Coolier - 新生・東方創想話

Grimoire of ......(ちょっと暗めな内容です)

2003/11/06 08:52:37
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「…あまり遅くならない事。無暗に暴れたりしたら絶対にダメよ。
 判ったわね?」
「判ってるわお姉様。じゃあ、いってきま~す!」

 そんな会話を交わしながら、私は紅魔館の空へと翔け出して行く。
 夜。
 まるで、吸い込まれ溶け込んでしまうような感覚に見舞われるほどの深い闇。
 そんな中、私は空中散歩へと出かけていった。
 月は紅くない。

「ん~っ! 気持ちいいなぁ」

 満面の笑顔を浮かべながら、私は思いっきり背伸びをした。
 この上ない開放感を感じる。
 それもそうだ、私は、495年間の間、ずっと地下に閉じこもってばかりで外に出たことはなかった。
 最近、最近のお話。
 偶然知り合った魔理沙と言う名のお友達が、私を外に連れ出していってくれたのだ。
 始めてみる外の世界。その時は、本当に驚いた。
 感動して、涙が出てくるほどだった。本当に楽しかった。
 …そんな日から幾らか過ぎた日、お姉様が条件付で、外に遊びに行っていいと言ってくれたのだ。
 その条件は――。

 一つ、外出時間は夜に限定する。
 二つ、外に出ている間は、決して弾幕ゴッコはしない事。
 三つ、あいうえお運動は徹底する事(あいうえお運動が何かは、教えてもらえなかった)

 他にも何か細かい事があったきがするけど、忘れてしまったわ。
 そんなこんなで、今日は三度目の外出。
 私の背中に綺麗な満月が映し出され、惜しみなくその月光で辺り一面を照らしている。
 ちょっと肌寒いような風が、今の私にはとても心地よかった。

「…はぁ」

 小さく息を吐き、背中で組んでいた手をゆっくりと前に出す。
 凄く気持ちがいい……。今すぐにでもそこら中を飛び回りたい衝動に駆られたけど、
私はぐっと我慢した。
 我慢する事も大切な事だと、魔理沙から教わったわ。
 だから、私は我慢する。

「とりあえず……何処に行こうかしら?」

 ゆっくりとした動作で、私は辺り一帯をぐるっと見渡してみる。
 眼下には、一面を覆い尽くすような森林が所狭しと並んでいる。
 殆どが同じ風景。前に外へ出た時とまるで変わりは無いようだった。
 でも、何でだろう? 一つ一つの木から、それぞれ違った声が聞こえて来るの。
 とっても安らかで、気持ちのいい声。

 カサカサ……カサカサ……。

 私はその声に誘われるように、風下へと向かっていった。




 暗い闇の中。月光すら殆ど届かない。
 そんな深い森の中で、私は偶然見つけた切り株に腰を降ろし、静かに本を読んでいた。
 その時、私の耳に何処からともなく声が聞こえてきた。

「…あら? 一体どうしたの? そんなに騒いで」

 私は、膝に乗せていた一体の人形を見つめながら、そう呟いた。
 正確には呟いているのではない。そう、話し掛けたのよ。
 私が胸に抱いているこの人形は……生きている。
 私の友達。私の事をよく知っていて、そして私もこの子の事をよく知っている。
 その子が騒ぎ出したから、私はちょっと気になりだした。

「…ふんふん。向うから、凄い力が向かってきてるのね。…ふふふ。
 何か面白い事でも起こるのかしらね」

 私はそう言うと、ゆっくりとした動作で立ち上がった。
 同時に、膝に乗せてあった人形が青い光に包まれ、光の尾を引きながら、私の周りを飛び回る。
 私はそんな無邪気な人形を見て、くすくすと声を立てて、笑った。
 笑い声が深い闇の中へ溶け込んでは消えていく……。
 そうしてその子と少し遊んだ後、私はその力を感じる方角へと向かっていった。




 カサカサカサ……カサカサカサ……。
 突然、木の声が変わった。

「あれ? どうしたんだろ。何だかヘンな感じ……」

 私の背中には、大きな満月が相も変わらない様子で威厳を放っている。
 だけど、私の眼下に広がる木々の様子が少しおかしい。
 さっきとは全然違う、何かに怯えているような声。
 何よ、私はまだ暴れてなんかいないわよ?

「ぅ~ん……困ったなぁ。木の声を頼りに飛んできたから、道が判らないわ。
 ……も~、勝手に声を変えたりしないでよ~」

 私はそう言うと、地団駄を踏んで見せた。
 もっともここは空中だし、踏む物なんて何も無いんだけど。
 私は暫くその場に立ち留まって、木の声に耳を傾けていた。
 私には、木が何を言っているのか判らない。
 ただ、忙しなく葉っぱをなびかせている様子が、どことなく焦りを表現しているように感じた。

 カサカサカサ……カサカサカサカサカサカサ……。

 もの凄く耳障りだった。はっきりとした理由が判らないから、なおの事気に入らない。

「…むぅ。そんなに、私の事嫌い?」
「…さぁて、ね。私、あなたの事知らないから答えられないわよ」
「……!」

 そんな中、私の背後から知らない声が聞こえてきて、私は慌てて振り返った。
 そこには……。

「こんばんわ、羽の生えたお嬢さん。こんな夜中にこんな所で何をやってるの?」

 そこには青いドレスに身を包んだ金髪の女性が、小脇に本を抱えて立っていた。
 スカートの端を掴んでお辞儀をする。何だか、とても上品そうな人だった。
 や、人じゃないか。魔女か何かかなぁ。

「…で、あなたは何をやっているの?」

 目の前の女性が、私に向かってそう言った。

「人にモノを聞くときは……」
「意地悪な人ねぇ。私の名前はアリス。アリス・マーガトロイドよ。今、この子と一緒に
 ちょっと遊んでいたのよ」

 その言葉を聞いて、私が、この子? と聞く前に、アリスと名乗った女性は一体の小人を取り出した。
 物凄く装飾が派手なドレスを着た、青く長い髪を持つ綺麗な小人。
 小人なんて始めてみたわ。おとぎ話の中だけの存在じゃなかったのね。
 私がその小人を見て目を真ん丸くさせていると、アリスという名の女性が不思議そうに話し掛けてきた。

「何? 私の人形がそんなに珍しいの?」
「ぇっ、これ、人形なの?」
「どこをどう見たって人形じゃない。それ以上でもそれ以下でもないわよ」
「そうなんだ? 私が昔遊んでいた人形は、よく喋るしあなたくらい大きいし、すぐ壊れるし……」
「ちょっと! それって……。それは多分人形じゃないと思うわよ……」

 そう言うと、アリスが顔に青筋を立てながら言った。
 あれ、私、何か変な事言ったかしら?
 まぁ、相手に名乗らせてばかりじゃダメだと思ったので、私も名前を名乗る事にした。

「私はフランドール・スカーレットよ。アリスさん。私はちょっと、お散歩をしていたの」
「スカーレット? まさか、紅魔館の?」
「あれ。もしかして、私の家って結構有名なの? 私、ずっと地下に住んでいたから
 あんまりそういう事よく判らないわ」
「…あなたねぇ」

 そう言うと、アリスは声をあげて笑った。
 …もぅ、一体何がおかしいって言うんだろう? 私にはよく判らない。

「まぁ、いいわ。それよりも……ねぇ、あなたこの人形を見てどう感じる?
 とってもかわいいでしょう?」

 そう言うと、アリスはその人形を胸の前で抱きかかえ、自慢気に笑った。
 本当に、嬉しそうに。

「へぇ……本当に綺麗ね。私、こんな凄いの初めて見たわ。ねね、ちょっと私にも貸してよ~」
「だめよ。絶対ダメ。この子は私にしか懐かないし……」
「懐く? 懐くって、その人形が?」

 私はその言葉を聞いて、首を傾げた。
 人形って、遊ぶ為の道具よね? その人形が人に懐くって、どういうことだろう?

「壊してばっかりのあなたには判らないかもしれないけどね……。人形にも、ちゃんと心ってモノが
 あるのよ。他の生き物と同じようにね……。だから、乱暴に扱えば悲しそうにするし、
 愛情を込めて接していれば、いつかは心を開いてくれるものなのよ。単に道具とかおもちゃとか、
 そんな存在じゃあない。私にとっては、かけがえの無いお友達なのよ」
「…へぇ、そうなんだ」

 アリスの言葉を、何だか夢見心地になりながら耳を傾ける。
 そう言われると、その人形にも心があるような気がしてきた。
 青い髪で青い瞳の人形。さっきから微動だにしない、ちょっと変わった人形。
 私は、その人形の瞳をじっと見つめていた。まるで吸い込まれるかのよう。
 何故だろう。私は今、この人形に凄く親近感を感じている。
 綺麗で、精巧で、儚い感じのする人形。
 もしかしたら、私に通じる何かがこの人形にあるのかもしれない。

「あ、そうだ! ねぇ、モノは相談なんだけど」
「…?」

 ぼうっとしながら人形を見つめていた私に、アリスが何か思いついたように話しかけてきた。
 何だか、本当に嬉しそうに。

「ねぇ、良かったら、この子と一緒に遊んでくれない?」
「…一緒に?」
「そうよ。さっきも言ったように、この子にもちゃんと心があるのよ。泣いたり笑ったり、怒ったり
 できる。人と同じように。この子と一緒に遊んでくれれば、きっとこの子もあなたの事を
 好きになると思うわ」
「…私の事、好きになってくれるの?」
「そう。きっと、あなたの事を気に入ってくれるわ。ねぇ、そうでしょう、アリシア?」

 そう言うと、アリスは胸に抱いていた人形の方へ話し掛けた。
 その時、少しだけその人形が動いたような……そんな気がした。
 …私の事を、好きになってくれるの? この子が?
 …何だろう、とてもヘンな気分。

「ほら、この子もあなたの事に興味があるって言っているわ。どうかしら?」
「…ぅん、判った! 私も一緒に遊んでみる。ねぇ、一体何して遊ぶ? 弾幕ゴッコがいいかなぁ」
「ちょっとちょっと、アリシアはそんな遊びはしたくないって。第一ねぇ、そんな事したら、
 アリシアが吹っ飛んじゃうわよ」
「ああ……そっかぁ。じゃあ、何をして遊ぼうか」

 そんな事を言いながら、私はその人形の方に近寄り、青い瞳を覗きこんだ。
 …その時だった。

「…あれ?」

 その人形が、突然涙を流し始めた。
 青い、透き通るような瞳から、紅い、血のような涙を。
 そして私ははっきりと聞いた。その人形の声を。

「…オトモダチが、欲シい」
「……ぇ?」
「…オトモダチが、欲シい」
「……」

 そうか、やっと気がついたわ。
 この妙な親近感。このヘンな気分の原因。
 それは……。

「私と同じ、狂気の臭いがするわ」
「…ふふふ」

 気がつくと、アリスは生気の無い瞳で私の事を見つめながら笑っていた。
 まるで、胸に抱いている人形と同じような危うい感じ。

「前言撤回。私でも、こんな危ない感じはしないわよ。しないわ。しないといいなぁ……」
「あら、余裕たっぷりって所かしら? 逃げなくていいの?」
「逃げようと思って逃げられる状態じゃないと思ってるわ。どうせ、ここら一帯に結界でも
 張ってるんじゃない?」
「ご名答。でも、破ろうと思えば破れるんじゃないかしら?」
「思えば、ねぇ。でも、あなた悪い人でしょ? 悪い人はやっつけるってのが、正しい正義の
 味方よね」
「それは何だかヘンな気がするわ……。私は、この子の友達になってって言ってるのよ?」
「つまり、私に死ねっていう事よね」
「ちょっと違うわ。あなたに、人形になって欲しいのよ。そうすれば、この子も寂しがらずにすむわ」

 そう言うと、アリスは小脇に抱えていた本をパラパラとめくり出した。
 一瞬だったけど、その本の表紙が見えた。
 そこにはこう書かれていた、『Grimoire of Alice』……アリスの魔道書?

「…お姉様は外に遊びに行っている間は弾幕ゴッコはやっちゃだめだって言ってたけど……。
 今日くらいはいいわよね? だって――」

 アリスが笑う、私も笑う。
 私の背中にある満月が、私達を明るく照らす。

「こんなに、月が紅いんだもの」

 いつしか、その月は真っ赤に染まっていた。





「…遅い、遅いわ。もー、フランったら、何をやってるのかしら?」

 夜の紅魔館。
 この、窓が少ない館の中で、数少ない窓の前を言ったり来たりしている人物がいた。
 この館の主、レミリア・スカーレットその人である。

「いくら魔理沙が大丈夫だって言ったって、まだあの子を一人で外に出すのは危なかったかしら。
 いつもだったら、もうそろそろ帰ってきてもいい時間だと思うんだけど……」

 周りに誰もいない紅魔館の廊下で、そうレミリアが一人ごち、深い溜息をつく。
 …何度、そんな事を繰り返していただろうか?
 灯りが灯っていない暗い廊下に、突如変化が起こった。

「……!?」

 レミリアが、驚いたような表情をしたまま無言で窓の外を見る。
 窓の外には、血のように真っ赤な満月が顔を覗かせていたのだ。

「まさか……」

 何かを感じとったのだろうか、レミリアはそう小さく呟くと、紅い光が差し込む廊下を
物凄い速さで翔けて行った。
 あっという間に、紅魔館の玄関へたどり着く。
 そして、けたたましい音を立てて、レミリアは外へと翔け出して行った。

 月が紅く染まっている。
 その月明りを全身に浴びながら、レミリアは空を翔けていく。
 そうして、見つけたのだ。
 紅い月に照らされ、空で佇んでいる自分の妹、フランドールの姿を。

「フランッ!? 一体ここで何をやっていたのよ」
「……あれ、お姉様?」
「ちょっと、心配したのよ。一体こんなとこで何を――」

 そうして、レミリアがフランドールに近づいた時だった。

「…あはははは」
「……フラン?」

 フランドールの顔が、服が、全身が、血で真っ赤に染まっているのをレミリアはようやく気がついたのだ。

「…ああ、これ? さっき、ちょっと頭のおかしな人形使いがいてね。私にちょっかいを出してきたから
 懲らしめてあげたのよ」

 その人形使いの姿はどこにもない。
 あるのは、全身を血で真っ赤に染めて楽しそうに笑っているフランドールと、その姿を見て
驚きの表情を隠しきれていないレミリアだけだ。
 驚きだけではない、明らかに、恐怖がその顔に刻み込まれていた。
 血の繋がった姉ですら、妹の『狂気』は理解し難いものがあったのだ。

「…あなた、あれほど――」

 真剣な眼差しをフランドールに向け、そうレミリアが口を開いた時だった。
 フランドールの胸に、何か抱かれている事に気がついた。
 それは、黒く分厚い本だった。恐らく高位な魔道書の類。
 一瞬、本当に一瞬だったが、その表紙がレミリアの双眸に映し出された。
 そこには、こう記されていたのである。
 『Grimoire of Frandole』……フランドールの魔道書、と。



 フランドールの笑い声が、紅い月夜に響き渡る。
 本当に、本当に楽しそうに。
 それが、彼女の本心かどうなのかどうか……それは誰にも判らない。
 フランドールはただ笑うだけだ。
 胸に、黒く分厚い本を抱いたまま……。
 月が紅い狂気に染まった日。
 新たな術者が、この幻想郷に誕生した。
ここへ投稿するのは久しぶりです。
最初はアリスとフランドールのほのぼの作品を作る気だったのですが、途中で路線変更、少し不気味な作品へと。
フランドールは一応公式でも魔法少女と言われているので、魔道書は使えるかな、と。
以前私が書いた、『人の形弄びし少女』に似通った作品となってしまいましたねぇ。
フランの名前の英文が判らなかったので、名前の由来かもしれない? ファランドール(Farandole)のaを抜いて書いてみました。
カン
http://th-radio.hp.infoseek.co.jp/
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コメント



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1.40すけなり削除
後半になって寒気を感じた…。フランドールが怖い…。(最近冷えてきたから、きっとそのせいだろう、そうだろう(汗 )
2.40tomo999削除
多分、本そのものが危険ということですね?
会話中の発言者が判ればさらによかったかも。
3.40珠笠削除
渡り歩く狂気。 考えれば考える程背筋が寒くなる話ですね。 滲み出る狂気が画かれていてイイ感じです。
4.40ヒミツのナナシちゃん削除
真っ昼間なのに背筋が寒くなりました・・・コワイヨー<BR>
それにアリスはいったいどうなったの?(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル