今日もチルノは歩く。
飛べばいいのに歩く。
まぁ、湖の上を凍らせながら何て人には無理だけどねー。
「今日もいい天気、気温も上々」
ぽつりお空に話しかけ、しばらく止まったかと思えば歩き出す。
特別何もすることが無いので、歩く。
何をするでもなくただただ、歩く。
何か面白いものを見つけるために、歩く。
ふと歩みを止めて、また空を見上げる。
夏のひかり過ぎ去りて空、秋の香りを漂せて雲。
もう少ししたら空は濁り、秋が来て。
そして今年も冬が来る。
「もうすぐ―――レティ、何して遊ぼっか?」
ぽつんお空に呟きて、またチルノは歩き出す。
「ん?なんだあれ」
よく見るとふわふわと、湖の表面すれすれで何かが浮いていて。
小さいものの、きらきらと輝いて美しかった。
チルノも歩けば何とやら。
湖の上を散歩でもしない限り見つけられない石、いや宝石?
「・・・綺麗」
辺りをきょろきょろ見渡して
「・・・・・・持っていってもいいのかな?」
言い終わる前に既に手の内。
今日のお話は、氷精が落とした優しい宝石と
「ほんっと、綺麗~」
湖の上をスキップをする小さな氷精のおはなし。
ああ、そういえばスキマ妖怪も出てくるんだった。
さてマヨヒガにて藍は働く。
掃除・洗濯・家事・親父―――じゃなくて。
橙はお外へ散歩中。今日は何を拾ってくるだろうか。
ところで今日はお客が一人。紫様が連れてきた。
人と数えていいものか、縁台に二人―――紫とチルノはのんびりと横になっていた。
足をごろんと出して、ぶーらぶーら。
「なんて珍しい組み合わせ・・・・・・」
とりあえずお茶を差し出しては見たものの
「あっつ!!」
チルノ飲めず。
他に何かと聞けば
「確か葛餅が冷やしてあったはずよね」
橙のおやつ盗られる(帰ってきたらなんて言えばいいだろう)。
そして
「藍、下がって頂戴。今からちょっと重要な話をするから」
と。
あの氷精と天下の大妖怪が重要な話?
わからない。
「氷冷樹というものを知っているかしら」
「うーん・・・・・・」
魔理沙が前に言ってたような、とチルノ。
日が昇ってきて暑いのか縁台に足を上げて。
対して涼しそうに扇をパタパタと紫。続けて話し続ける。
「別名、蒼霊樹・・・・・・霊力を吸い取って樹と為すもの」
そのときに放つ冷気が程よく、避暑地として最適だとか、と。
「避暑の時期はもう過ぎたんじゃない?」
「それとは別に一度は見てみたいものなのよ」
その姿、深くそびえ立ちて『蒼』、放てその力『霊気』。
それ何処より来たりて根を伸ばす?
それ何処より参りて花咲かす?
「面白そうじゃない?」
想像しただけで・・・・・・美しそうだわ。
「それでなんであたい?」
「貴女、一応氷精でしょう?」
もしかしたら冷気の強化に繋がるかもしれないわよ、と。
そうして二人は北の端にある山へと登ることとなった。
「あー・・・・・・今のどこが重要な話だったんだ?」
天井にて天孤は思う。
狐イヤー全開だった藍は不思議不思議、首かしげ。
『藍ー?ちょっと出かけてくるわねー』
「あ、わかりました~・・・・・・って」
ばれてるー?
その木はとても冷たいというのに、山は別に寒いわけではなく。
夏の茂りを払うように、ちらほらと葉が落ちている。
チルノは歩く。ただ山道を。半分は好奇心。あたいは知らない、この山の上を。
あたいは知らない。もう半分の私を動かすものを。どうしてあたいは歩くんだろう。
その半分が分かるかどうかがきっと馬鹿かどうかの違いなんだろうなぁ、と。
紫も歩く。ただひたすらに。その髪を下ろし、なびかせながら。
山を登ることの意義。それは様々であり、曖昧である。それに限らずすべてが。
チルノとは違った、すべてを知りながらにしての曖昧。
二人はよく考えると似た存在なのかもしれない。
ただ、日々を消費しつつもその思うところは何?
前者は出来ない、後者はしない・・・・・・一体何を?
しかし、それを周りの者が問い詰めることはない。
何故なら彼女は居ても居なくとも変わらないからだ。
何故なら彼女は居て当たり前だからだ。
自らの存在意義を問い詰めることなくして、生きるは何故―――?
さて外見上は何の変哲も無い山ではありますが、大変な妖気が渦巻いておりまして。
本来、山とはまさに人間と妖怪の境界。
その一線を越えること、それは禁忌。
郷に入りてその業に従うといえども、それ合にあらずして、即ち傲である、と。
「スキマでびゅーんってワープするっていうのは無しなの?」
「ああ、駄目よ。あの木は妖気に敏感なの」
なのに妖気が渦巻くという矛盾。
それが何故かというのがわかるほどチルノは頭が良く無く
「ふーん」
あっさり流してその話は終わり。
ふと空を見れば雲。一面に広がりて堂々。
太陽を後ろに構えて黄土色、雨抱えるところ濁りて暗黒。
今にも大声で泣き出しそうな巨大な赤ん坊を目にして紫、日く
「雨宿りしましょう」
と、近くの木の元。
ほら、やっぱり泣き出した―――――。
ざらざらと大地を、木を、空を薙ぎながら轟音。
耳障りな雨音を奏でて。騒霊でも出てきそうな勢い。
紫は相変わらず涼しい顔をして雨が止むのを待つ。
時には立ち止まり、その奏でるところに耳を澄まして一興、と。
チルノはそういう趣は特に無かったので目線をふらふら。
ペンダントの様にした湖で拾った宝石をきらきらと掲げて、またふらふら。
雨の日、母と子がじっと何かを待ち続ける姿をしばし御覧あれ。
「あたいどうしたら強くなれるかな?」
先に退屈に飽きたのはチルノで。いや、元々暇で暇でしょうがなかったのは仕様で。
「あと百年ぐらいすればね」
二人ともお互いの顔を見ることなく空へと話しかける。
「でも・・・・・・はやく強くなりたい」
魔理沙や霊夢は人間だから。
生きる時間が違うの、私たちは!!
だから今のうちに勝ちたいから、と。
皆から罵られて悔しいからではない。
あの二人を超えることがあたいの一歩だから。
「なら貴女は自分の力をもっと知る必要があるわ」
ふふふ、と。その狐のような微笑は優しい。
紫は続ける。
「氷は五行にも七曜にもその存在は無い・・・・・・って言ってる意味分かるかしら?」
「ぷしゅ~・・・・・・」
「言い方が悪かったわ。特別ってことよ」
ちなみに火に相対しているのは氷では無いわ、と付け足す。
熱量―――この世界のものの存在を構築するものの一つ。
物に熱が無いものは無く、どれだけ冷たくとも必ず在る。
さっき挙げたものとかに含まれていないのはすべてにおいて既に在るからなの。
魔理沙のように果てしなく熱を上げていけば物は蒸発するでしょう。
でもそれは物質としての消滅ではない。真の消滅の一つ、熱の消滅による消滅。
物質の存在を操る程度の能力。『-273.15℃の向こう世界』。
「そんな可能性を貴女は持ち合わせているよ!!」
「そーなのかー!!」
そうなるにはあと何百年何千年以上経たないと無理だということは黙っておいた。
純粋な氷精の心を弄んだ大妖怪。心のスキマを埋めるのは得意なようで。
この幻想郷には様々な力、能力があってみんなが皆、平等に持っている。
それが個性とかそういうものの上に乗っかっているから変化があって面白い。
もちろんそうすれば相性というものも生まれる。
チルノの能力は決して半端ではない。ただ相性と命運の違いなのだ。
おそらく幻想郷の中ではチルノは下から数えたほうが早い。
トランプの大富豪というものを知っているか。あれは不便なゲームだ。
やる人が変わるたびにルールを確認しなければならない。
さて、それぞれのポジションに当てはめていくとすると・・・・・・。
チルノはおそらく「3」。四枚のうちの一つ。
あとの三枚の「3」はご想像にお任せするとして。
予め断っておく必要がある。これは分かりにくい比喩であるということ。
そして『幻想郷大富豪』をプレイするにおいて『革命』を入れる必要があるのか。
強弱の一斉反転は本当に起こりえることなのかということ!!
彼女らの内に秘めた力は一歩違えばすべてを狂わす。
そうなったときは
「誰が止めるのかしら」
止んだ雨を名残惜しそうに紫は呟く。
「わぁ・・・・・・」
感嘆。嗚呼、ため息をついて感嘆せよと言わんばかりの木が伸びている。
しかし蒼を冠するには相応しいと言えるのだろうか?
鮮やか過ぎる色が蒼というよりも青であると。
―――チルノは踊る。その青い服をくるくると。
冷気を放出する際に空気が混ざったのだろうか。
枝より伸びるつららが何本も何本も、白く直下直線を為している。
―――チルノは踊る。その青白い髪をふわふわと。
どうしてこんな木が地上には無いのだろう。
不思議とそう思わせる幻想のなかの幻想が広がっていた。
葉は氷の結晶のように様々な模様を描き、葉同士が風になびいてからからと音を奏でている。
―――チルノは踊る。その葉のような手と羽を広げながら。
ひとつ、丘を越えた先には一面の氷世界。
雪が降りて銀世界ならこちらは、と紫は思う。
もし彼女を中心に世界を作ったならきっとこうなるだろうか、と。
木の周りにある霜柱をざくりざくりと踏みしめながら先へと進む。
「あっ、待って~」
二人は頂上へと向かう。
木を束ねるものの元へ。
氷精の元へと―――。
春に白玉楼には桜が舞う。轟々と、華麗に舞い散ってゆく。
その美しさに身を任せ、宴に踊るというのもまた一興。
しかし忘れてはいけない、それはひとつの犠牲から成り立っていることを。
たとえどんなに他の桜が舞おうとも、その中でぽつりと西行妖が咲かないように。
その樹は頂上にそびえ、堂々と枯れていた。
ただ幹と枝を氷で固めて―――――。
「氷冷樹の主よ」
「・・・・・・」
どうしてこの樹はこんなにも悲しそうなのだろう。
「違うわ、安堵しているの」
私たちがここに来てくれたことに、と。
その目はどこか友人を見るような目をしていた。
あのとき彼女が止められなかったものを見るように。
果たして止める気があったのかどうかは定かではないが。
「この樹の下には精霊が埋まっているわ、とびきり強力な氷精が」
「あたい以外の―――氷精?」
二人が後にしてきたこれだけの樹を構築している者だ。
にも関わらず本人は自らを咲かすことをしなかった。
「どうしてかな・・・・・・?」
「貴女がわからないんなら、それは本人だって分からないんでしょうね、きっと」
同じ氷精だものね、と。
―――私も人間なら分かっただろうか。
―――彼女の気持ちを理解することができたのだろうか。
それはきっと無理なんだと、すでに知っているのに。
傘を掲げてその先に妖力を集める。
「何をするのさ!!」
「彼女を解放するのよ」
この世界の理から・・・・・・消滅させるのよ、と。
「なんで!!」
「そう彼女が願っているからよ!!」
普段にもなく紫は怒鳴り、睨む―――樹を。
悲しみ故に大地へと身を沈めたのにも関わらず、死ぬことの無い者を。
そして開花をさせ、この世を消滅させんとする力を得ようとする者を。
私がこうさせてしまったのだから―――私が始末しなければならない。
かの友人は私に、私は幸せであると言った。
それは紛れも無い真実だろう。
それを私に言って、私にどうしろというのだろうか。
でも、彼女は幸せだから良いのであるという結論に行き着いたような、ないような。
しかし今、私の目の前にあるものは
「確実に皆を不幸にするから」
そしてそれは本人も分かっていて敢えて受け入れているから、と。
氷霊の木は―――消滅を望んでいる。
だから私は唱えなくてはならない。
『誕生と消滅の呪縛』
そうして―――は消えた。
命は壮大に崩れていった。
葉もつららも枝も幹も粉々に輝いて宙へと舞った。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――。
根元からがらりがらりと、氷は天へと上る。
一緒に体まで浮いていってしまいそうなほど景色を逆さまに降る雪。
天空へと上る結晶の滝。霊のような光を放って―――。
涙は壮大なものにぶつかった時に溢れてくるものである。
チルノは泣いていた。声は出ない。ただその魂の消滅に自然と涙は流れる。
その涙もすぐに氷の結晶となって空へ。
なんて美しいのだろう。
崩れている、壊れているのにどうしてこんなにも綺麗なのだろう。
消滅しているのに、どうしてそんなに嬉しそうなのか、と。
「―――」
「―――――」
あとには二人が残った。氷世界はもう無い。
「その宝石はこの子の『種』なの」
チルノの首に飾ったペンダント。
「少ない力で生み出した正真正銘の彼女自身」
「―――」
見れば優しく青白い光を放っている。
それは、太陽に輝いてか、それともそれ自体が、か。
「それを拾った貴女には消滅に立ち会う権利があったわ」
「―――――」
結局、二人は今日一日で真剣に向き合ったことがあったのだろうか。
多分、二人は全力で向き合っているのだ。体こそ合わせていないものの。
「そしてそれの運命を決める権利も―――」
「―――――――」
チルノの決断は早かった。
頂上の木のあったところへいけば、ぽっかりとその跡が残っている。
「今度は―――いつ会えるのかな?」
「何百年後か何千年後か―――」
あいも変わらずきらきらと輝く種を穴へと。
「でも、もしまた彼女が間違ったほうへ行ってしまったら?」
「そのときは―――」
―――あたいが消してみせる、と。
「―――貴女は強いのね」
私は決してそんなに簡単にものを消すことはできないだろう。
西行妖から彼女を解放できなかったように、しなかったように。
境界の消滅は両面の消滅を意味するから。
「あたいは―――ただ馬鹿なだけ」
だから凍らせるものと、そうでないもの。
消さなければならないものと、そうでないものの区別。
それを私はもっと知らなくちゃ、と。
二人は山を降りた。
途中までは何も無かった。
あの美しかった木々は空へと旅立った。
でも必ず彼らはここへと戻ってくる。
母の元へと。我らが故郷へと。
その時はきっとまた二人はこの山を登ることとなるだろう。
チルノが力を手に入れているかはわからない。
紫がこの幻想郷に居るのかはわからない。
ただ、
また二人はここに来るということだけは確かということ。
そしてそれは何百年何千年後かということはわからないということ。
約束をして、二人は山を背にして降りた。
『―――ありがとう』
「ところで具体的にどうやったら、あたい強くなれるかな?」
「何百年何千年ぐらい経たないと無理ね」
「がーん」
チルノが君臨するのはまだまだ先のようで。
ああ、なにやら目頭に熱いものが・・・
チルノ可愛いよ
チルノ可愛いよチルノ
ああ、うん、とりあえず素は置いといて。
珍しい組み合わせながら素敵に輝くものを見せていただきました。
馬鹿だからこそ考えて、旅をして、たくさんのものを知っていくのでしょう。
そして私もまたそんな彼女が好きなだけで。というかヅカの持ちキャ(ry
百年千年万年後、彼女がどんな素敵な妖怪になっているのかが楽しみです。
ゆかりん? まあ、うん。意外とさり気なくのほほんと居たりして。
いつもチルノはギャグキャラとして使われているんで真面目な話を読んだのはもしかしたら初めてかも。
面白かったですよ。次も期待していますねー
確かに馬鹿だけど、馬鹿だからこそ・・・こんなチルノもいいなぁ
いずれは途方も無い力を持った偉大な妖精になったりするんだろうか?
・・・でも、何百年何千年ぐらい経っても相変わらずな存在であり続ける気もする
それはやっぱり馬鹿だからかな?
チルノも良いけど、紫様もいい感じだなぁ・・・雨宿り中笑ゥせぇるすまんやってるけど
最後の最後でオチつけちゃってるけど