Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館のお客様

2005/09/20 03:02:51
最終更新
サイズ
19.92KB
ページ数
1
閲覧数
2779
評価数
24/205
POINT
10580
Rate
10.30
※ 拙作『紅魔館のご両親(作品集20)』からダイレクトにお話が繋がっております。
  こちらをお読みいただく前に、そちらを簡単に読んでからお願いいたします。
  ややこしてくて申し訳ありません。































 妖夢が咲夜に申し入れて、10分後の紅魔館の門前。
「と、言うわけで、
 『至高のお味噌汁』こと魂魄妖夢ちゃんが一日門番隊として
参加してくれることになりましたー」
「「「わー」」」
「何なんですか、その異名……」
「ん? 『究極のお味噌汁』のほうがよかった?」
「……いえ、何でもありません」
 美鈴が妖夢を門番隊メイドたちに紹介していた。
「妖夢ちゃんは普段は白玉楼の庭師さんをやっていますが、
 同時に私たちと同じような門番もやっています。
 紅魔館の門番部隊として、あまり無様な姿は見せられません。
 今日も張り切ってお仕事しましょう!」
「「「えー……」」」
「嫌がった子たち、文句があるなら私が相手になってあげるわよ。
一歩前に……って全員!?」
「「「行きますよ、隊長!」」」
「ちょっと待ってー!?」
 どかーん。


「ねえ、ママ」
「なぁに、パパ」
「門番隊っていつもあんな漫才やってるの?」
「門番隊って館に侵入者さえ出さなければ問題ないから、
 普段の姿をほとんど見たことがなかったんだけど……。
 咲夜が『門番隊は心配するだけ無駄な連中の集団』とか言ってたし、
 普段からあんな感じじゃないかしら」
「無駄に元気ねぇ……」
「元気で明るい家庭はいいことよ」
「貴方は明るい場所に出たら灰になるじゃないの」


「まったくもう……」
 門番隊メイドの5割ほどが美鈴にのされたあたりで突発実戦演習は終了した。
 残りの5割のメイドは最初は美鈴と弾幕ごっこをやっていたくせに、途中から妖夢に挨
拶に行って戦線離脱した要領のいい連中である。
「無意味にウォーミングアップは出来ちゃったけど、
 いつもどおり柔軟運動だけはちゃんとやるわよー。
 二人一組できっちりやっときなさいねー」
 あちこちから返事があがり、メイドたちが柔軟運動を始める。
 のされたはずのメイドたちもむっくり起き上がると、同じように柔軟運動を始めた。
「妖夢ちゃんは私とやろっか」
「あ。はい、お願いします」
 妖夢はそれまで挨拶に来るメイドたちの応対にあたふたしていたのだが、柔軟運動を始
める、と声がかかった瞬間に一斉に波が引くようにいなくなってしまったメイドたちに首
をかしげていた。
 そこに美鈴から声をかけられたので素直に頷いたのだが、柔軟をはじめると同時に理解
した。
「こ、こういうことですがぁぁああぁぁぁ~~~」
 べきゃべきゃべきゃべきゃ。
「えー? 何、どうしたの?」
 自分の体が柔らかいと「そこまで曲がるはず」という考えで力をかけてくるので困った
ものである。


「ねえ、パ」
「嫌」
「まだ何も言ってないじゃない……」
「ストレッチでしょう?
 健康にいいからと言っても、
 ママの力でやられたら色々と目も当てられない体されちゃうわよ」
「ま。何だか卑猥な表現ねぇ」
「まあ、冗談はともかくとして……
 ためしに体を曲げてみましょうか?」
「そうね、そんなことをしているパパっていうのも珍しいし、
 一度見せてみて……って、何で椅子に座ったまま手と足を前に出してるの?」
「……。
 これで精一杯よ」
「私が悪かったわ……」


 お昼の休憩。
 紅魔館の大食堂。
「……で、午前中が終わっただけだっていうのに、
 どうして妖夢ちゃんがこんなにボロボロになってるのかしら?」
「え? あ、いやぁ……
 私の見回りに付き合ってもらったらこうなっちゃいました」
「あの4時間走りっぱなしの山あり谷あり妨害あり! 体力の限界に挑戦!
 みたいな見回りコースに付き合わせたの!?」
「い、一応止めたんですよ!?」
 本人は「見回りに付き合ってくれる人がいるー。うれしー」とか言っていたが、確かに
門番隊メイドたちは必死で止めた。それを振り切ってわざわざそんな見回りを望んだのは
妖夢自身である。
「……私も普段は二百由旬ある白玉楼の庭を管理しているので、
 脚力には自信があったのですが……」
「あの見回りコースはそういうレベルのものじゃないでしょう」
「紅魔館の管理範囲って広いんですね……。
 雲の中に入るほどの高所から、
 地の底まで続いているんじゃないかと思うほどの地下道まで……。
 後、何であんなモケケでグチョログチョロな生物まで飼ってるんですか。
アレが襲ってこなければもう少し楽だったのに……」
「図書館の知識人の戯れよ」
 咲夜の返答を聞いた妖夢はテーブルに突っ伏した。だらしないとは分かっていても、さ
すがにこの疲労と脱力は耐え切れなかったらしい。
「まあまあ。
 午後からは見張りだけだから、ゆっくり休憩するといいわよ」
 いつの間にやら姿を消していた美鈴が、おぼんを片手に戻ってきた。
「お昼ご飯もらってきたわよー。
 妖夢ちゃんもしっかりと食べておかないと損よ?」
「美鈴さん、元気ですね……」
 うんざりと呟く妖夢は体を起こして……もう一度突っ伏した。
「あれ? どうしたの?」
「……疲れきったところにその量の食べ物見せられたら
 当然の対応だと思うわよ」
 どんぶりにてんこ盛りのご飯。今日のメインのハンバーグは3枚。サラダも山盛り。ス
ープが入っているのは……洗面器か何かかというような器。デザートのケーキも種類が違
うものを1つずつ、3個。これを1セット1人前として、同じような量のおぼんを3枚も
持っているのである。
「……多かったですか?
 このくらい量があるほうが門番隊の子たちには喜ばれるんですけどねぇ」
「本当に、門番隊メイドはどんな体してるのよ……」
 おぼんの1つを受け取って、その重さにため息をつく。
「絶対に食べ切れないわね……
 残ったら食べてくれる?」
「え、いいんですか?」
 無邪気に喜ぶ美鈴に苦笑を返して横を見てみれば、同じように料理を受け取った妖夢が
気合を入れながら箸を取ったところだった。
「貴方も無理しないほうがいいわよ?」
「え……あ、でも、お腹が空いていることは空いていますので」
 はむ、とハンバーグを口に入れてみて、
「あ、美味しい」
「紅魔館のまかないは美味しいわよ。
 よく食べるのに味にうるさい子もいるしね」
 咲夜がちらり、と横を見ると、嬉しそうにご飯を食べている美鈴。
「味にうるさいんですか?」
「結構なものよ。
 実際、彼女が作るご飯を何度かご馳走になったけど、
 言うだけのものは作ってみせるわ」
「……意外な気がします」
「私も最初はそう思ったんだけどね。
 厨房に立つ姿は様になっていたわよ」
「へぇ……」


「ねえ、パパ。私たちもお昼ご飯にする?」
「遠慮しておくわ。あの量の食べ物を見せられたら、
 それだけでお腹一杯よ」
「そうね……ところでパ」
「モケケでグチョログチョロな生物はマッドアルケミストの浪漫よ」
「嫌な浪漫ね……自分でマッドアルケミストを名乗っている辺り、手のつけようもないし」
「そんなに褒めないで。照れるわ」
「真似しないで頂戴」


 夕刻の紅魔館の門前。
 そこは紅魔館の中で、沈む太陽が最後の光を楽しむのに最もよい場所。
「夕日が綺麗ですね。
 この館に一番ふさわしい時間のような気がします」
「そうね。この館の本当の時間はこれからなんだしねー」
 午後からは本当に見張りだけで、特にこれといったこともなく過ぎ去った。
 一番の敵は満腹感と穏やかな日差しからの眠気だったというのがなんともしまらないが、
食べすぎで悶絶する羽目になった妖夢としては非常にありがたい午後だった。
「それじゃ、はじめましょっか?」
「はい、よろしくお願いします」
 言いながら、妖夢は楼観を抜く。
 いつも通りの下段に構えると、赤い陽光を反射して刀身がきらりと光った。
「朝の見回りもお昼の食事も、私とコンディションを合わせるためだったんでしょ?
 妖夢ちゃんて律儀ねぇ」
「お昼の食事は純粋に残せない躾をされていただけだったんですけどね……。
 朝の見回りはその通りです」
 美鈴は足を開き、両手を開いてゆるりと回す。
 目を細めて笑う美鈴の気配が変わる。
「いつから気付いていました?」
「んー。結構早くから気付いてたつもりよ。
 見回りの時に何か言いたそうにしてたでしょ?」
 妖夢は足元を確かめるように、地面を何度か蹴りつける。
 美鈴は足元を確かめるように、地面に足を滑らせた。
「なのに、私のことを探るように見てたでしょ。
 それで、ああ、やりたいんだなって」
「……それだけでそう考えたということは、
 美鈴さんもそう思ってくれていたと考えていいんですね?」
 にこり、と互いに笑みを交わす。
「モチロンよ」
 妖夢という風が美鈴に向かって走る。
 普段は桜に吹く風が、今日は門に向かって荒れ狂う。
 返す美鈴という柳。
 避けず、受けず、その風をただ流す。
 その柳を吹き飛ばさんと、風が疾風になる。
 柳はそれにひたすら耐え続ける。
 ときに柳が大きく傾ぎ、ときに疾風が勢いを鈍らせる。
 ときに血煙が舞い、ときに打突音が響く。
「よく、無手で刀相手に戦えますね」
「……挑んできたほうがそれを言う?」
 わずかにタイを乱した妖夢が足を止める。
 いつの間にやら抜かれていた白楼を収めながら呟く妖夢に、ジト目の美鈴が返した。
 続けて楼観を収める妖夢。
 それでもあちらこちらから血を流している美鈴は構えを解かない。
「それを言われると辛いですけど……
 十分に渡り合ってくれてるじゃないですか」
「他人の腕をなますにしておいて、よく言うわ……」
 楼観を完全に納刀してから、改めてその鯉口を切る。
 右手は柄にかけたが、そのまま動かさない。
 ただ、強く握る。
「もう治ってるじゃないですか」
「痛いものは痛いのよ」
 身を沈める。
 それに応じるように、美鈴の右手が弓を引くかのように後ろに下げられた。
「痛いと言っているワリには、
 刀が腕に入った瞬間にカウンター飛んできてましたけど」
「骨を絶たれて肉を切る、程度の反撃なんだから、貰ってくれてもいいじゃない」
「麻酔なしで整形してもらいたくありません」
「私だって麻酔なしで切断手術してもらう趣味はないわよ?」
 視線が絡む。
 刹那の隙の探り合い。
 そして――。


「弾幕ごっこ以外なら、美鈴も強いのね……。
 で、ママは何をそんなにソワソワしているのかしら?」
「ソワソワなんかしてないわにょ?」
「口調がいつもどおりなのだけは評価してあげるわ。
 でも、今門前に行っちゃダメよ」
「だ、だってあんな格闘を見せられたら血が騒ぐじゃないのよ!」
「相変わらずのバイオレンスお嬢様ね……
 門の影に隠れて百面相しながら見守っていた咲夜を見て悶絶していればいいものを」
「あー。あれは可愛かったわね。
 それでも寸止めしあった二人を迎えに行くときには
 完璧にいつもどおりの顔になってるあたりが咲夜らしいといえばらしいんだけど」
「あれは咲夜の長所であり、短所でもあるわね。
 もう少し美鈴を心配しているのを明確に出せば何かあるかもしれないのに」
「ダメよ!
 婚前交渉はママが許しません!」
「誰がナニするなんて言ったのよ!」


 門番隊の業務が終わり、ようやく身体の開いた美鈴にマッサージをしてもらうことになっ
たのだが。
 午前中の見回りと言う名の地獄のマラソン。
 午後からはのんびり日向ぼっこだったものの、最後の最後で全力に近い戦闘。これだけ
暴れれば随分と汗をかいたし、何より返り血も少なくない。
 妖夢もこのまま薄着になって人様に肌を晒せるほど、女の子をやめているわけではない。
「んじゃ、ウチでお風呂に入っていったらいいじゃない」
「そうね。メイド支給品で悪いけど、着替えも用意できるわよ?」
 そんなこんなで紅魔館の大浴場である。
 一通り髪と身体を洗って湯船に浸かる3人。
「あ、いたたた……」
「筋肉痛? 大丈夫?」
「大丈夫です……それにしても、足腰には自信があったんですけど……」
「どうも忘れられがちだけど、美鈴も妖怪だからね。
 私たちと同じ物差しで考えちゃダメよ」
「今度から、そうさせてもらいます」
「ひっどいなぁ。
 その妖怪をばっさばっさとなます斬りにしてくれたのは誰よ?」
「ばっさばっさとなます斬りにされたのに、
のほほんとお湯に浸かってるのは誰なのかしらね」
「咲夜さぁん」
「冗談よ。怪我は……あったけど、大事無くてよかったわ」
「今度お邪魔するときには木刀持参してきますね!」
「妖夢ちゃん、せめて竹刀にしてくれない?」
「え? 美鈴さんだったら竹刀だと拳打一発で粉砕しちゃうじゃないですか」
「木刀でも結果は一緒じゃないかしら」
「いえ、木刀なら西行妖から削りだした逸品がありますから、大丈夫だと思います」
「そう。それなら安心ね」
「私はちっとも安心できなーい!」
 美鈴の叫びにクスクスと笑いあう咲夜と妖夢。
 しばらく憮然としていたものの、結局美鈴も一緒になって笑い出す。
「またいつでも遊びにきてね。
 手合わせも大歓迎よ」
「はい、ありがとうございます」
「うーん。それはそうと、王様ゲームで指示されたマッサージはどうしようか。
 妖夢ちゃん、足腰が筋肉痛なんだよね?」
「情けないことに、そうらしいです……」
「筋肉痛のときにヘタに揉むと悪化するからねぇ。
 ……あ、足裏マッサージだけやっておこうか」
「……足の裏を揉むんですか?」
「そうよ。足の裏って全身のツボが集中してる場所だからねー。
 妖夢ちゃん、そっちの浅い場所に足をこっちに向けて座ってくれる?」
「はい……こんな感じで構いませんか?」
「そうね、お風呂の縁にもたれていたほうが安定するしね。
 うん、それじゃ片足ずつやるね」
「美鈴。それ、私でもできるかしら」
「え? あ、大丈夫だと思いますよ」
「それじゃ、教えてくれる?
 もう片方の足は教えてもらいながら私がやるわね」
「妖夢ちゃん、それでいい?」
「はい。よろしくおねがいしま……ひゃうん!?」
「咲夜さん、そこ押さえちゃダメですよ。
 そこは内臓関係だから、最初はこっちの踵のほうから」
「あ…うっ……!?」
「あ、順番があったりするの?」
「最初は何処が悪いのわかりませんから、
 大体身体の末端……手足のほうからやっていくんですよー。
 ほら、このあたり」
「あくっ……」
「こんな感じかしら」
「痛っ……さ、咲夜さん、そこは……ダメ……っ!」
「あ、痛かった? ごめんなさいね?」
「いえ、大丈夫です……基本的にはすごく気持ちいいですから」
「あー。筋肉痛の部分のツボをピンポイントで突いちゃいましたね。
 そこは外してこっちの方やりましょう」
「はぁぅっ!?」
「このあたりは多少強めのほうがいいのね?」
「ふ…ぅ……ん」
「踵はツボがあっても刺激が伝わりにくいので、
 ちょっと強めにしてあげたほうが気持ちいいですよ」
「ふぅん……奥が深いのね」
「う……ぁぅ」
「妖夢ちゃん、胃のあたりも大きく反応しますねぇ。
 苦労してるんだ」
「うぅ……ん」
「これはどの部分?」
「肝臓ですねぇ。
 神社の宴会にも随分つき合わされてるんでしょう」
「……」
「あら?」
 咲夜が首を傾げると同時に、妖夢の頭ががくんと落ちた。
「あー。やっぱり眠っちゃいましたか。
 朝の見回りで随分疲れていたようですしねぇ」
 予想していたらしい美鈴が妖夢の頭を胸に受け止める。
「どうする?
 このまま身体だけ拭いて寝かせてあげる?」
「そうですね。
 なし崩しですけど、今日は紅魔館にお泊りということにしてあげましょう」
「わかったわ。
 部屋は……せっかく貴方を訪ねて来たんだし、
 貴方の部屋に泊めてあげる?」
「そうですね。
 あ、でも布団が……」
「私の部屋のを貸してあげるわよ。
 その代わり、私も貴方の部屋に泊めてね」
「わかりました。
 それじゃ、あんまりお湯に浸かっていると、
 妖夢ちゃんがのぼせちゃいそうですし、そろそろあがりましょうか」
「そうね。後でお布団を持ってお邪魔するわね」
「はーい」


「……あの子たちにもう少し周りを見ることを
 教えてあげたほうがいいんじゃないかしら」
「そうね。
 お風呂に居合わせたメイドたちが可哀想ね……」
「あ、3人が出て行くと同時に鼻血の血飛沫が……」
「明日はメイド部隊はほとんど役に立ちそうにないわね……」
「あ、鼻血のダイイングメッセージ……
 『お姉さま二人がかりで
  女の子を玩具にしているようにしか見えませんでした』ですって」
「こっちは別のシチュエーションを妄想したみたいよ。
 『女の子に傅く二人の美女……イイ!』だそうよ」
「……メイド部隊の再教育も考えたほうがいいんじゃない?」
「そうね……」


 翌朝。
 妖夢はいつもどおり、日が昇り始めた時間に目を覚ました。
「……あれ?」
 見覚えのない天井が視界に入ってくる。
 昨日の眠ってしまった状況を思い出そうとするのに、上手くいかない。
「何だか随分と気持ちよかったということだけ覚えてるんだけど……」
 とりあえず、起き上がって状況を確認しようとして……愕然とする。
「な、なんでこんな格好なの!?」
 下着にYシャツだけ、という随分な格好である。
 メイド支給品というと制服と下着などになる。その中から眠れる格好を選択するとこう
なってしまったのだが、そんなことを妖夢が知っているはずもなく。
「しかも、ここどこ!?」
 昨夜は風呂場で眠ってしまった後、抱きかかえられて美鈴の部屋までつれてこられたの
だが、そんなことも当然知らない。
「その上……えぇえぇぇ!?」
 ついでに、布団2組で3人で眠ることになったことも知るはずがなく。
 今まで枕にしていたのが実は真ん中に寝ていた美鈴の腕だったとか、その美鈴を挟んで
反対側に妖夢と同じような格好をした咲夜が、同じように美鈴の腕枕で眠っているとか。
 イマイチはっきりしない頭で、そういった状況だけを見て判断すると。
「……昨夜の随分と気持ちよかったことって……
 『そういうこと』?」
 と、いう結論に達しても仕方なく。
「ええぇぇぇぇぇっ!?」
「うーん……何よ、朝っぱらから」
「ん……」
 動揺の極みに達した妖夢の叫びで、眠っていた二人が目を覚ます。
「あ、妖夢ちゃんおはよー。
 ゆっくり眠れた?」
 タンクトップと短パンという格好で眠っていた美鈴。無造作に起き上がったせいで、胸
元がかなり微妙なところまで見えてしまっている。寝癖のほとんどついていない真紅の髪
をかきあげながら、妖夢にむかってにっこりと笑って見せた。
「……」
 低血圧なのか、身体を起こしたところで目を閉じて動きを止めていた咲夜。Yシャツを第
二ボタンまで外してしまっているため、こちらもかなり刺激的な光景になっていた。加え
て、物憂げな様子が逆に色気を感じさせる。
「おおおおおおおおはようございますっ!
 きききききき昨日は……っ!」
「あー。妖夢ちゃん、途中で眠っちゃったけど、
 心配しなくても最後までちゃんとしてあげたよ?」
「さ、最後まで!?」
「何でそんなに驚いてるの?
 まあ、反応がいい部分は起きてる間に調べられたから、
 眠っちゃった後はその部分を重点的に……」
「……」
 言葉もない妖夢は口をパクパクさせながら視線を咲夜に向ける。
「……私も貴方の後にやってもらったんだけどね」
 視線を向けられた咲夜は僅かに笑みを浮かべて。
「美鈴にしてもらうのって、気持ちいいわよね」
「……っ!?」
 妖夢、更に絶句。
 そんな様子を見ていた美鈴が首を傾げて。
「あれー。妖夢ちゃん?」
「ななななななななんでしょう!?」
「何でそんなに真っ赤なの?」
「ぅえ!?
 いや、ですからその……」
「あ、もしかして寝てる間に身体冷えて風邪でも引いちゃった?」
「あら。それはいけないわね。大丈夫?」
 無造作に手を伸ばして妖夢の頬や額にぺたぺたと触れる美鈴と咲夜。
「んー。でもそんなにひどく熱くなってるわけでもないような気が……
 って、妖夢ちゃん!?」
「え? ちょっと、どうしたの!?」
 へなへなへなっと崩れ落ちる妖夢。
 いい加減、頭に血が上りすぎてオーバーヒートしたらしい。


「あの二人のノーガードっぷりが他人を巻き込むとああいうことになるのね」
「昨夜のお風呂を見ていると、あの庭師も十分ノーガードだったけどね……」
「庭師さんの自爆っぷりも中々のものじゃないかしら」
「あー。あそこまで墓穴掘れるのが美鈴以外にもいたというのは驚きね」
「それにしても、やっぱり三角関係には至らなかったわね」
「そうね。やっぱりムリがあったわね。
 ……別の人材を用意してみる?」
「でも、庭師さん以上に美鈴と相性が良さそうな人物は中々いないわよ」
「うーん……美鈴って面倒見はいいんだし、
 今度はあの人形師なんかはどうかしら」
「なるほど。
 美鈴と同じ属性でダメなら咲夜と同じ属性の人物を……ということね。
 確かに、悪くない案だわ」
「じゃあ、今度はその方向で運命を手繰ってみようかしら。
 ところでパパ。そろそろツケヒゲ外したら?」
「……………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………そうね」
「いや、そんなに悲壮感あふれる顔しなくてもいいじゃない!?」


 昨日着ていた服を包んだ風呂敷を片手に、きっちりとメイド服を着込んだ妖夢が紅魔館
の門を抜ける。
「妖夢ちゃん、ホントに大丈夫?
 ゆっくりしていってくれていいのよ?」
「ありがとうございます……でも、大丈夫です。
 これ以上ご迷惑をおかけすることもできませんし……」
 一人のほうが落ち着けますし、というのは声に出せない内容だ。
「幽々子嬢なら心配しなくても、
 昨日のうちにメイドたちに食料を持たせて何人か白玉楼に行かせているから、
 お腹を空かせて西行妖を齧っている、なんてことにはなってないと思うけど」
 声に出せなかった内容を曲解した咲夜が声をかけてくる。
「ええ、ありがとうございます。
 それでも、やっぱり私は白玉楼で……
 幽々子様のお傍でお仕えしているほうが落ち着くようで」
 照れて笑う妖夢を見て、紅魔館の従者二人も笑みを見せた。
「わかったわ。道中気をつけてね」
「幽々子様には私が妖夢ちゃんをムリに寝かせちゃったことを謝っておいてくれる?」
「ありがとうございます。
 美鈴さんも、あまり気にしないでください。
 私がうっかり眠ってしまったのが問題なんですし」
 いいながら、ゆっくりと浮かび上がる妖夢。
「それじゃ、そろそろ失礼しますね。
 本当にありがとうございました!」
 最後にぺこり、と頭を下げて、視界の端に手を振る咲夜と美鈴を見ながら妖夢はその場
を後にした。
 目指すは一日ぶりの白玉楼。
「そういえば……
 幽々子様のお供以外で外泊したのは初めてだった……かな」
 紅魔館では白玉楼では体験できないことが色々あった。
 白玉楼では一緒に体験してくれる人が幽々子しかいない。そして、たいていの場合は幽々
子も一緒に同じ体験をしている。
「ああ……土産話をする人が妙に饒舌なのは、
 相手が知らないことを少しでも伝えたいと思うからかな」
 美鈴がいた。
 弾幕ごっこが主流の中で、数少ない体術の専門家。剣と拳で道は違えど、未だ己を研磨さ
れた宝石とは思わず、原石同士であるがゆえに切磋琢磨しあえると感じたその相手。
 咲夜がいた。
 無二の主に仕えるという同じ立場から見たときに感じられる、完成されたその振る舞い。
美しさすら感じさせるその仕草の中に隠れた、少女然とした愛らしい部分も持ち合わせる、
目標となると感じたその相手。
 彼女たちのほかにもたくさんのメイドたちがいた。
 普段は幽々子が何かを語り、妖夢がそれを聞き反応を返す、という形がよくある白玉楼の
会話だが、今日ばかりはそれが入れ替わりそうだ。
 知らず知らずに笑みを浮かべた妖夢は、少しでも早く主に会うため、空を翔る速度を上げた。
FELEでございます。お読みいただき、ありがとうございます。
今回は激しく趣味に走ったお話になりました。
楽しんでいただけましたでしょうか?

誰かと誰かの戦闘、というものを初めて書いたのですがいかがでしたでしょうか?
そのあたりの批評をいただければ参考になり、非常に嬉しいと思います。

今回のチャレンジ。
とりあえずバトル。
宣言はありませんが、一応二人とも最後の一発だけスペカ技です。
妖夢を絡めた三角関係……orz
何度か書き直したんですが、やろうと思うとどうしても「妖夢らしからぬ台詞」が
混じってしまうので断念しました。
いい子過ぎてどうしても『先輩にあこがれる後輩』止まり……。

9/20
ご指摘いただいた刀の誤字を修正。
ありがとうございました。
FELE
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.8440簡易評価
10.無評価名前が無い程度の能力削除
モ、モケケピロピロ!
24.70K-999削除
>西行妖から削りだした逸品
 ゆゆ様が下に埋まってるからゆゆ様印ですね(意味解らん)。さぞかし強力なんでしょう。

>あの人形師なんかはどうかしら
 美鈴×アリスっすか!? すすすすすすげぇ!! 素晴らしい!! 新境地!? すごい読みたいですよ志貴さん!
35.90コヨイ削除
パパママ似合い過ぎですよw
パチェはなんでヒゲ外すのに悲壮感顕わにしたんでしょうかw
口がへの字のパチェを幻視しました。
37.無評価おやつ削除
えっと……
戦闘シーンですか……
正直自分も全く自信がないところなんで、話半分にでも……
抽象的な表現から、会話をはさんで実写的表現になってますね。
その転換がやや唐突で、戦闘の経緯が解りにくかったかなぁ……と
それと戦闘描写自体が短く、さわりだけでパパママ視点で纏められてしまっており、いまいち盛り上がらなかったかな……とか思ったり。

すいません偉そうに申しました間違いなく自分はこんなに書けません吊ってきます。
でも美鈴×アリスなんて秘境を期待してるので白玉楼に居座ってみます……
今回もGJなお話、ご馳走様でした。
42.90銀の夢削除
氏の続編、待っておりました。
相変わらず読みやすくまた面白く見所あるシーンの盛りだくさんな作品です。

>戦闘シーンについて
おやつ氏のおっしゃられていることに私も同意します。
戦闘シーンはひとつの大きな見せ場。そこだけに物語の一部分を分いても良かったのではないでしょうか。
また、もっと地の文での描写をこまめにして、ひとつひとつの動作を鮮明にしてあげるといいかもしれないです。やはり、戦闘シーンは『見るもの』ですから、読者が文章を見て、場面を見ることができないと。

このような拙いアドバイスにもならない戯言で申し訳ありませんが、もし何かの力になれれば幸いです。私も首つって参ります。

氏の描く紅魔館のボケてズレてるけど幸せそうな、そんな間柄が好きです。
咲夜さんへの愛情もひしと感じます。続きも期待しております。

誤字指摘。妖夢の剣について。
白『楼』剣・『楼』観剣。『桜』ではなく摩天楼の『楼』のようです。
44.70変身D削除
作中のまったりとした雰囲気がたまらなく好きです。
続きも期待してますです(礼
47.無評価FELE削除
>おやつ様・銀の夢様
ご批評、ありがとうございます。
凄くためになりました。

確かに、前編ともいうべき「~~ご両親」と比べて長くなってしまったため、
少しでも短くしようとして
必要な部分まで短くなってしまったような感じです。

反省・改善すべき点として受け止めさせていただきます。
ありがとうございました。
51.70弾幕に散る程度の能力削除
前作もそうでしたが、パパ、ママ、メインの娘達にお客様はもちろんなのですが、
大勢のメイド隊の方々もいい味をだしてて、ホンワカした紅魔館の様子を垣間見た感じでした。
あと、お風呂のシーン。ごちそうさまでした(ぉ
(鼻から紅い液体を大量に放出した男のダイイングメッセージより
63.90名前が無い程度の能力削除
マッドアルケミストと聞いて、パチュリーさんが
レザード=ヴァレスみたいになってるのを想像してしまいました

それはともかく、今回も楽しませていただきました
付け髭が気に入ってしまったパチュリーさんとバイオレンスなレミリア様の
パパママ会話がいい感じに挿入されいると思いました

・・・紅魔館のメイド達、今更再教育しても修正不可なんじゃないだろうか
門番達は芸人気質ぞろいっぽいし
66.100名前が無い程度の能力削除
また頼む
73.80空葉削除
GJ!
78.80名前が無い程度の能力削除
お風呂でのメイドさん達の気持ち…痛いほど分かります
80.100名前もない削除
天才ってのはこういうことなのか……
92.60床間たろひ削除
駄目だ……パチェパパがツボ過ぎる……
116.100通りすがりの名無し削除
鼻血の海で溺死w
119.100名前が無い程度の能力削除
悲愴な顔の付けひげパチュリー……。
(・∀・)イイ!
138.100U.N.オーエン削除
パチュ!パチュ!ダメだ!付け髭をはずしてはダメだ!
・・・・付け髭パちゅを可愛いとか思ってしまう私は人間失格でしょうか。
・・・でしょうね。
139.100時空や空間を翔る程度の能力削除
読み応え満載です~~。
141.100名前が無い程度の能力削除
妖夢、凄い良い味だしてました。

紅魔館の面子も、下地にあるのは優しさで。
GJ!
143.100名前が無い程度の能力削除
風呂の中のカオスを見たかったなぁw
門番隊、メイド隊、大好きになりました。
144.90名前が無い程度の能力削除
体されちゃうわよ
脱字→体にされちゃうわよ
145.100自転車で流鏑馬削除
それにしてもこのパチュリー、やはりノリノリである。
149.90名前が無い程度の能力削除
ここはメイド隊もこうなのか!
パパは相変わらず最高で安心します。
何はともあれ、面白いお話をありがとう御座います。
154.60名前が無い程度の能力削除
マターリはいいんだけど

戦闘描写はイマイチ
180.100バナナ軍曹削除
パパンとママンがいい味出してますね
184.100名前が無い程度の能力削除
パパママ自重!

そしてそこはかとなくエロい!!
204.100名前が無い程度の能力削除
おねロリ最高や!
てか9年前の作品…?