※東方妖々夢のバッドエンド(咲夜)のネタバレを含みます。
というか、バッドエンドの場面を(無駄に長々と要らんモノも足して)拡張した内容です。
いくらバッドエンドとはいえエンディングはエンディングですので、お気をつけください。
※タイトルの「Intermission」ですが、単にこのSSのタイトルというだけです。
別に他のSSのインターミッションというワケではありません。よって、前にも後ろにも何もありません。
安心してこの一本で読んでください。
※強いて言うなら、まだノーコンできてないそこの貴方。貴方のプレイ状況がこの前後です。
え、そんな人いないって?そんなー。
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「着替え、ね。それで?それは言い訳のつもりかしら」
「…申し訳ありません、お嬢様」
紅魔館の一室。
痛みに僅かに顔を歪める、咲夜。
その、服装。
冬用の重装備とメイド服。その、いたるところに穴や裂傷ができていた。
全身を彩るは、血の紅。
「ま、紅魔館自慢のメイド長にそんな格好で外を出歩かれるわけにはいかないものね」
「……」
「とりあえず、お風呂にでも入って一度ゆっくり休みなさい。…パチェ、お願いね?」
「お安い御用よ。美鈴、これとこれ、持ってきて」
「あ、はい」
「…ありがとうございます」
薬品やマジックアイテムなどを抱える美鈴とパチュリーに連れられ、部屋を辞す咲夜。
ぱたん、と扉が閉まり――
「…私だって咲夜の背中流したいんだけどなぁ…」
レミリアの独り言は、部屋の扉に吸い込まれるだけだった。
「ありがと、パチェ。咲夜はちゃんと寝たかしら」
「無理矢理寝かせたわ。魔法で」
「…ごめんなさいね」
「気にしないで」
咲夜が春を取り戻しに紅魔館を発ち、再び戻ってきたのが数時間前。
全身に重傷を負った彼女の曰く、
『ちょっと着替えをとりに戻りました』、と。
当然、幻想郷に春は戻らず。カーテンを開ければ相も変らぬ白銀の世界が広がっている。
「…少し、言い過ぎたかしらね」
血の加減が甘いわね、などと血入りの紅茶に文句をつけている、レミリア。
テーブルの向かいの席でびくっ、と背筋を伸ばす、紅茶を淹れた美鈴。
「どうかしら?少なくとも落ち込んではいないみたい。寝る寸前までナイフの手入れしてたし」
こちらは普通の紅茶を飲みながら、パチュリー。
咲夜じゃないから仕方ないんじゃない、とフォローするのも忘れない。
何があったのかはわからない。あえて聞かなかった。
咲夜の状態を見れば、余程の戦闘があったことは間違いない。それさえわかれば充分だ。
彼女が後れをとるなど、そうそうある事ではなかった。
というより、紅魔館で働き始めてから、一度だけ…半年前に。
それでも。
「起きたら…また、行くんでしょうね」
「…そうね」
咲夜のこと、目が覚めれば即座に出発する。
パチュリーの手当てで傷も完治している以上、躊躇うことなく行動するはずだ。
そして、目的を果たすだろう。
或いは…。
そんな、レミリアの想像を振り払うかのように。
「何があったか、知りたい?」
言われて気が付いた。
「…誰かしら?」
「黒いのと紅白」
「だーもう、寒い!なんで館の中まで寒いんだ?!」
「何でも良いわ、うちの神社よりあったかいから」
「…比較対照が間違ってるぜ、それは」
ノックも無しに部屋に入ってきたのは、魔理沙と霊夢。
「あら、いらっしゃい非常食」
「「誰がっ!」」
「…この二人は手当てしないわよ。元気そうだし」
何故か桜の花弁と雪にまみれた、先ほどの咲夜並みにボロボロの二人だが。
会話と突っ込みはいつもの勢い全開であった。
「…半日も寝てしまったのか…」
咲夜が目を覚ました時には、寝る前から数えて時計の針が1周していた。
一瞬、数分で目覚めたのかと思ってしまったほどだ。さすがに少々面食らった。
とはいえ過ぎたことは仕方が無い。それより何より行動あるのみ。
「んー、…」
軽く伸びをする。
こんなにも寝るのは本当に久しぶりだった。おかげで身体に妙な疲労感がある。
それを強引に振り払い、ベッドから出る。…寒い。
新しい、清潔なメイド服を着込む。冬用の装備を取り出す。
そして、愛用のナイフを点検し。
「…お嬢様、まだ起きてらっしゃるかしら」
素早く身支度を済ませ、部屋を後にした。
ノック。
「咲夜です」
「入りなさい」
レミリアは私室ではなく、昨日集まった客室にいた。
という事は、あのままこの部屋を出ていないのだろう。この主にはよくある事だ。
出る前に一仕事か、などと考えながら扉を開ける――
「おはよう、咲夜」
「おはようございます、レミリア様。昨日は醜態をさらし…」
「あれはもう良いわ。…二人から、大体のところは聞いたし」
視線の先には、ソファに寝ている霊夢と魔理沙。
「…あの二人も、行ったのですね」
「咲夜より一足遅かったみたいだけど。どちらにしても結果は同じよ」
服装はボロボロだが、怪我をしている様子は無かった。
咲夜と同じく、パチュリーの手当てでも受けたのだろう。
魔理沙の周囲に本が散乱していることからして、今回の件について調べながら寝てしまったといったところか。
テーブルにはパチュリーと美鈴が同じような状態で突っ伏していた。
外は、吹雪。朝なのでカーテンは開けられないが、音だけでも明らかだった。
「…行くのね」
「はい」
問いかけというより、確認。
レミリアに新しく紅茶を淹れ、部屋を片付け、寝ている者に毛布をかけ終えた咲夜に。
特に何の感情も無い、ただの確認。
「…その前に、聞いておくことがあるわ」
「はい」
レミリアは咲夜の方を見ていない。ガタガタと音を立てる、カーテンの向こうの窓。
否、その向こうの吹雪だろうか。或いは、もっと遠くなのか――
「咲夜。春を取り戻しに行く理由は何?」
「豆炭と珈琲豆が切れそうだからですが」
即答。きわめて簡潔。
「…そうね。切れたら困るわね」
「はい」
「でもね、咲夜」
咲夜のほうを、振り向く。
――視線に射抜かれる。
「私達が…紅魔館のメンバーが本気を出したら、こんな冬、どうって事ないのよ」
「存じております」
主の問いかけの意図は、すぐに理解した。
「寒さにやられたくらいじゃ、私達は死なない」
自分の胸に手を当て、言う。それはそうだ。吸血鬼が寒さ程度で滅びたら、人間は苦労しない。
「寒さが鬱陶しいと思ったら、パチェの魔法だってある」
テーブルで安らかな寝息を立てる、魔女。
「寒いって不貞寝してるフランを叩き起こせば、こんな雪くらい」
言葉を切り。すっと右手を、左から右へ。薙ぎ払う仕草。
「辺り一面、一瞬で無くなるわ」
フランドール。レミリアの妹。
既に地下室の住人ではなかったのだが、あまりの寒さに自分から地下に閉じこもってしまった。
曰く、『春になったら起こして』。
起きてみてまだ吹雪だったら…雪以前に紅魔館も危ない気はするが。
「そして…私が本気を出せば」
「ええ…承知してます。けれど」
主の前とは思えぬほど、不敵な表情の咲夜。
「私は人間ですから、このまま冬が続けば死んでしまいます」
「ええ、そうね」
「ですが…レミリア様や皆さんの御力に頼るなど、自分で自分を許せませんよ」
「…それだけ?」
「まさか」
にっこりと微笑み、
「だって、頭にくるじゃありませんか。あちらの黒幕、よりによって『お嬢様』だと言うんですよ?」
「…はい?」
満面の笑みを――何か凄まじい怒気を孕んだ笑みを浮かべる咲夜に、目を点にして間抜けな声を上げるレミリア。
「時代錯誤な服装で!妙な頭巾かぶって!おまけに、あんな…ほや~っとした表情で!あのような、欠片の威厳も無い輩に…」
何故かナイフを取り出し、
「『お嬢様』などと名乗る資格は無いのです!ええ断じて!」
続けて数本のナイフが手の中に現れ、
「真の『お嬢様』という存在が、どのようなお方であるべきなのか…」
両手に満載されたナイフを振りかざし、
「真のお嬢様たるレミリア様の、完全にして瀟洒なメイドであるこの私が!」
そして、すっと手の中からナイフが消え去って。
「教え込んで参ります」
また、不敵な笑みに。
「と、こんな所でよろしいでしょうか?」
「…ぷっ」
「何笑ってらっしゃるんですか。私は大真面目ですよ?」
「あははははは、咲夜ったら…あは、あはははは」
「それに、真面目な話」
ころころと表情を変化させる咲夜、今度の表情は真剣そのもの。…わざとらしいほどに。
「…真面目な話?」
「あちらの従者も銀髪なんです。しかもとってつけたように刃物持ちで。負けるわけには」
「あはははは、あっはははは!」
遂にお腹を抱えて笑い始めたレミリアを見つめる、咲夜。
相変わらず何処か不敵で、そして優しげで、楽しそうな微笑みを浮かべながら――。
ひとしきり笑った後、紅茶を飲んで落ち着いたレミリアに。
「まぁ、九割がた本気の冗談は置いておきますが」
今度こそ真面目に話し始めた咲夜に、レミリアは目を向ける。
…珍しい、悔しげな表情。
「かなり、傷をつけられてしまいましたからね」
「…見せて?」
椅子に座ったままの主へ歩み寄り、手をかざして見せる。
「パチュリー様のおかげで、傷痕ひとつ残ってはいませんが」
「…本当ね」
「けれど、血を流してしまいました」
今度こそはっきりと、目に冷たい憤りを浮かべて。
「私の、血を。…お嬢様のものを」
「…それは、許せないわね」
先ほどとは打って変わって、冷たく鋭い視線が交錯する――
「…二度は、無いからね?」
「…当然ですよ」
そしてまた、不敵な笑みに戻った咲夜に。
「なら、言う事は無いわ…来なさい」
レミリアのすぐ間近に、跪く咲夜。
「傷が残らなくて…本当に、良かったわ」
咲夜のメイド服の、襟元に手をかけ。
「…相変わらず、綺麗ね」
「恐れ入ります」
肩口まで露出した、健康的なその肌に。
「…お仕事の前だから、少しにしておくわね」
その首筋に、口づけ…
否。牙を突きたて。
「……あ…っ」
目を閉じ、息を吐く咲夜。
暫しの、静寂。そして、牙を離し。
「…っはぁ……」
…僅かに零れた紅を、丁寧に舌で舐め取って。
静かにレミリアは、咲夜から離れた。
「私以外の女に、二度も傷をつけられたら…許さないからね?」
「…はい」
襟元を直しながら、咲夜。
「この傷に…誓って」
「ふふ…良い答えよ」
この程度の吸血痕ならば、1日も経たず消えるだろう。
だからこその咲夜の言葉に、主は満足したようだった。
「行ってまいります…レミリア様」
「ええ」
そして何の迷いも無く、咲夜は紅魔館を発ったのだった。
「…で、2人とも。何ぶつぶつ言ってるの」
「ああ、朝っぱらから縁起でもない…まったく嫌なもの見たわ…」
「メイド長は…あんな性格でも完全な受け、と…」
何やら呪いを唱えつつ印を切る巫女と、しきりにメモを取る魔女がいた。
「なんだ。言ってくれれば、二人にもしてあげるのに」
「「遠慮するっ!」」
「えーっと…睡眠を妨害する騒音源を上昇気流とともに速やかに春の肥やしにする方法は…」
春は、もう目の前だ。
実は魔理沙しか使ってないので、咲夜と霊夢のENDINGは<br>
これっぽっちも知らないのですが…(汗
霊夢と魔理沙でもクリアがんばってください。
最萌の時のSS『強さ』と同じにバッドエンドから書くSSもなかなかいい挑戦です。
あのバッドエンドは度々見る為、余計に情景を妄想。
うあー、これ以上うちのお嬢様に血を与えてたまるか! 往ってきます!
妖々夢を再プレイしたくなった。