科学世紀になって食糧問題や貧困、領土といった世界的問題は大抵解決した。しかし、解決していない問題もまだたくさんある。その一つがこの寮である。すさまじい隙間風とすさまじい雨漏りもはや屋外と大差ないのではないかと思われるほどである。そんな寮の一室に私達は住んでいる。一部屋四畳半でトイレ共用風呂なしという環境はこのご時世何処を探してもここくらいにしか無いだろう。
「蓮子起きてよー」
秘封倶楽部の相方であり、同居人であるメリーは私をひたすら揺さぶっていた。
「え、まだ早いよ。ほら二コマ目まであと三時間もあるしー」
「あなたが一コマ目休むのは勝手だけど、私はちゃんと講義に出るのよ!貴女が起きないと机も出せなくて朝ごはんも化粧も出来ないじゃない」
メリーは朝からプリプリしている。これ以上怒らすと今日寝る場所が押入れになってしまう。ドラえもんじゃあるまいし、そんな思いはあまりしたくない。
「わかったわよ。もーメリーは朝から激しいわねー。カルシウムとか取ったほうがいいわよ。冷蔵庫に入ってる私の牛乳飲んでもいいわ」
「あの牛乳を買ってきたのは私だし、優しく起こしても起きようとしない貴女が悪いのよ」
むにゃーとしながら歯を磨き始める。メリーは後ろでちゃぶ台を出しせっせと化粧をしている。
「大学で講義を受けるだけなのによく化粧までするわねー。面倒くさくないの?」
「私は蓮子みたいに女を捨て切って無いのよ。さ、歯磨き終わったらさっさとそこどいてよね。朝ごはん作らなきゃ」
お口クチュクチュしているとメリーが隣で目玉焼きを作り始めた。基本的に料理洗濯家事はメリーがやってくれるので私は半ヒモ状態である。でもそんな私はヒモについて研究をしているから面白い。
「さ、食べましょ」
目玉焼きにウインナーとトーストが今日のメニューである。
「醤油とってー」
「はいはい」
「よくメリーは目玉焼きに何もかけずに食べられるわね」
「ウインナーの塩っぱさがあるから別に問題ないわ。それに私はトーストに全部挟んじゃうからバターの塩味も付くし」
そもそもトーストで挟んで食べるっていうのが私には難しくてできない。メリーは器用にホットドックみたいにして食べているが、私がやるとソーセージとかが落ちるし、半熟の黄身が溢れてしまう。これが西洋人と東洋人の差なのか。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした。で、今日蓮子は予定あるの?」
「んー、これといってないわ。メリーは?」
「特に無いわよ。じゃあ、講義終わったらいつものカフェで待ち合わせね」
いつものカフェとは私達の第二の活動拠点である。無論、第一の活動拠点はこの四畳半であるが、ここで活動するのは些か狭すぎる。
「はいはーい、それじゃぼちぼち出ますか」
起きてしまったもんは仕方ない、大人しく一コマ目も出席するとしよう。
石を蹴りながら大学に向かっているとメリーが話を振ってきた。
「今の家のことどう思う?」
突然な抽象的質問である。
「どうって……そりゃおんぼろ寮だと思うわ」
「引っ越しとか考えてないの?」
「メリーは引っ越したいの?」
「うーん、どっちなんだろう、自分でも分かんないわ」
「私はあんまり引っ越したくないかなぁ。 あそこは狭いしトイレ共用だしお風呂ないし隙間風凄いし雨漏りも凄いけど、狭い分ずっとメリーの近くにいいなぁって思うわ」
メリーの顔が真っ赤になっていくのがはっきりと分かった。
「もう……朝から何言ってるのよ!」
「じゃあまたあとでね」
大学の構内に入り各々取っている講義に向かう。先程はメリーの近くに居たいから引っ越したくないとは言ったが、他にも理由はある。第一にあの建物の古さとおどろおどしさである。気がついた四畳半がどこまでも続く四畳半地獄なんて言うものの中にいてもおかしくないほどだ。そんな四畳半地獄でもメリーと一緒なら楽しいものになるだろう。第二に大学までの近さである。この徒歩数分という地の利にどれほど救われたことか。あと100m遠くに住んでいたら現状私の持っている単位の半分は幻のものとなっていただろう。
『大学生が慢性的睡眠不足に襲われたら講義を聞かせるといい』などという民間治療があるように大学生は講義が始まると寝てしまうのだ。これはもう抗うことの出来ない運命(カルマ)であり、大人の階段の一歩であるとも言えよう。なので私も例に漏れず右に倣えの日本人精神で夢の世界に旅立つとしよう。
気が付くと私が受けている本日の講義は全て終わっていた。よく学習した気がする。恐らく気がするだけである。落書き帳と色鉛筆を鞄にしまってさっさといつものカフェに行くとしよう。
「おまたせ」
メリーはもういつもの席で珈琲を啜っていた。
「あ、来たわね。じゃあ行きましょ」
「え、あ、ちょっと、秘封倶楽部の活動をするんじゃないの!?」
メリーは荷物をまとめ始め早く行こうというアピールをしている。
「違うわよ、これよこれ」
メリーが鞄から一枚のチラシを私に見せつけてきた。
「なにこれ、スーパーの特価セールチラシ?」
「そうよ。すぐそこに今日からスーパーがオープンしたらしいわ。それで大特価セールをやってるから蓮子も荷物持ちとして一緒に来てって話しよ」
究極に面倒くさい。開店セールということは人でごった返しているはずだ。そんな中をカゴを持って右往左往するなんて出来れば一生経験したくない。
「う……体調が……」
「別に悪くないでしょ」
「いや、生理痛がきつくて」
「ついこないだ終わったばっかりでしょ」
「なんで知ってるの?」
「え?」
「え?」
結局メリーに引きづられスーパーまで来てしまった。案の定、人でごった返している。花の女子大生に似合わない場所ベスト4にランクインする程度に主婦やおばちゃんしか居ない。
「ねーメリー早く買い物済ませて帰ろうよー」
「んー蓮子は今日何食べたい?」
「肉うどんとかかなぁ。じゃなくてさー」
メリーは店内をウロウロし、いいものがあれば私が持っているカゴに投げ込んでいく。そんなメリーを見失わないように必死についていく姿は宛らピクミンである。
「ねーメリーこれ以上買っても冷蔵庫に入りきらないよー」
「んー、まぁ、それもそうね。レジに行きましょうか」
やっとこさメリーの買い物が終わり、帰路につく。荷物の大半を私が持ち、メリーはネギを振って遊んでいる。
「食事と銭湯どっち先にする?」
「食後直ぐのお風呂は健康に良くないらしいし、この荷物運び発散した汗を早く流したいから銭湯かなぁ」
そんなわけで、家に帰って荷物を置いた私達はお風呂セットを持ってそのまま銭湯に向かった。
銭湯には人がおらず貸し切り状態だった。
「蓮子、頭と体洗ってあげるわよ」
「い、いいわよ。恥ずかしいし」
メリーがねっとりとした手つきで後ろから肋骨やお腹を触ってくる。
「『恥ずかしい』って誰も見てないわよ。それに洗ってもらったほうが気持ちいいわよ」
手が腰から太もも膝にかけて這っている。
「わかったわよ。じゃあお願いするわ」
「そう来なくっちゃ」
そう言うとメリーはシャンプーを手につけ私の頭を洗い始めた。
「どう? 気持ちいい?」
いつも間に頭皮マッサージなんて覚えたのか。しっかりと気持ちのいいところを抑えてくる。これはメリーに頼んで正解だったかもしれない。
「メリー凄いわね。何処で習ったの?」
「頭の上にある結界の境目を突いてるだけよ」
なんか衝撃的なことを言われた気がする。
「次は体ね」
泡々のボディータオルで体を洗ってくれている。首から背中、腕にいって胸、次も胸、胸……
「ちょっとメリー?」
「小ぶりだけどしっかりとした柔らかさがあるわねぇ」
「小ぶりで悪かったわね。胸はもう十分洗ったでしょ!」
メリーは名残惜しそうにお腹、お尻と洗っていく。
「こっちもいい柔らかさだわ」
「メリー? いい加減にしないと怒るわよ?」
それからメリーは何も言わずに黙々と私の体を洗っているが、なんというかタオル越しでも下半身を洗う手つきがいやらしい。
「はい終わり」
シャワーで泡を流し湯船に浸かろうとするとメリーが私を呼び止めた。
「蓮子? なに一人だけ先に湯船に浸かろうとしてるの? 私も洗ってほしいなー」
無視して湯船に片足を入れるがメリーが私の腕を掴んだ。
「洗ってほしいなぁー。私は洗ったんだけどなぁー」
「もう、しょうがないわね」
金色の髪を目の前にして少しドキドキする。
シャンプーを手につけてメリーの真似をして頭皮マッサージっぽいものをしてみる。
「蓮子は髪洗うの下手ねー」
「そう思うなら次からは頼まないことね」
「でも、それが可愛くていいのかも」
顔にシャワーをかけてやった。
「じゃあ体もお願いね」
背中から洗い始め、首、脇の下、腕と洗い進め胸まで行ったが、近くで見るとやはり私とは大きさが違う、外国人すげーって思うほどだ。こんなに大きかったら肩凝るんだろうなーなどと思いながら洗い始めた。しっかりとした重量感、メリーの顔はご満悦のようだ。
「そこは丹念に洗ってよね汗とかで結構蒸れやすいからさー」
私は胸にビンタをして肋付近、お腹、下半身と洗っていった。
「なに蓮子赤くなってるの?」
「少し暑いだけよ」
「女同士なんだからそんな気にしないでいいのに」
「だから違うって!」
スラリと長い足までようやく洗い終えた。
「じゃあ流すわよ」
「はいはーい」
「やっと湯船に浸かれるわ。洗ってる間に体冷えっ冷えよ」
「あら、さっきは暑いって言ってたのに。体温管理が大変な子ね」
メリーが私に擦り寄り手を握ってきた。
「いい湯ね」
「そうね」
「やっぱり銭湯のあとはフルーツ牛乳よねー」
「え?コーヒー牛乳でしょ?」
ここに科学世紀では解決したはずの戦争問題が勃発しようとしている。
「ま、まぁコーヒー牛乳も悪くないけどさ、やっぱりフルーツ牛乳が飲みたくならない?」
「そもそも、フルーツ牛乳って飲んだこと無いかも」
この科学世紀にフルーツ牛乳を飲んだことがない人類がいるなんて信じられない。フルーツ牛乳は世界共通言語ではないのか!?
「じゃあメリーにフルーツ牛乳の素晴らしさをプレゼンしてあげるわ。まず第一に自然な甘みよね。牛乳にも甘みってあると思うけど、それって自然なものじゃん?コーヒー牛乳とかだと甘味料を入れたりして甘みをつけるけど、フルーツ牛乳はフルーツの甘さと牛乳の甘さがメインなの」
「でもこれ、パッケージに砂糖って書いてあるわよ」
「そこには目をつぶろうね。第二に香りの豊かさよ。バナナ、マンゴー、みかん、パイナップル、他にも色々なフルーツが混ぜてあるから深い香りになるのよ。この深さは他の飲み物じゃ中々味わうこと出来ないわよ」
「ふーん、じゃあ蓮子の一口ちょうだい」
「え、嫌よ。これは私が飲むの。飲みたいなら自分で買いなさい」
「じゃあコーヒー牛乳でいいわ」
戦争の根本的解決にはまだ時間がかかりそうである。
「じゃあそろそろ帰るわよ」
メリーはマッサージチェアに座り気持ちよさそうにしている。
「あとちょっとー」
メリーを椅子から剥がし、屋外へと押しやった。
「お腹すいたわね」
「帰ったらすぐ作るから少し我慢しなさい」
「はーい」
「やっぱりうどんは白だしよねー」
ちゃぶ台を出し、メリーと向い合ってうどんを啜る。
「東京って醤油ベースじゃないの?」
「そうだけど、関西の味のほうが私は好きだわ。もっと言うならメリーの味が好きだわ」
「なんかその表現は性的ね」
「さ、課題のレポートでもやりますか」
食事が終わって一段落した。メリーは熱心に何か文庫本を読んでいる。
「あら大変ね。頑張って頂戴。応援だけしてあげるわ」
「メリーはなんか課題とかないの?」
「あっても大抵講義の合間に終わっちゃうわ」
講義中に睡眠を取らないなんて不良大学生の風上にも置けない。
「ぐぬぬ……」
「蓮子ーもう寝たいんだけどー」
「寝ていいよ」
「一旦どいてくれないと布団しけないー」
いつも寝るときは2人分の布団を敷くのだが、しっかりと敷ききれず実際は1.5人分程度の広さしかない。
布団を敷くとメリーはそそくさと布団に潜り込んだ。私はまだ課題が終わっていないので布団の上で端末を抱えシコシコと続ける。
「じゃあ電気切っちゃうよー」
「はーい」
「おやすみー」
「やっと終わった」
課題が完成し、私もそろそろ寝ようと布団に潜る。するとメリーが寝返りでこちらに手をかけてきた。私もそれに答えるようにメリーに抱きつき目を閉じた。
「おやすみメリー」
「おやすみ蓮子」
「蓮子起きてよー」
秘封倶楽部の相方であり、同居人であるメリーは私をひたすら揺さぶっていた。
「え、まだ早いよ。ほら二コマ目まであと三時間もあるしー」
「あなたが一コマ目休むのは勝手だけど、私はちゃんと講義に出るのよ!貴女が起きないと机も出せなくて朝ごはんも化粧も出来ないじゃない」
メリーは朝からプリプリしている。これ以上怒らすと今日寝る場所が押入れになってしまう。ドラえもんじゃあるまいし、そんな思いはあまりしたくない。
「わかったわよ。もーメリーは朝から激しいわねー。カルシウムとか取ったほうがいいわよ。冷蔵庫に入ってる私の牛乳飲んでもいいわ」
「あの牛乳を買ってきたのは私だし、優しく起こしても起きようとしない貴女が悪いのよ」
むにゃーとしながら歯を磨き始める。メリーは後ろでちゃぶ台を出しせっせと化粧をしている。
「大学で講義を受けるだけなのによく化粧までするわねー。面倒くさくないの?」
「私は蓮子みたいに女を捨て切って無いのよ。さ、歯磨き終わったらさっさとそこどいてよね。朝ごはん作らなきゃ」
お口クチュクチュしているとメリーが隣で目玉焼きを作り始めた。基本的に料理洗濯家事はメリーがやってくれるので私は半ヒモ状態である。でもそんな私はヒモについて研究をしているから面白い。
「さ、食べましょ」
目玉焼きにウインナーとトーストが今日のメニューである。
「醤油とってー」
「はいはい」
「よくメリーは目玉焼きに何もかけずに食べられるわね」
「ウインナーの塩っぱさがあるから別に問題ないわ。それに私はトーストに全部挟んじゃうからバターの塩味も付くし」
そもそもトーストで挟んで食べるっていうのが私には難しくてできない。メリーは器用にホットドックみたいにして食べているが、私がやるとソーセージとかが落ちるし、半熟の黄身が溢れてしまう。これが西洋人と東洋人の差なのか。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした。で、今日蓮子は予定あるの?」
「んー、これといってないわ。メリーは?」
「特に無いわよ。じゃあ、講義終わったらいつものカフェで待ち合わせね」
いつものカフェとは私達の第二の活動拠点である。無論、第一の活動拠点はこの四畳半であるが、ここで活動するのは些か狭すぎる。
「はいはーい、それじゃぼちぼち出ますか」
起きてしまったもんは仕方ない、大人しく一コマ目も出席するとしよう。
石を蹴りながら大学に向かっているとメリーが話を振ってきた。
「今の家のことどう思う?」
突然な抽象的質問である。
「どうって……そりゃおんぼろ寮だと思うわ」
「引っ越しとか考えてないの?」
「メリーは引っ越したいの?」
「うーん、どっちなんだろう、自分でも分かんないわ」
「私はあんまり引っ越したくないかなぁ。 あそこは狭いしトイレ共用だしお風呂ないし隙間風凄いし雨漏りも凄いけど、狭い分ずっとメリーの近くにいいなぁって思うわ」
メリーの顔が真っ赤になっていくのがはっきりと分かった。
「もう……朝から何言ってるのよ!」
「じゃあまたあとでね」
大学の構内に入り各々取っている講義に向かう。先程はメリーの近くに居たいから引っ越したくないとは言ったが、他にも理由はある。第一にあの建物の古さとおどろおどしさである。気がついた四畳半がどこまでも続く四畳半地獄なんて言うものの中にいてもおかしくないほどだ。そんな四畳半地獄でもメリーと一緒なら楽しいものになるだろう。第二に大学までの近さである。この徒歩数分という地の利にどれほど救われたことか。あと100m遠くに住んでいたら現状私の持っている単位の半分は幻のものとなっていただろう。
『大学生が慢性的睡眠不足に襲われたら講義を聞かせるといい』などという民間治療があるように大学生は講義が始まると寝てしまうのだ。これはもう抗うことの出来ない運命(カルマ)であり、大人の階段の一歩であるとも言えよう。なので私も例に漏れず右に倣えの日本人精神で夢の世界に旅立つとしよう。
気が付くと私が受けている本日の講義は全て終わっていた。よく学習した気がする。恐らく気がするだけである。落書き帳と色鉛筆を鞄にしまってさっさといつものカフェに行くとしよう。
「おまたせ」
メリーはもういつもの席で珈琲を啜っていた。
「あ、来たわね。じゃあ行きましょ」
「え、あ、ちょっと、秘封倶楽部の活動をするんじゃないの!?」
メリーは荷物をまとめ始め早く行こうというアピールをしている。
「違うわよ、これよこれ」
メリーが鞄から一枚のチラシを私に見せつけてきた。
「なにこれ、スーパーの特価セールチラシ?」
「そうよ。すぐそこに今日からスーパーがオープンしたらしいわ。それで大特価セールをやってるから蓮子も荷物持ちとして一緒に来てって話しよ」
究極に面倒くさい。開店セールということは人でごった返しているはずだ。そんな中をカゴを持って右往左往するなんて出来れば一生経験したくない。
「う……体調が……」
「別に悪くないでしょ」
「いや、生理痛がきつくて」
「ついこないだ終わったばっかりでしょ」
「なんで知ってるの?」
「え?」
「え?」
結局メリーに引きづられスーパーまで来てしまった。案の定、人でごった返している。花の女子大生に似合わない場所ベスト4にランクインする程度に主婦やおばちゃんしか居ない。
「ねーメリー早く買い物済ませて帰ろうよー」
「んー蓮子は今日何食べたい?」
「肉うどんとかかなぁ。じゃなくてさー」
メリーは店内をウロウロし、いいものがあれば私が持っているカゴに投げ込んでいく。そんなメリーを見失わないように必死についていく姿は宛らピクミンである。
「ねーメリーこれ以上買っても冷蔵庫に入りきらないよー」
「んー、まぁ、それもそうね。レジに行きましょうか」
やっとこさメリーの買い物が終わり、帰路につく。荷物の大半を私が持ち、メリーはネギを振って遊んでいる。
「食事と銭湯どっち先にする?」
「食後直ぐのお風呂は健康に良くないらしいし、この荷物運び発散した汗を早く流したいから銭湯かなぁ」
そんなわけで、家に帰って荷物を置いた私達はお風呂セットを持ってそのまま銭湯に向かった。
銭湯には人がおらず貸し切り状態だった。
「蓮子、頭と体洗ってあげるわよ」
「い、いいわよ。恥ずかしいし」
メリーがねっとりとした手つきで後ろから肋骨やお腹を触ってくる。
「『恥ずかしい』って誰も見てないわよ。それに洗ってもらったほうが気持ちいいわよ」
手が腰から太もも膝にかけて這っている。
「わかったわよ。じゃあお願いするわ」
「そう来なくっちゃ」
そう言うとメリーはシャンプーを手につけ私の頭を洗い始めた。
「どう? 気持ちいい?」
いつも間に頭皮マッサージなんて覚えたのか。しっかりと気持ちのいいところを抑えてくる。これはメリーに頼んで正解だったかもしれない。
「メリー凄いわね。何処で習ったの?」
「頭の上にある結界の境目を突いてるだけよ」
なんか衝撃的なことを言われた気がする。
「次は体ね」
泡々のボディータオルで体を洗ってくれている。首から背中、腕にいって胸、次も胸、胸……
「ちょっとメリー?」
「小ぶりだけどしっかりとした柔らかさがあるわねぇ」
「小ぶりで悪かったわね。胸はもう十分洗ったでしょ!」
メリーは名残惜しそうにお腹、お尻と洗っていく。
「こっちもいい柔らかさだわ」
「メリー? いい加減にしないと怒るわよ?」
それからメリーは何も言わずに黙々と私の体を洗っているが、なんというかタオル越しでも下半身を洗う手つきがいやらしい。
「はい終わり」
シャワーで泡を流し湯船に浸かろうとするとメリーが私を呼び止めた。
「蓮子? なに一人だけ先に湯船に浸かろうとしてるの? 私も洗ってほしいなー」
無視して湯船に片足を入れるがメリーが私の腕を掴んだ。
「洗ってほしいなぁー。私は洗ったんだけどなぁー」
「もう、しょうがないわね」
金色の髪を目の前にして少しドキドキする。
シャンプーを手につけてメリーの真似をして頭皮マッサージっぽいものをしてみる。
「蓮子は髪洗うの下手ねー」
「そう思うなら次からは頼まないことね」
「でも、それが可愛くていいのかも」
顔にシャワーをかけてやった。
「じゃあ体もお願いね」
背中から洗い始め、首、脇の下、腕と洗い進め胸まで行ったが、近くで見るとやはり私とは大きさが違う、外国人すげーって思うほどだ。こんなに大きかったら肩凝るんだろうなーなどと思いながら洗い始めた。しっかりとした重量感、メリーの顔はご満悦のようだ。
「そこは丹念に洗ってよね汗とかで結構蒸れやすいからさー」
私は胸にビンタをして肋付近、お腹、下半身と洗っていった。
「なに蓮子赤くなってるの?」
「少し暑いだけよ」
「女同士なんだからそんな気にしないでいいのに」
「だから違うって!」
スラリと長い足までようやく洗い終えた。
「じゃあ流すわよ」
「はいはーい」
「やっと湯船に浸かれるわ。洗ってる間に体冷えっ冷えよ」
「あら、さっきは暑いって言ってたのに。体温管理が大変な子ね」
メリーが私に擦り寄り手を握ってきた。
「いい湯ね」
「そうね」
「やっぱり銭湯のあとはフルーツ牛乳よねー」
「え?コーヒー牛乳でしょ?」
ここに科学世紀では解決したはずの戦争問題が勃発しようとしている。
「ま、まぁコーヒー牛乳も悪くないけどさ、やっぱりフルーツ牛乳が飲みたくならない?」
「そもそも、フルーツ牛乳って飲んだこと無いかも」
この科学世紀にフルーツ牛乳を飲んだことがない人類がいるなんて信じられない。フルーツ牛乳は世界共通言語ではないのか!?
「じゃあメリーにフルーツ牛乳の素晴らしさをプレゼンしてあげるわ。まず第一に自然な甘みよね。牛乳にも甘みってあると思うけど、それって自然なものじゃん?コーヒー牛乳とかだと甘味料を入れたりして甘みをつけるけど、フルーツ牛乳はフルーツの甘さと牛乳の甘さがメインなの」
「でもこれ、パッケージに砂糖って書いてあるわよ」
「そこには目をつぶろうね。第二に香りの豊かさよ。バナナ、マンゴー、みかん、パイナップル、他にも色々なフルーツが混ぜてあるから深い香りになるのよ。この深さは他の飲み物じゃ中々味わうこと出来ないわよ」
「ふーん、じゃあ蓮子の一口ちょうだい」
「え、嫌よ。これは私が飲むの。飲みたいなら自分で買いなさい」
「じゃあコーヒー牛乳でいいわ」
戦争の根本的解決にはまだ時間がかかりそうである。
「じゃあそろそろ帰るわよ」
メリーはマッサージチェアに座り気持ちよさそうにしている。
「あとちょっとー」
メリーを椅子から剥がし、屋外へと押しやった。
「お腹すいたわね」
「帰ったらすぐ作るから少し我慢しなさい」
「はーい」
「やっぱりうどんは白だしよねー」
ちゃぶ台を出し、メリーと向い合ってうどんを啜る。
「東京って醤油ベースじゃないの?」
「そうだけど、関西の味のほうが私は好きだわ。もっと言うならメリーの味が好きだわ」
「なんかその表現は性的ね」
「さ、課題のレポートでもやりますか」
食事が終わって一段落した。メリーは熱心に何か文庫本を読んでいる。
「あら大変ね。頑張って頂戴。応援だけしてあげるわ」
「メリーはなんか課題とかないの?」
「あっても大抵講義の合間に終わっちゃうわ」
講義中に睡眠を取らないなんて不良大学生の風上にも置けない。
「ぐぬぬ……」
「蓮子ーもう寝たいんだけどー」
「寝ていいよ」
「一旦どいてくれないと布団しけないー」
いつも寝るときは2人分の布団を敷くのだが、しっかりと敷ききれず実際は1.5人分程度の広さしかない。
布団を敷くとメリーはそそくさと布団に潜り込んだ。私はまだ課題が終わっていないので布団の上で端末を抱えシコシコと続ける。
「じゃあ電気切っちゃうよー」
「はーい」
「おやすみー」
「やっと終わった」
課題が完成し、私もそろそろ寝ようと布団に潜る。するとメリーが寝返りでこちらに手をかけてきた。私もそれに答えるようにメリーに抱きつき目を閉じた。
「おやすみメリー」
「おやすみ蓮子」
もう夫婦に市価見えないんだけどこの二人。
最後抱きついて寝るとか もう結婚しろよこの二人www
もっと蓮メリ増えて欲しい。
ちゅっちゅちゅっちゅちゅっちゅ。
そんな二人がたまりません
いい秘封でした。