Chapter 1 「現在」
どうしてこうなったんだろう。
頭の隅でそんな事を考えながら、とりあえず何時襲い掛かられてもいいように身構える。
正面には真剣な表情のアリス。
口元には笑みが浮かんでいるが目はまったく笑っていない。
…はっきり言って、怖い。
そんなこちらの考えをよそに、少しずつにじり寄ってくるアリス。
ああ、まったく本当に。
どうしてこんなことになったんだろう…。
Chapter 2 「昨日」
「こんばんわ。魔理沙」
「おや、珍しいお客だな」
玄関の先にはアリス・マーガトロイド。
最近、魔法つながりでパチュリー含めて三人で行動するのが多いとはいえ、
家まで訪ねてくるのは珍しい。
「それで?こんな遅くにどうしたんだ?」
実際、実験明けでなければ寝てる時間帯だ。
「少し、布と糸を分けてもらいたくて」
「布と糸?…家には魔力を帯びた物なんかないぜ?」
頭の中にざっと検索をかけるが、該当するような品は思いつかない。
「いえ、その…普通のでかまわないのよ。
人形を作っていたのだけれど、途中で足りないことに気がついて…」
「ああ、なるほど」
納得がいった。
自らの魔力行使の触媒として人形を好むアリスは、趣味でも人形を集めてたりする。
当然、自分で作ったりするのも得意とするところらしい。
こないだフランにせがまれて作ったレミリア人形も中々の出来だったし。
…メイド長まで頼み込むほどに。
「人形に使えるような物なんて、そんなに量はないけど…それでも良いかな」
「ええ、かまわないわ。
完成寸前だったし」
「にしてはやけに急いでるんだな?
わざわざこんな夜更けに取りに来るぐらいだし」
「夜遅かったのは謝るわよ…。
こういうのって、気が乗ってるときが一番良いのが出来上がるの。
夢中になって作ってたから、足りなくなってるのに気がつかなかったわけですけど」
「ま、私も起きてたから問題ないんだけどな。
っと、使えそうなのはこんなもん…かな」
「ん、このくらいあれば十分ね。
ありがとう。それと、夜遅くに御免なさい。
こんどちゃんとお礼するわ」
「別に気にする事はないぜ?
…そうだな。その人形が完成したら見せてくれ。それでいい」
「え゛!?」
「…なんだ?私が見ちゃまずいのか?」
「あ、いえ、そんな事はないんだけれど…」
「?」
「…分かった。完成したら、見せに来るわ。
それじゃ、早く完成させる為にも、今日は帰るわね」
「あ?ああ。
…気をつけてな」
そしてアリスは帰っていった。
なんか思いつめてたというか、真剣な顔をしてたというか…。
Chapter 3 「再び、現在」
…やっぱりあの一言が原因なんだろうか。
真剣に作ってる人形を軽々しく見せてくれとか言ったから?
それにしてもたかが見るだけで、そんなに怒るもんだろうか。
レミリア人形なんか、紅魔館の主要人物みんなの前でのお披露目だったのに。
「魔理沙、その…」
しまった!考え事をしてる間に接近を許した!
後ろ手に持ってる箱はマジックアイテムか?
ここまで接近されたら、もうマスタースパークを打つしか…!
「その、こっ、これっ!」
「恋符!マスタースパー……え?」
・・・・・・・・・
そういってアリスは、後ろ手に持っていたその箱を、私の前に差し出した。
Chapter 4 「解決」
「…それで、あわや弾幕ごっこだったと」
「いや、あんな顔で迫られたら誰だって身の危険を感じるぜ?」
「だって、緊張したんだもの…。
フラン嬢と違って、頼まれて作ったわけじゃないから…」
紅魔館で、いつも通り私と、アリスと、パチュリーの三人でのお茶会。
先のことが話題に上るのは当然だった。
「まぁ…わからなくもないけどな。
よりにもよって私に見せてくれって言われたらなぁ」
「ふふ。そうね。
確かにアリスの気持ちも分かるかな」
「うう…」
視線の先にはさっきの箱が開かれて置かれている。
中味は人形。
それも、私たち三人の人形だ。
「しかし良く出来てるなぁ…。
お、帽子も取れるのか」
「私のもちゃんと本持ってるし…アリスのはミニ人形もついてるのね」
「特徴を現す記号は、出来るだけ詰め込んだからね」
「でもなんで私達の人形を作ろうと思ったんだ?」
ふと疑問に思って聞いてみた。
「最近、楽しかったから。
こうして三人で、他愛のない話で盛り上がって、お茶を飲んで…。
そんな楽しい時間を、形にしてみたくなったの。
一旦そう思ったら、もう止まらなくて…」
「気がついたらいろいろ足りなくなってて、私のところに来たと」
「そういうこと。
…そうだ。そのお礼に、その魔理沙人形あげるわ」
「お、いいのか?」
「パチュリーも、いつも本を見せてもらってるお礼に」
「ありがとう。大事にさせてもらうわね」
「しかし…自分の人形を抱いてるなんて、少女趣味の極地だな」
「あら、私とアリスは少女ですけど?」
「そうね。魔理沙はちがうのかしら?」
「あのな、私だって…」
今までは三つ。これからは六つの笑顔に囲まれて。
楽しいお茶会はまだまだ続く。