Coolier - 新生・東方創想話

普通の地底妖怪が『地獄巡り』作ってみた

2014/09/10 01:36:22
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かつて、そこには地獄というものがあった。
生前に悪行を積んだものが落ち、罰を受けるという、あれである。
多くの鬼や閻魔や獄卒や死神、そしてそれらを人数で上回る亡者が集まった場所であった。

が、今や地獄は場所を他所に移し、かつて地獄であった地底の一角には、
大昔に封じられた嫌われ者の妖怪と、申し訳程度の怨霊がたむろするのみ。

今や「旧地獄」と呼ばれたその場所で人目を引く景観と言えば、古びた洋館が一つある程度。
門構えだけは立派なその洋館には主たる妖怪姉妹と、彼女らのペットが住んでいるだけである。

「…てなわけでお姉ちゃん、これは由々しき事態だよ」

洋館に住まう姉妹の下の方、古明地こいしは眉間に皺を寄せて言った。

「何が?」

そのまま口づけをしようかという勢いで顔を近づけてくる妹を制しつつ、古明地さとりは疑問を口にした。

「何がも何も!このままじゃ旧地獄は幻想郷の中ですら幻想になっちゃうよ!!」

こいしは地上と地底の交流が部分的に回復した今ですら、外部から新たに訪れる者がほとんどいない旧地獄の惨状を憂いているようである。
ようである、とさとりが表現するのは、彼女がこいしの思考を読むことができないからだ。
随分昔、こいしは他者の心を読む第三の目を自ら閉ざした。
それ以来、無意識で行動するという術を得たこいしの感情は、第三の目を閉ざしていないさとりでも「見る」ことができない。

とはいえ妹は思ったこと(それが感情によるものかは疑問だが)をすぐ口にするので、
日々のコミュニケーションを欠かさない限りは、大きな支障はなかった。

「別にいいんじゃない?無駄に人が集まっても煩わしいだけよ」

さとりのその言葉は全くの本心から出たものである。
自分の意識に向けてその思考を垂れ流してくる連中など、集まれば集まるだけストレスの源だ。

先日家具を購入しに地上に買物に出た時も、

(は?なんでこの客、配送にしないんだよ)
(本棚二つも買っといて、当日から使うってのか?)
(しかも組み立て式だぞ)
(その短い腕で二つとも持ち替える気か?)

と、店員の顔には出さない本音がさとりの第三の目を通じて流れ込み、大いに彼女の胃を痛めつけた。
あの店員たちには、月に十数冊単位で本を買いたくなる読書家の気持ちなどわからないのだろう。

おまけに購入した組み立て式の本棚には、肝心のネジやボンドが同梱されていなかった。
ペットの核兵器烏を差し向けることも考慮したが、やめた。

相手の心を読んで住所を開示し烏がそこへ核を打ち込む…地霊殿の必勝パターンだが、騒ぎを大きくするのは得策ではないと判断したのだ。

ひとまずクレームを伝え、その日のうちに足りないパーツやボンドを届けさせた。

その際にも、

(これがエッチな薄い本なら、ネジを届けるついでにこの小娘に白濁ボンドたっぷりのダボをぶち込める展開なのに)

などという身も蓋もない思考を読み取ってしまい、結局本棚を組み立てる気力を削がれた。

「もう、お姉ちゃんはすぐそうやって殻にこもるんだから」
「『されど心の目は閉じている!』なコミュ放棄ステルス妹に言われたくないし」
「お姉ちゃん、わたしが見えるっすか…?」
「うるさい」

ペットの核烏とティラノサウルス猫(ティラノサウルスには毛が生えていて死肉を好んだらしい)、
それとこいしを呼んで麻雀をやった結果、誰もこいしが立直をかけるのに気付かず、上がり牌を振り込みまくっていた。
もう二度とこいつと麻雀をやるもんかと思ったさとり、身内以外からはそもそも麻雀には誘われない。当たり前だ。

「で、仮にこの旧地獄が由々しき事態だからって、何をどうするってのよ?」

こいしがこういう話をしてくる時は、大抵何かをしたがっている時だ。
姉にはわかるのだ。妹の心が読めなくとも、長年付き合ってきたカンで、さとりにはそれがわかる。

「えーとね、旧地獄を観光施設に改造して、お客さんをいっぱい呼ぼうよ」
「地霊殿を温泉旅館にして…なんてネタ、わたしたちが初登場した頃から散々薄い本でやられてるわよ」

こいしの殺意が見えないボディブローが、さとりの鳩尾をとらえた。

「お姉ちゃん、そういうメタ発言はやめようよ」
「ゴホッ…こいし、いいパンチをするようになったわね」
「伊達に弾幕アクションに参加してないからね」

メタ発言かましてるのは貴様だろうが、という言葉も発せぬままさとりは崩れ落ちた。


※ ※ ※


「というわけで、お姉ちゃんが寝てる間に旧地獄の大改装を行いました」

さとりが意識を失っていた時間は、思いの外長かったようであった。

「…なんかわたし、やたらと腕やら足が細くなってる気がするんだけど」
「まあ寝てる間、点滴とか特に何もやってないからねー」
「さすがさとり様!腹パン食らっただけで女子の願望を体現して見せる痩せっぷり!」
「そこまで細くなったら手足の短さも気にならないねー」

さとりはティラノサウルスの最新学説のごとく毛深く死体好きな猫の頭を軽くはたき、
身体的なコンプレックスを抉ってきた放射能烏には膝の靭帯を狙う全力ローキックをかましておいた。

それまで横たわっていた布団から抜け出し、ベッドを降りて猫と烏にほぼ同時に打撃を入れる。
そして相手が痛みに反応する前に再び布団に戻る。この間わずか二秒。

「わあ、お空の膝のあたりから『めごちっっ』とかいう感じの音が」

声にならない悲鳴を上げて悶絶する親友を見て、ティラノ猫こと火焔猫燐(通称お燐、かわいい)は驚嘆の声を上げた。
放射能持ちの地獄烏、お空こと霊烏路空(長身痩躯で胸もある黒髪美人だがアホの子で無防備かわいい)は膝の靭帯が逝ってしまったようである。

「めごちは天麩羅にすると美味しいというけど、烏の靭帯は果たして」
「あー…まあまずいでしょうね。味覚的には」

そう言う燐の言葉の裏には、味覚ではなく性的には空の足は「おいしい」という意味を含んでいる、
それをさとりは明確に察していた。現代のソロモン王こと古明地さとり、ペットの猫のリビドーを覚ることなど容易い。

「膝裏をぺろぺろしたときのお空の反応が大変おいしいのですよ、あたいにとっては」

わざわざ口に出して説明してくれたのは、きっと「見えない」こいしへの気遣いだろう。

「もう、お空の足の性感帯の話なんてどうでもいいよ」

こいしはベッドの上からさとりを引き摺り下ろすと、燐と空を促し歩き始めた。
どれくらいかは知らないが結構な時間寝たきりだったさとりの足どりは、はっきりいって不安定だ。
先程もよくあんな綺麗なローキックを打てたものだと、さとりは自分で感心した。

「ちょっと待ってこいし。今歩いたら確実に転ぶ。というかお風呂とか着替えとかを先に」
「だから今からリニューアルしたお風呂に行くんじゃん」

やはりというべきか、こいしの言う大改装は温泉関係のようであった。

「あたいたち、さとり様に一番に新しい温泉に入っていただこうと頑張ったんですよ」
「ねえお燐、たぶん今さとり様以上に歩けないんだけど、わたし」

結局、燐の猫車に無理やり空とさとりを乗せて移動することになった。



【その一 旧海地獄】



「今回はお客さんを飽きさせないよう、何種類かの温泉を順番に楽しめるようにしたの」

猫車の傍らを歩くこいしが楽しげに話す。

「外の世界には『地獄巡り』という有名な観光スポットがあるそうで…それを参考にしました」
「名付けて『旧地獄巡り』ってね…そのまんまとか言わないでね、お姉ちゃん」

お燐の心を読んでみると、どうやら外の世界の本を資料として使用したらしい。
古くなって絶版になった観光ガイドブックの類だろうか。
写真を使用した視覚的な情報も読み取れた。

「なるほど、色とりどりの温泉や、時間によって噴き出す間欠泉を見て回るのね」

他者の記憶に残る情報は得てして曖昧になっていることが多いが、
二人が説明する改装のコンセプトを把握する分には、文字通り「猫の額」程の記憶で十分である。

「皆も大分、特に別府方面に行くときは是非体験してみてね」
「誰に話してるんですか?」

さとりのメタ発言は小声だったので、同じ猫車の上の空にしか聞こえなかった。
こいしに聞かれるとツッコミを大義名分に何をされるか、わかったものではない。

「元ネタは実際には入浴できない温泉だけど、こっちの地獄巡りは頑張れば入れるよ」
「『頑張る』の範囲がお客の種族によって大分変わって来そうね」

そんなやり取りをしている内に「地底新名所 旧地獄巡り」と書かれた看板が見えてきた。
看板には原色の毒々しい黄色の文字で「旧海地獄」と書かれている。


「こちらは第一の名所、その名も『旧海地獄』です」

燐が「海」と言った意味は、さとりにはすぐにピンとは来なかった。
周囲には温泉というより大きな池のようなものが多くあり、大小様々の蓮が浮葉を広げていた。

「この池が海みたいに広いってこと?…でも、贔屓目に見ても湖って感じじゃないかしら」
「ああ、違う違う。この辺の池はおまけみたいなものだからねー」

こいしはそう言いながら、池の周りをぴょんぴょんと飛び跳ね――一際大きな蓮の上に飛び乗った。

「ほら、オオオニバスって言うんだよ。わたしくらいの体格なら上に乗れちゃう」

半径一メートル以上はあるだろう浮葉の上で、こいしはお馴染みのポーズをとった。
一粒食べれば三百メートルは走れるとかいう、あの有名なお菓子のパッケージに描かれた姿である。

蓮の上に立つというとまるで仏のようだが、残念ながらさとりの幼い妹はそうした神々しさとは無縁の存在である。
しかし、大きな蓮を飛び石のように渡っていくその姿は、不思議と絵になった。

「温泉の高温を利用すれば、こうやって南国の植物を育てることも可能になるんです」
「なるほどね。…それで、肝心の海地獄っていうのは?」
「それはあちらに」

燐が猫車を押し、点在する池の奥、一際湯気の濃い場所へと一行は移動した。

「へえ、これは…」

さとりは現れた光景を見て、素直に「凄い」という感想を抱いた。
そこにあったのは目が覚めるような水色の温泉。

地上でよく晴れた秋の日に空を見上げた時のような、曇りのない原色の水色が広がっていた。

海のない幻想郷は勿論、空が見えない地底の水場では決して見ることができない、まさに「海」の色であった。
それでいて、水面から立ち上る蒸気と熱気が、ここが温泉であることを雄弁に物語っている。

「こちらが旧地獄巡り第一の名所『旧海地獄』だよ、お姉ちゃん」

こいしはオオオニバスの上にぺたりと座り込みながら、さとりに向かって笑いかけた。
温泉の傍らには色の由来を解説した看板もあり、しっかりと観光客向けのレイアウトになっている。
さとりには何だか、こいしの服装が外の世界のツアーガイドのそれに見えてくるのだった。

「ねえお燐、これって冷えピタの裏面の色だよね」
「その例えはどうかな…」

空と燐は水面を見つめながら、どこかピントがずれた会話をしている。
さとりは蓮をあしらった池と、シンプルな色付き温泉の光景をぐるりと見渡し、言った。

「お燐の記憶にあった元ネタと、わりかし近く作ってあるのね」
「まあねー。大抵のお客さんが最初にここを通るだろうし、導入として無難に作ってみたよ」

工事には土木作業を得意とする土蜘蛛や、力が強い鬼などが携わったということだった。
彼らへの報酬がどこから出ていたのか、さとりは考えると頭が痛くなるので何も言わずに置いた。
こういう時、心が読めない妹の存在を有難く思うのである。

「で、お姉ちゃん」
「何?」
「すぐにでも入れるよ?」

さとりが遠慮をしたのは言うまでもない。

ちなみにこの海地獄では水面の少し上に籠を吊るし、温泉の蒸気を使用し温泉卵を作っている。
その卵は鶏のそれにしては明らかに巨大であったが、さとりは中身が何かは聞かないでおいた。


<さとりのメモ>

・導入としては無難な作り。
・オオオニバスを初めとした睡蓮の池はきれい。
・あの温泉卵を生み落した生物の素性を開示すべき。



【その二 旧鬼石坊主地獄】



ある程度足の感覚が戻ってきたので、さとりは自分の足で歩くことにした。
空はそれより遥かに早く膝の靭帯を回復させたようで、元気に両足で歩いている。
神の力を手に入れてからというもの、あの烏はフィジカル面で大幅なアップチューンを受けたようだ。

「次は第二の名所、旧鬼石坊主地獄だよ」
「こちらがフォロワーなのに『旧』がつくなんて変な話ねえ」

こいしの手にはいつの間にか袋が提げられ、中には四人分のプリンの器が見えた。
パッケージには『旧海地獄名産・地獄エピオルニスの温泉卵プリン』なる名称が書いてある。
バスケットボール並に巨大な卵の主は、外の世界で絶滅した鳥類のようである。

「まあ、無駄に乳がでかい烏がいるくらいだし、無駄に背が高いダチョウがその辺を歩いててもおかしくないわね」

さとりは傍らを歩く空の身体の一部を見ながら言う。
空は頭上に「?」の一文字が浮かびそうな表情で首を傾げており、その思考の声も、

(背が高いダチョウ…熱湯コマーシャルの浴槽が特注になったりするのかしら)

などという、逆にさとりの脳内に?マークが飛び交いそうなことを言っていた。

周囲の光景は先ほどの綺麗な水色とは対照的に、灰色がかった泥を含む温泉があちこちに噴き出すというやや地味なものに変わっている。

しかし、灰色の泥は絶えずぼこぼこと噴出を続けており、その度に違った形の泡を作る。
この球状の泡が坊主頭に似ていることから、このような名前がつくこととなった――というものらしい。
噴出孔の周囲に、渦のように泥が円を描いている姿も、どこか石庭のような趣を感じさせた。

これはこれで、見ていて飽きない。

奥に進むと一際大きな空間があり、池のように広がった泥のあちこちで、灰色の坊主頭が弾ける光景が見られた。
しかし、燐の脳内の元ネタ情報にはなかった光景が、さとりの目を大きく見開かせた。


「…観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色…」


泥の中に小島のように置かれた石の上で、僧形の少女が般若心経を読んでいたのである。

「って、本当に坊主がいるの!?」

残念ながらその少女は剃髪をしておらず「坊主頭」ではないが、その服装は間違いなく仏門に従事する者のそれだ。

「やっぱり泥がぽこぽこしてるだけじゃパンチが弱いかなあって」
「謝りなさいネタ元の大分県の人たちに…そもそもこの人、どこから引っ張ってきたの」
「あ、お姉ちゃんはまだ知らないんだっけ?ちょっと前に地上でできたお寺。わたしもたまに修行してるんだよ」

そういえば昨年の夏ごろから、こいしは命蓮寺とかいう地上の寺に出入りしているという話をしていた。
となると、目の前の少女はその寺の住職なのだろうか。

「つーかこいつ、昔は地底にいませんでしたっけ?」

一心に経文を唱える少女の顔に、燐は見覚えがあるようであった。
確か寺ができる少し前に、空が間欠泉を発生させたことを切っ掛けに地上へ出ていった妖怪集団がいたが、
なるほど命蓮寺という寺はその連中が中心になって作った寺か――とさとりは推測した。

「…心無?礙無?礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想…チッ…究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故…」

今一瞬、経文に舌打ちが混じったような気がしたのは、さとりの気のせいか。

「そうだよ!ぬえちゃんは昔、光源氏に退治されて地底に封印されてた妖怪だからね」
「源氏違いだよ!…即説呪曰羯諦羯諦波羅羯諦…」

あ、ツッコんだ。

さとりがそう思う前で、ぬえと呼ばれた僧形の妖怪は顔をしかめながら経文を唱えている。
しかし段々と口調に真剣味がなくなってきており、何だか投げやりな雰囲気が漂ってきた。

「そう言えば、昔正体不明の妖怪ってのがいたような――その名前が確か、ぬえ――」

鳥頭の空も珍しく目の前の少女のことを覚えているようだった。

「ぬえちゃんは最近お寺で悪戯をした罰として、ここで修行をさせられてるの」
「ああ…それはまた…」
「住職の白蓮さんがすっごい怒ってね。危うく本当に坊主頭にされそうになったり」

「…聖白蓮年増魔女婆婆物理物理暴力物理顔面皺皺…」

般若心経を唱え終えたぬえは、今度は聞いたこともないような経文を口にし始めていた。

「…無駄巨乳垂乳確実白髪染紫婆年齢不相応性的黒服…外敵内通不倫疑惑豊聡耳神子…」

地獄と称される高熱の温泉のド真ん中、必死に経文を唱えるぬえの額には汗が浮かび、
その口から紡ぎだされる経文は、先ほどまでの投げやりな雰囲気が鳴りを潜めていた。
何か鬼気迫る、怒りのような感情がそこかしこに現れていた。

「ちなみに悪戯の内容というのはね、かりんとうを」
「いいわこいし、皆まで言わなくて」

うっかりぬえの思考を読んでしまったさとりは、こいしの口に人差し指を当てて塞いだ。

「で、ぬえって妖怪は地底でも何かを『似た別の物』に誤認させて人を騙してたって」
「何だいそりゃ?」
「えっとね…たとえばウンコ味のカレーをカレー味のウンコに偽装して食べさせたり…」
「うわぁ、性質が悪い妖怪だねぇ…」

わざわざこいしの口を塞いだというのに、空が平然とウンコ連呼しているのを聞き、
さとりはいち早くこの場所を離れたいと思うのだった。

「…冗談不通堅物尼公更年期障害加虐嗜好仕置過剰今尚尻痛…弟溺愛近親相姦疑惑深々…」

周囲の泥のぼこぼこという音を木魚代わりに、ぬえの読経は次の地獄が見えるまでさとりの耳に届いていた。


<さとりのメモ>

・ある意味、あの妖怪にとってはここが罪の報いを受ける「地獄」か。
・言葉を覚えたペットには定期的な再教育が必要だ。
・薄い本が作る風評被害は恐ろしい。それで経文が作れてしまうほどに。



【その三 旧山地獄】



地底世界は基本的に洞窟の中に作られており、地上と同じ意味での「山」は存在しない。
しかし、地面の隆起や斜面は当然あるわけで、次の地獄はそこに作られていた。

「続きましては旧山地獄。お姉ちゃんもそろそろ『旧』の一字の重要さがわかってきたかな?」
「うん、まあ付け焼刃程度でも名前をちゃんと変えとくって大事だもんね」

さとりたち四人は「山(仮)」の斜面のあちこちから蒸気が噴出する場所に差し掛かっていた。

『地底新名所 旧地獄巡り 旧山地獄』

そう書かれた看板を見ていると、さとりの頭に一つの疑問が浮かぶ。

「ねえ、こいし」
「なあに?」
「これ、今はいいけど…この先もずっと『新』名所なの?」

先程までの二つの温泉にも合った同様の看板。
いずれも「新名所」と銘打たれていた。

「いやいや、さとり様」

こいしがその問いに答える前に、燐が口を挟んできた。

「世の中にはCMの度に新発売を叫んでいるカップ麺やビールがありましてね」
「…今の子どもはわかんないわよ、それらの商品群」
「あ、それならわたしも一個思いついたわ!伊達じゃないガンダム!」

「「「違う、そうじゃない」」」

自信満々で叫んだネタを三人がかりで否定され、空は「うニュー」と唸った。


この「旧山地獄」の魅力は温泉の高熱を利用した高い気温を生かし、温暖な気候を好む動植物を数多く飼育していることである。

温泉巡りをする中で、唐突に山の中に出現する動植物園――これが山地獄の目玉だ。

「まあ、お燐やお空も厳密にはそういう生き物よね」

幻想郷に種族多しと言えど、火焔地獄の跡地での仕事ができる妖怪を数えれば片手で足りるほどしかいない。
八咫烏の力を手に入れる以前から、地獄烏たる空は耐熱性能には定評があった。
無論、その空と行動を共にし、普段から火の中に住む燐もである。

もし彼女たちが地上に住むとすれば、もしかすると日本より温暖な国の方が快適に過ごせるのかもしれない。

「ふふ、この山地獄の動植物園…見てるだけの温泉で確実に退屈してるお子様のハートをガッチリキャッチだよ」
「はい温泉県の皆さんに謝ろうねこいし。動植物園はあくまで温泉のオプション。オーケイ?」

看板の横から伸びた順路を歩いていくと、やがて動物園らしい檻が見えてきた。

「ほらほらお姉ちゃん、動物園だよ!」

こいしはさとりの手を引き、楽しそうに檻の前に駆けていく。
さとりは戸惑いながらも、妹の無邪気な笑顔に胸が暖かくなるのを感じていた。

しかし、そんな胸中は檻の中を見たことで一気に冷え込むこととなる。


『暑さで弱り切った雪女(餌を与えないでください)』


「一番温暖な気候に置いちゃいけない生き物がいた…」
「あ…す、すみませんそこの人…どうか氷を…一欠片でいいんです、氷をいただけませんか…」

もはや紐だろそれというレベルにまで布面積を減らしたマイクロビキニを着込み、
全身を汗だくにして頬を紅潮させた雪女が、か細い声で氷を要求してきていた。

「えぇ…」

その雪女は昔話に出てくるような純和風の雰囲気とはやや趣を異にしていた。
北欧人のような顔立ちにウェーブがかかった色素の薄い髪、そして東洋人にはない肉付きの良さを持っている。
汗ばんだ肉体と、暑さで意識を朦朧とさせている表情は、やけに扇情的である。

「ほら、巨乳巨乳。お子様もこれには大喜び」
「明らかに教育上よろしくないでしょうが…」

雪女の首にはご丁寧にも首輪まで嵌まっている。
高温に耐えられないのか、時折犬の体温調節のように舌を出して息を荒げていた。
これがまた、ひどくいやらしい。

「とにかく逃がしてあげなさい!」
「むー。レティさんがダイエットしたいって言うから、サウナ代わりにここを使わせてあげてるのに…」
「じゃあせめて水風呂くらい設置してあげなさいよ…」

そんな会話をしていると、檻の中に飼育係らしい少女が入ってきた。
暑さ対策なのか、上半身は黒いタンクトップだけを纏っている。
見たところ、河童のようであった。

「レティさーん、ご飯の時間ですよー」
「あ、ほらほらお姉ちゃん!今から餌やりタイムだよ!ラッキーだね」

飼育係の少女はバケツの中から餌と思しき食べ物と飲み物を取り出した。


缶ビールと焼き鳥であった。


「ううっ…キンキンに冷えてやがるわっ…!あ、ありがたいっ…」

レティと呼ばれた雪女はビールを飼育係の手からひったくり、まるで地下労働者のように喉を鳴らして飲んだ。

「涙が出るっ…犯罪的だわ…うますぎる…」

レティは泣きながらビールを口に運び、必死で焼き鳥を貪った。
その凄絶な光景にさとりは目を奪われると共に――自身の喉が、ひどく乾いていることを感じた。

レティの白い喉が動くたびに、まるで自身がキンキンに冷えたビールを飲んでいるように錯覚する。
しかしそれは錯覚でしかなく、口の中には唾液が溜まっていくのみ。
それをごくりと飲み干しても、当然ビールののど越しを感じることなど、できない。

周囲の高温による発汗が、さらにさとりの肉体の「渇き」を促進していた。


「お姉ちゃん」


いつの間にかこいしの手に、レティが飲んでいるのと同じ銘柄の缶ビールが握られていた。

「…飲む?」

その悪魔的な誘惑に勝てるほど、さとりは大人ではなかった。

最早この性的な動物園も、飼育係が雪女に餌代を請求していることも、
その金額が明らかにビールと焼き鳥の価格の範疇を超えていることも、
喉を通り抜ける黄金の液体の魔力の前には、どうでもいい事実なのであった。



「兎かわいいねぇ~!」
「心がぴょんぴょんするね、お燐!」

一方燐と空は兎小屋で、外国の珍しい兎に野菜スティックを与えていた。


<さとりのメモ>

・あの雪女はそのうち、ビール一本のために強盗もやりかねない。
・言うほどダイエットが必要な体型には見えない。あの生活ではプリン体が心配だ。
・それにしても、柿ピーか何かが欲しい。



【その四 旧かまど地獄】



次なる旧かまど地獄は、これまでのように単一種類ではなく、色も形も様々な温泉がそこかしこに配置された、バラエティに富んだ地獄である。

一~六丁目まで番地が振られたそれらの温泉を巡ることは勿論、ここでは手足を蒸気にさらす蒸し湯、温泉を飲める喉湯、そして温泉地にはお馴染みの足湯がある。
これまで基本的に入浴はできない温泉を巡ってきたが、ここでは部分的にだがそれが可能だ。

さとりたち四人はひとまず足湯に浸かりながら、これまでの地獄巡りを振り返っていた。

「どうかな?これなら地底の新名所として、旧地獄を幻想郷中にアピールできるよ!!」
「…なんか、あんまりいい方向へのアピールにならない気がするんだけど…」

少なくとも、不穏な心経を唱える旧坊主地獄と、雪女監禁調教動物園の旧山地獄は、情報が伝わるところへ伝われば即刻営業停止に追い込まれそうな気がしていた。

「でも、温泉の一つ一つに個性をつけるってアイデアは面白いですよね」
「名物もいっぱい。プリンも温泉卵もおいしいわ~」

空が幸せそうに食べるプリンは、先ほどの海地獄のプリンとはまた別の商品。
なんと、醤油ベースの味付けを施したプリンなのである。
ちなみにパッケージには「地獄ジャイアントモアの卵を使用」とある。またしても巨大鳥だ。
先程の山地獄の動物園にもいなかったし、一体地底のどこに棲んでいるのだろう。

「それにしてもわたしが意識を失ってる期間に、随分大がかりな工事をやったものね…」

「そりゃ、お前さんが二週間も寝てるからさ」

背後から聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには背が高い女の鬼が立っていた。

「勇儀さん、おっはー」
「おっはー。…って、何だその挨拶」
「さあ?」

星熊勇儀はさとりの隣に腰かけ、足湯にその長い足を浸した。
さすがは鬼というべきか、温泉の温度に全く怯むこともなく、一気に脛から下を湯に漬けている。

「寝てる間に少し痩せたかい?」
「ええ。優しい妹とペットたちが点滴の一つもせず看病してくれたお陰でね」

こいしと空、燐の三人は一斉に視線を逸らした。

「はは。まあ人間じゃあるまいし、それくらいじゃ死なんさな」
「…他人事だと思って。それで?勇儀さんはこの地獄のスタッフなのですか?」

確かこの旧地獄巡りの設営には、土蜘蛛と鬼が多く参加していたと聞いていた。

「ああ。最後の一仕事が終わったところだよ」

勇儀はそう言って、長い金髪をかき上げた。
その視線の先…足湯よりもさらに順路を奥に進んだ場所に、その仕事の成果があった。

「あの鐘ですか?」
「そ。鳴らすと幸せを呼ぶっていう、まあ一種の縁起物だな」

五人は足湯を堪能した後で、勇儀がつい先ほど建てたというその鐘を見に行ってみた。

その鐘はいわゆる西洋風の趣をしており、紐を引くことで鳴らすタイプのものであった。
鐘を吊るす柱には説明書きを入れた看板が取り付けられており、
一回だけその鐘を鳴らすことで、旧地獄の鬼が幸せを運んでくる…といった内容が記されていた。

「なるほど…」

さとりは鐘に関する説明を受けた後で、一度、燐と空の心を読んでみた。
果たして二人とも、さとりが抱いているのと同じ疑念を持っていた。
こいしの感情は当然読めないが、その表情から何となくだが、自分たち三人に近い疑問を持っているように見えた。

「勇儀さん」
「何だ?」
「この鐘は勇儀さんが一人で準備をなさったの?」
「ああ。他の箇所は仲間と一緒に先に仕上げて、この鐘だけ最後にわたしが仕上げた」

自慢げな表情の勇儀を見て、さとりはくすりと笑った。

「…この西洋風の可愛らしい鐘も?」
「ん?そうだよ」
「…ハート形のファンシーな看板も?」
「ま、まあね」
「…看板の色がどピンクな部分も?『Happy Bell』なんていう、およそ鬼らしからぬ名称も?」

そこまでさとりが言った段階で、ようやく勇儀は自分を取り巻くにやにや笑いに気づいた。
そう、今目の前にあるやたらとファンシーで少女趣味な鐘は、勇儀が作ったものだ。

腕力だけなら地底はおろか幻想郷でも最強クラスな山の四天王が一人、語られる怪力乱神こと「力の勇儀」が。
酒を飲んでは母里太兵衛(オリーブオイルが大好きという説もある)も真っ青のウワバミ、男勝りで豪放磊落な「力の勇儀」が。

「い、言いたいことがあったらはっきり言え」
「別に…ただ、やっぱり勇儀さんも『お・ん・な・の・こ』なんだなって…」

さとりの言葉がとどめになったか、勇儀の頬が旧かまど地獄六丁目の熱泥のように赤く染まった。
それは間違いなく、彼女がいつも飲んでいる酒によるものではない。

「こ、この性悪女…」

実際、さとりは勇儀がいわゆる少女趣味をそこまで嫌っていないことを知っている。
そもそもさとりを前にして自分の趣味や嗜好を隠しおおせる者などいないのである。

勇儀の家の寝室に置いてあるぬいぐるみの種類や数、寝るときに着ているパジャマのフリルの形まで、さとりはもう随分と前から知っている。

勿論それを他者に口外することはしないし、勇儀本人に向けてそれを言及することもない。
それを自らやってしまうことは――人間を襲う「化け物」としての役割ならともかく――妖怪同士の関係の中では、
さとり妖怪として「超えてはいけないライン」を超えてしまう行為に他ならない。

天涯孤独の身ならいざ知らず、自分は旧地獄の責任者であり、妹と数多くのペットを養わなければいけない「社会人」なのである。
さとりはさとりなりに、嫌われ者として他者との距離の取り方に対するルールを己に課しているのだった。

だからこそ、こうして「見る」までもなく相手が趣味嗜好を晒してしまった時は、全力で弄りに走るのだ。

「まあ酷い。わたし、嬉しいんですよ?ハート柄って素晴らしいですし」
「わたしたち姉妹のトレードマークだもんねー」
「ゆ、勇儀さん…あたいも普通にいいと思うよ?だって本当に女の子なんだしさ…」
「うん、ギャップ萌えよね!」

燐は勇儀の心中を慮ってフォローを入れているが、空のそれは実質的にフォローになっていない。
結局この鐘のデザインが、普段の勇儀のイメージとかけ離れていることを指摘してしまっていた。

「ギャップって…こ、このフライドチキン…」

さらに顔を紅潮させた状態で、勇儀の目には涙が溜まり始めていた。

「お、お前らには絶対幸せ運んでやんないかんなー!!」

捨て台詞を残し、勇儀はその場を走り去った。
図らずも鬼退治を実行してしまったさとりは、ひとまず一回、鐘を鳴らしてみた。

幸せを呼ぶような、可愛らしい音が鳴った。


<さとりのメモ>

・安易なギャップ萌えに走ってもいいことはない。
・しかし、リアルでそうした知人がいたとして、弄らずにいれるだろうか。
・いやない(反語)。



【その五 旧鬼山地獄】



五番目の地獄に足を踏み入れてから、こいしの歩調が目に見えて早くなっていた。
旧山地獄の動植物園の時以上に、さとりに早く見せたくて仕方がない…そんな印象を受ける。
最も、これまでの例があるため、さとりには素直にそれを楽しみにすることはできない。

特に今回は地獄の中心部へ到着する前から何か不穏な物音がしており、
一体何を見せられるのか、不安で仕方がなかった。

「えー、これが温泉の熱を利用して熱帯の水場の環境を再現した…」
「うん、もういいわ…」

旧・鬼山地獄の中心部に到着してすぐに目に入った光景。
それは鉄柵や金網で囲まれた無数の池と、そこでゆったりと泳ぐ無数の鰐であった。

鰐。

長い身体と大きな顎、そして鋭い歯を持つ肉食性の爬虫類。
基本的には熱帯に生息することが多く、幻想郷でも直接本物を見たことがある者は少ないだろう。

そんな鰐が、実に七十匹近く、この地獄の池に所狭しと集められているのであった。

「いやー、ここまで集まると壮観だねぇ」
「わたし鰐って初めて見た!」

しかし、何より異様なのはその「色」であった。
普通、緑がかった褐色をした鰐の身体は、イラストでは緑に塗られることも多い。
さとりが知識のレベルで覚えていた鰐のイメージも概ねそんなものだったが、
目の前の鰐はいずれも、その姿からはかけ離れた色をしているのであった。


「…なんか…白くない?」


この旧地獄に集められた鰐の群れは、一匹残らず皆真っ白い体色をしていた。
瞳の赤色だけがやたらと目立つ、まさに白子(アルビノ)の鰐の集団である。

「そりゃ、地底だもん。鰐は白くなるに決まってんじゃん」
「えぇー…」

確かに、さとりも何度か耳にしたことがある。
地下の下水道に迷い込んだ鰐がそこで巨大化し、長い地下生活の中でアルビノ化する…という都市伝説めいた怪談。
しかし、まさか幻想郷の地下世界にこれほどの数が生息していたとは初耳だった。

そもそも日本に野生の鰐はいないはずなのだが…まあそれは、絶滅した巨鳥の卵が入手できることに比べれば些細な問題だ。

「いずれにしても、ここまで鰐メインにしちゃっていいのかしら」

山地獄もそうであったが、温泉よりも明らかに動物園部分の方が面積が大きい。
とはいえ、見た目のインパクトは山地獄以上。
集客力や話題性という点においては、これまで見てきたどの地獄よりも上であった。

「お燐、こっちの池にいっぱいいるわよ!!早く早く!!」
「ちょっと、落ち着きなって」

鰐を初めて見た感動からか、空のテンションもいつになく高い。
こいしはそれを見て、自信たっぷりの表情でさとりに言った。

「ほらね?地獄巡りも半分を過ぎたくらいでダルくなってきたお客さんも、鰐の客寄せパンダパワーでテンション上がりまくり…」
「だからそういう発言はやめなさいっての!ここもちゃんと温泉の展示があるんだから…」

さとりの背後では、鰐の背中を思わせる緑色の温泉が濛々と蒸気を発している。

「おや?これは旧地獄巡りオーナーの古明地ファミリーさん!!」

ここでも飼育係を雇っているようで、餌入りのバケツを持った少女が姿を現した。
鰐の餌ということで、当然ながらバケツの中身は大量の肉である。

「あ、鰐の飼育係の響子ちゃんだ。あの子も命蓮寺のお弟子さんなんだよ」
「なんか飼育係自身が餌になっちゃいそうな感じね…」

子犬を思わせる小柄な少女に、大きな鰐の飼育係というイメージはなかなか結び付かない。

「おはようございます!!」
「おはようございます!!」

寺で何度か交流があった様子で、こいしは飼育係――幽谷響子に負けない大声で挨拶を返していた。

「響子ちゃんもぬえちゃんと一緒で、お寺で怒られてここでタダ働きしてるんだー」
「……」
「……」

こいしは無垢な瞳でさとりをじっと見ていた。

「…あの子が何をやらかしたか、聞かなきゃだめ?」
「えへへ、お姉ちゃんは優しいなあ」

寺の敷地で勝手に夏フェスを開催し大騒ぎを起こした罰、というのが実情であった。
先程のぬえの話に比べれば幾分マイルドなその経緯に、さとりはなぜか安堵していた。

「響子ちゃん、今から鰐の餌やりタイムかなー?」
「そうですよー!!」

響子の大声が水面を震わせたのに呼応してか、鰐が次々と響子の足元に集まってきた。
響子はそれに臆することなく、嬉しそうに鰐の顔を一匹ずつ見回した。

「ジョーイ、ジョニー、ディーディーにトミー。よし、皆いるね!」

無駄にパンキッシュな名前がついた鰐たちに、響子は肉を与えていく。

「ほら、今日のご飯は地獄ジャイアントモアと地獄エピオルニスのモモ肉だよー」
「そこでも使うんだ…」

こうなると巨鳥が地底のどこにそんなに生息しているのか、ますます気になるさとりであった。
自分が長年暮らしてきたこの地底世界にはまだ見ぬ場所が数多くあり、そこでは地上で姿を消した多くの生物が独自の生態系を築いているのかもしれない。

まさに幻想世界のジオフロントである。

「はい、食事の後は読経の時間!みんなもう覚えたかなー?」

いくら仏門に帰依する妖怪だからと言って、鰐にお経を教えるという行為は少々、常軌を逸してはいないか。

「…聖白蓮音感皆無文化理解度極低婆時代遅音痴無趣味…はい、わたしの後に続けて」
「こいし、あのお寺ではお経にかこつけて住職の悪口を言うのが流行ってるの?」
「どうなんだろうねー」

そして響子は本気で鰐がお経を唱えられると思っているのか――さとりが呆れつつそう思った時だった。


なんと白い鰐たちは声を揃え、響子の後に続けて読経を始めたのである。

「えぇ!?」
「おいおい嘘だろ…鰐が!?」

これにはさとりは勿論、燐と空、こいしも大いに驚いた顔を見せた。

「もう、皆まだまだね!お経のリズムはバッチリだけど、経文間違っちゃってるぞー!!」

そう言いながらも、響子は心底嬉しそうであった。
さとりにも、響子の心からの喜びの声が伝わってくる。

「えへへー、響子ちゃんすごいすごい!」
「あの鰐ども、既に妖怪化が始まっちゃってるんじゃないかね?」
「そうだ!さとり様、地霊殿でも鰐を飼いましょうよ!」

こいしたち三人が響子と鰐たちに拍手喝采を送る一方、さとりは一人身を震わせていた。
鰐たちは単に物覚えが悪くて経文を間違っていたではない。
確かに、本来言葉を発するための形でないその口からは、単に出鱈目な経文が発せられているように聞こえるだろう。

だが、鰐たちの思考を読み、本来唱えようとした経文を覚ったことで、
さとりは彼らが何を思い、響子に従っていたかを正確に理解したのである。

その経文は、概ね以下の内容の繰り返しであった。


『…幽谷響子柔肉新鮮絶対美味食欲増進毎日鳥肉正直飽食響子生肉犬耳尻尾早急給餌切望…』


山地獄の雪女以上に、この場所にあの飼育係を留めておくのは危険だろう。
一刻も早く、寺が設けた懲罰期間が終わることを祈るさとりであった。


<さとりのメモ>

・本当にあの白い鰐も、巨鳥たちも、地底のどこに生息しているのか。
・経文にかこつけた悪口ブームの到来か。
・そのうち鰐共は響子ちゃんに牙を剥いて入れ食い状態(あぁ!)。



【その六 旧白池地獄】



旧白池地獄の温泉は、噴出してきた時点では無色である。
しかし、池に落ち温度と圧力が低下することで青白色を呈し、
今こうしてさとりたちの目の前にあるような、柔らかく濁った温泉を作り出すのだ。

池の周囲にはたくさんの木々が植えられ、その中で池を囲むように順路が伸びている。
巨大な日本庭園を思わせる、静かな場所であった。

「やれやれ…ようやくまた、落ち着いた感じの地獄ね」

温泉の噴出孔から立ち上る湯気もそこまで多くはなく、水面は静かだ。
さとりは先ほどまでの鰐だらけの光景を振り払うように、静かに周囲を見回す。

「ところがぎっちょん、お姉ちゃん」
「やっぱり何かあるの…」

もはや疲労の色さえ、さとりの表情に浮かび始めていた。
何の変哲もない平凡なものでいいから、普通に入浴してリラックスできる温泉が欲しい。
これまで木々に隠されて見えなかったが、順路の先に幾つかの小さな建物が見えた。
まさかもう鰐が出てくるようなことはないだろうが、あの中に何か疲労の種があることは想像に難くない。

「ふおおおっ!?これは!!」

先に建物に入った燐が、その中で驚嘆の声を上げていた。
これまではテンション上がりっぱなしの空を抑えるような役割をしていた彼女が、珍しく騒いでいる。

「ふふ、ここはお燐が一番喜ぶと思ったんだよねー」

楽しげに笑うこいしに手を引かれつつ、さとりはため息をつきながら歩を進めた。



建物の中はそれ程広くなく、照明は薄暗かった。
壁に沿って並んでいるのは、幾つかの水槽。

「あ、さとり様にこいし様!凄いですよこれ!!」

燐が興奮した面持ちで、水槽の中身を指さす。

「魚…かしら?あまり見たことない種類ね」

水槽の中には無数の魚が、一種類ずつ別々の水槽に分けられていた。
いずれもさとりがこれまで見たことがない、珍しい種類の魚である。
これまでの動植物園に対し、この地獄の目玉は水族館というところか。

色とりどり、極彩色…という感じではないが、珍しい形の魚が悠々と泳ぐ姿は、見ていて癒される。
おそらくは温泉の高温を利用し、先程の鰐同様、熱帯の魚を飼育しているのだろう。

雪女の監禁風景や、一斉に念仏を唱える鰐を見てきたさとりには、こんな癒し系の光景がひどく愛しいものに思えた。
燐がこうして喜んでいるのも、きっとそんな――

「生け簀がある温泉なんて高級旅館みたいですよねぇ~…板前さんはどこかなぁ」

――ほっこりするような理由があるということはなかった。

「いっつも死体死体言ってるから忘れてたけど…そういえば猫だったわね」
「お空知ってる?ピラニアって食べれるんだよ!どんな味するんだろうねぇ~」

まるでトランペットに憧れる黒人少年のように目を輝かせ、燐は水槽のガラスに額をくっつけていた。
ちなみに実際の水族館で無闇にガラスを触ってはいけない。手であろうと額であろうとそれは同じだ。

しかしお燐の行為はそれ以上に、水族館でのご法度だ。
いかに猫と言えど、水族館の水槽で泳ぐ魚に対し「美味しそう」発言はマナー違反。
大きなミズダコを見て思わず生ダコの握りが脳裏をかすめても、決して周囲の客に聞こえる声でそれを口にしてはならない。

「ほらお燐、涎出てるし…お魚は後で買ってあげるから」

燐の首根っこを掴むと、さとりは建物を出て順路に立った。…が、すぐに次の水族館が現れた。

「こっちは大きな魚がいる特別室だよ」
「…まあ、逆にそういう見た目にパンチ効いてる方がいいかもね」

しかし部屋に入ってすぐ、さとりはその発言を後悔した。


「あ、いらっしゃい!ちょっと待ってね、今捌いちゃうから!!」


確かにそこにはパンチが効いた大きな魚がいたが、既にその命は風前の灯だった。
板前姿の妖怪が包丁を構え、今まさにその喉笛を掻き切ろうとしていたのである。

「えぇー…本当に生け簀だったの…」

背中に一対の翼を持つその妖怪は慣れた手つきでその大きな魚をさばいていく。
同様の外見をした魚が傍らの水槽で泳いでおり、まな板の上の個体も元はそこにいたのだろう。
おそらくマグロの解体ショーのような余興なのだろうが、肝心の魚はマグロと比べるとグロテスクだ。

まるで先史時代の原始的な魚類のような、ある種不気味な外形をした魚であった。

「旧・鬼山地獄の響子ちゃんの相棒、鰻屋のミスティアさんだよ!」
「えへへ、古明地さんにはいつもご贔屓にしていただいてます!!」

古代魚を思わせるその魚はどう見ても鰻ではないのだが、ミスティアの手つきは鮮やかだ。
燐は最早言葉を発することすら忘れ、まな板の上で解体される魚を見ながら涎を滝のように流している。

そう言えばこいしが地上に行く度に飲みに行っている屋台が、夜雀の鰻屋であったか。
鰻であれば産地も魚種も問わず、最近では鰻でも何でもない奇怪な魚を出すことで有名だとかなんとか。

「待っててね、ピラルクの身は本当に白身魚のキング・オブ・キングスで…」
「さささささとり様ぁっ!聞きましたか!?ピラルクですよ、ピラルク!!」

先程の雪女がビールを飲んだ時以上にキマりきった表情で燐が叫んだ。
おそらく今、燐の下着がしとどに濡れていると言われればさとりは躊躇なくそれを信じるだろう。
こいついっそのことグルメ本でも出せばいいんじゃないだろうか。

結局、その場でミスティアがピラルクをさばき、南蛮漬けや天麩羅、ムニエルが出てくるまでそこにいることになった。
味としては悪くなく、淡白で食べやすいものだったが、さとりが抱いた感想としては、

『別にこれなら他のメジャーな白身魚を使ってもあんまり変わらないんじゃないか』

というものであった。しかしそんなことを口にすると、感動のあまり涙している燐に喉笛を噛み千切られそうなのでやめた。
飼っている化け猫の前で失言をするというのは、古来より昔話における典型的な死亡フラグの一つだ。
とはいえ、そろそろ長時間の地獄巡りで空腹を覚えていたのか、空とこいしも満足げにミスティアの魚料理を口にしていた。

淡白な白身魚の料理というものは、時折やたらと食べたくなるものである。
海がない幻想郷ではイワナやニジマスといった川魚を食べることが多いが、
海水魚や、このピラルクのような異国の大型淡水魚には、それらとは違った味わいがある。

ともすれば酒や米がなくても存分に食が進む独特の食感は、何物にも代え難い。
敢えて何か酒を合わせるのであれば――やや辛口の、白ワインだろうか。

白池地獄、白身魚、白ワイン…頭の中に幾つもの白い何かを浮かべつつ、さとりはピラルク用の特別室を後にした。


<さとりのメモ>

・白身魚の魅力は淡白さだが、脂が乗っていて柔らかい白身魚も美味しい。からすがれいとかね。
・上品にムニエルなど作るならば白ワインだが、いっそフィッシュ&チップスをビールでいただくジャンキーな感じも魅力。
・…と、お燐が力説していた。



【その七 旧血の池地獄】



白とくれば紅というのは何も幻想郷の巫女に限った話ではなく、
この旧地獄巡りにおいても白池に次いで現れたのは、目に鮮やかな紅の温泉であった。
煮えたぎる粘土は実際の血液より幾分か紅色が薄いが、蒸気までも紅く染まったその光景は地獄絵図の血の池に匹敵する迫力を持っている。

「名前を聞いたときは嫌な予感がしたけど、ちゃんと土の色で染まっているのね」
「さすがに本物の血を使うと臭いがすごいからねー」

どこか斜め上の理由を説明するこいしへのツッコミを、さとりは既に放棄していた。
妹の思考を理解する労力より、経緯はどうあれ無難となった結果を喜ぶ努力の方が容易い。

「ここには魚はいないんですかい?」
「温泉卵はー?」

ペット二匹の食欲は留まるところを知らないようである。

「食べ物はないけど、ここでは粘土から作ったお薬を売ってるんだよ」

こいしの指さす先には「旧血の池軟膏」と書かれた看板を掲げた、小さな売店があった。
売店と言っても、小屋にカウンターを設けただけの簡素なもので、中には一羽の妖怪兎がいるだけである。

「旧…血の池…軟膏?」
「この泥に含まれてる成分に殺菌力があるんだって」

皮膚病に効くんだよ、と言うこいしに連れられ、さとりたちは兎が待つ売店へ向かった。



売店には、確かに目玉の商品として温泉同様に紅色の軟膏が売られていた。

「いらっしゃいませ。永遠亭謹製の『旧血の池軟膏』ですよ」

やはり実際に販売されている商品をネタにする上では「旧」の一字がますます大事なのだろう。
この妖怪兎の胸中からも「名前間違えんなよ」という思考が絶え間なく流れ込んでいる。

「永遠亭って、確か地上で有名なあの…」

さとりも、地上へ出ていった妖怪連中の話でその名を耳にしたことがあった。
迷いの竹林の奥に、あらゆる種類の薬を揃えた古式ゆかしい屋敷があるというが、確かその名前が永遠亭。
多くの兎と、人体模型のようなファッションの薬師、好事家のお姫様がいるとかなんとか。

「はい。うちのお師匠様が特別に調合したこの軟膏で、どんな皮膚病も完治させます」

妖怪兎は少々声に張りがないが礼儀正しく、真面目そうな少女であった。
さとりがこれまで目にした妖獣の中には、元は兎だった者も多くいたが、目の前の妖怪兎はそれらとはあまり似ていない。
同じ種族であるかどうかも疑わしいが、最近兎にはかなり多様な種類がいることを聞いた。
恐らく目の前にいる一羽も、そうした兎のバリエーションの中の一つなのだろう。

「お燐、この薬屋さん本当に兎なのかな?」
「なんか心がぴょんぴょんしないねぇ」

核エネルギーを発する烏と耳が四つある猫が、自分たちのことを棚に上げて失礼なことを口走っている。
ひとまずさとりは二人の失礼を薬屋の兎に詫びると、見本として置かれた軟膏の容器を一つ、手に取った。

どうやら貝殻を洗って容器として使用しているようである。

「この軟膏が、皮膚の病気に効くの?」
「それはもう。にきびやあかぎれといったよくある症状は勿論、ガタノトーアに石化された皮膚もたちまち元通り」

邪神の石化能力を皮膚病で片づけるこの薬屋は何者なのだろうか。
何か名状しがたい、宇宙的恐怖に似た何かを感じたさとりは、慄然たる表情で軟膏を見つめた。

「ゾンビやキョンシーにぶつけると一撃で退治できますよ」
「それだけすごい回復力って言いたいのね」

ひとまずさとりは兎の思考を読み取り、発言の意図を察した。
どうもこの兎、セールストークにはあまり向いていないようだ。

だがフェニックスの尾に近い効能を持つということであれば、余程よく効くくすりなのだろう。
値段も手ごろだし、これは観光客向けのお土産としてなかなかにポイントが高いかもしれない。

温泉に噴出する熱泥を使用した天然由来の成分も注目すべきポイントである。
さて、地上の有名な薬師が調合したというその内容はというと、


◆成分◆

旧・血の池地獄の鉱泥 8g
硫黄 4g
もこたん 4g
すっごい滑るワセリン 6g


「…ちょっといいかしら?」
「はい、何でしょう」

薬袋の裏に書かれた成分表示にただならぬ違和感を覚えたさとりは、兎に問いかけた。

「この『もこたん』って何?『モクタール』の誤表記とか?」
「あっはっは、御冗談を。そんな『プティパ』と『ぶっちっぱ』じゃないんですから」

ここに来て妖怪兎は表情を崩した。
ルックスは正統派美少女といった感じの少女の、可愛らしい笑顔であった。

「『もこたん』はこの薬の仙豆並の回復力の肝と言うべき成分ですよ」
「え、これリアルにそんなすごい薬なの…」
「お姉ちゃん、これは本当にすごいよ。にきびが一瞬で治ったんだよ」

こいしが色白な頬の一点を指さして見せる。
確かにそこにはにきびの一つはおろかその痕跡すらもなく、こいしの外見年齢以上の張りとツヤが見て取れる。

「塗ってるときは焼けるように熱くて奇妙なダンスを踊りそうになるけど」
「拷問か何か…?」
「薬が肌になじんでくると熱さは消えて、にきびもシミもソバカスも消えてるんだよ」

元々こいしにはにきびはともかく、シミやソバカスはなかったとさとりは思うが。
勿論自分の肌にもそうしたお手入れ不足な箇所はない。

「うーん…論より証拠、案ずるよりやすしきよしと言いますし」

薬に対し胡散臭さを覚え始めたさとりの心情を察したのか、兎は見本の薬を指先に少し取り、言った。

「いかがでしょうか。どこかお肌で気になる箇所に塗ってみましょう」
「いや、熱いのは嫌なんだけど…あと『生むがやすし』ね」

まず「もこたん」なる成分が何なのかも説明してほしい。
ついでにすっごい滑るワセリンがどこから入手したものなのか、総合格闘技ブームは再び来る可能性があるのか、もだ。

さとりの鼻先(特に気になる箇所はない。ないはずだ)に軟膏を半ば無理矢理に突きつけた兎だったが、不意にさとりの背後に視線を向けると、顔をしかめた。

(…くそっ、また出やがったわね…)

心中で舌打ちする音が聞こえそうな、そんな苦々しい感情が見えた。
軟膏を突きつける手が止まったのを幸いにさとりが振り向くと、そこにいたのはよく見た「もの」の群れ。

「…怨霊ね」
「あー。ここはリアルの地獄にも結構近い見た目してるしねー」

過去に地底の焦熱地獄から温泉が湧いた際、一緒に大量に湧き出した怨霊。
それは今も地底のあちこちで出現するが、これは人間にとり憑いて争わせたり、
精神が弱い妖怪に憑依してその人格を乗っ取ったりするなど、色々と性質が悪い存在である。

かつて温泉と怨霊を大量に地上へ放った原因…の飼い主であるさとりだが、こと怨霊に関しては、普段の傲岸不遜な態度を少し改める…という程度には、罪悪感を覚えてはいる。

肝心の張本人たち二人が今どれくらい罪悪感を覚えているかは疑わしいところだが。
とにかく、その怨霊がいつの間に、血の池の周囲にわらわらと群がっているのだった。

「しばしお待ちくださいね」

妖怪兎はカウンターの後ろから出てくると、怨霊たちの中心に歩みを進めた。

「ちょっと、危ないわよ」
「ご心配なく」

人間にしてみれば、憑依されない限り単なる弱い幽霊でしかない怨霊も、妖怪にとっては精神や存在を丸ごと奪われかねない、危険な存在である。
その思念を読んだ限り、この兎のメンタルはそれ程(寂しさで死ぬことがない程度には)弱くないとはいえ、
どうも過去に強烈なトラウマを抱えており、怨霊にとり憑かれた際のダメージは大きくなる可能性が高い。
しかし兎は自信満々の表情で、怨霊の群れに対峙した。
その存在に気付いたか、怨霊がじりじりと彼女を囲み四方から集まってくる。
燐と空も兎の無防備な態度を心配し始めているのがわかったが、次の瞬間。

「消えなさい」

兎がその呟きと共に手元から放った何かが当たった瞬間、一匹の怨霊が蒸発するようにかき消えた。

「…え?」

呆気にとられるさとりの目の前で、怨霊が一匹また一匹と消えていく。
兎はその間も怨霊に向けて弾(?)の投擲を続けている。
まさに弾幕のごとく集まった怨霊が、いつしか霊撃を撃った直後のようにいなくなっていた。

周囲の怨霊が全て消えたことを確認すると、兎はさとりたちの元へ戻ってきた。

「いかがでしょうか?相手がアンデッド系ならまさに一撃必殺」
「本当にフェニックスの尾なのね…」


妖怪兎が怨霊に向けて投げていたのは、案の定店先から持ち出した軟膏であった。


<さとりのメモ>

・怨霊を消滅させる成分は「もこたん」もしくは「すっごい滑るワセリン」らしい。
・紅い鉱泥以外の成分の入手方法はそもそも不明。
・わたしの肌にはシミもソバカスもにきびもない。これだけははっきりと真実を伝えたかった。



【その八 旧龍巻地獄】



アンデッド系のモンスターを瞬殺するという、ある意味説得力抜群な効能の保証をされても、
どうにもあの軟膏を買う気になれなかったさとりは、結局手ぶらで旧血の池地獄を後にした。
百歩譲ってワセリンは許容しても、あの「もこたん」なる成分は得体が知れない。
あの兎を問い詰めれば、口を割らないまでも、その答えを「視る」ことはできたのかもしれない。
が、それはそれで面倒な光景が第三の目に入ってきそうなので、やめた。

さとりの能力も「目」によるものである以上、視線を背けたり、瞼を閉じることもあるということだ。

「今度お姉ちゃんの水虫にも塗ってあげるね」
「まるでわたしに水虫があるのが前提のような言い方はやめなさい」

勿論さとりは生まれてこの方、足の指の間が痒くなったことなどない。
しかしこれも案の定というべきか、こいしはしっかりとあの軟膏を購入していた。
まあ怨霊対策に食糧庫にでも置いておけばいいだろうと思った。ホウ酸団子か。

次なる地獄は八番目、つまりこの地獄巡りの最後の見どころである。

「旧龍巻地獄」

そう書かれた看板が立っている場所は、さとりたちにとっても馴染みが深い場所であった。

「ここって…」
「焦熱地獄ですね…昔の」

それはかつて空が神の力を手にした場所であり、地上へ繋がる温泉が最初に湧いた場所。
かつて現役の地獄だったころには、八大地獄の一つとしてその名を馳せた場所でもある。
そこが今度は、観光名所の温泉の「地獄」の大トリとして、新たな名前を得ていた。

「ここは間欠泉が湧く場所なんだよ」

こいしの無意識な視線が何を見ているか、それは相変わらずわからない。
さすがに空と燐は気まずそうな顔で、こいしから視線をずらしている。

空は己の強大な力に酔い、焦熱地獄を再燃させ地上に温泉と、封印された妖怪たちを解き放った。
燐は空の身を案じ行動したまではよかったが、さとりに黙って怨霊を地上に放った。

常々二人にはあの異変の出来事を反省するように、と言って聞かせていたさとりだが、
今この場で二人の心の内を覗き見ることは、少々躊躇われた。

「といっても、地上の発電エネルギーにしてる奴とは別」

看板を通り過ぎ、こいしはかつての焦熱地獄の熱さに怯むことなく、奥へと進んだ。

三人が後に続く。

噴き出す間欠泉を天に昇る龍にたとえてこの名前になった、とこいしが説明した。
じゃあ「巻」は?と空が説明したところ、こいしは何も言わなかった。

焦熱地獄の一角に、石で囲まれた空間があった。
そこは地上へ続く縦穴の途中であり、空が発生させた間欠泉も、このあたりの地中を通っていたはずである。

「…間欠泉は地上から噴き出しているのでしょう?」
「殆どはね。でも、ここの奴は地底の時点で既に、地面に噴き出してるの」

つまり、さとりたちが今立っている地面のさらに下、地底よりもさらに深い地底から噴き出す間欠泉があるのだ。

「お空がここから地上へ間欠泉を湧かせた時に、下からの間欠泉の通り道も広くなったのね」

こいしはこの場所を発見したことが、この旧地獄巡りを思いついた切っ掛けであったという。

「それが、この石で囲まれた所なんですか?」
「そうだよ。今はちょうど、間欠泉が出てない時間帯みたいだけどね」

間欠泉の噴出孔の前には幾つかのベンチが置かれており、観客席の形で並べられていた。
ここで観光客に間欠泉を見せるためなのだろう。
さとりたち四人はベンチに並んで座り、湯気の一つも立てない噴出孔に視線を注いだ。

周囲の温度は相変わらず高いが、これまでの騒々しい地獄に比べると、今のこの場所は幾分か静かであった。
燐と空、こいしも歩き疲れたのか、背もたれに体重を預けるようにして椅子に腰かけ、何も言わない。

さとりはこれまでに巡って来た七つの地獄を一つずつ思い返しながら、なぜ、こいしが急に旧地獄の観光地化などを思いついたか、考えていた。

なまじ他者の心の内が簡単に読み取れてしまう能力など持ってしまったばかりに、その能力が通じない相手となると、その気持ちを漠然と察するだけでも一苦労だ。たった一人の妹だというのに。
色々と特殊な事情でこんな状態になってしまった妹だからこその苦労も、さとりにはあるはずなのだが。

単純にこいしが発してきた言葉だけを振り返ってみる。

確かに、今や閻魔も獄卒もいない旧地獄は、ただのならず者や怨霊の巣窟だ。
そうした存在の中にも、地上との行き来が部分的に解禁されたことで、これまでとは違う居場所を持ち始めた者もいる。
放っておけば旧地獄には、本当に誰もいなくなってしまうかもしれない。

嫌われ者の自分がペットと共にひっそり暮らすには、そんな環境も悪くないかとさとりは思う。
が、地上をあちこち彷徨い、多くの妖怪や人間、宗教家たちと出会ったこいしは、姉とは違う意見を持ったのかもしれない。
心の目を自ら閉ざし、感情や人格があるのかないのかもわからない無意識の存在になった妹は、
地上からやってきた人間や神に興味を持って以来、さとりがこれまで見たことがないような顔をすることが多くなった。
さとりが知らない妖怪が、妹の顔や名前を覚えているのを見たのは一度や二度ではない。

「もうすぐだよ、お姉ちゃん」

楽しそうに間欠泉の噴出を待つ妹は、そうした「変化」にさとりや燐、空を巻き込もうとしたのか。
いや、燐や空は既に、こいしとは別の場所で自ら変わっていったのかもしれない。
燐は紅白の巫女の神社に時折顔を出しているようだし、空はたまに思い出したように、知らない神の名前を口にする。

寂れゆく旧地獄と共に、自らも過去の遺物になるのも悪くはない――時折そんな思いにとらわれたさとりの心を、
第三の目を閉じたはずの妹は、それこそ無意識に察し、それに警告を鳴らしてくれたのだろうか。

今日一日だけで、自分は何人の妖怪と言葉を交わしただろう。
一体どれだけ、多くの新しいものを目にしたのだろうか。

「楽しみですね、さとり様!」
「あんたはもちっとしおらしくしてろっての」

そして今、燐と空は自分の隣で、また新しい何かがここで始まる期待に目を輝かせている。
自分は、古明地さとりは、どうなのか。
長い時間を過ごした場所が、人や妖怪やその他色々な存在でごった返す極彩色の地獄巡りへ変わっていく光景。
季節の移ろいなど超越したその急激な変化を、自分は結局、どんな気持ちで見ているのだろう。

「…こいし」

自分の感情はどの目にも映らないのだな、などと当然のことを思いながら、さとりは言った。
妹の見よう見まねで、特に何も考えず。
無意識に、なんとなく頭か、心か、とにかく浮かび上がってきた言葉を、口に出してみた。


「…嫌いじゃないわよ、こういうのは」


さとりがそう口にした次の瞬間、噴出孔から水の柱が立ち昇った。

最初、噴出孔から数メートルの高さまで伸びた柱は崩れ、その後にさらに長い柱が生えてくる。
それを何度か繰り返しながら、柱は次第に長さと太さを増していく。

やがて、まるで細いながらも急流の滝が逆立ちをしたかのような、途轍もなく長く太い水の柱ができた。

勿論それは焦熱地獄の底の、さらにその下の地熱で温められた高温の水である。
温泉特有の湯気をその根本から放ちつつ、地上へ届こうかという勢いで噴き出し続けていた。

「嫌いじゃない、かー」
「不満?」

こいしは何も答えなかったが、さとりがもう少し驚くことを期待したようだった。
横で目を丸くして間欠泉を見つめている燐と空のように。

「これでも結構、感動してるわよ」

今や間欠泉の頂点は肉眼で見えないほど高くまで、地上への縦穴を昇っていた。
これを間近で見るというのは、滅多にできない経験だろう。
自然が(大元の原因は不自然だとしても)作り出すシンプルで圧倒的すぎるパワーの顕現ともいうべきものが、そこにあった。

鬼や閻魔が作る地獄も、地上と地底の隔たりも、妖怪同士の嫌う嫌われるの関係もちっぽけに思える。
心をそのまま天高くまで飛び出させてくれるかのような水柱は、確かにさとりの心を動かしていた。

自分ももう少しシンプルに、考えてみるべきなのかもしれない。

元来の引きこもり、人嫌いといった自分の性質と矛盾していても、妹の提案が「嫌いじゃない」と思えたのならば、少しそれに乗っかって、できるようなら楽しんでみる。
そんな風に、温泉宿どころか風呂でさえないこの不思議な温泉観光を許してみるのもいい。

そんなことを思いながら、地上へ伸びる水の柱の頂へ目を向けた。

「ねえお燐、あれ…」

鳥頭だが目は良い空が何かを見つけ、指をさす。
何か面白いものを見つけたのか、燐の袖をしきりに引き、水柱の一部に目を向けさせていた。
必然的にさとりもその指さす先を見るのだが――そこに、先ほどまでの気分を台無しにする光景があった。


「おはようございます!みすちー、そっちに追い込んで!!おはようございます!」


水柱の上部の周囲に響子とミスティアが浮かび、水の中の何かを攻撃していた。

「おはようございます!」

響子が大声でそう言うたび、水の中へ振動――というより衝撃が伝わる。
その衝撃に驚いた「何か」が水柱から顔を出した瞬間を狙い、ミスティアが竹串を打ち込んでいた。
竹串は深く刺さっていないにも関わらず、打ち込まれた「それ」は水柱から飛び出し、下に落ちていく。

何匹もの、大きな魚であった。

釣った魚の神経に針を打ち込み、生きた状態で動きを止める「ノッキング」という手法を、さとりは聞いたことがある。
無論、それを竹串で行う漁師など見たことも聞いたこともないが。

魚は全て、間欠泉の周囲に張り巡らされた網の上に落ち、地面で潰れることなく受け止められる。
あっと言う間に、網の上に動かない魚が群れを成すこととなった。

「あれって、さっき食べたお魚だよね?」

そう、響子が大声の振動で追い込み、ミスティアが竹串の一撃で動きを止めているものとは、先程旧白池地獄で振る舞われたピラルクであった。
間欠泉と共に噴出孔から飛び出し、まさに鯉が滝を登るように泳ぐそれらを、二人は生け捕りにしているのだ。
先程こいしがミスティアを「響子の相棒」と称していたが、その実態はこうしたものであったのか。

「…こいし。あの魚、間欠泉の中で生きてたの…?」
「そうだよ。『地獄ピラルク』だって。暑い地方の個体はマグマの中でも活動できるとかで」
「うん、もういいわ」

再び襲ってきた頭痛に顔をしかめつつ、さとりは再び地獄ピラルク漁の光景に目を向けた。
もう十分な量を漁獲し終えたのか、響子とミスティアは網の上に降り立ち、獲物を地面に置いたリヤカーの上に運んでいた。
その手際は鮮やかで、二人はまさに阿吽の呼吸で次々と魚を車に積んでいく。

その手際の良さに空が手を叩き、満腹のはずの燐はピラルクの山に吸い寄せられるように足を一歩踏み出した。
ひとまず燐の首根っこを?まえつつ、さとりはこいしに尋ねた。

「ねえ、まさか今まで見てきた幻想郷にいるはずない動物の群れは…」
「さすがお姉ちゃん」

こいしが再び、間欠泉の噴出孔を指さした。
こうして会話している間も水柱はその太さを増しており、その中を滝登りする影も大きさを増していた。
ピラルクよりも大きな身体と、白い鱗を持つ生物にはさとりも見覚えがあった。

「あっ!みすちー、麻酔銃麻酔銃!!」
「ほいきた響子!」

さすがに大声と竹串のノッキングでは鰐を仕留めるのは難しいのか、
二人はどこからともなく麻酔銃を取り出し、再び水柱の上部へと飛び上がった。
そのまま間欠泉を地上に向かって泳ぐ白い影に向かって銃を乱射し、先ほどのピラルクの用に網の上に獲物を落としていく。

「『地獄ホワイトクロコダイル』は普段は地下の温泉の中で地獄ピラルクを食べて生きてるんだよ」

そして地底の地獄巡りでは山彦を食べようとしているのか。

「お、こいつはジャケット向きだね!いい鱗してるじゃん!!」
「やった!次回のステージ衣装ゲット!」

そして山彦とその相方も、ある意味鰐を食い物にしているようであった。
最近旧都の商店街で革ジャンがやたらと流行しているのは、まさかそういうことなのだろうか。

響子とミスティアはどこにそんな力があるのか、ピラルクだらけのリヤカーにさらに鰐を積んで去って行った。
最早彼女たちの本業が何なのかさとりにはよくわからなかったが、一つだけわかったことがある。
あの旧鬼山地獄の鰐たちは上手に焼かれることも、剥がれて装備にされることも免れた幸せな連中なのだろう。


<さとりのメモ>

・あのハンターコンビがいないと、地上にピラルクや白い鰐が溢れかえってしまうのか。
・鰐と山彦、食いつ食われつの関係っていいっスね。
・それにしても、大きな鳥の卵や肉はどこから来るのだろうか。


※ ※ ※


さとりたちは八つの地獄を巡り、地霊殿へと戻って来た。
実際には近所をぐるりと回った程度の距離なのだが、なんだか随分と長い旅をしてきたように感じる。

「で、どう?お姉ちゃん」

こいしは期待に満ちた目で、さとりに感想を求めてきた。

「うーん、結構人を選ぶ方向性に見えるんだけどね…」

地底は忌み嫌われた妖怪が棲む魔窟だが、あそこまでの混沌が常在する場所では断じてない。
娯楽施設としては、確かに八者八様の飽きさせない演出で観光客を惹きつけるのかもしれない。
しかし雪女の監禁や、ただの陰口と化した経文などが地上の連中に知れると、間違いなく面倒なことになる。

「えー、面白いじゃないですかぁ」
「あたいもこの旧地獄巡りは当たると踏んでますよ!!」

空と燐もすっかり乗り気になっている。
この二人はどの地獄も能天気に、無責任に楽しんでいたから当然だ。
エピオルニスの温泉卵プリンやピラルクのフィッシュ&チップスが売られる光景を想像しているあたり、
完全に自分たちが観光客の目線になっている様子だ。二人とも地霊殿のペットなのに。

「まあ、わたしも何だかんだで楽しんだ…のかしら?」

やたらと疲れたが、退屈だけはしなかった。
曲者ぞろいの幻想郷においては、こうした観光施設がウケるようなこともあるのではないか、という考えもさとりにはある。
決してこの地獄巡りが優良な観光物件だと思っているわけではなく、こういう人を食ったような演出を好むような手合いがいるのが幻想郷だ、という解釈である。

「そうだよ!それに、ご当地アピールには欠かせない、流行りのポイントも押さえてあるんだからね!」
「流行り…?」

妹がまだ何か隠していたのか、と頭が重くなるさとりの背後で、不意にノックの音が響いた。

「あれ、お客さんかしら?」

空が部屋のドアを開けると、そこにはさとりも何度か見たことのある顔があった。

「紹介するね!彼女たちこそ、旧地獄巡りの幻想郷中へのPRを担当してくれるご当地アイドル!」

最近はローカルアイドル、略してろこどるなどという言葉もあるらしい。
こいしが言うにはこの二人がそれに該当するということだろう。


「紫です♪」
「かにゃこ…え、あの、神奈子、です…」


一人噛んだ。が、そんなことはどうでもよかった。

「四十肩・五十肩に悩む中高年を温泉の血行促進作用で救う、その名も『上がれ肩ガールズ』だよ!」
「…なんかこの人たちが既に四十肩に悩んでそうなんだけど」

さとりがさらに二週間近く寝たきりの生活を余儀なくされたのは言うまでもない。





傘と御柱で百叩きにされたダメージからさとりが回復するまでの間に、地底の新名所「旧地獄巡り」は観光スポットとしてそれなりの盛況を見せた。

地上・地底問わず幻想郷の住人の多くが個性豊かな地獄を楽しみ、あちこちで温泉卵や魚料理に舌鼓を打つ姿が見られた。

お土産としては旧・地獄巡りのマスコットとして、ゆるキャラの「秦心(はたごころ)くん」が人気を博し、
枕元に置いておくと寝ている間に感情を吸われると噂のぬいぐるみを中心にキャラグッズが大ヒット。
旧血の池軟膏に並ぶ売り上げを記録し、各地獄の運営資金を支えることとなった。


また、いつの頃からか旧・血の池地獄に関して不思議な噂が囁かれるようになった。


曰く、調理後に残った地獄ピラルクや地獄ジャイアントモアの骨を投げ入れると、炎の中でそれらが新たな命を得て蘇る。

曰く、血の池の中心部から、真夜中に不死鳥が飛び立つ姿を見た。

曰く、血の池の底には地底遺跡があり、その最奥部に封印された者が死せる肉体の復活を夢見るままに待っている。

曰く、血の池の「主」の封印が破られた際の防衛システムとして、秦心くんが極秘裏に量産されている。


そうした都市伝説めいた噂も魅力となり、今日も旧地獄巡りには多くの客が訪れる。
中には年間パスポートを購入する熱心なリピーターもいるという話には、さとりも大いに驚いた。
というか、こいしは年間パスポートなんか作っていたのか。

「…確かに、そんなもんを高い金出して買う奴の気は知れないね」

奇妙な噂のせいで八大地獄の中では一番人気の血の池の傍で、さとりは一人の客と話をしていた。

「でも、あなたはその年間パスポートを持っているんでしょう?」
「貰ったんだよ」

その客はぼんやりと、赤い水面を見つめながら言った。

「この場所の観光計画化に協力した連中は全員、特典とやらでそのパスポートを貰ってる」
「ほう…では、勇儀さんや、あのお寺の住職も…」
「だろうね」

さとりはその客と顔を合わせたのは本日が初めてであった。

「秦心くんの中に入ってる付喪神なんか、年パスでカードデッキが組めるような枚数を貰ってたよ」

そんなに貰ってどうするのだろう。
余ったからといって闇雲に配られでもしたら、それはそれで商売にならない。

「…それで、あなたはどの地獄の開発に参加をされたのですか?」
「さてね」

その目で見てみたら、とその客はさとりの第三の目を指さした。
一応はこの観光スポットの責任者として、客に対する礼儀として背けていたその目が、反射的に客の心を「見て」しまう。


「あっ…!」


さとりは思わず声を上げた。
そのリアクションに満足したのか、客は少し笑ってその場を歩き去った。

「薬屋には、金を貰える約束になっているからね」

背後のさとりに向けてひらひらと手を振りつつ、血のように赤いもんぺを穿いた客の少女は言う。
銀色の髪が、薄赤い蒸気の中を踊るように揺れていた。


「その血の池の赤色が薄くなった頃に、また来るよ」


カードショップが開けるほどの年間パスポートを首から下げ、少女は観光客でごった返す順路へと消えていった。
旧地獄巡りPRマスコット 地霊殿公認ゆるキャラ『秦心くん』

・全身ピンク色の丸っこいフォルムが特徴的。
・一筆書きの落書きのようなシンプルなデザインだが、
背中には旧地獄名物「地獄ピラルク」を背負っており常時魚臭い。
・武器は大ぶりの薙刀。地獄エピオルニスや地獄ジャイアントモアを狩るのに使う。
・「みんなに笑顔でいて欲しい」と常に願っている。
・人間の感情を食べて生きている。特に子どもの喜びの感情が大好物。
・感情を食われた人間は抜け殻となり、新たな秦心くんと化して旧地獄を徘徊するようになる。
・座右の銘は「苦肉ノ計」であり、胸にその名札のようにその四文字が貼り付けられている。

パンチ力:八十トン
キック力:百トン
ジャンプ力:一跳び九十メートル
走力:百メートル一秒

~~~~おまけと後書きの境界~~~~

ここまでお読みいただきありがとうございました。
お楽しみいただけましたら幸いです。

エピオルニスとジャイアントモアは既に絶滅してしまった大きな鳥です。
恐竜や大型哺乳類の陰に隠れがちですが、調べてみると面白い鳥が地球にはたくさんいたことがわかります。
ぐい井戸・御簾田
http://tobihazer.web.fc2.com/
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コメント



0.380簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
マスコットの中身は舞が得意な奴か
4.90名前が無い程度の能力削除
なんかもこたんだけ凄い良い人に見えるな…
文字通り来る日も来る日も血のションベンと血ヘド吐きながら仕事したんだろう
ゆるキャラ怖すぎだろ
地霊殿の必勝パターンのヤバさもボラホーンの比じゃないし
ぬえの仕置き過剰と今尚尻痛で笑った
5.90奇声を発する程度の能力削除
笑えて面白かったです
7.70金細工師削除
念仏の件でワロタ
10.100名前が無い程度の能力削除
ダーティーなネタをぶち込みつつも、最後はキレイに〆る……素敵だわ。
11.100haruka削除
相変わらずのネタの嵐、楽しませて頂きました。
続きも期待
15.100名前が無い程度の能力削除
(鰐が)すっげえ白くなってる、はっきりわかんだね。
念仏やらノッキングやらネタが沢山多くて楽しめました。