Coolier - 新生・東方創想話

我輩は○○である

2003/10/02 00:45:14
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<第1部 『吾輩は橙である』>

 吾輩は橙である。式はまだ憑いていない。

 どこで生れたか頓(とん)と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめしたマヨイガの家でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて式神というものを見た。しかもあとで聞くとそれは藍という式神中で一番強力な人物であったそうだ。
 この藍というのは時々妖怪を捕まえて式にするという話である。しかしその当時は何という考えもなかったから別段恐ろしいとも思わなかった。ただ彼女の掌(てのひら)に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。掌の上で少し落ち付いて藍の顔を見たのがいわゆる式神というものの見始めであろう。

 吾輩の主人は滅多に吾輩と顔を合せる事がない。幻想郷から帰ると終日部屋に這入った(はいった)ぎり殆んど出て来る事がない。マヨイガのものは大変な勉強家だと思っている。当人も勉強家であるかの如く見せている。しかし実際はマヨイガのものがいうような勉強家ではない。吾輩は時々忍び足に彼女の部屋を覗いて見るが、彼女はよく下半身スッパテンコーをしている事がある。時々畳の上に弾幕をこぼしている。彼女は胃弱で尻尾の色が淡黄色(たんこうしょく)を帯びて艶のない不活発な徴候をあらわしている。そのくせに大飯を食う。大飯を食った後はスッパテンコーをする。色々した後でプリンセステンコーをする。二、三回すると眠くなる。畳の上に弾幕をこぼす。これが彼女の毎夜繰り返す日課である。
 吾輩は橙ながら時々考える事がある。式神というものは実に楽なものだ。妖怪と生まれたら式神となるに限る。こんなにテンコーしていて勤まるものなら橙にでも出来ぬ事はないと。それでも主人にいわせると式神ほどつらいものはないそうで彼女は主人が来る度に何とかかんとか不平を鳴らしている。

 吾輩は橙である。式はまだ憑いていない。



<第2部 『吾輩は中国である』>

 吾輩は中国である。名前ではまだ呼ばれていない。

 いつから名前で呼ばれなくなったのか頓と見当がつかぬ。何でも大きな屋敷の前で『なまえでよんでください』と叫んでいた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてメイドというものを見た。しかもあとで聞くとそれは十六夜咲夜というメイド中で一番獰悪(どうあく)な人間であったそうだ。この十六夜咲夜というのは時々我々を捕まえてナイフで捌くという話である。しかしその当時は何という考えもなかったから別段恐ろしいとも思わなかった。

 ふと気が付いて見ると十六夜咲夜はいない。その上今までの所とは違って薄暗い。果てな(はてな)何でも容子(ようす)が可笑しいと、のそのそ這い出して見ると非常に痛い。吾輩は屋敷の前から急に森の中へ棄てられたのである。
 漸く(ようやく)の思いで森を這い出すと向こうに大きな湖がある。吾輩は湖の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという分別も出ない。暫くして叫んだら十六夜咲夜がまた迎に来てくれるかと考え付いた。『なまえでよんでください』と試みにやって見たが誰も来ない。
 その内湖の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減って来た。叫びたくても声が出ない。仕方がない、何でもよいから食物のある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと湖を左りに廻り始めた。どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに這って行くと漸くの事で何となく妖怪くさい所へ出た。此所へ這入ったら、どうにかなると思って壁の崩れた穴から、とある邸内にもぐり込んだ。
 さて邸へは忍び込んだもののこれから先どうして善いか分らない。その内に暗くなる、腹は減る、寒さは増し、雨が降って来るという始末でもう一刻も猶予が出来なくなった。仕方がないからとにかく明るくて暖かそうな方へ方へとあるいて行く。今から考えるとその時は既に家の内に這入っておったのだ。ここで吾輩はかの十六夜咲夜以外の人物を再び見るべき機会に遭遇したのである。
 第一に逢ったのがフランドールである。これは十六夜咲夜より一層乱暴な方で吾輩を見るや否やいきなり弾幕を発射して撃墜した。いやこれは駄目だと思ったから眼をねぶって運を天に任せていた。しかしひもじいのと寒いのにはどうしても我慢が出来ん。吾輩は再びフランドールの隙を見て台所へ這い上った。すると間もなくまた撃墜された。吾輩は撃墜されては這い上り、這い上っては撃墜され、何でも同じ事を四、五遍繰り返したのを記憶している。その時にフランドールという者はつくづくいやになった。吾輩が最後に撃墜されようとしたときに、この屋敷の主人が騒々しい何だといいながら出て来た。
 フランドールは吾輩をぶら下げて主人の方へ向けてこの宿なしの中国がいくら撃墜しても撃墜しても御台所へ上って来て困りますという。主人は口の周りの血を拭いながら吾輩の顔を暫らく眺めておったが、やがてそんなら門番にしてやれといったまま奥へ這入ってしまった。主人は余り口を聞かぬ妖怪と見えた。フランドールは口惜しそうに吾輩を台所へ抛り(ほうり)出した。かくして吾輩は遂にこの屋敷を自分の住家と極(き)める事にしたのである。

 吾輩がこの屋敷に住み込んだ当時は、主人以外のものには甚だ不人望であった。どこへ行っても跳ね付けられて相手にしてくれ手がなかった。如何に珍重されなかったは、今日に至るまで名前で呼んでくれないのでも分る。吾輩は仕方がないから、出来得る限り吾輩を入れてくれた主人の役に立つ事をつとめた。

 吾輩は彼女らと同居して観察すればするほど、彼女らは我儘(わがまま)なものだと断言せざるを得ないようになった。殊にフランドールに至っては言語道断である。自分の勝手な時は人を新しいスペルカードの実験台にしたり、うずらの卵をぶつけたり、中国中国と連呼したりする。しかも吾輩の方で少しでも手出しをしようものなら屋敷内総がかりで追い廻して弾幕を加える。この間もちょっと自分の名前を言ったらパチュリーが非常に怒ってそれから容易に屋敷に入れない。門の前で人が震えていても一向平気なものである。

 しかしいくらこの屋敷だって、そういつまでも栄える事もあるまい。まあ気を永く中国の時節を待つがよかろう。

 吾輩は中国である。名前ではまだ呼ばれていない。
我ながら、なんとアホな作品のことか。原作は言うまでもなく千円札の中の人の有名な小説です。

最初は橙のネタを考えついたのですが、途中で『名前ネタと言えば中国だ』という事を思い出し、急遽二部構成にしました。

なるべく原作に沿った文章にしている為、少々読み辛い箇所があるかと思います。ご了承下さい。
謎のザコ
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コメント



0.1300簡易評価
1.40nanashi削除
何とも哀れな中国の処遇…<br>(´・ω・`)
2.40noname削除
やっぱり藍はスッパテンコーなのか(´・ω・`)
3.40ななしぃ削除
原作に沿わせてこのネタの量、上手いですな。
4.50名無しで失礼します削除
原文がうまく使われてるなぁと感動。
5.30Q削除
同感です、原作に沿ってうまく物語が作られています。
橙ならとも書くとして、美鈴は・・・(自分で中国と言っているし)

6.40ななし削除
笑かしていただきました。ズタボロで妹様にぶら下げられる中国萌えw
20.70名前が無い程度の能力削除
スッパテンコーで何を悩んでいたんだろう。