってしまったが。

さすがにこんな魅力的な妖怪を食べる輩はいないだろう。
あれはあの悪魔なりの脅し文句だったというわけだ。

私はそんなことを考えながら、次のページを見た。



『くわれた』

……くわれ『た』?

不意に頭痛がする。
いけない。この記憶はアンタッチャブルだ。
思い出したら発狂してしまう。

私は急いでページをめくった。



『くろいのとにんぎょうつかい』

これだ!

そう、確か妙な人形を使う奴と一緒だった。

私はゆっくりと記憶を蘇らせる。

『くっ、敵の姿がまったく見えないぜ』
『あら、あなたはボスの位置表示も見えないの?』
『何だよそれ』
『わからないのならいいわ。私に任せて引っ込んでいなさい』
『冗談じゃない。私が仕留めるぜ』
『私がやるって言ってるでしょ?』
『スターダストミサイル!』
『あっ!……まったく。上海、スペクトルミステリーよ!』
『邪魔するなよ』
『そっちこそ!』
『スターダスト!』
『スペクトル!』
『ミサイル!』
『ミステリー!』

奴らはぎゃあぎゃあ文句を言い合いながら、交互に攻撃してきた。

果たして本人達は気付いていただろうか。
それが最高のコンビネーションであったことを。

私は速攻で倒された。



思い出せば思い出すほど、こいつら全員に復讐しないと気がすまない。
しかし冷静になるんだ、ミスティア。
こいつら全員相手にしたら、最悪の場合養殖された後に食われる。

まずは一組、まずは一人だ。
当然あの黒い奴を狙う。だが……

どこに住んでるんだろう?

すると、突然目の前にひらひらと紙が舞い降りてきた。

「……地図?」

どうやらこの付近の地図らしい。
ご丁寧に『現在地』や『魔理沙の家』や『アリスの家』等とマーキングされていた。

空を見上げる。
そこには暗い闇が広がっているだけだった。

さっきの写真といい、どうやら私の復讐に協力してくれる奴がいるようだ。
気にはなったが、今の私にとってはこの上なくありがたい存在であった。




やってきたのはアリスの家。
先に行った魔理沙の家は残念ながら留守だった。

魔理沙の家も立派だったが、この家も立派だ。
ていうか少女一人が住むには立派すぎる。
なんなんだ、こいつらは。錬金術でもマスターしたのか?

私は窓に近寄り、中の様子を伺う。
そこには一人の少女が、ぶつぶつ何か言いながら人形をつくっていた。


「魔理沙の奴、一緒に薬草摘む約束してたのに……。
何よ、急に『面白い術式を思いついた』って。そんなのより、私との約束の方が大事でしょ?
あ、私との約束っていうか、薬草の方がほら、術式なんかより貴重だよねってことを言いたいのよ」

そこでハッと頭を上げる。

「もしかして、あの紫魔女のところに……。
確かに、あそこは魔導書が豊富だけど、私との約束を破ってまで……」

それっきり少女は何か考え込むかのように動かなくなってしまった。


…………

何というか、関わりたくない。

家中に並べられている人形達も、心なしか心配そうな顔をしている。
それはそうだ。同居人がこんな状態なら人形だって心配する。

しかし、どうしたものか。
相手が一人なのはチャンスだ。だが、万が一負けた場合、とんでもないことになりそうな気がする。


私が考え込んでいると、再び目の前に何かが舞い降りてきた。
今度は間髪入れずに空を見上げる。

カァー

もう夜も深いというのにカラスが飛んでいた。……こいつが?
恐らくあのカラスは使い魔だろう。カラスが使い魔の奴……確かどこかにいたような……

うーん、思い出せない。悔しいなあ。
まあいい。協力者なのは間違いないんだ。

私は協力者の正体についての思考を打ち切り、空から舞い降りてきた紙っぽいものを拾った。


それは、魔理沙と紫の髪をした顔色の悪い少女のツーショット写真だった。


……なるほど。これをくれた協力者の意図は察した。
そう、これ一枚さえあれば、私の復讐を完遂させることができるのだ!




コンコン

私は控えめにドアをノックした。

「魔理沙っ!?」

違います、と言う暇も無く、玄関のドアは開けられた。

「……あなた、誰?」

こいつ、覚えていないのか? まあいい、それはそれで好都合だ。
私は柔らかな笑顔を浮かべて答える。

「初めまして。私の名前はミスティア=ローレライ。
実はこれの件でね」
私は襟元から例の写真を出した。

「写真?…………ッ!!!!!」

アリスは大きく目を見開く。
つかみは上々だ。

「以前貴方とこの黒い子が仲良くしてるとこ見てたから、
これはちょぉ~っとおかしいなと思って」

アリスは小刻みに震えている。

「私としては、詳しいことをお話したいんだけど?」
「……あがって」

そう言ったアリスの目は、黒く濁っていた。



家の中は、外から見た以上に人形だらけだった。
そのどれもが私のことを不審な目で見ている、気がする。

「これはあなたが撮ったの?」
席に着いた瞬間、いきなりの質問だった。

「いいえ、一緒に居た友達が撮ったものよ」
この問答が全てを決める。私は慎重に言葉を選んだ。

「じゃあ、見たのね。この光景を」
「ええ」
「これはやっぱり……今日のこと?」
「そうよ」
「ッ!」

アリスが下唇を噛む。
いいぞいいぞ~。怒るんだアリス~。

「……で、二人は一体何をしていたのかしら?」
「ああ、やはり言わなくてはならないのね」

私は両手で胸を押さえ、嘆くような表情をつくる。

「ここから先は想像を絶する光景のオンパレード!
写真撮ってたら絶対現像屋のNGが出てたわ。
特に黒い方が積極的でねえ。嫌がる紫髪の女の子を攻める様は、もう自分で自分を鳥目にしたかったわね」

舌が回る回る。歌だけでなくこんな才能もあったとは、自分でも驚きだ。

「…………魔理沙」

呪うように、悲しむように、アリスは呟いた。
ふふふ、完全に仕上がったようね。このまま嫉妬に狂って同士討ちしてくれれば…

「おー、呼んだかー?」
突然、ドアの外から声が聞こえた。まさかっ?

「! 魔理沙……」

やはり魔理沙の声だったらしい。しかしこれは好都合。
この場でメロドラマよろしく血みどろ地獄変を演じていればいいさー。

「喜べ、プレゼントを持ってきてやったぞ」
「プレゼント?」

何か、今風向きが変わった感じが……
アリスの表情もいつのまにか柔らかくなって……ええい! あとは詰めるだけなんだ!
ここまで来て諦めてたまるか!

私は偶然を装い、ぺしっと写真をアリスの足元へ飛ばす。

それを見たアリスの表情はまた一変。
いいぞアリス。お前は怒れる大魔神だ。

「……プレゼントってなによ」
「じゃじゃーん!」

景気のいい声を上げて、魔理沙が飛び込んできた。
見ると、あの紫の髪の奴も来ている。

「私は明日でもいいんじゃないって言ったんだけどね」
「そう言うなよパチュリー。お前もこれを早くアリスに見せたかっただろ?」
「まあ、ね」

アリスは呆然と二人のやり取りを見ている。もちろん私もだ。

「ほらアリス、よく出来てるだろ?」
魔理沙の手には三つの人形が乗せられていた。
それぞれ、アリス、魔理沙、パチュリーを模しているらしい。

「これは?」
「まあ見てな。パチュリー、頼む」
「ええ」

パチュリーは静かに息を吸い込む。

「……魂の回廊より流れる赤き命脈よ、彼ら人の形に新たな理を刻みたまえ……」

複雑な魔方陣を空に描きながら、パチュリーが詠唱する。
段々と、淡い不思議な光が人形達を包み込んでいく。

「……終わったわ」
「よし。アリス、ほら持ってみな」
「え? ええ……きゃ!」

何と、アリスの手の上で三体の人形が勝手に動き出していた。

「こ、これは?」
「凄いだろ。お前が欲しがっていた自律する人形だぜ」
「一体、どうやって……」
「繋いだんだよ。私達の心と人形達をな」

魔理沙は拳で自分の胸を軽く叩いた。

「つまりその人形は私達自身ってわけだ。
あ、でも人形から本体への影響はカットしてるからな。
その人形を潰したところで、私は殺せないぜ」
そう言って魔理沙は笑った。

「ここ最近の魔理沙は、いつもこの人形のことばかり考えていたのよ。
今日だっていきなり叩き起こされて、いきなり手伝わされたんだもの」

アリスは驚いた表情で魔理沙を見る。
魔理沙はどこか照れくさそうだ。

「いや、私はただアリスを驚かせたかっただけで……
そういうパチュリーだって熱心に手伝ってくれたじゃないか」
魔理沙にそう言われると、パチュリーは微かな笑みを浮かべ、アリスの方を見た。

「魔法を使う者同士として、以前からあなたと仲良くしたいと思っていたの。
まあ、何にも無しでお願いするのもなんだから、この人形達を手土産にしようと思ってたんだけどね」
「え? その、えと」
「ダメ、かしら?」
「もちろん……いいわよ」

パッと花が咲いた様に三人の少女達が笑った。
見ると、例の人形達も笑っているようだった。

嗚呼、仲良きことは素晴らしき哉

憎しみからは何も生まれない。
しかし仲良くすればこんなにも素晴らしい笑顔が生まれるのだ。

さあ、邪魔者は去ろう。
私は目立たぬよう匍匐前進で裏口を目指し…

「待ちなさい」

待てと言われて待つほど馬鹿ではなかったが、目の前にいる武装した人形達を無視できるほど鈍感でもなかった。

「さっきから気になってたんだが、何なんだあれ?」
「かくかくしかじか、とこういうわけよ」
「なるほど、意味はわからんが、お前が怒っていることはわかったぜ」
「仲良くなった記念にお手伝いするわ」

ちょっと待て。
二対一で瞬殺なら、三対一だと……滅殺?


私は生涯最高の声量で悲鳴を上げた。





「ふう、失敗ですか」
私は木の上で嘆息した。
『黒い魔法使いを巡る血みどろの抗争!』
見出しも出来ていたというのに。

魔理沙を巡るアリスとパチュリーの恋の鞘当ては、天狗仲間どころか他の妖怪または人間にも大好評だった。

最初はネタに困った末の記事だったが、それからというもの購読者数が鰻登り。
今では当『文々。新聞』に欠かせない記事となってしまった。

「ここで大きな山場をつくりたかったんですけどねえ」
肩の上で相棒の鴉がカァと啼く。残念そうだ。

あの夜雀がミスをしたわけではない。こちらの思惑通りよくやってくれたと思う。
ただ、運が悪かったのだ。

まあいい、この手の記事は飽きが早い。いい落としどころだったかもしれない。
ブン屋としての考えを除けば、仲良くやってくれた方がいいと思うし。


「キャーーーーーーーーーーーーー!!!!」


突然、悲鳴が聞こえた。
あの夜雀、逃げ切れなかったのか……

ここはやはり…………助けねばなるまい。

貴重な協力者を守る、マスコミとしては当然のことだ。
それに――

「――友達ですしね」

大切な友達を守る、当然のことだ。


彼女が約束を忘れずにメモをとっていてくれたら助かるなあ


私は微かな期待を胸に抱いて飛び立った。
ミスティアさんの記憶力を補填する為に小道具を。
文さんがひどい人にになっているのが気がかりです。
からとら
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コメント



0.2000簡易評価
1.60回転式ケルビム削除
養殖。と言うことは焼き鳥もフライドチキンも思いのままということですね(非道ェ)。
文がミスティアを利用してますがミスティアも文を覚えてないのでおあいこでしょう。
哀しいかな鳥(頭)の友情、でもいい組み合わせです鳥(頭)の友情。
6.70おやつ削除
文々。(家では文をこう呼ぶ)嫌い……花だと矢鱈強くって……
しかし自機でミスチー使ってる私にはツボなお話でした。
最後の文々。がいい感じでした。
20.60床間たろひ削除
みすちーいと哀れ。
みすちーは、花でのお馬鹿さ加減が非常にツボ。この作品でも鳥頭を
如何なく発揮してくれて嬉しいです。

『くわれた』

頑張れ! みすちー!
36.80名前が無い程度の能力削除
鳥同盟の明日はどっちだッ!?・・・既に一人脱落してそうですが

とにかくみすちー、がんばれ。今回は運が無かったが
1vs1ならきっと・・・多分・・・おそらく・・・もしかしたら・・・
ひょっとすると・・・あるいは・・・1000に3ぐらいは勝てるからさ・・・(遠い目
そして今回も地味~に憐れなる紅さんもがんばれ
50.90名前が無い程度の能力削除
くろまくーはあやややだったのですね