Coolier - 新生・東方創想話

冬妖氷精譚

2003/10/09 12:38:24
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幽玄おぼろの朝霧を抜け、地表を一目に見下ろせば
眼下を満たすは一面の氷原、否、凍えきッたる大湖なり
仄かに差したる暁光跳ねて、その様あたかも珠玉の面、
いと妖しくもまた厳かなる佇まい、さても眼の福というところ。
見れば数多の氷精ども、湖上で踊り跳ね戯れ、しごく愉しげなありさま。
これなるは冬の妖レティ、ゆるりと彼女らのそばに舞い降りていわく、
「おはよう、わが輩(ともがら)たる氷精たち。よい氷ね。愉しそうなこと!」
すると氷精ども、冬の妖怪に会釈していわく、
「ホワイトロックの姉様! 実のところ、あたしたちはいつだって愉しいのです」
「いかさま!」そのふくよかな頬をゆるめて、レティ。
「なにごとも、愉しむためには才能がいるもの。あなたたちはどんなことも愉しんで、遊びにしてのけてしまうことでしょうよ」
「ところがどっこい」と氷の精ども、やおら悄然。
「あたしたちにだって、愉しめないことぐらいあるのです」
「と、いうと?」
「順を追って申しますと、あたしたちの眷族に『チルノ』というのがいるのですが、さあこいつがとんだおてんばフルーツ恋娘クレイジー、仲間といわず他人といわず、だれかれ構わず喧嘩をふっかけ、冷やしたり冷やさなかったり、凍りつかせたり凍りつかせなかったり、とやりたい放題。とんと難儀しているという次第なんです]
それは、とレティ思案顔、「困ったことね」
「ああ! 言っているそばから、チルノが来ました」
と氷精ども恐れおののき、蜘蛛の子散らして一目散。
目を凝らせば、なるほど彼方より薄羽舞わせて飛び来たる、妖精の影ひとつ。
「やあ、見ない顔がいる!」と目じり吊り上げチルノ思うよう、「あたしの縄張りに土足で踏み入って! ここはひとつ、手痛い目に合わせてやろう。しかし、最初は油断させるのが利口だ」
そんな魂胆決めこんで、チルノひらりと舞い降りるや、
「これはお初にお目もじします、あたしはチルノ、氷の精をやってます。好きなことは凍らせること、嫌いなことは溶かすこと、隙でも嫌いでもないことは凍らしも溶かしもしないことです」
レティ、短気者にしては存外な、とひとたび感心するも、ははあこちらを油断させようという腹だとあっさり看破、しかしそこは釣られたふりで、
「これは丁寧なご挨拶。私はレティ、レティ・ホワイトロック。冬の妖怪をやってるわ」
「それはそれは、冬といえば氷とは親子も同然。ひとつ姉妹づきあいといたしましょう」
「いいわね」とレティ。「では、姉妹の契りを交わしましょうか」
「いいアイデア! それじゃあ、あたしは契りの酒を持ってきましょう」
と飛び去るや、チルノは湖にある館の門へひとっとび。
見ればそこでは、暇もてあました門番が、ぐでんぐでんに酔っ払い、ふとももも露に大の字ゴロ寝の真っ最中。
「うぉぉ……ぐほぉぉぉ……もうやめ……折檻いやぁ……もげへぇぇ……」
悪酔って不気味に寝言う門番の、脇に転がる酒瓶手に取り、
「これ、これ。火の酒テキーラ! こいつを飲ませれば、あのふっくら雪だるま野郎も一発でドロドロのグチョグチョになるってものよ」
チルノ、ニターとほくそ笑み、とんぼ返りでレティのもとへ。
「さあレティの姐さん、この通り酒を持ってきましたよ」
「手をかけたわね。杯は私が用意しておいたわ」
とグラス二つを取り出すレティ。チルノひそかに
(まんまと引っ掛かって! それが末期の杯になるのにさ!)
あざ笑いつつ、酒をグラスに注ぎ、互いに手に取るや、
「では、契りの杯を。まずは、レティの姉さん、一杯どうぞ」
「それじゃ、いただこうかしら」
とレティ、まるでためらうふうもなく、杯を口に寄せ、一息にゴクリ!
(やった! 雪だるまが火だるまに!!)
内心手を叩いて喜ぶチルノ、されど次の瞬間には、目を点にして口あんぐり。
「ふう、なかなか美味しいわね。いいお酒だわ」
レティ、ほんのり頬を染めもせず、何の変化もない様子。
(そんな馬鹿な! あの華人小娘は、『私以外の者が飲むと大火傷します、ていうか死にます』って言ってたのに!!)
「さあ、返杯よ。妹チルノ、一杯どうぞ」
「え!? え、ええ……」
(なんだ、あれはただのハッタリだったのか。ちぇっ、飲んだくれでしかも法螺吹きの華人小娘め! こんどいびってやろう)
と心ひそかにぼやきつつ、やむなくチルノひとくちチビリ。
「……ん?」
たちまち、口中にひろがる焼けつくような熱さと痛み。
「アギャハァァーーー!? あつっ! 熱い!! 熱いぃぃ~~!」
苦しみのあまり悶絶、冷気を操るすべも忘れ、ひたすら暴れるだけのチルノ。
「おやおや。クスリがききすぎたかしら」
とレティ苦笑い、もがくチルノを引っつかむや、その口に自分の唇をグイッと押しつけ、
「ふぅ――――っ」
寒気一息、チルノの口へ北風一吹き、たちまち彼女の口内炎をかき消した。
「うは、はぁ、はぁぁ……」
ぐったり弱ったチルノを抱え、レティ悪戯者の笑み。
「な、なんで……っ」
「それは、なんで私にはあの火の酒が効かなかったか、ってこと? それとも、なんで助けたのか、ってこと?」
「……どっちも」
「そうね。まともに飲めば、火の酒は私も焼いて溶かしてしまうでしょうよ。でも」
と、足元を見やる。そこには溶け崩れた雪だるまの残骸。
「あなたが話していたのはこの雪だるま。中に仕込んだ『リンガリングコールド』で遠隔操作していたというわけ」
「―――っ、じゃ、じゃあ……」
「なぜ助けたか、って? そりゃ――」
「ん……う……」
ふたたび寒気を吹きこまれ、チルノはあえいだ。
「あなたは、私の妹になったんだもの。当然でしょう?」
あんたのほうが、とチルノはぼんやりと思った、よっぽど悪戯者じゃないか――と。

レティとチルノの最初の縁が、ここにひとつ結ばれたという一幕。
えー例によってレティ×チルノ支援……ってもうカップリングアンケ終わってますがな。まあええがな。ええやんな。
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コメント



0.530簡易評価
1.30すけなり削除
黒幕はやはり黒幕か…!
2.30nanashi削除
シェイクスピアっぽいね。
3.30名無しで失礼します削除
何気にエロいなぁ、文体で遊べる才能、尊敬します。
9.-30NA削除