短くも騒がしい春といつも通りの夏が駆け足で過ぎ去り、幻想郷には落ち着いた秋がやってきた。
暑すぎず寒すぎず、食べ物は美味しく、人・妖怪を問わず秋が好きと言う者は決して少なくない。
それは式神と言えども例外ではなかった。
とあるすきま妖怪の式とその式は、春から夏にかけて実に半年近くもの間、ずっと住処を離れあの世に留まっていた。
そして半年ぶりに住処に帰ってきた時・・・住処は色々と変わっていた。
「・・・・・うにゃー」
「ずっと放ったらかしにしていたのは悪いが、まさかここまでとは・・・」
化け狐の姿をした式・八雲 藍も、化け猫の姿をした式の式・橙も、見慣れた場所の見慣れぬ光景に戸惑っていた。
なにせ半年も放ったらかしである。雑草は伸び放題に伸び、家には蜘蛛の巣がはり、床には埃がまみれている。
そして今は秋ということで、落ち葉の絨毯が一面に広がっている。
下手すれば・・・いや、下手しなくともそこは十分廃墟にしか見えなかった。
「うわ~、オレンジとか黄色でとってもきれ~!」
「雑草の緑がアクセントに・・・って、そんな事言ってる場合ではないぞ。掃除しなくては」
「うぇ~~・・・・・・」
「そんな嫌そうな顔するな。今日は私も手伝ってやるから」
かくして、一季節ほど早い大掃除が始まった。
橙が家の中の大掃除、藍が家の外の大掃除。飛翔韋駄天に憑依荼吉尼天、飛翔毘沙門天にプリンセス天狐。
あらゆる技を駆使して所狭しと飛びまくり、人間には一生不可能な速さで大掃除完了。
廃墟だった場所は、ほんの1時間ほどで半年振りの『マヨヒガ』に戻ったのだった。
「はひぃ、疲れたー・・・・」
「おかげで家がきれいになったぞ。橙、よく頑張った」
「久しぶりに動きまくったからお腹空いたなぁ・・・藍さま、何か食べようよ?」
「そうだな・・・落ち葉もかなりたくさんあることだし・・・・・」
「ん?」
「やってみるか、焼 き 芋 」
橙の耳と尻尾がピョンコと立った。
サツマイモを落ち葉の山に埋め、火をつけてしばらく放置。
串を刺して焼き加減を確かめてみれば、ホクホクした焼きたてほやほやの焼き芋ができていた。
「うわぁおいしそ~!いっただっきまー・・・はぐぅ!?はふぃはふぃはふぃほー!!」
「『熱い熱い熱いよー!!』か・・・?猫舌のくせに欲張るからそうなる。慌てなくてもお前の芋を取りはしないよ」
何かと考える前に動く事の多い橙だから、この程度の事などもはや日常茶飯事。
藍にしてみれば、これくらいのドタバタがないと橙らしくないな、と思う程の事だ。
だから今回も慌てない。いつも通りの橙がそこにいてくれて安心するのだ。
「あー熱かった~・・・そうだ、藍さまも私のお芋食べる?」
「私も自分の芋があるからいいよ」
「そんな事言わないで、はい、あ~んして♪」
「わ、馬鹿、恥ずかしいじゃないか・・・」
「私達しかいないよ?紫様ならどこかから覗いてるかも知れないけど」
「いや、誰かに見られてるって言う意味じゃなくて私の心の整理がついていないというか・・・・」
「はい藍さま、あ~ん」
橙の秘密兵器、上目遣いと子どもなりの甘い声。
頻繁に使うからもはや秘密ではないが、普通に駄々をこねるよりは遥かに効き目がある。
体験者(被害者)である藍も、その事は十分承知しているのだが・・・
「藍さま、あ~ん」
「うっ!・・・・あ、あ~ん・・・」
「おいしい?」
「うん、美味しい・・・」
三度目の上目遣いには流石の藍も耐えられなかった。
「ねえ、紫さまもここに来ればよかったのにね」
「ん?」
「焼き芋、おいしいのに・・・」
「紫様は春までお目覚めにはならないからなぁ・・・」
「じゃあ私と藍さまの二人っきり?」
「まあ、そういう事になるかな」
「そっか・・・・・えへへ」
橙がいたずらっぽく笑う。
式としてかなりの年月を在り続けてきた藍は、その会話と微笑みの意味を必要以上に深く掘り下げてしまう。
「(馬鹿・・・橙相手に何を考えてるんだ私は!)」
「(でも今の橙・・・一体何を考えている?二人っきりだなんて)」
「まさかとは思うが・・・・いや、まだ子どもだからそんな事・・・・」
「藍さま!」
「はいぃ!?(ドキーン)」
一人悶々としている所にいきなり名前を呼ばれ、9本の尻尾を全てビクンと立てる藍。
誰がどう見ても動揺しているのがバレバレだが、橙はそんなことなど気にもしない。
「今、二人っきりなんだよね・・・」
「あ、ああ・・・・ふふふふふ二人っきりだだだな」
「だからさ・・・・」
「うん・・・(ドクン)」
「お芋、二人でいっぱい食べれるね!」
「藍さま・・・?」
緊張の糸がプツリと切れ、藍は文字通り真っ白になっていた。
真っ白になった中で激しく後悔する。橙はまだまだ『色気より食い気』だったという事を・・・
だが、後悔ばかりでもない。
「(二人っきりでただのんびりするのも、悪くないな・・・いつも忙しくて気づかなかった)」
その日、藍は橙と焼き芋を心ゆくまで食べたし一緒に風呂にも入って同じ布団に入って寝た。
橙にとってはいつも通りの日常、藍にとっては少しだけ特別な日常。
明日もこんな日常でありますように・・・
暑すぎず寒すぎず、食べ物は美味しく、人・妖怪を問わず秋が好きと言う者は決して少なくない。
それは式神と言えども例外ではなかった。
とあるすきま妖怪の式とその式は、春から夏にかけて実に半年近くもの間、ずっと住処を離れあの世に留まっていた。
そして半年ぶりに住処に帰ってきた時・・・住処は色々と変わっていた。
「・・・・・うにゃー」
「ずっと放ったらかしにしていたのは悪いが、まさかここまでとは・・・」
化け狐の姿をした式・八雲 藍も、化け猫の姿をした式の式・橙も、見慣れた場所の見慣れぬ光景に戸惑っていた。
なにせ半年も放ったらかしである。雑草は伸び放題に伸び、家には蜘蛛の巣がはり、床には埃がまみれている。
そして今は秋ということで、落ち葉の絨毯が一面に広がっている。
下手すれば・・・いや、下手しなくともそこは十分廃墟にしか見えなかった。
「うわ~、オレンジとか黄色でとってもきれ~!」
「雑草の緑がアクセントに・・・って、そんな事言ってる場合ではないぞ。掃除しなくては」
「うぇ~~・・・・・・」
「そんな嫌そうな顔するな。今日は私も手伝ってやるから」
かくして、一季節ほど早い大掃除が始まった。
橙が家の中の大掃除、藍が家の外の大掃除。飛翔韋駄天に憑依荼吉尼天、飛翔毘沙門天にプリンセス天狐。
あらゆる技を駆使して所狭しと飛びまくり、人間には一生不可能な速さで大掃除完了。
廃墟だった場所は、ほんの1時間ほどで半年振りの『マヨヒガ』に戻ったのだった。
「はひぃ、疲れたー・・・・」
「おかげで家がきれいになったぞ。橙、よく頑張った」
「久しぶりに動きまくったからお腹空いたなぁ・・・藍さま、何か食べようよ?」
「そうだな・・・落ち葉もかなりたくさんあることだし・・・・・」
「ん?」
「やってみるか、焼 き 芋 」
橙の耳と尻尾がピョンコと立った。
サツマイモを落ち葉の山に埋め、火をつけてしばらく放置。
串を刺して焼き加減を確かめてみれば、ホクホクした焼きたてほやほやの焼き芋ができていた。
「うわぁおいしそ~!いっただっきまー・・・はぐぅ!?はふぃはふぃはふぃほー!!」
「『熱い熱い熱いよー!!』か・・・?猫舌のくせに欲張るからそうなる。慌てなくてもお前の芋を取りはしないよ」
何かと考える前に動く事の多い橙だから、この程度の事などもはや日常茶飯事。
藍にしてみれば、これくらいのドタバタがないと橙らしくないな、と思う程の事だ。
だから今回も慌てない。いつも通りの橙がそこにいてくれて安心するのだ。
「あー熱かった~・・・そうだ、藍さまも私のお芋食べる?」
「私も自分の芋があるからいいよ」
「そんな事言わないで、はい、あ~んして♪」
「わ、馬鹿、恥ずかしいじゃないか・・・」
「私達しかいないよ?紫様ならどこかから覗いてるかも知れないけど」
「いや、誰かに見られてるって言う意味じゃなくて私の心の整理がついていないというか・・・・」
「はい藍さま、あ~ん」
橙の秘密兵器、上目遣いと子どもなりの甘い声。
頻繁に使うからもはや秘密ではないが、普通に駄々をこねるよりは遥かに効き目がある。
体験者(被害者)である藍も、その事は十分承知しているのだが・・・
「藍さま、あ~ん」
「うっ!・・・・あ、あ~ん・・・」
「おいしい?」
「うん、美味しい・・・」
三度目の上目遣いには流石の藍も耐えられなかった。
「ねえ、紫さまもここに来ればよかったのにね」
「ん?」
「焼き芋、おいしいのに・・・」
「紫様は春までお目覚めにはならないからなぁ・・・」
「じゃあ私と藍さまの二人っきり?」
「まあ、そういう事になるかな」
「そっか・・・・・えへへ」
橙がいたずらっぽく笑う。
式としてかなりの年月を在り続けてきた藍は、その会話と微笑みの意味を必要以上に深く掘り下げてしまう。
「(馬鹿・・・橙相手に何を考えてるんだ私は!)」
「(でも今の橙・・・一体何を考えている?二人っきりだなんて)」
「まさかとは思うが・・・・いや、まだ子どもだからそんな事・・・・」
「藍さま!」
「はいぃ!?(ドキーン)」
一人悶々としている所にいきなり名前を呼ばれ、9本の尻尾を全てビクンと立てる藍。
誰がどう見ても動揺しているのがバレバレだが、橙はそんなことなど気にもしない。
「今、二人っきりなんだよね・・・」
「あ、ああ・・・・ふふふふふ二人っきりだだだな」
「だからさ・・・・」
「うん・・・(ドクン)」
「お芋、二人でいっぱい食べれるね!」
「藍さま・・・?」
緊張の糸がプツリと切れ、藍は文字通り真っ白になっていた。
真っ白になった中で激しく後悔する。橙はまだまだ『色気より食い気』だったという事を・・・
だが、後悔ばかりでもない。
「(二人っきりでただのんびりするのも、悪くないな・・・いつも忙しくて気づかなかった)」
その日、藍は橙と焼き芋を心ゆくまで食べたし一緒に風呂にも入って同じ布団に入って寝た。
橙にとってはいつも通りの日常、藍にとっては少しだけ特別な日常。
明日もこんな日常でありますように・・・