えェ幻想郷と申しましても、みんながみんな霧や霞やファンタジーを食べて生活しているわけではございませんし、着物ですとか家具ですとかいった必需品を自前でこしらえているわけではございませんで。
人間だって妖怪だって悪魔だって幽霊だってその他の何かだって、欲しいもの、必要なものは戦って奪い取るかそうでなければコレ、そうお金をですね、支払わなければならないのでございますな。
しかしまあ、そこは呑気な幻想郷、おおかたの商いはツケがききます。
このツケは年の瀬にまとめて払うのがならわしでして、もしも年を越してしまうと一切チャラになってしまうという。
のんびりしたものでございます。
とはいえ貸し手は何が何でも取り立てようといたしますし、逆に借り手はどうにかして逃げ切ってやろうと思案するというわけで、大晦日ともなりますとあちこちで貸し手対借り手の仁義なき争いが勃発し、なかなか大騒ぎになろうかという。
「レティーー!」
「なあに? そんなに、大声だすと、よいしょ、ただでさえ少ない知恵結晶が、溶けてしまうわよ。んっ」
「って、のんきに冷凍年越しソバなんか撃ってる場合じゃないでしょっ! どうするのよ、今日は大晦日よ!?」
「知ってるわよ。だからこうして年越しソバを撃って、よっ、新年に備えてるんじゃない」
「そーゆー問題じゃないー! あんたねえ、うちがどれだけ四方八方にツケてるか分かってるの!?」
「どうだったかしら」
「それもこれも、あんたが『冬の冥界まつり』(通称・冬黄泉)なんかに入れ込むからいけないのよっ」
「あら、せっかくのお祭りだもの。それに、書物をこしらえて売るっていうのは、とてもアカデミックな、
もっといえばルサンチマン的な行為なんだから」
「レオスリックだかサルーマンだか知らないけど、残ったのはこの大量~~の在庫じゃないのっ。
第一、死人相手に『冷え性のなおしかた』なんてネタがウケるわけないでしょっ。
おかげで、うちの家計ガタガタなんだからっ」
「火計だけに火の車って感じ?」
「寒っ」
「やっぱり、中身が健康法に見せかけた単なるチルノいじめ話だったのがマズかったのかしら」
「?!」
「ま、仕方ないじゃない。こうなったらあきらめて、夜逃げでもしましょ」
「夜逃げって……あいつらから逃げ切るなんて無茶だよ」
「う~ん。しょうがないわね、何とか考えるしかないかしら」
「んっ!? さっそく誰か来たみたい」
「借りた金はきちんと返す!」
「そーなんやー」
「あ、猫と宵闇のだ」
玄関前で気勢をあげているのは、黒猫と闇妖怪のダブルブラックであります。
「ふむう。あの二人が好きなものは?」
「そりゃ……猫は魚、宵闇のは人間じゃあないの」
「それなら――」
「さっさと耳を揃えて返さないと、この黒闇いのぶっかけるよっ」
「そーなん…………えっ?」
「ぶっかけ禁止」
「出てきたね白寒いの。さあ、15万マヨヒ貨、ちゃーんと返してっ」
「なーのだー」
「ええ、返したいのはやまやまなのだけど……そうそう。最近私、釣りに凝ってるのよ」
「釣り?」
「ええ、このとおり」
とレティが釣堀に糸を垂らしますと、ほどなくギュワッパと手ごたえ。
えいやっ、と釣り上げますと、釣果はぴちぴち元気な半魚人。
「うーん、まずまずのサイズね」
「ぴっちぴち」
「ニョッハー! これはイイ釣堀ー」
「だー!」
「良かったら、釣っていく?」
「え、いいの? 釣る釣るぅ~!」
「ーー!」
かくして猫と宵闇、任務も忘れ、仲良く釣り糸を垂らそうかという。
「ふう。これであいつらは問題なしね」
「なんであたしがこんなカッコを……」
魚の着ぐるみを脱ぎながらぼやくチルノ、恋娘であります。
「ぼやいてる暇はないわよ。次がおいでなすったようだから」
「~~!?」
「我ら騒霊音楽隊! 貸した金はきっちり取り戻すわ。ヴァヴァヴァー」
「ランラーン、ペペッペーー」
「ボボッボッボッ、キーボッボーー」
「うわ、騒がしい奴らが来ちゃった」
「あの連中は何が好きなのかしら」
「そりゃあ、やっぱり演奏なんじゃない」
「それなら――」
「ヴァヴァ~、ヴァリヴァリ~~ヴァイオリオリ~~」
「姉さん頑張るわね」
「しょうがないよ。楽器は質に預けたままだから」
「そんな貧霊に朗報」
「ヴァー! 出たわね白太いの。あんたらが素直に借金返せば楽器も取り戻せるのよ。
さあ、450万ポルきっちり返して頂戴。さもないといつまでもここで演奏し続けるから」
「ララーン、トラランペッペー」
「キッボッキュン、キュボボー」
「それは迷惑だわ。ときに、最近私も楽器に凝ってるのよ」
「楽器」
「ええ。この通り」
とレティ、取り出だしたる太鼓をば、撥で一殴り。
『テンバッ!?』
「なんか悲鳴みたいなのが聞こえたけど」
「気のせいよ。はいもういちど」
『オテンバッ! オテンバー! テンバーーー!!』
「なかなか楽しそうね」
「ランララーン」
「何なら打ってみる?」
「それじゃ遠慮なく」
と三姉妹、撥を手に取って太鼓の乱れうちであります。
『テバッ! オテッ、オテンバオテンバァァ~~~!!』
「ふう、なかなか楽しかった」
「ランララ」
「たまには太鼓もいいよねー」
かくしてすっかり満足し、目的も忘れて帰ってしまおうという。
「毎度あり~~……ご苦労様」
「な、なんであたしが、こんな目に……っ」
太鼓の着ぐるみを脱ぎながら、半死半生のチルノであります。
「呑気してる場合じゃないわよ。また新たな刺客が」
「もーいやー!」
「除夕(おおみそか)なんて、まだ一ヶ月も先なのに……」
「それは――故郷の暦では」
「まあそうなんだけどね。誰も花火とか鳴らさないし」
「今度は紅魔館の門番と小悪魔のようね」
「あいつらに、好きなものなんかあったかなぁ……」
「そうね――」
「たのもー! お金返して! お金返してよぉーー!」
「ちょっと必死過ぎませんか」
そこへレティが出てこようという。
「出たわね白丸いの! さあ、うちから借りた4950万紅魔法(フラン)、きっちり返して!」
「我姓名的“白岩零低”、汝要望、我願望的返済、而我貧乏故不可也」
「う……っ」
「妙なことを言っても誤魔化されはしません。さあ、お金を――」
「ま、待って……」
「え」
「我代償的借金、是恋娘“魑褸熨”的至芸御披露。要御注目!」
と零低、取り出だしたる打ち上げ台に点火するや、宙に打ち上げられた花火、
まあ魑褸熨なのですが、彼女が打ち出す氷弾が火の玉と相まって、美事な花を夜空に咲かせようという。
「…………」
小悪魔が見れば、門番滂沱の涙。
「あの頃は……もう、戻らないのね」
その目に映っていたのは、なくした故郷の思い出でありましたでしょうか。
「来年は――お付き合いしましょうか。花火」
「そう? そうね……」
二人してとぼとぼと帰っていく姿を見送りながら、零低一安心であります。
「ふう。溶けてない、魑褸熨?」
「もうちょっとで溶けそうだったわよ……っ」
「まあ、正月前にダイエット出来て良かったんじゃない」
「あんたは零低どころか冷血や」
『レティチル万歳』、中ほどでございます。
人間だって妖怪だって悪魔だって幽霊だってその他の何かだって、欲しいもの、必要なものは戦って奪い取るかそうでなければコレ、そうお金をですね、支払わなければならないのでございますな。
しかしまあ、そこは呑気な幻想郷、おおかたの商いはツケがききます。
このツケは年の瀬にまとめて払うのがならわしでして、もしも年を越してしまうと一切チャラになってしまうという。
のんびりしたものでございます。
とはいえ貸し手は何が何でも取り立てようといたしますし、逆に借り手はどうにかして逃げ切ってやろうと思案するというわけで、大晦日ともなりますとあちこちで貸し手対借り手の仁義なき争いが勃発し、なかなか大騒ぎになろうかという。
「レティーー!」
「なあに? そんなに、大声だすと、よいしょ、ただでさえ少ない知恵結晶が、溶けてしまうわよ。んっ」
「って、のんきに冷凍年越しソバなんか撃ってる場合じゃないでしょっ! どうするのよ、今日は大晦日よ!?」
「知ってるわよ。だからこうして年越しソバを撃って、よっ、新年に備えてるんじゃない」
「そーゆー問題じゃないー! あんたねえ、うちがどれだけ四方八方にツケてるか分かってるの!?」
「どうだったかしら」
「それもこれも、あんたが『冬の冥界まつり』(通称・冬黄泉)なんかに入れ込むからいけないのよっ」
「あら、せっかくのお祭りだもの。それに、書物をこしらえて売るっていうのは、とてもアカデミックな、
もっといえばルサンチマン的な行為なんだから」
「レオスリックだかサルーマンだか知らないけど、残ったのはこの大量~~の在庫じゃないのっ。
第一、死人相手に『冷え性のなおしかた』なんてネタがウケるわけないでしょっ。
おかげで、うちの家計ガタガタなんだからっ」
「火計だけに火の車って感じ?」
「寒っ」
「やっぱり、中身が健康法に見せかけた単なるチルノいじめ話だったのがマズかったのかしら」
「?!」
「ま、仕方ないじゃない。こうなったらあきらめて、夜逃げでもしましょ」
「夜逃げって……あいつらから逃げ切るなんて無茶だよ」
「う~ん。しょうがないわね、何とか考えるしかないかしら」
「んっ!? さっそく誰か来たみたい」
「借りた金はきちんと返す!」
「そーなんやー」
「あ、猫と宵闇のだ」
玄関前で気勢をあげているのは、黒猫と闇妖怪のダブルブラックであります。
「ふむう。あの二人が好きなものは?」
「そりゃ……猫は魚、宵闇のは人間じゃあないの」
「それなら――」
「さっさと耳を揃えて返さないと、この黒闇いのぶっかけるよっ」
「そーなん…………えっ?」
「ぶっかけ禁止」
「出てきたね白寒いの。さあ、15万マヨヒ貨、ちゃーんと返してっ」
「なーのだー」
「ええ、返したいのはやまやまなのだけど……そうそう。最近私、釣りに凝ってるのよ」
「釣り?」
「ええ、このとおり」
とレティが釣堀に糸を垂らしますと、ほどなくギュワッパと手ごたえ。
えいやっ、と釣り上げますと、釣果はぴちぴち元気な半魚人。
「うーん、まずまずのサイズね」
「ぴっちぴち」
「ニョッハー! これはイイ釣堀ー」
「だー!」
「良かったら、釣っていく?」
「え、いいの? 釣る釣るぅ~!」
「ーー!」
かくして猫と宵闇、任務も忘れ、仲良く釣り糸を垂らそうかという。
「ふう。これであいつらは問題なしね」
「なんであたしがこんなカッコを……」
魚の着ぐるみを脱ぎながらぼやくチルノ、恋娘であります。
「ぼやいてる暇はないわよ。次がおいでなすったようだから」
「~~!?」
「我ら騒霊音楽隊! 貸した金はきっちり取り戻すわ。ヴァヴァヴァー」
「ランラーン、ペペッペーー」
「ボボッボッボッ、キーボッボーー」
「うわ、騒がしい奴らが来ちゃった」
「あの連中は何が好きなのかしら」
「そりゃあ、やっぱり演奏なんじゃない」
「それなら――」
「ヴァヴァ~、ヴァリヴァリ~~ヴァイオリオリ~~」
「姉さん頑張るわね」
「しょうがないよ。楽器は質に預けたままだから」
「そんな貧霊に朗報」
「ヴァー! 出たわね白太いの。あんたらが素直に借金返せば楽器も取り戻せるのよ。
さあ、450万ポルきっちり返して頂戴。さもないといつまでもここで演奏し続けるから」
「ララーン、トラランペッペー」
「キッボッキュン、キュボボー」
「それは迷惑だわ。ときに、最近私も楽器に凝ってるのよ」
「楽器」
「ええ。この通り」
とレティ、取り出だしたる太鼓をば、撥で一殴り。
『テンバッ!?』
「なんか悲鳴みたいなのが聞こえたけど」
「気のせいよ。はいもういちど」
『オテンバッ! オテンバー! テンバーーー!!』
「なかなか楽しそうね」
「ランララーン」
「何なら打ってみる?」
「それじゃ遠慮なく」
と三姉妹、撥を手に取って太鼓の乱れうちであります。
『テバッ! オテッ、オテンバオテンバァァ~~~!!』
「ふう、なかなか楽しかった」
「ランララ」
「たまには太鼓もいいよねー」
かくしてすっかり満足し、目的も忘れて帰ってしまおうという。
「毎度あり~~……ご苦労様」
「な、なんであたしが、こんな目に……っ」
太鼓の着ぐるみを脱ぎながら、半死半生のチルノであります。
「呑気してる場合じゃないわよ。また新たな刺客が」
「もーいやー!」
「除夕(おおみそか)なんて、まだ一ヶ月も先なのに……」
「それは――故郷の暦では」
「まあそうなんだけどね。誰も花火とか鳴らさないし」
「今度は紅魔館の門番と小悪魔のようね」
「あいつらに、好きなものなんかあったかなぁ……」
「そうね――」
「たのもー! お金返して! お金返してよぉーー!」
「ちょっと必死過ぎませんか」
そこへレティが出てこようという。
「出たわね白丸いの! さあ、うちから借りた4950万紅魔法(フラン)、きっちり返して!」
「我姓名的“白岩零低”、汝要望、我願望的返済、而我貧乏故不可也」
「う……っ」
「妙なことを言っても誤魔化されはしません。さあ、お金を――」
「ま、待って……」
「え」
「我代償的借金、是恋娘“魑褸熨”的至芸御披露。要御注目!」
と零低、取り出だしたる打ち上げ台に点火するや、宙に打ち上げられた花火、
まあ魑褸熨なのですが、彼女が打ち出す氷弾が火の玉と相まって、美事な花を夜空に咲かせようという。
「…………」
小悪魔が見れば、門番滂沱の涙。
「あの頃は……もう、戻らないのね」
その目に映っていたのは、なくした故郷の思い出でありましたでしょうか。
「来年は――お付き合いしましょうか。花火」
「そう? そうね……」
二人してとぼとぼと帰っていく姿を見送りながら、零低一安心であります。
「ふう。溶けてない、魑褸熨?」
「もうちょっとで溶けそうだったわよ……っ」
「まあ、正月前にダイエット出来て良かったんじゃない」
「あんたは零低どころか冷血や」
『レティチル万歳』、中ほどでございます。