メリーは物を集めるのが趣味である。
集めるものの基準はイマイチ分からないが、彼女からしたら何か明確な取捨選択の線引きがあるものと思われる。
メリーのコレクションを列挙すると、信楽焼の狸、大きな歯車や螺子、綺麗な水晶玉、拳大の達磨、謎の洋書、ブリキ人形、吸いもしない煙管、外国のコイン、動かないカメラ、何かの骨、仏像、地球儀、銀のペーパーナイフ、卒塔婆、豚の貯金箱、古いタロットカード、作者未詳の静物画、金魚鉢を模した風鈴などがある。
これらてんでバラバラな物たちが彼女の下宿先の一室に押し込められ、ひしめき合っている。それはさながら物の万国博覧会といったふうであった。
ある日、その窮屈な博覧会の中でメリーと話していると、彼女が「ねぇこれを見てよ」と言ってコレクションの中から何かを持ち出してきた。それはやけに古びた手鏡であった。
メリーが言うには、ある日ぶらぶら散歩をしていると、どこかで見たことのあるような金髪の美女と出会い、仲良くなった。その人が別れ際にこの鏡をくれた。名前を「紫の鏡」というらしい。くれる際、「この鏡をずっと持っていちゃ駄目よ。いつか誰かに渡してあげてね」と妙な忠告をされた。
「これは見た人の未来を映し出す鏡なのよ、その人がそう言っていたわ」
メリーは胸を張って言った。彼女の豊かな胸が強調されて怪しからんことになっている。
「未来を映す? これはまた胡散臭いものが出てきたわねぇ。 ねえメリー、ヘンテコなものを集めるのはいいんだけど騙されちゃあ駄目よ」
「失礼ね、私はちゃんと自分の目で見たものしか手元に残さないわ。これは本物よ」
私が疑い深く鏡を見ていると、メリーは自信ありげにそう言った。そして「実際に見てみればよく分かるわ」と言いながら、私にその妙な鏡を持たせた。
「本当かなぁ」と疑い半分に鏡を覗いたら、不思議なことに未来の私が写っていた。未来の私は多くの書類や書籍に囲まれながら、一心不乱に何かを調べているように見える。その顔は自分でも怖くなるほど必死で、何やら不気味で嫌な感じである。未来の私は一体何を探しているのだろうか。
黙って鏡を見続ける私を見かねてメリーが話しかけてきた。
「ねえ蓮子、何か見えた?」
「見えたわよ、未来の私が。信じられないけどこの鏡は本物みたいね」
私はメリーに鏡を返した。するとメリーは「おかしいわね」と言って首をかしげた。
「何が不思議なのよ」
「いや、この鏡は確かに変なんだけど、私が見ても未来なんて映らなかったわ。おかしな鏡だねって蓮子と笑おうと思って持ってきたんだけど」
「メリーには何が見えたのよ」
私は尋ねた。メリーはなんでもないように「ただ一面の真っ暗闇よ」と言った。
その日から数日後、秘封倶楽部の活動中にメリーはいなくなった。彼女は私を置いてどこかに行ってしまった。
何か手がかりがないかと思って彼女のコレクションを調べていると、妙なことに気がついた。
あの「紫の鏡」だけがない。なくなっている。
それでふとメリーの言っていたことを思い出した。メリーの、マエリベリー・ハーンの未来は、ただ一面の真っ暗闇である。
集めるものの基準はイマイチ分からないが、彼女からしたら何か明確な取捨選択の線引きがあるものと思われる。
メリーのコレクションを列挙すると、信楽焼の狸、大きな歯車や螺子、綺麗な水晶玉、拳大の達磨、謎の洋書、ブリキ人形、吸いもしない煙管、外国のコイン、動かないカメラ、何かの骨、仏像、地球儀、銀のペーパーナイフ、卒塔婆、豚の貯金箱、古いタロットカード、作者未詳の静物画、金魚鉢を模した風鈴などがある。
これらてんでバラバラな物たちが彼女の下宿先の一室に押し込められ、ひしめき合っている。それはさながら物の万国博覧会といったふうであった。
ある日、その窮屈な博覧会の中でメリーと話していると、彼女が「ねぇこれを見てよ」と言ってコレクションの中から何かを持ち出してきた。それはやけに古びた手鏡であった。
メリーが言うには、ある日ぶらぶら散歩をしていると、どこかで見たことのあるような金髪の美女と出会い、仲良くなった。その人が別れ際にこの鏡をくれた。名前を「紫の鏡」というらしい。くれる際、「この鏡をずっと持っていちゃ駄目よ。いつか誰かに渡してあげてね」と妙な忠告をされた。
「これは見た人の未来を映し出す鏡なのよ、その人がそう言っていたわ」
メリーは胸を張って言った。彼女の豊かな胸が強調されて怪しからんことになっている。
「未来を映す? これはまた胡散臭いものが出てきたわねぇ。 ねえメリー、ヘンテコなものを集めるのはいいんだけど騙されちゃあ駄目よ」
「失礼ね、私はちゃんと自分の目で見たものしか手元に残さないわ。これは本物よ」
私が疑い深く鏡を見ていると、メリーは自信ありげにそう言った。そして「実際に見てみればよく分かるわ」と言いながら、私にその妙な鏡を持たせた。
「本当かなぁ」と疑い半分に鏡を覗いたら、不思議なことに未来の私が写っていた。未来の私は多くの書類や書籍に囲まれながら、一心不乱に何かを調べているように見える。その顔は自分でも怖くなるほど必死で、何やら不気味で嫌な感じである。未来の私は一体何を探しているのだろうか。
黙って鏡を見続ける私を見かねてメリーが話しかけてきた。
「ねえ蓮子、何か見えた?」
「見えたわよ、未来の私が。信じられないけどこの鏡は本物みたいね」
私はメリーに鏡を返した。するとメリーは「おかしいわね」と言って首をかしげた。
「何が不思議なのよ」
「いや、この鏡は確かに変なんだけど、私が見ても未来なんて映らなかったわ。おかしな鏡だねって蓮子と笑おうと思って持ってきたんだけど」
「メリーには何が見えたのよ」
私は尋ねた。メリーはなんでもないように「ただ一面の真っ暗闇よ」と言った。
その日から数日後、秘封倶楽部の活動中にメリーはいなくなった。彼女は私を置いてどこかに行ってしまった。
何か手がかりがないかと思って彼女のコレクションを調べていると、妙なことに気がついた。
あの「紫の鏡」だけがない。なくなっている。
それでふとメリーの言っていたことを思い出した。メリーの、マエリベリー・ハーンの未来は、ただ一面の真っ暗闇である。
わかります。
中々難しいんですよねぇ