この話は「魂ヲ返ス蝶」の続きになります。
そちらを読んでからの方が良い筈です。というか読まないと展開がいきなりすぎると思われます。
2、―――――
突然の悲鳴に霊夢と咲夜は幽々子を見る。だが、そこにはもう「西行寺幽々子」と呼ばれていた亡霊の姫は居ない。
代わりに黒々とした闇がわだかまっていた。
「な、なに、これは…あのお嬢様は、どこ行ったのよ…?」
珍しく動揺を見せる咲夜。
「…とにかく」
霊夢は先ほどから――幽々子を倒したときから感じていた「嫌な予感」が急速に膨れ上がっていくのを感じていた。
「ここから離れ…!!!!」
突然、その人型をした『闇』が浮かび上がる。と同時に猛烈な「力」がそこから噴き出して来た。
「咲夜!!」
霊夢は呆けそうになった咲夜に呼びかけつつ、自分は魔理沙の元へ走る。
抱き上げ飛び上がるのと「力」が実体化したのはほぼ同時だった。光の帯が走り、球体が、蝶が飛び交う。
かろうじてかわす。近すぎる! もっと遠くへ、避けつつも距離を―――
死角からの 赤い蝶
普通の人間ならば気付くことすら出来ないはずのそれを
「!!!」
霊夢はかわして見せる。
無理な動きに魔理沙が落ちないよう、きつく抱く。
と、
「わーぉ…。大胆だな霊夢」
などと言う気の抜けた声に、霊夢はつい、落としてやろうかと思ってしまった。
「あんたね、目が覚めたんなら自分で飛びなさい!」
顔が少し赤らんでるのを感じ、声を荒げてしまう。
「いいけど、私の箒はどこだ?」
対する魔理沙は、いつもどおりだ。
「ここにあるわ」
咲夜が追いついてきた。
幸い、「力」の有効射程からは離れられたようだった。何故かあの『闇』は、西行妖から離れられないようだ。
「で、何でこんなことになってるんだ?」
あいかわらず、光や蝶を放出し続けるその『闇』を見つつ、魔理沙が聞く。
「…西行妖が開花したのよ。」
咲夜の言葉に、魔理沙は驚く。
「なんだよ、二人そろって負けたのか?」
負けて、春度を奪われたものだと思ったらしい。
「違うわよ。っていうか一番最初に負けたあんたが言う?」
霊夢の突っ込みにあさってのほうを向く魔理沙。
「ええと、…ああ、そうだ。何で開花するとああなるんだよ」
「強引に話題をそらしたわね。…まぁいいわ。」
咲夜がかいつまんで話す。幽々子に出し抜かれたこと。そして―その幽々子があの『闇』になってしまったらしいこと。
「と、言うわけよ」
「…」
出し抜かれたことにツッコミが来るかと思った咲夜だが、予想に反して魔理沙は腕を組んで考えに没頭していた。
「それってつまり存在の変質だろう。
…あの妖怪桜が、死人嬢を取り込んで、遠隔操作のユニットにしてしまったってところか。
かなり強い力を持ってるらしいな、あの桜は」
そういう結論に達したようだ。確かにそう見ることも出来るが…
「でも、それじゃ何で、あの桜から離れて追ってこないのよ?」
なんだか、つっこまれなかったことで無視されたように感じ、とりあえず反論をしてしまう。
…さすがに疲れてるのかな。魔理沙なんかに突っかかってしまうなんて。
―そんな考えが咲夜の頭の片隅に浮かんだ。
「それは…。まだ支配が完全じゃないとか」
「そうかしら? 結構時間たったけど、あれと桜との距離は全く変わってない様に見えるわ」
「だから、支配が…。むー…じゃあメイド長は、あれはなんだと思うんだよ。」
「…それは…」
そんなある種不毛な言い合いに霊夢が口を挟む。
「むしろ、門ね。何かがあそこから出てこようとしてる。
なんて言ったら良いのか分からないけど、意識?なのかな。んー…。
それが、鎖代わりになってるのよ、たぶん」
余計に突飛だった。
いきなりの論に、魔理沙は呆れ顔だ。
「訳分からんな。」
「仕方ないでしょ! ほんとにうまく言葉に出来ないんだから!
それにあのお嬢様だって、桜の元に何かが眠ってるから蘇らせるって…」
「門…ねぇ」
「なによ、あんたまでそんな、胡散臭そうな顔して…」
咲夜の顔を見て反発するが。…考え方が、どうにも突飛だ。咲夜にはそう思えてしまう。
「じゃぁ、あの攻撃は?」
「あれは、門の向こう側にある力、か、なにかが、噴出してきてるから…だと思う。」
「…門の向こう側って…何なんだよ、それ」
「だから、なんとなくよ!」
霊夢の言葉に、ふと咲夜は聞いてみる。
「それって、勘?」
「勘…なのかもね。時々こう…思いつくのよ。
以前…夏も、霧の原因は紅魔館のほうにあると感じたし、今回もそう」
霊夢が意外と由緒正しい家系だということを思い出し、咲夜は考えを言ってみる。
「それって、勘じゃなくて、もしかしたら、神託とか言うものじゃないの?」
「しんたくぅ~?霊夢が?」
「おーなるほど! 神様が教えてくれてたのかー。」
魔理沙はありえないと言いたげだ。対する霊夢はなんだかうれしそう。
どうせ、ろくでもないことでも教えてもらおうと考えているのだろう。もっと楽に暮らせる方法とか。
「だってあまりに雑然とし過ぎてるだろ」
「神託をうまく纏まった言葉として認識できないのは、修行不足だからじゃない?
それに、弾避けるのにも神託使ってるなら、むしろ直感的なほうが良いでしょうし」
「なるほどねー…」
ニヤニヤ顔で霊夢を見ながら、そんな感じならありかも、と魔理沙は思った。
さっきの言葉から一転、厳しいツッコミに霊夢は…
「えーと……
と、とにかく!! これからどうするか考えましょう」
魔理沙以上に苦しい話題転換だった。
3、―――――
ま「あれは倒せないのか?」
さ「無理ね。少なくとも私のナイフは素通りしてしまったわ」
ま「じゃあ、このままほっとくと言うのは?」
さ「春はどうするのよ。あの妖怪桜にとられたままよ?」
ま「春が過ぎれば一気に夏になるんじゃないか?」
さ「そして来年もまた春が来ないわけね」
ま「そうかー? 来年は来年で別の春があるかも…」
さ「確かめる手段は…」
魔理沙と咲夜で話は進んでいった。霊夢はなんとなく発言してなかった。
さっきの修行不足発言が尾を引いているわけではない。断じて無い…はず。
と、ちょっとウツ入ってた霊夢だが、3人から少し離れた場所を白いものが飛んでいるのを見つけた。
「あれは…庭師じゃない。」
それはふよふよと西行妖へと近づいていく。その近くでは相変わらず『闇』が、力を放出しているのだ。
「おーい、あんま近づくと危ないわよ。」
霊夢が呼びかけつつ寄っていくと、向こうも気付いたようで方向転換してきた。
「あんた達は…。これは…一体どうなっているの? …そうだ、御嬢様は!?ご無事なの!?」
怪我で辛そうだが、御嬢様のことになると元気が出る様だった。
「いや、なんていうか言いにくいんだけど…あれが、そう。」
「あれ…? なにを…いっているの?」
霊夢の指差す先には色とりどりの光を発する『闇』と、西行妖。
さすがにアレと言われてすぐに分かる奴は居ないだろう。
「だから、あのレーザーとか出てる根元の部分がそう…なのよ。」
言っても分からないかなー、と、ちょっと躊躇しつつ霊夢は言ったのだが。
自らが発する光に照らされ、その人型の闇は自らのカタチを晒す。
妖夢の視力は幸いにも、いや運悪くかもしれない、とても優れていた。
「そ…んな…嘘…」
一瞬の忘我。そして…
「っ!!?ちょっと!!!!」
妖夢は猛スピードで突っ込んでいく。まるで怪我など関係ないかのように。
「おい!霊夢!あいつどうしたんだよ!」
「わかんないわよ!!」
それだけ答えて、霊夢は妖夢を追った。
実際、妖夢は自分が怪我をしていることなど忘れていた。あんなものが御嬢様の訳無い。それだけを考えていた。
確かめないと、あんなものが、あんな、あん…な…
近づけば近づくほど攻撃は激しくなる。それをぎりぎりで避けつつ妖夢は見ていた。
その『闇』のカタチと、そして、その動き一つ一つを。
それは舞。幽々子が好んでいた、舞。
『闇』は幽々子のシルエットで舞う。それが漆黒の闇色でなければ、さぞかし艶やかだったろう。
「う…そ……どうして…。何で…あんなものが…幽々子様と同じ舞を舞っているの? 何で…うそよ…。
嘘よーーーーーーーーー!!!!!!!」
絶叫。目の前の現実をすべて打ち消そうとするかのごとく、叫ぶ。しかしそれで『闇』が消えるわけも無く。
替わりに、動きの止まったその瞬間を狙い済ましたかのような攻撃。
普通ならば今までの攻撃だって、怪我をしている状態で避けられるものではなかった。
ましてや、回避行動から意識がそれていたのでは…。
気がついたときには、目の前に、光。ただ、光。
光が迫る中、思い浮かんだのは、何故、西行妖を咲かせようと言う御嬢様に進んで協力したか、だった。
正直…今回の言いつけは気が乗らなかった。
幻想郷中の春を集めるのだ。下手をすれば、幻想郷中の妖怪・人間を敵に回すかもしれない。
それ以外にも、西行妖を咲かせるということに対し、綺麗だろうなという期待もあったが、
何か、漠然とした不安のほうが大きかった。
それがほとんど杞憂に近いものでも、御嬢様に危険が及ぶことは避けたかった。
自分がまだまだ未熟なことは知っていたから。守りきれないなんて…考えたくは無かったけれど。
それでも、妖夢は幽々子に心情を悟らせずに、『春度』を集めた。
それは、言いつけを妖夢に告げた時の、どこと無く寂しげな幽々子の横顔が、目に焼きついて離れなかったから。
「(私は…)」
光が、迫る。思い浮かぶのは…寂しげな…
「(私は…御嬢様の喜ぶ顔が…もっと…見たかった)」
4、―――――
妖夢を焼くかと思われた光はしかし、紅白の影の放った光弾、夢想封印により相殺される。
「なにむちゃしてんのよ!!」
一発怒鳴り、妖夢の首根っこ捕まえて一気に離脱。
スピード自慢の魔理沙顔負けの早業だった。
二人を追っていた魔理沙と咲夜は、霊夢の早業に驚いていた。
「神託にしろ何にしろ、あの動きは修行不足には見えないわね」
なんとなく面白くない魔理沙。
「なんか…ズルいよな…」
「ん?なに、嫉妬?」
「!…」
咲夜の突っ込みに言い返そうとして、言葉は浮かばず、
「ちょっとだけ…な」
「…そ」
とりあえず本心を答えておいた。
気絶していた妖夢が目を覚ますと、3つの影に見下ろされていた。
肩を怒らせ紅白、
「あんたね、自爆するのは一人でたくさんなの、解る?」
幽々子戦で自分から弾に突っ込んだのは黒いやつだ。
「おまえ、さりげなく酷いな…」
そんなやり取りの意味など分かるはずも無く、妖夢はただ、幽々子のことを考えていた。
「あの…教えてください。何であんなことになったのか。お願いします」
殊勝に尋ねてくる妖夢に3人は顔を見合わせる。それが解ったら苦労はしない。
「まぁ、解ってることだけなら」
咲夜が、魔理沙に話したことに加え、魔理沙と霊夢の推理も併せて聞かせる。
「では、御嬢様は、西行妖に取り込まれてしまった、と?」
「んー、微妙に違う気もするんだけど…」
霊夢は否定的だが。
「神託か?」
「さぁ? ほんとにそんな気がするだけだから」
からかわれるのを警戒してか、魔理沙の言葉には乗らない。
そんなやり取りを横目に咲夜が話を進める。
「で、これからどうするかを話し合ってたわけだけど…」
「…あの、御嬢様を助け出すことは出来ないのでしょうか?」
『ハイ?』
期せずして3人の声がハモった。
助ける、などと言う考えは誰の頭にも浮かんでなかった。少し考えれば自業自得だとわかるからだ。
口火を切ったのは咲夜。
「貴女ね、自分達がやったこと考えて言ってる?
勝手に春を奪っていって、勝手に桜咲かせようとして、勝手に取り込まれて。
それで助けてほしいなんてのは…」
「まぁ、それに、どう対処すればいいかって事自体わかってないしな」
咲夜の小言チックな台詞をやんわりとさえぎるように魔理沙が締める。
咲夜は目を閉じて言ってるから気がつかなかったようだが、妖夢の目には涙があふれていた。
これではなんだか、こちらがいじめているようではないか、と。そんな気になっても仕方が無い。
「でも、あの影は、舞を、舞って、いたんです。御嬢、様が、とても好きだった、まい、なんです。」
途切れ途切れに、しゃくり上げるのを我慢しようとしても、抑えることは出来ず。
さすがに咲夜も気付き、苦い顔。
…私が泣かしたみたいじゃない。
「きっと、あの闇の、中に、御嬢様の意識は、残って、いる、はずなんです。
呼びかければ、きっと、答えてくれる、はず、なんです。
だから、おねがいします。手伝って、ください。」
確定的なことは何もわかってないはずなのに、断定調。
それは、もう意識など無くなっているのではないかという、不安の裏返しか。
「わたしを、あの近くまで、運んでください。わたし、呼びかけますから。
運んで、くれるだけで、いいですから、おねがいします。」
妖夢の半身、霊体は先ほどの急加速で力を使い果たし、浮いているのがやっとの状態だった。
…それは、もしかしたら妖夢の心情を表していたのかもしれない。
「そういわれてもなー。」
「あそこに突っ込むのは自殺行為よ。」
魔理沙と咲夜はそう言いつつ、それを視界に納める。射程外だからのんきに話などしてられるが…。
いったん射程に入れば、その猛攻の前に話しかけることなど出来るのだろうか。
そんなことは考えず、ただ妖夢は懇願を繰り返す。
「おねがい…。おねがい………します…。」
そんな必死の懇願に、最初に折れたのは
「もう。仕方ないわね。」
霊夢だった。
そう言う霊夢の顔は、心なしかやわらかに―――笑んでいたように見える。
めんどくさがりの癖に何故か、困っている人をほっとけない。
まぁ、お人よしなのだ、この巫女は。
魔理沙はそう思う。多分間違ってないだろう。
霊夢たちはとっとと行ってしまった。むしろ霊夢が張り切っている。
手伝わなければ、うまくここを切り抜けたとしても、後々いろいろ言われそうだ。
「やれやれだぜ。」
そういいつつも魔理沙はなんだか楽しそうだった。残った手持ちのスペルカードの数など数えつつ、
「さて。もとから亡霊だったあの御嬢様を、呼び戻そうというわけだが。これも反魂になるのかな?」
「そんなわけないでしょ。反魂て言うのは、普通に考えれば蘇生をさすものよ。」
「確かにな。けど、魂を人の意識、想いと考えれば?
…それを呼び戻すこれも、やっぱり反魂なんじゃないか、なんてな。」
最後は照れたように言って魔理沙も霊夢たちの後を追う。
「…以外にロマンチストなのね。」
ため息ひとつ。
「まったく、なにをやってるのかしら。」
正常な判断が出来ないらしい。
「…はぁ」
やはり疲れているようだ。
だって、自分も正常な判断が出来ないのだから。
いまからやろうとしていることは、とても危険で、
しかし、自分やお嬢様―レミリアには全く意味のない行為。
「しょうがないわね…ほんとに」
そして―――咲夜も後を追う。
そちらを読んでからの方が良い筈です。というか読まないと展開がいきなりすぎると思われます。
2、―――――
突然の悲鳴に霊夢と咲夜は幽々子を見る。だが、そこにはもう「西行寺幽々子」と呼ばれていた亡霊の姫は居ない。
代わりに黒々とした闇がわだかまっていた。
「な、なに、これは…あのお嬢様は、どこ行ったのよ…?」
珍しく動揺を見せる咲夜。
「…とにかく」
霊夢は先ほどから――幽々子を倒したときから感じていた「嫌な予感」が急速に膨れ上がっていくのを感じていた。
「ここから離れ…!!!!」
突然、その人型をした『闇』が浮かび上がる。と同時に猛烈な「力」がそこから噴き出して来た。
「咲夜!!」
霊夢は呆けそうになった咲夜に呼びかけつつ、自分は魔理沙の元へ走る。
抱き上げ飛び上がるのと「力」が実体化したのはほぼ同時だった。光の帯が走り、球体が、蝶が飛び交う。
かろうじてかわす。近すぎる! もっと遠くへ、避けつつも距離を―――
死角からの 赤い蝶
普通の人間ならば気付くことすら出来ないはずのそれを
「!!!」
霊夢はかわして見せる。
無理な動きに魔理沙が落ちないよう、きつく抱く。
と、
「わーぉ…。大胆だな霊夢」
などと言う気の抜けた声に、霊夢はつい、落としてやろうかと思ってしまった。
「あんたね、目が覚めたんなら自分で飛びなさい!」
顔が少し赤らんでるのを感じ、声を荒げてしまう。
「いいけど、私の箒はどこだ?」
対する魔理沙は、いつもどおりだ。
「ここにあるわ」
咲夜が追いついてきた。
幸い、「力」の有効射程からは離れられたようだった。何故かあの『闇』は、西行妖から離れられないようだ。
「で、何でこんなことになってるんだ?」
あいかわらず、光や蝶を放出し続けるその『闇』を見つつ、魔理沙が聞く。
「…西行妖が開花したのよ。」
咲夜の言葉に、魔理沙は驚く。
「なんだよ、二人そろって負けたのか?」
負けて、春度を奪われたものだと思ったらしい。
「違うわよ。っていうか一番最初に負けたあんたが言う?」
霊夢の突っ込みにあさってのほうを向く魔理沙。
「ええと、…ああ、そうだ。何で開花するとああなるんだよ」
「強引に話題をそらしたわね。…まぁいいわ。」
咲夜がかいつまんで話す。幽々子に出し抜かれたこと。そして―その幽々子があの『闇』になってしまったらしいこと。
「と、言うわけよ」
「…」
出し抜かれたことにツッコミが来るかと思った咲夜だが、予想に反して魔理沙は腕を組んで考えに没頭していた。
「それってつまり存在の変質だろう。
…あの妖怪桜が、死人嬢を取り込んで、遠隔操作のユニットにしてしまったってところか。
かなり強い力を持ってるらしいな、あの桜は」
そういう結論に達したようだ。確かにそう見ることも出来るが…
「でも、それじゃ何で、あの桜から離れて追ってこないのよ?」
なんだか、つっこまれなかったことで無視されたように感じ、とりあえず反論をしてしまう。
…さすがに疲れてるのかな。魔理沙なんかに突っかかってしまうなんて。
―そんな考えが咲夜の頭の片隅に浮かんだ。
「それは…。まだ支配が完全じゃないとか」
「そうかしら? 結構時間たったけど、あれと桜との距離は全く変わってない様に見えるわ」
「だから、支配が…。むー…じゃあメイド長は、あれはなんだと思うんだよ。」
「…それは…」
そんなある種不毛な言い合いに霊夢が口を挟む。
「むしろ、門ね。何かがあそこから出てこようとしてる。
なんて言ったら良いのか分からないけど、意識?なのかな。んー…。
それが、鎖代わりになってるのよ、たぶん」
余計に突飛だった。
いきなりの論に、魔理沙は呆れ顔だ。
「訳分からんな。」
「仕方ないでしょ! ほんとにうまく言葉に出来ないんだから!
それにあのお嬢様だって、桜の元に何かが眠ってるから蘇らせるって…」
「門…ねぇ」
「なによ、あんたまでそんな、胡散臭そうな顔して…」
咲夜の顔を見て反発するが。…考え方が、どうにも突飛だ。咲夜にはそう思えてしまう。
「じゃぁ、あの攻撃は?」
「あれは、門の向こう側にある力、か、なにかが、噴出してきてるから…だと思う。」
「…門の向こう側って…何なんだよ、それ」
「だから、なんとなくよ!」
霊夢の言葉に、ふと咲夜は聞いてみる。
「それって、勘?」
「勘…なのかもね。時々こう…思いつくのよ。
以前…夏も、霧の原因は紅魔館のほうにあると感じたし、今回もそう」
霊夢が意外と由緒正しい家系だということを思い出し、咲夜は考えを言ってみる。
「それって、勘じゃなくて、もしかしたら、神託とか言うものじゃないの?」
「しんたくぅ~?霊夢が?」
「おーなるほど! 神様が教えてくれてたのかー。」
魔理沙はありえないと言いたげだ。対する霊夢はなんだかうれしそう。
どうせ、ろくでもないことでも教えてもらおうと考えているのだろう。もっと楽に暮らせる方法とか。
「だってあまりに雑然とし過ぎてるだろ」
「神託をうまく纏まった言葉として認識できないのは、修行不足だからじゃない?
それに、弾避けるのにも神託使ってるなら、むしろ直感的なほうが良いでしょうし」
「なるほどねー…」
ニヤニヤ顔で霊夢を見ながら、そんな感じならありかも、と魔理沙は思った。
さっきの言葉から一転、厳しいツッコミに霊夢は…
「えーと……
と、とにかく!! これからどうするか考えましょう」
魔理沙以上に苦しい話題転換だった。
3、―――――
ま「あれは倒せないのか?」
さ「無理ね。少なくとも私のナイフは素通りしてしまったわ」
ま「じゃあ、このままほっとくと言うのは?」
さ「春はどうするのよ。あの妖怪桜にとられたままよ?」
ま「春が過ぎれば一気に夏になるんじゃないか?」
さ「そして来年もまた春が来ないわけね」
ま「そうかー? 来年は来年で別の春があるかも…」
さ「確かめる手段は…」
魔理沙と咲夜で話は進んでいった。霊夢はなんとなく発言してなかった。
さっきの修行不足発言が尾を引いているわけではない。断じて無い…はず。
と、ちょっとウツ入ってた霊夢だが、3人から少し離れた場所を白いものが飛んでいるのを見つけた。
「あれは…庭師じゃない。」
それはふよふよと西行妖へと近づいていく。その近くでは相変わらず『闇』が、力を放出しているのだ。
「おーい、あんま近づくと危ないわよ。」
霊夢が呼びかけつつ寄っていくと、向こうも気付いたようで方向転換してきた。
「あんた達は…。これは…一体どうなっているの? …そうだ、御嬢様は!?ご無事なの!?」
怪我で辛そうだが、御嬢様のことになると元気が出る様だった。
「いや、なんていうか言いにくいんだけど…あれが、そう。」
「あれ…? なにを…いっているの?」
霊夢の指差す先には色とりどりの光を発する『闇』と、西行妖。
さすがにアレと言われてすぐに分かる奴は居ないだろう。
「だから、あのレーザーとか出てる根元の部分がそう…なのよ。」
言っても分からないかなー、と、ちょっと躊躇しつつ霊夢は言ったのだが。
自らが発する光に照らされ、その人型の闇は自らのカタチを晒す。
妖夢の視力は幸いにも、いや運悪くかもしれない、とても優れていた。
「そ…んな…嘘…」
一瞬の忘我。そして…
「っ!!?ちょっと!!!!」
妖夢は猛スピードで突っ込んでいく。まるで怪我など関係ないかのように。
「おい!霊夢!あいつどうしたんだよ!」
「わかんないわよ!!」
それだけ答えて、霊夢は妖夢を追った。
実際、妖夢は自分が怪我をしていることなど忘れていた。あんなものが御嬢様の訳無い。それだけを考えていた。
確かめないと、あんなものが、あんな、あん…な…
近づけば近づくほど攻撃は激しくなる。それをぎりぎりで避けつつ妖夢は見ていた。
その『闇』のカタチと、そして、その動き一つ一つを。
それは舞。幽々子が好んでいた、舞。
『闇』は幽々子のシルエットで舞う。それが漆黒の闇色でなければ、さぞかし艶やかだったろう。
「う…そ……どうして…。何で…あんなものが…幽々子様と同じ舞を舞っているの? 何で…うそよ…。
嘘よーーーーーーーーー!!!!!!!」
絶叫。目の前の現実をすべて打ち消そうとするかのごとく、叫ぶ。しかしそれで『闇』が消えるわけも無く。
替わりに、動きの止まったその瞬間を狙い済ましたかのような攻撃。
普通ならば今までの攻撃だって、怪我をしている状態で避けられるものではなかった。
ましてや、回避行動から意識がそれていたのでは…。
気がついたときには、目の前に、光。ただ、光。
光が迫る中、思い浮かんだのは、何故、西行妖を咲かせようと言う御嬢様に進んで協力したか、だった。
正直…今回の言いつけは気が乗らなかった。
幻想郷中の春を集めるのだ。下手をすれば、幻想郷中の妖怪・人間を敵に回すかもしれない。
それ以外にも、西行妖を咲かせるということに対し、綺麗だろうなという期待もあったが、
何か、漠然とした不安のほうが大きかった。
それがほとんど杞憂に近いものでも、御嬢様に危険が及ぶことは避けたかった。
自分がまだまだ未熟なことは知っていたから。守りきれないなんて…考えたくは無かったけれど。
それでも、妖夢は幽々子に心情を悟らせずに、『春度』を集めた。
それは、言いつけを妖夢に告げた時の、どこと無く寂しげな幽々子の横顔が、目に焼きついて離れなかったから。
「(私は…)」
光が、迫る。思い浮かぶのは…寂しげな…
「(私は…御嬢様の喜ぶ顔が…もっと…見たかった)」
4、―――――
妖夢を焼くかと思われた光はしかし、紅白の影の放った光弾、夢想封印により相殺される。
「なにむちゃしてんのよ!!」
一発怒鳴り、妖夢の首根っこ捕まえて一気に離脱。
スピード自慢の魔理沙顔負けの早業だった。
二人を追っていた魔理沙と咲夜は、霊夢の早業に驚いていた。
「神託にしろ何にしろ、あの動きは修行不足には見えないわね」
なんとなく面白くない魔理沙。
「なんか…ズルいよな…」
「ん?なに、嫉妬?」
「!…」
咲夜の突っ込みに言い返そうとして、言葉は浮かばず、
「ちょっとだけ…な」
「…そ」
とりあえず本心を答えておいた。
気絶していた妖夢が目を覚ますと、3つの影に見下ろされていた。
肩を怒らせ紅白、
「あんたね、自爆するのは一人でたくさんなの、解る?」
幽々子戦で自分から弾に突っ込んだのは黒いやつだ。
「おまえ、さりげなく酷いな…」
そんなやり取りの意味など分かるはずも無く、妖夢はただ、幽々子のことを考えていた。
「あの…教えてください。何であんなことになったのか。お願いします」
殊勝に尋ねてくる妖夢に3人は顔を見合わせる。それが解ったら苦労はしない。
「まぁ、解ってることだけなら」
咲夜が、魔理沙に話したことに加え、魔理沙と霊夢の推理も併せて聞かせる。
「では、御嬢様は、西行妖に取り込まれてしまった、と?」
「んー、微妙に違う気もするんだけど…」
霊夢は否定的だが。
「神託か?」
「さぁ? ほんとにそんな気がするだけだから」
からかわれるのを警戒してか、魔理沙の言葉には乗らない。
そんなやり取りを横目に咲夜が話を進める。
「で、これからどうするかを話し合ってたわけだけど…」
「…あの、御嬢様を助け出すことは出来ないのでしょうか?」
『ハイ?』
期せずして3人の声がハモった。
助ける、などと言う考えは誰の頭にも浮かんでなかった。少し考えれば自業自得だとわかるからだ。
口火を切ったのは咲夜。
「貴女ね、自分達がやったこと考えて言ってる?
勝手に春を奪っていって、勝手に桜咲かせようとして、勝手に取り込まれて。
それで助けてほしいなんてのは…」
「まぁ、それに、どう対処すればいいかって事自体わかってないしな」
咲夜の小言チックな台詞をやんわりとさえぎるように魔理沙が締める。
咲夜は目を閉じて言ってるから気がつかなかったようだが、妖夢の目には涙があふれていた。
これではなんだか、こちらがいじめているようではないか、と。そんな気になっても仕方が無い。
「でも、あの影は、舞を、舞って、いたんです。御嬢、様が、とても好きだった、まい、なんです。」
途切れ途切れに、しゃくり上げるのを我慢しようとしても、抑えることは出来ず。
さすがに咲夜も気付き、苦い顔。
…私が泣かしたみたいじゃない。
「きっと、あの闇の、中に、御嬢様の意識は、残って、いる、はずなんです。
呼びかければ、きっと、答えてくれる、はず、なんです。
だから、おねがいします。手伝って、ください。」
確定的なことは何もわかってないはずなのに、断定調。
それは、もう意識など無くなっているのではないかという、不安の裏返しか。
「わたしを、あの近くまで、運んでください。わたし、呼びかけますから。
運んで、くれるだけで、いいですから、おねがいします。」
妖夢の半身、霊体は先ほどの急加速で力を使い果たし、浮いているのがやっとの状態だった。
…それは、もしかしたら妖夢の心情を表していたのかもしれない。
「そういわれてもなー。」
「あそこに突っ込むのは自殺行為よ。」
魔理沙と咲夜はそう言いつつ、それを視界に納める。射程外だからのんきに話などしてられるが…。
いったん射程に入れば、その猛攻の前に話しかけることなど出来るのだろうか。
そんなことは考えず、ただ妖夢は懇願を繰り返す。
「おねがい…。おねがい………します…。」
そんな必死の懇願に、最初に折れたのは
「もう。仕方ないわね。」
霊夢だった。
そう言う霊夢の顔は、心なしかやわらかに―――笑んでいたように見える。
めんどくさがりの癖に何故か、困っている人をほっとけない。
まぁ、お人よしなのだ、この巫女は。
魔理沙はそう思う。多分間違ってないだろう。
霊夢たちはとっとと行ってしまった。むしろ霊夢が張り切っている。
手伝わなければ、うまくここを切り抜けたとしても、後々いろいろ言われそうだ。
「やれやれだぜ。」
そういいつつも魔理沙はなんだか楽しそうだった。残った手持ちのスペルカードの数など数えつつ、
「さて。もとから亡霊だったあの御嬢様を、呼び戻そうというわけだが。これも反魂になるのかな?」
「そんなわけないでしょ。反魂て言うのは、普通に考えれば蘇生をさすものよ。」
「確かにな。けど、魂を人の意識、想いと考えれば?
…それを呼び戻すこれも、やっぱり反魂なんじゃないか、なんてな。」
最後は照れたように言って魔理沙も霊夢たちの後を追う。
「…以外にロマンチストなのね。」
ため息ひとつ。
「まったく、なにをやってるのかしら。」
正常な判断が出来ないらしい。
「…はぁ」
やはり疲れているようだ。
だって、自分も正常な判断が出来ないのだから。
いまからやろうとしていることは、とても危険で、
しかし、自分やお嬢様―レミリアには全く意味のない行為。
「しょうがないわね…ほんとに」
そして―――咲夜も後を追う。