此処は紅魔館を中央に浮かべる湖の畔。
この湖には昔から…か、どうかは本人すら記憶していない程度の時に存在する氷精が住んでいる。
いや、宿っている。
彼女はこの湖とともに在り、この湖がある限り、死にそうにはなるが死ぬ事は決してない。
それは、彼女以外のこの湖に宿る妖精達も例外ではない。
宿るが故に、宿主と共に存在を共有する…それが彼女等『妖精』と呼ばれる者。
の、一部。
まぁ、そんな事はこのお話とは少しも微塵も全く関係無いのだが――
「ぐぇぇぇぇぇっ!
静かな湖畔に響き渡らない程度の断末魔。
今正に、この湖に生ける一部の者にとっては直視できない程の狂気の宴が開かれていた。
泣き叫び、逃げ惑う者達を執拗に追い回し片っ端から捉えてゆく。
捉えられた者達の行く末は、吐く息すらも凍るほどの凍結地獄。
この宴に捧げられた者達の、生還した姿を見た者は皆無――
「おおぅ! チルノ姐!三連凍蛙(さんれんとうわ)とは…
「流石チルノ姐っ! 私なんか単凍蛙くらいがやっとですのに~
「お前は、しかも偶にしか成功しないからなー
氷精達が集まり、蛙を凍らせて遊んでいる。
『遊んでいる』と云えば聞こえは良いが、被害を被る蛙達にして見れば、彼女等氷精は正に『氷の悪魔』。
紅魔館に住むと謂われる紅の悪魔より、幾数倍も恐ろしい存在なのだ。
それを『遊び』称して氷精達の間に広めているのが…
「ふふふ…甘いわ、あんた達…いい?
こいつ等を水に浸けると…
最早単なる氷塊と化した蛙達を、今度は湖に投げ入れる。
すると…
「うわぁ…か、蛙が…!
「う、動き出した!?
「すっ、凄い!
三連凍蛙を成す程のチルノ姐の凍気も凄まじいが、
何より凄いのは凍った筈の蛙が何事も無かったかの様に泳ぎ始めた事ッ!
「凄ーいっ…!
でも、チルノ姐! 一体なぜ其処までの鍛錬を?
一人の氷精がチルノに問い掛ける。
すると、彼女は遠い目をしてまるで遥か昔を語るかの様に口を開いた。
「それは…そう、この沼の主は私だって事をアイツに…あの、爺蛙『自雷也』に――
「たっ! 大変ですチルノ姐ッ!!
と、其処へ一人の氷精が飛び込んでくる。
「何? 人がせっかく感傷に浸っ――
「それどころじゃありません!
たった今、前線で待機していた(遊んでいた)部隊から全滅したとの報告が!
「な…んだって!? それで!敵は!!
「敵は…なんとも恐ろしい事に…あの!
『紅白の巫女』ッ!!
「!!!
「こ…紅白の…巫女、だって…?
「まさか…あの紅魔館一味を滅ぼしたとか謂う…
「確か、巫女の癖に血も涙も無いと謂う…
『紅白の巫女』…それは彼女等湖畔に住まう妖精たち…
いや、この幻想郷に住まう妖精の殆ど一部の間で恐れられている存在。
その霊力は魔界をも焼き尽くし、逆らう者は尽く封印されていったという――
「あの…『紅白の巫女』ッ!?
一斉に氷精達が悲鳴を上げる。
「うろたえるなっ! 私等氷精はうろたえない~っ!
で、被害状況は?
「さ、先程云ったとおり、前線部隊…すなわち四部隊とも残らず墜とされました!
第五部隊の壁が破られるのも時間の問題ですっ!
「く……とうとう来たか…『紅白の巫女』ッ!
いや…博麗の巫女――『博麗霊夢』ッッ!!
「チ…チルノ姐…
「総員に告ぐ!
直ちに付近の氷精、霜精、雪精、雹精等を集い、隊を組め!
そして、第十~一五部隊は氷弾の準備を!!
「イエス!!サー!!
付近の妖精達が一斉に声を上げる。
是は自分達の志気を高めると共に、周囲へ合図を送る為だ。
そう、戦いの始まりを告げる為の――
「チルノ姐! 召集、完了しました!
「そうか…
「この時期に召集? 一体…
「知らないの? あの『鬼神』が…
「そっ、それ本当か!?
「うぇぇん…あたし、まだ死にたくないよぉ…
「イ㌔…
「チルノさま…(はぁと)
やや隊列の乱れた部隊の中、悲しくも戦場に駆り出された妖精達の胸中がざわめきの中に混じる。
本来、気まぐれに生きる妖精達の統率を取るのは完全には無理な話なのだ。
カッ…カッ…カッ…
「おい…チルノさまだ…
「いつ見てもカワイイわあぁ…
「何で飛ばないで歩いてるんだ…
「…しっ、静かにしな…はじまるよ…
「諸君! 良くぞ集まってくれた…えぇと…なんだっけ…
そう! 時間が無いから簡潔に話すっ!
あの、『紅白の巫女』が現れたっ!
しかも前線部隊を突破し、今正にこっちに届かんとしている勢いだっ!!
ざわ…ざわ…
ざわ…ざわ…
「こ…『紅白の巫女』!!
ざわ…ざわ…
ざわ…ざわ…
「これ以上あの紅白に私達の領域を侵させるワケには行かない!
行け! 我が精鋭部隊よ! 倒せ! 打倒紅白!!
「チルノ姐! 第五第六第七部隊全滅…第八ももう時間の問題と思われます!
「…そう
諸君!聞いての通りだ!
あんの憎ったらしい巫女を英吉利牛と一緒に冷凍保存してやるのよ!!
「おぉ~ッ!!
妖精達が一斉に雄叫びを上げた。
(結局チルノ姐の私怨なの…
(個人的な感情で私等を巻き込まないでほしいなぁ…
(チルノさまのためなら…私…
(身勝手な…だが、いい暇つぶしか…
…が、相変わらず統率は取れていない。
―――ほぼ同時刻。
「うぅ~寒い寒いっ! まさかこんなに寒いとは思って無かったわ
それに…なんでこの辺はこんなに雑妖が多いのかしら
相手にはならないけど…流石に面倒なのよね
「~~ぉお~…!
遠く…いや、それ程遠くない前方から北風に乗って雄叫びが聞こえてくる。
「今の声は……?
「うぉぉぉ~っ!
雄叫びが近づいてくる。
「何? 一体何なの?
「うわぁぁぁ~っ!!
雄叫びに混じって、幾つか悲鳴も聞こえる気がする。
「げ………
前方から雪崩が迫ってくる。
…『雪崩』?
いや、今はそれなりの高度を飛んでいる筈。
雪崩が此処まで届く筈が無い…そもそも、此処はまだ山ではない。
雄叫びが近づくにつれ、空気の震えが増す。
飛んでる筈なのに、地響きがするかの様な空気の振るえ。
そう、前方の『雪崩』に見えるのは――
「な…何よ! あの数!?
大量に迫ってくる、冬の妖精達の群れ。
――再び、こちらチルノ軍。
「…チルノ姐、なぜ一五部隊も残すのですか?
一斉に掛かればあの紅白も倒せるやもしれないのに…
「甘いわ…あんた達が幾ら束になろうと、あの紅白はビクともしない
「それはやってみないと判らな――
「一撃で墜とされる奴が幾ら束になろうと駄目なのよ…
「……。
「…だから、私が行く!
「!!? チルノ姐自ら…?
そ、そんな! チルノ姐が居なかったら我々は負けも同然…!
「…『冬の忘れ物』…
「ふ、『冬の忘れ物』…!?
「そう、聞いた事くらいあるだろ?
私が…紅白を食い止める
その間に、あなたは彼女…レティ・ホワイトロックを呼んで来るのよ
「そっ…そんな! チルノ姐! まさか――
「いいからさっさと行け! いいか?
この戦いは冬を守るとか、紅白が憎いとかムカつくとか絶対墜としてやるとかそう云うのが目的じゃない…
私達氷精の! プライドとか誇りとか自尊心とかを掛けた戦いなんだよ!!
「…判りました、チルノ姐が其処まで覚悟してるなら…この私、命を掛けても『冬の忘れ物』を…!
「頼んだよ…
「みんな! よく聞け!
これから私は前線へと赴く!
だが…正直な話、私では勝てないかもしれない…
私が…霜符「フロストコラムス」を発動した瞬間!
総員、配置について欲しい…
では…また、無事に逢える事を祈る…
「そっ…そんなチルノさま!!
「くぅっ…チルノさま…カッコいいこと云ってくれるぜっ…
「御労しや…チルノさま…っ
「あんたこそ…氷精の中の氷精だよ…!
数々の声援に見送られ、彼女は一人前線へと赴く。
冬の妖怪達の期待をその背に乗せ、負ける事の出来ない戦いへと。
自身の負けが意味するもの…それは、冬の自然が人間に屈する事を意味する。
多々が人間…それも巫女一人に自然の力が負けるなど、彼女等妖精にとっては耐え難い屈辱――
「あんのヤロ~っ!
今度こそ氷付けにして湖に浮かべてその上に乗って遊んでやるんだから!!
――では、無いのかも。
「全員束になって掛かれ~っ!
「あんな巫女の一人や二人『プチッ』よ『プチッ』!
「矢も束になれば!!
「赤信号、皆で渡れば、怖くない!!
大量の妖精が猛スピードで突っ込んでくる。
その様は、正に『雪崩』の如しだが…
「…ちまちま来たんじゃ敵わないからって、今度は妖海(?)戦術?
ほんっと、妖精って――
巫女が左右に舞う珠を正面に突き出す。
「――単純よね!!
掛け声と同時に、彼女の正面の珠から紅色の光が発せられる。
その瞬間。
バシュッ!
妖精雪崩の一片が、丸ごと消し飛んだ。
「え…?
「な、何? 今、今の…?
「馬鹿な…一瞬にして…数十機が墜とされた…
「むぅ…正に『鬼神』よな…
妖精達の勢いが止まる。
下を見れば、先ほどの一撃で墜とされた妖精達の落下する姿と、断末魔。
彼女等は『紅白の巫女』の力を目の当たりにして、恐怖に染まっていた。
「どうしたの? まさか…それでもう終わりだって云うのかしら?
「う…うろたえるな!! 幾ら『鬼神』と言えど相手は所詮一人!!
「そ、そうよ! 敵わない相手じゃないわ!たぶん!
「どうせ…もう、逃げられないんだ…あたし達は…
「冬の妖精の意地…見せてやろうじゃないか!!
「…そうこなくちゃね…っ!
「突っ込め~っ!
「攻撃の隙を与えるな~っ!!
「回れッ! 囲むのよ!!
再び、妖精の雪崩が動きだす。
気の所為か、先程より勢いの付いたように感じるその軍勢は、
巫女に近づくと一斉に上下左右に分散した。
「それと……
巫女が、今度は二つの珠を左右に置くと――
「…誰が『鬼神』だっ!!
扇状に広がる紅の光が妖精達に襲い掛かる。
「はぁっ…はぁっ…!
雪の舞う寒空を、ふらふらと一人の妖精が飛ぶ。
疲弊しきったその体を前へ、前へと…最早精神力だけで飛行を続けていた。
まぁ、妖精自体精神の塊の様なものなのだが。
しかし、もう、それも限界――
「はぁっ…! だ、駄目…よ、こんな…こん、なトコ…で…
運動により発せられた熱が彼女等氷精の疲労なのだ。
その熱は、彼女の体を溶かす程にまで達していた。
そして、遂に力尽きた彼女は真逆さまに急落下してしまう。
「チ、チルノ…姐――!
このままでは地面に激突してしまう…と思ったその時、体がふわりと浮かぶ。
「…『チルノ』…?
遠ざかる意識の中、彼女はまるで雪に包まれるような…そんな感じを覚えた。
紅と蒼の閃光が、巫女を中心として十字に展開する。
その光に触れた冬の妖精達は、成す術もなく次々に墜とされて行く。
光が消えると…其処には、構えを解いた巫女の姿と――
「うわぁぁぁぁ~
「く…っそぅ…無…念…!
「痛いよ…ヒドイよぉ…
「ま…さに、悪鬼……か…
――落下していく、妖精達の姿。
「…ふぅっ
まさか『封魔陣』まで使う事になるなんて思ってもみなかったわ
スペルカードを用いた攻撃には限度と言うものがある。
所持数や消費する精神力などを考えると、そう易々と連発出来る代物ではない。
云わば『奥の手』を、よもや発って間もない時に使う事になるなど予想外の事であった。
「…ま、その点に於いては褒めてあげても良かったかな
「是で終わりだと思うなよ!! 紅白の巫女!!
突如、背後から罵声を浴びせられる。
と、同時に――
バシュン!
――巫女目掛け、氷弾が飛ぶ。
「――っ!
い、いきなり…撃って来るなんて!
一体何考えて………あ、あんたは…
氷弾を紙一重で躱す。
振り返ると、其処には青い衣を纏った一人の氷精。
確か………うん、良い具合に標的だった記憶が。
「ふん…久しぶりだなっ!
紅白――いや…博麗霊夢!!
「…何? また懲りずに的にでもなりに来たの?
「煩いっ!!
勝手に私等のナワバリに入ってきて、しかもうまもよくも仲間を沢山墜としてくれたな!!
だが、私が来たからには…
「うん、得点を稼がせてくれに来たんでしょ?
ありがと~
「ふ…ふ……ふざけやがって~~~~ッッ!!
あんたなんか凍らせてマグロと一緒に魚市に並べてやる!!!
氷精の怒鳴る声と、無数に散らばった氷弾が同時に巫女へ向けられる。
「ボムは…使うまでも無い、かな…
激昂する氷精とは対照的に、落ち着き払った様子の巫女。
感情に任せるまま氷弾をばら撒くが、そんな狙いの定まっていない攻撃が当たる筈も無く。
巫女はまるで何も無い空間を飛んでるかの様に氷精へと距離を詰めてくる。
「ねぇ、真面目にやってよ?
ずっとこんな調子なんだったら…もう、終わりにしちゃうわよ…?
氷弾を躱しながら、巫女は左右に舞う珠を前にかざす。
すると、紅い光の矢(ホントは針だけど)が氷精目掛け一閃――
バシュッ!
「……あっけなかったわ――ね!?
――する筈が、紅の矢は虚しく空を切る。
「こっちよ!
「!!
いつの間にか、上方に氷精の姿。
今正に氷弾を撃とうと、冷気を溜めている。
「前の私だと思うなっ!
私が本気になればあんたのその針だって凍らせられる!!
荒捲く海だって凍らせることが出来るっ!
その気になればなっっ!!
「其処まで言うならやってみればいいじゃない!
「いまやってやるよ!!
霜符「フロストコラムス」ッ!!
溜めていた冷気を解き放つ。
無数の氷弾が氷精の手から放たれ、巫女に迫る。
それとは別に、後ろの方では「フロストコラムス」と云う合図が発動した為、残った妖精達が動き始めた。
「あっ! 皆、チルノさまが…
「むっ!アレは…アレが『フロストコラムス』ッ!
「よし…みんな配置に――
「よしっ!!みんな!突撃だぁーッ!!
「えっ?
「おぉぉーっ!突撃ィィィィーッ!!!
何を血迷ったのか、全員突撃して行った。
「…すこしはやるじゃない…
「『少し』じゃない!『かなり』出来るんだっ!!
…ドドドド…
「…? 何の音?
「おいっ! 人と弾幕ってる時に余所見を――って……っ!?
余所見をしていても相変わらず巫女は弾に当たらない。
そして、巫女が余所見をしている原因に気付くと、氷弾を打つ手が止まる。
「やぁぁぁ!!突っ込めーっ!!
「チルノさまーっ!今行きますーっ!!
「もう何がなんだか…
「行けー!!チルノ姐を援護するんだー!!
再び、妖精の雪崩が巫女と氷精に突撃してくる。
「な…っ、まだ早っ……!
「ちょ…あんた止めなさいよ!!
「アイツ等に言えーっ!!
ドオンッ!!
轟音と共に、二人は雪崩に飲み込まれた。
いや、大勢がもみくしゃになった。
「巫女ッ! 巫女は何処だ!?
「えいっ!!
「痛っ!? だ、誰だよ私を狙ったの!?
「巫女!!覚悟!!
「あんたじゃ相手にならないっての!!
「私の所為じゃないぞー…
「あっ、チルノさま(はぁと)
「お前等邪魔だーっ!!
「覚悟!
「痛ッ!こら、それはあたしだ!!
「今…触った…?
「あっ、ゴメ…
「お前等配置に付けと――
「チルノさま~
「おい…ちょ…っ!
「あ~~~~~っ! もう……
「……寒苦しいったらありゃしない!!!
遠くから見れば、宙に白い塊が浮かんでいるようにしか見えない。
その塊から紅い光が漏れ、内部から二重の結界が展開される。
直後、その塊の形が崩れ、地面へボトボト落ちてゆく。
崩れた塊の中には、青い衣を纏った氷精の姿も在った。
そして…残ったのは紅白の巫女の姿。
「…ふぅっ…
あー寒かった…ん?
ふと、背後から声が聞こえる。
「あ…ぅ、みんな墜ちちゃったぁ…
「…そうだな 残ったのは私とお前だけだ
「ど…うしよう… ねぇ、あたし達だけじゃ…
「覚悟を…決めるしかない様だ…な
「ぅ…『覚悟』ってぇ――
「そう…あんた達も私に『墜とされる』って事よ
「…少し、違うな 紅白、貴様に『一矢報いてから』って云うのが抜けている…
「やだ…あたし、何もしないから…何も、しないでよぉ…いやぁ…
「どっちも却下
今すぐ後を追わせてやるわ!!
巫女が珠を二人の方へ向ける。
「いやぁ…
「…来るか…っ!
「是で、終わ――
「待ちなさい! そこの巫女!!
今日は良く背後から声を掛けられる…。
だが、無視しているのか聞こえないフリをしているのか、巫女の珠から紅の矢が放たれる。
「く…万事休す…か!
「いやーっ!!
パキィィン!!
「…!?
「…?
「!!
一瞬何が起こったのか、巫女と二人の妖精は理解出来なかった。
ただ、巫女の放った矢は当たらず、二人の妖精も無事。
「…私の言葉が聞こえなかった?
なら、もう一度言うわ…でも、もう言っても意味無いか
巫女の放った紅の矢は凍りつき、空中で停止していたのだ。
「…誰よ、あんた
「『冬の忘れ物』…みんなからはそう呼ばれるわねぇ
「ふゆの…わすれ、もの…
「ま、まさか貴女が…?
「…さて、と
ホントは自然は自然なままに生きるのが一番良いんだけど…
…今回はちょっかい出させてもらうよ、紅白さん?
「で、あんたの誰よ? 名前は? あるんでしょ?
「私は、レティ…
レティ・ホワイトロックよ…霊夢
「レ…レティさ――
「あなた達は下がってて 其処に居ると弾幕に巻き込むことになるわ
…下に行って仲間達を診てあげなさい
「は、はい…おい、行くぞ…
「…ぇ? あ…う、うん…
「それで…どうして私の名前を知ってるの?
名乗った覚えは無いんだけど
「さぁ…どうして知ってるのかは私にも分からないねぇ…
「…挑発してるのかしら?
一歩身を引き、巫女が構えを取る。
「ホントに分からないから言ってるんだけどまぁ、いいわ
どっちみち…そのつもりで来たんだから…!
目を軽く閉じ、凍気を集中し始める冬の妖精。
「ふん…少しは出来るみたいだけど!
紅と、蒼白の弾幕が周囲に冷たい火花を散らし始めた――
――凡そ、その半刻後。
「さて、今日一番の敗因はなんだと思う?
「前線部隊が弱かったから!
「何を!『壁』が脆過ぎたからに決まってんだろ!!
「…召集が、遅れたから…
「チルノ姐が単身突っ込んだから…
「命令の、取り違いじゃないか…?
「だから私は『配置に着け』って…
「紅白に特攻する前に持ってる弾撃っておけば勝てたかな?
「…チルノ姐にまで当たるだろ…
「あたし達が…何も、出来なかったから…
「チルノさまぁぁ~(はぁと)…
「ん、ちょっと暑くなって来た…?
「違うっ! そんな事はどうでもいいんだよっ!!
…レティ!
「なにかしら?
「なんで本気で弾幕ってくれなかったんだよ…
「え? 本気で弾幕って欲しかったの?
「そりゃあ…なぁ…
おまえを呼びに言ったこいつだって浮かばれないだろ…?
「あ…いえ、私はいいんですけど…
「でも、私が本気で弾幕ったらこの辺の冬がなくなっちゃうけど…
それでも良かった?
「う…流石にそれは困、る…なぁ…
「そういう事よ
私達妖精が自然に逆らって如何するのよ
放っておいても、どんなに足掻いたって春は来るし、夏も秋も…一年待てばまた冬だってくるわ
「でもっ…! 春が来たらまたレティは…っ!!
「言ったでしょ…妖精は自然そのものなの
「…また、眠っちゃうのか…
「ええ…でも、今回は色々と楽しかったわ
「! もう寝ちゃうのか!?
「ええ…春はもう其処まで来てるわ
…じゃあね、チルノ
次に逢ったらまた…『私によろしく』、ね?
「…ああ…絶対っ!
また、来年に逢おうなっ!
絶対……っ!
「おやすみなさーい! レティー!
「こら、呼び捨てにするんじゃない…
「また、来年逢おうねー! レティさまー!!
「今度は、一緒に、蛙っ!!凍らせようね!
「おやすみなさいませ、レティさま…
「今度は、一緒にあの『鬼神』に勝とうねっ!!
「また一緒に遊んでねー!
「ええ それじゃ、また…来年まで――
――おやすみなさい。