Coolier - 新生・東方創想話

秋桜は何処に在る?

2005/09/24 01:40:49
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花映塚ネタバレあります。
独自設定があるかもしれません。

















 八雲紫の行動時間は短い。朝寝昼寝と一日の半分は寝ている上冬眠までするのだからその行動時間の短さもうなずけるものだ。
 偶に起きているがろくな事はしない。寝てれば寝てるで紫にしか出来ない仕事もあるのでそれができない。まぁおきていてもやらないのだが。
 紫が寝ている間仕事を代行する式神、藍としてはどちらにしろ傍迷惑な主人である。
 だが、そんな毎日ももうなれたものだ。どちらかというと寝ていてくれたほうが面倒が少なくていいのかもしれない。
 そんなある日、藍の式神である橙が変異を見つけた。
 花が、咲いているのだ。梅も、竹も、桜も、すべての花が狂ったように咲き続けている。
 そういえば、そんな時期なのだったな。
 藍はそう思い、その事をいぶかしむ橙にはただ、今年は花がこんなふうに咲く年なのだ。そのうち散るから放っておきなさい。そう言うだけだった。
 過去にも似たような事はあった。橙はこれを見るのは初めてだったろうか、そう考えた折彼女の主人が寝床から抜け出してきた。 

「花?」
「ええ、何もかもが狂い咲きです。まあ確かに、そろそろそんな時期ですし」
 藍がそう答えると紫は少し考え込んだ。
 確かに何十年かに一度こういう事はあった。特別珍しい事でも無い。霊達が花に憑き花が咲く、そんな事は特別気にせずいつも寝ていたのだけれど。
 けれど、今日は特別早起きしたのだし、どういう風になっているのかを知るのも悪くないかもしれない。
 やがていつものように胡散臭い笑顔を貼り付けて言った。
「そうね。じゃあ藍。花見に行く支度をしておいて頂戴。せっかくなのだから花見をしなければ勿体無いわ」
「わかりました。それで紫様」
 藍は妙にうれしげに隙間からあれこれと取り出している主に質問する
「何をなさるおつもりで?」
「あら、どうでもいいことよ」
「はあ」
 全く納得行かない調子で答える、と紫はいつもの様に楽しげに謳った
「全く、鈍い子ねぇ。考えて見なさいな。私が一生懸命仕事をしているのに、説教好きで愚痴愚痴五月蝿いと相場が決まってるのが仕事をしていないのよ?文句の一つでも言わなくちゃ」
 仕事をしているのはもっぱら私で、紫様にしか出来ない仕事は放りっぱなしだったと思いますが。
 藍はそう思ったが口には出さない。
 傘で叩かれるのは九尾の狐でも痛いのだ。紫様は愛があるから痛いのよと言うが絶対に傘の持つ打撃力の境界を弄っているに違いない。なにしろ傘で岩は砕けるはずがないからだ。藍はそう思っている。
「よし、と。それじゃあ支度はよろしくね。本当にどうでもいいことだから安心なさいな。ちょっとからかいに行くだけよ」
「それではいってらっしゃいませ」
 それだから悪趣味といわれるんですよ、というのは口に出さない。
 隙間の中は熱くて寒くて乾いていて湿っていてそれはそれは大変不快なのである。
 主の出立を見送った八雲藍はとりあえず家事を済ませてから花見の準備をする事にした。
 

「全く。なんでかしらねぇ」
 紫は息を漏らし、考えた。
 さっきから妖精だの畜生だのが攻撃を仕掛けてくるのはなぜだろうか? と。
 すぐに答えは出る。きっと春の陽気で頭がやられたのだ。可愛そうに
 そんな事を考えながら漂っていると目的地は目前に迫っていた。
「さて、どんなのかしらね」
 今まで全く興味を持たなかった事もあり、文字通りどんなのなのか全く知らない事もあって、想像を膨らませ、高度を下げ紫の花が咲き乱れる地表へと近づいていく。
 地表に降りたとうかというとき、影が見えた。
「こんなのですよ」桜の影に隠れた者は言った。
「あらあらずいぶんとかわいらしい夜摩天だこと」
 姿をあらわしたのは夜摩天―閻魔であった。
 何で暇そうにしているのだろうか?
 紫はふと疑念を覚えたが即座に判断する。
 ここは確か無縁塚。その名のとおり何の縁故も無い報われる事の無い霊魂が凝る場所。そんな歴史では三途の川をわたるのも一苦労。
 そのような人間はほとんど全て地獄へ叩き込むだけですむから楽な仕事でしょうね。こんな仕事なら藍も楽でしょうに。
「何のようですか? 私は忙しいのですが」
「あら、とても暇そうに見えるのですけれど。ああ、用事など無いのですよ。ただ、久しぶりに花が狂い咲いているものだから。誰がどんなヘマしたのか見にきただけで」
「いいえ、ヘマをしているのは私ではなく三途の川の水先案内人です」
「責任転嫁はよくないわね」
「事実は事実」
「誰も彼もが六文銭を持っていなくて困っているとでも? それに部下の責任は上司が取るものよ。だからこそ責任者なのでしょう」
 紫は咲き乱れる桜へと眼を向けた。
 最も高貴な紫の花。最も罪を犯した霊魂達が取り付いた紫の花。私と同じ名の色を持つ桜。
 その紫の桜がこちらを見ている気がする、いや、見ているのだろう。哀れな亡霊はひと時の娯楽を心待ちにしているようだ。
 であるならば望みにこたえてあげるべきだろうか?
「私は死後罪を裁く者。地獄の裁判長」と彼女―四季映姫は目を瞑り独白するように言った
「その私の前に罪人が存在する。それを私は見過ごすわけには行かないのです。咎人は罪を祓うため地獄へ落ちる。よりよい死後を過ごしたいのならばもっと善行を積まなくてはなりません」
 映姫の台詞を紫はせせら笑った。
「死後? 罪? そんなものが私を縛る事が出来ると?」
「万物は流転する。消滅しないものなど存在しないのです。それがどんな大妖であっても。そして」
 四季映姫は紫を見据え感慨深げに言った
「罪を背負わぬ人妖もまた存在しない。故に私はここに在るのです」
「誤謬と無謬の境目があやふやになっていても?」
「どんな聖人君子であろうも無謬という事はありえません」
 それなら、と八雲紫は返した
「私が、今ここで善悪の境界を取り払ったら、貴方の仕事は面白い事になりそうね」
「そんな事はさせません」
 なんともまぁ、真面目な事だ。しかし、羨ましいとは思わない。こんな風に仕事をやっていては疲れてしまう。
 第一、規則とは守るものではなく作るものなのだ。
「ふふ、面白い事を言うわね。それじゃあ、どうやって止めてくれるのかしら?」
 紫は映姫を見据えどう出るか興味深く観察しながら問うた。
「この八雲紫の境界を。 死人を裁くしか能が無い最初の死者の眷属は」


 映姫は決定した。
「貴方は」決意を込め瞼を閉じる「すべてを曖昧にしすぎる」
「あら、それこそ私の力。私の智慧」
「それを傲慢というのです。曖昧は混沌。混沌は私とは相容れない」映姫は眼を見開いた
「故に、今、ここで、貴方の全てを二分する」
「ずいぶんな、せっかちさんね」
 けれど、と。紫は混ぜっ返す。 
「もう一度言うわ。貴方にそれが出来るのかしら?」
 映姫は即答する。
「秩序こそ私の力。二分し全てを秩序化する。貴方といえども私の前では境界をまたぐ事は出来ない」
 映姫は既に己の方針を決定した。罪状を決定した。刑罰を決定した。
 ならば迷う理由など微塵も存在しない。
「ふふ。それはどうかしらね?」
 紫は相変わらず胡散臭い笑みを貼り付けたまま返答した。
 笑顔の妖怪と厳しい顔をした閻魔は対峙したままだ。
 映姫は最後の一線を越える一抹の決意とともに眼前の妖怪が犯した罪状を述べ挙げた。
「全てを曖昧にする、その己が罪の重さを認識し閻魔の裁きを受けよ!妖!」
 映姫の言葉を聞き、紫は一層笑みを妖しくし、謳った。
「秩序は境界があるからこそ秩序になる。境界を操るこの私の前で秩序が何処にあるのか、貴方にわかるのかしら?」
初投稿です。
紫様にとっては白黒はっきり付ける能力など竹光の如きなまくらに過ぎぬと・・・
というのが書きたかった。後はどうでもよかった。特に後悔していない。
Amatzu
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コメント



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11.80らびっと削除
妖々夢で紫が言っていた『夜摩天より力があればどうにでもなる。』が
気になっていたところでこのお話を拝見してまさに紫だなぁと
感慨にふけってたり・・・ グッジョブ
18.60ABYSS削除
むむむ。
大変面白いのですが、いいところで切られて残念。

曖昧な境界を操る力と白黒はっきりつける力。
対になっているともいえるそれは、互いの相性としてはどうなのでしょうね。
19.60aki削除
花映塚に出てこなかった紫さん。
出てきて欲しかったんですけどねえ…。

と、愚痴はさておき。
紫と映姫のやり取りが面白いです。
個人的な意見としては、
境界を操る能力は、曖昧にもすればはっきりと二分することもできる。
早い話が映姫の能力は境界を操る能力の一部なのではないかと。
そんなわけでこの勝負、紫に軍配が上がりそうだなあと思います。
26.60名前が無い程度の能力削除
決着を見てみたいが、それは高望みというものでしょうか?
38.90名前が無い程度の能力削除
これはなかなか面白い組み合わせですね……。

白黒はっきり付ける能力など竹光の如きなまくらに過ぎぬと・・・ですか……。
いや、この能力は人の岐路を操ったりも出来たりもするから五分五分だと思う。
紫もばりばり強いのは勿論うんと分かっているが、それはぶっちゃけ他の創想話でも見れるからなァ……真逆の立場に立つ映姫に期待したらダメ?
39.30名前が無い程度の能力削除
能力存在を片っぱしから否定できるという考察を見ましたので幾分、映姫有利ではないかと。
仮にも種族は閻魔。人を裁く「神」ですから地力も相当だと思いますよ。