Coolier - 新生・東方創想話

冬の訪れ

2003/10/15 06:10:54
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『彼女』と最後に話したのはいつだっただろう・・・あれからどれくらい月日が経ったのだろう・・・
そんな事をたまに思い出しながら、氷精チルノはのんびりと暮らしていた。

今年は冬が終わるのがかなり遅かった。
チルノはそれで単純に大喜びしていたが、『彼女』は素直に喜べなかった。
チルノと一緒にいる時間が長ければ、その分別れが辛くなると知っていたから。
そして、別れ際になって案の定チルノは泣いた。大泣きした。今までにないくらい大泣きした。


「春が来れば消えるのが私の宿命・・・でも冬が来れば再び生まれるのも私の宿命。
 一生会えなくなるわけじゃないんだから泣いちゃ駄目よ」


そう言って慰めたのだがチルノは泣き止まなかった。彼女はまだ子どもだからしょうがない。
だんだん自分の体が透けていく・・・それでも『彼女』は最後まで微笑んでいた。
自分が泣けば、チルノはもっと大泣きするという事を知っていたから。
そして、残酷な時が『彼女』を消し去る最後の瞬間まで、『彼女』は微笑んでいた。
最後の最後に「またね・・・」と一言残して。






『彼女』がいない間、チルノの遊び相手は専らカエルだった。
カエルが騒ぎ出すのは初夏だけではない。冬が訪れる前、秋も冬眠の準備をするカエルが騒がしいものなのだ。
チルノはこれを、『彼女』が自分に遺したプレゼントだと思っていた。
その辺を跳びまわっているカエルを見つけては瞬間冷凍させ、水に漬けて蘇生させる。
実は冷気を操る修行にもなるのだが、チルノはそんな事を知らずただの遊びでやっている。
たまに力加減を失敗して冷凍どころか粉々にしてしまう事もあったが、それでもチルノは楽しかった。


一段と冷え込んできたある日、とうとうチルノはカエルを見つけることができなかった。
一日遊べないというのは少しだけ嫌だが、今日に限ってはそれが気にならなかった。
カエルがいないというのは冬眠を始めたという事だろう。つまり、冬がもうすぐそこまで来ているという事なのだ。
最早衝動を抑える事はできない。チルノはいてもたってもいられなくなって、山の方へ飛んでいった。





『彼女』と最後に話したのはこの山でだった。
幸せな冬を終わらせようとする巫女とか魔女とかメイドが来て、チルノは『彼女』を消したくない一心で戦った。
結果は、まぁ・・・チルノ一人では三人の足元にも及ばず、『彼女』も負けたらしかった。
負けた悔しさとこの先の不安に包まれながら一夜を過ごすと、もう『彼女』は消えかかっていた。



「ねえ、なんで!?どうして消えちゃうの!?」
「昨日の三人組・・・あれが、本当に冬を終わらせちゃったみたいね」
「そんな・・・それじゃ・・・・」
「お別れね・・・もっとも、冬になったらまた出てくるけど」
「嫌だ・・・嫌だよ・・・もっと一緒にいたかったのにぃ・・・・・」
「チルノ、私は冬の妖怪。あなたと違って、冬以外の季節にいてはいけない存在」
「やだ・・・そんなのいやっ・・・・・いやだぁっ!」

「チルノ、春が来れば消えるのが私の宿命・・・でも冬が来れば再び生まれるのも私の宿命。
 一生会えなくなるわけじゃないんだから泣いちゃ駄目よ」
「うっ・・・ぐぅっ・・・・・・」

「・・・・・・・・・もう、そろそろね・・・チルノ、短い間だったけど・・・・今年はちょっと長かったけど・・・楽しかったわ」
「レティ!?」

「ま た ね ・・・」





あれから約半年。チルノは戻ってきた。
冬というにはまだ少し早いけど、これだけ寒くなればもしかしたら・・・
そう思い、あらん限りの声で叫んだ。

「レティーーーーーーーーーーッ!!!!」


・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何の返事もない。
やはりまだ早かったのか・・・チルノは大きなため息をついた。


『あらあら、ずいぶん気の早い恋娘さんね。まだ10月なのに』

突然、虚空から声がした。
透き通るようでありながら母のような優しい声・・・レティ・ホワイトロックの声。


「えっ!?ど、どこっ!!?」
『・・・・どこにもいない、とも言えるし、いつもあなたの傍に、とも言えるわね』
「レティ・・・いるんでしょ?出てきてよ・・・・・」
『だからまだ早いのよ。どんなに寒くなったとしても、私が10月に姿を現すなんて事はないの。意識だけは構築できてるけど』

誰もいない所に向かってチルノが呼びかける。まるで、頭一つ背の高いお姉さんと話すように。

「久しぶりだね・・・何ヶ月ぶりかな?」
『大体5ヶ月ってところね』
「レティの事だから、絶対ここにいると思ってた」
『そう、私は生まれるのも消えるのも常にここ。この山全体が私の揺りかごでありベッドなのよ』

「ねぇ・・・やっぱり、12月まで待たないとダメ・・・?」
『あと1ヶ月と少し・・・そんなに長くないわ』
「ううん、全然長いよ・・・・そんなに待てるかどうか心配だよ」
『生まれ変わったら、真っ先にチルノの所へ行くから。それでいいでしょ?』

「・・・・・・わかった、待つよ。約束だからね?」
『分かったわ』



「そうだ!」

ポケットをゴソゴソさせ、青い呪符を取り出す。
それを天に掲げると、たちまち青白い冷気が辺りに立ち込めた。
普通の人間なら凍りついてしまいそうなほどの超低温。空気中の水蒸気すら凍りつき、氷の粒子となって漂う。
チルノの切り札、雪符「ダイアモンドブリザード」だ。

「どう?」
『綺麗ね・・・・・・まるで真冬みたい。それに冷たくて気持ちいい』
「まだ姿を現せないなら、せめて冬の気分だけでもね・・・・」
『ありがとうチルノ、いいもの見せてもらったわ』


「レティ、また来るから。あなたが生まれ変わる12月に・・・・・・じゃあね」
『私も待ってるわ。あなたに会える12月を・・・』



季節は10月。姉妹のように仲のいい妖怪たちの姿が見られるようになるには、まだ早い。
めっきり寒くなってきたので、寒い人たちのお話を一つ。
レティ×チルノっていうかレティ←チルノみたいな。

お馬鹿さんでいっぱいいっぱいで一途そうなチルノが好きだ!橙と同じくらい。
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コメント



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1.30すけなり削除
本当に寒くなってきましたよね…。これから寒い二人の季節なんやなぁ
15.50ノラネコ削除
はぁ…なんか胸がジーンと温かく…