Coolier - 新生・東方創想話

それぞれの黄昏、やがて闇。

2003/10/02 12:26:05
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幻想郷は今日も晴れていて、雲一つ無い眩しいそら。
幻想郷の森は今日も鬱蒼としていて、虫一匹居ない耳の痛む静けさ。
幻想郷の湖は今日も澄んでいて、波一つ無い鏡面に似た水面。
幻想郷は今日もいつも通りの様で、だけれど何かが足りていない。

太陽が大分赤みを帯びてきた時間帯、唐突に、幻想郷が死んだように静かになった。


カナカナカナカナカナ………。


音の無い幻想郷にヒグラシの鳴き声が響く。
まるで遮るものが無い様に、その声は幻想郷の端にまで届いた。
秋も近い夕暮れ。
自分が最後の一匹だと言うことを知っている、そのヒグラシの声だけが世界の音。


唐突にやってくることがある。

自分が世界の中の、ほんの小さな部分だという実感。そして。

何を持っても埋められはしないような、心の空洞。


これは日の沈むまでの、恐らくほんの気の迷い────────





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── 一人で遊ぶこと、それは悲しいか。
  答えは、NO。
  何故か? 悲しいなら遊べない。──


「虚空の一人遊び」    


いつものように笑っていて、いつものように楽しくて。
そうやって今日も来た黄昏。
氷漬けの蛙を持ちながら、不意に空を見上げた。
茜色の空。
なぜだろう? 何かが足り無い様な感覚。
辺りを見回す。 誰も居ない。
耳を澄ます。 聞こえるのは、私の心臓の鼓動。
湖を覗き込む。 何も居ない。 映る私の顔。
手の中に、まだ可能性のある命。
水の中にいつもの様に放り込む。
壊れて、消えた。

独りに、なった。

もういいや。 遊ぶのはまた明日。
いつもよりずっと早いけど、今日は気が乗らない。
空が紫に変わるより早く。 辺りが闇に包まれるその前に。

明日もまた遊べるように。

───おやすみ。



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──大きな館の大きな門に紅い風鈴がありました。
  それの奏でる見事な音色は、聴いた者を眠りへと誘います。
  安らかな、覚める事のないであろう。──


「紅色の風鈴」


まったく、よくもまあ性懲りも無く。
毎日毎日来訪者には困らない屋敷だこと。

今日も私の仕事をきっちりこなして、辺りの静けさを取り返す。
静寂が訪れて初めて、もう夕方だと気がついた。
見飽きた風景。 美しい景色もいつしか日常になり、私の中でだけ色あせた。

ここにいることは辛くない。 この風景も悲しくない。
でも、私の心が、なんだか痛い。

「この世界に、私は一人きり。」

そんなたちの悪い冗句が浮かんでくるほどに。


朱色に染まる世界の中で、私はきっと泣いていたんだろう。

来訪者を待ち望んだのは初めてだった。



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──昼の王様は、夜寝ているときに殺されました。
  夜の王様は、昼寝ているときに殺されました。
  王様は欠点だらけでした。 少し他人より優れていただけで。──


「陽光の敗北者」


窓から入る黄金の光。
斜に角度を取ったそれを遠くから見つめる。
その程度で本能は警鐘を鳴らすのだけれど、私は光に歩み寄る。
間近に来て、目の痛みをこらえてそれを凝視する。
光が筋になって見えて、──目はとても痛むけど──凄く綺麗だと思った。
でも。

さら…。

触れてみた指先が一瞬で灰になった。

ああ、太陽は。 
そんなに私が憎いのだろうか。

「夜」が私の時間で、「昼」に出る幕は無い。
わかってはいたけど。 だけど。

その時だけは叫びたいほど悲しかった。


紅いまんまる あなたはどっち?



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──長い間ずっとこの姿。変わらないからこれが自分。
  背中にひびが入っても、それは、きっと、嬉しくない。──


「サナギ」 


不可解な事というのは、必ずあるだろう。 それは知っている。
とはいえ私が自分から、まさか読書がしたくないと思うだなんて。
埃を巻き上げ久方ぶりに立って歩く。
ひとまずこの図書室から出たくなったから。

予想外の事というのは、実際は何処にでも何時にでもあるだろう。 それも知っている。
だけど。
廊下の壁を思い切り殴りつけるだなんて、予想外にも程がある。

廊下に差し込む黄金の西日。
美しすぎて腹が立った。

私は本を読むのが好きなの。 それが自分の拠り所であるほどに。
だっていうのにこんなの見せるなんて反則よ。
本に載っていた夕日はちっとも綺麗じゃなかったのに。

私が今まで見てきたものが偽物だったら、私の知識は全て偽物?

「…じゃあ、私は誰なのよ…。」



久しぶりに動いて、お腹がすいた。 厨房にでも行ってみよう。

最も大事な事だとはいえ、時に揺らぐこともあるだろう。
しかし、最後には変わらないから大事なのか、と本を片手に思う。

「手が痛い……。」

馬鹿みたいでちょっと笑った。



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──そいつはとても重要なもの。なにせちょっと見たことがあるんなら、誰にだってわかるだろう?
  そいつを被ったいかした女が『魔女』だって事が。
  じゃあそれを脱いだらどうなるかって?
  さあ?彼女に聞いてくれ。──


「黒いとんがり帽子」 


ようやく実った研究に喜ばないはずは無い。
ビー玉みたいな球形の丹。
失敗なんて考えてなくて、飲み込もうとしたら夕日が目に触れた。
幾千万年そこで輝いたか知らないが、不老不死ではないんだろう?

──太陽すらも越えちゃって、それはきっととても不自然。──

──黒い帽子に黒い服。 魔女は星より長生きかしら?──


…………。
ああ、分かったよ。
あんたが居ないと昼が無い。
私は昼寝が好きなんだ。

屋根の上まで上っていって、手にした丹を夕日に向かってぶん投げた。
黒い帽子が落っこちた。


うるさいな。 私は人間だよ。



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──たとえ『世界』を作れる誰かがいたって、実はそんなに大したことじゃない。
  『世界』なんてのは星の数より転がっている。
  たとえば君の頭の中に。
  もっとも、よく似た模造品には要注意だが。──


「濃紺と銀 時計」


懐中時計を持っている。 時刻はまるで合ってない。
肌身離さず持っている。 時間を止めても動く針。
止まった時間にあってなお、生真面目に時を刻む。

銀のナイフを持っている。 ぴかぴかに磨いた一級品。
肌身離さず持っている。 時間を止めても切れる刃。
止まった時間にあってなお、生真面目にモノを刻む。

容易に捻じ曲げられる世界の中で、ずっと変わらない私の親友。


朱に染まる廊下。 窓から見える茜色の空。
沈む太陽、迫る夜。
時間を止めたら見られない、変化する空のグラデーション。

『世界』の中に『私の世界』があると教えてくれた。

容易に捻じ曲げられる世界の中で、ずっと変わり続ける私の親友。



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──私は支配者。逆らう者は誰も居ない。
  手を伸ばして手に入れた物は私の物。
  この部屋にある全てのものは私のもの。
  手に入れたのは、湿気て割れてるいつかのクッキー。──


「無知なる支配者」


今日も退屈な一日。
壊れた玩具はつまらない。

新しいのが欲しいなぁ。

そういえば、玩具はお外から持ってくるって聞いたけど。
お外に行ったら玩具はたくさんあるのかしら?
壊れないのもあるのかな。
お外にちょっと興味がわいた。

あれ?ところで。

お外って、どうなってるの?

色々考えたけど分からない。
まあいいか。 どうせお外に出てはいけないのだし。


今日も退屈な一日。
壊れた玩具でサッカーした。



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──光の中がいつもの世界で、ほんとの闇なんて滅多に見ない。
  真っ暗なのがいつもの世界で、光なんて全く見ない。
  『当たり前』の隔たりは、生と死によく似ている。──


「光を知らない金の髪」 


静まり返った幻想郷。 ヒグラシの声がする。 今は夕暮れなのかもしれない。

私はいつも闇の中。
私の周りの、「夜」という名の遮光幕。

私の見ている世界は、一体どれだけ欠けているのか。
私の知らない世界が、一体どれだけあるというのか。

元より日差しの下なんかじゃ生きていけないけれど。
「明るい」というのもよく分からないけれど。
少しだけ興味があった。 
だから少しだけ羨ましかった。

太陽の下に生きていた「天然物」が。


──半分以上がくすんだ赤色。──


太陽と鉄のにおいがした。



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──僕には彼の様に自由な羽は無いけれど。
  彼のように、素敵な声で鳴くことは出来ないけれど。
  彼を守り続けてきたこと。
  誰にも知られずとも、僕はそれを誇りに思う。──


「空蝉」


ああ、たまにある、こんな日が。
他人恋しさは人間の証かしら?

賽銭箱に腰掛ける。
静まり返る「こちら側」。
喧騒を忘れられない「あちら側」。
退屈が日常の「こちら側」。
急かされるのが日常の「あちら側」。

同じ世界の中にあって、こうも違うと笑えるくらいね。

笑っても少し悲しい。
ずっと一人でいても、時たま寂しい。
同じ人間なら、「あちら側」でもこういう時はあるのかしら。


凛とした静けさも、繰り返す日常も嫌いではないけれど。

お祭りの様な活気が時に恋しい。



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──彼をそんなに笑うなよ。
  愚かなほどに笑っている彼だけれど、そいつがなぜだかわかるかい?
  彼には、笑うくらいしか出来ないのさ。

  死ぬまで、笑ってみろ。出来るか?──


「Joker」


カナカナカナカナカナ………。

太陽は後半分。

カナカナカナ………。

太陽は欠片ほど。

……カナ…カナ………。

全て沈む。 夜。

………………………………………………。


幻想郷に微かに風が帰ってきて。


ヒグラシは落ちて、死んだ。



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足りなかったものは何なのか分からないけど。
幻想郷にそれが戻ってきた。
満天の星空とともに。


繰り返す日常の、ほんのひと時のこと。

非常に実験的というか、無茶苦茶というか。
やりたいようにはやってみました。
これに関してはよければコメントいただきたいです。
たとえそれが辛辣なものであれ。

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たま
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コメント



0.860簡易評価
1.40巻機山 花削除
むう・・・、夢を見ている様な気分でした。逢魔が時の一瞬というか。
ただ、かなりのデムパを感じたのも事実ですが(w
2.40七誌削除
なんか…、深いです…。すごく……。咲夜さんとルーミアがよかったです。
3.30ななし削除
普段の彼女たちでは絶対考えなさそうなことですね。
流れている空気が非常に安定していて上手いです。
4.20暖かいかき氷削除
気付かない疑問、気付かない振りをしていた疑問。
それにふと気付いた時に揺れる心…の様に感じたのでした。
5.50すけなり削除
日常で訪れるほんのわずかな静寂に、どのようなことを思うか…。キャラ毎でとてもよく表現できてると思います。
6.50寝。削除
上手く云えませんが、何だかいいなぁ。と思いました。こう云う感じのは私は好きです。
7.50翡翠削除
何か、とても考えさせられてしまう、不思議な作品でした……
こういう作品はとても好きです。
8.無評価たま削除
遅レスですが、コメントくださった皆様、ありがとうございます。
今読み返すとやはり読みづらく、誤字脱字が(略
多く伝わらない部分は精進すれば伝わるのか。
まあ、僕はss書きを名乗るつもりでもないのですが。