Coolier - 新生・東方創想話

東方アームズ2 -second blossoms-

2003/11/28 15:30:51
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#初めに
―これは、「もし幽々子が全てを知っていたら?」というのが前提になっています―


「ちっ……しつこいっ!」

亡霊の姫・幽々子から放たれる、生ける者を死へと誘う蝶。
まとわりつき生命を吸い上げられる前に、後方に陣取る咲夜のナイフがその身を貫いていく。
しかし、ナイフは有限、蝶は無限。このままではジリ貧になるのは明らかだった。
「ちょっとあんたたち、ボケッとしてないで何とかしなさいよ!」
咲夜よりも前線にいる二人、霊夢と魔理沙を怒鳴り付ける。
「何とか出来たらやってるわよ……っ!!」
幽々子から放たれるものは蝶だけではない。空間を埋め尽くす無数の亡霊が、主の指揮により侵入者に群がる。
咲夜が蝶を相殺してくれている為、回避そのものはさほど問題ではないのだが、それでもかわすのに精一杯で他の動作に気を回す余裕が無い。
「くそっ、どうすりゃいいんだよっ……!」
帽子を手で押さえ、右に左にと動き回る魔理沙。俊敏な身のこなしはいいのだが、霊夢にとってはチョコマカと動かれるのが鬱陶しい。
「魔理沙、もっと静かに避けなさいよ!」
「無茶言うな、止まったら死ぬぜ…………あっ」
一瞬気をそらした隙を縫って、亡霊が魔理沙に迫る。慌てて体を逸らしたが、その弾みで帽子が宙に舞った。
思わず幽々子から目線を外した、その時。
「魔理沙、上!」
「ん……しまった……!」
咲夜が撃ち漏らした一匹の死蝶、それが魔理沙の頭に止まる。……瞬く間に奪われる生命力。
「――――――――――!!!」
「魔理沙っ!!」
亡霊の海を強引に突き抜け、大麻を振り死蝶を砕く。眩暈を覚えふらつく魔理沙を、慌てて支える。
「油断、したぜ……」
「大丈夫!? いったん離脱するわよっ!!」
魔理沙を肩で支え、全速力で咲夜のいる地点まで後退する。無理矢理突っ切った為、弾幕が衣服をかすめ焦がしていく。

「さぁ、あなた達……集めてきた春を、私に渡しなさい。
 私は、全ての春をこの手にしなければならないのよ」
幽々子の声が聞こえる。幾万の魂を統べる者の、全てを威圧する威厳ある声。上に立つ支配者の持つ、特有の威圧感。
声に震え、ますますざわめき立つ亡者の魂。それはさながら、瞬く星の光のようだった。

「全く、気を抜くからよ」
「へっ、悪かったな……」
悪態を吐くものの、三人ともダメージが蓄積しているのは明らかだった。
短期決戦で望むつもりだったが、いかんせんここに辿り着くまでに消耗しすぎた。予想以上の力に、ジリジリと後退を余儀なくされる。
「このままじゃ確実にやられる……何かいい案は無いのか?」
ふわふわと近付く蝶を落とし続ける咲夜。恐るべきコントロールで時には一度に二匹の蝶を貫くが、
それはあくまで防いでいるというだけで、その刃の一つも幽々子には届いていない。
「……あんた達、残ってる符はいくつ?」
霊夢が懐から一枚の符を取り出し、二人に確認する。
「……マスタースパーク一発」
「……同じく残り一枚」
「……絶体絶命、ね」
残された力は僅か。しかし、闇雲に突っ込んだら玉砕するのは目に見えている。となると、選べる選択肢は一つしかなかった。
「……三人同時の一点集中攻撃、か」
「それしかないな。で、どうやって?」
「……まず私が突っ込む。で、あいつの気を惹いてるうちに、二人は両脇に回りこんで。
 そして、咲夜があいつの周りの亡霊を吹き飛ばしたら、私と魔理沙で同時に符を解放。……これで行きましょ」
「一番危険な役回りよ?」
「あんた達の方が、私より足速いでしょ。これは時間との勝負、一瞬でも遅れたらそこで終わりよ」
「分かった、任せるぜ。
 ………………死ぬなよ」
「お互い様よ」
作戦は決まった。後は、決行あるのみ。幽々子を睨み、少しずつ前進する。
「用意はいい?」
「いつでも」
「あぁ、構わないぜ」
「疾っ――――――――――!!!」
二人の返事を聞くと同時に、霊夢は単身幽々子に真正面から突っ込んでいった。

揺らめく蝶を砕き、蠢く亡霊を払い、全身に弾幕をかすめながらも、徐々に幽々子の前に近付く。
「答えなさい! 幻想郷の春を集めて、何をするの!?」
霊夢の問いに、凛とした声で答える幽々子。
「……西行妖。この大樹を、私は満開にしなければならない」
「何の為に!」
「……今に分かる。さぁ、あなた達の春で最後よ。それを私によこしなさい」
「……断るっ!!」
ボロボロになりながらも、すんでの所で身をかわし続ける霊夢。隙を見て、霊夢の方から反撃を加えようとする。
しかし、幽々子の周囲を漂う霊魂が盾となり、幽々子には届かない。
「無駄な足掻きを。今ならまだ間に合う、死にたくなければ春を渡しなさい」
身が竦むような圧力。しかし、霊夢には通じない。
「死ぬのは嫌だけど……他人の言いなりになるのは、もっとごめんよ!」
霊夢が叫ぶ。決して他人には屈しない―――――霊夢らしい答えだった。
「……愚かな。ならば、堕ちなさい」
幽々子から無数の蝶が舞う。その全てが霊夢を覆わんとした、その時。

          パーフェクトスクウェア――――――――――――――――――――――――――――

「油断したわね、姫の亡骸!」
「なっ……しまったっ……!!」
こっそりと幽々子の裏に廻った咲夜が、最後の符を発動させる。
幽々子の周囲の時をピンポイントで凍らせ、蝶、そして亡霊を一気に押し流す。一瞬、幽々子の周りに空白が生まれた。
「今だ、受けなさい! 春の亡霊!」
霊夢の符『夢想封印 集』が発動し、数色の光が幽々子を包み縛り付ける。
「くっ……この程度で、私を封じられると思って……」
「甘い」
「!」
咲夜と同じく幽々子の上空に廻った魔理沙が、照準を幽々子に合わせる。
「一番危険なのは、勝利を確信した瞬間だぜ死人嬢! これで終わりだ!」
魔理沙から放たれるマスタースパーク。圧倒的な光の奔流が、動きを縛られた幽々子を包み込んだ。
「くっ……うあああぁぁっ……私は……私はっ……!!!」
太陽よりも眩しい光が、一面を白く染め上げる。辺りに静寂が戻った時、幽々子の姿は跡形も無く消えていた。
蝶も、亡霊も、弾幕も無い。静けさが立ち込める。

「勝った……のか……?」
力を使い切ったという感じで、咲夜がフラフラと地面に着地する。その後を霊夢と魔理沙が続く。
「ちょっとやりすぎたかしら……」
「なぁに、向こうはもう死んでるんだ。マスタースパークに吹き飛ばされただけで、魂を消滅させるような力は無いぜ」
「じゃ、安心ね」
和む空気。ようやく戦いが終わった事への安堵感が、三人を完全に油断させていた。

          ざわっ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「…………!!?」
背筋を走る悪寒。幽々子などよりもっと恐ろしい、悪意の塊が、いた。
走る邪気が三人を貫き、全ての春を奪われてしまう。
「しまった……!!」
「フフフ、勝利を確信した瞬間が、一番危険なのよ?」
空を睨みつける霊夢。先程まで幽々子がいた場所。そこに、うっすらと写る幽々子のようなものの影。
そして、その背後には、巨大な大木――――――――――西行妖が、あった。
「これで、春が……全て、集まった……」
春を自らの体内に取り込んでいく幽々子。それと共に、西行妖が活動を開始する。

「――――――――――――――――!!!」

先程までとは比べ物にならない、超高密度の弾幕、そして光。
それらを絨毯爆撃の如く地面に叩きつけ、三人を木の葉の様に吹き飛ばした。
「あ……くっ……」
「もう……力が、残ってない……ぜ……」
「こんなので……終わりなの……?」
すでに立ち上がる気力すらも残っていない。その間も幽々子は春を吸収し続け、西行妖は暴威を振るう。
もうこれまでか、と思われたその時――――――――――

「お嬢さまああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

遥か遠くから駆けて来る一人の少女。霊夢たちが途中撃ち落した庭師、一対の剣を携えた、魂魄妖夢だった。
傷付いた体に鞭打って倒れている霊夢に駆け寄り、激しい口調で問い詰める。
「貴様、お嬢様に何をした!?」
「一回やっつけたら……この通り、よ……」
幽々子を見上げる。徐々に闇に包まれていく幽々子。
「あれは……西行妖……一体、何故……?」
訳が分からず、呆然と立ち竦む妖夢。……その時。
「…………!?」
際限なく膨張を続ける西行妖が、止まった。そして、幽々子の中へと吸い込まれていく。
「こ……これは……?」
目の前に広がるこの光景は、何を意味するのか。ただ狼狽するのみの妖夢の耳に、突如幽々子の声が響き渡る。
『妖夢――――――――』
「お嬢様! 御無事ですか!?」
宙を疾り、幽々子の元へと急ぐ。幽々子の前まで辿り着いた時には、その体の大半を西行妖に侵されていた。
「お嬢様……これは、どういう事なのですか!?」
叫ぶ妖夢の中に、再び幽々子の声が響く。
『妖夢……私ごと、西行妖を封印するのです』
思いがけない主の命に、妖夢が凍りつく。
「それは……それだけは、いかにお嬢さまの命と言えど、出来ませんっ……!」
激しく首を振る妖夢。三度、幽々子の声が威厳を伴い妖夢に語りかける。
『手遅れになる前に…………急ぎなさい、私の意識が、残っているうちに……!』
幽々子を取り込まんとする西行妖の影が、周囲に悪意を撒き散らす。それは、地に臥している三人をも取り込もうとしていた。時間が無い事を悟った妖夢は、一つの決断を下す。

「お嬢様……ただ一度の私の我侭を、お許し下さい…………
 六道剣「一念無量劫」―――――――――――――――――――――――――――!!!!!」

抜き放った一対の剣、楼観剣と白楼剣を振るい、周囲との空間を断絶する。
空気を裂き、空間を断ち、次元を割る。一閃する度、線が面となり結界を象っていく。
そして、幽々子と西行妖、そして妖夢自身を、完全に外界から切り離した。
『どうしてあなたまで残ったの、妖夢!』
怒気を含んだ幽々子の声が響く。
「お嬢様……一生に一度だけ、あなたの命に背く事をお許し下さい…………
 私は西行寺家の二代目庭師、魂魄妖夢! 主を護れずして、何の為の剣か!!!」
剣の師匠、魂魄妖忌に叩き込まれた剣の構え。あの厳しい修行の日々を思い、幽々子を包む西行妖に剣先を向ける。
……その時、幽々子に変化が訪れた。
『うっ、ああっ……始まったわね……!』
「お嬢様っ!?」
息も絶え絶えに、ぽつぽつと真実を妖夢に語り始めた。
『よく聞きなさい……。私は、陰気を喰らう西行妖の力が、日に日に増しているのを感じていました……。
 もう私の力では押さえきれない、このままでは幻想郷中に死の風が吹き荒れる……そう考えた私は、 一つの決断を下したのです』
……全く気が付かなかった。いつも御側に付いていたのに、西行妖の事など全く思いもよらなかった己を恥じた。
『西行妖は実体を持たない……例え木を切り倒したとしても、悪意に満ちた想念は消滅しない……。
 だから、それを受け入れる器が必要だった。そして、それが可能なのはただ一人……この、西行寺幽々子のみ』
「そんなっ……それでは、お嬢様はどうなるというのです!?」
『幻想郷中から集めた春を餌に西行妖の想念を誘い出し、私の中に取り込む。そして、私ごと西行妖を封じる。
 それが出来るのは、妖夢。あなたしかいない』
頭に直接響く幽々子の声。妖夢に、残酷な決断を迫っていた。
「他に……他に方法はっ……」
『無いわ』
冷たく言い放つ。下手な希望を持たせまいとする、幽々子の優しさだった。
「私は……私はっ…………!」
体をわななかせ、俯く妖夢。しばらくの後、涙を拭い再び顔を上げる。
「私は、西行寺家の庭師、魂魄妖夢……それが、お嬢様の望みとあれば、私は……!」
『………………ありがとう』
幽々子が妖夢に向かい頭を下げたような気がした。刹那、幽々子が完全に西行妖に囚われる。

『グ……グオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!!!』
異形の声が一面に響き渡る。それはすでに、幽々子のものではなくなっていた。
再び西行妖の想念が幽々子を取り込んで実体化する。見上げる程にそそり立つ西行妖。霞む頂点を睨み付け、妖夢が叫ぶ。
「邪悪の塊、西行妖よ! お嬢様の命により、この魂魄妖夢が貴様を封印する!!」
楼観剣の切っ先を西行妖に向け、高らかに言い放つ。直後、返事を返すかの様に西行妖の邪な意志が吹き荒れる。
『オオオオオォォォォ……オオオオオオオオオオオオオオオオ……!』
太い枝をしならせ、妖夢を払わんとする。それを軽い身のこなしでかわし、楼観剣で切り付けた。暗黒の枝が断ち切られ、無へと還る。
「私は亡霊ではない! 半分は人間だ!」
妖夢の体を貫かんと針の様に迫る無数の枝を切り払い、西行妖に肉薄する。そして、庭の木々を手入れするかの如く、次々と枝葉を払っていく。
『オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!!!!!』
再びしなる枝を背面跳びでかわし、再び距離を取った。
「フゥッ……貴様の力など、所詮その程度―――――」

          ザアアアアアアアアアァァァァァァァッ―――――――――――――――――――――

まるで強風に煽られたかのように、西行妖が戦慄く。そして、妖夢の元にひらひらと舞い落ちる、一枚の花弁。
「これは……桜……?」
ゆっくりと落下する桜の花弁が、妖夢の肩に触れた、その時。
ドオオオォォォゥゥン――――――――――
「うあああああぁぁっ!!」
突如花弁が爆ぜ、妖夢を肩ごと吹き飛ばす。白楼剣を弾き飛ばされ、右腕の自由を奪われる。
「くっ、これは……………………!?」
ザアアアアァァァッ―――――さらに西行妖が身を震わす。妖の風に乗り、眩暈を覚えるほどの桜の花弁が宙を舞う。
それはまるで、役目を終え消えゆく木々の散華の様であった。
「おのれっ……!」
立ち上がり、楼観剣を薙いで剣圧による絶対領域を生み出し、己に触れる前に切り払う。
一つでも切り漏らせば、そこで全てが終わる事を自覚していた。
「はああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
神速の剣閃が花弁を断ち、空で爆ぜる。しかし、如何せん数が多すぎる。
後から押し寄せる桜の嵐に、完全に動きを封じられていた。一つのミスも許されないという緊張感が、ジリジリと集中力を削いでいく。……そして、ついに一枚の花弁が域を抜ける。
「しまっ…………!!」
ヒラヒラと下降する花弁を払おうとするが、右腕の自由が利かずそれもままならない。一瞬、脳裏に絶望が走る。
思わず目を閉じ、身を硬直させる。……しかし、その瞬間は何時まで経っても訪れなかった。
「……………………?」
空を見上げる。そこに繰り広げられていた、信じられない光景。空間が歪み、無数の花弁を次々と飲み込み消滅させていく。
シャアアアァァァン―――――――――――突如感じる、ある筈も無い者の力。

          「あんたに、任せる―――――――――――――――――――――」

流れ込む、紫の光。時を止め、空間を操る咲夜の力が、西行妖から妖夢を護る。溢れる霊力が剣に伝わり、薄く紫に輝かせる。
「これは、あのメイドの……私に力を貸すというのか……?」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!』
怒り猛る西行妖が、空を埋め尽くすほどの花弁を撒き散らす。しかし、その全てが咲夜の守護に阻まれる。
「破っ―――――――――――!!」
立ち止まっている暇は無い。これが好機と見るや、再度西行妖に向かい駆け始める。対し西行妖も、全身の幾十本にも及ぶ枝を振るい、
幹に近付けまいとする。枝と枝を八相飛びの如く跳ね迫ろうとするが、四方八方から飛来する無数の枝が壁となり、妖夢の行く手を阻む。
「くっ、枝葉などいくら切っても意味が無い…………!」
もう何度楼観剣を振るっただろうか。しかし、その刃は無限に再生する枝を落とすだけで、本体には全く届かない。
『オオオオオオオオオオオォォォォォッ!!!!!』
一段と太い西行妖の腕が妖夢目掛け打ち落とされる。断ち切れるか……? 剣先を天に掲げ、振り下ろした、その時。

          「私の力、貸してやるぜ――――――――――――――――――」

シャアアアァァァン―――――――――――再び感じる、いる筈も無い者の力。流入する白き光が、刀身を白く輝かせる。
「あの魔法使いの魔力が…………? せいっ!!!」
剣閃が白き刃となり、立ちはだかる枝を次々と貫通し、ついに西行妖に一太刀浴びせる。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!』
幹を傷付けられた西行妖が、巨体を激しく震わせ悶える。妖夢も、手を休める事無く二ノ太刀、三ノ太刀を浴びせる。その度、西行妖が地獄の咆哮を上げる。
「私はお嬢様と約束した! 必ず、この身に替えても貴様を滅ぼすと!!」
鬼神の如き表情で、楼観剣を振るい続ける。……その為、見えなかった。死角から振り上げられた枝が妖夢の腹部を打ち、跳ね飛ばす。
落下し、叩き付けられる妖夢。間髪入れず、西行妖の中心に妖力が収束し、超極太のレーザーが放たれた。
「……………………!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォン――――――――――――――――――
レーザーは妖夢を直撃し、跡形も無く消し去る……筈だった。だが、それは妖夢の服の端も焦がす事は無かった。

          「必ず、春を返して貰うわよ――――――――――――――――」

シャアアアァァァン―――――――――――三度感じる、くる筈も無い者の力。紅き結界が、轟音を立てて攻撃を防ぐ。
「これは二重結界…………あの巫女の力が、何故……?」
お嬢様に危害を加えにきた、あの三人。妖夢自身も、痛い目に遭わされた。だが、敵である筈の三人の力が、今こうして妖夢の盾となり刃となる。
「一体どうして…………ガハッ!!」
腹部を強打した為か、吐血する。全身を強く打ち付け、最早立ち上がる事すら出来なくなっていた。楼観剣を握る左腕すら、満足に動かせない。……限界だった。
「お嬢様、申し訳ございません……私の力が至らないばかりに……!」
体力を消耗し気力を削がれ、つい漏らしてしまう弱音。……刹那、聴こえてくる幻聴。

          『立て、妖夢―――――――――――――――――――――――』

「…………!?」
幻聴だと思った。それは、もっとありえない事だったから。
しかし、声は一度だけではなかった。聴こえる度、より大きくなる声。
これは……この声は、まさか――――――――――
「師匠っ……!!」
握り締めた楼観剣から伝わる意思。それは忘れもしない、間違える筈も無い、剣の師匠―――魂魄妖忌のものだった。
『お前の力は、その程度か―――――』
「しかし、師匠……もう、指一本すら動かせません……」
『ならば、お嬢様は誰が護る―――――』
「お嬢様は…………ずっと、私がお護りしてきました…………」
『ならば立て! お前が剣を手にしたのは、この時の為ではなかったか!!』
妖忌の叱責が飛ぶ。それは懐かしい、過去の記憶の中の、そのものであった。
「うぅっ……だけど、最早私一人では、あの西行妖には……」
『……本当に一人だと思うのか?』
「!!!」
感じる。三種の異質な力を。霊夢と、魔理沙と、咲夜と。三人の力が妖夢に力を与え、再び立ち上がる勇気を与える。
「くっ……うううぅぅっ……!!」
歯を食い縛り、楼観剣を支えにして立ち上がる。血を拭い、西行妖を睨み付ける。
『感じよ……一人で戦っているのでは無い事を。いかなる時も、お前は一人ではないという事を!』
「しっ……師匠……!」
『さぁ、白楼剣を手にするのだ。迷いを断ち斬る白楼剣を……!』
西行妖の攻撃は、未だ二重結界が防いでいる。最後の気力を振り絞り、地を蹴って白楼剣の元へ横っ飛びに転がる。楼観剣を鞘に収め、白楼剣を握り、剣先を西行妖に向けた。
『刮目して見よ……。白楼剣の刃は、人間の迷いを断ち斬る……その剣で断つべきものを……!』
目を閉じ、明鏡止水の心で西行妖を見る。闇よりも冥い西行妖。その中にうっすらと見える、幽々子の魂。……そして、白く細く伸びる一本の糸。
「見えたっ……!!」
わずかに動かせる左腕を振り上げようとする。が、思うように動かない。
「うっ……くぅっ……!!」
そっと妖夢の手を覆う、もう一つの手。無骨ではあるが、時には厳しく、時には優しかったあの懐かしい感触。妖忌の手が、妖夢を支えていた。
「師匠……!!」
『分かるか……お前を支える力が。未来を望む皆の心が、救いを求めるお嬢様の想いが……!!』
微かに伝わる幽々子の波動。その魂を囚われてはいるが、心まではまだ侵されてはいなかった。
「お嬢様……私は、私はっ……!!」
霊夢が、魔理沙が、咲夜が、妖忌が、幽々子が、そして幾万もの想いが、最後の力を妖夢に託す。白楼剣に流れ込む全ての光が、刀身を虹色に輝かせる。
「私は西行寺家二代目庭師、魂魄妖夢! この一撃で、西行妖を封印する!
 そして、お嬢様を……お嬢様を返してもらうぞ!!
 はああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
白楼剣をかざし、西行妖に向けて一気に振り下ろす。剣閃に皆の力を乗せ、光の帯が巨大な西行妖を覆い尽くす。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ――――――――――!!!!!!』
西行妖の影が、少しずつ光に飲まれて消滅していく。そして、やがて現れる幽々子の魂。その姿を認めるやいなや、妖夢は幽々子の元へと疾けていった。
「お嬢さまああああああぁぁぁぁっ!!!!」
何度もふらつきながら、幽々子の元へと走る。その間に、僅かに残った西行妖の影が、巨大な手を形作り幽々子の魂を握らんとしていた。幽々子と西行妖を結ぶ、一本の糸。それは、彼女自身の未練であった。幽々子を取り込まんとした、その時。

    「これで、最期だ」

陰の上空に立った妖夢が、白楼剣を振り下ろした。






辺りは、まるで何事も無かったかのように静寂を取り戻していた。咲き誇っていた桜の花も散り、春が幻想郷に帰っていった。
「ほら、何時まで寝てんのよ」
「う……あ……?」
体を揺すられ、妖夢が目を覚ます。そこには、見知った三つの顔。霊夢と魔理沙と咲夜が、妖夢の顔を覗き込んでいた。
全身を走る痛みを堪え、ゆっくりと身を起こす。
「お疲れ様」
霊夢がねぎらいの声を掛ける。徐々に意識を取り戻すと、慌てて跳ね起きた。
「そうだっ、西行妖は……お嬢様は……!?」
「そこで寝てるぜ」
魔理沙が指差す方向に、幽々子が横たわっていた。慌てて駆け寄り、頬に触れる。幽々子は静かに寝息を立てていた。
「お嬢様……良かった……」
「で、説明してもらおうか。あれは、一体何だったの?」
咲夜が話し掛ける。妖夢は幽々子を抱きかかえると、静かに振り返った。
「あれは全ての命を死に誘う西行妖……。お嬢様は自分の魂と引き換えに、封印を施そうとしていました」
「そのお嬢様はそこにいるじゃない。大丈夫なの?」
「完全に滅ぼす事は出来ません。……が、殆どの力を使い果たした筈です。
 少なくとも、皆さんが生きている間は大丈夫かと」
「その死後の世界に、西行妖とやらがあるんじゃないか」
魔理沙が苦笑する。確かに滅ぼす事は適わない。だが、この先もう二度と西行妖が目覚める事は無いだろう。そう確信していた。
「皆さん、今回は御迷惑をおかけしました。そして……ありがとうございました」
三人に対し、深々と頭を下げる。自分一人の力では、どうにもならなかっただろう。まさに命の恩人であった。
「……まぁ、春も返してもらった事だし」
「今後こういう事が無いように頼むわよ」
「それじゃな。そのお嬢様に宜しくな!」
「はい、皆さんもお元気で―――――!!」
妖夢に手を振り、霊夢たちが帰っていく。その姿が見えなくなっても、妖夢は頭を垂れ続けていた。腕の中の幽々子に、優しく語り掛ける。

「お嬢様……お嬢様は、一人じゃない。私が、師匠が、そして皆がいます。
 一人で全てを背負うような事はおやめ下さい。いつでも……そう、いつだって私が、その荷を引き受けますから」

穏やかにそよぐ空を見上げる。幽々子に頼られるよう、より一層の修行を積まねばと改めて誓った。そうでないと、妖忌に顔向け出来ない。

「ですよね、師匠……いつか、師匠を追い抜いて見せますよ……!」

一対の剣が静かに光る。夜明けは、もうそこまで近付いていた。
えー、ごめんなさい。長すぎです。
…はい、好きなんです。ワイルドアームズ2のクライマックスが。
それで書いたこのSS、何か東方ともWAでもないものになってしまいました。
尻切れトンボな感じになったのは反省です。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
marvs
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コメント



0.290簡易評価
1.30MDFC削除
パロディ元知ってると良い感じですねぇ。
ところで、この配役…魂魄妖忌はHな話好きなお姉さんに対応…?
……マジ?(笑
2.30名無しで失礼します削除
元ネタ知らんけど、コテコテの燃え展にやられました。面白い。
3.30Alxia削除
♪どーんーなーときでもーあなーたはひーとりーじゃなーいよー♪

えー、西行妖完全体の脳内画像がネガ・ファルガイアになってしまっています。