彼女は、本が好きだった。
幼い頃は、本当に本が大好きだったのだろう。しかし、今はよく分からない。既に読む事が目的となっているのか。
それでも、彼女は本に書かれている知識や情報を吸収していった。それが目的なのかと問われれば、やはり本当の所は分からない。
彼女は長き歳月の中で、もう本の近くにいるものこそが自分だと思うようになった。それが本への愛情なのか、本からの呪縛なのか、誰にも分からないだろう。
圧倒的蔵書量を誇る、ヴワル魔法図書館。
誰かが言った。そこが、彼女の揺り篭。
そこが、彼女の
「………………」
パチュリーは、長い間本と睨めっこをしていた。それこそ、後ろにメイド長が居る事に気が付かない程。
「…パチュリー様」
「……うわっ!?」
咲夜が肩を叩くと、パチュリーはびく、と体を縮めた。
「な、何? 咲夜」
「『何?』はこちらの台詞です。先程から呼んでいるのに、全然気が付かないものですから」
「そ、そう。…それで、何の用?」
言葉を取り繕いながら、パチュリーは咲夜に訊いた。
「お嬢様が、お呼びです。お茶の相手をして欲しい、との事です」
「レミィが? ……分かったわ」
パチュリーは頷き、今まで熱心に読んでいた本を閉じ、椅子から立ち上がる。
「それじゃあ、行きましょう」
「はい」
咲夜に先立って、図書館を出るパチュリー。その後ろ姿を見た後、咲夜は今しがたパチュリーが読んでいた本の表紙を見る。
「………『誰でも簡単に作れる料理の本』………?」
本当にこの図書館には何でもあるのだな、と咲夜は思い、図書館を後にした。
「今日はいい天気ね……」
机に置かれた水晶玉を覗き、紅魔館の外の様子を見るパチュリー。
この図書館は、本の劣化を防ぐ為、紅魔館と同様に日の光が極端に少ない。そこでパチュリーは、この水晶玉を使って外の様子を見る事が多い。こうしていると、自分は吸血鬼でもないのに、日の光に弱いのではないかと思ってしまう。勿論そんな事は無いが、病弱な為、流石に強い光は勘弁して欲しいものではあるのだが。
「こんな日は、来るのかしら」
来訪者など殆んど来ない図書館であったが、ここ最近はよく来る人間が約1名いた。そして今日、パチュリーはその人間の来訪を待ち望んでいた。彼女の名は―――
「また来たぜ」
「……やっぱり来たのね、魔理沙」
やれやれといった感じで来訪者を迎えるパチュリーだったが、その表情はどこか嬉しそうであった。
「それで、今日は何を借りていくつもり?」
魔理沙は、よく(勝手に)ここの本を借りてゆく。ただ、ちゃんと返してくれてはいる。
「いや、今日はここで読んでいくだけにするよ」
「……そう? 珍しいわね」
「たまには、な」
そう言って、早速近くの本棚から本を抜き取って読み始める魔理沙。読書の邪魔をするのも悪いので、パチュリーも魔理沙の隣に座って、同じ様に本を読み始める。
この時、魔理沙はパチュリーの横に置いてある包みに気が付かなかった。
魔理沙は、あの夏の騒動以来、よくこの図書館に来る。大方ここの魔導書が目当てなのだろうが、パチュリーは咎めはしなかった。いや、もう咎めても無駄だと悟ったのか。ただ、図書館にしてみれば、利用客が増えたという事にはなった。
思えば、あの日からパチュリーのただただ静寂な日々は、壊れたのだと思う。
しばらく流れる静寂。聞こえるのは、ぱらぱらとページをめくる音だけ。
「………………」
「………………」
パチュリーが、魔理沙の方をちらりと見る。魔理沙が読んでいる本の残りページは、少ない。それを見たパチュリーは、意を決した様に口を開き―――
「―――なあパチュリー。ちょっと外に出かけてみないか?」
言おうとした言葉は、しかし魔理沙の問いかけによって阻まれた。
「外はあんなにいい天気なんだしさ、こんな所で腐っててもしょうがないと思ってな」
「………え………」
「…何だ? ぽかんとしちゃってさ。そんなに驚いたのか?」
口を開けた状態で固まるパチュリーを見て、魔理沙はそんな事を言った。
「………あ、い、いえ、ち、違うわよ。わ、私も魔理沙にそう言おうと思ってた所だったんだから」
慌てて、言い訳する様に矢継ぎ早に喋る。しかし、それはパチュリーの本心であった。ただ魔理沙に先を越されただけだ。ただ、それだけだ。
「…そうか? それは偶然だな。じゃあ、今から行くか?」
くい、と親指で図書館の出口を指す魔理沙。
「……ええ、そうしましょう。行き先は、任せるわ」
「任されたぜ」
席を立つ魔理沙。その手には、何かの包みがあった。
「………?」
包みの中を気にしながらも、パチュリーは魔理沙に続いた。忘れてはいけないものをしっかりと脇に抱えて―――
「うう~~~ん、いい天気だぜ」
抜ける様な青空の下、魔理沙が大きく背伸びをする。ここは、幻想郷の森の中にぽっかりと開いた様に見える丘。時折吹き抜ける風が、頬に心地良い。
「………」
パチュリーは、空を見上げていた。こうして太陽を拝むのも、久し振りのような気がする。
「…パチュリー? どうした? 体の具合でも悪くなったのか?」
「………えっ!?」
急に声をかけられ、驚くパチュリー。
「あ、ああ、ご免なさい。ちょっと、ぼうっとしてただけよ」
「そうか? まあ、お前さんにとっては久し振りの太陽かもしれないしな」
やはり、魔理沙もパチュリーが久し振りに太陽を見たものだと思っているようだ。
「で、どうだ? 外の空気は」
「……うん。気持ちいいわ」
「そうかそうか、良かった。これからもさ、ちゃんと外に出た方がいいと思うぜ? 埃っぽい図書館に閉じこもってたら、喘息だって治らないぞ?」
「…そうかもね」
魔理沙は、これまでのパチュリーを次々と壊していった。しかし、それは決して悪い事ではなかったのだとパチュリーは考えていた。もし魔理沙と出会っていなければ、こんな天気のいい日に外に出かけるという発想も、あったかどうか。
それに何より。魔理沙と出会わなければ、このようなものは作らなかっただろう。
(上手く出来ているといいんだけど…)
パチュリーは、自分の持っている包みの中身を気にしていた。
お弁当。
全く料理を作った事が無い、という訳ではないのだが、それでも紅魔館での食事は基本的に自分で作る必要が無いので、趣味でもなければ自分から料理を作る事は無かった。
しかし、自分で作ったお弁当を魔理沙に食べて欲しい、魔理沙と一緒に食べたい、という想いが、パチュリーを駆り立てた。
結局、お弁当を食べる口実である所の『魔理沙を散歩に連れ出す』作戦は、魔理沙の思いも寄らぬ先制攻撃によって頓挫した。しかし、結局こうして散歩に来れたのだから、特に問題は無いだろう。後は、一緒にお弁当と食べるだけだ。
(そろそろ用意しなきゃ……)
時刻は、そろそろ昼だった。この天気、この景色。外で食べるシチュエーションとしては、最高だろう。パチュリーは、早速持ってきた包みに手を伸ばし―――
「あ、そうだ、パチュリー。弁当、作ってきたんだ。食べるか?」
「―――――― え」
ずい、とパチュリーの目の前に、何かが差し出される。魔理沙の左手を見ると、それは図書館を出る時に魔理沙が持っていた包み。そして、右手には、二人分の、お弁当―――
「あ、ああ、あ………―――」
その時、パチュリーは自分の中に沸き起こる感情の嵐に巻き込まれていた。
嬉しい。魔理沙が自分と同じ様に考えていたなんて。
でも、どうしてこんなに腹立たしい。
嬉しい。魔理沙も自分と同じ事を考えていたのか。
でも、どうして、自分は腹立たしく思っている。
嬉しいのに。腹立たしいのに。嬉しいのに。腹立たしいのに。嬉しいのに。腹立たしいのに―――
(―――――――――――――――――――――――――――!!!)
体が、かあっと熱くなるのが分かった。この感情はどうしたら収まる。
「……パチュリー? どうしたんだ?」
魔理沙が、パチュリーの顔を覗き込んだ。それが、スイッチ。
「………魔理沙の………」
「?」
「魔理沙の、ばかああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!」
気付けば、走っていた。もう何が何だか分からない。しかし、こうでもしないと、壊れてしまいそうだった。
「パチュリー!?」
魔理沙の声が、遠くに聞こえる。聞こえない振りをして、そのまま森の中へと駆けていった。
雨粒が、頬を伝って流れた。
「パチュリー……?」
困惑した表情で、魔理沙は立ち尽くしていた―――
ザアアアアアーーーッ………
急に降りだした雨は、勢いを増してパチュリーの体を濡らした。
「はあ………はあ………はあ………う………」
しばらく走った後、息切れを起こしたパチュリーは、近くの木にもたれかかった。
「げほっ……! げほっ……!」
喘息の発作か。慣れない運動など、するものではなかった。
「げほっ………う………何、で……」
どうして、こんな事になってしまったのか。
魔理沙は、悪くない。悪いのは、ただ2回も先を越されて、勝手に怒り出した自分だ。そう分かっているのに、どうして。
「………魔理沙………」
体の疲れの所為か、雨で冷えてきた所為か、段々眠くなってきた。駄目だ、こんな所で眠ったら…
しかし、パチュリーは抗いようの無い眠気に、引きずり込まれていった。
魔理沙は、いつでも眩しく見えた。パチュリーは、どうして自分が魔法力や種族的にも弱いこの人間に惹かれているのか、分からなかった。
でも、最近はこう思う。
魔理沙は、パチュリーには無いものを沢山持っている。
だから、私は魔理沙に惹かれたのだ。だから、私は、魔理沙を
「………リー………パチュ………パチュリー………」
パチュリーは、自分を揺り動かす手の感触で目覚めた。
「………まり……さ………?」
ぼやけていた視界が、段々とはっきりしてくる。―――目の前に、パチュリーの顔を覗き込む魔理沙の顔。
「―――うわあっ!?」
「うおっ!?」
驚いて、飛び起きる。周りの様子が違うという事に気付いた。
「お、起きたのか、パチュリー」
「……ここ……どこ?」
「ここは洞窟だ。運良く見つけてな、森の中で倒れてたお前さんを担いでここまで持ってきた。それに、雨宿りも兼ねてな」
「…洞窟…」
よく見ると、周りは茶色い土の壁に覆われている。確かに洞窟だった。そして、ゆらゆらと焚き火が燃えていた。恐らく魔理沙が魔法を使って点けたのだろう。
そして、もう一つ気付いた。
「なっ……何で私、裸なの…!?」
見ると、パチュリーの体は衣服を着ていなかった。代わりに、毛布の様なものが体を包んでいる。
「ああ、その事だけど、お前さんの服がだいぶ濡れてたんでな。今乾かしてるから、少しの間その格好で我慢してくれ」
そう言っている魔理沙も、パチュリーと同じ様な格好をしていた。理由は、恐らくパチュリーと同じだろう。
服は、紐にかけられ焚き火の上で乾かされていた。
「…どこから紐とか毛布とか持ってきたの?」
「魔法で家から」
召喚魔法を覚えておいて良かったぜ、と魔理沙は付け加えた。
遠くから、雨音が聞こえる。どうやら雨はまだ止んでいないらしい。
「あーあ、折角のお出かけ日和だったのに」
魔理沙が残念そうに溜め息ついた。
「弁当も駄目になっちまったし………」
「―――!!」
その言葉を聞いた瞬間、パチュリーの体が強張った。
「ごめんな……パチュリー。私の弁当、雨で駄目になっちまった。今度また作るから、許してくれ―――」
「……魔理沙………魔理沙ぁっ!」
がば、と起き上がり、魔理沙にしがみつく。その行動に、魔理沙が驚いた。
「ど、どうしたんだ? 私、何か変な事言ったか?」
「…違う……違うよ……ごめんね、魔理沙ぁ……」
堰をきった様に、涙が溢れて止まらない。
「…パチュリー…?」
「私ぃ……折角、魔理沙が作ってくれた…ぐすっ、お弁当を……食べないで……急に怒ったりして………えぐっ……魔理沙は、悪く、ないのに……!」
「………」
「その上、こんな、介抱してもらって………ごめんね………本当に、ごめんねぇ………!」
パチュリーは、声を上げて泣いた。こんなに泣いたのは、初めての事だった。
「……パチュリー……弁当…食べようぜ?」
「………え………?」
予期せぬ魔理沙の返答に、思わず顔を上げる。でも、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を見られるのが恥ずかしくて、すぐに俯いた。
「ほら」
そう言って、魔理沙が取り出したものは―――
「あ………!」
それは、パチュリーの作ったお弁当だった。
「まだ開けてなかったから、雨に濡れなかったんだ」
魔理沙は、そう説明した。
「ほら、な?」
お弁当箱の蓋が、開けられた。余り豪華とは言えないが、彩りよく配置されたおかずが並んでいた。
「おお、美味そうじゃないか。パチュリーが作ったのか?」
「え…ええ」
「それじゃ、頂きます」
言うが早いか、魔理沙はおかずを一つ摘まむとそのまま口へ運んだ。
「………………」
パチュリーは、思わず魔理沙の顔を見つめた。
「……うん、美味いぜ、パチュリー」
魔理沙が、微笑んだ。その笑顔を見て、パチュリーはまた涙が流れてきた。
「……魔理沙、ありがとう……」
「ほら、パチュリーも」
「…うん」
薦められるままに、パチュリーも一口食べた。
「……ちょっと、しょっぱい」
「そりゃ、それだけ泣いてりゃなあ……ちょっと待ってろ」
そう言って、魔理沙は自分が羽織っている毛布でパチュリーの顔をごしごしと拭いた。その動作が少しくすぐったくて、パチュリーも微笑んだ。
「…なかなか止まないなあ…」
遠くから聞こえる雨音。未だに止む気配を見せない。服もまだ乾かないので、当分ここから出られそうにない。
「パチュリー…もう少し、我慢出来るか?」
魔理沙は、焚き火の近くで横になっているパチュリーに声をかけた。病弱なパチュリーにとって、雨に濡れた事が原因で風邪を引く、という事も有り得るので、大事をとって休ませているのだ。
「……うん、大丈夫。でも……」
「…どうした?」
「ちょっと、寒いかも……魔理沙、こっちに来てくれる……?」
「あ、ああ」
急いでパチュリーの元に近付く魔理沙。すると、
「――――――魔理沙」
不意に、パチュリーが魔理沙の羽織っていた毛布の中に入り込んできた。しかも、自分の毛布は脱ぎ捨てて―――
「え………パチュリー……?」
当の魔理沙は、いきなりの出来事に、目を白黒させている。
「温かい……」
パチュリーは、魔理沙の困惑をよそに更に身を寄せる。
「……お願い……雨が止むまででいいから……こうさせて……魔理沙……」
「………パチュリー………」
ぎゅっ………
「え……?」
今度は、パチュリーが困惑する番だった。魔理沙がパチュリーの細い体を抱きしめたのだ。
「……これでもう、寒くないだろ……?」
優しい声で囁きかける魔理沙。パチュリーは、また一つ自分が壊れていく事を感じた。しかし、それを決して悪い事とは思わなかった。むしろ、嬉しかった。
「………ありがとう………魔理沙………………大好き………」
「………パチュリー………………私も………」
―――まるでそれが自然だと言う様に。
二人は唇を重ねた。
一つの毛布に包まれて、二人の少女が暖を取っている。互いの体温で、互いを温め合う。
「……ねえ、魔理沙……」
「…ん…何だ……?」
魔理沙の瞳に映る焚き火を見ながら、パチュリーは語り始めた。
「魔理沙は…いつも私を壊してくれる」
「…へ?」
思いがけないパチュリーの言葉に、少し間抜けな声が出る。
「私が初めて魔理沙と出会った時から…思えばもう壊れ始めていたのかもしれないわね」
「どういう事だ?」
「私ね、昔レミィに言われた事があるの。『この図書館はあなたの揺り篭なのね。………じゃあ、あなたの墓場もここなのかしら?』」
「………」
「その時私は、そうかもしれないと思ったわ。本の近くにいるものこそが私だと思っていたもの。何の疑問も無かったの。それに、それでも別に構わないとも思っていたわ。でも………」
ふっ、と少し首を振り、続ける。
「魔理沙が『それ』を壊してくれたの」
「…私が…?」
「……ええ。最初は、正直迷惑だと思っていた。もう私の一部だと思っていた図書館に、土足でずけずけと入り込んできたあなたにね」
「……それは、その」
「でもね、不思議とその感情は無くなっていった。何故かしらね? 今でもよく分からないけど、でも確かに、魔理沙は今までの私を壊してくれた。それは決して嫌な事ではなかったの。ううん、むしろ私もそれを望むようになった。そして、今でも」
そうしてまた、パチュリーは魔理沙と唇を重ねた。
「…馬鹿」
魔理沙の顔が赤く染まる。それは焚き火の炎の光の所為だけではないだろう。
「だからね、魔理沙………」
パチュリーの潤んだ瞳が、微かに揺れる。
「これからも、私を壊して――――――」
紅魔館の門前。いつもならば門番だけがいる場所だったが、今はそこにメイド長の姿もある。なかなか帰ってこない、この館の住人を心配しての事だった。
「遅いわね……」
昼に降りだした雨は、夜になってあっさりと止んだ。現在は、満天の星空も拝む事が出来る。
「咲夜さん……ここは私に任せて、お探しに行かれては如何でしょう……?」
「……そうね、その方がいいかもね。それじゃあ、頼んだわよ、美鈴」
美鈴にそう言い残し、咲夜は夜の闇の中へ踊り出た―――
「ただいま、だぜ」
―――しかし、寸前で止められた。二人の目の前に、パチュリーをおぶった魔理沙が姿を見せた。
「魔理沙……? と、パチュリー様!」
咲夜はパチュリーの姿を認めると、魔理沙に駆け寄った。
「パチュリー様―――」
「静かにしな。起きちまうぞ」
咲夜はパチュリーに触れようとして、パチュリーが眠っている事に気付いた。
「悪かったな。遅くなっちまった」
「何があったの?」
魔理沙は、今までの事をかいつまんで説明した。勿論、キスした事は内緒ではあるが。
「―――そうだったの。迷惑かけたわね」
「いや、いいって。元々私が原因だから」
そう言って、魔理沙は首を回してパチュリーの方を見た。規則正しい寝息が聞こえてくる。
「それじゃあ、後は頼んだぜ」
「え?」
「パチュリーを部屋まで運んでくれ」
ほら、と魔理沙は咲夜に背中を向ける。
「………」
その様子を見た咲夜は、やれやれと言った感じの顔で、
「いいわよ。あなたが運んであげなさいよ」
と言った。
「…え?」
「その方が、パチュリーも喜ぶと思うから」
「………ああ」
その言葉を聞いた魔理沙の顔がほころぶ。
「それじゃあ、行ってくるぜ」
そして、魔理沙が紅魔館の中に入ろうとした時。
「ああ、ちょっと待って」
咲夜が、魔理沙を呼び止めた。
「ん? 何だ?」
魔理沙は咲夜の方を向く。
「キスマークって、案外取れにくいものなのね。それに、割と目立つわ。特に、首筋の辺りが」
咲夜の、心なしか邪悪な笑み。
「!!!」
魔理沙が凍りつく。
「あ、あ、あの、それは」
咄嗟に首筋を隠す魔理沙。
「そんなに顔を真っ赤にしなくてもいいじゃない?」
「あ、あう、あう………」
口をぱくぱくさせている魔理沙を見て、咲夜がくす、と笑う。
「ほら、早く行きなさい。私は止めはしないから」
「………あ、ああ」
魔理沙は、逃げる様に紅魔館の中へと入っていった。
「………」
その様子を、微笑みながら見る咲夜。
「さあ、私達も行きましょうか、美鈴」
「……はあ」
魔理沙の壊したモノ。それは、パチュリーの孤独。
図書館に生まれ、図書館に死ぬ未来を見たパチュリーの行く先を変える光。
日の光届かぬヴワル魔法図書館。
しかし、パチュリーの世界には、確かに光が宿ったのだ。
魔理沙という名の、眩い光が―――
が、しかし!
タイトルがタイトルなだけに、いつブレイクしてくれるのかと思っ(スキマ
『風邪を引いたら』に続き、あなたのパチュ×魔理沙SSは素晴らすぃ(*´д`)
もう萌え過ぎ(*´ρ`)