Coolier - 新生・東方創想話

超中国人伝説

2003/09/29 07:50:33
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 彼女は悩んでいた。
 彼女は決して顔も悪くはないし、プロポーションもいい。多趣味で教養もある。仕事を遂行するには少々力不足な点もあったが、長所を潰してしまうほどのものではない。
 ただ、周りの人間──いや、ほとんどが魔物や妖怪の類なのだが──は、それをさらに上回る魅力や力を持っているのだ。相対的に彼女の存在は軽くなる。門番という普段人と顔をあわせない仕事なのも影響したかもしれない。
 いつからだろう。屋敷の誰もが名前で呼んでくれなくなっていた。
 みんな「おい」とか「お前」とか「門番」とか、挙句の果てには服装が中華風だからと「中国」呼ばわりする始末。
 このままではいけない。自分のアイデンティティを保つためにも。

 私には、紅美鈴という立派な名前があるのに!

 早速上司のメイド長に直談判した。
「別にあなたには必要ないでしょう?」
 軽く流された。おまけに、何が可笑しいのかくすくす笑われてしまった。
「所詮この世は弱肉強食。力ない者は消えゆくのみなのよ」
 それはそうかもしれない。だが、自分だってそれなりの力は持っている。でなければ紅魔館門番など勤められない。
「雑魚を片付けるだけなら掃除の片手間にだってできる。それ以上の仕事をあなたはこなしているのかしら?」
「そ、それは……」
 彼女が言っているのは霊夢と魔理沙のことだろう。今までで唯一の、そして最大の失態だ。結果的にはレミリアとパチュリーの友人となって万事丸く収まったのだが──このメイド長は部外者が平気で出入りすることが我慢ならないらしい。
「何か反論でも?」
 反論はできない。侵入者を排除できなかったのは事実なのだから。
 だから──と、咲夜は続けた。
「あなたは所詮、あの二人程度ということなのよ」

 あの二人──

 誰? 知っている人?

 あの二人──

 分からない。

 あの二人──

 分かった。

 魔理沙の話に出てきたのみで、その後行方知らずの大妖精。
 暗い図書館に閉じ込められ、外に出ることすら叶わない小悪魔。

 ぷつん
 彼女の中で、何かが切れた。

「大妖精、小悪魔のことかぁぁぁ!」

 ゴォ!
 突然風が吹き上がった。
「な、何!?」
 門番の体が光に包まれてゆく。
「ど、どこにそんな力が──」
 最後まで喋ることなく、咲夜は光に飲み込まれた。


「な、なんだぁ!?」
 いつものように無断で拝借──もとい借りていた本を返しに紅魔館へ向かっていた魔理沙。彼女を出迎えたのはあってはならない光景だった。
 紅魔館から伸びる、天を貫く光。そして、屋敷の1/4を覆う大爆発。
 侵入者か? いや、あの屋敷は化け物揃いだ。本当の悪意を持って入れば暴れる間もなくミンチになる。
 では、屋敷の誰かが暴れている? それは十分にありえる。特にフランドール・スカーレット。あの少々気のふれたお嬢様ならこのような“戯れ”はしょっちゅうだ。
「それにしては今回は規模がでかいぜ。メイド長とパチュリーは何をしているんだ?」
「ちょっと魔理沙! これはどういうこと!?」
 騒ぎに気づき、流石の霊夢も駆けつけてきたようだ。
「ねえ、魔理沙」
「知るか。私がここに来たときには──」
 屋敷から金色の光が飛び出した。

 それは、金色のオーラを身にまとった──

「そんな馬鹿な! まさか……」
「知っているの魔理沙!」
「ああ、以前読んだことがある。雑技民族中国人は、怒りが頂点に達すると伝説のスーパー中国人に変身するんだ!」
 ポケットから取り出したるは、奇妙な形の片眼鏡。こんなこともあろうかと用意しておいて良かった。右耳にかけるとレンズに文字が浮かび上がる。
「1000、2000、3000……。馬鹿な、奴の中華力がどんどん上がっていく!」
 中華力。それはどれだけ中国かを表す絶対的な数値。一般人であれば大抵は一桁。高くても十幾つといったところだろう。
「どうするの?」
「どうするってなぁ……中華力ってのはまだよく分かってないんだよ。伝説上の人物になるけど、巨大な鉄のからくり人形を素手で殴り倒したとか、星ひとつを気で消したとか」
「まずいじゃないのそれ!」
 確かにマズイ。
「くそっ、私たちがなんとかしなくちゃならんのか?」
 そのとき──
 門番は両手を挙げた。青い空を、世界を抱きしめるかのように。
「ヤバイ、何か来るぞ!」
 両手に気が溜まり、眩く発光する。
「みんな、私に名前を分けてちょうだい!」
 ひとりひとりの名前は短いが、幻想郷の住人たちの名前を合わせれば!
 名前がその手に集まってゆく。
「ああ、中国の名前が“十六夜ノーレッジ霧雨博麗・ルーミアチルノレミリアフランドール”に!」
「長いぜ」
 このままでは名前を呼ぶだけで時間が浪費されてしまう。何より自分の名前が含まれているのが非常に気に入らない。
「待て、ルーミアチルノレミリアフランドール!」
「違うわ、私の名前は“西行寺魂魄リリーホワイトマーガトロイドホワイトロック十六夜ノーレッジ霧雨博麗・ルーミアチルノレミリアフランドール橙ルナサメルランリリカ藍紫”よ」
「なんかさらに長くなってない?」
「寿限無寿限無後光のすりきれってやつだぜ。なんてこった」
 このままでは奴の名前は際限なく膨れ上がる。
「落ち着け、長すぎる名前は逆に覚えてもらえなくなるぞ!」
「そうよ、ルーミアチルノレミリアフランドール橙ルナサメル(略)! それ以上名前を集めたらあなたは──」
 止まらない。黄金のオーラはますます勢いを増し、周囲の空気を震わせる。
「マジックミサイル!」
 駄目元で撃った魔法弾は、風に流されてあらぬ方向へ飛んでいった。
「あーれー」
「ああっ、好奇心からこっそり覗いていたルーミアが!」
「畜生、ルーミアチルノレミリアフラン(略)め、お前のせいで無駄な犠牲が!」
 まっさかさまに落ちてゆく少女。
「そーなのかー」
 それが、ルーミアの最後の言葉だった。
「ルーミア、お前のことは忘れないぜ。三日ぐらい」
 ぐっ、と涙を堪える魔理沙。目をつぶれば今でも鮮明に思い出せる、一瞬で撃ち落され、まっさかさまに落ちる彼女の姿。……本当にまっさかさまに落ちるのが好きな妖怪だった。
「魔理沙、感傷に浸ってる暇はないわ」
 そのとおりだ霊夢。自分たちには戦うしか道は残っていない。
「夢想封印!」
「マスタースパーク!」
 巨大な結界がルーミアチルノレミ(略)の動きを止め、極太レーザーが結界ごと薙ぎ払う!
「やったか!」
「駄目よ魔理沙、その台詞は──」
 魔力の光が消えた後、そこには無傷で佇む超中国人の姿!
「しまった、私としたことが……“『やったか』と言ったときの攻撃は必ず致命傷には至っていない”の法則を発動させてしまったぜ」
 しかも今日は持ち合わせが少なかったので符が尽きてしまった。
「なら私が止める!」
 持ち合わせ全ての博麗アミュレット。だが、全て弾き返され、ただの紙切れと化して舞い落ちる。
「駄目だ! 中華力の上昇が止ま──うわっ!」
 ボンッ、と計測器が火を噴いた。
 ついにカンスト。ありえない、理論値をぶっちぎりで超越している!
「止めろ、奴を止めろ! 今止めないと、ルーミアチル(略)は!」
「ル(略)~~~!」

「こうなったら、最後の手段しかないわね」

 真打登場。
「咲夜、無事だったのか!」
「ええ、時間停止が間に合ったから無傷で済んだわ。お嬢様を避難させるのに時間がかかってしまったけど」
 ありったけのナイフを両手に持つ。
「超中国人を止める方法、それはこれしかない!」
 (略)に向かって咲夜が飛んだ。
 迫り来る氷弾、七色の気弾、精霊魔法、炎の剣、閉じるムーンライトレイ、へにょりレーザー、パペットマペット、春を伝えにきました、ほやほや、みょん、小林幸子、テンコー、スキマ、を時間を遅らせ、進め、停め、ギリギリで見切ってかいくぐって行く。
「超中国人を止める手段。それは──」

「殺す」

 ざしゅっ


 咲夜は丘の上で、独り佇んでいた。
 虚しい──
 戦いの後は、いつもこうだ。
「咲夜……」
「お、お嬢様!?」
 何故ここにお嬢様が。
 しまった、まだ着替えていない。返り血で真っ赤に染まった己の姿。それ見て、主は何を思うか。
「お嬢様、これは!」
「咲夜──」

「咲夜、なんて美味しそう!」
「あああああああ、お嬢様の、お嬢様の舌が私の頬に首に唇に~~~っ!」


 わが人生、一片の悔いなし! とあの世へ逝くところだった咲夜だが、まだ108の煩悩のうち7つぐらいしか達成していないことに気づいて急きょ舞い戻ってきていた。今はベッドで夢の中。
 一方レミリアは、食あたりを起こして寝込んでいる。
「うぇ~ん、お腹が痛いよ~」
「まったく、みんなヤワですね~」
 メイド長に代わり、レミリアに薬を飲ませながら美鈴はやれやれとつぶやいた。


 終わっとけ
 ……死んでいいですか。
耳の人
http://hirano.egota.org/he-noki/
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コメント



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1.40AR削除
いやもう、わけわからんし。とりあえずワロタけどw
2.40翁丸削除
モンスター物語のベビーサタンの話を思い出した、まああんまり関係ないけど。 このような無茶苦茶な勢いは大好きです。
3.50nanashi削除
メチャワラタ
4.30すけなり削除
なんか混ぜ御飯のような面白い作品でした。(ぉぃ
5.40くるる削除
瑞ュ長涙ス
23.40名前が無い程度の能力削除
とりあえずドラg(ryネタが多彩なのにワロタ
36.80na7氏削除
いいカオスっぷりでした。