Coolier - 新生・東方創想話

魂 ヲ 反ス 蝶

2003/11/02 13:08:50
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黒い夜空を背景に桜の花びらが舞う。
彼女達は気付いているだろうか。この花びらの意味に。





「ふふ、負けちゃったなぁ…」
そう呟き、西行寺幽々子は上体を起こす。視界から空が消え、代わりに見えるものは―――

すぐ近くに佇む、紅白の蝶
少し離れた木にもたれかかるように、悪魔の犬
二人の間に倒れ伏す(殺したつもりは無いので気絶しているだけだろう)、黒い魔

「負けちゃったなぁ…」
もう一度呟く。

紅白の蝶、博麗霊夢は何かを窺うようにこちらを見つめている。気付いたのだろうか?
しばらく無言で見詰め合っていると、
「なら、とっとと幻想郷の春を返して欲しいわね。」
多少いらだったような口調で、悪魔の犬、十六夜咲夜は言う。
ふらつきながらも霊夢の隣まで来ると、その腕をつかみ
「イタッ!ちょっと」
幽々子の前に突きつけさせた。
「これで全部な訳無いでしょう」

その霊夢の手のひらには薄桃色に光る桜の花びら。
春度、とか彼女達は呼んでいたか。言いえて妙、というやつだろう。
これは、術で「春という季節」を凝縮、実体化させたものなのだから。

「あなたも持っているんじゃなくて?」
等と答えてみる。質問の答えではないことにちょっと憮然として、咲夜はスカートのポケットから同じものを取り出す。
こちらは少し、色が薄い。「量」が霊夢のそれより少ないのだろう。
「これを併せても全然足りないわよ」
言い切る。本当に分かっているのだろうか? 疑問に思い聞いてみる。
「何故足りないと解るのかしら?」
「私は、ただなんとなくこれを集めてた、どこぞの頭が春の紅白とは違うわ。」
「…なんだって?」
「これがどのような効果があるか、どれだけあればどれくらいの『春』になるのか。ちゃんと調べてある」
なかなか頭は切れるらしい。…霊夢は憮然としている。
「これだけではどこぞの参拝客が居ない神社くらいしか」
「ちょっと…」
「『春』に出来ないわよ」
…なんだかウサ晴らしをしているように聞こえなくもない。
まぁ、そろそろ、シラを切るのも限界か。

「あの子、魔理沙だったかしら? まだ持ってるかもしれないじゃない?」
言ってみる。もちろん、倒したときに全部奪ってあるのでありえないが。

――幽々子との戦いによる疲れで注意力が欠けていたのだろうか?
  それとも幽々子はもう力を使い果たしたと思っていたのだろうか?
二人の意識は魔理沙に向けられた。一瞬であったが、それは十分な時間だった。

幽々子は手の内に隠しておいた魂を二つ、解き放つ。
「!」
「!?」
それらは蝶の形をとり、目の前の二人を掠め、その手にある「春度」を取り込み、そのまま、
――西行妖へと飛んでいく。

「このっ…」
ナイフで撃ち落そうと構えた咲夜は、しかしそれを放つことは出来なかった。
視線の先、西行妖。
白玉楼にあり、決して咲くことがなかったその巨大な桜は、いつの間にか、その枝に無数の花をつけていたのだ。
その見事な眺めに、咲夜、霊夢、幽々子さえ目を奪われる。そして蝶は、最後にわずかに残った春を、
その桜へと届けた…。

立ち直ったのは意外にも霊夢が一番早かった。
「私が倒した時点で、すでにあんたの春度はあらかた、あの妖怪桜に送ってあったって訳ね。」
「!」
「やられたわ…」
そう言い、霊夢は苦い顔で西行妖を見上げる。咲夜が驚いた顔で霊夢を見ている。幽々子も顔には出さず驚いていた。
完璧にだませたと思っていたのだが、こちらが言う前に気付くとは。この紅白も頭は切れるのだろうか?
…むしろ、ただなんとなくそう思った、とか言うほうが似合う。
とにかく、西行妖は咲いた。これだけの「春度」なら満開になるだろう。


こちらの勝ちだ。そんなことを言おうとした口が、止まった。

「なにか」―そうとしか表現できない感覚が背後から湧き上がる。
振り向いた先には漆黒の闇がわだかまっていた。

「!」

その形は                      ―――全身が硬直する

「…あ…」

幽々子自身とまったく同じ形であると         ―――迫る「それ」から逃げようにも体は動かず

「…い…や…」

今まで感じたことがないほどの            ―――西行妖を開花させた時点で

「…いや…!」

耐え難い恐怖と共に                 ―――もはやそれからは逃れられないのだと

                      何故か

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

                   解った―――――

















            ―――身のうさを 思ひしらでや やみなまし…―――

はじめまして SysKと申します
初SSです
題材は「反魂蝶」
この攻撃は、幽々子が一時的にしろ、西行妖に取り込まれてしまうものだとイメージしていたので、こんな形になりましたが、さて

続きも書いたのですが、なんだか一部のキャラが違うように思え、
また、ちょっと長めになったため、最初の部分だけ上げてみました

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SysK
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コメント



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1.40ユウ削除
魔理沙が負けたのはやはり性能のせいなのか(涙) 続きが読みたいです。  
2.40名無しで失礼します削除
続きもいいけど、これでおしまいでも面白いかも
普通のストーリーなぞりだとどうしても本家がちらつきますからね
3.40翁丸削除
 感想って難しい。書いては書き直しの繰り返し。結局一番伝えたいことは
「続きが気になる」の一点につきると結論付けたり。よろしければ是非。
4.50MDFC削除
素敵です。スペルに関する考察をそのままSSにできてしまうとは…いやはや。 最後のシーン、反魂蝶の背後に見え隠れする幽々子様を思い出して鳥肌が立ちましたよ。