Coolier - 新生・東方創想話

白玉楼異聞(後編)

2003/11/20 22:44:39
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「……紫殿」
 後ろから聞き覚えのある声がしたので、紫が振り向くと、そこには妖忌が立っていた。
「…あなたは」
 少し掠れた声で、紫が反応する。
「ひどい顔だな…」
「……女の子に向かって、その言葉は無いんじゃない?」
 精一杯の反論をすると、紫は再び俯いた。これ以上、ひどい顔を見られたくなかったから。
「―――お嬢様」
「!」
 妖忌が、紫の隣にしゃがむ。その手には、大きな白い布。
「お嬢様の、遺言だ…」
 紫の体が、ぴくりと動く。
「………………何?」
「……お嬢様の亡骸を使って、西行妖を封印してくれ、との事だ……」
「封印…」
 紫は、西行妖を見上げた。
「何が…あったの? 教えて頂戴………」
「…分かった」
 妖忌は、語り出す。この屋敷で起こった、惨劇を。


「………そう、だったの」
「ああ……」
 全てを語り終えた妖忌は、拳を握り締めた。そのまま地面を殴りつける。
「くっ…! 私が居ながら、この様な事に……!」
 無念に歪む表情。そんな妖忌の姿を見た紫は立ち上がり、こう言った。
「…今は、悲しんでいる時では無いわ………妖忌、手伝って」
「紫、殿…」
「せめて…幽々子の願いだけでも、叶えてあげなきゃ………」
「………ああ………」


 西行妖の勢いはいよいよ増し、霞の如く花弁が宙に舞っていた。その下に、人一人が入る程度の穴が掘られていた。
「もう、いいかしら…?」
「…ああ。では、お嬢様を……」
「分かったわ…」
 白い布に包まれた幽々子の亡骸を、穴の中へ入れる紫。その上に、幽々子から貰った扇子をそっと乗せて。

「………………」
「………………」
 埋葬が、終わった。しかし、残された二人には、まだやるべき事があった。
「一口に封印と言っても色々あるけど……どうすればいいのかしら?」
「お嬢様は、西行寺家の書架に封印に関する資料があると言われていた……恐らくは、そこに」
「あるのね?」
 妖忌の言葉を聞いた紫が、屋敷に向かおうとする。しかし、妖忌がそれを止めた。
「私が行こう。紫殿は…お嬢様の隣に居て貰いたい」
「………分かったわ」
 そして、妖忌が書架に向かった、その時。


 オオオオォオオオオォォォオオオォォオーーーーーーン―――――――――


「「――――――ッッ!!?」」
 大気が、震えた。びりびりと、地をも震わす、その振動。西行妖が、震えていた。

 ―――西行妖が、鳴いていた。

 花弁が、総毛立つ。
 次の瞬間、花弁が次々と西行妖から零れ落ち、瞬く間に蝶の形へとその姿を変え―――
 辺りを、覆い尽くした。

 放たれた蝶は、白玉楼を飛び交い、敷地の外へ出ようとして、何かに遮られた。

「―――まさかっ!!」
 その蝶の行動に、いち早く反応したのは、妖忌だった。
「…何!? 何なの!?」
「この白玉楼は、西行妖の力を敷地外へと出さぬ様、先々代が結界を施してあるのだ! あの蝶等は、それを越えようとしている…!」
「何ですって!? それじゃあ、あの結界が破れたら……!」
「ああ、西行妖の力が、外に漏れ出してしまうっ…!」
 そうなれば、恐らく更に多くの被害が出る。
「どうするのっ!?」
「案ずるな! この白玉楼の結界は、そんな柔なものでは無―――」
 そう妖忌が言った時、異変が起きた。

 カッ――――――!!

「! 何ぃっ!?」
 西行妖から、一筋の光が放たれた。その光は、白玉楼の結界に当たり、それを歪ませる。
「結界を破ろうとしているのか!? 西行妖が………………………………なっっっ!!?」
 光源の方を見た妖忌が、驚愕する。ややあって、同じく『それ』を見た紫も、信じられない光景を目の当たりにした。

「―――お嬢様っっ!!」
「―――幽々子っっ!!」

 そこに居たのは、紛れも無く幽々子の姿であった。中空にふわふわと浮き、光の筋を発射する。
「何故っ…!? お嬢様が……!?」
 愕然とする妖忌。しかし、紫は『ある事』に気付いた。
「あれは………幽々子の、魂!?」
「!! 何だと……!? 何故…!?」
 地上に居る二人に全く気付く様子の無い幽々子の魂。その表情は、暗くてよく見えない。そしてまた、光を放つ。
「恐らく…西行妖が、幽々子の魂を力として利用しているのよ。元々、西行妖の死の誘いに幼い頃から耐えられてきた幽々子の魂が、西行妖に力を与えた………この結界を破る為の!」
「何っ……!?」
 紫の言葉を聞いた妖忌が、西行妖を睨みつける。
「おのれ…魔性の桜め……! 散々利用してまだ尚、お嬢様を苦しめると言うのか…!!」
 その様子を見た紫が、提案をした。
「今から封印の資料を探していては、とても間に合わないわ…! 妖忌! こうなったら、私が西行妖を封印するわ!!」
「出来るのか!?」
 その言葉に、紫は微笑んだ。
「当然よ………何と言っても、私はあらゆる境界を操る、すきま妖怪なんだから!」
「ふっ…そうか、そうだったな! で、私は何をすればいい!?」
 妖忌が、刀を構えた。
「一瞬でいいわ……西行妖の動きを、止めて。そうすれば私の全力を以って、西行妖を死の世界………冥界に封印する事が出来るわ」
「冥界…!?」
「いくら死に誘う西行妖でも、死の世界に居たんじゃあ、その力は水の中で蛇口を捻る様なものだからね」
「成る程、では―――」
「ただ……」
 不意に、寂しげな顔をする紫。
「何か、問題でも?」
「………ええ。白玉楼全体で西行妖を封印している以上、この一帯ごと冥界に送る必要があるわ……。つまり、あなたも一緒に冥界に送らなければならなくなる……」
「…そんな事か。それならば、問題無い。私は半人半霊の身故、その程度どうという事は無い! それに…冥界には、お嬢様も来られる……私は、そこで再びお嬢様と会う事が出来るのだ………」
「妖忌……」

 妖忌の強い眼差し。それを見て、紫は意を決した。展開したすきまに跨り、空へと舞い上がる。
「私は空から封印を施す準備に入るわ! …西行妖を、頼んだわよ!!!」
 そして、空中で一度止まり、妖忌に向かって叫んだ。
「またいつか―――あの世で会いましょう!!」

「………………………………承知!!!!」
 刀を高く掲げ、妖忌は応えた。


 対峙する、妖忌と西行妖。妖忌へと襲いかかってきた蝶は、妖忌の体から立ち昇る裂帛の気に圧されて、次々と落ちていった。


 オオォオオオォォォオオオォォオオーーーーーーン―――――――――


 西行妖が、鳴いた。まるで妖忌に気圧されんとする様に。


「西行妖よ…まさか、貴様と再び刃を交える事になるとはな……。西行寺家先々代と私で、貴様を封印した時以来か………」


 オオォオォオオォォォオオオォォオーーーーーーン―――――――――


「あの時は…私の未熟さ故、貴様に命を半分『持って行かれた』。そのお陰で、私は今や半人半霊の身………否、私だけでは無い。私の後代も、同じだ。全く、貴様は恐るべき妖怪桜よ………だが、今度はそうはいかぬ!!」


 オオオォオオオォォオオオォォオオーーーーーーン―――――――――


「西行寺家専属庭師兼警備長、魂魄妖忌の最大奥義を持って、貴様に永久の眠りを与えん!!!」


 ダッッッ!!!

 妖忌が、跳んだ。目指すは、西行妖の、中心点。しかし、その少し上には、幽々子の魂。

「お嬢様!! この魂魄妖忌、一度だけ、主君に刀を向ける非礼をお許し下さい――――――!!!」


 オォオオォオオオォォォオオオォオーーーーーーン―――――――――





「六道剣―――――――――『一念無量却』ッッッッッッッッ!!!!!」





          キンッ         !!!





 風が、薙いだ。妖忌が渾身の力を持って振るった刀は、しかし西行妖に傷一つ付けていない。が、それは当然。元より刀は、西行妖を斬ってはいない。


 ―――ぴしっ


 大気が、割れた。
 空間を裂いた剣閃の跡が、西行妖を取り囲む。一本、二本、三本、四本………数え切れない。


「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなどない――――――」


 そして、裂け目から溢れ出す、力。
 その力は形を成して暴れまわり、西行妖を責め苛む。


 オオォオオオオォォオオォォオオオーーーーーーン―――――――――


 その叫びは、西行妖の断末魔か。それは誰にも分からない。
 ただ、一つ。確かな事は、

 西行妖が、止まった。

「今だあーーーーーーっっっ!! 紫殿おおおおおーーーーーーっっっっ!!!!」
 妖忌が、吼えた。その叫びは天を衝き、紫に全てを伝える。

「行くわよ………………破っっっ!!!!!」

 ありったけの魔力を、空に放つ。そして、封印の呪印が白玉楼を包み込み。

 ―――刹那、光に包まれる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………!!!


 空が、震える。小高い山の上に建てられた白玉楼の上空が、ばっくりと裂けた。
 その裂け目から、光の奔流が迸り―――白玉楼を飲み込む。

 その様子を、妖忌は西行妖の下で見ていた。視界が真っ白に染められてゆく。何もかもが、見えなくなってゆく。

「妖夢よ…私は悪いお祖父ちゃんだな……。お前には、普通の暮らしをして欲しかったというのに……こんな目に遭わせてしまって………」

 妖忌は、沈黙した西行妖にもたれかかり、最後に、微笑んだ。


「紫殿………一足先に………お嬢様と………………待っていますぞ………………」


 そして白玉楼は、幻想郷から、この世から―――完全に、姿を消した。












 白玉楼跡に佇む、一つの影。
「………………………」

 彼女の周りには、何も無い。ただ、荒涼たる大地が広がっているだけ。あの長い階段も、美しかった楼も、目の覚める様な桜の森も、今はもうどこにも無い。

「幽々子………結局、私はあなたを救えずに…こんな事しか出来なかった………」
 がくり、と膝をつく。満開の妖力を湛えた西行妖の近くに居た事と、魔力を全力で使った事が、紫の体に大きな負担となって圧しかかっていた。
「っはあ……流石に、キツかったわ、ね………」
 地面にうずくまり、喘ぐ。その視線の先には、茶色の大地…
「…!!」
 否。何かが、地面から、顔を出している。そして、その物体に、紫は見覚えがあった。
「う、そ―――」
 我が目を疑った。だって、それは、

 紫が、幽々子と共に埋葬した、扇子。

「何で……」
 まさか幽々子の亡骸は、冥界に送られていないのか。そう思った紫は穴を掘ったが、幽々子の亡骸は出てこない。つまり、この扇子だけが、現世に残ったのである。

「幽々子………あなた………」

 つ……

 一筋、涙が零れた。扇子を拾い上げ、抱きしめる。

 紫は、感じていた。

 たとえ肉体が現世に無くても。魂が、冥界にあろうとも。


 幽々子は、ここに居る―――


「あ―――」

 不意に、世界が暗転した。

 全てが終わり、緊張の糸が切れた紫の体は、重力に逆らう事無く、地面に倒れ込んだ。
本来の予定ですと、この話にちょっとしたエピローグを書く事で終わりだったのですが、もう少し書き込みたいのであと一話だけ続けさせて貰います。

それはさておき。
妖忌がやたらと熱いキャラです。紫が全然胡散臭くないです。西行妖が凄いおかしいです。妖忌と西行妖の因縁がでっち上げです。とにかくみょんな設定ばかりです。みょん………

(11/21:追記)手直ししました。使い過ぎと言われた『…』と『―』を出来るだけ削りました。
謎のザコ
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コメント



0.1770簡易評価
1.10使削除
それだけ自分で欠点が解っているのであれば、全部克服してから投稿してほしかったです。東方の二次創作と見なければ筋自体は悪くないのですから。あと…と―を使いすぎですね。
2.30ななすぃ削除
妖忌が凄い熱い! 一念無量却を放った辺りが非常に格好良かったです。妖忌燃え~。しかし、使氏が言うようにちょっと『…』が多かった気がしますね。
3.40774削除
中篇の儚く美しい流れとうって変わり、某少年誌の様な暑い展開で来るとは・・・。貴方のみょんな設定、結構好きです。妖忌『 蝶 最 高 !!』    

4.40削除
妖忌がともかくかっこいい!!あと、これ読んでるとスキマ様がとても良い人(人?)に見えてきて不思議wでもこんな紫んも有りかな、と(^^)
5.50すけなり削除
 手直し後に見たのでそれらしい欠点はなかったですね(当たり前<br>
妖忌が格好よかったし、紫も良い感じでした。 あの強力な結界は紫んが創ったものなのかー。そして現世(幻想郷)からは、結界があって入れない&荒野が広がってるように見えるだけ…と(ぇ