Coolier - 新生・東方創想話

桜下余話(※『絡新婦の理』パロディ成分含有)

2003/10/15 14:20:51
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※ この話は京極夏彦氏の「絡新婦の理」のパロディ成分を含みます。
  あらかじめご了承ください。





「お前が――黒幕だったのか」


幻想郷に桜が舞っている。
今までの遅れを挽回してみせようと咲き乱れては散り落ちる。
ざぁ、と風が吹けば景色も霞むほどの花吹雪。
ところどころには溶けかけた残雪。

鮮やかな桜色に染まる絵に墨を垂らしたかの如き影がある。
黒衣の少女。
そして対峙するのは雪のように白い少女である。

黒い少女が再び口を開いた。

「つまりお前は、失いかけた自分の居場所を維持するために、
 この騒動を引き起こした――そう考えていいのか」

舞い散る桜に半ば隠れて白い少女の面差しは定かではない。

「あの楼閣に忍び込み、とある書物をほんの少しだけ目立つ所に置いた。
 お前がしたことはそれだけだ。そして結果は」

白い少女は猶も言葉を返さない。
降りしきる花びらを浴びて端然と佇むばかりである。

「冬は確かに長引いた。お前さんの居場所もいつもよりは長く残った。
 それでも春は――来た」

「――ええ」

黒い少女には解らなかった。
目の前の少女は自らの計画が破れたと云うのに何故――笑っているのか。

「私を恨んでたりしないのか」

巫山戯た問いだと自分でも思う。
彼女の計画を破綻させたのは他ならぬ黒い少女であったのだ。

「春が来れば立ち去るのが私の宿命。
 夜が来れば人は眠りに就くでしょう? 同じことよ。
 それを本心から厭うたことは一度もない。
 いずれ季節は巡りくるのだから」

「ならば何故――」

こんなことを。お前は。

「只の余興。戯れよ。
 結果なんてどうなろうとよかった。
 だからあなたを恨めしいとは思わないけれど――
 そうね、あなたのことが羨ましいとは思う」

「羨ましい? 私が?」

「あなたの今日は昨日とは違う。
 今日と明日も、明日と明後日も、そしてその次の日も。
 それぞれが皆かけがえのない意味を持っている。
「でも私にとっては、明日は今日であり、今日は昨日であり、
 百年前の今日も、千年前の今日も、例え千年後の今日であろうとも、
 何も違いはない」

「そんなことは――」

「あなたのいちばん旧い記憶はなぁに?
 母親の顔? 初めて魔法を使ったこと?
 私のいちばん旧い記憶はね――
 今と変わらず無為に過ごすだけの日々なの。
 それがいつのことかも、もう判らなくなってしまったけど」

只ひたすらに繰り返しては永遠に続く。
それでこの少女は時の意味を見失ったのか。

「お前は確かに私なんかよりずっと永く生きてるかもしれない。
 だけど、毎日が同じなんてことは」

「この桜。一つとて『同じ花びら』は無いけれど」

ついと空に腕を伸ばし一枚の花びらを摘まむ。
白い指先に挟まれたそれは凍てついて砕けた。

「ほら。これで何かが変わった?」

花びらを摘まむ。砕ける。
摘まむ。砕ける。

「一枚や二枚が凍り朽ちようと、何も変わりはしない。
 あらゆるモノの価値は量に反比例して薄まっていくのよ。
 そして量が無限になったとき、個々の価値は零になる。
「だからね――私の日々は薄れ薄れて、もう等しく無価値なの。
 それは茫洋とした空に降りしきる雪のようなもの。
 時折僅かな変化が起こったとしても、雪の結晶がほんの少しだけ
 違う形をしていた、それだけのこと。
 そしてその結晶すら瞬く間に溶けて消えてしまう。
 あの大騒ぎも一片の雪」


あぁ――
そうか。

この少女はそれでこんなことを仕出かしたのか。

黒い少女は漸く合点がいった。


「――莫迦だな」

先ほどの相手の仕草を真似るように桜に指を伸ばす。
ぽう、と指先が微かに光り、一枚の花びらが小さな水晶に封じ込められた。
黒い少女が緩く腕を振るうと水晶は白い少女の方へ漂ってゆく。
何処からともなくゆるりと現れた糸に繋がれ、桜の水晶はペンダントとして
少女の胸元に納まった。


「ま、餞別ってやつだぜ。
 『逢えない間はそれを私だと思って』
 な~んて云うと思ったら大間違いだけどな」

「いったい、なんのつもり?」

「なあ、ひとつ訊かせてくれないか。
 やっぱり『その花びら』は無価値なままだと思うかい?」

本当にその桜の花に価値は無いのかと。
黒い少女が問いかける。
先ほど朽ちさせた花びらは確かに無価値だった筈だ。
だけど今この胸にある花びらは――


「お前の時間には価値がないとか云ってたな、
 そんな事はあんたら妖怪も私ら人間も同じなんだ。
 長い短い多い少ない、そんなの詭弁だ。
 価値や意味なんて最初からあるものじゃない。
 自分でどうにかして意味があるモノにするんだぜ。
「長生きしすぎてこんなことも解らないほどボケちゃったのか?
 そんなことないだろ。
 むしろお前はそれを『解っていたから』、こんな騒動を起こしたんだ。
 違うか」


それは――
そうか。そうだったのだ、と白い少女は悟った。

彼女は我知らず微笑んでいた。
人に云われるまでそんなことも気がついていなかったのか、自分は。

「ふふっ、ご明察だわ。
 真相を暴かれちゃったら黒幕はそろそろ退場しないとね。
 今年の冬は楽しかったわ、黒い魔女さん」

「それはなにより。だけど来年も同じことを企んだら今度こそ殺すぜ。
 私は寒いのは苦手なんだ」

物騒な言葉に反して黒い少女も口の端には笑みを浮かべている。

「そのときはお手柔らかに頼むわ。
 私はあなたと違って、黒幕だけど普通だもの」


ざあ。

一陣の風が桜を撒いて駆け抜け、黒い少女は帽子を押さえて顔を伏せる。
風はすぐに凪いだ。

黒い少女は顔を伏せたまま暫くそこに佇んでいた。

おもむろにくるりと向きを変えると、
白い少女に――少女の居た場所に背を向けて歩き出す。

「莫迦いうない、私だって普通だぜ」

呟いた言葉は白い少女の後を追うように桜に溶けて消えた。









“そういやさ、あんたがそのペンダントしてるのいつからだっけ?”

 “ああ、これ? そうね、もうずっと昔から”

“冬の精なのに桜のペンダントなんてヘンなの”

 “まあ、ね。古い知り合いにもらったのよ”

“ふぅん。大切にしてるみたいね”

 “ええ。かけがえのないものだから――――”


(了)
おかしい……絡新婦をネタにパロディ『ギャグ』を書くつもりだったのに何故こんなことに。

時系列としては妖々夢の直後を想定した話です。
あ、思わせぶりに人名が明記されてませんが今回はヒッカケとかなんにもないです。
そのまま素直にご想像どおりで。
白いのも黒いのも本編中より堅苦しい言葉を使ってるのは中途半端にパロった名残です。
黒い彼女にちょっと説教くさいことを喋らせすぎました。

あとは一連のタイトルのいい加減さをもうちょっとどうにかしないとなー。

PS.某所のご指摘を受けて手遅れながらタイトル&冒頭に断り書きを追加。
 パロディであることを軽く考えてました。申し訳ない。
ミタニ
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コメント



0.550簡易評価
1.40nanashi削除
シリアスな黒幕が出てきたのは始めてかも。
2.40すけなり削除
そんなに堅苦しいとは思いませんでしたよ? (ある行を読んだ時にSMAPの「世界に一つだけの花」が思い浮かんだのは内緒です(何ぃぃ )
3.40名無氏削除
シリアスな黒幕(・∀・)イイ!
4.40ななし削除
とても面白かったですよ、「絡新婦の理」をもう一度読んでみようかな
11.80名前が無い程度の能力削除
黒幕とはこういう事かっ!!
という感じで実に良かったです。かっちょよい。