畑の中で、身を屈める。
小さな花が、周りの背の高い花に遮られ、身を縮めて咲いている。
これではまともに種を付ける事すら、ままならないだろう。
「貴女も窮屈そうね」
周りの高い壁に阻まれて、精一杯背伸びすることを許されず。
どうしたい? このままここで朽ちる?
問いかけに、花が小さく揺れる。
腰袋から剪定バサミを取り出して、静かに根元に伸ばす。
……そう、それもまた、花の生きる道……。
黄色い絨毯が揺れていた。
盛夏の盛りの向日葵が、吹き渡る風に頭を揺らす。
幻想郷の外れの一角、『太陽の畑』。
花の管理者であり支配者でもある大妖怪、風見幽香が向日葵畑の一角から姿を現した。
大きな鍔広の麦わら帽子を被り、軍手をはめた手には一輪の小振りな向日葵の花を抱えて。
山間の盆地にある幻想郷の夏は暑い。
うだるような白い光の中、傍らに立つ自らの家に戻る最中、降り注ぐ太陽が産んだ影に気付く。
歩く自分と並行に、影を差す者に。
「何をしてるのかしら?」
「あら、気付かれちゃった?」
麦わら帽子の鍔に手を当てて上空を仰ぐ幽香に、幻想郷の賢者がおどけて声を掛ける。
八雲紫、いつもの日傘を軽く差し、中空に開いたスキマに優雅に腰を掛けている。
「久しぶりに旧友の顔を見に来ただけだわ」
……旧友、ね。白々しい。
お互い永く生きている腐れ縁こそあれど、友情はあったかしら?
怪訝そうに紫を見る幽香に、小首を傾げて。
「お邪魔だったかしら?」
「……別に。お茶で良いのかしら?」
「お構いなく」
応えて彼女の家のウッドデッキに用意されているテーブルセットに座る。
軒下からシェードが張り出してデッキに影を落としている。
向日葵畑を吹き抜ける風が、彼女の金髪を揺らして。
「……良い風」
見事な金色の小波を見つめて、紫が呟いた。
「冷たい飲み物が良いのかしら?」
家の中から幽香の声が掛かる。
ええ、と頷きかけて、小さく唇をすぼめ。
やっぱり止めておきましょう。
「温かいのはあるかしら?」
紅茶なら。
幽香の言葉に微笑んだ。
「じゃ、それで」
「なに? 冷たい物はお腹を壊すの?」
歳は取りたくないわね。
皮肉に返すその言葉を切れ長の瞳で流して。
「暑い時に冷たい物は一時の涼。暑い時こそ熱い物で受け流すのよ」
「そういう所が、また年寄りくさいのよ」
「余計なお世話」
銀のトレーに載せられて運ばれた紅茶が二人分、テーブルに置かれる。
バラの花びらが散りばめられた茶菓子に、紫が目を細めた。
「……作り置きのクッキーしかないけど」
ぱき、とクッキーを割る紫に、幽香が口を開く。
小さな欠片を口に放り込んで、香りと味を楽しむ。
「ローズオイルね、良い香りだわ」
控えめな甘さに、バラの香りが良く通る。
一度屋内に戻った幽香が先ほど手にした向日葵を一輪挿しにしてテーブルに据えた。
「貴女がわざわざ花を切って生けるなんて珍しいわ」
「そう? 花だっていろいろあるのよ……」
回り込んで紫に正対し、自らも腰を落とす。
静かに紅茶を飲む賢者に頬杖を突き。
「……で、何の用?」
剣呑な瞳で、紫を見据えた。
境界の賢者がわざわざ出向いて来るほどだ。ただのお茶の時間などではないだろう。
そんな視線を受けて、手を止める。
カップから唇を外し、手袋嵌めた指先でルージュの跡を拭う。
「……言葉通りよ、貴女の顔を見に来ただけ」
「八雲紫ともあろう大妖怪が、本当にそれだけの用事かしら?」
ひとたび動けば幻想郷中の妖怪たちがその動向に注視すると言われるほどの貴女が。
……もっとも、権謀術数を駆使して動くこの大妖怪が何をしているのかを知る者など、この世にはいない。
そこまで期待されても、困るわね。
視線を外さない幽香に苦笑して見せる。
「強いて言えば、家庭訪問?」
「お巫山戯にも程があるわね」
「あら、ふざけているつもりはないのよ?」
大げさに肩をすくめて見せるが。
その芝居がかった動きが、いちいち癇に障る。
「で、通信簿でも持って来てくれたって訳?」
あえて話に乗ってみる幽香に、紫は瞳を閉じて。
時折緩やかに吹く風が、紅茶の湯気を流す。
「そうね、何不自由なく穏やかに暮らせているようね……」
「お陰様で」
この幻想郷の片隅で、四季折々の花と自然に囲まれて、平穏なる事この上ないわ。
これも、博麗大結界のお陰、というべきなのかしらね。
ここに住む者たちは妖怪を知る。遭う。畏れる。
その畏怖を拠り所に私たちは存在する。
しかし、瞳を閉じたままの賢者はその眉間に小さな皺を寄せる。
まるで、苦痛に耐えるように。
そのまま鼻から小さな息を吐いた。
……小さな、落胆の息を。
「貴女は、何不自由なくて……つまらないわ」
「……ふぅん……」
その言葉に幽香が瞳を細める。
この女の発言が神経を逆なですることは、今に始まった事では無い。
今日も、出会ってから行動すべてが幽香を苛立たせている。
「四季のフラワーマスター? 丸くなったものね、風見幽香……」
昔の貴女ならそんな通り名で呼ばれるほど穏やかな存在では無かった。
それが、今じゃ畑いじり土いじりが趣味で、時折小物妖怪にちょっかい出す程度の平穏な毎日。
ああ、つまらない。
それこそ昔のように出会って即命の取り合いになる様な、エッジの効いた貴女は魅力的だったのに。
黙って紫の挑発を聞いていた幽香がゆっくりと手を伸ばす。
目に怪しい輝きを見せてその動きを注視する紫の前で、彼女の手はテーブルの一輪挿しに伸びる。
私がつまらない? ……そうでしょうね。
「私もつまらないわ、今が。とても」
くっくっく。喉から引きつったような笑いがこぼれる。
できる事なら、何もかも壊してやりたいの。
いや、むしろ壊れているのは自分の方か。
以前、閻魔に言われた。貴女は壊れている、と。
……だけれども。
「私も花と同じよ」
一輪挿しの向日葵を手に取り、その花弁を優しくなぞる。
この子も空に精一杯手を伸ばしていた。
だけど、周りのより高い向日葵たちに邪魔をされて。
小さなつぼみと小さな花を咲かせている。
このままじゃろくに種も実らない。
ならば、いっそ花としての寿命を延ばしてあげるのも一興。
一輪挿しとして、長く愛でてあげるのも、花の一生。
「貴女も、摘み取られてしまったのかしら……博麗の巫女に?」
「まさか」
紫の言葉を一笑に附し。
あの程度の人間に、牙を抜かれる私じゃない。
この力さえあれば、まだまだねじ伏せることは容易いが。
でも。
新しい幻想郷に、新しい秩序が満ちている。
スペルカードルール。弾幕勝負。
「……私自身も、すでに満開は過ぎたという事よ」
すでに過ぎた時代の妖怪が必要とされる世界ではない。
「花を美しく咲かせるのも惨めに枯らすのも、どう手を入れたかによるもの……」
今の幻想郷は、今を盛りに生きる者たちの物。
歪な剪定で枯れさせてしまっては元も子もないのだから。
ふ、と口の端で幽香が笑う。
とても慈しみ深く、そしてとても自嘲に満ちた笑い。
ねぇ、八雲紫。
貴女も、そうでしょう……?
「だから、貴女も常に傍観者を決め込んでいる」
幻想郷に壊滅的な危機が迫らない限り、今を生きる者たちに運命を委ねている。
幻想郷の母。
独り立ちするまでは手を掛け、やがて幻想郷の歴史が独り歩きを始めた今は見守り続ける。
貴女は子を想うように幻想郷を慈しみ、私は花を想うように、幻想郷を愛でている。
「……どうかしらね」
問いかけに、曖昧に答えて紫が傍らに立てかけてあった日傘を手にする。
それが、別れの合図。
お茶会の終わりの合図。
そんな彼女に、幽香が手にした一輪の向日葵を差し出した。
「心配してくれてありがとう、と言うべきなのかしらね?」
妖怪としての本分を忘れ、日々穏やかに過ごす自分を案じての……訪問。
妖怪が妖怪であることを捨てた時、妖怪は死んでいく。
もっとも、傍観者であるとはいえ妖怪を止めるつもりはない。
差し出したままの向日葵を見据える紫に微笑みかけて。
「例えば……貴女が遊んでくれるというなら、何時でも喜んで……」
刹那、向日葵の先に光が収束し―――直線状に放たれる!!
ウッドデッキの隅と向日葵畑の柵の一部を消滅させた光の濁流が太陽の畑の遥か先、森の一角に吸い込まれて爆音を轟かせた。
先ほどまでとは違う荒々しい風が向日葵畑に叩き付けられて、幽香の髪も踊った。
「驚いたわ、花でも撃てるのね……」
「……意識を集中させることが出来る物があれば、なんでも、ね……」
気の抜けた拍手と共に、幽香の背後にスキマを開いて現れた紫が賛辞を贈る。
まだまだ牙を失ったわけでは、なさそうね……。
「……どうする、まだ続ける?」
再び花を賢者に向けるが、紫は首を振り。
その向日葵を指先でつまんで懐に抱く。
「今日は、このお土産だけ頂いて帰るとするわ」
ああ、そう……。
「切り口を軽く火で炙っているから、しばらくは綺麗に咲いてくれるわよ」
その言葉に微笑んで、紫がスキマに体を滑り込ませる。
「じゃあ、またね……」
その言葉だけが残り、辺りに静寂が戻る。
幽香はテーブルに残った紅茶を飲み干して……、小さく伸びあがった。
そのまま自ら吹き飛ばした柵に視線を遣り。
「壊れちゃった……」
立ち上がって大工道具を取りに部屋に戻る。
向日葵畑を通った風が、無人のウッドデッキを吹き抜けた。
小さな花が、周りの背の高い花に遮られ、身を縮めて咲いている。
これではまともに種を付ける事すら、ままならないだろう。
「貴女も窮屈そうね」
周りの高い壁に阻まれて、精一杯背伸びすることを許されず。
どうしたい? このままここで朽ちる?
問いかけに、花が小さく揺れる。
腰袋から剪定バサミを取り出して、静かに根元に伸ばす。
……そう、それもまた、花の生きる道……。
黄色い絨毯が揺れていた。
盛夏の盛りの向日葵が、吹き渡る風に頭を揺らす。
幻想郷の外れの一角、『太陽の畑』。
花の管理者であり支配者でもある大妖怪、風見幽香が向日葵畑の一角から姿を現した。
大きな鍔広の麦わら帽子を被り、軍手をはめた手には一輪の小振りな向日葵の花を抱えて。
山間の盆地にある幻想郷の夏は暑い。
うだるような白い光の中、傍らに立つ自らの家に戻る最中、降り注ぐ太陽が産んだ影に気付く。
歩く自分と並行に、影を差す者に。
「何をしてるのかしら?」
「あら、気付かれちゃった?」
麦わら帽子の鍔に手を当てて上空を仰ぐ幽香に、幻想郷の賢者がおどけて声を掛ける。
八雲紫、いつもの日傘を軽く差し、中空に開いたスキマに優雅に腰を掛けている。
「久しぶりに旧友の顔を見に来ただけだわ」
……旧友、ね。白々しい。
お互い永く生きている腐れ縁こそあれど、友情はあったかしら?
怪訝そうに紫を見る幽香に、小首を傾げて。
「お邪魔だったかしら?」
「……別に。お茶で良いのかしら?」
「お構いなく」
応えて彼女の家のウッドデッキに用意されているテーブルセットに座る。
軒下からシェードが張り出してデッキに影を落としている。
向日葵畑を吹き抜ける風が、彼女の金髪を揺らして。
「……良い風」
見事な金色の小波を見つめて、紫が呟いた。
「冷たい飲み物が良いのかしら?」
家の中から幽香の声が掛かる。
ええ、と頷きかけて、小さく唇をすぼめ。
やっぱり止めておきましょう。
「温かいのはあるかしら?」
紅茶なら。
幽香の言葉に微笑んだ。
「じゃ、それで」
「なに? 冷たい物はお腹を壊すの?」
歳は取りたくないわね。
皮肉に返すその言葉を切れ長の瞳で流して。
「暑い時に冷たい物は一時の涼。暑い時こそ熱い物で受け流すのよ」
「そういう所が、また年寄りくさいのよ」
「余計なお世話」
銀のトレーに載せられて運ばれた紅茶が二人分、テーブルに置かれる。
バラの花びらが散りばめられた茶菓子に、紫が目を細めた。
「……作り置きのクッキーしかないけど」
ぱき、とクッキーを割る紫に、幽香が口を開く。
小さな欠片を口に放り込んで、香りと味を楽しむ。
「ローズオイルね、良い香りだわ」
控えめな甘さに、バラの香りが良く通る。
一度屋内に戻った幽香が先ほど手にした向日葵を一輪挿しにしてテーブルに据えた。
「貴女がわざわざ花を切って生けるなんて珍しいわ」
「そう? 花だっていろいろあるのよ……」
回り込んで紫に正対し、自らも腰を落とす。
静かに紅茶を飲む賢者に頬杖を突き。
「……で、何の用?」
剣呑な瞳で、紫を見据えた。
境界の賢者がわざわざ出向いて来るほどだ。ただのお茶の時間などではないだろう。
そんな視線を受けて、手を止める。
カップから唇を外し、手袋嵌めた指先でルージュの跡を拭う。
「……言葉通りよ、貴女の顔を見に来ただけ」
「八雲紫ともあろう大妖怪が、本当にそれだけの用事かしら?」
ひとたび動けば幻想郷中の妖怪たちがその動向に注視すると言われるほどの貴女が。
……もっとも、権謀術数を駆使して動くこの大妖怪が何をしているのかを知る者など、この世にはいない。
そこまで期待されても、困るわね。
視線を外さない幽香に苦笑して見せる。
「強いて言えば、家庭訪問?」
「お巫山戯にも程があるわね」
「あら、ふざけているつもりはないのよ?」
大げさに肩をすくめて見せるが。
その芝居がかった動きが、いちいち癇に障る。
「で、通信簿でも持って来てくれたって訳?」
あえて話に乗ってみる幽香に、紫は瞳を閉じて。
時折緩やかに吹く風が、紅茶の湯気を流す。
「そうね、何不自由なく穏やかに暮らせているようね……」
「お陰様で」
この幻想郷の片隅で、四季折々の花と自然に囲まれて、平穏なる事この上ないわ。
これも、博麗大結界のお陰、というべきなのかしらね。
ここに住む者たちは妖怪を知る。遭う。畏れる。
その畏怖を拠り所に私たちは存在する。
しかし、瞳を閉じたままの賢者はその眉間に小さな皺を寄せる。
まるで、苦痛に耐えるように。
そのまま鼻から小さな息を吐いた。
……小さな、落胆の息を。
「貴女は、何不自由なくて……つまらないわ」
「……ふぅん……」
その言葉に幽香が瞳を細める。
この女の発言が神経を逆なですることは、今に始まった事では無い。
今日も、出会ってから行動すべてが幽香を苛立たせている。
「四季のフラワーマスター? 丸くなったものね、風見幽香……」
昔の貴女ならそんな通り名で呼ばれるほど穏やかな存在では無かった。
それが、今じゃ畑いじり土いじりが趣味で、時折小物妖怪にちょっかい出す程度の平穏な毎日。
ああ、つまらない。
それこそ昔のように出会って即命の取り合いになる様な、エッジの効いた貴女は魅力的だったのに。
黙って紫の挑発を聞いていた幽香がゆっくりと手を伸ばす。
目に怪しい輝きを見せてその動きを注視する紫の前で、彼女の手はテーブルの一輪挿しに伸びる。
私がつまらない? ……そうでしょうね。
「私もつまらないわ、今が。とても」
くっくっく。喉から引きつったような笑いがこぼれる。
できる事なら、何もかも壊してやりたいの。
いや、むしろ壊れているのは自分の方か。
以前、閻魔に言われた。貴女は壊れている、と。
……だけれども。
「私も花と同じよ」
一輪挿しの向日葵を手に取り、その花弁を優しくなぞる。
この子も空に精一杯手を伸ばしていた。
だけど、周りのより高い向日葵たちに邪魔をされて。
小さなつぼみと小さな花を咲かせている。
このままじゃろくに種も実らない。
ならば、いっそ花としての寿命を延ばしてあげるのも一興。
一輪挿しとして、長く愛でてあげるのも、花の一生。
「貴女も、摘み取られてしまったのかしら……博麗の巫女に?」
「まさか」
紫の言葉を一笑に附し。
あの程度の人間に、牙を抜かれる私じゃない。
この力さえあれば、まだまだねじ伏せることは容易いが。
でも。
新しい幻想郷に、新しい秩序が満ちている。
スペルカードルール。弾幕勝負。
「……私自身も、すでに満開は過ぎたという事よ」
すでに過ぎた時代の妖怪が必要とされる世界ではない。
「花を美しく咲かせるのも惨めに枯らすのも、どう手を入れたかによるもの……」
今の幻想郷は、今を盛りに生きる者たちの物。
歪な剪定で枯れさせてしまっては元も子もないのだから。
ふ、と口の端で幽香が笑う。
とても慈しみ深く、そしてとても自嘲に満ちた笑い。
ねぇ、八雲紫。
貴女も、そうでしょう……?
「だから、貴女も常に傍観者を決め込んでいる」
幻想郷に壊滅的な危機が迫らない限り、今を生きる者たちに運命を委ねている。
幻想郷の母。
独り立ちするまでは手を掛け、やがて幻想郷の歴史が独り歩きを始めた今は見守り続ける。
貴女は子を想うように幻想郷を慈しみ、私は花を想うように、幻想郷を愛でている。
「……どうかしらね」
問いかけに、曖昧に答えて紫が傍らに立てかけてあった日傘を手にする。
それが、別れの合図。
お茶会の終わりの合図。
そんな彼女に、幽香が手にした一輪の向日葵を差し出した。
「心配してくれてありがとう、と言うべきなのかしらね?」
妖怪としての本分を忘れ、日々穏やかに過ごす自分を案じての……訪問。
妖怪が妖怪であることを捨てた時、妖怪は死んでいく。
もっとも、傍観者であるとはいえ妖怪を止めるつもりはない。
差し出したままの向日葵を見据える紫に微笑みかけて。
「例えば……貴女が遊んでくれるというなら、何時でも喜んで……」
刹那、向日葵の先に光が収束し―――直線状に放たれる!!
ウッドデッキの隅と向日葵畑の柵の一部を消滅させた光の濁流が太陽の畑の遥か先、森の一角に吸い込まれて爆音を轟かせた。
先ほどまでとは違う荒々しい風が向日葵畑に叩き付けられて、幽香の髪も踊った。
「驚いたわ、花でも撃てるのね……」
「……意識を集中させることが出来る物があれば、なんでも、ね……」
気の抜けた拍手と共に、幽香の背後にスキマを開いて現れた紫が賛辞を贈る。
まだまだ牙を失ったわけでは、なさそうね……。
「……どうする、まだ続ける?」
再び花を賢者に向けるが、紫は首を振り。
その向日葵を指先でつまんで懐に抱く。
「今日は、このお土産だけ頂いて帰るとするわ」
ああ、そう……。
「切り口を軽く火で炙っているから、しばらくは綺麗に咲いてくれるわよ」
その言葉に微笑んで、紫がスキマに体を滑り込ませる。
「じゃあ、またね……」
その言葉だけが残り、辺りに静寂が戻る。
幽香はテーブルに残った紅茶を飲み干して……、小さく伸びあがった。
そのまま自ら吹き飛ばした柵に視線を遣り。
「壊れちゃった……」
立ち上がって大工道具を取りに部屋に戻る。
向日葵畑を通った風が、無人のウッドデッキを吹き抜けた。
後、オチのゆうかりんがとてもかわいかったです!
ふんわりした雰囲気がとても好きになりました。
慈悲深いようでちゃんと花にとったら身勝手なことしてるわね
弱者を慈悲深く導くことは弱者に対して身勝手さを押し付けることなのかも知れない
後味すっきりでとても良かったです。
一人称三人称、誰が動いているのか、
このあたりをより意識して書くと更に良くなると思います。