その年は、いくら待っても春が来ませんでした。
私は幾ら何でもおかしいと思って、雲の上まで様子を見に行きました。
するとそこは、私が、そしてみんなが待ち焦がれていた春になっていました。
私はとても嬉しくなりました。早くこの喜びを、地上のみんなにも伝えなければなりません。それが私の役目です。
私は地上を目指しました。
人間達を見つけました。まずはこの人達にこの喜びを伝えます。
紅白色の人間がいました。
「春を伝えに来ました」
放たれた結界が、私の身体を縛りました。
白黒色の人間がいました。
「春を伝えに 」
放たれた光の奔流が、私の身体を灼きました。
群青色の人間がいました。
「春を 」
放たれた刃物が、私の身体を貫いていきました。
私は地上に向かっていました。飛んではいません。落ちていきます。どこまでも、どこまでも。
私の身体が光の粒となって、さらさらと風に乗って飛んでいきます。
悲しくはありません。私の身体は春の欠片となり、地上に降り注ぎます。そしてそれが、新たな春を生むのです。
それが私の役目です。
大地に緑を、草木に花を。新たな生命に、春の陽の祝福を。
みなさん、今年もどうか、良い春を―――