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東方シリーズss
月夜の出来事。
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ーーある日のこと。
レミリア=スカーレットは、夜空の下を散策していた。
見上げれば、満月。
空には雲もなく、月と星々の輝きだけが無限にひろがっている。
こんなにきれいな夜、外に出なくては月と星に無礼というものだ。
見下ろす風景は、薄い群青を身に纏い。
夜風は、身体を微かに冷やす。
澄んで響くのは、鳥の声か、虫の音か。
夜の世界は、全てのモノに優しい。
ヒトに、妖怪に、動物や植物たちに。
夜を厭うものが、どこにあるだろうか。
そんな、きれいな夜だからこそ。
「こんばんわー。いいお天気ですね」
ふっと現れたこの妖怪の少女に、付き合ってみる気になったのかもしれない。
不思議な雰囲気を持った少女だった。
一見ただの少女のように見えるが、時折見せる表情は柔かで、透明で。
この月夜のようだと、なんとなく思った。
初めは、ぽつぽつと言葉を交わしながら。
いつの間にか、レミリアは饒舌になっていった。
「すこし前までは、昼間に興味は無かったのよ」
昼間は寝ていればいい。事実、そうして来たのだから。
「でも、家に人間がやって来てね。その人間が好きになって」
「食べちゃった?」
「違うわよ・・・僕にしたの」
「僕かぁ・・・屈折してるわねー」
「余計なお世話よ」
脱線しかけた話を、レミリアは咳払いして止めた。
「で、続きだけど・・・」
その人間と過ごすうちに、昼間にも活動したいと思うようになった。
だが、吸血鬼は日にあたると灰になってしまう。
「だから悩んでるの。どうしたものかしらね」
「なやむ必要あるの、それ?」
どうにかするか、あきらめるかの二択でしょ。
あっさりと少女は言い切る。
「簡単に言うわね」
「簡単だもん。違う?」
「・・・違わないわ。けどね」
まあ、その通りではあるのだ。
陽光をどうにかするか、あきらめるか、それだけの話。
陽光をどうにかすることの困難さ。
どうにかしてもーー例えば年中曇りにしたとして、原因をつきとめ、解決にくるであろう連中への対処。
それらを考えた上で、やりたいならやればいい。やりたくないなら、やらなければいい。
「簡単に決められないから、悩んでるんでしょうが」
やりたいことへの熱意と、多い障害を片付ける面倒くささ。
なかなか天秤は傾かない。
「ううん、簡単」
首を横に振って、少女は言った。
「やりたいなら、どんなに大変なことでも絶対やる。
やりたくないなら、なにがあったってやらない」
それが、妖怪の流儀でしょ。
違う?と首を傾ける少女に、レミリアは一瞬呆然として・・・
笑い出した。
「ちょっとー、なにが可笑しいのよー」
「ううん・・・その通りって思っただけ」
やりたいけど、大変そうだから止める?
そんな馬鹿なことを、ずっと考えていた自分が可笑しかった。
やりたいことは、神サマが敵になろうとやってみせる。
レミリア=スカーレットは、そんな素敵で無敵な吸血鬼じゃないか。
「フフ・・・ありがとう。なんだかスッキリしたわ」
「なんだか分かんないけど・・・どうもー」
少女に別れを告げて、レミリアは自分の屋敷に戻る。
ーーさあ、どうやって陽光を防ごうか。
明日からは、きっと忙しくなるだろう。
ーーまた、別の日のこと。
西行寺 幽々子は、満月照らす泉に足を浸していた。
泉の水は、ひんやりと冷たい。
夜風は穏やかに、水面と幽々子を撫でていく。
こんなにきれいな夜は。幽霊だって、外に出たくなるというものだ。
人里に出張る幽霊と、泉で物思いに浸る幽霊。どっちが絵になるだろう。
愚にもつかぬことを、考えてみる。
人に見られてこそ幽霊。だが、こっちのほうが絵にはなる。
見上げれば、月はただ、そこに在り。
風も、土も、木々や草花も静かに佇む。
それは、けして揺らぐことなき存在。
その在りようが、幽々子には羨ましい。
ーー彼女には、悩みごとがあった。だから。
「はわわ・・・お化けがいるー!」
悲鳴があがるまで、少女の存在に気がつかなかったのかもしれない。
そうとう幽霊が苦手らしく、少女はしばらくの間、
「呪わないでー、祟らないでー」
泣き喚いてばかりだった。
妖怪のクセに、どうしてそんなに幽霊を怖がるのか。
呪わないよー、食べないよーと幽々子があやし続けて、ようやく少女は正気にもどった。
「ごめんね・・・どうしても、幽霊って苦手で」
「かなり傷ついたけどー、べつに気にしてないですよー」
「悪意はないのよ、本当だってー」
そんな風にじゃれあいながら。
なんとなく、この妖怪の少女が好きになって。
いつしか、幽々子は自分の悩みを語りだしていた。
「私、生前の記憶がないの」
幽霊に生前の記憶がないのは、さして珍しいことではない。
幽々子自身、大して気にも留めず暮らして来た。
でも。あることがきっかけで、生まれる疑問。
ーー私、だれなのかな?
それは、自分の存在への問いかけ。
私はだれ?どういった存在?何が欠ければ、西行寺 幽々子は西行寺 幽々子でなくなる?
いくら考えても、答えはでない。
そのことが、どうしようもなく恐ろしい。
明日にも、自分が消えてしまいそうで、不安でたまらなくなって。
ワタシのキオク。
気にも留めなかったものを、必死に探し求めた。
「やっと、ヒントが見つかったの」
幽霊たちの郷、白玉楼には、巨大な桜の木がある。
名を、西行妖。
妖怪のごとき桜だと、妖の字を付けられた。
「西行妖を満開に咲かせたら、何か分かるかもしれない」
「じゃ、咲かせたら?」
「うん、でもね・・・」
妖怪のごとき桜である。ただでは満開にならない。
膨大な春を吸い、ようやく満開になるのだ。
「そのためには、こっちの春を奪わないと足りないの」
そうしたら、ずっと春にならず、雪に覆われたままになる。
「やだなあ・・・あれ、でも・・・なんで気にするの?」
素朴な疑問を、少女はぶつけた。
幽霊の彼女は、こっちの世界がどうなろうとかまわないはず。
「嫌なの・・・何故か、こっちの世界を害したくないのよ」
それが、悩みの種だった。
生前の記憶なんてないのに、こっちの世界を害することに強い抵抗感がある。
どこか、心の深いところが痛むのだ。
そんなことは、しちゃいけないと。
「それで、どうしても踏み切れなくて」
「困ったわねー」
以前、悩んでいた吸血鬼は、「やっちゃえゴーゴー」で済んだ。
けど、今度はそうもいかないようだ。
でも。少女は、思ったままを口にした。
「やっちゃえば、いいんじゃないかな」
「だけど・・・」
「そうやって悩み続けるより、やっちゃったほうがさっぱりするよ」
後から後悔したって。
きっと、やらずにウジウジしているよりはいい。
「・・・そうかな?」
「きっと、そうよ」
「うん・・・そうね。やってみる」
痛みに怯えるより、耐えて前に進もう。
心が痛むのは、生前の自分からのメッセージ。
それは、辛いものや苦しいものかもしれないけど。
きっと、痛みの向こうに、ワタシのキオクがある。
「ありがとう。あなたのお陰で、勇気がでたわ」
少女に手を振って、幽々子は泉をあとにする。
ーー満開の西行妖と、自分の過去を想って。
そして、今。
「ーーと、本人たちから聞いたんだけど」
「そんなことも、あった気がする」
楽園の素敵な巫女ーー博麗 霊夢と。
闇を操る妖怪ーールーミアは、月夜の丘でふたり、座りこんでいた。
「つまり、炊きつけたのはあんたな訳ね」
「ただ、話を聞いて、思ったことを答えただけよ?」
「まあ、悪意は無いだろうけど・・・」
結果論になるのだろうが、ルーミアはきっかけになり。
幻想郷に、異変が二度も訪れたのは事実だ。
「今日は、お仕置きするために誘ったの?」
「しないわ。終わったことだもの」
いまさら怒ってもしかたない。
今度炊きつけたら、間違いなく怒るが。
「それに、今はお月見してるんだから。物騒な話は無し」
ふたりの前には、団子と徳利。
すこしずつ、団子は減っていく。
もともとは、魔理沙とする予定だったお月見。
しかし、魔理沙は紅魔館に連れ去られてしまい。
通りかかったルーミアを代わりに誘って。
霊夢は丘へやってきたのだった。
「ね、ルーミア」
「なあに?」
「なんとなく、思いついたんだけど・・・」
あんたの能力のことなんだけどね。
冗談半分に、霊夢は言った。
「黒幕になる程度の能力・・・なんてどう?」
「やーよ、そんなの。まだ疑ってるの?」
「ただの冗談よ」
小さく笑って、霊夢は本当に思っていたことを言った。
「心安らぐ程度の能力・・・とか」
「理由は?」
「あのふたりと、今いっしょにお月見してる、私の感想」
別段、目立った容姿ではない。
だけど、この少女は妙に親しみやすくて。
いっしょにいると、まったりした気分になる。
彼女の能力である、闇。
闇は嫌われ、悪魔や妖怪と結びつけられることが多いが。
一日の半分は闇になる。
闇があるからこそ、静かに眠ることができる。
闇は、安らぎの象徴でもあるのだ。
「素敵な能力だと思うわ」
「そ、そうかな・・・」
ストレートに褒められて。
照れるルーミアは、とても可愛らしかった。
十五夜月夜に、影ふたつ。
夜深くまで、ずっと、消えないまま並んでいたーーーーーー
彼女の意外な側面を見た気がします
実は天性のアジテーター(扇動者)だったりするんだろうか?
できれば永夜の場合も見てみたかったかも・・・そこは残念
なにが、と言われると困るのだけど。
とてもそう感じました。
闇はこわいものなのだけど、同じくらいやさしい。
そして謀やら企みやら、心にたまったものを吐き出してしまうのもやっぱり夜闇の中なんだな、とか。
ヅカは……60年に一度の食欲覚醒!?
かく言う自分もルーミア好きの一人。実際にこんな事があったのだったら嬉しいなあ。
ちょっと気になったのが『ー』でわなく、『-』あたりを使った方がわかりやすいです。