高い高い空。
果ては見えず、ただひたすらに遠く広がる。
その空の下の広大な草原に、騒霊の三姉妹が佇んでいた。
「……綺麗な空だな。」
黒い服を着た騒霊の長女がふと呟く。
「ほーんと。…空は変わらない。ずっと変わってるのにね。」
次女は憂いをたたえ、しかし笑みを崩さず呟いた。
会話では、無い。
「人の寿命は何十年。あの子の寿命は十何年?
私の寿命は何百年。残されてからもう何年?」
歌うように姉の後ろで空を見上げ、呟く末妹。
姉たちの見ていた十字には目もくれずに流れる雲をただ見やる。
「リリカ……。」
長女が振り向き、しかしかける言葉が見つからずに俯く。
次女はただ笑う。上を向いて、たまった涙が零れぬように。
そんな姉二人を見て末妹は苦笑して首を振る。
「姉さんたちもさ、考えすぎだよ、きっと。」
その言葉に長女は顔を上げる。
「…どういうこと?」
問いに、末妹は大袈裟にため息をつく。
「さっき言ったとおり。
………残されてからもう何年?」
「さぁ。忘れちゃったわ。」
次女は空を見るのをやめていた。努めて明るく言う。
その言葉に末妹は肩をすくめ、「やれやれ」とやってみせる。
「ほら、そうでしょう?
私たちはさ、やっぱり変わっていってるんだよ。」
「だからといって、忘れろと?」
「そうじゃないよ。」
要領を得ない長女に末妹は頭を抱える。
「なんていうかさ、こう、そうだ。
前向きに。ほらだって、私たちは騒がしいことが好きでしょう?
何時までもしんみりしてないでさ。」
身振り手振りを交えて末妹が語る。
それを聞き、次女が微笑む。
先ほどまでの憂いの無い、真っ直ぐな笑み。
その笑みを見て長女も何かを感じ取った。
白く細い手をくるりと回して宙に浮くヴァイオリンを操作する。
それは一度だけ音を発し、すぐに長女の手元に納まった。
「分かったよリリカ。」
末妹の肩を叩き、十字から距離をとる。
次女もそれに倣う。
「うん。……強くなったね。」
二人の姉は末妹に背を向ける。
「リリカ。それで最後だよ。」
「言い出したのはあなただからね?来年は最後まで、きっちり弾こうね。」
姉の言葉を受けて赤い服の少女は胸を張る。
「当たり前でしょう?姉さんたちこそ、気の抜けた演奏しないようにね!」
叫ぶように言いながら十字に向かって歩く。
「大体私たちは騒霊なんだから。」
一歩。
「凄く、特別な騒霊なんだから。」
一歩。
「腑抜けた演奏なんてしたら、あの子が悲しむだけだから。」
さらに、一歩。
「だから……ッ!」
目の前に、墓標。
「泣き虫は……今日でお仕舞い……。」
墓石に手を掛け、リリカは声を殺して泣いた。
背中越しに聞こえる嗚咽。
慰めることは出来ない。
だから長女は空を見上げ、呟くように、だがはっきりと通る声でこう言った。
「そう。 私たちは騒霊だ。 しんみりするのは、柄じゃ、無い。」
隣に居る次女を見てアイコンタクト。
分かってるわよ、って見返されて苦笑する。
トランペットが宙を舞う。
ヴァイオリンが空に踊る。
せめて泣き声が誰にも気付かれぬよう、姉たちは演奏を開始した。
まったくもっておせっかい。
私だってもう子供じゃないし、末妹でもないんだから。
顔を上げキーボードを手元に引き寄せる。
今日だけは直接楽器に触れて演奏したい気分だった。
姉たちに合わせ、演奏を始める。
聞こえてる?
聞こえてるなら返事はしなくてもいいけど、笑って?
お姉ちゃんからのお願いだから。
ねぇ? ───レイラ。
騒霊姉妹は泣き笑い、四女のために空に向かって音を響かせた。
果ては見えず、ただひたすらに遠く広がる。
その空の下の広大な草原に、騒霊の三姉妹が佇んでいた。
「……綺麗な空だな。」
黒い服を着た騒霊の長女がふと呟く。
「ほーんと。…空は変わらない。ずっと変わってるのにね。」
次女は憂いをたたえ、しかし笑みを崩さず呟いた。
会話では、無い。
「人の寿命は何十年。あの子の寿命は十何年?
私の寿命は何百年。残されてからもう何年?」
歌うように姉の後ろで空を見上げ、呟く末妹。
姉たちの見ていた十字には目もくれずに流れる雲をただ見やる。
「リリカ……。」
長女が振り向き、しかしかける言葉が見つからずに俯く。
次女はただ笑う。上を向いて、たまった涙が零れぬように。
そんな姉二人を見て末妹は苦笑して首を振る。
「姉さんたちもさ、考えすぎだよ、きっと。」
その言葉に長女は顔を上げる。
「…どういうこと?」
問いに、末妹は大袈裟にため息をつく。
「さっき言ったとおり。
………残されてからもう何年?」
「さぁ。忘れちゃったわ。」
次女は空を見るのをやめていた。努めて明るく言う。
その言葉に末妹は肩をすくめ、「やれやれ」とやってみせる。
「ほら、そうでしょう?
私たちはさ、やっぱり変わっていってるんだよ。」
「だからといって、忘れろと?」
「そうじゃないよ。」
要領を得ない長女に末妹は頭を抱える。
「なんていうかさ、こう、そうだ。
前向きに。ほらだって、私たちは騒がしいことが好きでしょう?
何時までもしんみりしてないでさ。」
身振り手振りを交えて末妹が語る。
それを聞き、次女が微笑む。
先ほどまでの憂いの無い、真っ直ぐな笑み。
その笑みを見て長女も何かを感じ取った。
白く細い手をくるりと回して宙に浮くヴァイオリンを操作する。
それは一度だけ音を発し、すぐに長女の手元に納まった。
「分かったよリリカ。」
末妹の肩を叩き、十字から距離をとる。
次女もそれに倣う。
「うん。……強くなったね。」
二人の姉は末妹に背を向ける。
「リリカ。それで最後だよ。」
「言い出したのはあなただからね?来年は最後まで、きっちり弾こうね。」
姉の言葉を受けて赤い服の少女は胸を張る。
「当たり前でしょう?姉さんたちこそ、気の抜けた演奏しないようにね!」
叫ぶように言いながら十字に向かって歩く。
「大体私たちは騒霊なんだから。」
一歩。
「凄く、特別な騒霊なんだから。」
一歩。
「腑抜けた演奏なんてしたら、あの子が悲しむだけだから。」
さらに、一歩。
「だから……ッ!」
目の前に、墓標。
「泣き虫は……今日でお仕舞い……。」
墓石に手を掛け、リリカは声を殺して泣いた。
背中越しに聞こえる嗚咽。
慰めることは出来ない。
だから長女は空を見上げ、呟くように、だがはっきりと通る声でこう言った。
「そう。 私たちは騒霊だ。 しんみりするのは、柄じゃ、無い。」
隣に居る次女を見てアイコンタクト。
分かってるわよ、って見返されて苦笑する。
トランペットが宙を舞う。
ヴァイオリンが空に踊る。
せめて泣き声が誰にも気付かれぬよう、姉たちは演奏を開始した。
まったくもっておせっかい。
私だってもう子供じゃないし、末妹でもないんだから。
顔を上げキーボードを手元に引き寄せる。
今日だけは直接楽器に触れて演奏したい気分だった。
姉たちに合わせ、演奏を始める。
聞こえてる?
聞こえてるなら返事はしなくてもいいけど、笑って?
お姉ちゃんからのお願いだから。
ねぇ? ───レイラ。
騒霊姉妹は泣き笑い、四女のために空に向かって音を響かせた。
作者さんごとの色々な解釈が読めるのは騒霊好きとして嬉しいですね。