Coolier - 新生・東方創想話

ラストゲーム

2003/12/13 03:43:41
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 ※前作『ハートのジャック』を読んだ方でないと、全く意味不明です(紅魔郷おまけテキストも推奨)
   たったワンシーンの、ラスト・プロローグ










 「ストレートフラッシュ」
 「フルハウスです。お強いですね」

 クッキーが二枚、皿を移る。
 カードに興じるのはテーブルに着いた魔女と従者の二人。
 あるいは、賢者と道化の二人。

 「予め確率を知っていれば、この手のゲームは偶然を許す程度には勝てるわ」
 「ブラフを全く無視されると、私は少しやりにくいですね」
 「あら。貴女がカードに触れなければ、とっくに貴女のクッキーはなくなっている筈なのだけど?」
 「ワンサイドゲームがお好みですか?」

 おどけて道化は紅茶を注ぐ。
 笑って魔女はクッキーを一摘み。

 「テーブルマジックの真髄、というものかしら」
 「何の事でしょう?」
 「何時、どんな技を使ったのか知っていても、目には映らない。大したものね」
 「さて、仰る事はわかりませんが、私はメイドですから。見苦しい姿をお見せするわけには参りません」

 クッキーがテーブルを行ったり来たり。
 カードがテーブルを行ったり来たり。

 「貴女のご主人様は?」
 「神社へお出かけになっています。随分ご執心のようです」
 「妬けるわね」
 「はい。それはもう」

 笑い合って、紅茶を傾ける。
 沈む陽よりもゆっくりと――やがてクッキーが尽きる。

 「ラストゲーム、かしら?」
 「そうですね。ルールはいかが致しますか?」
 「ショットガン方式で、ジャックオアベター。なんてのはどうかしら」
 「――受けましょう」

 道化はカードを三枚、魔女に渡す。
 魔女は三枚のカードを確認する。

 「――コール」
 「ベットは何にしましょうか?」
 「今日の勝ち全て、でどう?」
 「それは助かります」

 道化はカードを一枚、魔女に渡す。
 魔女は四枚になったカードを確認する。

 「――レイズ」
 「まだ賭けるものがありましたか?」
 「お互いの役柄を」
 「では――」


 ――そして時が尽きる。
 紅魔の館が震えて、テーブルの食器が音を立てる。
 近くて深い何処かから、破壊の衝動が出て来ようとしていた。
 魔女と道化は手を止めて、名残惜しげに席を立った。
 見るともなく、沈みかけの陽を窓越しに眺めた。

 「時間切れね」
 「逢魔が時、ですね」

 魔女はテーブルに手を伸ばし、手札を全て露にする。
 ハートのキング、クイーン、ジャック――そして、ジョーカー。

 「勝ったも同然だったのだけど」
 「役無しかもしれませんよ」

 道化はテーブルに手を伸ばし、カードの山を爪弾く。
 ラストカードは、未だ山の中。

 「せっかくだから、今日は貴女の役を一つもらうわ――妹様の守りをね」
 「いえ、それは――」

  『 水精よ 唄え 』

 轟音と。震動と。
 天を破って落ちてきた水の槍が、地を穿つ。

  『 謡え 謳え 汝等が至宝に唱を捧げ  来れ 水精の姫君  我は請わん 猛き者に一時の安らぎを 』

 横から射す夕日はそのままに、館の周囲だけを豪雨が抉る。
 土を跳ね飛ばし、なおも地を抉り取り、身の丈を超える程の即席の堀を築く。

  『 見よ 汝が名は深淵に刻まれり  我 姫君と唄うは鎮魂の哀歌  湖底に眠れ 我が罪と共に 』

 魔女が指す先を雨が切り崩し、堀が湖まで伸びた。
 堀に湖の水が流れ込み、泥水を押し流し、清廉な水流が館を取り囲んだ。

 「心配無用よ。今日の私は絶好調なんだから」
 「あまりご無理をなさりませんように」
 「ええ。でも――お姫様を閉じ込めるのは、悪い魔女と相場が決まってるのよ」
 「では、私は私の役を」
 「紅い悪魔が白い兎を演じるなんて、可笑しなものだけどね」
 「そうですか? お似合かと思いますけど」
 「――そうかもしれないわね。まぁ私達は所詮脇役。精々舞台を盛り上げましょう」
 「このゲーム、勝てますか?」
 「全ては、ラストカードね」




 魔女の魔法か道化の悪戯、はたまた悪魔の誘いか。
 ラストゲームの手札には、ハートのキングとクイーンとジャック、ジョーカー。

 果たしてラストカードは――

  最もシンプルで何も持たず、何よりも強いエース?
  最も普通を集めて積み上げて、高き位に至ったテン?
  それとも、役無し?







『ハートのジャック』を読んで貰えた全ての方に捧ぐ――
――蛇の足。(駄目じゃん)

稚拙な作品を読んで頂けて、ありがとうございます。
6回目のはじめまして。Amakと申します。
前回が長くてアレな話だったので、説明も込めつつさらにアレな話をお送りしました。(だから蛇の足を補足するなと)
トランプをお手元に用意してお楽しみください。・・・と後書きで言ってみる。
とことん短くしようと思ったのに、弾幕を入れずにはいられないのが私の性分のようです。反省。
次作を書く時は、もう少し読み易く書く事を意識したいと思います。

もし感想などありましたら、下の感想フォームに一言頂けると幸いです。メール( [email protected] )でも構いません。

久しぶりに書いた作品に反応をたくさん頂けて、吃驚すると共に本当に感謝しています。ありがとうございます。
では、また縁の交わる時に。

 ( 12/12 19:00 初稿 )
Amak
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コメント



0.3650簡易評価
1.40すけなり削除
しまった、前作の内容がうろ覚えだっ<br>
読 み 直 さ な け れ ば っ !!
2.40削除
こんな気分の時なんと言えばいいのか俺は知っている。
そう、お も し ろ い だ。
3.4063削除
思わず前作を読み直しちゃいました…。
4.50Sak削除
なんだかわくわくしちゃいました。このシリーズ、「もし」があれば今後も読みたいものですね。
5.40超無能の人削除
面白いと思います。前作は読みましたが、判りづらい部分が少しあり、そのあたりのみ残念です。
6.50甲斐削除
カードに例えた各キャラの表現が上手いなー
格好いい回りくどい言い回しが似合うねえ この二人。
7.50勇希望削除
ぐっとですハイ。
上手く状況を伝えない事により、想像力を沸き立たせる手法。
この東方にはうってつけなように思えます。(ゲームが映像主体だから)
兎にも角にも、ご馳走様でした(ぺこり