○月×日 晴れ
今日はなんだか退屈だ。 本を読んでいれば時間も忘れるが、ここ数日それしかしていないことに気がつく。
なので暇つぶしに幻想郷で最も知られていて、かつ謎な物体を観察してみる。
観察対象:毛玉
観察期間:飽きるまで
観察目的:知的好奇心の充足、満ち足りた無為なる時間を過ごす為
─1─対象捜索
とりあえず毛玉を探しに幻想郷を飛ぶ。
三分後、毛玉群に遭遇。
数はおよそ十。 編隊を組んでおらずふよふよと飛んでいるものだった。(以後aとする)
─2─観察開始
約五十メートルの距離をとり、木の陰から毛玉を観察することにした。
十分後。 変化が見られない。 もしかしたら凄く退屈なことを思いついたのかもしれない。
五分後。 発見した毛玉群に別の毛玉群(二十近い数だ。以後bとする)が接近、交戦を開始した。
bの毛玉群は編隊を組んだ統率の取れたもので、瞬く間にaを壊滅した。
bはaの殲滅後、縄張りのマーキングをするでもなくどこかへ飛んでいった。 意味が、わからない。
一方で壊滅されたaの毛玉群が居た付近には、大量の毛と幾つかの点アイテムが残されていただけだった。
─3─観察結果(1日目)
どうやら毛玉同士でも小競り合いをするらしい。
aの毛玉の死骸(?)を調べても核のようなものが見当たらなかった。
核は点、もしくはPアイテムという仮説も立てたが、観測された毛玉の数より少なかった。
風が強くなってきて寒いので、今日の調査はここで打ち切ることにした。 秋風が身にしみる。
─4─初日追記
帰り際にbのような編隊毛玉に遭遇。
一匹鷲づかみにすると、思いのほかふさふさとした感触に驚く。
しばらくその手触りを楽しんでいると、はらはらと毛が散って毛玉じゃなくなった。
残されたのは幾らかの毛と点アイテムと、僅かばかりの悲しさだった。 ちょっとだけ胸が痛んだ。
○月△日
観察二日目。
今日は私以上に身近に毛玉が居るであろう者達に聞き込みをすることにした。
家からそう遠くない毛玉の群生地といえば紅魔館のある湖だ。
昼用のお弁当を用意して早速湖に向かった。
─1─証言記録
以下得られた証言その他を記録しておく。
証言a:湖上の妖精
「はぁ?毛玉? あんたも暇ねぇ。 ……わかったからそのスペルはやめて…。
知ってること…点アイテム出すとか、Pアイテムとか……あ、やっぱ知ってるか。
そうね、あとは……そうだ、あいつらってやられた後毛が残るじゃない?
こないだあんたが通ったときとか凄かったんだけど、一晩したらなくなってたのよね。
あとは湖を通ろうとするやつを攻撃するとか………何?喧嘩売ってるわけ?
誰があんな妙なのと同じ行動してるってのよ!
頭来た、もう二度と陸には上がらせないよ!
……ってうわちょっとまったそれ弾幕じゃないっていうかどうやって避けr」
証言b:紅魔館門番
「……魔女って変わり者ばっかりなのかしら…。 ううんなんでもない、こっちの話。
毛玉…よくわからないけど私達警備隊に懐いてるみたい、この辺りのやつ。
結構可愛いよね? え? 変わってる? そうかなぁ……。
…あ、そうそう、毛玉の毛ってどこ行くかって知らない?
やられたの集めて置いといても一晩すると無くなってるのよね~。
あそっか、今それ調べてるんだっけ。
…そういえば図書室内とかにも居るからパチュリー様に聞いてみたら?」
午前の聞き込みはここまでにして、紅魔館門番と昼食をとることにした。
お弁当の食べ比べをしたが、どうにも負けている気がした。
食後、小休止の後腹ごなしに弾幕ごっこをする。
紅魔館門番が移動や回避をするたびに揺れる胸元を見て少し悲しくなった。
もっと牛乳を飲もうと思う。
運動を済ませ、紅魔館門番に見送られながら館に入った。
─午前までの収穫:毛玉の毛の行方が謎。
午後。 図書室内に入ってみたものの、毛玉もパチュリーも見当たらない。
広い室内をしばらく飛んでいると、この部屋の主の使い魔(?)の小悪魔を発見した。
証言c:小悪魔
「あ、魔理沙さんこんにちは。 え?今ですか?時間はありますけど…。
ええ、ちょっと毛玉の退治してたんですよ。ほらパチュリー様って喘息じゃないですか。
毛玉って動き回るから埃が飛んで……。 やっつけたやつですか?
あっちにまとめてありますけど…。パチュリー様に焼却してもらわないとまた毛玉に戻っちゃいますからね。」
毛玉に戻る!?
私は勢い込んで子悪魔にどういうことかを問い質した。
「え?あ、はい。 しばらく放って置いて、風とかが吹くとくるくる~って回りだして、ぴゅ~って。
……わかりにくかったですか…。 じゃああの毛玉の残骸、処分してくださるなら観察しても構いませんよ?
それと今パチュリー様はお昼寝中だと思います。お静かにお願いしますね。
それでは私は毛玉退治に戻りますから。
……いいえ、こちらこそ。 それでは処分お任せしますね。」
思わぬところで毛玉の謎解明の第一歩を発見。
─2─観察開始
……観察を開始してすでに数時間が経過した。 特になにも起こらない。
じれったくなって風を起こしたりもしたが、毛と埃が舞うだけだった。
起きてきたパチュリーに怒られる。 観察の続きは外でやるはめになった。
袋詰めした毛を持って外にでると紅魔館門番にいろいろ質問を受ける。
大まかに説明すると彼女は楽しそうに、「じゃあ一緒に観察しよう。」と持ちかけてきた。
わざわざ家まで持って帰って観察するのも面倒なので承諾すると、紅魔館門番は嬉々としてテラスにお茶の用意を始めた。
その間に私は袋詰めの毛を適当な位置に撒いておいた。
紅魔館門番はよく喋り、何くれとなく良くしてくれた。 ……名前を忘れているとはとても言い出せなかった。
再び数時間が過ぎて満天の星が輝きだすと、寒さのせいもあり流石に会話が続かなくなってきた。
ちなみに今テラスに居るのは私と咲夜と美鈴(こっそり咲夜に名前を聞いた)だ。
咲夜は門番を思いっきりサボっている美鈴を叱りに来たのだが、毛玉の話を出してやると興味を示したようで、そのままここで観察を始めた。
さらに時間が過ぎ、咲夜がお茶の代わりを入れてこようと席を立った瞬間!
冬を感じさせる冷たい風が吹きぬけ、毛の山が淡く光りながら動き始めたのだ。
全員の視線が集まる中で、毛の山が風にあおられてテラスから離れていった。
慌ててその後を追う。
追いついた頃には毛の山の中に幾つかの小さな毛玉が出来かかっていた。
転がるごとにその毛玉は確実に大きくなっていく。
毛の山がほとんど毛玉に取って代わったとき、先ほどよりも強い風が吹き抜けた。
「………綺麗……。」
誰が言ったのかはわからない。しかしその光景は確実に「美しい」ものだったのだ。
仄かに光る毛玉が空に向かって加速し、上空でちりぢりになる。
光は尾を引き、渦巻き、天をかける。 幻想が日常である幻想郷ですら幻想的な光景。
それはさながら地から天に降る流星のようであった……。
─3─観察結果(2日目)
ただの暇つぶしが思わぬ収穫になった。
明日の調査の予定を頭の中で組んでいたが、唐突にこれ以上の調査を取りやめることにした。
柄でもない話だが、謎が謎のまま残っているのも悪くはない気がしてきたからだ。
毛玉のことを調査していて分かったことが一つあった。
世界はまだ、謎に満ちている。
そしてその謎が無くならない限り、私はきっと退屈せずにいられるのだろう。
今日はなんだか退屈だ。 本を読んでいれば時間も忘れるが、ここ数日それしかしていないことに気がつく。
なので暇つぶしに幻想郷で最も知られていて、かつ謎な物体を観察してみる。
観察対象:毛玉
観察期間:飽きるまで
観察目的:知的好奇心の充足、満ち足りた無為なる時間を過ごす為
─1─対象捜索
とりあえず毛玉を探しに幻想郷を飛ぶ。
三分後、毛玉群に遭遇。
数はおよそ十。 編隊を組んでおらずふよふよと飛んでいるものだった。(以後aとする)
─2─観察開始
約五十メートルの距離をとり、木の陰から毛玉を観察することにした。
十分後。 変化が見られない。 もしかしたら凄く退屈なことを思いついたのかもしれない。
五分後。 発見した毛玉群に別の毛玉群(二十近い数だ。以後bとする)が接近、交戦を開始した。
bの毛玉群は編隊を組んだ統率の取れたもので、瞬く間にaを壊滅した。
bはaの殲滅後、縄張りのマーキングをするでもなくどこかへ飛んでいった。 意味が、わからない。
一方で壊滅されたaの毛玉群が居た付近には、大量の毛と幾つかの点アイテムが残されていただけだった。
─3─観察結果(1日目)
どうやら毛玉同士でも小競り合いをするらしい。
aの毛玉の死骸(?)を調べても核のようなものが見当たらなかった。
核は点、もしくはPアイテムという仮説も立てたが、観測された毛玉の数より少なかった。
風が強くなってきて寒いので、今日の調査はここで打ち切ることにした。 秋風が身にしみる。
─4─初日追記
帰り際にbのような編隊毛玉に遭遇。
一匹鷲づかみにすると、思いのほかふさふさとした感触に驚く。
しばらくその手触りを楽しんでいると、はらはらと毛が散って毛玉じゃなくなった。
残されたのは幾らかの毛と点アイテムと、僅かばかりの悲しさだった。 ちょっとだけ胸が痛んだ。
○月△日
観察二日目。
今日は私以上に身近に毛玉が居るであろう者達に聞き込みをすることにした。
家からそう遠くない毛玉の群生地といえば紅魔館のある湖だ。
昼用のお弁当を用意して早速湖に向かった。
─1─証言記録
以下得られた証言その他を記録しておく。
証言a:湖上の妖精
「はぁ?毛玉? あんたも暇ねぇ。 ……わかったからそのスペルはやめて…。
知ってること…点アイテム出すとか、Pアイテムとか……あ、やっぱ知ってるか。
そうね、あとは……そうだ、あいつらってやられた後毛が残るじゃない?
こないだあんたが通ったときとか凄かったんだけど、一晩したらなくなってたのよね。
あとは湖を通ろうとするやつを攻撃するとか………何?喧嘩売ってるわけ?
誰があんな妙なのと同じ行動してるってのよ!
頭来た、もう二度と陸には上がらせないよ!
……ってうわちょっとまったそれ弾幕じゃないっていうかどうやって避けr」
証言b:紅魔館門番
「……魔女って変わり者ばっかりなのかしら…。 ううんなんでもない、こっちの話。
毛玉…よくわからないけど私達警備隊に懐いてるみたい、この辺りのやつ。
結構可愛いよね? え? 変わってる? そうかなぁ……。
…あ、そうそう、毛玉の毛ってどこ行くかって知らない?
やられたの集めて置いといても一晩すると無くなってるのよね~。
あそっか、今それ調べてるんだっけ。
…そういえば図書室内とかにも居るからパチュリー様に聞いてみたら?」
午前の聞き込みはここまでにして、紅魔館門番と昼食をとることにした。
お弁当の食べ比べをしたが、どうにも負けている気がした。
食後、小休止の後腹ごなしに弾幕ごっこをする。
紅魔館門番が移動や回避をするたびに揺れる胸元を見て少し悲しくなった。
もっと牛乳を飲もうと思う。
運動を済ませ、紅魔館門番に見送られながら館に入った。
─午前までの収穫:毛玉の毛の行方が謎。
午後。 図書室内に入ってみたものの、毛玉もパチュリーも見当たらない。
広い室内をしばらく飛んでいると、この部屋の主の使い魔(?)の小悪魔を発見した。
証言c:小悪魔
「あ、魔理沙さんこんにちは。 え?今ですか?時間はありますけど…。
ええ、ちょっと毛玉の退治してたんですよ。ほらパチュリー様って喘息じゃないですか。
毛玉って動き回るから埃が飛んで……。 やっつけたやつですか?
あっちにまとめてありますけど…。パチュリー様に焼却してもらわないとまた毛玉に戻っちゃいますからね。」
毛玉に戻る!?
私は勢い込んで子悪魔にどういうことかを問い質した。
「え?あ、はい。 しばらく放って置いて、風とかが吹くとくるくる~って回りだして、ぴゅ~って。
……わかりにくかったですか…。 じゃああの毛玉の残骸、処分してくださるなら観察しても構いませんよ?
それと今パチュリー様はお昼寝中だと思います。お静かにお願いしますね。
それでは私は毛玉退治に戻りますから。
……いいえ、こちらこそ。 それでは処分お任せしますね。」
思わぬところで毛玉の謎解明の第一歩を発見。
─2─観察開始
……観察を開始してすでに数時間が経過した。 特になにも起こらない。
じれったくなって風を起こしたりもしたが、毛と埃が舞うだけだった。
起きてきたパチュリーに怒られる。 観察の続きは外でやるはめになった。
袋詰めした毛を持って外にでると紅魔館門番にいろいろ質問を受ける。
大まかに説明すると彼女は楽しそうに、「じゃあ一緒に観察しよう。」と持ちかけてきた。
わざわざ家まで持って帰って観察するのも面倒なので承諾すると、紅魔館門番は嬉々としてテラスにお茶の用意を始めた。
その間に私は袋詰めの毛を適当な位置に撒いておいた。
紅魔館門番はよく喋り、何くれとなく良くしてくれた。 ……名前を忘れているとはとても言い出せなかった。
再び数時間が過ぎて満天の星が輝きだすと、寒さのせいもあり流石に会話が続かなくなってきた。
ちなみに今テラスに居るのは私と咲夜と美鈴(こっそり咲夜に名前を聞いた)だ。
咲夜は門番を思いっきりサボっている美鈴を叱りに来たのだが、毛玉の話を出してやると興味を示したようで、そのままここで観察を始めた。
さらに時間が過ぎ、咲夜がお茶の代わりを入れてこようと席を立った瞬間!
冬を感じさせる冷たい風が吹きぬけ、毛の山が淡く光りながら動き始めたのだ。
全員の視線が集まる中で、毛の山が風にあおられてテラスから離れていった。
慌ててその後を追う。
追いついた頃には毛の山の中に幾つかの小さな毛玉が出来かかっていた。
転がるごとにその毛玉は確実に大きくなっていく。
毛の山がほとんど毛玉に取って代わったとき、先ほどよりも強い風が吹き抜けた。
「………綺麗……。」
誰が言ったのかはわからない。しかしその光景は確実に「美しい」ものだったのだ。
仄かに光る毛玉が空に向かって加速し、上空でちりぢりになる。
光は尾を引き、渦巻き、天をかける。 幻想が日常である幻想郷ですら幻想的な光景。
それはさながら地から天に降る流星のようであった……。
─3─観察結果(2日目)
ただの暇つぶしが思わぬ収穫になった。
明日の調査の予定を頭の中で組んでいたが、唐突にこれ以上の調査を取りやめることにした。
柄でもない話だが、謎が謎のまま残っているのも悪くはない気がしてきたからだ。
毛玉のことを調査していて分かったことが一つあった。
世界はまだ、謎に満ちている。
そしてその謎が無くならない限り、私はきっと退屈せずにいられるのだろう。
面白かったです