Coolier - 新生・東方創想話

永遠を祈る

2005/10/03 09:44:46
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 永遠亭、午後三時。
 はむはむ。はむはむ。
 至福。正にそんな表情で口をもごもごと動かす少女。鈴仙・優曇華院・イナバ、通称ウドンゲ。特徴的な長い耳が、犬の尻尾のようにリズム良く揺れる。
「んーーっ!」
 言葉にならないうめき声。きゅっと閉じられたまぶたが、彼女の感じる幸せ具合をよく表していた。
 左手に持った容器の中身、それを右手のスプーンですくうとそのまま口元まで持ってくる。ニンジンシャーベット。彼女の大好物だった。
 ぱくり。
 はむはむ。はむはむ。
「んんーーーっ!」
 ぺたん。畳の上、うつ伏せになる。
「んんんーーーーっ!」
 ばたばたと、両手両足を忙しなく動かす。衝動的な行動だった。
 ひとしきりばたばたを繰り返してから、満足したようにむくりと起き上がる。
 ――ああ何て幸せなんでしょう。
 目を瞑って、そんなことを考える。そして再び右手のスプーンを――

「くすくす。ねぇ、ウドンゲさん?」

 背後からかかる突然の声。少女はピクっとその長い耳を反応させた。
「は、はい。な、な、何でしょう、お師匠様」
 ぎぎぎ、と顔だけ後ろにやって応える。その声は心無し震えているようだった。
「おもしろそうなこと、してるのね?」
 師匠と呼ばれた女性、名を八意永琳。ここ永遠亭の実質的な支配者である。
 顔に浮かぶにやにやという笑い顔に、ウドンゲは底知れぬ恐怖を感じた。経験、本能、そのどちらからも来る絶対的かつ決定的な恐怖だった。
 ――逃げましょう。
 思った。だが、既に手遅れだった。
 いつの間に移動したのか、師匠、永琳にしっかりと頭を掴まれていたのだ。片手で鷲掴みにするのは女性としてどうかと思います。思ってはみても、それは現実逃避にすらならない。
 目の前ににっこりと素敵な微笑みを浮かべた永琳の顔。一瞬どきっとしたのは絶対知られないようにしなきゃ。混乱気味の頭で考える。
「偶然にもね、私、こんなものを持っていたのだけれど」
 ころん、畳と転がされる薄い青色の水晶球。どうしてか、ウドンゲはすごく嫌な気持ちになった。
「な、何ですか、これは」
「ん、見てなさい? こうしてちょっと魔力を加えるとやる、と」
『んーーーっ!』
 音声を伴って映し出される映像。瞬間、ウドンゲはぼっと顔を赤く染めた。それは紛れもなく、つい先ほどの彼女の姿だった。
「ちょ、ちょっと、師匠、こ、これって」
 うつ伏せの状態で手足をばたばたとさせる水晶の中のウドンゲ。外から見るとこんなにも幼くてバカっぽく見えるのかと、彼女は更にその顔を赤くする。
「や、やめてくださいよー」
「ふふ、ほーんと、面白いわ」
 心底楽しそうに、にこにこと水晶球を見つめる永琳。
「あーあ。あんまり面白いから、他の誰かにも見せてあげたいわ」
「わわっ! や、やめてくださいよー。私恥ずかしくて死んじゃいますっ」
 もうこれ以上は見てられないと、水晶球に手を伸ばすウドンゲ。だが目の前の球体は、彼女の手から逃れるようにふわりと宙に浮くと、永琳の手元までゆっくりと動いていった。
 唖然とするウドンゲに、永琳はくすりと笑う。これぐらいの細工、天才と称される彼女からすればそう難しいものではない。
「誰に見せようかしら。そう、例えば紅魔館のあいつとか」
「ど、どうしてそこで、さ、咲夜さんが出てくるんですかっ!?」
 ウドンゲが慌てて言う。そんな彼女の様子に、永琳は、ニヤリと唇の端を吊り上げて。
「誰もあのメイドだとは言ってないわよ?」
「あ、あぅ……」
 ――ぼ、墓穴ですぅ。
 ウドンゲは思った。この人には一生かかっても勝てないのでしょうか。
「何年一緒にいると思うの。あなたの好みぐらい、まるっきりお見通しよ」
 続く永琳の言葉。ウドンゲは、一瞬、はっと息を呑む。
 少しだけ、ほんの少しだけ、ドキっとした。
 ――それだけ、師匠は私のことを見てくれているってことでしょうか?
 ふいに、昔のことを思い出す。
 赤い瞳。月の兎の中にあってなお濃い、血の赤。お母さんは綺麗だと言ってくれた。友達は羨ましがった。そして――
「ねぇ、ウドンゲ?」
「は、はいっ」
 かかる声に、中に向いていた意識を引き戻す。
 そんなウドンゲの様子に永琳は少しだけ怪訝そうな顔をしたが、続けて言った。
「今、手元にさっき完成したくす」
「嫌ですっ」
 永琳が全てを発するよりも早く、きっぱりと拒絶の意を表す。
「大丈夫よ。私を信じて」
「この前も師匠は同じことを言っていました」
 思い出すのはつい数日前。
『いい気持ちになれるからちょっとこれ飲んでみて。ちょうどお酒を飲んだ時みたいな感じよ。危なそう? 大丈夫だって。私を信じなさい』
 ウドンゲは、敬愛する師匠の言葉を信じた。飲んだ。以後の記憶が飛んでいた。
 後日、彼女がてゐから聞いた言葉。『裸になってくるくるくるくる回ってたよ。面白かったー』どんな薬ですか。
 断固拒否。そんな態度を見せるウドンゲ。永琳は悲しそうに口を開いた。
「そう……。ウドンゲに断られるなんて、私、すごくショック。ショックのあまり、紅魔館メイド長の部屋辺りにこの水晶球を落として来ちゃ」
「わーっ、わーっ! 分かりましたっ、喜んでお飲みいたしますですっ」
「あら、そう? じっけ……わざわざ私に付き合ってくれるなんて優しいわね、ウドンゲ、ありがとう」
 ――実験!? 私、実験体なのですかっ!?
 心の叫びは、もちろん届くことなく。
「はい、口開けてー」
 言われるがままウドンゲが口を開けると、永琳はどこから取り出したのか、紫色のカプセルをその中に放り込んだ。
 身体に悪そうな色です。思ってみても、きっと結果は変わらない。
「うん、噛まないように飲み込むのよ」
 ごくん。
「多分、すぐ効いてくると思うから」
 ――あれ、そういえば効用を聞くのを忘れてた。一体どういう……
 ドクン。
「え?」
 ドクン、ドクン。
 ドクン、ドクン、ドクン。
「あれ? 何かちょっと変、で……す……」
 だんだんと大きく聞こえてくる心臓とは逆、意識が、どんどんと離れていく。
「うーん。やっぱり、兎は鳥じゃないのかしら」
 何を当たり前のことを聞いているんだ、この人は。
 言葉は届かずに、ウドンゲの意識は途絶えた。



 /



『あなたの綺麗な目、お母さん、すごく好きなの』
 まだ小さい女の子。
 身体をかがめて顔を覗き込みながら、お母さんが言った。お母さんに誉めてもらって、その子はとても嬉しそうだった。


『お前の目、真っ赤だよな。それ、多分かなり強いよ』
 少し大きくなった女の子。
 近所のお兄さんが言う。強いという言葉の意味が、その頃の女の子にはまだよく分からなかった。多分誉めてくれてるんだろうと思って、女の子は小さく笑った。


『いいなあ、あなたの目。私なんて、ほら、橙色に近いもの』
 また少し大きくなった女の子。
 友達の言葉に、女の子は首を横に振って答える。ううん。あなたの目も、すごく綺麗だよ。私は赤よりもそっちの方が好きだな。
 ありがとう。でも、やっぱり赤じゃないと、意味がないのよ。
 赤には何か意味があるのかな。思ったけれど、友達が悲しそうにしてたからそれ以上何も聞かなかった。 


『大丈夫、大丈夫よ』
 また少し大きくなった女の子。
 女の子は気づいた。すごく怒ったり悲しかったりした時、自分の視界がぼんやりと赤く染まっていくこと。
 お母さんに相談すると、お母さんはぎゅっと女の子を抱きしめて、大丈夫、と繰り返した。でも、他人には教えないように、とも。
 うん、分かった。そうするね、お母さん。ありがとう。
 言い終わった後も、お母さんは女の子をぎゅっぎゅっと抱きしめたまま、しばらくの間離そうとしなかった。
 ちょっと不思議に思ったけれど、お母さんに抱きしめてもらうのはすごく嬉しかった。


『アカイアカイアカイアカイアカイ』
 随分と大きくなった女の子。
 目の前の光景が、何なのか分からなかった。
 ドクン。
 抵抗するから殺しちまった。お前もすぐ殺してやる、安心しろ。何かがそんなことを言う。何を言っているのか分からない。
 ドクン、ドクン。
 お母さん。倒れて。血。赤い。立ってる。知らない人。赤い。誰。二人。何で。お母さん。赤い。倒れて。血。赤い。お母さん。赤い。お母さん。赤い。あかい。アカイ。アカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイ。
 目の前が真っ赤になった。何も見えないくらい、真っ赤になった。


『耐性のある同種を相手にしてこれですから、ニンゲンに対してはどれだけの』
 女の子。
 ベッドに寝かされていた。知らない天井だった。
 どこから聞こえてくるのか、知らない誰かの声が聞こえる。よく意味は分からなかった。
 お母さん。思った。思うと、あの光景を思い出した。
 お母さん。夢だと思った。でも夢ではないと、何故か女の子は理解できた。
 お母さん。視界が少しずつ赤色に染まっていく。
 まずいぞ、また暴走する。知らない誰かの声だった。早く眠らせろ。急ぐんだ。
 女の子は、また、気を失った。


『やれ』
 すっかり大きくなった女の子。
 自分の目のことを大人の人から教えられた。昔、お兄さんが言っていた言葉の、友達が言っていた言葉の意味が、やっと分かった。
 目の使い方を覚えた。制御の仕方を覚えた。その度、大人の人たちは誉めてくれた。
 しばらく経つと、普通の人と、耳の無い人がたくさんいるところに連れて行かれた。耳の無い人たち。月に攻め込んで自分たちの旗を立てると、ここは自分たちのものだと好き勝手にやっている悪いやつら。女の子はそう教わっていた。
 やれ。女の子の隣に立つ大人の人が言った。
 練習した通り、目の力を使う。視界が赤く染まっていった。赤くあかくアカク。
 もういいぞ。声に、はっと意識を戻して、女の子は周りを見渡した。
 赤い。あかい。アカイ。アカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイ。
 ああ、あああああっ。恐くなって、女の子は逃げ出した。


『おいで。もう大丈夫だから』
 少しやつれた女の子。
 逃げて逃げて逃げて、その中で、少し変わった話を聞いた。
 地球で生きる月の民がいる。女の子は地球に向かうことを決心した。月にはもう逃げるところがなくなっていた。
 探して探して探して、女の子は幻想郷と呼ばれるところにたどり着いた。ここにはニンゲン以外が住んでいるという噂だった。もしも月の民がいるとしたらこの中だと、女の子はそう考えていた。
 竹林の中を、ふらふらと歩く。自分がどこに向かっているのかも分からなかった。
 ……っ!
 突然、女の子を無数の弾丸が襲った。
 避けようとして、足がもつれた。それでも、必死に避けた。かする、かする、かする。ようやく避け切ったと思ったら、急に足から力が抜けた。
 あら、月の使者さんの割には随分と情けないのね。
 声とともに姿を現したのは、凛とした出で立ちの美しい女性だった。
 月からの使者? 何を言っているのか分からなかった。でも、月という言葉に女の子は反応した。
 月、あなたは、地上で生きるという月の民ですか?
 あたしを、八意永琳を、あなた、知らないっていうの?
 助けてください。もう、逃げるところがないんです。
 知らず、涙が出てきた。やっと見つけられたという一瞬の安堵に、それまで張り詰めていたものが一気に緩んで、奥の方に溜めて込んでいたものが溢れてきた。
 お母さんが赤くて、人がいっぱい赤くて赤くて、赤くて。恐くなって逃げて逃げて逃げて逃げて。助けて。誰も助けてくれない。誰か助けて。お母さん、お母さん――
 小さくうずくまって、幼い子どものように泣き続ける女の子。永琳と名乗る女性は、女の子に近づいて言った。
 大変だったみたいね。
 かけられた声に、長い耳がぴくりと反応する。いつ以来か、とても優しい響きだった。
 おいで。もう大丈夫だから。
 我慢できずに、飛び込んで、抱きついた。



 /



「ウドンゲ、起きなさい、ウドンゲ」
 誰かの呼ぶ声が聞こえた。そこで、ウドンゲは初めて、自分が寝ていることに気づいた。
 ぼんやりとした意識の中。ついさっきまでの夢が、ウドンゲを襲う。
 赤い赤い赤い赤い――
「ウドンゲ、ほら、起きなさい」
 怖いよ。怖い、怖い――
「大丈夫よ。ここは、大丈夫だから」
『大丈夫だから』
 いつかと同じその言葉に、ウドンゲの拡散していた意識が、少しずつ集まってくる。
 この声は、そう、師匠だ。あの日、暖かく抱きしめてくれたあの人だ。ウドンゲは、ゆっくりと目を開けた。
「し、しょう?」
「ええ」
「あれ、私、なんで?」
「……突然倒れたのよ、あなた。心配したわ」
 一瞬言葉に詰まる永琳に、ウドンゲは怪訝そうな顔をする。
 何か大切なことを忘れているような気がした。ウドンゲは思い返す。そう、確か私はニンジンシャーベットを食べていて、それを師匠に見られて、それから――
「って、師匠っ! 私が倒れたの、まるっきり師匠のせいじゃないですかっ!?」
「まぁ、確かに私にも責任はあるかもしれないわね」
 反省の色など見せることなく、しれっと言う永琳。
「あるかもしれない、じゃないですよっ。今回は一体どんな薬だったんですかっ!」
「鳥肉が牛肉に変わる薬」
「なっ」
 絶句。
 そもそもウドンゲは鳥ではない。月の兎だ。確かに大昔の人間は兎のことを鳥だと勘違いしていたと聞いたことがあるけれど、まさか自他ともに認める天才、永琳が同じ勘違いしていたとは。
 それに。ウドンゲは思う。仮に私が鳥だったとして、師匠はその薬を飲ませて何がしたかったのでしょう。
「ほら、牛肉の方が美味しいじゃない?」
 再び、絶句。
 まさかこのお人は、私を食べ――
「どうせ食べられるなら、美味しく食べられた方があなたも嬉しいでしょう? ねえ、ウドンゲ?」
「いやああああああっ」
 艶やかに注がれる視線。恐怖のあまりウドンゲは立ち上がり駆け出そうと――
 ぐりっ。
 ばたん。
「まあ、もちろん冗談よ」
 勢い良くスタートを切ろうとしたところで、永琳に片足を踏まれた。転んだ。
「は、鼻を打ちましたぁ」
 畳に叩きつけられて真っ赤になった鼻を両手でさするウドンゲ。涙目で永琳を見上げながら言う。
「ひ、酷いじゃないですか、師匠」
「あら、暗い夜道で便利そうじゃない」
「私はトナカイですかっ」
「似たようなものよ」
「え、ええっ」
 驚愕の新事実だった。
 私はトナカイだったんですか。うなだれながら思う。
「あっ。ああ、それとね、ウドンゲ」
 いけないいけない忘れていたわ。永琳がニヤリと笑う。その素敵な笑顔に、ウドンゲはすこぶる嫌な気分になった。
「あなたが気を失っている間に、例の水晶球がなくなってしまったの」
「は、はいっ!?」
「何となく、何となくだけどね、紅魔館のメイド長辺りが拾ってそうな気がするの。あなた、今から行って受け取ってきてもらえない?」
「え、ええええっ」
 ――お、鬼です。鬼がここにいます。
 口には決して出さないように、心の中でさめざめと涙する。どんな顔をして会いに行けと言うのですか。
「さあ、いってらっしゃい。今夜は帰らなくてもいいわよ」
「ど、どういう意味ですかっ」
 赤くなって反応するウドンゲ。永琳は楽しそうに続ける。
「何、具体的に聞きたいのかしら?」
「け、けけけ結構ですっ」
 その場から逃げるように、ウドンゲは部屋を飛び出した。
 賑やかだった室内が、一気に静寂を取り戻す。
 残るのは、永琳ただ一人。
「さあ、がんばっていらっしゃい」
 永琳は誰に聞かせるでもなく呟いた。
「あなたは、幸せにならなきゃいけないの」
 優しげな、でもどこか寂しげな笑みが、その頬には浮かんでいた。



 /



「はぅ」
 自室にたどり着くなり、ウドンゲはばったりとうつ伏せに倒れた。
「咲夜さん、かなり笑ってました。は、恥ずかしいです」
 永琳の言葉通り、ウドンゲの痴態がおさめられた水晶球は、紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の手元にあった。
 中の映像は既にばっちり観賞されていた。挙句、可愛かった、なんて言葉を頂いた。
 恥ずかしさに全身が真っ赤に染まった。そんなウドンゲの様子に、咲夜は笑いながら、また、可愛い可愛いと繰り返す。
 あまりに恥ずかしくて、このまま死んでしまうんじゃないかと思うほど身体が熱くなって、水晶球を受け取るなりウドンゲはその場をすぐに立ち去ってしまった。
「……でも、可愛いって言ってもらえました」
 にへらっと頬が緩む。
 恥ずかしかった。最大最強に恥ずかしかったけれど、思い直すと、そう悪いことばかりではなかった。咲夜に可愛いと言われたのは、それが初めてだった。
「もう少しだけ、話をしてきても良かったかもしれません」
 ほんの少し、後悔。もう一度同じ状況になったら、やっぱり同じように逃げ出すのだろうけど。
「もしかして師匠は、最初から全部計算済みだったのでしょうか」
 まさか。思うものの、あの人ならありえそうだ、とも考える。
 だから、もしも。今日のことが彼女の思惑通りだったとしたら。
 ――ちょっとだけ、ありがとうございます。
 ほんのちょっとだけですけどね。心の中で付け加えることを忘れずに。
 うつ伏せの状態から起き上がると、永琳の部屋の方を向いてぺこりと頭を下げる。長い耳が、併せて、垂れた。



 /



 鈴仙には、思い出したくない過去がある。辛い経験がある。
 でも。彼女、ウドンゲは思う。今は私、幸せです。毎日が忙しくて、そして楽しいです。
 今でもたまに昔のことを夢に見ることがある。けれど、目を開ければ、そこには意地悪だけどほんのちょっぴり優しい彼女の師匠がいて、意地悪だけどいざという時には守ってくれる一家の長がいて、意地悪だけどどこか放っておけないてゐがいる。家族がいる。
 ――あぅ、何だか意地悪な人ばかりじゃないですか。
 永遠亭のことを考える時、ウドンゲはいつもちょっとだけ凹んで、でもすぐに立ち直る。
 暖かい家族。ウドンゲはそれが嬉しかった。
 ――何だかんだ言って、結局みんないい人なんです。
 ウドンゲは、知っている。月に帰るという自分を引きとめてくれた、その優しさを。
 ウドンゲは、知っている。辛い過去のある自分に新しい名前をくれた、その優しさを。
 ウドンゲは、知っている。月から逃げてきた自分を抱きしめてくれた、その優しさを。
 だから私、幸せです。
 彼女は思う。ずっと、この幸せが続きますように。

 永遠を、祈るのだ。


 ほとんどの方に、はじめまして。極一部の方、本当にお久しぶりかどうかは別として、お久しぶりです。
 かきです。こんばんは。
 初の東方となります。藤村流さんとかうにかたさんとかに引っ張られて、この世界にずぶずぶと入り込んでしまいました。お二人にはきちんと責任を取ってほしいと思います。
 勢いに任せてがーっと書いてみました。初にして、勝手に作った設定満載です。何て恐ろしいことするのでしょうか、自分。
 書きたいことを全部書ききったわけではないので、同じ設定でまた投稿させていただくことがあるかもしれません。その時はまた読んでいただければ、と思います。もちろん、予定は未定ですが。

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
かき
[email protected]
http://kaki-kaki-kaki.hp.infoseek.co.jp/index.html
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コメント



0.3230簡易評価
24.80ヨシユキ削除
可愛くて少し切ないウドンゲがとても良いです
32.50藤村流削除
壁|∀゚)責任を取りに来ましたよ。

 作品の感想としましては、「はむはむ」でもう狙いに来たなと思ったのですが、意外や意外、過去を振り返るバラード風味でございまして。多少なりとも、心地良く虚を突かれた感があります。
 文面から察するに、まだキャラクターの動かし方(あるいはシリアスな展開)にぎこちなさを感じる面もありますけれど、その初々しさもまた大切にして頂きたいと思います。

 それでは、氏のこれからを祈りつつ。
37.50ななな削除
各キャラのイメージが違うな、と思いつつも
これはこれで(゚∀゚)
39.90名前が無い程度の能力削除
なんだろう。このウドンゲも永琳も致命的に好き。
同じ設定で書かれる可能性有りということなので期待して待たせていただきます。